静止の月に花開く   作:Mr.♟️

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イチャラブがかきてぇよぉ


7話

 

「どうして君たちはチア服なの?サービス?」

 

休憩時間が終わり、会場に戻った僕の視界に真っ先に入ってきたのはチア服を着ている同級生女子の姿だった。似合っているし可愛いとは思うけど、そんな催し物あったかな?いや、なかったはず

 

「それは、」

「それはね!!A組の女子がチア服を着るような会話をしているのが聞こえたからさ!A組ばかり目立たせるわけにはいかないだろ?」

 

「ん?ああ、なるほど。確かに、A組の女子も着てるね。納得したよ」

 

答えようとしていた拳藤の言葉を勢いよく遮り、物間が代わりに答えてくれた。耳郎たちA組の女子もチア服着てる。A組もB組も予定になかっただろうに、よく準備できたね

 

「アメリカから着ているチア団から予備の衣装を借りて、B組の女子に配ったんだ。やれやれ、僕がいなかったらA組にまた話題をもっていかれるところだったよ」

 

「流石だね、行動力がすごい。それなら、女子は既に衣装を借りられた後だったから断れなかったってところかな?」

 

「そうそう。ったく、準備終わった後に言われたら断れないって」

 

どこか呆れたように拳藤がそう言うが、嫌がっている様子はない。体育祭だもんね、こういうのも一興なのかもしれない

 

「まあ、いいんじゃない。拳藤も皆も似合ってるんだから。華があって悪いことはないよね」

 

「え、う、うん。ありがと」

 

拳藤に視線を逸らされた。なんというか、褒めた後に視線を逸らされるとドキッとする。気色悪くて逸らされたのか、照れて逸らされたのかわからない

 

『今のうちに楽しんでおけよ!レクリエーション!それが終わればいよいよ最終種目だ!!』

 

『進出4チーム!16名からなるトーナメント形式!』

 

『1対1のガチバトルだ!!』

 

「毎年最後はこれだね。形式は違えど、トーナメント形式での戦い。と、気がはやり過ぎたかな。まずはレクリエーションからだよね」

 

「うへぇ〜、運が試されるね」

 

取蔭が言う通りだ。もちろん、僕は誰と当たろうが全力で叩き潰しにいく。それはそれとして、あまり当たりたくない相手が存在するのも事実だ

 

「B組同士で当たっても手加減無しだよ。いうまでもないだろうけど」

 

僕の言葉にトーナメント参加予定のB組生徒は頷く。ここからは完全な個人戦、1回戦・2回戦のような気遣いは不要だ

 

『トーナメントの組み合わせはくじ引きよ。それ後にレクリエーションを挟んでトーナメント開始ね』

 

ミッドナイトのもっている箱に視線を向ける。緊張する、僕が開会式に宣言したことの重みが更に増した気がした。いや、緊張するな

 

(誰と当たっても、結局は早いか遅いかの違いだけ。緊張するようなことじゃない)

 

『レクに関しては、進出者16名は自由参加よ。休息をとりたい子や、作戦を練りたい子もいるだろうしね。それじゃあ、1位チームから順番に引いてちょうだい』

 

順々にくじを引きに行く。全員が引き終わり、できたトーナメント表がこれだ

 

【トーナメント表】

 

緑谷出久 VS 心操人使

轟焦凍  VS 取蔭切奈

 

八百万百 VS 小大唯

 

上鳴電気 VS 塩崎茨

 

物間寧人 VS 発目明

 

拳藤一佳 VS 常闇踏陰

 

麗日お茶子 VS 柳レイ子

 

飯田天哉 VS 花月雫

 

 

「チッ、緑谷か。未だに個性を見せてない相手だ」

 

「ゲッ、轟。まじかぁ〜、頑張るけどキツイかも」

 

心操が勝ち上がったとして、轟に勝つのはかなり難しい。1回戦であたる取蔭もそうだ。このトーナメントにおける優勝候補筆頭が轟蕉凍だ

 

(そんなこと言いながら、2人とも燃えてるように見えるけどね)

 

ピンチはチャンス。ここで前評判を覆すことができれば最高のアピールにもなり、かつ優勝にかなり近づく

 

「頑張る」

 

小大の相手は八百万百。創造──あんな強個性に加えて頭も良くて、使い方も巧み。僕なら、仕掛けられる前に速攻で勝負を決める。長期戦になれば不利になるのは明白だ。小大が勝つには短期決戦しかない。最も、向こうがそれに備えているだろうけどね

 

「雷系の個性の方ですね。全力を尽くさなくては」

 

個性の相性が良すぎる。余程のことがない限り、塩崎の勝利は動かないと思う。僕が勝ち上がっていけば、決勝で当たるのは恐らく塩崎か轟のどちらか。どっちにあたるとしても、かなり厳しい戦いになるかな。もちろん、B組で組の生徒が番狂わせを起こしてってのも悪くない。むしろ、そっちの方が面白い

 

「サポート科の生徒。次に当たるのが拳藤か常闇くん。嫌な場所に入った」

 

サポート科の生徒の実力はわからないけど、物間が2回戦で戦う相手はどちらも相性がよろしくない。拳藤の個性をコピーしても、彼女の武術を前に物間が勝るのは難しく、常闇くんの場合はダークシャドウをかいくぐってコピーするのが難しい

 

「常闇ね、かなり防御硬そうなんだよなぁ....」

 

拳藤と常闇くんの相性もよくない。単純にダークシャドウが強個性で、近接戦闘を主軸に戦う拳藤だと本人に攻撃を与えることさえ難しい。弱点でもあれば話は別だけど

 

「似た個性の相手」

 

騎馬戦で浮かせていたのは麗日さんの個性で間違いない。柳の個性と似てはいるが、むこうの個性の方が浮かすことのできる重量が多そう。あくまで僕の所感だけど

 

「最後まで諦めることなく戦い抜こう。僕は──B組で表彰台を独占したいって本当に思ってるよ」

 

それだけ言ってその場を後にした。反応は想像がつくし、少し照れくさい。レクは見学させてもらおうかな。流石に参加したら体力が削られそうだ。あ、僕の相手は飯田くんだよ。機動力のある相手だけど、問題ない。彼が出せる最高速は恐らく騎馬戦の終盤に見せた速度。騎馬と違って背負う人がいなくなればもう少し速くなるだろうけど、ある程度速さの想像はつく

 


 

1回戦の第一試合、緑谷VS心操は緑谷の勝利で終えた。負けたにも関わらず、客席に戻ってきた心操の顔に悔しさは浮かんでいない

 

「──負けたのに清々しい気分だ」

 

そう言う心操をB組はもみクシャにして出迎える。負けた心操のことを責める言葉はない。心操の洗脳を自力で解いた緑谷の方がおかしいのだから

 

「なら、よかったんじゃないかな。おつかれ、心操。君の分も、僕達が頑張るよ」

 

「そうそう、今は取蔭を応援しよう。僕達B組の秘密兵器の、ね」

 

「物間、心操が戦う前も言ってたよね?何人秘密兵器がいるのさ」

 

そんなことを話しているうちに、プレゼント・マイクによる入場アナウンスが流れる

 

 

 

『お待たせしました!!続きましてはこいつらだァァァァァ!!!』

 

『障害物競走2位通過!騎馬戦1位通過!!優勝候補筆頭はこいつじゃねぇのかァァァァァ!!!?──轟焦凍!!!』

 

観客席がどよめく中、真っ直ぐな足取りで轟が登場する。無表情に、静かに、触れたら火傷しそうな緊張感を漂わせながら、それと相反する氷のように冷たい存在感を放っている

 

──続いて、もう一人の名が呼ばれる

 

『対するはB組からの挑戦者ァァァ!!しなやかさと大胆さを併せ持つトリックスターッ!!』

 

『変幻自在の戦術家ァァァ!!!──取蔭切奈ァァァァ!!!』

 

ワアァァッ!!とB組の応援席からも一際大きな声援が飛ぶ。取蔭は軽やかな動きでステージに登場し、片手を挙げて応える。緊張を隠すようにいつもの笑みを浮かべながら、相手をしっかりと見据えている

 

轟焦凍。言わずと知れた推薦入学組で実力者のひとり。片側に宿る個性を行使せずにここまで勝ち進んできている”天才”

 

対するはB組の取蔭切奈。彼女の個性「トカゲのしっぽ切り」は、身体の一部を自在に分離・操作できる器用な能力。戦術次第ではワンチャンス──僅かながら勝利の可能性があるかもしれない

 

 

『スタート!!!』

 

開始の合図と共に、取蔭は動いた

 

(あの氷の展開力を封じるには──撹乱しかない)

 

分離した腕と尾が左右から轟に迫る。自分の本体はあえて姿勢を低くして横から回り込む。正面からぶつかって勝てる相手じゃないことは、彼女が一番よくわかっている

 

だが──轟は動かない

 

ほんの一瞬、空気が凍る音がしたかと思うと、轟の足元から放射状に氷が走った。分離体も、回り込んだ切奈の本体も──戦術を否定するかのごとく、すべてを凍てつかせる

 

「っ!」

 

切奈は即座に迫りくる氷から離脱するも、散らばして攻撃していた身体の大半が氷付けになっていることに気がついた。轟から意識を逸らしてしまった一瞬の隙を、轟は逃さなかった

 

取蔭の足元から膝、腰、そして肩口まで──まるで自分が地面ごと捕らわれていくような感覚。身体の分離を試みるも、氷の速度がそれを上回った

 

「──はや.....っ」

 

かすかに吐き出した言葉は、白い息となって消えていった

 

 

 

主審のミッドナイトの声が響く

 

『勝負あり!!勝者──轟焦凍!!!』

 

そのすぐ後に解説のプレゼント・マイクの声が鳴り響き、観客席から歓声と、そしてどこか息を呑むような静寂が交互に押し寄せる

 

氷の牢から静かに解放された取蔭は、肩を上下させながら膝をついた。轟はすでに背を向け、リング外へと向かっている。眼中にない、行動が言葉以上に雄弁に語っていた

 

「.....すご。何も、させてくれないんだ」

 

取蔭は少し笑った。悔しさと、認めざるを得ない強さに対する感嘆が混じった、複雑な表情だった。観客席からは、B組の仲間たちが労うように拍手を送っている。その音に背を押されるように、取蔭は氷のかけらを払って立ち上がった

 

自分の戦術が通じなかったこと。それに対するショックは少なからず彼女の心の中にあった

 

──それでも

 

彼女の目は、まだ闘志を失っていない

 

 

「まだ、やり返す機会はある。絶対」

 

その言葉は誰にも聞かれなかったが、彼女自身の心には確かに響いていた。圧倒的な力を前にしても、彼女の心は折れていない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(A組は強い。隙がない。敵襲撃の実戦経験を積めたのがかなりプラスになったんだろうね)

 

──それでも、勝てない相手じゃない。花月は立て続けに負けていくクラスメイトを見ながらも、闘志を滾らせていた

 

「小大、頑張って。八百万は強個性だけど、万能なわけじゃない。応援してるよ」

 

「ん」

 

花月の応援に短く言葉を返し、小大は客席からリングへと向かう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『続いての試合はこちらァァァァァ!!!』

 

『まずはA組からッ!!冷静沈着な判断力!豊かな知性と品格を備えた才女!!』

 

『優雅な立ち居振る舞いの奥に燃える闘志──八百万百ッ!!!』

 

リングへと現れた八百万は、観客に軽く一礼しながら堂々とした足取りで中央へ進む。髪をかき上げる仕草一つとっても気品を感じさせ、観客席からは「美しい!」という声も混じる拍手が起きた

 

『対するはB組からの挑戦者ァァァ!!!見た目に惑わされるなよ!?』

 

『静かな佇まいの奥に潜むのは、芯の強さと隠れた闘志!!──小大唯ィィィィ!!!』

 

小柄なシルエットの小大がぴょこっと登場し、軽く手を挙げる。観客席のB組生徒たちから「がんばれー!」と声援が飛ぶなか、彼女は緊張した面持ちで、それでいてしっかりと八百万を見据えていた

 

 

 

『スタート!!!』

 

合図と同時に、小大が一気に駆け出す。迷いのない突撃。低く沈み込むような姿勢で、滑るように相手の懐へと飛び込んだ。八百万も不意をつかれた表情を浮かべている

 

(最初の一撃で決める!)

 

小大の狙いは明確だった。中長期戦になれば相手に主導権を握られる。だからこそ、開幕から全力で仕掛けた。短期決戦だ

 

 

 

 

だが──

 

「.....!」

 

甲高い音とともに、小大の拳は何か硬いものに弾かれた。いつの間にか、八百万は防具のような創造物を構えていた

 

 

 

その瞬間、小大は直感する

 

(防がれた──不味い...!)

 

八百万は淡々と距離を取りつつ、冷静にリングの状況を観察していた

 

「接近戦も苦手ではありませんが──確実にいかせてもらいます!」

 

冷ややかさではなく、理知的なトーンで言い放ち、八百万はそのまま展開に移る。周囲に数種の装備を設置し、空間を制圧するように小大を包囲していく。攻める隙がない。小大は翻弄され、動きが制限されていく。小大は攻めるどころか、一手も自由に振るえない

 

「まだ....終わってない...!」

 

必死に攻撃を仕掛けようと八百万との距離を詰めようとした瞬間、足元に落ちた発煙筒が視界を奪った

 

「──!」

 

そこからネットのようなものが絡みつき、ついに小大の動きが完全に止まる。

 

「どうか降参を。無用なケガを負わせるのは本意ではありません」

 

その言葉は決して嘲りではなく、本気で相手を気遣う誠実なものだった。その言葉に小大は血が滲むほど強く唇をかみ──小さな声で呟いた

 

「......私の負け」

 

 

 

 

 

 

『勝負アリィィィ!!!勝者──八百万百!!!』

 

観客席から拍手が起こるなか、八百万はすぐに小大のもとへ駆け寄り、絡んだ器具を丁寧にほどく

 

「大丈夫ですか?」

 

「うん....ありがと。完全にやられた。なんにもできなかった」

 

「そんなことはありません。初動で距離を詰められたとき、私は本気で焦りました」

 

八百万は穏やかな笑みを浮かべる。その数秒後、小大は敗者としてリングを降り、八百万は勝者として歓声に応える

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ここからだ!皆いい戦いをしている!後は勝つだけだ!!」

 

物間が声を張り上げる。その表情には僅かながら焦りが浮かんでいる。勝ちたい。勝ちたい。クラスで勝ちたい。物間が思っているのはそれだけだ

 

「全力を尽くします」

 

B組の期待を背中に背負い、塩崎は普段と変わらぬ冷静な表情で客席からいなくなる

 


 

 

塩崎と上鳴の戦いは塩崎が勝利し、物間と発目の戦いは物間が勝利した。後者に関してはサポートアイテムのPRに協力したが正しいかもしれぬが。何はともあれ、これでB組全員が初戦敗退するような事態は避けることが出来た

 

「拳藤、僕達に続いてよ!」

「肉弾戦なら、君のほうが上だよ。自信を持って」

 

「うん、任せて!」

 

 

 

 

 

 

『B組より、頼れる姉御肌の豪腕ファイターッ!!その拳に懸ける信念は本物だァァ!!拳藤一佳ァァ!!』

 

拳藤は軽く腕を回しながらリングへと上がった。動きに迷いはない。自信を体現するかのような足取りで中央に立つと、拳を軽く構えて深呼吸する

 

『対するはA組からッ!!静謐なる闇の使徒、戦場に降り立つ影の支配者ァァ!!常闇踏陰!!』

 

──常闇はゆっくりと姿を現した。肩口から蠢く黒き影──その気配が、観客席のボルテージをあげる

 

「ふっ、舞台は整ったようだな」

 

「?」

 

「闇は我が右腕に宿る。月なき夜にてこそ、その力は真に目覚める」

 

「はいはい、こっち来てリング乗って。今は昼だし」

 

苦笑しながらも、拳藤は油断しない。常闇の個性が厄介であることは充分理解している

 

『スタート!!』

 

開始と同時に拳藤が突っ込む。一気に距離を詰め、初手から拳を振り抜く

 

「っ!!」

 

その拳は、黒い影に阻まれた

 

(速いっ!しかも、硬い!)

 

拳を受け止めた影──ダークシャドウは、その巨大な質量で拳藤の身体ごと押し返す

 

「無粋な突撃。だが、その心意気は嫌いではない」

 

「うわぁ、なんかムズ痒くなる言い方してくるなぁもう!」

 

拳藤は踏ん張って体勢を立て直すと、低い姿勢で斜めから再突撃する。影の動きは大振り。動きさえ読めれば、接近は可能なはず──そう考えた瞬間

 

「ダークシャドウ!」

 

影が鋭く伸びる。まるで鎌のような軌道で拳藤の脇腹をなぎ払う。とっさにブロックするも、衝撃でバランスを崩し、リングの縁ギリギリまで下がらされる

 

「っぐ、まだまだ....!」

 

拳藤はそこから回転蹴りを放ち、影を蹴り払うように突進する。動きの一瞬のスキを突いて、常闇本人へと肉薄──

 

「──ダークシャドウ!」

 

することはなかった。代わりに、ダークシャドウが拳藤の背後を回り込み、押し出す形で強烈にぶつかる

 

「.....うっっそ」

 

ドン、と鈍い音を立てて拳藤の身体が跳ねるように押し出される。景色がスローになって流れていく。変えることの出来ない運命。拳藤一佳の身体はそのまま──リング外へと落下した

 

 

 

 

 

『場外ッ!!!勝者ァァァ!!常闇踏陰──ッ!!!』

 

静寂の後、爆発のような歓声。拳藤は少しだけ唇を噛みながら、リングを見上げた

 

「.....くーっ、悔しいけど完敗だわ。こりゃ強いわ」

 

「貴様の拳は確かに届いていた。だが、我が影がそれを拒んだまで」

 

「その言い回しよ....ま、いいか」

 

二人は小さく会釈を交わし、それぞれのクラスが待っている客席へと戻っていった

 

静かに、しかし確かに響いた攻防戦──勝者は、黒き影をその身に従えし者、常闇踏陰だ

 

 

 

(ごめん、花月。私も勝って、表彰台をB組で埋めたかったけど──本当にごめん)

 

 

 

「大丈夫!柳!気負うことはない!君の個性なら勝ち筋はあるはずだ!」

 

物間の檄が柳に飛ぶ。柳はそれを背に、静かにリングへと向かう

 

 

 

『続いての対戦カードはこちらッ!!』

 

『A組からは軽やかさと鋼のような意志を持つ少女ッ!笑顔の裏に負けん気を宿す、麗日お茶子!!』

 

リングに登場したお茶子は、強張った表情の中に静かな闘志を秘めていた。深く呼吸を整え、両手を強く握る

 

『対するはB組よりッ!!柔和な立ち姿からは想像もつかぬ胆力!静けさに潜む圧力の担い手──柳レイ子!!』

 

ひらり、と軽く揺れるようにリングに姿を現した柳は、拍手にも歓声にも表情を変えず、ただ静かにお茶子を見つめていた

 

観客のざわめきが収まり、両者の構えに緊張が走る

 

『──スタート!』

 

──開始の合図と同時に、二人は動かない。リングの中央、数メートルの距離を挟んで睨み合う

 

 

 

先に仕掛けたのは柳だった

 

お茶子の足元が、ふわりと浮いた

 

(来た──!)

 

体に何かが触れている感覚はない。だが、確かに重心が浮き、地に足がつかなくなった。柳の指が空中を静かに動くたび、お茶子の体がじわりじわりとリングの縁へと運ばれていく

 

「.....っ!」

 

何もない空間の中、体だけが押し出される奇妙な感覚。それを必死にこらえながら、指を丸めて地面を引っかくように粘る

 

柳は静かに、少しだけ息を吐いた

 

お茶子の体が地面から離れて浮き、場外へと迫っていく

 

(アカン!)

 

場外までほんの数センチ。あと数秒もしないうちに場外へと身体を運ばれる──勝敗が決まる

 

が、その時だった。柳の眉が微かに動いた。次いで指先がピクリと震え、お茶子を襲う空中の押し出し力がほんの僅かに弱まった

 

(.....限界?)

 

個性のキャパ。集中の維持。対象の保持。すべてが繊細な制御を要する技術──柳は限界に近づいていた。お茶子の身体が場外に追い出されるギリギリの場所で地面へと落ちた。落ちたのはリング内だ

 

お茶子は訪れたチャンスを逃さなかった。地に足が触れた瞬間、体をひねり、転がるようにして柳との距離を一気に詰める

 

 

 

「もうちょっとだけ──耐えてよ!」

 

柳は柄にもなく大声を出し、再度個性の発動を試みる。

 

 

 

行動は間に合った。だが──個性は、身体能力は柳の想いについてこなかった。お茶子のが体をぶつけるようにして接近。個性の発動を諦めて柳はかわそうとしたが、間に合わなかった

 

お茶子の両手が彼女の腹部に触れる──瞬間、声と共に柳の身体がふわりと浮く

 

『リリースッ!』

 

 

 

柳の身体はそのまま後方へ──地に足がつかないまま、リングの縁を越えていく

 

 

 

 

 

 

個性を解除された柳の身体は、小さな着地音とともに地面につく──場外だ

 

『場外ッ!!勝者!!麗日お茶子ッ!!!』

 

会場が一気に沸く。お茶子は息を切らしながら、リング中央にしゃがみこみ、汗を拭った

 

柳はリングの外から小さくお辞儀をする。お茶子もそれに応え、深く頭を下げた。どちらが勝利してもおかしくはなかった。柳は誰にもバレないよう静かに涙を流し、お茶子はその背中を見送った。類似している個性対決──勝者は麗日お茶子だ

 

 

 

(もう少し、もう少しだったのに.....悔しい。恨めしい)

 

 

 

 

 

 

「行ってく」

「花月!まだだ!まだ終わってない!僕達が──B組で表彰台を制すんだ!だから勝て!絶対に勝つんだ!」

 

「愚問だよ、物間。わかってる。僕はまだ何も諦めてない」

 


 

俺の名は飯田天哉。雄英高校ヒーロー科1年A組、そしてクラス委員長として──今、リングに立っている

 

相手はB組の花月雫。開会式での宣言、障害物競走や騎馬戦で見せた冷静かつ的確な判断力、そして個性。視線に入れた相手の動きを止めるそれが彼の個性

 

俺が見た限り、その効果は全身を止めるものだ。ならば、対策は明快だ

 

(捉えられる前に決める。それだけだ)

 

リングに立った時点で、俺はすでにトップギア。脚部エンジンは回転音を鳴らし、爆発的な加速に備えていた。花月くんがどんな策を用意していようと、速度が上回れば反応する暇もないはずだ

 

『スタート!』

 

「レシプロバースト!!」

 

合図と同時に、俺は最速で踏み込んだ。狙うは一撃。初撃で終わらせる──そのつもりだった

 

「速いけど──見えるよ」

 

え?

 

次の瞬間、右足首が動かなかった。

 

「なっ──!?」

 

前傾姿勢のまま、右足だけが地面に縫い付けられたように止まる。体はそのまま重力に引っ張られ、バランスを崩す。かろうじて左足で体勢を立て直したときには、花月くんの姿はもう俺の死角に消えていた

 

(まずい。これは、見誤っていた)

 

彼の「静止」は全身を止めるのではない──

 

(部分的に、狙って止めている!?)

 

「考えてる時間があるのかな?」

 

今度は左肘が空中で止まった。まるで見えない鎖で拘束されたように、一切動かない

 

「君、個性.....全身じゃないのか!」

 

「そう思うよね。でも──答える気はないよ」

 

やられた。俺は「全身を止める」個性だと誤認していた。だが現実は違う。彼は動きの起点を狙い、必要な一部だけを止めてくる。関節、軸足、攻撃動作の起点──ほんの一瞬、それだけでこの速さも、意味をなさなくなる。なにより彼は──個性に関係なく、俺の動きを捉えることが出来ている

 

(このままでは、突破口が見つからない!)

 

花月くんは積極的に攻撃を仕掛けてくるわけではない。だが、近づけば崩され、遠ざかれば視線から逃れられない。仕掛けてこないのは、仕掛ける必要がないからだ。安全策をとっているからだ

 

「ここで退くわけにはいかないッ!!」

 

気合いを込めて再加速。中央へ一気に踏み込む──その瞬間

 

「確実にいかせてもらうよ。ごめんね」

 

また止められた。右膝だ。屈伸が効かず、踏み込みは宙に浮く。制御の効かない滑り──そして背後からの、軽い衝撃。背中を押された

 

次の瞬間には右膝の自由が戻っていたが、もう遅い。重心は傾き、意識だけが場外に迫るラインを捉えていた

 

(──落ちる!!)

 

「ぅぉおおおおおおおッ!!」

 

意地で体勢を立て直し、リング内へ滑り込もうとした──そのとき

 

「うん、これで終わりだよ」

 

今度は──身体全体が動かない

 

(!?)

 

重たい無力感が全身を包む。最初からこの一手を使っていれば勝負は早かったはず。俺が彼が安全策をとっていると思ったのは、彼が俺の動きについてこれないと思ったからだ。だが、現実は違っていた。俺の動きを認識できているなら、ここまで戦いを長引かせる必要はなかったはず

 

それ以上思考する間もなく、視界の端で花月くんの拳が迫る

 

──殴られた。俺の身体を場外に落とすには、十分な衝撃だった

 

 

 

 

 

完敗、だ。立ち上がりながら、俺はリング中央に立つ彼の背中を見つめる

 

 

 

「──あと3回」

 

彼の視界に、俺の姿はもう入っていなかった

 


 

拳藤、塩崎、小大のチア服

 

 

【挿絵表示】

 

 

小大唯単体

 

 

【挿絵表示】

 

 

塩崎単体

 

 

【挿絵表示】

 

 

拳藤単体

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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