ダークブルーに塗られた軽キャノンが90㎜マシンガンを撃つ。
その射線の先には白く塗られたゲルググが居た。
軽キャノンとゲルググはムラサメ研周囲の廃墟を走る。
廃墟の街並みは一年戦争後、ムラサメ研の敷地として二束三文で買い上げられた。
白いゲルググはたちまちいくつもの弾丸を受け、蛍光ピンク色に染まった。
演習用のペイント弾である。ゲルググの足が止まる。
MS同士の戦闘における平均交戦時間は約3分間と言われている。僅かな時間でMS同士の戦闘は決着がつくのだ。
「参った。撃墜判定だ」
コダマ・ウィラードは白いゲルググに乗っていた。ペイント弾をひとしきり浴びると早々に演習を切り上げようと、無線を軽キャノンへと入れる。
ゲルググは僅か1分20秒で撃墜判定を受けた。
「実弾をこの程度浴びせたくらいでゲルググが墜ちるかッ!?」
軽キャノンのパイロットであるアン・ムラサメはこの日初めて模擬戦を行った。
そのため、模擬戦の興奮に流され暴走してしまった。アン・ムラサメはNT研究所の強化人間である。肉体・精神両面からの強化により、やや情緒不安定なところがあった。
「墜ちる。だから無駄弾を撃つな」
ゲルググに乗るウィラードは今日の模擬戦を慣らしと捉えていたため、そこまで激しい戦闘を行うつもりではなかった。そして、昨日今日MSに乗ったようなパイロットに撃墜されはしないという緩みがあり、撃墜判定を受けた。
油断である。実戦ならば今頃死体だろうなと思いながら、ウィラードはアンをなだめる。
「死体が喋るな!!」
アンの乗る軽キャノンはマシンガンを撃ち続ける。ゲルググは更にピンクへと染まっていく。
「チッ!話を聞かないな。殴るしかないか」
強化人間はニュータイプの模倣品とはいえ殺意を感知する。ウィラードはMS空手でアンを黙らせることに決めた。
「弾切れ!?ならば!」
軽キャノンはマシンガンを撃ち尽くし、マシンガンをゲルググに投げる。
ゲルググは腕で振り払う。
お互いに近接戦闘を目論んだ。
軽キャノンに乗るアンは一瞬機体備え付けのビームキャノンを意識したが、わずかに残った判断力がそれを拒絶する。リアルな模擬戦を志向しているだけで、本当に殺し合うつもりはない。
軽キャノンが助走をつけて飛び蹴りを仕掛ける。
ゲルググはその蹴りに合わせて、大きく足を上げる。回し蹴りだ。
「ゲルググ回し蹴り」
お互いの蹴りは相殺し合い、軽キャノンは地面に着地する。
「ゲルググ正拳突き」
軽キャノンの着地した瞬間。そこに合わせてウィラードはゲルググの拳を突き出した。ゲルググの拳は砕け、軽キャノンは仰向けに倒れた。
あとで整備士から嫌味の1つ2つは聞かなきゃならないなとウィアードは溜息をつく。
ウィラードはヘルメットを外し置く。プラチナブロンドの髪が風になびく。
ゲルググのコックピットを降り、軽キャノンに向かう。軽キャノンのコックピットがウィラードの手によって開放される。
「僕も熱くなってしまった。済まん」
軽キャノンのコックピット内にウィラードが手を伸ばす。
コックピットの中には成人を迎えたばかりの女が居た。
烏羽色の長髪を後ろで纏め、地球連邦軍のパイロットスーツに身を包んでいる。
「大尉、ごめんよ」
アン・ムラサメはウィラードの手を掴む。
その握力の力強さにウィラードは驚く。大和撫子の如き見た目からは信じられない握力。これもムラサメ研の強化かとウィラードは納得する。
「これで1勝1敗だ。ゲルググの洗浄は君がやれ」
負けた者がペイント弾の汚れを落とす。それが模擬戦の流儀である。
「大尉が下手くそだからペイント弾まみれになったのに?」
「殴るぞ」
「パワハラ上司」
時は宇宙世紀0085年。ここに一人の強化人間と一人のオールドタイプが居た。
二人はジオン公国に逆襲するために、自らの爪牙を磨いている。
真紅の稲妻が帰還するまで半年を切っていた。
次は真紅の稲妻パートです。