コダマ・ウィラードが引き続き登場する。
3隻のムサイがルナツーの防空圏ギリギリを航行している。
ルナツーは戦力保全策を取っているため、ムサイ3隻程度の戦力が近くを航行する程度では動かない。ムサイ3隻では、ルナツーを落とすことなどできず数分で蒸発する。それは地球連邦軍、ジオン軍両軍共に周知のことだった。
数々の戦功により少佐へと昇進したジョニー・ライデンは突撃機動軍第2方面特務中隊第8パトロール艦隊の中隊長に就任していた。ムサイ3隻とMS12機(+予備機3~4機)の指揮を執る立場になったのだ。
金髪の青年がパイロットスーツに身を包み、ムサイ級軽巡洋艦「プリムス」のMS格納庫に居た。ジョニー・ライデンである。
ジョニーは自身の専用機として与えられた高機動型ザクを見上げていた。そのザクは紅く塗られている。
「何色に塗りますか?」
整備士が一人、ジョニーに近き訪ねてくる。
「俺の機体は塗替え済みだが?」
「僚機のことであります」
整備士は自身の言葉が足りなかったことに気づき、補足した。
ジョニーの僚機はリック・ドムであった。高機動型ザクの速力に、通常のザクは追いつかない。そのため、部下たちはドムを駆ることになった。
「僚機の色か。俺が決めていいのか?お前ら」
格納庫にはジョニーの部下たちの姿もあった。部下たちにジョニーは顔を向ける。
「少佐と同じ紅は我らには重すぎます」
ジョニー直属のMS小隊に所属する下士官が発言する。ジョニーは開戦劈頭からMSに乗り、数々の戦いを潜り抜けてきた歴戦の戦士である。
部下たちはザクでの実戦経験は無く、ドムが初めてになるような者たちだった。
20歳ほどの若者ばかりだった。
「私は水色が好きなので、水色だと嬉しいです」
ジョニーのMAVを務めるエマァ・ダイス少尉が口を開いた。
水色の髪を伸ばしツーサイドアップにした新米士官である。もちろん成人済みであるが、身長はジョニーの胸ほどまでしかなくジュニアハイスクールの生徒と勘違いされそうな見た目だった。
「じゃあ水色にするが、異論はあるか?」
ジョニーは部下たちを見回し確認する。皆、若い。
部下たちはジョニーを真っ直ぐに見ている。期待しているのだ。自分たちがジョニー・ライデンの作る伝説の一部になることを。
ジョニーは内心うんざりした。少しばかりMSを自由に扱えるだけで、他人から過大な期待を向けられるのだ。
「異論はないようだな。じゃあドムを水色に塗れ」
「やったー!」
ダイス少尉が跳ねる。無重力空間だと人の動きで予想外に飛ぶ。ダイス少尉はドムのコックピットの辺りまで飛んでいった。
「良かったでありますね、ダイス少尉」
ジョニーの部下たちはダイス少尉を見上げることになった。
軍隊は男ばかりで、数少ない女性であるエマァ・ダイスはプリムス艦隊でアイドル的に扱われていた。
ルナツーの近くを航行していた突撃機動軍第2方面特務中隊第8パトロール艦隊(通称プリムス艦隊)は、ルナツーへ補給物資を運ぶ小規模な部隊を発見した。
プリムス艦隊の目的はルナツーへの物資搬入を阻止することである。
「お前ら、優先的にドムを与えられただけの活躍をしろよ」
ジョニーは部下たちにそう言うと、自身の高機動型ザクに乗り込んだ。
高機動型ザクはジャイアント・バズを右手に、マシンガンを左手に装備する。
ザクの腰にはヒートサーベルを備え付けていた。武装のほとんどはリック・ドムの流用である。
「ジョニー・ライデン、高機動型ザク出撃する」
ジョニーのザクは通常のザクを超えた速度で宙を駆ける。
その後ろにエマァ・ダイスのドム、その他のドムが続く。その総数は8機。
第3小隊4機は艦隊直掩として残していた。
「第一目標はコロンブスだ。次にサラミス。セイバーフィッシュは軽くあしらえ」
ジョニーは部下たちに目標を説明した。
輸送艦隊はコロンブス級輸送艦を中心にしていた。サラミス級巡洋艦が2隻、コロンブスの脇を固めていた。
艦船の数ではジョニー率いるプリムス艦隊と同数である。
「少佐、ザクが居ます。白いです」
コロンブス級からは続々と白いザクが出撃し、コロンブスを守るように周囲に広がり、ジョニーたちに向かって飛んでくる。瞬く間にその機数は20機を超えた。
「この近辺を我が軍の艦隊が航行している情報はない。鹵獲されたザクだ」
ジョニーは感慨深げにザクを見渡す。彼はプリムス艦隊以前に別の戦場で鹵獲されたザクとの戦闘を経験していた。
ジオン軍は多くのザクを運用してきた。数々の戦闘においてザクは最前線に立ち、そして多くが失われた。またジオン軍の基地が制圧されたときには、多くのザクが十分に破壊しきれずに放棄された。かき集めれば大隊の1つや2つ軽く編成できる数が地球連邦軍の手に渡っただろう。
「少佐、我らの倍の数のMSであります」
ジョニーの部下が不安がり、通信を入れる。初めての実戦がMSの者も多かった。
「ミノフスキー粒子を戦闘濃度で散布っ!ダイス少尉。俺とお前で攪乱する」
「イエスサー。後ろは任せてください」
エマァ・ダイス少尉のドムが速度を上げ、ジョニーの高機動型ザクと背中合わせに飛ぶ。
「第2小隊は固まって戦え。リック・ドムは頑丈だ。気楽にやれ」
ジョニーが命令を伝えている間に、白いザクたちが射撃を開始する。
弾丸は見当違いな方向に飛んでいく。速度と機動に照準が追いついていないのだ。
「少佐、俺たちは?」
ジョニー直属小隊のアンガス軍曹が尋ねる。
「俺に続け。追いつけよ」
ジョニーたちはザクの集団に飛び込んだ。
ザクよりも厚い装甲のドムは硬い。多少の被弾では、撃墜されない。
対してドムのジャイアント・バズが直撃すれば、ザクは耐えられない。
ジョニーとダイス少尉は瞬く間に4機のザクを撃墜した。
その速度を活かし、ザク集団の中央を突破し後ろに回り込む。
遅れてついてきたドムがザク集団に空いた穴を広げる。
それでもまだ地球連邦軍のザクが機数で上回っていた。
「このリック・ドムすごいよ!!流石重MS!!」
プリムス艦隊のドムたちの士気は高まり、ザクたちに混乱が広がっていく。
1機のドムがビームライフルに撃ち抜かれる。コックピットに穴が開き、ドムは爆発する。
「エマァ、俺のダンス相手が来た。お前はアンガス軍曹たちと合流しろ」
白いザクの中に1機、ビームライフルを持つザクが居た。
手足と頭部はザクだが、その胴体は大きく改造されている。そして胴体だけが赤く塗装されている。
ジョニー・ライデン少佐は知る由もないことだが、この機体はコアブロックシステムのとビーム兵器の試験用機である。試験の終了後、他の鹵獲ザクと共にこのコロンブスに配備された。
コアファイターにはビームサーベルが二つ備えられている。
「シャア・アズナブル!!」
コダマ・ウィラード中尉はジョニー・ライデンの高機動型ザクを見て、咆哮する。
ビームライフルが高機動型ザクをつけ狙う。
「ビーム飛ばしてますよ!なんかヤバそうじゃないですか!?」
エマァ・ダイス少尉はジョニーにレーザー通信を入れる。
「だから俺が相手をする。それがエースの責任だ」
エマァ・ダイスの乗るドムから離れ、ジョニーはウィラードのザクに向かって飛ぶ。ジョニーは、ウィラードのザクの左肩にエンブレムを見つけた。首無しの白い馬のエンブレムだ。
「ウィラード、お前とは長い付き合いだな」
ジョニーは独り言ちる。
もちろんお互いに無線は通じていない。そのためにジョニーはウィラードから赤い彗星のシャア・アズナブルと勘違いされている。今度出撃するときはザクの肩にエンブレムを入れよう、ジョニーはそう思った。
ジョニー・ライデンとコダマ・ウィラードは重力戦線でも戦った。その時もジョニーの勝ちだった。お互いにとってそれは苦い経験で忘れることはできなかった。
ウィラードのザクとジョニーのザクは螺旋を描くように、飛行する。ウィラードもジョニーもお互いにMAVは伴っていない。
ジャイアント・バズの弾は既に切れ、マシンガンの弾も残り少ない。対してウィラードのザクは既にコアファイターからビームサーベルを抜いていた。
コダマ・ウィラードは残弾が切れてからが粘り強い。
「弾切れか」
ジョニーのザクの残弾がついに切れた。マシンガンをウィラード機に投げつける。
ウィラードはマシンガンをビームサーベルで切った。
マシンガンが爆発し、一瞬ウィラードの視界が塞がる。
「いい加減落ちろ!」
ジョニーはその一瞬でウィラードの上を取った。ウィラードはザクを更に前へと飛ばす。白いザクの肩をヒートサーベルが掠める。
「やらせるか!」
ウィラードはもう一本のビームサーベルも抜きながら、ジョニーへと向き直る。そしてビールサーベルをがむしゃらに振り回す。
受け損なえば一撃でジョニーのザクは落ちる。だがジョニーはヒートサーベルを巧みに振り回し、処理していた。
「エマァ!!援護射撃ッ!」
近接戦闘では分が悪いとジョニーは判断した。迷わずにエマァ・ダイスに通信を入れる。
「かしこまッ!」
エマァ・ダイス少尉は畏まりましたと言おうとして噛んだ。現在相手をしていたザクに体当たりして弾き飛ばす。そのザクのMAVはダイス少尉に牽制射撃を仕掛ける。
ダイス少尉はザクの射撃をジグザグに飛行して避けていく。
そして単機で白いザクの間を泳ぎ、ウィラードのザクの側面を捉えた。マシンガンの残弾を全て吐き出す勢いで射撃する。
「MAVの援護!」
ウィラードの白いザクは頭部と右腕を撃ち抜かれた。
戦場において頭部を失ったMSは外部を観測するほとんどの機能を失う。
「また負けたか。次こそは……」
ウィラードはコアファイターで、ザクより脱出する。
それが呼び水となったのか、他の白いザクたちもルナツーに向けて逃げていく。
総数24機大隊編成の鹵獲ザク隊はその数を半分にまで減らしていた。生き残ったザクたちも大なり小なり破損していた。今後稼働する機数は10機を下回るだろう。
「ダイス少尉、残弾あるか?」
「ないです」
ダイス少尉のドムは既にヒートサーベルを抜いていた。マシンガンは弾切れと同時に捨てていた。
「アンガス軍曹はどうだ?」
「閉店であります」
アンガス軍曹のドムは全身に弾痕が広がっている。そして全ての武器を失っていた。
サラミスは二隻とも沈みつつある。コロンブスも被弾していたが、速力は落ちていない。ルナツーの防空圏内にコロンブスは入っていた。迎えのセイバーフィッシュは数十機が出撃している。それがジョニーのザクのカメラに映っていた。
戦闘開始時は8機だったジョニーの部下たちは6機に減っていた。
「帰るぞ。俺たちの勝ちだ!」
ジョニーは声を張り上げて言った。しかしジョニーはこの状況を負けたと認識していた。精々が試合に勝って勝負に負けたというところだろう。
2機の犠牲で10機ほど鹵獲ザクを撃破し、更にサラミスを2隻沈める。大戦果と言っても過言ではない。だが、ジオンが地球連邦軍に勝つには圧倒的に勝たねばならない。ここでコロンブスを沈められなかったことが、明日多くのジオン軍将兵を殺すかもしれない。
そして死んだ部下の顔を思い浮かべれば、勝利の酔いに身をゆだねることもできない。
「この紅色の重さにはなかなか慣れないな」
ジョニーは無線を切り、呟いた。