前後編と言いましたが長くなったので一旦切ります。
次は短くなりそうですね。
北米キャリフォルニアベース。多くのMSが立ち並ぶハンガーを赤い士官服の男が歩いていた。ジョニー・ライデン大尉である。ジオン軍の地上侵攻に伴い、重力戦線へと舞い降りたのだ。
「これがMS-07Bグフか」
ジョニー・ライデン大尉は一機のMSを目にして、足を止める。
ザクのような頭部、両肩のスパイク、ザクをより洗練した機体である、とジョニーは感じた。
ザクと同じ緑色の塗装では、それがザクとは違うMSであると気づかないだろう。 MSパイロットがそれを見ても、ザクのマイナーチェンジと考えるかもしれない。
しかしグフはザクと決定的に違う機能を備えていた。
「はい。大尉の機体であります」
ジョニーの姿を確認したジョニー付きの整備士が答える。ルウム戦役以来の付き合いであり、ルナツーにおける戦いまでジョニーに付いて回る。
「新型MS6機と爆撃機3機で例の部隊を撃破せよ、か。気楽に命じてくれる……」
ジョニーは地上に降りる前に、鹵獲ザクによるコマンド部隊を撃破する命令を受けた。敵は小隊以上の機数のザク。数では優るか同等と予測されている。
ジョニーはMS戦というものを、訓練でしか知らなかった。しかもその訓練は対艦戦闘や対戦闘機戦よりも少ない時間しか受けていない。ジオン軍は地球連邦軍がこんなにも早くMSを戦力化すると予測していなかったのだ。
「安心してください。グフはザクと違いますよ」
整備士はジョニーの不安が杞憂であると伝えようとした。対MSを前提に作られたグフはザクに優れるのだ。
「それは分かっている。それは分かっているが、嫌な予感がするんだよ」
ジョニーは嫌な予感を感じていた。敵の戦力は鹵獲したザクと判明している。それでも何かを見落としているように感じていた。
相手はMS6機に61式戦車2両、そのはずだ。
アリゾナの砂漠におけるジオン軍の物資集積所は度重なる地球連邦軍の攻撃により、その数を減らしていた。というよりも物資集積所を統合し、大規模なものに変更していた。もはや一つの基地と呼べるほどの防衛戦力と規模に変わっていた。
その際の再編や防衛戦力の捻出により、ジオン軍の攻勢はやはり鈍くなっていた。
フェデリコ・ツァリアーノ中佐は乗機である鹵獲ザクの頭部を動かし、ジオン軍の大規模物資集積所を見渡す。ザク1個小隊4機マゼラアタック1個小隊4両によって防衛されていた大規模物資集積所はもはや小規模な基地とでも呼ぶべき戦力を保持していた。
だがそれも僅か10分の戦闘で全て撃破され、物質や施設は全て灰燼に帰していた。
ツァリアーノ中佐率いるセモベンテ隊は地球連邦軍製のMS――ザニー――4機が配備され、更に増強されていた。現在セモベンテ隊はMS10機と61式戦車2両を有する有力な戦力となっていた。
「中佐、ザンジバルです」
ウィラード中尉は物資集積所の救援にやってきたザンジバル級に気付き、無線を入れる。
「猟犬が来たか。遠足は帰るまでが遠足だ。ケツをまくって帰るぞ」
ザンジバル級はMS1個中隊を搭載できる、と地球連邦軍に推測されていた。ジオン軍MS隊とザンジバルが連携を取って攻撃してきたならば、苦戦は必須だ。
そして、セモベンテ隊に新たに配備されたザニーは、ザクと違い兵器としての信頼性が低いMSだった。鹵獲したザクのパーツを分析し、複製したパーツを多様して作られたMSである。ザクよりも強度や機動性に劣り、白兵戦は難しい。
完成度は十分なものではなかったが、MSの生産試験として生産が始められた。軽キャノンが量産されるまでの間、ザニーは地球連邦軍の一翼を確かに担っていた。
ツァリアーノ中佐の命令を受けて、アルベルト・ウェイライン少尉の率いる4機のザニーがまず後退を開始する。
ザニーの後方にザクや61式戦車が続く。
「くたびれたザクよりもザニーの方が頻繫に壊れやがる。これでは俺たちがいつになったらザクから新型に乗り換えられるのかわからん」
ツァリアーノ中佐はぼやく。
メキシコからアリゾナまで進出した地球連邦軍の部隊が回収を行う手筈になっている。ザクのみであればメキシコ・アリゾナ間の往復も問題はなかった。
しかしザニーは別だった。ルウム戦役の敗戦により急遽開発が開始された戦時急造兵器である。作戦行動で何も問題が発生しないことの方がまれであった。
作戦行動で砂漠を歩き回ることになれば、確実に壊れると認識されていた。しかしそれでもザニーは地球連邦軍の貴重なMSであり、故障で失うわけにはいかなかった。
ザンジバル下部のハッチから紅いグフがドダイYSに乗って出撃した。ザクバズーカとザクマシンガンをそれぞれ右手と左手に装備していた。
紅いグフに続いて、通常色である緑色のグフ2機もドダイYSに乗って出撃する。彼らはザクバズーカのみを装備している。
ザンジバルはMS3機ドダイ3機を降ろすと、ザニーの前に回り込もうと飛行ルートを変える。
ザニーの前に回り込むと、また別のMSを投下する。そしてそのままザンジバルはセモベンテ隊から距離を取る。ジョニー・ライデンは借り物のザンジバルをできるだけ傷つけずに返そうと考えていた。
そのため、今回の戦闘にザンジバルを参加させるつもりはなかった。
ザニーの前に着陸したMSはザクよりもスマートなシルエットの機体だった。色はグリーンとグレー。ジオン軍の正式採用MSのような配色である。
ヅダである。0ザクとのコンペに負け、正式な量産はされなかった幻の機体。
しかし公国によるスペースノイドの独立のため、陸戦仕様に改造され重力戦線に投入されていた。この世界の公国はどうやらヅダの試験運用を各方面で行っているようだった。
予め決められたジオン公国の勝利に向かって運命の歯車は進んでいた。
「大尉、連邦の不細工なMSは私たちが片付けます」
エマァ・ダイス少尉はプリムス艦隊よりも前からジョニー・ライデンの部下であった。このときはまだMAVではなく、第二小隊の小隊長の立場にあった。
ヅダ3機はザクより優れた機動力で跳躍を繰り返し、ザニー小隊を翻弄する。
「……後方の細いMSを突破する。ウィラード隊は飛んでいる奴らを追い払え」
ツァリアーノ中佐は、ウィラードにグフの相手を任せダイス少尉率いるヅダ小隊へ攻撃を集中させる。
着地した瞬間を狙われ、ヅダが1機蜂の巣になった。ザクよりも薄い装甲ではザクマシンガンの集中砲火に耐えられなかったのだ。
「不味いな。想定したよりも数が多い」
ジョニーは内心焦りを感じていた。機数の優越する相手の火力は想像以上であった。しかし既に賽は投げられた。ルビコン川を渡ってしまったのだ。
ジョニーのグフはウィラード小隊のザクを瞬く間に2機撃墜する。そこから更にザクバズーカの照準を61式戦車に向け、これを撃破した。
そして僚機のグフ2機がウィラードのザクに攻撃を向ける。
グフのバズーカがウィラード機の側に命中する。直撃ではなく、ウィラード機の動きは少しも損なわれていなかった。
「赤い彗星がこんなところにいるなんて聞いていない!だが貴様以外はエースじゃああるまい!!」
1機のグフにザクバズーカが直撃する。ドダイYSに乗り、空中を飛行するグフが一撃で落とされた。ドダイはグフの爆発に巻き込まれ、撃墜される。
「ドダイに乗ったグフに攻撃を命中させた!初弾で!?」
続けてもう1機が再度攻撃を仕掛けようとする。ドダイにザクバズーカが直撃した。落下するグフにウィラードのザクは素早く照準を合わせる。グフは撃墜された。
「次は貴様だ!シャア・アズナブル!」
コダマ・ウィラード中尉はMSを操る才能を急激に開花させていた。
「参ったな。どうやら相手もエースパイロットのようだ」
ジョニーはザクバズーカを放り捨て、ザクマシンガンを左手から右手に持ち替えた。