真紅の稲妻の帰還/プランBの二人   作:黒月乃沙鵺子

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 グフはその真価を発揮し、ツァリアーノ中佐は英雄的死を迎えます。


セモベンテ隊と真紅の稲妻(後編)

 日の傾いたアリゾナの砂漠。

 ジョニー・ライデンは追い込まれていた。

 彼はジオン軍後方地帯を荒らす敵コマンド部隊掃討を命じられ、新型MS6機とザンジバルを与えられた。

 しかしMS6機ではセモベンテ隊と対峙するには不足だったようだ。

 

「ジグザグに飛べ。タイミングを見て俺は飛び降りる。その後は牽制を頼むぞ」

 

 ジョニーは自身のグフが乗るドダイYSのパイロットに命じた。

 

「振り下ろされないでくださいよ大尉」

 

 ドダイのパイロットはそう言うと、ドダイを急上昇させた。そして急降下する。ジョニーはジグザグに飛べとしか言っていなかったため、上下でジグザグに飛んだのだ。

 その内にジョニーはドダイからグフを降ろした。

 バランスを崩したように空中を落下する。

 

「ジオンのMSが地球の空を飛ぶな!!」

 

 ウィラードの駆るザクがザクバズーカを発射する。ジョニーはグフのスラスターを吹かし、それを避ける。

 ウィラードのザクは、少しずつ後ろへ下がる。

 スラスターを吹かし、後ろへと跳躍しながらもグフへとバズーカを向けている。

 ウィラードたちは撤退戦を行っているのだ。

 

「こっちを向いたまま、上手く跳ねるもんだな」

 

 ジョニーはザクマシンガンを何回かウィラードへ向けたが、命中はしない。

 ウィラードはジョニーに跳躍のタイミングを掴ませないよう、ランダムな間隔で飛んでいた。

 

「周りから片付けるか」

 

 ジョニーはウィラードよりも後方に銃身を向けた。ツァリアーノ中佐の僚機がザクマシンガンの直撃を受ける。背部のメインスラスターの推進剤に火が点き、ザクは爆発した。

 

「ウィラード、苦戦しているようだな」

 

 ツァリアーノ中佐のザクは、紅いグフに向き直る。

 

「情けない限りであります。あの紅いMSに僕の部下が全て()られました」

 

 ウィラードは弾切れしたザクバズーカを捨て、ヒートホークを取り出す。

 

「反省も後悔も無事に帰ってからにしろ。俺が援護する。距離を詰めろ」

 

 ツァリアーノ中佐はザクマシンガンをジョニーの駆る紅いグフに向けた。

 

 セモベンテ隊の戦力はMS5機(ザニー2機、ザク3機)まで減少していた。

 対してジョニー・ライデン率いる部隊の戦力もMS3機(グフ1機、陸戦型ヅダ2機)とドダイYS1機にまで減少していた。

 数的にはセモベンテ隊の方がやや有利であった。

 

「ダイス少尉、ミヤモト少尉、ザクは全部俺が片付ける。援護は無用だ」

 

 ヅダ2機はザニー2機とザク1機と対峙している。

 数では未だ不利ではあったが、ザク以上の機動性で翻弄していた。ヅダに乗る2人が、ヅダの性能を引き出せていたのだ。

 エマァ・ダイス少尉は、後にプリムス艦隊でジョニーの僚機を務める腕前である。

 イオリ・ミヤモト少尉はルウム戦役における功績(マゼラン1隻サラミス級2隻撃沈)で曹長から昇進している。本作戦においてはダイス少尉の補佐を勤めていた。

 

「了解であります。こちらが片付き次第、獲物は横取りさせて頂きます」

 

 ミヤモトはやや戦闘狂のところがある青年だった。年もジョニーより二つ上であり、お互いにパイロットとして戦果を競う関係があった。

 

「落ちろ!紅いの!」

 

 ツァリアーノ中佐のザクマシンガンが、ジョニーの操るグフの周囲に着弾する。

 

「この距離ならザクマシンガンじゃあグフの装甲を撃ち抜けやしないだろ」

 

 ジョニーは被弾を恐れずにグフを走らせる。

 走りながらもヅダと交戦するセモベンテ隊のザクを撃ち抜く。ザクは脚部を破損した。脚部を損傷し動きの鈍ったザクを見過ごすほど鈍いパイロットはジョニーの部下にはいない。

 ミヤモト少尉のヅダがザクマシンガンを放ち、ザクを撃墜した。

 

 その内にウィラードのザクはグフへと間合いを詰めた。

 

「死ねよやジオン野郎が!!」

 

 ウィラードのザクはヒートホークを横薙ぎに振るう。素早くザクマシンガンを捨てたジョニー。グフのヒートサーベルを盾から抜き、これを防ぐ。

 

「嫌な気配だ。近距離で斬り合いたくない」

 

 ジョニーはザクの胴を蹴り、距離を離すことにした。ジョニーはNT的な感覚を持たない。野獣の如き感覚で敵を認識する。その感覚がウィラードを恐るべき驚異と認識していた。

 

「電磁ハーケンの威力、試してみるか」

 

 ジョニーはグフの右手から電磁ハーケンを射出した。

 電磁ハーケンはヒートサーベルよりも間合いの広い白兵戦用兵器である。

 弾薬を消費せずに地球連邦軍の装甲車両を撃破するために採用されたと一説には言われ、更にはMSの電装系やパイロットに対して効力を発揮すると期待されていた。

 

「ッ!!」

 

 ウィラードのザクは電磁ハーケンから流れる電流によって動きを止めた。

 一時的にシステムがダウンし、ウィラードにも電流の流れる痛みが襲った。

 ウィラードは気絶し、失禁した。

 

「ザク相手にも効くか」

 

 ジョニーはヒートサーベルを振り上げ、ウィラードにトドメを刺そうとした。

 

「やめろ!!」

 

 ツァリアーノ中佐はザクマシンガンを撃ちながら、ジョニーのグフに近づいていく。ウィラードを助けようとしているのだ。

 ジョニーは思った。指揮官たるものが、自らの身を顧みず部下の命を救おうとするべきか、と。全く非合理である。

 ジョニー・ライデンの認識では、指揮官と兵隊の命は等価ではない。戦争に勝利するためには犠牲を許容する必要がある。

 ツァリアーノ中佐を動かしたものは、合理ではなく非合理的な理由だった。

 目の前の若者が今まさに殺されようとしていて、自らに助ける力がある。ただそれだけだった。

 ツァリアーノ中佐の意志はMSという鉄の巨人の身体に投影され、行動に移されていた。

 ジョニーの紅いグフは左手をツァリアーノ中佐のザクに向けた。そうそれは左手である。

 

「75mmの雨よ、このアリゾナの大地に降れ」

 

 ザクとグフとの間に存在する決定的な差異であり、グフをグフたらしめる固定武装、75mm5連装フィンガーバルカンである。

 フィンガーバルカンはその課せられた義務を果たす。75㎜の弾丸が発射され、ツァリアーノ中佐のザクを叩く。叩くのだ。

 ザクマシンガンよりも小口径の弾丸ではザクの装甲を貫き難い。

 

 フィンガーバルカンの音を発射音を聞きながら、ジョニーは醒めていた。ジョニーはスペースノイドの独立の為に戦うという大義を信じていた。ジオン公国を信じていた。

 しかし、ジオン公国の掲げるスペースノイドの独立という大義は偽りだった。

 結局のところ、この戦争はジオン公国の地球からの独立でしかない。ジョニーは裏切られたのだ。

 裏切られたといえど、既にルビコン川を渡ってしまった。ならばジョニーはジオン公国の軍人として義務を果たさねばならない。

 ついにツァリアーノ中佐のザクの頭部カメラが破損した。フィンガーバルカンはその機能を十全に果たした。ならばジョニーはフィンガーバルカンに報いなければならない。

 

「さらば勇者」

 

 ジョニーは呟いた。複数の鉄の巨人を率い、劣勢の中でジオン軍と戦ったツァリアーノ中佐を称えた。その戦いを称えた。

 ツァリアーノ中佐は己よりもずっと偉大な人物であるかもしれないとジョニーは感じていた。しかし、その偉大さの為にここで死ぬのだろう。

 偉大であっても生きていなければ何の影響力もない。時代や戦争という大いなる流れに宇宙も地上もない。人間は、生命はその中で生き残らなければならない。それは生命に最初に課せられた使命であった。

 ジョニーはヒートサーベルでツァリアーノ中佐のザクの上半身と下半身を切断した。

 

「ツァリアーノ中佐!!」

 

 ツァリアーノ中佐の戦いは全く無駄ではなかった。この攻防に掛かった時間で、ウィラードは意識を取り戻したのだ。ウィラードの乗るザクもシステムを再起動していた。彼女は叫んでいた。ウィラードは感情のままにザクをジョニー・ライデンに向けて疾走させようとしていた。

 

 砲弾がジョニーの周囲に落ちる。土煙が立ち昇る。

 同じくヅダの周りにも砲弾が雨のように降る。

 いつの間にか地球連邦軍の戦車部隊が、アリゾナの砂漠に現れていた。

 

「チッ。敵の援軍か。ダイス少尉、ミヤモト少尉、帰るぞ」

 

 ジョニーは舌打ちした。しかしそれほど惜しいとも思ってはいなかった。

 セモベンテ隊は、アルベルト・ウェイライン少尉のザニーとウィラード中尉のザクを残して全て撃破されていたのだ。ジョニーの隊に課せられた使命は十分に果たしたと言える。

 それにこのまま増援ごとセモベンテ隊の残りを平らげるには、ジョニーもその部下たちも消耗しすぎていた。

 

「逃げるな……シャア・アズナブル!」

 

 ウィラードはザクのヒートホークをジョニーに向けて振り上げる。

 

「ウィラード少尉。これ以上は無茶です」

 

 ザニーに乗るアルベルト・ウェイライン少尉はウィラードを諌める。

 

「まだ僕は戦える。後ろには援軍も来ている」

 

 ウィラードの視界は揺れ、真っ直ぐザクを走らせることができるかも怪しかった。そして地球連邦軍の戦車隊は編成されたばかりの部隊だった。頭数はあれど、動くMSに砲撃を命中させる練度はなかった。

 

「ツァリアーノ中佐の死を無駄にするつもりですか」

 

 ウェイライン少尉の言葉が、ウィラード中尉の心に響く。

 

「無駄にしない。無駄になんかできない。無駄にしたら僕は一体何のために生かされたんだ」

 

 ウィラードは泣いた。仲間を、親愛なる隊長を失ったことではなく自らが生き残ってしまった故に泣いた。

 あの瞬間(とき)、何故ツァリアーノ中佐はウィラード中尉を助けに走ったのか。

 それは一年戦争が地球連邦軍の敗北に終わってもまだウィラードには理解できない難問であった。

 

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