追放ものに転生した。ただし、ざまぁされる側らしい   作:流石ユユシタ

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第56話 豪雪の領地

 フェリア王国を出てから、数日が経った。

 出発前にユルレへ挨拶をした際に、いろいろあったのだが――それはまた別の話だ。

 

 馬車の車輪は雪を踏みしめ、きしむ音だけが延々と続いていた。吹き荒ぶ風は肌を刺し、景色という景色はすべて白。

 

 道らしい道もなく、ただ雪原を切り開くように進んでいく。

 

 北へ――さらに北へ。

 

 アルヴェニア王国の果てにある【ノースウィン領】。それが、俺たちの目的地だった。

 シエラは窓の外を見ながら、吐息でガラスを曇らせていた。

 

 

「見てください、ミクスさん……雪が、ずっと続いてます。なんだか……きれいですね」

「きれいって言えるくらいの余裕があるのか。さすがだ」

「へへ……寒いけど、ちょっとワクワクします」

「……妾には雪の塊にしか見えんがの。どこが綺麗なのか、見当もつかぬ。景色も見通しが悪いしの」

「うーん……まぁ、確かに。なるほど、王子が言っていたけど、これで作物が育たないのも無理ないな」

 

 

 俺たちの乗る馬車が雪煙を上げながら止まった。御者が振り向き、帽子を脱いで言う。

 

 

「……着きましたぜ。ノースウィン領、領主様のお屋敷はこの先です」

 

 

  扉を開けた瞬間、冷気が一気に流れ込む。外に出ると、見渡す限り白銀の世界。

 屋敷へと続く街路は雪に埋もれ、柵は氷に覆われていた。

 

  けれど、遠くの広場には焚き火の煙が立ち、行き交う人々の姿が見える。

 俺たちは御者に導かれ、ひときわ大きな屋敷へと向かった。

 

 屋敷の門の上には、氷の狼を象った紋章――ノースウィン家の印が掲げられている。

 門番に王子の書状を見せると、すぐに扉が開かれた。

 

 

「ようこそ……レオナート王子殿下のご紹介と伺いました。どうぞ中へ」

 

 屋敷の中は豪奢だった。けれど、その豪奢さの裏に寒さが染みついている。暖炉の火があっても、どこか冷たい。すると、奥の扉が勢いよく開かれた。

 

 

 

「おおおおおおおおぉぉぉぉっ!!!」

「……え?」

 

 

  まるで劇場の幕が上がるような声と共に、厚手の毛皮をまとった男が登場した。

 金髪をオールバックにし、どこか芝居がかった仕草で俺の前に進み出る。

 

 

「お初にお目にかかります! このノースウィン領を預かる、ヴァルド・ノースウィンと申します!」

 

 

 彼は深々と頭を下げたあと、俺の持つ手紙を見て目を見開く。

 

 

「ま、まさか……! それは……王子殿下の書状ではございませんか!? このヴァルド、この光栄、領地すべての誉れッ!!!」

 

 

 次の瞬間、手紙にキスをした。

 

 

「王子殿下ぁ……! この紙に触れし瞬間、血が滾りまする!」

「……えっ、濃い人が来ましたね」

「ふむ、人間色々じゃな……」

 

 シエラが小声でびっくりして、リーネが半眼になった。

 

「……濃いのぉ。妾、こういうの、ちと苦手じゃ」

「俺はむしろ好きだけどな。こういう奴、嫌いじゃない」

 

 

 俺が笑うと、ヴァルドは満面の笑みで手を差し伸べてきた。

 

 

「おお、話が分かるお方だ! 王子殿下も、きっとそなたのような志を持つ者を選ばれたのでしょうな!」

「まぁ、王子とは約束がありますから。依頼の件で伺いました」

 

 俺が書状を差し出すと、ヴァルドは震える手でそれを受け取り、王家の印章を見て涙ぐむ。

 

「……まさしく本物。殿下が我が領をお見捨てにならぬと知り、胸が熱くなります……!」

「聞いていた話では、この領地で異変が起きていると」

「ええ、そうなのです」

 

 ヴァルドの声が、少し落ち着きを取り戻した。

 

「もともと、この地は痩せた土地ではありました。ですが、それでも季節はあったのです。

 短いながらも春が訪れ、夏には少しばかりの穀物が実り、秋には収穫を祝う宴もできた」

 

 

 彼は窓の外を見やり、ため息をつく。

 

 

 

「しかし、ここ数年、何かがおかしい。春が来なくなったのです。雪が溶けぬまま降り続き、夏も冬のまま。まるで、空がこの地だけを閉ざしているように……」

「つまり、原因があると?」

「はい。わたしはそう考えております。人為的なものか、あるいは――もっと禍々しいものか」

「なるほど、王子も似たようなことを言っていました。偏見をなくすには功績が必要で、その功績にふさわしいのがこの異変の解明だと」

「なんと深きお考えか……! あぁ、殿下……!」

 

 

 また手紙にキスした。

 

 

「……私もミクスさんから貰ったハンカチを舐めたことありますから、ちょっと気持ちわかるかもしれません」

「大丈夫か? お主もだいぶやばいぞ」

 

 シエラはちょっと共感して、リーネは冷めた目で見ている。

 

「ミクスよ、こやつ、何回手紙に口づけをすれば気が済むのじゃ?」

「多分、愛ゆえにだな」

「愛……? 紙じゃぞ?」

「信仰に近いんだろう」

 

 俺は思わず笑ってしまった。こういう人種、嫌いじゃない。なんか見てて面白いからな。

 

「領主様、まず畑を見せていただけますか?」

「もちろんですとも! 王子殿下のご意志を継ぐ者たちよ、このヴァルド、全身全霊で案内いたします!」

 

 屋敷を出ると、風が一層強く吹いた。視界の先には、凍りついた畑が広がっていた。

 

 

「……ここが、我がノースウィン領の畑です。何年も何も育ちません。春が来ても霜が降り、根が凍りつく。民は飢えに耐えながら、それでも捨てずにここを守っているのです」

 

 彼の声には誇りがあった。

 

 

「以前は、細々とですが収穫もできた。けれど、ここ数年の積雪は異常。これはきっと、天が何かを訴えておられるのです」

「……なるほど、分かりました」

「この状況をどうにか出来る……と思いたいですが、いかがでしょうか? 今まで何百人が色々と試しましたが、全く成果は出ておりません」

 

 

 

 この人、意外と俺達に過度な期待をしてないんだな。王子が推薦したら、取り敢えず出迎えてるって感じなのか。ほほう? 俺はシエラを見た。

 

 

 

「ここまで言われたらな。いっちょ見せてやれ、シエラの力を」

「はい……やります!」

 

 豪雪が降る中、シエラが雪の上にしゃがみ込み、手を地面に触れる。触れた瞬間、淡い緑光がじわりと広がった。

 

 空気が静まり返る。領民たちが息を呑む。

 

 やがて――雪が下から押し上げられるように膨らみ、芽が顔を出した。凍りついた大地が息を吹き返すように、白い世界に緑が広がっていく。

 

 ヴァルドが声を震わせる。

 

 

「ば、ばかな……芽が……出おった……!? なんという奇跡! これは殿下の加護に違いない!」

「いえ、シエラのスキルです」

「おおお! 殿下のご選定がまたも証明された! 素晴らしい! この力、この美しさ! まさに天命!」

「……私も、ミクスさんをもっと褒めるべきでした。負けてられません!」

 

 

 大丈夫、今でも十分すぎるくらい褒めてくれてるだろ。変な対抗心を燃やさなくてもいいから。

 

 そして、シエラと反対に、リーネはなんとも言えない顔をしている。

 

「声がでかいのぉ……」

「いやぁ、最高だなこの人」

「ミクス、お主、感性が狂っておるぞ。シエラもだいぶ変わっておるが……」

 

 

 雪の中で花が揺れた。冷たい世界に、初めての春の息吹が芽生える。それでも空からは止むことのない雪が、静かに降り続いていた。

 

 

 

「やっぱりすごいな、シエラ」

「えへへ……やりました!」

 

 

 勢いのまま、俺に抱きついてくる。冷たい空気の中で、彼女の体温がやけに暖かい。

 

 

 そんな俺たちを、リーネは少し離れた場所から見つめていた。その表情は穏やかだったが、目の奥にほんの一瞬だけ、寂しさの影が差したように見えた。

 

 気のせいだろうか?

 

 

「すげぇ。花が咲いてるぜ」

「まだ、すごい雪が降ってるのに……」

「何者なんだ、あの連中……」

「でも、こんな雪が降り続いていたら一瞬、草木咲かせても意味ないんじゃ?」

 

  

 

 確かにな。花は咲いている、草木も多少はある。しかし、それでも、空からは止むことのない雪が、静かに降り続けていた。

 

 根本治療ではないだろう。

 

 

 王子の手紙にもあったが、季節が本来あったのに、それが消えてずっと雪が降っている。

 

 

 これはなんらかの人為的なものなのか……?

 

 

 まぁ、それは後で考えればいいか。今はシエラを褒めてあげよう。

 

 

 

「流石シエラだ」

「えへへ」

「……んー、妾も最近、体が鈍っておるからの、少しばかりスキルを使ってやらんでもない」

 

 

 

 

 おお? まさか、リーネもスキルを使ってくれるのか? 未だ降り積もる豪雪。その中でリーネはニヤリと笑った。

 

 

 俺もリーネがどれほどなのか、見てみたかった。丁度良い、シエラよりも強いであろう彼女の力を拝見しよう。

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