追放ものに転生した。ただし、ざまぁされる側らしい   作:流石ユユシタ

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第61話 魔女の変化

 ──あれから、数週間が経った。

 

 

 ミクスが考案した【ミエルーバの薬】の改良品――

 

 ローションや化粧水、飲料水にまで応用されたあの万能薬が、今や王都中で流行っておる。

 

 貴族の婦人は「美肌になる奇跡の水」などと呼び、冒険者たちは「触れただけで魔族を暴く聖液」として持ち歩いておる。

 

 

 そして、妙な噂も流れておる。

 

 

 曰く――

 

 

 

 「夜に男女が抱き合おうとしたら、男が急に消えた」

 「キスした瞬間、相手が青く光って蒸発した」

 

 

 ……まぁ、消えた相手は魔族だったというだけの話じゃが。

 

 

 こうして、【ミエルーバ】の名は一気に国中に広まり、シエラ、ミクス、そして妾――この三人の名もまた、民に知られるようになった。

 

 

 王子も約束を果たした。黒髪青眼への偏見を、見事に払拭してみせた。大々的に活躍をアピールし、妾達に感謝状まで授け寄った。雪原の龍、その他の銅像も国のあらゆる場所に設置をして、宣伝もかかさぬ。

 

 かつて「厄災の証」とまで呼ばれたこの外見が、今では「希望の象徴」だと。

 

 

 

 人間に殺され、復活した妾に、石を投げた子供がおった。フェリア王国では、そのようなのが当たり前だったからの。

 

 シエラも子供に石を投げられたこともあるとも言っておった。しかし、今では笑顔で見上げてくる人間がいる。

 

 

 先日も、王子の命により、貴族領の一つ――ベルスタン領での依頼を受けた。そこは食糧難に苦しむ地で、土地が痩せ果てておった。

 

 

 妾とシエラとミクスが訪れ、シエラが大地を再生し、妾は魔力の循環を整え、ミクスがそれを保つ薬を流した。

 

 それだけのことじゃ。それだけのはずなのに――

 

 

「すごい! 本当に畑が……緑だ!」

「ありがとう、お姉ちゃん! もう飢えないんだね!」

 

 

 

 子供が妾の裾を掴み、無邪気に笑った。その瞬間、胸の奥が、痛くなった。

 

 

 二百年前――同じように感謝されて、同じように守ったのに、

 

 

 

 結局妾は人間に裏切られたのじゃ。魔王を倒した後、民は妾を恐れ、妾の名を「災厄」と呼んだ。黒髪青眼は呪いの象徴。その烙印が、シエラや妾を苦しめた。

 

 

 

 多少、領地を治すことなど。魔王を倒すより、楽であることなのじゃがな。功績の大きさからしたら、そんな大した事ではない。

 

 

 

 

 ……なのに、今はどうだ。

 

 

 子供たちは笑い、大人は頭を下げる。妾の名を呼び、花を手向ける。ああ、なんと皮肉なものか。

 

 

 

 世界が広いということを、妾はどこかで忘れておったのかもしれぬ。フェリアの王国だけが世界だと思っていた。

 

 

 しかし、そうではなかった。世界を滅ぼすと言っておきながら、世界を知らんとは笑えん。

 

 

 

「……妾も甘いか」

 

 

 

 心変わりを妾はしていた。少しずつ、恨みが薄れていくような感覚でもあった。単純な人間であると、自分ですら思う。

 

 そして、少しずつ、あの男が気になっていくのも感じる。ミクスは妾のためではなく、シエラのために黒髪青目の偏見の払拭を成し遂げた。

 

 

 ただ、それでも、妾も感謝をしていた。おかしな話じゃ。勝手に感謝して、勝手に好意を持っているとはな。

 

 

 その気持ちが日に日に大きくなっていた。

 

 

 でも、その気持ちがあの声で酷く揺れる。

 

 

 毎晩毎晩、白百合の館の隣室から聞こえてくるあの音。

 

 

 

「……んっ……ミクス、さん……あっ、だめ……」

 

 

 ――シエラ。

 

 

 声が、甘い。妙に艶めいておる。ミクスの低い声が重なり、部屋の壁がほんのりと震える。

 

 

 いや、妾と声一緒!! 容姿も一緒だし、どんな体勢なのか、分かる! 頭の中でイメージがくっきりと湧いてきた。

 

 

 

「…………ッ、うぬぬぬ……!!!」

 

 

 

 枕を抱えて悶絶する妾。シエラもミクスも、朝も夜にまで繁殖とは、どれほど精が強いのじゃ。それにしても……あのシエラが、あんな声を……。

 

 

 妾もあんな声が……出るのか?

 

 

 

 ……いかん。妾、なにを考えておるのじゃ。

 

 シエラとミクスは恋人、入る余地などない。そんなことも考えてはいけない。

 

 

 妾の中の何かがざわつく。あれほど鈍感で、飄々としているのに、気づけば周囲の人間を惹きつけておる。

 

 

 あやつが動けば、場の空気が変わる。策を練れば、戦況が動く。頭が良いくせに、急に訳わからない事を言う。

 

 

 

 

 ──数多の魅力がある。その魅力に惹かれている

 

 

 

「……なんじゃこの感情は」

 

 

 妾は何百年も生きてきた。恋だの情だの、とうに置き去りにしたはずなのに。

 ありがとうと言われただけで胸が鳴る。

 

 あの男がシエラにお疲れと頭を撫でられたのを見て、複雑に思う。自分が、あそこに居たら。

 

 シエラの笑顔が羨ましく、

 あやつの手が、自分に触れぬことが――

 ……少し、寂しい。

 

 

 その夜、妾はミクスに声をかけた。月の光が白百合の館の庭を照らし、静かな風が吹いていた。

 

 

 

 

「ミクス、少し話がある」

「ん? 珍しいな、リーネから呼ばれるなんて」

「……お主に、話しておかねばならぬことがある」

 

 

 

 妾は深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。

 

 

 

 ──胸の奥に沈んでいた【黒いもの】を、言葉に変える。

 

 

 

 

「妾は、魔王の居場所を知っておる」

 

 

 

 ミクスの表情が、一瞬で変わった。驚きではなく、納得したような表情。まるで、すでに察していたような顔じゃ。

 

 

 

 

 

「……やっぱりな。そんな気はしてた」

「人間に殺され、復活した際。妾はフェリア王国を見渡っておった。その際に、見つけたのじゃがの」

「ふーん、一応スルーしてた理由聞いてもいい?」

 

 

 その問いに、妾は目を閉じる。

 

 

 

「人間を、憎んでおったからじゃ。魔族と人間を争わせ、互いを削り合わせ、共に滅びさせようと……それが妾の罰だった。妾を裏切った世界ごと、焼き払おうと考えておったのじゃ」

 

 

 そう言うと、ミクスはふーん、みたいな感じで頷いていた。しかし、何事もないように笑った。

 

 

「まぁ、確かに前に言ってたな。両方共倒れ狙ってるってな。それで、まだ世界滅ぼそうとかしてる……? 出来ればやめて欲しいんだけど、世界を回って旅行したいし」

「世界を旅行か……。妾も世界を知るために、もっと回った方が良いのかの?」

 

 

 そう言うと、ミクスはどうだろう? と言った表情だった。

 

 

 

「まぁ、世界旅行は面白そうだし。やってみてもいいかもな。フェリア王国は、伝承強めだからやめた方がいいかも」

「いかん。あの国はな」

「まぁ、俺も今後行く予定はないかもな。元パーティーメンバーとか鉢合わせても嫌だし」

 

 

 

 一緒に、行ってもいいか……?

 

 

 

 

 なんて、聞いてもよいのかの。いや、二人は新婚旅行も兼ねておるんじゃろう。それを邪魔するのは許されない。

 

 

 

 

 

 

「……ただ、その前に魔王は倒しておかないとな」

「……そうじゃの」

「リーネが、良ければ手伝ってくれないか? 魔王を倒すのを、そうすれば負けることはないだろうし。世界を滅亡させるのは、ちょっと困るから。報酬を多くするとかにすればさ」

「──そうじゃの、報酬があれば世界を滅ぼすのをやめ、さらに魔王を殺すのもやめてやろう」

 

 

 

 

 そう言うと、ミクスはそれなら、なんでもする。と言った表情をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミクス、お主が妾のモノになれば良い」

 

 

 

 

 

 

 

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