追放ものに転生した。ただし、ざまぁされる側らしい   作:流石ユユシタ

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第64話 恋人2

 翌朝。

 

 白百合の館の食堂には、いつもの香ばしいパンの匂いと、ほんのり甘いハチミツの香りが漂っていた。

 

 窓から射し込む朝の光が、食卓の銀器をきらりと照らす。……けれど、今朝の空気は、どこか張り詰めていた。

 

 シエラは、いつものように笑顔で「おはようございます」と言ったが、その瞳はどこか決意を宿している。

 

 俺とリーネが席につくと、彼女は少し俯いたまま、静かに息を吐いた。

 

「……あの、ミクスさん、リーネさん。ちょっと、お話があるんです」

 

 

 その言い方は、いつものシエラらしくなくて、妙に慎重で――まるで、覚悟を決めた人の声だった。

 

「どうした?」

「夢を見たんです。すごくリアルな……ミクスさんがいない世界の夢でした」

 

 その一言で、パンをかじっていたリーネが顔を上げた。

 

「……ミクスがいない、世界?」

「はい。何度も見たことがあるんです。今回……そこでは、私はリーネさんと戦っていました。そして……負けて、死にかけていました」

 

 静寂。俺も思わず手を止めた。シエラは両手を膝の上で握りしめながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

 まるで、夢の情景をなぞるように。

 

「その世界では、アルヴェニア王国でも黒髪青目の人たちが厄災として迫害されていました。魔族が黒髪青目に化けて、人間を襲っていたんです。……ミクスさんがいないから、ミエルーバの薬が作られなかったんでしょうね」

 

 

 彼女の声には震えがあった。けれど、その内容はあまりにも酷い話で、背筋が寒くなるほどだった。

 

 

 

「夢の中の私は……死んでしまいました。でも、リーネさんは……その時、泣いてたんです」

 

 

 そう言って、シエラは優しくリーネを見る。リーネは、視線を逸らさずにじっと聞いていた。

 

 

 

「……そして、リーネさんが言ったんです。私が……双子の妹だって」

 

 

 その瞬間――リーネの瞳が大きく開かれた。手にしていたカップが、かすかに震えた。

 

 

 

「──死産した双子、その妹である私は、錬金スキルを持つ母親の転生の道具にて、シエラとして産まれた」

 

 

 

 それは聞いたことがない。アニメ、だと全く、聞いたことのない事実だな。シエラの夢についても初めて聞いた。

 

 ただの夢ではないと本人も言っているし。もしかして、アニメの、原作小説の本来辿る歴史を見ていたと言うことなのか?

 

 

 

 俺も色々と考えたが、答えは分からない。しかし、リーネは心当たりがあるようだ。

 

 

 

 

「……母上の……日記の中に書かれておった転生の道具……まさか……」

 

 

 彼女は俯き、手を口に当てて小さく息を吸った。目尻には、わずかに光るものが滲んでいた。

 

 

 

「妾の……妹、か。いや……そうか、妾は……」

「夢の中でリーネさんは、私を抱きしめてました」

 

 

 

 シエラの声が静かに揺れる。まるで、その夢が現実だったかのような響きだった。

 

 リーネは小さく頷き、そしてゆっくりと微笑んだ。

 

 

 

「……妾にも、ようやく理解できた。何故お主が、妾に似ておるのか。何故、妾が初めて会った時から気になっていたのか」

 

 彼女は深く息を吐き、続けて言った。

 

「……そうか。適当、出まかせではない説得力がある。能力も、見た目も似ているのも頷ける。お主が、妾の妹だったとはな」

 

 

 その言葉に、シエラは少し涙ぐみながら笑った。そして、俺の方を向いた。

 

 

「……他人じゃない。そう思っていました。リーネさんがミクスさんに告白をした時、腹も立ちましたが、悪い気もしなかったのも事実です。一緒にいることに安堵もありましたから。ミクスさん。だから、私は思ったんです。リーネさんも、一緒に暮らしていいんじゃないかって」

「……えっ」

 

 

 

 シエラ、そうなのか……。リーネも一緒に暮らしたい、のか。確かに、シエラも一緒に居て楽しそうにしている気がした。

 

 

「でも……私が一番です。それだけは譲れません」

「ふふ、当然じゃの」

 

 

 とリーネが笑う。……朝から心臓が忙しい。なんだこの展開。

 

 

「いや、その……ほんとにいいのか? そんな、簡単に決めて……」

「簡単じゃないです。でも、夢の中で……すごく迷いました。すごく迷って、決めたことです。このまま、別れるのも寂しい、そんな想いが勝ったんです」

 

 

 シエラの言葉には迷いがなかった。リーネはそんな彼女を見つめて、小さく息を漏らす。

 

 

「……シエラ。お主、ほんとに変な女じゃの」

「よく言われます」

 

 

 二人が微笑み合う姿を見て、俺もつい笑ってしまった。空気が少し柔らかくなった、そんな時だった。リーネが、急に真剣な表情になって俺を見た。

 

 

「……ミクス。妾は」

「……え?」

「妾はお主が好きじゃ」

 

 

 

 ……来た。前に告白された時とは違う。今回は、まっすぐで、覚悟のある声だった。

 

 

 

「妾は、自分でもちょろい女じゃと思う。気づいたら、目で追っておった。妾のことを理解してくれて、笑ってくれて……気づけば、好きになっておった。……それだけじゃ」

 

 

 リーネは、少し頬を赤らめながらも、真っ直ぐこちらに歩み寄ってくる。その瞳が、まっすぐ俺を射抜いた。

 

 

「どうじゃ、ミクス。妾を、選べ。なんじゃったら、シエラを振って、妾を取れ」

「おい」

 

 

 シエラの鋭い瞳で一度空気が霧散する。

 

 

 しかし、俺はこれに真剣に答えを出さないといけない。隣でシエラの優しい目が横で見ている。

 

 俺は深呼吸をして、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「リーネ……正直、すぐには答えが出せない。俺はシエラと付き合ってるし、好きだから。だけど……これからのことは、一緒に考えていきたい。俺もリーネは放っておけないんだ」

 

 

 リーネが目を見開いた。

 

 

 

 そして次の瞬間、顔を真っ赤にしながら駆け寄ってきて――俺の胸に飛び込んできた。

 

 

「……妾、ほんとにちょろいのぉ……でも、嬉しい……」

 

 その声が震えていて、なんかもう、俺の理性が試されている気がする。

 

「こら、リーネさん! ハグ長いです!」

「正妻が許す範囲じゃろ!」

「許せる範囲が狭いんです!」

 

 シエラが頬を膨らませながら、二人の間に割り込んできた。そのまま俺の腕を掴んで、しっかりと引き寄せる。

 

 

「ふふ……まぁ、でも、なんだかんだで悪くないわね」

 

 

 嫉妬しながらも、どこか楽しそうに笑うシエラ。そんな中、リーネがふと真剣な表情に戻った。

 

 

「さて……恋の話はここまでじゃ。――魔王の話をせねばな」

「魔王?」

「ああ。妾が探っておった本拠じゃ。奴はまだ、完全には動いておらぬ。だが、場所は掴んでおる」

 

 

 リーネの瞳が鋭く光る。その声には、昨日までとは違う決戦の響きがあった。

 

 

「……場所は、フェリア王国の北部。そこには、全く開拓されていない【聖刻の谷】と呼ばれる場所がある。その谷の奥深く、魔王はその最深部、魂喰いの祭壇に潜んでいる」

 

 

 俺とシエラは顔を見合わせた。フェリア王国。厄災の伝承が最も深く残る場所。

 

 リーネは続けた。

 

 

 

「奴は魔族を大量に作り、軍勢を作るつもりじゃ。じゃが、数を増やされると面倒じゃ。今はミクスの薬で魔族が減っている状態、ここに妾とシエラの魔力、そして錬金スキルを持つミクスが合わせれば――短期戦で終わらせられる」

「奇襲、か……」

「そうじゃ。奴に準備をさせる時間を与えてはならぬ。相手は妾が場所を掴んでいることは知られていない」

 

 その瞳に宿る光は、決意と、どこかの覚悟だった。その隣で、シエラも静かに頷く。

 

 

「……わかりました。今度こそ、終わらせましょう」

 

 

 俺も、覚悟を決めて頷いた。食堂の窓の外――陽光の中に、三人の影が並んで伸びていた。

 

 

 

 確かに、シエラとリーネが居るなら、さっさと終わりそうな気がするな。

 

 

 

 

 

「さっさと倒して、妾とで、で、デートをするぞっ」

 

 

 

 

 

 あ、かわいい。

 

 

 

 

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