私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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もうすぐThe Phantom Xが来ますね。


20XX/04
#1 気づいちゃったからには仕方ない


 

「……あ、ここペルソナ5の世界だ」

 

 そんな気づきを得たのは4月某日、何やら掲示板の前が騒がしいので友達と野次馬しに行った時のこと。そこにあったのは我らが秀尽学園高校の誇る鴨志田先生、その歪んだ欲望を頂戴すると予告した赤いカードだった。一体誰の悪戯なのか、鴨志田先生の噂は本当なのかと憶測が飛び交う中、私一人だけは全く違う衝撃に襲われていた。

 

(知っている。私は彼らのことを知っている――!)

 

 それはペルソナという異能を使って戦うジュブナイル。パレスと呼ばれる異世界に飛び込み、悪い大人たちの歪んでしまった欲望を頂戴する心の怪盗団の物語。かつてプレイヤーとして楽しんだあの世界に今、私は生きている。

 

「んん? じゃあ私はいわゆる転生者ってこと? それ以外のことは全く思い出せないんだけど……?」

 

「やっべ、鴨志田こっち来てんじゃん。ほら行くよ(かなえ)

 

「へ? あぁうん」

 

 未だ混乱する頭のまま、友達の一人に連れられて退散することに。その折に顔を真っ赤にして無関係の生徒に詰め寄る鴨志田先生の姿を見て、やっぱり見覚えのある光景だと感心する。

 確かこの後に――

 

「お前らの仕業だな?! 坂本ォ!」

 

「へっ、なんのことっすか? 俺らがやったって証拠(ショーコ)なんてないっすよね?」

 

「それより急いだ方がいいんじゃないですか? もうすぐHRも始まる時間ですし」

 

「高巻……! お前まで……!」

 

 そこに現れたのは3人の高校生。短い金髪の男子とブロンドヘアの女子、そして黒い癖っ毛の眼鏡男子が鴨志田と真っ向から睨み合う。

 

(凄い……! ホンモノの怪盗団だ……!)

 

 物語の主役である彼らが戦いの火蓋を切った瞬間に目を輝かせながら、私はズルズルと引きずられて教室へと戻った。

 

 ☆☆☆☆☆

 

 朝のHRが終わってそのまま授業が始まったが、私の意識は黒板にもノートにも向いてない。うわの空で考えているのは、もちろんこれからのことだ。

 

(予告状が出されたってことは、今日がオタカラを盗む決行日だってことじゃん?! うわーもうカモシダパレス終わっちゃうんだ……!)

 

 カモシダパレスとは怪盗団が四月中に潜入する最初のダンジョンだ。今朝の予告状によってパレスのコアである欲望の源、オタカラが具現化して盗み出すことが出来るようになる。その為あの三人と一匹は今日の放課後、初仕事へと赴くに違いないわけだ。

 

 で、それを知っている私はどうしたいかという話。

 

(み、み、見たい~~~~!! 実際に怪盗団がペルソナ使って戦ってる所とかめちゃ見たい~~!!)

 

 必死になってにやけそうな頬を抑えていた。だって折角ペルソナの世界にいるのだから、それを生身で見たいと思うのはファンとして当然の心理だと思う。私は間違ってない。

 幸いにしてペルソナ5はロイヤル含め何周もしたゲームなので、大体のイベントは覚えている。そんな神様視点な知識を使えば、彼らの活躍を余すことなく押さえることが出来るのではなかろうかっ!

 

 けれど誤解されたくないというか前提として、私は彼らの物語に介入したいわけではないのだ。全てを知っている私は異分子でしかないし、怪盗団やコープのどこにも私が入るような余地はない。なのであくまで私は傍観者として、いわば壁になりたい系女子として彼らを見守りたいのである。おっけー?

 

(つまり私は怪盗団のストーカーになるのか……。ま、いっか!!)

 

 一瞬冷静になりかけたが、依然として興奮は収まらない。だって憧れは止まらないし。

 つまりは彼らの活躍を彼らに知られることなく見届ける。ペルソナ能力を持っていないこととか、将来ナビが加入してからどうするか等不安はあるが、ひとまずはそれでいこう。もしバレたらその時は土下座しよう、うん。

 

 そんな方針を立てながら、ちらりと窓側の席に目を向ける。そこにいるのは黒髪テンパの転校生、雨宮蓮だ。私の席は中央列の一番後ろなので、彼の様子を伺う位なら造作もないのだ。授業中も見てるとかホントにストーカーみたいなのでちょっと気が引けてきたけど……。

 

「…………っ!」

 

 そんな噂の彼の机の中、私は見つけてしまった。本来仕舞われている教科書類の代わりに詰め込まれている毛むくじゃら、いやキュートな黒いモフモフの姿を。あの青い目、間違いない。

 

(も、モナだ~~~~! ホントに机の中にいる~~!!)

 

 モナとは猫である。名前はモルガナ。あとごめん、生まれも私は全部知ってる。

 主人公の相棒としておはようから今夜はもう寝ようぜまで言ってくれる、一家に一台欲しいタイプの猫である。何せありとあらゆるモノにリアクションしてくれるしテストも一緒に受けてくれる。

 授業中はああして机の中に押し込まれた状態で会話が出来るのだが、なんでバレないんだとプレイ中は常々思っていたものである。けどこうしてみると確かに案外ぱっと見では何がいるかよくわからなくなっていた。てっきり後ろの席の子が見てみぬ振りをしているものだと……。

 

(一回くらい撫でさせてくれないかなー? いやでも私から接触するのはやっぱりまずいし……)

 

「おい、寺崎! 授業に集中しろ!」

 

「ひゅああああああ!?」

 

 そんな感じで盛り上がって挙動不審になっていた所、白い衝撃(チョーク)が私の額を襲ったせいでそれ以上の執着は出来なかった。クスクスと笑う他のクラスメイト達、今に器用さを上げて避けてやるから見てろよ……!

 

 ☆☆☆☆☆

 

 そんな馬鹿なことを考えたりして友人にも呆れられたりしつつも時は流れ、放課後。

 遊びの誘いも断って、私はストーカーの初陣を飾るべく気合を入れ直していた。ふんすふんす。

 

 ストーキングする実際の方法だが、彼らはパレスへと潜入する時にイセカイナビというアプリを使っている。対象の名前と場所、そしてキーワードの3つを揃えることでナビゲーションが始まるのだが、重要なのは使用者とその周囲にいる者を無差別に巻き込むという点。

 つまりタイミングを合わせて近くにいれば、彼らに知られる事なく私もパレスにお邪魔出来るはずなのだ。実際に本編でも何人かそれに巻き込まれていたので、その距離さえ分かれば――

 

「すまない、ちょっといいか?」

 

「…………ほえ?」

 

 突然、声をかけられた。なんだか聞き覚えのあるイケメンボイスに首を上げると、そこにいたのはまさしくコレから跡をつけていこうと思っていた相手。

 

 転校生にして怪盗団の(今は暫定の)リーダー。雨宮蓮だった。

 

「にゅぁ……え、えっと、私に何か用でしゅ、か……?」

 

 終始めっちゃ噛んだ。多分これチャンスエンカウント取られてる。私の番は回ってくるのかな?!

 

「朝の授業でチョークに当てられてた時なんだが……もしかしてその、見た?」

 

「…………あっ」

 

 心配するような、不安そうな声で聞く彼の脇には例の学生カバンが掛けられている。視線でその中身を暗に察していることで、何故私に話しかけてきたのかが分かった。

 

(モナを見てたこと、バレちゃった?!?!)

 

「みみみ、見てない!! 何も見てないし言わないから!! そ、それじゃあね!!!」

 

「え、ちょっ――」

 

 ストーキングしようとした矢先に盗み見がバレているという事実に、堪らず選んだのは撤退一択。呆気にとられる彼の顔が見えた気がするが、それすら私にとっては逃げ出す理由になっていた。というのも……。

 

(顔! 顔が良すぎる! あと瞳が凄い綺麗!! これでまだ魅力1ってホントなの?!)

 

 一瞬とはいえ見つめられ、こちらも見つめ直してしまったことで把握出来た顔面偏差値が、こちらの弱点を刺してきたと言っても過言ではない。

 確かにボサボサ頭に暗い顔という形容も間違いではないと思う。前歴持ちというレッテルも相まって第一印象としては怖い人なのかも……?と感じるかもだが、いずれ人間としてかなりの成長を遂げる事を知っている私はその素材の良さに気づいてしまったのだった。

 

(けど、私の事を知られちゃまずい!! 次はバレないようにするから、今回だけは勘弁して〜〜!)

 

 考え方によっては収穫ありと言えなくもないが、これからストーキングする身としては明らかにこの接触は良くないことだ。なので一刻も早く距離を取るべく、私は廊下を激走するのだった。願わくば、私のことなんてすぐ忘れてくれますようにーー!

 

 ☆☆☆☆☆

 

「……行ってしまった」

 

 教室からバタバタと出ていく女子生徒を呆然と見送るのは、噂の転校生こと雨宮蓮。端から見ても逃げられたとしか思えず、少なくないショックを受けていた。

 

「お前、怖がられてるのかもしれないな。噂も広まってるみたいだし」

 

「追い打ちをかけないでくれないか、モルガナ」

 

 そんな蓮を見かねたのか、背負うカバンの中から声を掛ける猫が一匹。この時点でも猫と話す怪しい男子が完成しているのだが、少なくとも今の蓮がそれに気づくことはない。

 

「まさか気付かれるとはワガハイも迂闊だったが……あの様子なら誰かに言い触らしたりはしないんじゃないか?」

 

「……まぁ、そうだな」

 

 深淵を覗く時、深淵もまたそちらを覗いているとはよく言ったもので、モルガナも自分が見られていることにすぐ気付いていたのだ。

 

 取引相手として行動を共にする蓮の右斜め後方に座る、ピンクの髪をツインお団子にした小柄な女子生徒。なんかキラキラした瞳で視線を送ってくるので正直分かりやすかった。そのせいで教師からチョークの洗礼を受けていたみたいだが……。

 

「今はそんな事よりやることがあるだろ? これからが本番なんだ、気合入れろよ!」

 

「あぁ、分かってる」

 

 しかし今日はこれから怪盗としての初仕事がある。その為、蓮としてもこれ以上時間を割くようなことはしなかった。

 

(寺崎叶(てらさきかなえ)か。変わった子だったな……)

 

 それはそれとして、蓮はその少女の顔と名前をバッチリ覚える事にはなったのだった。




なるべくシリアスとかなしで頭空っぽにして書こうと思う所存。
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