私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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閲覧、評価、本当に本当にありがとうございます!

☆追記
 一部台詞を修正しました。


#10 逃れられるとは限らない

 

 社会科見学を終えてから数日後。私は悩みに悩んでいた。何にと問われればそれは簡単。

 

「寺崎さん。あなた、怪盗団について何か知ってたりしないかしら?」

 

「い、いや、何も知らないですよ……?」

 

 廊下を歩いていた所、何故か生徒会長に捕まってそんな事を訊かれていたからである。

 

 秀尽学園高校の生徒会長、新島(にいじま)(まこと)。凛々しい赤目が印象深い三年生の先輩であり、彼女もまた怪盗団の一員となる予定の一人だ。

 

 けれどそれは6月後半になってからであって、今の段階ではまだ校長にせっつかれて怪盗団探しをしている最中のはず。でもそれで何故私に辿り着いているんだろうか。怖い。

 

「この前の社会科見学での一幕は聞いたわ。あの明智くんに対して一歩も引かずに怪盗団を推していたって。随分と熱心なファンなのね」

 

「いや、それは、その……」

 

「聞けば怪盗お願いチャンネルの事も出来たばかりの頃から知っていたそうね。そこまで彼らの事を応援しているのなら、誰が怪盗なのかって考えたりはしなかったかしら?」

 

「あうあうあう……」

 

 キッと鋭い視線を向けてくる新島先輩に、私はなんて返すか迷っていた。

 

 新島先輩の見立ては正しく、私は怪盗団の正体を知っている。けど当然それを伝えるわけにはいかないというか、そもそも私が伝えなくても既に目星はつけ終わってるはずだし。

 

 なのでなんで私に話しかけてきたのかというと、多分三島くんと同じく怪盗団に近しい人間と思われたからかなと。でも私は怪盗団の一員でも協力者でもないから、どう答えればいいのかが微妙な所だったのだ。

 

「……ごめんなさい。怪盗団がどこの誰か、っていうのは私にも分かんなくて……」

 

「……そう。本当に知らないのね?」

 

「え、えと、そうだ三島くん! バレー部だったし、彼なら鴨志田先生と関わってた人が誰か分かるんじゃないかなって……!」

 

 どうにか誤魔化そうとした結果、出てきたのは彼の名前だった。ごめん三島くん、またで悪いけど身代わりになってください……!

 

「三島くんならもう話を聞いたわ。サイトを作ったのは彼で間違いないと思ってるけど、やっぱり怪盗団の正体については口を割らなかった……いえ知らないの一点張りだった。だからあなたにも訊いてみたのだけど、知らないのなら仕方ないわね」

 

「ひえっ……!」

 

 あ、やっぱりもう問い詰めた後だったかー。確か原作でもそんなシーンあった気がするけど、こんな気持ちだったのね。よく頑張ったな、三島くん。

 

「引き止めちゃってごめんなさい。けどまた何か怪盗団について分かったら、私に教えてくれると助かるわ。大抵は生徒会室にいるから、よろしくね」

 

「わ、分かりました。で、ではー!」

 

 けれどもそれ以上の追求はせずに、あっさりと私を解放する新島先輩。どうにか切り抜けられたようでホッとしながら、私は校門の方へと向かっていくのだった。

 

「ビ、ビビったー。みんなと話せるのは嬉しいけど、最近ちょっと目立ち過ぎなのかなぁ……?」

 

 背中に視線を感じつつ、そんな事を思いながら。

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

「……あの反応、三島くんと同じで何か知ってるわね」

 

 バタバタと去っていく桃色の髪の女子生徒を見送りながら、新島真はそう呟く。

 

 偶々見かけた寺崎叶に声をかけたのは、彼女としてはただのオマケだった。

 怪盗団は恐らく二年の転校生である雨宮蓮とその仲間たち。後は明確な証拠さえあれば告発でも取引でも好きに出来るから、そこは問題ない。

 

 けれどここに来て怪しくなったのが、噂の生徒こと寺崎叶だ。きっかけは勿論あのテレビ番組、というかアレを見て気にするなという方が無理だろう。

 

 それで軽く聞き込みをしてみれば、かつて調べた事のある三島由輝と近しい感じがしてきた。怪盗団を応援している事や隠し事もあるという意味で。

 

「でも彼女が怪盗団の一員であるとは思えないのよね……。雨宮くん達との接点もあまりないようだし」

 

 そんな感じで怪しいのは間違いないのだが、ではどんな繋がりがあるのかと問われれば、まだその答えが出ていないのが現状だ。

 三島由輝には例のサイトを創立したという実績があるし、偶に雨宮蓮と話しているのも見かけるが、寺崎叶には何もない。同じクラスというだけで、普段は殆ど会話もしてないらしいのだ。社会科見学の時に呼び出されていたとは聞いたが、それだけでは根拠としてやや弱い。

 でも今話したあの反応で、無関係と見るのも無理があった。ものすごい挙動不審だったし。

 

「まだ見えてない繋がりがあるのかもしれないから、それもいつか聞き出せたらいいんだけど……」

 

 気にはなるが、あくまでも寺崎叶はオマケだ。本命である雨宮蓮とその仲間達に辿り着ければそれでいいし、そこで彼ら自身に問うことも出来る。まさか一方的に知られているとかでもない限りは、それで真相が分かるだろう。

 

 そうやって自身を納得させた真はその後、怪盗団の会話を録音する事で証拠を押さえ、その上で彼らなりの正義を示すように迫るのだが、それはまた別の話である。

 

 ☆☆☆☆☆

 

 私が新島先輩に捕まってから数日後、もとい6月中旬を過ぎた頃。私は三島くんと共に渋谷のスクランブル交差点に来ていた。

 

 二人で遊びに来たとかでは全然なく、次なるパレスへと侵入する怪盗団を見に行く為だ。怪盗団のみんなは既にこのパレスを突き止めており、私が偶々その時のキーワードを盗み聞いたという体でアプリ持ちの三島くんを呼びつけたのである。

 斑目の時に続いてなのに、彼から不審がられる事もなくて助かっているのは内緒だ。そういうモノと諦められてる可能性もなくはないけど。

 

 何かあった時に備えて変装用の衣装も持ってきた。けれど潜入を始める前にもう一つ決めておきたい事があったので、私は意気揚々と彼に話しかける事にした。

 

「ねぇねぇ、私たちもコードネームを使ってみない?」

 

「コードネーム? ああ、雨宮たちがジョーカーとかスカルって言ってるアレね。でもなんで急に?」

 

「そりゃあこうやって変装してるんだし、やっぱり本名を使うのはアレかなって。前回は完全に忘れてたけど」

 

「なるほど……ちょっとテンション上がってきた!」

 

 私の提案に少年魂を燃やす三島くんも乗り気のようだ。そりゃコードネームなんて如何にもなんだもの、ワクワクしないわけないよね!

 本当の理由は私の存在をもう知ってそうな奴への対策なんだけど、それは知らぬが仏という話。

 

「なのでこれからは私の事を『カトル』と呼んでね!」

 

「え、ストーカーじゃなくて?」

 

「ストーカーは流石に嫌だから! 否定はしづらいけど、他の人からそう呼ばれたくはないし!」

 

 どんなに正体を隠しても『ストーカー』だと小物感が凄いから大却下だよ。あとそれをいつか自分で名乗らなきゃいけないとか、どんな罰ゲームなのさ。

 

「普通に(かなえ)からカムトゥルー、縮めて『カトル』でいいかなって。これくらいならバレないでしょ!」

 

「ああそういう事。なら俺は……うーん……」

 

 私の命名理由に納得した三島くんだけど、いざ自身のものとなると中々悩ましいようだ。怪盗団の皆は仮面や立ち位置からコードネームを考えていたけど、彼の場合はさてどうしようか。

 

「管理人……『アドミニストレータ』とか?!」

 

「コードネームとしては長いし、その名前はボスっぽいから却下で」

 

「うっ……! 俺のストーカーは嫌がった癖に……!」

 

 私にバッサリ切り捨てられて項垂れる三島くん。きっと怪チャンの管理人だという自認からきたネーミングなのだろうとは思うけど、ちょっと色々と問題がありそうなのでチェンジでお願いします。

 

「……なら俺も由輝(ゆうき)から取って『ブレイブ』とか? これはこれでちょっと照れくさいけど」

 

「ならそっちも縮めちゃって『レイ』にしちゃうのは?」

 

「『レイ』か……。まぁ、呼びやすさは間違いないな、うん」

 

「よし、じゃあ私は『カトル』、三島くんは『レイ』で決定!」

 

 そうしてやや悩んだ末に、三島くんも自分のコードネームに納得したようだった。コレにどこまでの効果があるかは分からないが、ひとまず前進したと見ておこう。

 

「よし、それじゃ今回も張り切ってこっそり行ってみよう! アプリよろしく!」

 

「はいはい、分かってるって」

 

 テンションのギアを上げた私に押されるようにしてイセカイナビを起動する三島くん。そして周囲の揺らぎと共に風景が変わり、そこに現れたのは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三島くん(レイ)、どうしたらいいと思う?」

 

「いや、俺にどうしろって言われても……」

 

 移り変わった異世界特有の黒い空の下、私の投げた問いに三島くんもとい『レイ』が困ったように頭を掻いた。そうだよねと思いながら見上げてはいるが、やはりその光景は変わらない。

 

「あれが今回のパレスなんだよな? ……空、飛んでるんだけど」

 

「うん、飛んじゃってるね……足がつかないって事なんだろうけど、本当に困っちゃったな……」

 

 渋谷に高いビルは幾つもあるけど、そのどれもが天に届いているわけじゃない。だからこそ今も野放しになっていると言わんばかりに、その円盤状の建物は渋谷の空に浮いていた。

 

 その名はカネシロパレス。怪盗団が挑む三つ目のパレスにして、今増えている若者狙いの闇バイトでお金を毟り取る悪党、金城(かねしろ)潤矢(じゅんや)の居城である。

 

「流石の寺さ――寺崎(カトル)も、空は飛べないか」

 

「いや当たり前でしょ三島くん(レイ)。私の事を何だと思ってるのかな?」

 

「いや、怪盗団の為なら人の限界とか超えそうじゃん? 寺崎(カトル)って」

 

「人の限界どころか物理法則をねじ伏せないと無理だからねそれは? その認知は今すぐ正してね?」

 

 どこかの黒いにゃんこと違って私に変身機能はないんだ。そもそもペルソナすらないのにそんな非常識な事出来るわけないじゃんと言ったら、何故か呆れた反応が返ってきた。解せない。

 

「ここの主の認知が変わればワンチャンあるかもしれないけど、それも難しいんだよね」

 

「えーと、この場合はパレスの主から来てもいいとか、むしろ招きたいみたいな認識をされれば良いって事か?」

 

「そゆこと。でもそれってそいつの仲間になるとか借金をするとかそういうヤバい繋がりしかなさそうなの。それは嫌というか、無理でしょ?」

 

 理解の進んできた三島くん(レイ)の言葉に肯定はするが、その条件の難しさに私は苦い顔だった。

 

 そもそもこの空飛ぶパレスにどうやって忍び込むかは怪盗団もぶつかった壁だ。彼らの場合は新島先輩が金城の元へ直接乗り込んで認知を変えた事で攻略出来るようになっていたわけだけど、私たちに同じ手は使えないし――

 

 とか言っていた所で、突然その変化は起こった。

 

寺崎(カトル)、なんか急に降りてきたんだけど。あと道も出来始めたんだけど!?」

 

「これは――いや、考えるのは後にして走るよ! このチャンスを逃しちゃ駄目だ!」

 

 ずっと頭上で浮いていたはずのパレスが不意に地上へと降下してきて、私たちのいる場所まで通路を伸ばしてきていた。どうして急にという疑問はあるけど、この千載一遇の機会を活かす事を優先して駆け出す。思ったより道はしっかりしてて助かるね!

 

「ちょ、寺崎(カトル)速くない!? 待って!」

 

「ごめん三島くん(レイ)、急がないとマズいの! この道って多分()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 後ろから追い縋ってくる三島くん(レイ)の嘆きなんて聞こえない程の速度で、坂道を一気に駆け上がる。

 確信なんてないけれど、原作知識があれば予想の一つ位は出来る。今日が怪盗団が新島先輩を連れて入った最初の日だとすれば、パレスで起こっているのはきっと……!

 

「――銀行の外に出たわ! このまま一気に逃げ切るわよ!」

 

 私たちが目指す先から聞こえてくるのは、異世界であっても通る凛とした声。バイクの排気音もセットになってる以上は間違いない。ついさっきペルソナに目覚めたばかりであろう世紀末覇者先輩だ!

 

三島くん(レイ)、こっち!」

 

「ぜぇぜぇ、え、どっち?!」

 

 またもや息の絶え絶えな三島くん(レイ)の腕を捕まえて敷地内の植え込みの陰に飛び込もうとするけど、相手がバイクに乗ってる所為でギリギリ間に合わないかもしれないコレ……!

 

「ごめん、そこで隠れてて!」

 

「いやっ、ちょっ?!」

 

「前方から新手――?!」

 

 掴んだ腕をブン回して三島くん(レイ)を見えづらい所に放り込むと、私はそのままパレスの本拠地である銀行へと足を向けた。当然新島先輩の注意は三島くん(レイ)よりも、突然現れた不審者(わたし)の方へと向けられる。というかそうじゃないと意味がないしね!

 

「行け――!」

 

「敵じゃないのね――?!」

 

 走り続ける私の横を1台のバイクがすり抜ける。やり取りは一瞬だったけどそれで十分だ。こんな予定は一切なかったけど、もう流れに合わせてやるしかない……!

 

「アイツはマダラメパレスにもいた……!」

 

「黒仮面じゃねぇか?!」

 

「なんでまたここに?!」

 

 空を飛んでいた建築物の正体、すなわち金城銀行から遅れて出てきたのは残りの怪盗団だ。モナが車になったモルガナカーに乗ってはいたけど、全員が私の登場に驚いていた。このまま轢き殺されたらどうしよう。

 

「行け――!」

 

「まさか、殿(しんがり)を務めるって事か?!」

 

「どうする、ジョーカー!?」

 

「っ……他に選択肢はない、任せよう!」

 

 先ほど新島先輩が走り抜けていった方向、もとい出口の方を指差すと、モナカーも私を抜き去って地上へと向かっていった。私の事情的にも細かい事が言えなくて凄い不審がられた気がするけど、そのまま逃げ切っちゃっていいからね! そこまでする気はなかったけどこうなったらもうしょうがないし!

 

『何者だ?! キサマらもアイツらの仲間カ?!』

 

「……違う。だが彼らを追わせるわけにはいかない」

 

 そうして最後に銀行から出てきたのは、警備員風の怪物ことシャドウだ。正直この銀行から降りてしまえば逃げ切れたも同然だとは思うけど、ここまできたらそう言う風に辻褄を合わせた方がいいだろう。アドリブの辛い所だね!

 

『カネシロ様に逆らう愚か者は、全て排除してくれル……!』

 

「時間は稼がせてもらうぞ……!」

 

 突如現れた私を敵と認めたシャドウが、その真の姿を露わにする。馬の頭をつけた人形の怪物なので、多分オロバスで間違いないだろう。良かった、オニ系列じゃなくて。

 

「食らえ!」

 

『いってーナ!!』

 

 両手で構えたエアガンが異世界の認知を経て実銃となり、その銃口から弾丸が放たれる。相変わらず反動は凄かったけど、練習を重ねたことでどうにか形にはなっていた。動く前の相手なら当てられる!

 

『お返しだァ!』

 

「くっ……!」

 

 相手が手を動かした瞬間に横へ飛ぶと、私の立っていた場所とその周辺が一瞬で炎に包まれた。アギだかマハラギだか知らないけど、一発でも食らえばペルソナのない私は終わりだ。熱いのにゾッとするとはこれ如何に。

 

『ちょこちょこ逃げてんじゃねぇヨ!』

 

「う、重い?!」

 

 そんなオロバスの一声と共にらヒットアンドアウェイで行こうとした私の手足が突然重くなる。痛みはないけど重りでもつけられたような感覚、まさかデバフ?! けどこいつってスクンダ使えたっけ? ラクンダじゃなかったっけ?! もう分かんない!

 

「……何か、忘れてる気もする……!」

 

『ああそうだ、思い出す間もなく終わりだナ……!』

 

 走り回って銃を当てる私だけど、その疲れなのかその先が思い浮かばない。そもそもこの戦いのゴールってなんだっけ。どうすれば私の勝ちになるんだろう……?

 

「っ! しまっ――」

 

 何故かいつもより回らない頭では無理があったのか、弾倉が残り数発になった所で私は躓いて転んでしまった。当然そんな隙を見逃す敵はもう、このレベルのダンジョンにはいないわけで。

 

『アイツらの分も含めて燃やし尽くしてや――あだっ?!』

 

寺崎(カトル)、大丈夫か?!」

 

三島くん(レイ)……?」

 

 そうして振りかぶったオロバスの頭を、私じゃない一発の弾丸が揺さぶった。このタイミング、なんか覚えがあるようなって……あ、思い出した!

 

「ごめん、また助けられちゃった!」

 

「こっちこそ遅れてすまん! けど今度は一発で終わったりしない! 俺も戦うから!」

 

 忘却状態から立ち直った私にそのきっかけをくれたのは、離れた所でスナイパーライフルを構えた三島くん(レイ)だった。相変わらず良いところで来てくれるなぁ、ホントに!

 

「今度もワンダウンを狙う所まで行くよ! 援護よろしく!」

 

「分かった! 行け!」

 

 先ほど物陰に放り込んでからすっかり忘れていた三島くん(レイ)は、前回のパレスから練習してスナイパーライフルを使えるようになったそうだ。まぁ狙撃銃といってもそんなにお高いエアガンじゃないし、そもそも25メートルも離れてない距離だけど、当てられるのなら立派な戦力だ。正直すっごい助かる……!

 

『一人じゃなかったのカ?! おのれ、小賢しい真似ヲ……!』

 

「そもそも戦う事自体が想定外なんだから、とっとと終わらせてもらうよ!」

 

 けどエアガンだけではシャドウを倒しきれないのはメメントスの時から変わってない。なのでやはり狙うのはダウンさせてからの撤退だ。怪盗団も現実に戻ったみたいだし、私たちもこの銀行前まで来れた。これ以上戦う必要はそんなにない……!

 

「合わせて、三島くん(レイ)!」

 

「そこだな、寺崎(カトル)!」

 

 二発。遠方から放たれた弾丸に続く第三の矢としてオロバスへと距離を詰める。炎さえ避けられれば後は一発もらったって構わないから、もっと前へ――!

 

『甘イ!』

 

「熱っ?!?!」

 

 なのになんでちゃんとアギ系を使ってくるかなこのオロバスは?! 勢いつけてなかったら立ち止まっちゃう所だったでしょうが?!?! コートもしっかり焼けてるし?!

 

『なッ?! 効いてないのか――』

 

「――ここだ!」

 

 歯を食いしばって炎を抜けて、驚愕しているシャドウの顔面に向かって引き金を引く。先んじて届いていた二発の弾丸はオロバスの手足に当たっており、その結果として確かな隙を生んでいた。

 でもまだ終わってない、ダウンまではあと一押しが足りてない……!

 

三島くん(レイ)、脳天!」

 

「言われなくても!」

 

 残った最後の弾を膝に当てた所で、三島くん(レイ)の弾丸が再びオロバスの頭を揺らす。そこまでいったら後はダメ押しの物理技だ!

 

「落としっ!!」

 

『ぐわあっ?!?!』

 

 弾切れになった拳銃をくるりと回してスライド?の部分を握り、グリップ?の底で思いっきりオロバスの頭をぶん殴る。威力は大した事ないだろうけど、まさかの殴打に動揺したのだろうシャドウの目がグルグル回ってるのが見えた。混乱したっぽいねこれは!

 

「カネシロに伝えろ! 私たちはまた戻って来る、だからその貧乏そうな首を洗って待っていろとな!」

 

「え、寺崎(カトル)急に何言ってんの?」

 

「よし、やる事はやったから逃げるよ! さっきの道走っ――ゴホゴホッ!」

 

 最後に捨て台詞みたいな釘刺しを済ませると、来た道を戻るように三島くん(レイ)へと呼びかける。その途中で咳き込んじゃったけど、もう行かないと私たちも逃げ切れない。こんな所で捕まったら色々終わっちゃうし、早く行かないとね!!

 

寺崎(カトル)やっぱり、さっきのダメージがあるんじゃ……?!」

 

「だ、だとしても今は逃げるのが先! 行ごう!」

 

 三島くん(レイ)を心配させちゃったのを申し訳なく思いながらも駆け出すと、地上へと続く道は何やら震え出していた。

 そんな頼りなくなった通路は私たちがどうにか地上に着くのと同時に、その震えと共に消えてしまった。下り坂で速度が出なければホントに間に合わなかったかもしれない。

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……! 今回は更に走ってばっかだったな……?!」

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ……ハーッ、ハーッ、ハーッ…………ふぅ、ふぅ……ちょ、ちょっと、アドリブ、効かせ、過ぎた、ね……?」

 

「いやホントに大丈夫か寺崎(カトル)?! 息ヤバいまんまじゃん?!」

 

「さ、流石に、ノンストップで、辛かった……」

 

 流石に立ってられなくて地べたに倒れ込んでるけど、今回はそれくらいヤバかった。怪我らしい怪我はあの炎に焼かれた時の奴くらいなんだけど、単純に疲労が今までとは比にならない位に凄かった。1000メートルを全力疾走し続けた感じというか、こんな気力が尽きかけた状態でよく生きてんな私と褒めたくなるような限界っぷりだった。

 

「けど、あの曲が、聞こえたから、いつもよりも、頑張れた、気がする……」

 

「え、曲? 何の話?」

 

 でもあの銀行前に着いた途端、カネシロパレスの例のBGMが聞こえてきたのだ。あのノリノリな曲があったから私は限界を超えて動けたと言っても過言じゃない。……え、幻聴だって? ならそれはそれでもいいかなって。

 

 それから10分程経ってから、ようやく私は立ち上がれるまでに回復を果たしたのだった。三島くん(レイ)からは生まれたての子鹿みたいで今にも死にそうと言われたけど。どっちだよ。

 

「……結局、今回は何がどうなったの? 一気に進みすぎた所為でよくわかってないんだけど」

 

「えーとね、私が思うに……」

 

 それはそれとして事態が飲み込みきれてなかった三島くん(レイ)に補足しておく。

 今回はパレスの様子見だけで済ませるつもりが、急遽行けそうだったので見切り発車で突貫した所、怪盗団が逃げ出す所に出くわしたので手助けするルートに変更。追手のシャドウをどうにかダウンさせた後、パレスの主へと言伝を残して私たちも撤退した、という流れである。短い間に色々あったなぁ。

 

「突貫したのはそれが願ってもないチャンスだったから。本当ならパレスの主に直接因縁つけたかったんだけど、色々厳しかったからもうアレで効果がある事を期待するしかないかな、うん」

 

「アレって、最後にあの馬男に言ってた奴?」

 

「そうそう。あれで上手く認知が変わってくれたら、私もあの銀行に招き入れるようにならないかなって」

 

「…………なるのか?」

 

 渋い顔になる三島くん(レイ)だが、苦しいのは私も承知の上だ。

 あの伝言でムキになってくれれば、私を迎え撃つ為にあえて招き入れてくれるように……ならないですかね……?

 

 いや厳しいとは思うけど! あの後半の巨大シリンダー型のダンジョンは生で見てみたいから何とかお願いしますホントに!

 

「とりあえず、そうなる事を願いつつ今日は帰ろっか。今度来た時に行けなかったら、その時はその時ということで……」

 

「ああ、分かったよ。……そういえば寺崎、ちょっと聞いていいか?」

 

「うん? どうしたの?」

 

 とりあえず纏めも終わって、体力的にも限界が近いので帰宅しようとした私を三島くんが引き留めた。この流れもなんかデジャヴなので身構えてしまう私。

 

「あの時、なんで俺を隠したんだ? 前のパレスの時もそうだけど、なんかなるべく俺を前に出さないようにしてるように感じたんだけど、それって気の所為?」

 

「え、えーっと……」

 

 そう尋ねる三島くんは咎めるというよりも、拗ねてしまった子供のような印象を感じる。そんなに俺は頼りないのかとか、もっと信じて欲しい的なニュアンスかな、コレ。

 

 実際の所、私は彼にめっちゃ頼ってる。ナビや変装衣装もそうだし、何より私の方が付き合ってもらっている身なのだ。それでいて何度も助けてもらってるし、だからこそ傷ついて欲しくないというのもある。怪盗団の協力者であるからだけでなく、個人的な意味でもちょっぴりと。

 

 だからこそ、私は――

 

「言っちゃうとさ、三島くんは私にとっての切り札(ジョーカー)なんだよ。だから隠したくなっちゃうというか、そんな感じなの。ごめん!」

 

「ジョ、ジョーカー?」

 

「うん。最終兵器というか、虎の子と言うか? それで今回みたいにいいタイミングで助けてくれたらなって思っちゃって! 前に出るのは私だけでいいからさ!」

 

「あ、そ、そうなんだ。……そうなのか」

 

 そんな私の答えに三島くんは軽く俯く。嘘は言ってないのでどうにかコレで勘弁しては貰えないだろうか。

 

「けど、そこまでボロボロになられるとこっちも見てられないからさ。なるべく、無理はしないでくれない?」

 

「え、そんなにヤバく見えるの私?」

 

「なんでその怪我で自覚してないんだよ?! 今の寺崎だいぶヤバいからな?! ちゃんと病院行けよマジで!?」

 

 そうして最後には身の心配をされる事になった私だった。歩けるし顔を怪我したわけでもないから全然マシだと思ってたけど、そんなに良くないのか今の私。なら四軒茶屋に行かなきゃ……。

 

 そんな重症らしい私の背を押すような三島くんと共に去る事で、今回の異世界潜入は終わりとなった。

 最後にチラリと背後を見て、確認する。もしかしたら今回のパレスにも来てるかもしれないあの人がいなさそう事を、本当に軽くだけど。

 

 ――精神暴走事件の犯人である彼がどう動くかは、今の私には予想がつかない。だからこそ、三島くんの存在は隠さなきゃいけないような、そんな気がした。

 

 ☆

 

「…………」

 

 そうして誰もいなくなったはずの異界の渋谷にて。

 全てを見ていたその人物は、徐に何かを取り出してから呟いた。

 

「やはり使えるかもしれないな、アイツは」




☆寺崎叶
 この後二日寝込んだ。怪我を見たとある女医者から「火傷跡が完全に消えるかは保証出来ないからね」と言われたが、なんか治って一安心した。流石先生だよね!

☆三島くん
 二日欠席した寺崎をそれなりに心配してた。イセカイナビを使って狙撃銃のコソ練をしていたが、そりゃ捗るわなといった感じ。けどペルソナがないので命中率はまだまだ低め。

☆怪盗団のみなさん
 敵なのか味方なのか分からなくて困惑している。もしかしたら悪人じゃないのかもしれないけど、正体を隠してる時点で怪しいので未だに警戒対象ではある。

☆見てた人
 まだ見定め中。


 UAと評価が沢山増えててびっくりしました! 頑張らなきゃ……!
 コードネームに関してはそっとしておいていただけると助かります。
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