私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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#11 そんな偶然はあり得ない

 

「じゃあ、あの黒仮面については何も分からないって事?」

 

 渋谷駅のとある一角。新たに怪盗団に加わったばかりの新島真は、他の面々にそう問いかけた。

 

「残念ながらそうだ。遭遇したのは二回だけだが、敵か味方かはまだ分からない」

 

「その二回とも助けられてはいるんだけどね。やっぱり怪しすぎるっていうか……」

 

 そう言って首を振る祐介と同じように、杏も困り顔で答えている。

 イセカイナビがないと入れないはずの異世界に突如として現れる謎の不審者。これまで味方寄りだからといって、次もそうだとは限らない。それが怪盗団の共通見解だった。

 

「でもマダラメが言ってたのはアイツで間違いねぇだろ? 他に異世界入れる奴もいねぇし」

 

「ミシマは事故で一瞬入っただけだし、まさかナビを持ってるなんて事もないだろうからな」

 

「え? ミシマって、あの三島くん?」

 

「確か、怪盗お願いチャンネルの管理人だったな」

 

 思ってもいなかった名前に真が問いかえすと、面識のない祐介も興味深そうな反応を示した。そこで補足を入れたのは、彼と一番接点のある蓮だ。

 

「俺たちが初めてメメントスへ行った日に、巻き込まれてしまったらしい。地下にも降りたらしいけど、戦闘が始まった辺りですぐに引き返したそうだ」

 

「へぇ、そんな事があったのね」

 

「でもそれ以来ナビを使う時は気をつけてっし、三島は関係ねぇよ。ていうか、アイツは戦えないだろ」

 

「そうかもな」

 

 蓮の次に三島の事を知る竜司の言う通り、アレから誰かを巻き込んでしまった事はないはずだ。そして異世界での身のこなしや殿を務められるようなイメージは、ちょっと三島には結びつけづらかった。

 

「ならやっぱり私達の知らない第三者って事ね。けど、それならどうしてそのタイミングで現れるのかしら」

 

「そのタイミングとは、どういう意味だ?」

 

「そのままの意味よ。確か、マダラメの時は予告状を出した日に、脱出しようとしたタイミングで現れたのよね。そしてこの前も私達がカネシロの銀行から離脱しようとしたタイミングだった。……これって、偶然?」

 

「まさか、機をうかがっていたって言うのか?!」

 

「そこまでは分からないけど、もしかしたらその黒仮面は私達の行動をある程度、把握出来る術があるのかもしれない。そして、そんな相手ならきっと――」

 

「――また俺たちの前に姿を現す、か」

 

 真の懸念を引き継ぐ形で言いながらも眉をひそめたのは蓮だ。あの黒仮面とも一番言葉を交わしている彼には、どうにも拭いきれない心残りがあった。

 

「どうしたよ蓮。何か気になる事でもあるのか?」

 

「……声だ」

 

「声? 黒仮面の?」

 

「カネシロパレスで会った時はたった二文字しか言わなかったが、マダラメパレスの時と声が違って声色が変わってなかった気がする」

 

 そんな様子の彼に気付いた竜司の問いに答える形で、己が感じた違和感を言葉にする。前回のガスで変えられた声は聞いていなくとも、蓮と同じく言葉を交わした真もその響きは覚えていた。

 

「私にも『行け』としか言わなかったけど、もしかしてアレが黒仮面の地声だったの? 確か、割と高めの声だったと思うけど」

 

「高め……? 男じゃなくて女の可能性もあるっていうのか?」

 

「……そこまではまだ分からない」

 

 蓮も真と同じように感じたが、言ってしまえばその感想しか手がかりがない。何故声を変えていなかったのかも不明だが、その上で二文字しか発しなかったとすれば、曲者と言う他なかった。

 

「それ以上は余計な先入観になりかねない。黒仮面がワガハイたちの行動を見聞きしているのなら、次に出くわした時こそ捕まえればいい。違うか、蓮?」

 

「……そうだな、モルガナ。真もそれでいいか?」

 

「ええ。その時は黒仮面にも、ちゃんとお礼しないとね」

 

「流石、世紀末覇者先輩……」

 

「張り倒されたいの?」

 

 パンと鳴らした拳を不届き者(竜司)に向けようとした真はともかく、怪盗団としての方針は固まった。

 黒仮面の正体は依然として不明だが、何らかの方法で怪盗団の行動を知っている。それを踏まえた上で捕まえられるように警戒する事にしたのだ。

 

 しかし怪盗団のそんな決意が実るよりも、オタカラまでのルート確保の方が早かったのだった。

 

 ☆☆☆☆☆

 

「お先に失礼しまーす! ……ふぅ」

 

 タイムカードを切ってから扉を開けて外へと出る。労働で疲れた私の身体を夜風が優しく撫でて……いや暑っ! やっぱり六月も末だから、冷房の効いた室内のが涼しいよねやっぱり。

 

 前回の異世界潜入から数日。例の如くダウンした私は何日かバイトに穴を開けてしまった為、その穴埋めをするべくシフトに殉じる日々を送っていた。

 なのであれから異世界には行ってない。元々ペルソナのない私たちが侵入するのは怪盗団がルート確保してからの方が色々と望ましいので、今は無理に行く理由がないのもあった。三島くんからも暫くは休んでろと言われちゃったし。

 

「でもそろそろ怪盗団が予告状を出す頃だと思うんだけど……んん?」

 

 そんな事を呟きながら降り立った渋谷の街が、いつもより騒がしい気がして立ち止まる。いや騒がしいのが平常運転な街だけど、どこか浮足立っているような?

 

「……これって、もしかして!」

 

 そうして周囲を見渡すと、普段の街並みの中に見慣れない赤と黒の模様があちこちに差し込まれている事に気付いた。カードの形をしたそれを一枚手に取って、その文面に目を走らせる。

 

「『金を貪る暴食の大罪人、カネシロ ジュンヤ殿。中略。その歪んだ欲望を、頂戴する。心の怪盗団より』 ……いよいよ来たかぁ!」

 

 新聞記事を切り抜いて作られたような文字列の意味する所を理解して、クフフと笑ってしまう私。だって予告状が出されたのなら決戦はその翌日。そのタイミングでパレスに行けば、必ず彼らの活躍が見られるんだから!

 

「――まさか、こんな形で来るなんてね」

 

「流石は怪盗団って感じだよね! ここまで大々的に予告状を出せば、話題になる事間違いないし! そうすれば――」

 

「世間もより彼らを認める、か。ターゲットの選定もそれを見越してのモノだとすれば、見事だと言わざるを得ないよ」

 

「そりゃあ怪盗団だし、それもきっと織り込み済みで…………ん?」

 

 そこまで会話してようやく、興奮しきりの私の横に誰かいる事に気付いた。というかこの爽やかなイケメンボイス、聞き覚えしかないような――

 

「ひゅあっ!? あ、明智……くん?」

 

「久しぶりだね、寺崎さん。そんな感じで声は抑えてくれると助かるかな」

 

 そう言って伸ばした人差し指を唇に当ててウインクするのは、社会科見学の時に知り合った探偵王子こと明智くんだ。けれど今夜はその記憶にある姿とは些か様子が違っている。

 

「その眼鏡……もしかして変装?」

 

「うん、正解。怪盗団が話題になるにつれて、街を歩くだけで騒がれる事が増えてきたからね。この程度のイメチェンでも案外効果があるみたいなんだ」

 

 そうして微笑む探偵王子の顔には淡いゴールドフレームの眼鏡が添えられている。何なら髪も纏め方を少し変えているようで、見知った姿とのギャップに私は息を呑んでいた。

 

(え、つまりこれってあのコープの時の雨宮くんにいじられた奴を採用してるって事?! なにそれエモい!)

 

 見られるとは思ってなかった一幕の再現と、その背景を想像してしまった私の口角が上がりかける。

 けど目立たない為の変装で騒いでしまっては意味がないと、どうにか食いしばって冷静を保った。危ない危ない。

 

「……どうして急に苦虫を噛み潰したような顔を? もしかしてそんなに似合ってないかな、これ」

 

「い、いやいや違うよ?! こちらの問題だから気にしないで、うん! それはそれで滅茶苦茶カッコいいし!」

 

 おかしいな、ポーカーフェイスのつもりだったのに。けどこれの所為でこの眼鏡吾郎くんがお蔵入りになってしまったら末代までの恥なので、全力で否定しておいた。閑話休題。

 

「えーっと、それで明智くんはどうしてここに?」

 

「たまたま私用があったから渋谷に来たんだけど、そうしたらちょうどこの予告状が貼られていてね。もしかしてまだ怪盗団の手先がいるかと思った矢先に、キミを見つけたというわけさ」

 

「ふーん、凄い偶然だね!」

 

 バイトしてた私はともかく、普段は探偵の仮面を被ってて多忙だろう明智くんまでこの場面に立ち会うとは、ホントに凄い偶然だ。でもその言い方だと私が怪盗団の手先みたいに聞こえるけど、気の所為だよね?

 

「寺崎さんとは普段は連絡が取れないからね。こうして会える機会を優先したいと思ったまでさ」

 

「やっぱり忙しいんだ、明智くん」

 

 社会科見学の時に連絡先を交換してはいるが、頻繁に連絡するような事は互いにしていない。私は恐れ多いのもあるし、芸能人である彼はおいそれと女子である私に接触するのは微妙にリスクを孕むんだろう。ちょっと自惚れもあるかもしれないけど、私としては多少噂になるくらいなら全然……いや、怪盗団に知られたらアレだからやっぱり止めとこう。

 

「忙しいのは寺崎さんもじゃないのかい? あのファミレスに可愛い店員が入ったと少し前から話題になっていたけど、多分キミの事だろう?」

 

「えっ私が? いやいや可愛いなんて人によるだろうし、別の人なんじゃ」

 

「ワタワタしてて眺めるのに飽きないと専らの噂らしい」

 

「絶対に私じゃないからソレ! 最近はそんなにミスしてないし!」

 

 ちょっと浮かれかけたのも束の間、全力で否定する事になる私。そんなんで話題になっても何も嬉しくないし! というかカラカラと笑っている辺り、まさか私をからかってないか?!

 

「まぁ所詮噂は噂。キミも僕も何かのきっかけで不本意なレッテルを貼られる事もあるかもだけど……この名前に関してはきっとそうじゃない」

 

「……カネシロって人の事?」

 

 そうしてやや真面目な目つきで、手にした予告状に視線を落とした彼に合わせて、私も相槌を打つ。こくりと彼も頷いたので、ここからが本題なのだろう。

 

「怪盗団が次に狙うのはこの人なんだろうけど、名前を検索しても出てこないんだよね。でも金を貪るって書いてあるから、もしかして……?」

 

「その通りだよ。寺崎さんも秀尽学園の生徒なら、ここ最近渋谷で若者を狙った闇バイトが横行しているのは知っているだろう? 金城はそれの元締めとされている人物だ」

 

「やっぱりそうなんだ。じゃあ怪盗団は、今回も悪人を成敗しようとしてるんだね!」

 

「……確かに金城は警察も手を焼くほどの相手だ。もしそれを改心出来れば、怪盗団の名声は大きく高まるだろうね」

 

 悪人が減って怪盗団の地位も上がる、まさしく良いことづくめであるように見える未来を、彼だけは浮かない顔で予言している。原作を知る者としてはその裏も気になる所だ。絶対に悪い顔をしているに違いないから。

 

「怪盗団を認めないスタンスの明智くんとしては、やっぱり面白くない?」

 

「僕だって平和を願う一市民だからね。闇バイトなんて名前の犯罪行為を広めるマフィアのボスが捕まるならそれに越した事はないよ」

 

 にっこりと笑ってそう言う明智くん。おかしいな、なんでちょっと笑いを堪えなければならないんだ。今はシリアスな場面のはずなのに。

 

「けどこれも怪盗団の戦略の一つだと思うと、素直に肯定出来なくてね。怪盗団に正義があると人々から思われる事を見越した上で、彼らは予告状を出しているだろうから」

 

「悪人を成敗するのは正義じゃないの……って、それはただの私刑だって前に言ってたね」

 

「覚えていてくれて嬉しいよ。そうして怪盗団は正義だと認識されてしまえば、いずれはその行いすらも全て正義だと肯定されてしまう。僕はそれが気がかりなんだ」

 

 そう語る明智くんが続けて話題にしたのは、春頃から続く精神暴走事件の事だ。

 突然人が変わったように振る舞い、犯行を起こすという事件。それも怪盗団の仕業によるものじゃないかと真犯人(あけちくん)は言う。

 

「怪盗団の持つ力が危険なモノである事も前に言った通りだ。例えどんなにそれを用いて善行を為しても、その裏で悪事を働いているかは分からない。むしろ、善行を積む事でその裏を覆い隠していると言ってもいいかもしれない」

 

「じゃあ今回のカネシロの改心も隠れ蓑って事? 流石にそれは考えすぎじゃない?」

 

「僕としてはその可能性もあるってだけだよ。仮に精神暴走事件には別の犯人がいるとしても、このタイミングでまた事件を起こせば、怪盗団による天誅だと思わせられるだろう?」

 

「うげ、中々エグい事を……」

 

 そんな危険もあるからこそ怪盗団を止めなくてはいけないと、数カ月後にそんな感じで怪盗団に罪を被せるだろう明智くんが何か言っている。面の皮がホントに仮面みたくなってたりしないよねこの人。

 

「恐らく怪盗団はこのまま金城を改心させるだろう。そうして世間に認められていったとしても、どうか彼らにのめり込みすぎないようにして欲しいんだ」

 

「つまり、盲信しないでって事? いやー、流石にそれは杞憂というか……」

 

 そう言いかけた私の言葉は、明智くんの真剣な眼差しによって途切れてしまった。顔がいい、じゃなくてコレは、本気で忠告してくれてる?

 

「最初はただの支持者やファンだったとしても、いつかは全肯定しかしない信者になってしまうかもしれない。同世代にしては流されない自我を持っている彼やキミのような友人を、そんな形で失いたくはないからね」

 

「……てことは、雨宮くんにもそう言ったの?」

 

「近い事は言ったかもしれないけど、ここまで明確にしたのは寺崎さんが初めてかな。彼は一歩引いて見る事が出来ていそうだったけど、キミはなんか危うそうな感じがあるから」

 

「え、なんで?! 私だって雨宮くんみたいにちゃんと冷静に俯瞰出来るよ!?」

 

「ははははは」

 

 失いたくないはずの友人の叫びを笑って流す明智くん。さっきの忠告との温度差が酷い。

 でも明智くんからすれば、怪盗団にお熱の私はそう言う風に見えるんだろう。けど怪盗団のする事なら大体知ってるから、そんな全て正しいみたいな穿った見方はしないと思うんだけどな……。

 

「でもこの予告状を見て胸躍らせていただろう? そういうのを少しだけ控えめにした方がいいって話だよ。淑女然としろとまでは言わないけどね」

 

「それ、もう少し落ち着けって事だよね」

 

「おっと、流石にバレちゃったか。まぁ、年長者からの有り難い助言だと思って欲しいな」

 

 急に爺臭い事を言い出す明智くんだが、私への用件はそれで全部だったらしい。

 資料用にと貼られている予告状を幾つか回収してから、彼は私に背を向けた。

 

「久しぶりに話せて良かったよ。それじゃあね、寺崎さん」

 

「う、うん。またねー?」

 

 そうしていきなり現われて色々話してくれた明智くんは、去る時もまたいきなりなのだった。結局なんだったんだろう一体……。

 

「基本的に明智くんが私に接触してくるのは何か狙いがあるはずだし、明日は警戒しないといけないかもだね」

 

 未だに明智くんの行動は読めない所が多いが、ひとまず気には留めておこう。

 そして今はそんな事よりも明日の潜入の方が大事だ! ばっちり準備して見に行くぞー!

 

 ☆☆☆☆☆

 

「予想はしていたけど、本当にいるとはね」

 

 渋谷駅のとあるホームで、電車を待つ一人の男子高校生がポツリと呟く。

 

「あの日以来彼女は異世界に来ていない。なのに予告状が出るタイミングであの渋谷に居合わせた。いや、それを見越した上であの職場を選んだ可能性もあるか」

 

 彼の脳裏に浮かぶのは、先ほど話したばかりの桃髪の女子の顔だ。共に湧いたとある感情は一旦無視して、彼は考察を続ける。

 

「怪盗団が動く時、かなりの確率で彼女がいる。ここまでくればやはり偶然と見る方が不自然か。しかし、相変わらずどうやってかが読めない……」

 

 それは怪盗団も抱いた疑心。異世界を取り巻く関係者について最も詳しいはずの彼であっても、あのピンク髪の少女の存在はイレギュラーだった。

 

()()()()()()()()()()()()()も含めて、まだ手を出すべきじゃないか、やはり」

 

 それ故にこちらから接触したし、今日も探りを入れてみたのだが、どちらも不発。SNS含めて抜けた言動の割にそういう所で隙を見せないのは、やはり自分と同じく裏があるからなのか。

 

「どいつもこいつも、全く――――」

 

 そうして彼が最後に口にしたその言葉は、到着した電車の音に掻き消されていった。




☆寺崎叶
 カネシロパレスでの遭遇は成り行きだったし、予告状が貼られた夜に渋谷にいたのは偶々だった系女子高生。本当なんです信じてください。
 当初は明智にも敬語を使おうと思っていたが、疑惑が浮上した辺りで原作での所業を思い出して色々と遠慮がなくなった。色んな意味で先輩やぞ。

☆明智くん
 三島くん以上に惑わされているかもしれない男。或いは本編以上に探偵をしなければならなくなった男。しかしその相手は異世界の記憶を持つ転生者である。頑張れ。

☆怪盗団
 別にずっと警戒しているわけではなく、そういえば来なかったなくらいの認識。

なんかアクセス数は凄い事になったしランキングにはずっといるしで戦々恐々としています。やっぱペルソナ5は凄いという事で次も頑張ります。
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