私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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切り所を諦めた結果過去最長です。ご了承ください。


#12 だから私はただでは済まない

 

 この世ならざる空の下。おおよそ現代ではあり得ないサイズでありながらも異世界であるが故に浮き続けるパレス、もとい金城銀行は今、かつて類を見ない程に荒れていた。

 

『鼠どもは必ず来る! 絶対に奥まで通すんじゃねぇぞ!!』

 

「おーおー荒れてやがんな、カネシロの奴。これならオタカラもバッチリ形になってんだろ!」

 

「心を盗むと予告する事で初めてオタカラが実体化して盗めるようになる、だったわね。けど当然、一筋縄じゃいかないんでしょう?」

 

 警戒の強まるパレスの様子に慣れてきたスカル達はともかく、今回が初仕事である(クイーン)は確認の為にモナを見た。

 

「そうだぜクイーン。今までもルートは確保出来ても、その後にパレスの主に邪魔されるのが殆どだった。今回も何があったって不思議じゃない」

 

 故に警戒を怠るなとモナが主に浮足立っているスカルに言いつける事でいつもの言い合いが始まるが、ジョーカーがそれだけじゃないとばかりに付け加える。

 

「それと前に話した黒仮面もだ。探索中に出くわす事はなかったが、今日現れないとも限らない」

 

「そうだね。じゃあもしアイツが出てきたら、手の空いたメンバーで捕まえる感じでいいよね?」

 

「以前と比べて人数も増えたからこそ出来る作戦だな。今度こそあの仮面の下を拝ませてもらおう」

 

 パンサーの提案も以前怪盗団の間で決めていた事だ。敵か味方か分からずともその正体を暴いておきたいというのは、フォックス含め全員がそう思っていた。

 

「よし、ならそろそろ行こう。――ショータイムだ!」

 

 そうして気合十分とみたジョーカーが頭として号令を取る。彼らにとっての一発勝負が今宵もまた、始まったのだった。

 

 

 

「――うんうん、やっぱり何度見てもカッコいいよね! 流石は怪盗団のみんなだよ……!」

 

「ノリノリだったな、雨宮(ジョーカー)

 

 そんな彼らを見守る影が二つ、銀行の端から覗いている事には気付けないままに。

 

 ☆☆☆☆☆

 

 渋谷に予告状がばら撒かれてから一夜明けた放課後。

 結論から言うと、なんかイケた。

 

「怪盗団の後を追ったのがよかったのかもしれないね。まぁバレないように登るのが大変だったけど」

 

「なんで匍匐前進であんなスピードが出るんだよ寺崎(カトル)は。やっぱり軍人じゃないよな?」

 

 怪盗団の面々が渋谷の駅前から消えて少し経ってから三島くんのイセカイナビを起動すると、ちょうど彼らが金城銀行へと向かっていった所だった。

 今ならまたイケるかと思い再びのダッシュを決めようとした所、近づいた私に合わせて例の坂道が設定され直した……ように見えたのだ。つまり私もカネシロにとっての客、或いは怨敵として認知されたのかもしれない。まさか本当にイケちゃうとは。

 

 そんなわけで早速行こうと思ったけど流石に怪盗団との距離が近すぎたので、彼らにバレないように匍匐前進で進む羽目になったのだ。この坂道がずっと残ってたら不審がられると思ったが末の行動なので必要な労力だったんです。なので三島くん(レイ)はその視線を止めてください。

 

「まぁ無事にまた来れたのはいいとして……。この銀行に今から俺たちも入るのか?」

 

「当たり前だよ三島くん(レイ)! その為に来たんだからね!」

 

 恐る恐るといった口調で尋ねる三島くん(レイ)に、私は強い口調で断言する。例のBGMも流れているような気がするし、行かない理由はないんだよ!

 

『お前ら、絶対に通すんじゃあないぞ! 怪盗団も()()()も、この俺に歯向かってくる輩は全て捻りつぶしておけよ!!』

 

『『『はっ!!』』』

 

「……滅茶苦茶警戒されてるような気がするんだけど」

 

「え、これ私の所為なの? ここまで?」

 

 三島くん(レイ)の指差した先、金城銀行の内部から聞こえる(カネシロ)の金切り声。それに応じる警備員シャドウの数がもうそれはそれは多い事この上ない。確かに予告状が出されると警戒度がMAXになる仕様ではあったけど、これじゃあ最早300%を超えてそうなレベルの厳戒態勢だ。いつの間に難易度CHALLENGEになったんだろうか。

 

「まぁいっか。行くよ三島くん(レイ)!」

 

「そして躊躇いないのかよ寺崎(カトル)! ああもう仕方ないなぁ!?」

 

 でもその程度は諦める理由にはならないので早速突撃を開始する事にした。大丈夫、ちょっとジャンルがコマンドRPGからステルスアクションに変わるだけだから!

 

 

 

『おい、こっちにはいなかったぞ!』

 

『次はあっちの方を探そう。まだ近くにいるはずだ!』

 

「よし今だよ三島くん(レイ)! また見つかる前に先へ進もう!」

 

「ぜぇ、ぜぇ……もう何回目だよ、この展開……!」

 

 全然違った。ステルスアクションじゃなくて無双アクション(スクランブル)かと思った。

 とにかくそのレベルで大量のシャドウが配備されており、怪盗団と違ってカバーアクションの出来ない私たちが見つからずに進むとか無理だった。

 

「今度はあっちに石を投げて音を立てるから! シャドウが動いた瞬間にあそこを突破するよ!」

 

「数は多くてもこういう手には引っかかるんだなぁ……!」

 

 なのであえて音を立てたり姿を見せる事で敵の配置をズラし、進行ルートを確保するという荒業を駆使する羽目になっていた。実質私達の足の速さに全てを賭けた戦法なので、前みたいに袋小路に飛び込んだりしたら本当に終わると思う。

 

「うん、この扉で間違いない……気がする!」

 

「よく初見なのに迷わず行けるよな。色々とどうなってんの?」

 

「そこは企業秘密ということで!」

 

 それくらい余裕がない所為で、初めてくる建物内の構造を大体把握してる不審者という称号を三島くん(レイ)からも受け取る事になってしまった。ホントならどこかでマップを入手するか、怪盗団の後を追う体で誤魔化すつもりだったのに……!

 

「……よし、このエレベーターで下にいけるはずだよ」

 

「ようやくか……。戦闘がなかったのが奇跡的すぎるだろ……」

 

 そんな感じでどうにか中盤に辿り着く頃には、私達二人ともかなり疲労していた。円柱型のエレベーターに乗り込んでから、私は購買で買ってきたパンと栄養ドリンクを取り出す。

 

「はい、三島くん(レイ)も。ちょっとはマシになるはずだよ」

 

「ああ、ありがと。走ってばっかですぐには食べれないかもしれないけど……ってうお?!」

 

 もきゅもきゅと菓子パンを咀嚼する私と違って栄養ドリンクだけ先に開けようとした三島くん(レイ)が、突然驚きの声を上げた。その視線の先にあったものを見て、私も大きく目を見開く。

 

「すっごい、ホントに巨大なシリンダー錠になってる! 流石は異世界!!」

 

「シリンダー錠……こんなに広い金庫室自体がロック機構とか、スケールヤバいな異世界……」

 

 私達の乗るエレベーターの眼下に広がるのは、幾つもの円が重なって木の年輪の様にも見える巨大な空間だ。その円を構成するのは大量の金庫であり、その中に納められているのが弱者から毟り取った金であるとするのなら、まさしく金で育った巨木の内と言えるのかもしれなかった。

 

「あ、でも中心部からこのエレベーターの麓までまっすぐの道が出来てないか? アレを進めばまた奥に行けるって認識で合ってる?」

 

「うん、きっとね。多分あの道を開通させる為に怪盗団が頑張ったんだと思うから、少し申し訳なさもあるけど」

 

 ここのパレスは思っている以上に長かったような記憶がある。三つ目のパレスともあってシャドウも強くなってるし、SPのやり繰りに苦労しながら進んでいた思い出だ。その成果を掠め取っているような意識もあるにはあった。今更だとしてもね。

 

「けど今回も雨宮たちの助けになるような策があるんだろ? 寺崎(カトル)の事だし」

 

「勿論考えてはいるけど、今回は上手くいくか分からないんだよね……」

 

 前回のマダラメパレスの時はオタカラを盗み出す際にトラブルが起こる事が分かっていたのでベストなタイミングで参戦できた。

 しかし今回のカネシロパレスはシャドウ金城をぶっ飛ばしてオタカラを奪うというシンプルな構図の為、あんまり私たちが介入出来る余地がないんだよね。

 

「それにもう一つ、単純に難しいポイントがあるんだよね。このエレベーターの事なんだけど」

 

「別に普通のエレベーターというか、このフロアに降りてくるのに使った奴と同じじゃないの?」

 

「だからこそだよ三島くん(レイ)。この下には間違いなく怪盗団とパレスの主がいるわけで、そんな所へこんなエレベーターに乗って普通に降りたらモロバレになっちゃうでしょ?」

 

「そのまま行けば俺たちの存在がバレるって事か。ならどうするんだ?」

 

「無論、外から見えづらい体勢でいくしかないかなと」

 

「……体勢?」

 

 巨大シリンダー錠型のフロアの中心部にあるエレベーター。その床の辺りを見ながら、私はそう答えた。

 

 

 

『はっはっはぁ! 最高だぜ、オレのブタトロンはヨォ!』

 

「見た目以上に厄介ね、このデカブツ……!」

 

 カネシロパレス最深部。予告状によって実体化したはずオタカラは、シャドウ金城によって巨大金庫の中に囚われてしまった。そして今やその金庫こそが怪盗団を苦しめる要因となっていた。まぁその金庫の形はメタリックなブタの貯金箱だったけど。

 

『さぁさぁ、どんどん行くぜェ!』

 

「っ、全員避けろ!」

 

「うおおマジかぁ!?」

 

 そんなブタの貯金箱が変形して球体となり、その上にハエのようなシャドウ金城が乗って体当たりを繰り出す。端から見ればサーカスの玉乗り以外の何者でもないが、一軒家サイズの大球でそれをされたら溜まったものじゃないだろう。

 

「うわー凄い事になってる……。あとアレ直進だけじゃなくて曲がったりもするんだ……」

 

「上手いこと操縦してるな、上に乗った奴が……って、ハエ?! アレもシャドウなのか!?」

 

「このパレスの主だね。戦闘になると怪物になるのが異世界の様式美なんだと思うよ」

 

 そんな光景を、降り続けるエレベーターの中から見下ろす四つの目があった。勿論私たちのことである。

 

「でもこのアングルだとちょっと見辛いというか……。ごめん三島くん(レイ)、少し寄っていい?」

 

「待て待て、この体勢キツイんだからすぐには動けないんだって――いや近いから?!」

 

 そして私たちはエレベーターの床に伏せた状態から首だけを持ち上げた姿勢でそれを観戦しており、ジョーカーどこに行ったかなと動かした私の頭で三島くん(レイ)が小さく悲鳴を上げた。なんかゴメン。

 

「っていうか、この姿勢なら外から見えないかもだけど真下に到着したらどうするんだよ? ドアが開いたら伏せてても一発でバレるぞ」

 

「その時は姿勢を変えてその扉の陰に隠れようかなと。それでもバレたら即エレベーターを動かして離脱だね」

 

 見たかったモノは大体見れたとは思うけど、見られるのならもう少しだけ見たいのがファンの心理だ。どうにかブタトロンが倒される所まではバレないようにこっそりと――

 

『ああん……?』

 

「ジョーカー、気付いてるか?!」

 

「ああ! エレベーターが独りでに動き出したからには何か来るはずだ、気をつけろ!」

 

「……寺崎(カトル)、もう既にバレてないか?」

 

「……みたいだね」

 

 あと少しで最下層に到着すると言う所で、怪盗団とシャドウ金城の両方がそのエレベーターへと注意を向けていてる気がした。うん、気の所為ならよかったんだけどなぁ……。

 

 というか戦闘中なのにどうして双方そんな周囲に気を配れるのさ! やっぱり私が出しゃばりすぎてる所為かなぁ?! でもやっぱり見たいものは見たかったから仕方ないというか、ええいこうなったら――!

 

「これだとエレベーター動かしても止められそうだし、予定変更して私行くよ! 援護宜しく!」

 

「行くってお前、あの中に突っ込む気かよ?! いくら寺崎(カトル)でも流石に無理なんじゃ」

 

「だからさ三島くん(レイ)、もしもの時は――」

 

 そんなわけで残された時間は三島くん(レイ)への頼み事に使い切り、カバンに手を突っ込んで必要な装備を整えた所でエレベーターの扉が開く。彼をドアの陰に隠して私一人で来たように見せかけながら、小さく奮い立たせの言葉を呟いた。

 ――彼と同じでありながら、半ばヤケクソ気味に。

 

「いくよ、ショータイムだ!」

 

 目標は良い感じに掻き回して時間を稼ぎつつ、怪盗団のフォローをして華麗に離脱する事! ここまでも奇跡的に戦闘なしでこれたんだから、今回だってやってやるっ!

 

 

 

「アイツは、黒仮面か?!」

 

「やっぱり来たんだね……!」

 

「……………………」

 

 それまでの動揺や緊張の一切を押し込めて、ゆっくりとエレベーターの外へと歩き出す。そんな私を見て、怪盗団の皆は驚きの声を上げていた。

 

『来やがったかYO、黒い仮面! 歓迎してやるZE、目一杯NA!』

 

「……………………」

 

 シャドウ金城も大体同じ感じのリアクションだ。やっぱりあの時の一言が効いているのか、私の事も敵だと認定しているっぽい。ならなんで招き入れる様な認知になったのかはよく分かんないけど、味方と思われるよりはマシだからまぁいいかな!

 

『今更ダンマリされても関係ねぇ! まとめてミンチにしてやるZE!』

 

「クソ、またさっきのをやるつもりかよ?!」

 

 そうして黙っていると、先程と同じように球体へと移行した金庫ことブタトロンの上に乗り、玉乗り突撃を敢行しようと準備を始めるシャドウ金城。

 それによって怪盗団の一部も身構えたようだけど、今度今回はその必要はない。そんな思惑と共に、私は手にしていたソレをブタトロン目掛けて放り投げた。

 

『なんだ? 一体何を投げ……ってマジかYO?!』

 

「なんだ?! カネシロの動きが止まったぞ!?」

 

 私の投げたモノを認識した瞬間に、シャドウ金城の目の色が変わる。それは使用者の体力を全回復させるアイテムこと宝玉だ。まぁそんな効果よりも、カネシロにとってはそれが高価か否かの方が大事なんだろうけどね!

 

『おい、急いで回収しろブタトロン! 怪盗団に奪われる前になァ!!』

 

「ここまで金目の物に目がないとは……!」

 

 怪盗団や私を置いて真っ先に動くと、床に落とされた宝玉をブタトロンに吸い込ませて確保に動く。こうすればシャドウ金城は暫く動けないし、あの突進攻撃も凌げるというわけなのだ!

 

『これは金になるぞ……! 黒い仮面の奴、手土産があるってこの事だったんだなっ!!』

 

「よく分からんがチャンスだジョーカー! 金の亡者は金で身を滅ぼす事を教えてやろうぜ!」

 

「行くぞ! ()()()()()()()()

 

 当然ジョーカー達がそんな隙を逃すはずがなく、形勢逆転とばかりにペルソナを呼び始める。これでブタトロンは撃破出来るだろうし、ひとまずの手助けにはなったはずだ。だからあとは――

 

「では、お前の相手は俺たちがするとしよう」

 

「もう逃さないんだからね! いい加減、正体明かして貰うから!」

 

 私の前にやってきた、フォックスとパンサー(この二人)を何とかするだけだ。……この二人と対峙しなくちゃいけないのかぁ。今のメンバーの中ではマシと言えばマシかもしれないけども……。

 

「……あちらに加勢しなくていいのか?」

 

「生憎とその必要はない。ジョーカーにクイーン、モナにスカルなら十分に金城を倒せるはずだからな」

 

「そもそも、あの隙を作ったのがアンタじゃん。味方のつもりなら、そろそろ誰なのか名乗ってくれてもいいんじゃない?」

 

 一応ダメ元で尋ねてみたけど、やはり私を逃す気はないみたい。やっぱり正体不明って事で相当に信用も低いようだし、荒事は避けられない気がする。

 

「私はただのファンだよ。それだけでは不満かね?」

 

「当たり前でしょ! この異世界に来られる時点で普通じゃないし!」

 

「俺たちの行動を一々把握しているのも気になるしな。まさかとは思うが、ストーカーでもしているのか?」

 

「……君たちの一手はどれも興味深いモノだからな。ファンとして出来る限り気を配るのは、当然の事だろう?」

 

「……否定しなかったが、もしや本当なのか?」

 

「フォックスが言うのも私的にはちょっと思う所あるけど、やっぱり怪しいよコイツ!」

 

 とうとう怪盗団からもストーカーと言われてつい動揺が表に出そうになったけど、最早それすらもお構い無しという雰囲気になってきた。まぁ私のやってきた事的にやむなしなんだけども!

 

「最後にもう一度聞くが、素直に正体を明かす気はないか? 例えどんなに怪しいストーカーだとしても、俺たち怪盗団を害するつもりはないように感じる。なら――」

 

「それは出来ない相談だ。君たちと敵対するつもりはないが、私が何者かを知らせるつもりもない。そこだけは、譲るわけにはいかないんだ」

 

 だってそれはきっと――――――だし。そんな本心は隠した上で告げると、二人して目を合わせた後で観念したように武器を構えた。つまりこれで私の正体と引き換えに穏便に済ませる道は途絶えてしまった。少なくともこの場では、戦う以外に道はない。

 

「ならとっ捕まえた上で、その仮面を剥がしてあげるから!」

 

「実力行使させて貰おう。行くぞ――!」

 

「やれるものならやってみろ、怪盗団――!」

 

 そう言いながら私も懐から銃を引き抜き、戦闘態勢に移る。別に率先して戦いたいわけじゃないけど、彼らの戦いを間近で見られると考えれば力の一つは湧いてくるよね! うおおおお!!

 

「食らえっ!」

 

「ふっ……!」

 

 と言ってもやる事は基本的に回避だ。

 最初に接近してきたフォックスの一閃を、大きく後ろに下がる事で避ける。ペルソナがない以上は一撃でも貰ったらマズいので、少しでも相手が動いたと思ったらこちらも動く。それでもホントにギリギリなんだけどね!

 

「ならこれはどう?!」

 

「鞭か、随分と使い慣れているな……!」

 

 風を切る音がした方向とは反対に跳ぶと、その位置に鋭い鞭のしなった一撃が通過していった。フォックスの刀と違って鞭は攻撃の軌道が直線じゃない所為で読み辛い、というか全然見えない! あと切られるよりもなんか痛そうで余計に怖い! 

 

「逃げてばかりか? 何故攻撃をしてこない?!」

 

「その必要がないからだ。言った通り、君たちを害する気はないのでね……!」

 

 そうして二人して攻めてくるのを紙一重で回避する私に、フォックスが言葉を投げてくる。例えどんなにキツくても怪盗団の皆に怪我をさせたいわけじゃないからだけど、もうそんな事言ってられない位にはキツい……!

 

「っ、コレは――」

 

「今だよ、フォックス!」

 

 そうして鈍った私の腕を絡め取るように振るわれた鞭によって、私の動きが抑えられる。そうして生まれた隙を活かすべく、フォックスはその仮面に青い炎を灯し――ってマズい?!

 

「来たれ、ゴエモ――」

 

「甘い!」

 

「ひゃあっ?!」

 

 即座に捕まっていない方の手でもう一丁の銃を抜いた私は、油断していたパンサー目掛けて引き金を引いた。思ってもなかった攻撃に彼女が怯んだ為に、私は拘束から抜け出す事に成功していた。

 

「くそ、無事かパンサー?!」

 

「う、うん。痛いは痛いけど……これって、水?」

 

「まさか、私にコレを抜かせるとはな……」

 

 胸の辺りを撃たれたはずのパンサーは、されど大した怪我のない己の身が濡れている事に気付いただろう。

 

 元々持っていたのは見た目通りのエアガンであり、この認知世界では実弾が出てしまうので怪盗団の皆に向けるには忍びない。

 ならばそもそもが玩具にしか見えないモノなら? どこかの探偵が使ってたビーム銃よりも更に、出るものが一つしか考えられない様な銃であれば、実弾が出ることはないのではと考えて、持ってきてみた銃がそれだった。

 

「いやそれ水鉄砲じゃん?! バカにしてんの!?」

 

「この世界にはゴム弾なんてモノはないからな。殺さずに済ませるには、コレしかなかったというだけだ」

 

 そうして二人に見せたのは、透明のプラスチックで出来た安物の水鉄砲だ。異世界パワーで弾速はそれなりだけど、威力は大したモノじゃない。けど非殺傷で携帯にも楽だからこんな使い道が出来るんだよね。

 

「なら、その気遣いに足を掬われてもらおうか!」

 

「むっ、コレは……!」

 

 折角持ってきた水鉄砲のお披露目も終わったしと思い動かそうとした足は、されど何かに固定されてしまったかのようにビクともしなかった。それから慌てて視線を落とすと、足の辺りに氷の根が絡んでいるのが見えた。

 もしやさっきフォックスのペルソナが、水鉄砲から滴り落ちた水を凍らせたのかな?!

 

「遠慮なくいかせてもらうよ、カルメン!」

 

 そして今度こそとばかりにパンサーも仮面を外し、その化身による火炎属性魔法(アギ)を振るってきた。動けない、そしてペルソナもない、私へと。

 

「あああああっ?!?!」

 

 近いのはカネシロパレスで出会ったオロバスから食らった一撃だけど、思い出したのは初めてメメントスで出会ったマンドレイクの一撃だ。それ以上の痛みと熱が咄嗟に出した左腕を中心に襲いかかり、活力と思考の幅を狭めていくような、焼き尽くしていくような感覚が私を襲った。

 

「これ、は……!」

 

「もう一撃だ!」

 

 そして続くフォックスの大切断が迫る中、私は己が動けなくなっている事を悟った。ただ痛いとか瀕死とかいうわけじゃなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そんな――

 

「あっ……」

 

 バツンと、何かが切れる感覚がした。何か途切れてはいけない大事なモノが、断たれてしまったような。

 だから当然立ってなんていられないし、視覚も聴覚も遠ざかっていくばかり。膝を折ってうつ伏せに倒れたから、血も出てないように見えそうなのが救いといえば救いかもしれない。

 

 そうして二人の顔の後に床の模様を直近で見つめる事になりながら、私の意識は闇へと落ちていった。何となく異世界帰りで疲れ果てて寝落ちするのと似てるなぁとか、そんな事を思いながら。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「え?」

 

「やった、のか?」

 

 その驚きは、勝者であるはずの二人の方が強かった。

 

 怪盗団の前に時折現れる、謎の黒仮面。まるで自分たちの行動を全て把握してるかのようなタイミングで登場し、結果として助けられてきた事になる存在。

 

 正体は不明のままだが、それでも厄介な存在であるという認識だった。自分たちと同じくパレスの奥深くまで侵入出来て、前回は殿すら務めてみせたのだ。少なくとも自分たちと同じだけの戦力を有していると見るのが自然だろう。

 

 そのはずの相手が、たったの二撃で倒れ伏している。その光景は、二人を困惑させるには十分なインパクトを持っていた。

 

「なんか、呆気ないっていうか……」

 

「そうだな。パンサーが一度やられたかと思った一幕もあった位だから、もっと苦戦すると思っていたが」

 

 今までのシャドウ達と違って普通に攻撃しただけでは当たらず、二人で隙を作ってようやく撃ち込めた程の相手ではあるのだ。それなのにコレで終わりなのかと、ある意味でのギャップに二人して驚きを隠せなかったのだ。

 

 そしてシャドウ達と違い、塵となって消える事もない。ただ動かず物言わぬ物体としてそこに有り続ける姿に、どこか気味の悪さすら感じてしまっていた。というよりこれでは、まるで――

 

「フォックス、パンサー! 倒せたのか?!」

 

「あ、ああ! 無力化には成功した! 今から仮面の下を見る!」

 

「分かったわ! こっちはまだかかりそうだから、合流出来そうならお願い!」

 

『クソぉ、オレのブタトロンが……!』

 

 声に気付いて振り向くと、ジョーカー達はあのブタトロンを倒して本体であるシャドウ金城との直接戦闘に入る所だった。やはりそんなに時間は経っていない。

 

「……ねぇフォックス。あの黒仮面さ、死んでたりしないよね?」

 

「……そんな筈はないだろう。パンサーは一番弱いアギを使って、俺も峰打ちのつもりで放ったからな。それで死ぬような奴のわけがない」

 

 そもそも不安がる事自体がおかしいと、笑い飛ばしてもいいくらいの疑問。なのにパンサーの声には不安が込められていて、フォックスの返事もどこかぎこちなかった。

 

 だってあのカモシダもマダラメも激闘の末に死ぬまでは行かなかった。この世界での戦いの結末に死がないとは言わないが、それでもこんな所で遭遇するはずがないと、フォックスは己に言い聞かせていた。そうしないと、倒れたまま動かない黒仮面に近づく事が出来ない気がした為に。

 

 

 

 

 

 だから、彼らはその音に気付く事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「…………素晴らしい、と言わせてもらおうか」

 

「え?!」

 

「なんだと!?」

 

 そうして尻込みしてしまった二人の前で、ポツリと響く小さな声。それが火種となったかのように、黒仮面の身体が再起動を果たす。

 焼け焦げた黒コートの下から火傷混じりの左腕を露出させながら、バッと立ち上がっていた。

 

「君たち二人とも、流石の強さだ。簡単にやられるつもりはなかったのだがな」

 

「ならやはり、あの手応えは……!」

 

()()()()()。だが私としてもここで終わるわけにはいかなかったのでね。なので此度はここまでとしておこう」

 

「あっ、しまった!」

 

 二人が突然の復帰に驚いている内に、黒仮面はエレベーターの中へと飛び込んでいた。独りでに閉まる扉の間から、何事もなかったかのように彼は言う。

 

「この先も怪盗団が活躍する限り、私はそれを観測する為に現れるだろう。例え何度倒れる事になったとしてもな」

 

「くっ、待て!」

 

「期待しているぞ、怪盗団」

 

 フォックスが悔しそうに手を伸ばすも、動き出したエレベーターが止まる事はない。ブタトロンが落とされたシャドウ金城にもそこまで気にする余裕はなく、上階へと上がっていく黒仮面をただ見送る事しか出来なかった。

 

「ごめんジョーカー、黒仮面に逃げられた!」

 

「相手の方が上手だったか……! ならこちらに加勢してくれ!」

 

 そして他の怪盗団のメンバーも、シャドウ金城が呼んだ増援によって楽観視は出来ない状況になっていた。

 それでも二人増えた事で敵の猛攻を凌げるようになり、最後にはシャドウ金城一人だけが敗北に打ちひしがれる事となっていた。

 

「ったくよ、そんな力があるんなら、何だって思い通りだってのに……」

 

「テメェと同じにすんじゃねぇ! 俺たちは、俺たちの正義の為にやってんだ!」

 

「はは、意味あんのかね、その正義感……。やってる奴がもういるってのによ……」

 

「もう、いる……?」

 

 そうして敗れたシャドウ金城は、その事を受け入れるのと同時にそんな事を言い出した。

 パレスを使う事で『廃人化』や『精神暴走』を現実に引き起こしていると語るそれは、怪盗団にとっても心当たりのある話だった。

 

「それがあの黒仮面って事か?」

 

「ああ、そうだろうよ……。近々行くから歓迎しろとか言ってたが、きっとオレも消すつもりだったんだろうな」

 

「そう、なのかな……?」

 

 怪しさ満点かつ自分たち以外でパレスに侵入出来る存在である以上、あの黒仮面がパレスを悪用していると見るのが自然だ。けれど今回対峙した一人であるパンサーからすると、少し違和感が残った。

 

「結局アイツは何もせずに去っていったのよね。もしかして、私たちに改心させればそれでいいと思ってるのかしら……」

 

「まぁ精々気をつけるんだな。アイツの力はお前らの比じゃない、からな……」

 

「そうは見えなかったが、しかしあの立ち回りは……」

 

 同じくフォックスとしても素直に受け止める事が出来なかったが、シャドウ金城が消えた事でパレス全体が崩壊の兆しとばかりに震えだす。そこからは脱出までのゴタゴタで考え事をする暇はなく、次にこの話題が出るのは少し後になるのだった。

 

 ☆☆☆☆☆

 

「おい寺崎(カトル)、本当に大丈夫か?」

 

「大丈夫大丈夫。ちょっとまだふらつくだけで、自分の足で歩けるとは思うからさ」

 

 上昇するエレベーターの中で、壁に背中を預ける私に三島くん(レイ)が心配そうに尋ねてくる。力ない笑みにならないようにしながら、私は手を振った。

 

「あーでも、この左腕はちょっとマズいかも。折角前の火傷が治ったばかりなのに、あとで包帯でも巻いて置かないとだね」

 

「いやそれもそうだけどさ。寺崎(カトル)あの時、()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「……そうかもね。いや、多分そうなんだと思う」

 

 三島くん(レイ)が言っているのがどの時か、確かめる必要もないだろう。

 パンサーのアギによってワンモアされ、フォックスの大切断を食らったあの時。身体から力が失われて倒れたあの瞬間、きっと私のHPは尽きたんだと思う。

 

 つまり私は一度戦闘不能になっている。有り体に言えば死んだのだろう。こうして蘇生出来たからには本当の死とは言えないはずなんだけど、あの意識の途絶え方的に、ただの気絶とも違う気がした。

 

「本当にああなるとは思わなかったけど、三島くん(レイ)に頼んでおいてよかったよ。ありがとうね!」

 

 それでもこうして動けているのは、三島くん(レイ)に預けておいた地返しの玉によるものだ。私があの場へ飛び出していく前に、彼に頼んだ事がそれだった。

 

『だからさ三島くん(レイ)、もしもの時はそれを私に投げて欲しいの! そうすれば万が一が起こっても大丈夫だと思うから!』

 

『万が一って、ちょっとおい!?』

 

 元々はカネシロに投げる用にパレス内のオブジェクトを通りがてらに探ってた時に拾ったモノだけど、カネシロから狙われたら一溜まりもないと思って託したモノだった。結果としては怪盗団の二人にやられた私に向けて投げてもらったんだけど。

 それで意識を取り戻した私は不審者ムーブを再開。ちょうどカネシロの方も手一杯そうだったので、それでどうにかあの場を脱出出来たというわけだ。

 

 だからこれで万事解決――なはずはなかった。

 

「……いや寺崎(てらさき)、今回のはその、駄目だろ」

 

三島くん(レイ)?」

 

「一度も前に出てない俺だけど、寺崎が自分の意志でやってるってのも分かってるけど、でもさ」

 

 広くないエレベーターの中で、私と向かい合う三島くん(レイ)――いや、三島(みしま)くんの声が響く。落ち着いていながらも思いを秘めた言葉が、私を真っすぐに射抜いた。

 

「怪盗団を見る為なら何度倒れても構わないって奴、俺は認められない。正体を明かすだけでそれが回避出来るのなら、そうすべきだと俺は思う」

 

「…………」

 

「それにさ。お前が倒れて動かなくなった時、俺は怖くなったよ。慌ててあの玉を投げて起きたから良かったけど、お前のその、友達としてああいうのは、あんまし見たくはないからさ」

 

「三島くん……」

 

 最後の方はちょっと視線を逸らす時もあったけど、それが彼の本心から来る懇願である事は分かった。分かってしまった。

 だからそれに対する返答は、彼の気持ちと私の考えを飲み下し終えてから絞り出す必要があると思った。

 

「……そっか、また心配かけちゃったんだ、私」

 

 ごめんとはまだ言えなかった。彼に助けられてばかりの癖して何も返せていない私がそんな事を言っても形だけになってしまうし、そもそも私はこの在り方を止めるつもりはない。私が私である限り、怪盗団を追うことを止めたりはしないだろう。

 

 でも、今の三島くんと似た顔をした二人がいた。倒れた私を見て驚き、心揺れた人が他にもいた。その誰もが原作のキャラだった。誰もが私の好きになった、その活躍に見惚れた人たちだった。

 

 そんな彼らにこんな顔をさせて、私は一体何をしているんだろう?

 

「無茶するなってこの前言われたばかりなのに、全然意識出来てなかったよ。本当に、返す言葉もないや」

 

 だから私は目を伏せて、己の業を省みる事にした。

 やっぱり力もない私が出しゃばるべきではなかったんだろう。それならそれで表には出ずに、遠くから慎ましく見るべきだったのだろう。そうすれば、少なくとも協力者である彼を不安にさせてしまう様な事態にはならなかっただろうに。

 

「分かったよ三島くん。今回みたいな無茶はもうしない。戦えないのに前に出るなんて危険な事は、もうしないと誓うよ」

 

「えっ、本当に? 寺崎はそれでいいのか?」

 

「なんでそこで三島くんの方が驚くのかは分かんないけど、それくらいはするからね? 私だって別にやられたいわけじゃないし」

 

 見方を変えればあの怪盗団から直々に受けたキズなのでそれはそれで悪くないかもだけど、やっぱり左腕の火傷は痛くてヒリヒリするままだ。これを増やしたいとは流石の私も思わないのである。

 

「ならこの先はどうするんだよ? ストーカー、じゃない応援団はここで終わりって事か?」

 

「そういうわけじゃないけど、一旦お休みかな。今のままだとどうやっても無茶をしなきゃいけなくなるからね。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そうだよな、もうこういった事は出来なくなるんだから当然…………え、夏が勝負? どういう事?」

 

「決まってるでしょ三島くん。今の戦えないままだと無茶をするしかなくて、その所為で三島くんや他の人の迷惑になるのなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そのタイミングでピンボンと、エレベーターが元の上階に到着した音がする。ゆっくりと開いていく扉の方へと動き出しながら、私は彼にこの先の事を告げる事にした。

 元々その予定だったけど今回の事でより必要だと分かった分、はっきり強気に元気よく!

 

「だからさ――そろそろペルソナを手に入れよっか!」




☆寺崎叶
 0キル1デスの人。別に死ぬつもりはなかったけどワンモアからのデスコンボは聞いてなかった。
 最終的にはHPが半分になった状態で帰還出来たので、寝込むのは一日で済んだ。

☆三島くん
 体力的にも精神的にも過去最高に疲れた人。ちょっとトラウマになるかと思った。
 どう考えても寺崎が悪いのだけど、それに付き合ってる自分も同罪なのかと少し悩んだりもしている。そんな事はない。

☆怪盗団のみんな
 いつ現れてもいいようにはしていたが、結果として更に謎が深まってしまった。
 魔法攻撃だったパンサーはともかく、物理攻撃だった為に割とダイレクトにその感触が伝わってきてしまったフォックスは内心結構驚いていた。これも寺崎って奴が悪いんだ。

☆カネシロ
 この作品では『誰が精神暴走事件の犯人かは知らないが、廃人化ビジネスの繋がりからその存在は知っていた』という設定にしています。そこから突然『会いに行くので歓迎をよろしく頼むよ』とどこかの誰かから言われた事で認知が変わったそうな。

閲覧、評価、感想、誤字報告など誠にありがとうございます!
設定ミスや矛盾があったらなるべく反映や修正はしていきたいと思ってます! メイビー!
それと暫くは魔法少女が大体死ぬ作品をプレイしに行くのでちょっと更新落ちるかもです。ご容赦くださいませ。
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