……ちょっとよく分かりませんが本当にありがとうございます! この先も頑張ります!
ちょっとこの回はあそこで区切りたかったのでちょい長め、かつ尖った内容ですがよろしければどうぞです!
「ようこそ祈り人――いえ
テレビの中に落ちてしまった事で作られた、私の心を映した聖堂。その上部に嵌められたステンドグラスからの光に照らされながら、黒い修道服を着た少女はそう告げる。わたしと同じ顔をしていながら、まさしくこの場の主であると言わんばかりに。
「私が罪人って、どういうこと?」
「
「むぐっ」
試しに尋ねてみたら、思ったよりも冷やかな目で事実をぶつけられて困惑する私。分かってはいたけど、やっぱり当たりが強いなぁ……!
「さ、流石は私のシャドウだね……。いや否定はしないけども」
「……その態度こそが罪人である証だと言っているのですよ。
「そんな事、はっ……!」
シャドウの言葉に思わず言い返そうとするけど、途中でその危険に気付いて思い留まる。
ここがテレビの世界である以上、説教台の前に立つあの修道服の少女は私から抜け出たシャドウで間違いないはず。そしてその目的は、オリジナルである私に否定される事だろう。そうする事で自我と力を手に入れ暴走し、最終的に私を殺すのだ。
要は抑圧してきた自身の裏側によるストライキってわけだね。当然そんな事をさせるわけにはいかないので、落ち着いていかなければ。
「…………いや、そうだね。私は怪盗団のストーカー、認めるよ」
「そうですか。素直な事は美徳ですからね。これからは誰に言われてもさっさとそう認める様に。いいですね?」
「……なんで私はもう一人の私に説教されてるんだろう?」
おかしい。これも自分と向き合う一環のはずなのに、なんか釈然としない。ホントにアレって私のシャドウなんだよね? 私ってあんなにしっかりしてたっけな……?
「活躍を見たいという身勝手な理由で彼らの後を追い、異世界へと押し入り、ペルソナの覚醒シーンを盗み見るというプライバシーの侵害行為を犯した。間違いありませんか?」
「……うん、全て事実だよ。私は自らの意志でそうした。確かにそれは罪と言える気が……いや、私の罪だよ」
「はい、そうですね。
「え?」
――今、
途中で言い直したからそう評してくれたのかと思ったけど、そうじゃない事に気付いて私は驚く。気持ちの良い返事だと言ったのではなく、罪そのものを気持ち良いと、恍惚とした表情で
「ゲームで見た名シーンを、彼らの魂からの叫びを、その目で見られて嬉しかったですよね? 心地よかったですよね? 諸々の危険を冒してまで行った甲斐があったと、本気でそう思いましたよね?」
「そ、それはそう、だけど……」
「尻込みする必要はありません。あなたがその行為を罪だと認める事と、その行為を胸の内でどう感じているかは矛盾致しませんから。反省はするが後悔はしていない、という奴です」
「いやいや、そんな事が許されるわけないじゃん?!」
「本当の
「っ!?」
息を呑んだ。熱を孕んだ顔から、蔑むような冷たい視線と言葉への急転直下。そのギャップと内容の鋭さに、私は胸が詰まる感覚を味わった。
「何度も同じ事で驚かないでください。
「う、ぐぅ……!」
言い返す事が出来ない。それは否定すればシャドウが暴走して危険だという保身的な考えと、そもそも事実だから反論しようがないという諦めの末だった。
なるほど、確かにこれはキツい。見たくない自分の負の側面が自立してあまつさえ責めてくるとか、悪夢以外の何物でもなかった。
「……面白かった。うん、楽しかったよ。実際にパレスなんて異世界に足を踏み入れて、怪盗団の皆の活躍を目の当たりに出来て、とっても満足してる。それが間違いなく、私の抱いた感想だよ……!」
「はい、全く持ってその通りです。だってとてもとても良いものでしたからね、仕方がありません」
私が苦渋の思いで認めると、その修道女は私と同じ顔で微笑む。それは出来の悪い親の更生を喜ぶ子供のような、そんな無邪気な笑みが私の胸をザワつかせる。
「確かに私は後悔してない。この先もきっと同じ事をする。でも罪の意識がないわけじゃない! 反省もするし、責任だって取ってみせる。丸喜先生の忠告だって、ちゃんと覚えてるから!」
「本当に、そう思っていますか?」
「あ、当たり前じゃん!」
これ以上ペースを握られるのは良くないと感じて声を荒げるが、対する修道女の反応は淡白なものだ。
今の発言に嘘はない。私の本心から発したモノの筈なのに、しかして私のシャドウである彼女が素っ気ないという事は、じゃあつまり。
「なら開示致しますが、それは吹けば飛ぶ位に軽い、薄氷の如き決意ですよ」
「っ! ……それってつまり、口だけで本気で思ってないって事だよね?」
「その通りです。これが口先だけの指摘ではないと、理解出来ますよね?」
「……………………そんな、わけ……!」
認めたくない。肯定したくない。向かい合いたくない。
けれどこの修道女と同じくらいに冷静な客観視をしてしまえば、やはりそれは私の中にあるモノだと分かってしまって。それがどうしようもなく嫌だった。
「
「違うっ!!! 私はそんな人間じゃ……! 私は、わたし、は…………!」
激昂した私をただ見つめる――いや見下す修道服の女の視線で、熱が下げられていくのを感じる。
却下したい。否定したい。逃げてしまいたい。
でもそれはやっぱり真実で。だからこそ湧いてくる欲求で。だから反抗するのは間違いだと気付いて。
熱が冷める。熱が上がる。言うべき事を確かにする。
「……う、ぐぅ……!」
震える足に、震える口に力を込める。
だって特捜隊の皆と違って、この場にいるのは私だけ。私の痴態を、本当の私を見ている人はいない。
ならいいのかもしれない。先へ進む為に認めても、いいのかもしれない。それが正しいのだと私は識っているから、だから――!
「…………うん、そうだよ! 私は自己中の最低な女なんだ! 丸喜先生に言われてから考えてるけど責任を取る方法なんて分かんないもん!」
「…………」
「三島くんとの約束だって守りたかったけど、結局一人で異世界に来ちゃった! それでも仕方ないって思っちゃったのも本当! 後で謝ればいいと思ってた!」
修道服の女は何も言わない。あたかも懺悔を聞き遂げる神父のように、私の抑えきれなくなった慟哭をただ受け止めるだけだ。
「そんな女が、私だよ。あなたの言った事は全て本当で、言い返す余地なんて何処にもなかった……!」
崩れ落ちそうな身体をどうにか支えながら、私は自身のシャドウの言葉を認める。その存在を認めようと奮起する。
それは正しく身を切るような辛さだった。例え他の人がいなくても、誰でもない私の前でそれを口に出す事は想像以上の精神力を必要とする行為だった。
そんな私を見てもピクリともしない修道服の女が、されど口を開いて告げる。
「そうですね。
「……そっか。だから、あなたは修道女なんだね……」
シャドウの言葉で合点がいった。なんで私の心の内からこんな建物とシャドウが出てきたのかと思ってたけど、それが答えだったらしい。最初から、私は己の罪を知っていたらしい。あぁ、だから――
「それであなたが、私をこのテレビの世界に呼んだんだね」
思い出すのは旅館のテレビに落ちてしまった、そもそものきっかけ。誰かに引っ張られたような気がしたけど、シャドウの私が呼び込んだと考えれば納得ができ――
「――違います」
「……………………え?」
……今、なんて言った?
「この世界にあなたを呼んだのは私ではありません。そもそも、誰もあなたを呼んでいません」
「…………何、言ってるの? それじゃあ、なんで私が落ちたのかが分からなくなって」
「あなたが勝手に落ちたんです。無意識に、されど自らの意志で」
「……は?」
思考が止まった。ようやく認められるかもと思った修道服の女の理解に齟齬がある。それを感じてフリーズする私に構わず、彼女は更なる言の刃を紡いでいく。
「そしてそれを勘違いした。声をかけられたという尤もらしい理由でもって認識を上書きした。ああ、如何にも
「な……え……?」
何もおかしくないとばかりに教えてくる修道女に、私の理解がどうしても追いつかない。追いつきたくない。
しかしそれに気付いて、溜息と共に蔑んでくるのはやはり修道女の方だった。
「もしや、この程度で私を認められたと思ったのですか? 私はあなただと受け入れて、ペルソナが手に入ると思いましたか? そんなわけないじゃないですか」
「っ?!」
それは考えないようにしてきた事。この問答の先にある報酬。予定調和の末に手に入るかもと思った甘えを、彼女は容易く切り捨てる。
「そもそも、
「待って、待ってよ! 私はストーカーで、自分しか見えてない人間なのは認めたんだよ!? これ以上、何があるっていうの?!」
混乱極まる中、救いを求めるように問いつめる。
そんな迷い惑う私を教え導くように、修道服の女は指し示した。
――その先にある、本当の
「決まっています。先を知るが故に全てを思い通りに出来ると思い込み、他者の気持ちも生死を厭わずに振る舞う。そんな強欲で傲慢な在り方の事ですよ」
☆☆☆☆
調査へと向かう前日の夜。本職が探偵である直斗は、己の考えをチャットでこう語った。
「僕が気になったのは、彼女が八十稲羽にやってきた目的です。天城先輩、彼女が旅館の予約を取ったのは
「えっと、確か四月末だったと思う。うちの宿に高校生の女の子が一人で泊まりに来るなんて珍しいから、印象に残ってるよ」
「よっぽどの旅好きじゃないとそんな事はしないよね、普通は。私みたいに仕事ってわけでもないんでしょ?」
雪子が当時抱いた所感に、仕事柄移動の多いりせが共感を示す。依頼があれば各地を転々とする事になる直斗もそれには同意見だった。
「繁忙期である八月に泊まろうとするなら、それくらいで予約をしても珍しくはありません。しかしそれ程に計画的な旅行でありながら、彼女は旅館までの道を菜々子ちゃんに訊いているんです」
「駅から旅館までの道を調べてなかったって事か? そんなに前から予定を立てて遠路はるばる来ておいて、なのに道に迷ってるってのはまぁ変っちゃ変かもな」
補う様に話す陽介も、そして直斗も後から八十稲羽にやってきた側の人間だ。それ故に観光資源の多い町ではない事実を知っている。
なので最大の目玉と成り得る天城屋旅館に関する情報が不足した状態で観光に来た事に違和感を覚えたのだ。まぁ、普通に道が複雑で迷った可能性もあるだろうが。
「だから雪子のところ以外にも目的があったってわけ? 言ってる事は分かるけど、それだけで決めつけちゃうのはなんか……」
「勿論それだけでは可能性の一つでしかありません。しかしマリーさんが何か違和感を覚えたのであれば話は別です。具体的にはよく分からなかったんですよね?」
流石にそれが薄い線である事は直斗も理解している。しかしそれをあるかもしれないと思わせた証言者へと、直斗は水を差し向けた。
「うん。良いモノじゃないけど悪いモノだとも言えないみたいな、そんな感じ」
「良くも悪くもないもの……? なんじゃそりゃ」
「ムムム……さっぱりわからんクマね」
「だからそれを確かめに行くって言ってるじゃん。あっち側なら力も強くなるし、分かると思うから」
マリーの感じた事にどんな意味が込められているのか、明日突入する予定の二人が揃って首を傾げるが、流石の直斗もその答えにはまだ辿り着いていない。けれど分かる事もあるとばかりに口を開いた。
「マリーさんが彼女に感じたのは、きっとペルソナやシャドウといった異世界にまつわる何かのはずです。ならばその子はペルソナを持っていないにも関わらず、そういった分野に詳しいのかもしれません」
「それこそ八十稲羽のマヨナカテレビの噂だったり、テレビの中に入れる事とかだな。彼女がこの町に来た主目的は、もしかするとそちらの方かもしれない」
「その為に来たって、まさかそんな……! ペルソナは持ってなさそうなのに?」
「そのはずクマよ! だからあっちに落ちたあの子の気配と新しい場所が出来てるクマで……あり?」
「そうなんです。彼女はペルソナがないにも関わらず、一人でテレビに落ちている。それが何を意味するのかという話です」
ペルソナがなくてはテレビの中に入れない。しかしペルソナがないから、あの世界に彼女由来の場所が生まれている。この矛盾は特捜隊の他の面々にも違和感を覚えさせるには十分なものだった。
「
「最初の方でも言ってたけど、鳴上くんみたいに他の力を持ってるかもって事だね。確かにちょっと気をつけないとかも」
「俺と直斗が何か見落としている可能性も勿論ある。だから三人とも、くれぐれも注意してくれ」
「分かった。任せて」
最後にリーダーである悠がそう戒めた事で、その日のチャットはひとまずの終わりを迎えたのだった。
そんな忠告を受けた三人は翌日、ジュネスの家電売り場の一角にある薄型テレビの前に集まり、そのまま異世界へと突入した。
あれから数年が経って製品の入れ替わりも行われたが、陽介が職権を駆使する事で今もあのテレビは健在なのである。
「スンスン……間違いないクマ、こっちクマ!」
「そうだね、行こう」
「二人とも頼りにしてるぜ? 勿論シャドウが出てきたら俺がブチのめしてやるから、ガンガン言ってくれ!」
「うん、任せた」
いつものキグルミ姿になったクマと、お天気お姉さん衣装で平然としているマリーの先導によって、霧の晴れた異世界を進んで行く三人。
因みに完二は事件が終わって以来髪を黒く染め戻しており、勉学や細かい作業で付けている事の多い眼鏡を異世界用に変えた姿での参戦だ。なお八十稲羽の面々はもう慣れたので特に反応はない。
「うお、マジでここだけ霧が出てやがる。眼鏡で見通せるから前のと同じ筈だよな……?」
「みたいだね。けど思ったより薄いし、大した事はなさそう。模してるだけって感じ」
そうして進んで行った先の森には、クマの報告通りの霧が発生していた。軽く驚く完二と違ってマリーは冷静に観察し、その実態に少しだけ警戒度を下げる。
勿論、何故あの時の霧を似せられるのかという問いを踏まえた上での行動である。
「むむ、見えてきたクマ! あの建物から気配がするクマよ!」
「あれは……教会か?」
先頭を進んでいたクマが声を上げる頃には、最後尾にいた完二にもその全体が見える程になっていた。
薄い霧が漂う森の中にあったのは、古びた石造りの教会のような建物だ。嵌められたステンドグラスが妙に多いのが気になるくらいで、少なくとも地表に出ている部分におかしな所は見受けられない。
「地下もあるけど、別に広くない。前の皆みたいに探索してなくてもいいと思う」
「ほほー、そこまで分かるなんて流石のマリちゃんクマね!」
「こんなの大した事ない。この世界を管理してるついでってだけだから」
クマのおべっかに満更でもない様子で答えるマリーは、このテレビの中の異世界を管理・維持している存在だ。最初にこの異世界を創造した存在から権限を引き継いだが故の芸当であり、そんな彼女はもう一つの重要な事実に気付いた。
「あの中に人がいる。多分あの変な子と、そのシャドウ」
「シャドウがもう出てんのかよ! なら急がないと――」
マリーの報告に慌てる完二だが、それを遮ったのは人の手によるものではなかった。
「クマっ?!」
「なんじゃこりゃあ!?」
「
教会の周囲に張り巡らされていたのは、幾重もの鎖だ。教会近くの木々にも巻かれていたそれは、事件現場に張られる立ち入り禁止のテープの代わりを果たしているようにも見える。
常人であればその不気味さに二の足を踏みかねない環境だったが、それに該当しないマリーは難なくそれに手を置いた。
「……この鎖には何も感じないから触っていいと思う。隙間を縫っていけば、あの教会に辿り着けるはず」
「よし、なら急ごうぜ! こんな事になってんだ、中で何か起こったに決まってる!」
「むぐぐ、クマのプリチーな身体じゃ時間がかかるクマよ〜! ていうか、マリちゃんの時のをちょっと思い出――グエッ」
「変な事思い出すな、ほら行くから!」
クマの手を掴んで引き摺りギャアギャア喚く口を強引に塞ぎながら、マリーとその一行は教会――もとい聖堂の入口へと向かって行くのだった。
「……こんな有様になってるなんて、一体何が起こってるの?」
その胸中に、微かなざわめきを感じながら。
☆☆☆☆
「強欲で、傲慢……」
聖堂の中央に敷かれたカーペット。その道半ばで立ち尽くす私は、同じ顔をした修道女――私のシャドウの言葉をただ反芻する。ステンドグラスの光がグルグル回っているような、そんな錯覚すら覚えそうだった。
「もう分かっていますよね?
「…………三島くんに、丸喜先生。それに、怪盗団のみんなだよね……?」
「概ねはまぁ、そうですね」
シャドウに言われて頭に浮かんだのは、今までに関わってきた人達の顔だ。至らぬ私の所為で多大なる迷惑と心配をかけてしまった事は分かる。良くないけどそれはいい。
「でも、生死を厭わずってどういう事!? 私、誰も殺してなんか――」
「殺させましたよね、
「いな……いし……」
ぴしゃりと浴びせられたのは、カネシロパレスでの一件だ。正体をバラしたくないという一心で怪盗団の二人と生身で戦い、一度は死んでまで切り抜けた苦い思い出であり、三島くんとの約束を交わす事になったきっかけでもある。
「ペルソナのない
「っ……!」
そしてフラッシュバックするのは、あの二人の驚愕に染まった顔だ。そこから私が目覚めた後、彼らから罪悪感を感じなかったと言えば嘘になってしまうだろう。
つまり、私は、二人をヒトゴ■シにしてしま■た?
「違う、違う! そんな事ない! だって私は生きてるんだよ?! だからあの二人がそんな事になったりなんて――!」
「あなたがどう見做すかではなく、当人たちがどう思うかです。あの時の様子では負い目にはなっていそうというのが
「それはっ、それは……!」
どんなに私が声を荒げてもやはり修道服の少女は冷静に、ただ事実だけをぶつけてくる。
それは正論と呼ぶべきものではない。だってそれは、最初から私の中にあったモノだったから。ただ今まで目を背けてきただけのモノだったから、正しさなど最初から担保されているのだ。
だから、やはり言い返せない。
「大丈夫ですよ、私。こんな事は序の口です。彼らの活躍を見る為に必要な過程だった。そう認めてしまえばいいだけですから。そう
「……認めれば、いいだけ?」
「はい。これは仕方のない事だったと、私の望みの為に必要だったからと、そう考えてください」
そこで何故か、その修道女は笑みを見せてワケの分からない事を言ってくる。初めて私を案じるような声だったから、理解が追いつくよりも困惑の方が早く表に出てしまう。
まさかこれが、私のシャドウが求めていたものだったの? 私は、そんなモノを認めて欲しいと思っていたの?
「……そんなの、出来るわけ……」
「おや、まだ駄目でしたか。
「――待って。ちょっと待って! なんでまだ私をヒトゴロシって言うの!?」
「? だってこれから見殺しにしますよね。校長に
「……………………ぁ?」
そうして
「既に怪盗団に罪を擦り付ける為の計画は始まっています。その為にもうすぐ校長の死がでっち上げられ、追い詰める為に奥村社長の死も利用する事が予定されています。そうして怪盗団は明智くんに手引きされ、ニイジマパレスへと潜入する事になるでしょう」
修道女が長々と語るのは、この先の未来の出来事。原作を知る私だけが全体を把握している、避けることが極めて困難な既定路線。私が何もしなくとも起こる、そんな可能性の一つ。
「そうして予告状を出してしまえば罠が発動し、怪盗団のリーダーの獄中自殺へと流れが収束するのです。しかし一手早く明智くんの裏に気付いた怪盗団は、逆にその計画を利用して最後の戦いへの準備を整える。初めてプレイしていた時は、そのどんでん返しにとても胸躍らせていましたよね」
ストーリーの中でも特に盛り上がる場面だったと、彼女は噛みしめるように笑う。私もそう思っていたはずなのに、今はその過程に転がる人の死がそれを許さない。
「そうしてシドウパレスへと潜入してルート確保へと奮闘する途中、生存に気付いた明智くんとの戦いが始まるのです。狂気に呑まれた彼との戦いの果てに秘めた思いを知り、最後は怪盗団に取引を託して彼は散る。少なくともあの段階で、彼が生きて現実に戻る事はないのでしょう」
識っている。明智くんとの戦いは私も好きだから、彼と共に戦いたかったと願った一人だから、ロイヤルでそれが叶うまで無念を秘めていたあの頃を覚えている。そこにも死というトリガーが付きまとっている事から、私はもう意識を外す事が出来ない。
「全部、この目で見たいですよね? 折角この世界にいて、異世界に入る事も不可能じゃなくて、もしかしてペルソナも手に入ってしまうのなら。全部事細やかに見たいんですよね?」
その衝動を抑えられない。その欲求が止まらない。だから彼女も話し続ける。
「だから彼らの死も仕方のない事です。原作でそう決まっている事なのですから、全てを識っている私が何もしないのは間違っていません。見殺しにする事は、認められるべきなのです」
「そっ、そんなわけない!! 死ぬことが正しいなんて、そんな馬鹿な話があるわけないじゃんっ?!」
「ならば助けますか? 全てを識っている
「そんなのは無理だけどっ! 奥村社長とか明智くんならきっと、もしかしたら私でも……!」
「無理ですよ。ゲームのキャラじゃない
「え……? え……? ちがう、なんで……?」
ワケが分からない。それは彼女が言っている事の内容ではなく、それを否定しきれずに受け入れてしまえている己自身に、私は混乱を隠せなかった。
「……そんな、つもりじゃ…………」
怪盗団とは関わらず、大筋を変えない事を選んだ私。それは全てを見届ける事でありながら、その実全てを見捨てる事でもあった。そして助けるべきだと識りながら動かない事を、人は怠惰と呼ぶのだろう。
いや、そもそもその考え方自体が――
「そして
――だから、私がこうして形になったんです。
そう言いながら、修道服の女が私へと近づいてくる。焦点が定まらなくなっている瞳に映った彼女は、両手を下方に広げて宣言する。その存在を、深く刻み込もうとするように。
「我は罪。真なる影。表の
いつの間にか私は崩れ落ちていた。膝をつき、ダラリと腕を伸ばしたまま首だけを上に持ち上げ、その女の顔を見つめる。どんなに見るのが怖くても、もはや逸らす事すら叶わない。
「これで分かったでしょう?
「……………………わた、しは」
「これで
私の肩を掴んで、シャドウの彼女がその金色の瞳を輝かせる。もしかしてこのままパクリといくんだろうか。それもいいかなと思いながら、私は言葉の続きをただ待って。
「――私を認めてくれますよね?
「……………………え?」
もう何度目か分からない、音だけの声を発した。
「だってこんなの誰にも話せない。誰も分かってくれない。この世界をゲームで知ってるなんて、誰が信じてくれるって話だし」
格好も声色も変わっていないのに、修道服の彼女が変わった様に見える。私と同じに感じる。目の前にいる少女は、気づけば私そのものになっていて。
「だから怪盗団の皆を見たいって願いも認められない。許してもらえない。そんなのは嫌だからさ、せめて私だけはいいんだよって、言って欲しいの」
「な、にを……?」
「仕方ないって言って。許してあげるって言って。これはしょうがないんだって、笑って認めてよ。お願いだから、お願いします」
そんなちっぽけなもう一人の私は、いつしか縋りつくようにそう懇願していた。
それは修道女が神へと祈りを捧げるように。私から分かたれた裏の欲求が、本体である筈の私へとそう訴えかけていた。
「そうすれば私はまた走りだせる。怪盗団の皆を追える。
「……………………
……ああ、ようやく分かった。私の本心が、私のシャドウの言い分が何なのか、ようやく理解出来た。つまりはこんな私にも、まだ怖いものがあったという話らしい。
確かにこれは私だ。他でもない丸出しの私そのものだ。だから否定なんて出来ない。
そしてこれは罪だ。言い逃れの出来ない私の罪そのものだ。けれど今の困惑と不安で軋んだ頭じゃ、やはり肯定なんてのも出来なくて。
シャドウを暴走させるわけにはいかない。ペルソナだって手に入れたい。やるべき事は分かっている筈なのに、どうしたらいいのかが分からなくて。
結局私は何も言えなかった。口から出るのは、呻き声に似た音だけだった。
「……迷っているんですね。葛藤しているんですね。幾ら
そうして動きを止めた私から手を放し、シャドウの私はゆっくりと立ち上がる。その顔には慈愛が、信仰が滲んだような笑みが添えられていた。
「でも大丈夫ですよね。歪んだ望みを捨てられない
手足に力が入らない。思考が纏まらない。今は何も、何も視える気がしない。
「――
遠くなっていく耳に、そんな聞き慣れた声が最後に響いた。
☆マリー
悠が不在の結果、代理のリーダーみたいになった。
管理者云々は捏造設定、かつそれ故に最強とかでもない。けど戦う手段はあります。
☆完二
いわゆるP4G後日談での姿。ちゃんと成績も評判も太鼓判を押されるほど。
しかしそちらに励んでいた為、戦闘に関してはだいぶ鈍っている。他の皆も同じだけど。
☆クマ
なんだかんだでキグルミ姿と人の姿の過ごす割合は大体同じ。
クマの故郷であるという理由でテレビの中の異世界は残してもらっている。
☆叶の影
寺崎叶が目を背けてきた側面。己が欲望の為に切り捨ててきた、真実の罪。
贖う事ではなく、ただ受け入れてくれる事だけを望む。そうしないと、いけませんから。
☆寺崎叶
この物語はフィクションである。しかして汝にとってこれは現実である。
――今こそ、汝の歪みの深淵に立ち向かうがいい。
閲覧、感想、評価、誤字報告など誠にありがとうございます!