私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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お待たせしました、戦闘メイン回です。
自分が描く戦闘は大体こんな感じになりますので、ご容赦をば。


#19 あなたも私と向き合わなければならない

 

「――我は影。真なる我。……許してくれない私なんて、認めません……!」

 

 粗方の長椅子が破壊され、動きやすくなった聖堂の奥。鎖の繭を破ってそこにゆらゆらと浮かび始めるのは、黒い修道女(私のシャドウ)の成れの果てだ。

 

 被っていたシスターベールは最早ローブのように長くなり、その全身を覆っている。ちょうど私のペルソナを黒く染めたような姿だけど、明確な違いが二つあった。

 

「あの目、なんか見覚えがあるクマよ!」

 

「アメノサギリ……みてぇな……」

 

 私と同じ顔があった筈の所が、大きなレンズのような円形に変わっている。口も鼻も耳も削ぎ落として残った無機質な目だけが、ジジジとノイズを走らせながらこちらを見ていた。

 

「それに鎖の手って、あなたホントに鎖ばっかりだね」

 

「あはは……」

 

 そんな怪物と化した私のシャドウの両脇では、繭から形を変えた鎖が巨大な手を作っていた。私一人なら簡単に握り潰せる位の大きさの手が翼のように蠢いている。

 

 その二つが何を意味するのかはひとまず置いておく。何故なら今するべきは、回避だったからだ。

 

(あなた)だけは……!」

 

「っ!」

 

 私目掛けて飛来した鎖の掌の打ち下ろしをバックステップで回避する。ついでに身をよじりながら口にするのは例の単語だ。待望の、とも言うけどね!

 

「ペルソナ!」

 

 空中に現れた青いカードを、左腕の横薙ぎで叩き割る。腕に巻かれた鎖とぶつかって粉々になるのと共に、私の分身とも言える存在が姿を現した。

 

「叶えて、『シャルロット』!」

 

 逆にこっちは白いお化けみたいな人型なのだけど、これこそが私のペルソナである『シャルロット』だ。

 右腕に当たる部分が持ち上がると、目の前にあった鎖の手を下から巻き上げんとする局地的な強風が吹き荒れた。

 

「……ガル系、というか私が使える属性はやっぱり駄目かな!」

 

 しかし鎖の手は僅かにブレただけで、大したダメージが入ったようには見えない。私のシャドウである以上、私のペルソナが得意とする属性魔法には耐性があるという事だろう。

 

「カグヤ!」

 

「――認めません」

 

 そうして手の一つが私に構っている隙をつくように、マリーさんがペルソナで私のシャドウを攻撃する。しかし残ったもう片方の手がそれを阻んでいた。

 

「その鎖の手、攻撃にも防御にも使えるんだ」

 

「ならやっぱあの手を先に何とかしないとだな! タケミカヅチ!」

 

「認め、ません……!」

 

 続けて巽さんもペルソナを呼び出し、広範囲に雷撃を降らせる。私のシャドウは鎖の手二つを屋根のように使ってそれを凌ぐが、それでも多少は効いているらしい。つまり電撃属性は弱点ではないけど通用はする、と……。

 

(これがゲームのボス戦なら、こうやって弱点を探りながら順番に戦うんだろうけど……!)

 

「――烈風破!」

 

「クマァ?!」「ぐおッ!?」「うっ……!」

 

 お返しとばかりに私のシャドウが鎖の手を打ち鳴らすと、そこから爆発したかのような衝撃波が場の全員を襲った。

 クマさんが驚き、巽さんがパイプ椅子で受け止め、マリーさんがその勢いに少しだけ後退する。そして私はと言うと――

 

「あうっ?!?!」

 

 ――モロに食らって吹っ飛んでいた。実体のない全体攻撃とか避けるタイミング掴めるわけないじゃん!?

 

「おい、大丈夫かアンタ!」

 

「ゲホッ……! へ、平気です! 体力が6割持っていかれただけなので!」

 

「全然平気じゃないクマ?!」

 

 ゴロゴロと転がってから立ち上がった私がクマさんに回復魔法のディアラマをかけて貰いながら考えるのは、この戦況をどう乗り越えるかだ。

 

 端的に言って今は戦力が足りない。私は力に目覚めたばかりで不安定。巽さんとクマさんも覚醒前のペルソナである事からブランクがあるんだろうなと分かる。マリーさんは余力がありそうだけど、死力を尽くすべきは私であって彼女ではない。

 

 だから鎖の手を二つとも撃破してから本体を狙うという作戦は恐らく間に合わない。そんな余裕がないとなると、やはりやるべきはお馴染みの戦法しかなかった。

 

「……回復助かりました。それと皆さん、私に考えがあるんですけど、聞いてくれますか?」

 

「いいよ、聞いてあげる。どんなの?」

 

「えっと、ですね――」

 

「……ほ、ホントにそれをするクマか?」

 

 そうして私が三人に提案してみると僅かに困った顔をされたが、どうにか了承はしてくれた。そこまで変な提案はしてないと思うし、他の作戦もないからという事情からだろう。そして何より――

 

「何を企んだ所で、無駄と識りなさい!」

 

「っ!」

 

 再び迫りくる鎖の手の突進。やはりその軌道は、私だけを狙い撃たれたモノであると確かめてから叫ぶ。 

 

「あの鎖の手の狙いは私です! だから隙が出来たら皆さんは攻撃をお願いします!」

 

「しゃあねぇな! 無理するんじゃねぇぞ!」

 

 横方向に転がって避けた私にそう言葉を投げながら、巽さんがカードを砕いてペルソナを呼び出す。同じく私も腕を薙いで青い破片を散らし叫んだ。

 

「ラクカジャ!」

「スクカジャ!」

 

 タケミカヅチと『シャルロット』の力が同時に私の身を光らせ、堅牢感と浮遊感を得たのを確かめてから地を蹴った。伝えてないけどこれなら最悪二発目までなら耐えられる!

 

「パワースラッシュ!」

 

「それは、潜れるっ!」

 

 一人走り出した私目掛けて、もう片方の手が手刀の形で弧を描いて斜めに風を切る。

 けどその形が故に生まれる鎖の手と床との隙間を狙って、私はスライディングの体勢で尚も前進を選択した。

 有名なSF映画のワンシーンのように、見上げた私の鼻の上を鎖の手の手が通過していく。スレスレだ!

 

「――あとそれもさせないっ!」

 

「目ざといですね……!」

 

 そうして潜り抜ける直前で左腕を床に立て、残る右手に持っていた鎌の柄の部分で力一杯に鎖の掌を突き上げる。

 そして響くは鈍い金属音。

 腰の捻りも織り込んだ一撃で浮き上がる鎖の手と、その背後から振り下ろされていたもう片方の鎖の手がぶつかった事を示す響きだった。

 

「ここだな、タケミカヅチ!」

 

 そうして二つの手が重なった瞬間を狙って、巽さんのペルソナがその手に持ったイカヅチ型の武器を振り下ろす。同時に落ちた雷撃(ジオンガ)によって鎖の手が痺れと共に地に墜ちると、次に動いたのは準備していたもう一人だ。

 

「任せるクマよ、キントキドウージ!!」

 

 本人と同じく丸っとしたフォルムのペルソナがクルリと回ると、ピクピクしていた手を覆うような氷の山が出現する。

 近くにいた私もその冷気を感じつつ、鎖の手の動きが小さくなっていくのを確認して背を向けた。

 

「今の内に――!」

 

「――その程度で、封じ込めたと思ったのですか?」

 

 そうして私が駆け出した瞬間。シャドウの一言で空気が、氷山が揺れ始める。二人がかりで抑えた筈の手から、その振動は始まっていた。

 

「クマ、もっとやってやれ!」

 

「カチコチにしてやるクマー!」

 

 当然()()()はさせないとばかりにクマさんがブフーラを追加する。鎖の手にはまだ痺れが残っているのか、一回り大きくなった氷の山を根本から崩すような力はないようだった。

 

 故に鎖の手は面ではなく、点による方法で事態を覆してみせた。

 

「この音は――っ?!」

 

 何かが砕け散るような音が響くが、氷山は依然として保たれている。しかしその側面には穴が開き、そこから射出された鎖の弾丸が振り向いた私に向かってまっすぐ飛来してきていた。

 

「こんなの当たらな――いっ?!」

 

 咄嗟に避けたはずの私の身にかかるブレーキ。違和感を辿った先の右腕には、氷の山から伸びた鎖が巻き付いている。直撃した記憶はない以上、恐らくは――

 

「――避け方が甘い。単なる回避や防御じゃそうやってすぐに捉えられちゃうんだよ」

 

「マリーさん! ありがとうございます!」

 

 ピンと伸びた鎖へ一閃し、私の拘束を解いてくれたのはマリーさんだ。カグヤって物理型のペルソナだったっけと思いながらも、その助けに私は謝意を述べた。

 

「そういうのはいいから早く行って。あの鎖の手を抑えるきっかけは、もう貰ったから」

 

「あ、はい! じゃあお願いします!」

 

 私に背を向けたまま手をひらひら振ったマリーさんのお言葉に甘えて、私も再び走り出す。

 あの時提案したのは役割分担。脅威となる鎖の手の相手は三人に任せて、私はシャドウ本体を直接叩く。

 一人で相手をすると言ったら渋い顔をされたけど、鎖の手さえなければ何とかなるというのが私の言い分だ。

 鎖の手に戦わせて本体は距離を取っている事から、シャドウ本体はそこまでの戦闘力を有していないのではと三人を諭したのだ。

 あとはまぁ、そもそもの話として。

 

「私の事は、私が決着つけないとだしね――!」

 

 そんな決意と共に、左手で回していた鎖をシャドウに向かって投げつける。鎌とは反対側の端に付いている分銅によって真っ直ぐ飛んだ鎖が、祈るように手を組んだままのシャドウへと到達し――

 

「そうしてまた、(あなた)は罪を重ねるのですね」

 

 ――新たに生えた別の鎖が、その分銅を巻き取った。

 

「また鎖が増えた……?」

 

「ただの鎖ではありません。これは(あなた)の罪の証なのですから、新たに罪を犯したのなら増えますよ」

 

「新たな罪って、この作戦のこと? 確かにちょっと胡乱な目で見られたりはしたけど、罪って言われる程じゃないから!」

 

「さて、どうでしょうか?」

 

 結び目で繋がった鎖と鎖を、私とシャドウの二人で綱引きのように引っ張り合う。立ち止まった私を逃がすまいと、シャドウの鎖を握った手に力が入っていくのを感じる。

 

「己の目的を優先して他者に負担を強いた策だと思いますが、違うのですか?」

 

「ううん、作戦通りにあなたを打倒出来ればそうはならない! それを、証明してみせる!」

 

 シャドウの言い分を聞いてから、私は即座に行動を開始する。ギッと引っ張った鎖の手応えを確かめてから、不意を突くように力を抜く。

 

 そしてあえてその引っ張る力に身を任せ、滑るような速度の接近を開始した。

 

「――■■■・■■■・■■■」

 

「うそ、別のペルソナ?!」

 

 対するシャドウの返しは、聞き取れない位に小さな呟き。私の推進力に使われた鎖を手放し手を組むと、()()()カードの破片が散った。

 

 そうして現れたのは、私の『シャルロット』と似たシルエットのナニカだった。黒いローブみたいなモノで細部とか全く見えないというか、むしろ見せない為に上から布を無理矢理被せているような印象だ。

 

(あれも、私から生じたもの……?)

 

 今の私とシャドウは力を半分に分けた状態だ。スキルを半分しか使えない今の私と同様に、シャドウの私もペルソナを呼んでの真似事は出来るんだろうなとは思う。

 

 けどあの黒いのは『シャルロット』じゃない。もしかしたら覚醒後の姿を先取りしているのかもしれないけど、にしたってアレは――

 

(……いや、今はそこを気にしてる場合じゃない!)

 

「せやっ!!」

 

「鎌の方まで投擲するのですか、(あなた)は……!」

 

 ひとまず先手を取らないとヤバいという焦りから、右手に持っていた鎌もシャドウ目掛けてぶん投げる。ギリギリ回転が足りたので速度と威力は乗っていたけど、焦りの所為か狙いは甘い。首を動かしただけで避けられてしまい、その背後の柱の方へと突っ込んでいった。

 

「ブフーラ!」

 

「なん、のっ!」

 

 外しながらも距離を詰めてきた私へと黒いナニカが放つのは、クマさんと同じ氷結属性の魔法だ。ダメージよりも動きを阻害されるのを嫌った私は、手元に残っていた鎖を目の前でピンと張ってそれを受け止める。

 

 冷気が来る寸前でその手を離し、氷塊を鎖で串刺しにしたような感じになったソレに、左腕を振り下ろしてから更に右足で踏みつける。分銅と結んだ鎖を手にしたままだったシャドウが引っ張られ、いよいよその体勢を僅かに崩す。

 

「何処かで見たような動きを……!」

 

「リスペクトだからセーフっ!」

 

 そこから更にその鎖を掴んで引っ張りながら、私は最後の接近を始める。分銅は未だ結び目の中。鎌は柱の方にいってまだ帰ってこない。なのでもう左腕と右足の鎖で殴り倒すしかない……!

 

「――まだですよ」

 

「っ?!」

 

 そうして手で触れられる距離まで近づいた私の眼前に、尖った矢の尖端が突きつけられる。私のシャドウが左手で取り出したクロスボウが、最後の隔てと私への王手を兼ねていた。

 

(あなた)は何度でも罪を犯す。許せるのはあなた()だけ」

 

 調整を繰り返すレンズの顔が、息を呑んだ私をジッと見据える。クロスボウの引き金へと、指が折り曲げられていく。

 

「あの方たちにまた一方的に迷惑をかけて、肝心のあなたは負傷と失敗を貯めていく。――もう、止めてしまえばいいんです」

 

 この距離じゃ回避は間に合わない。だからもうこのまま突っ込む以外の道はない。そう覚悟を決めようとして、それでは意味がない事を悟る。

 

(『シャルロット』には食いしばりがあるから死ぬ事はない。でも、それじゃあ今までと何も変わらない!)

 

 勝利は勿論大事だけど、その為に過程を無視していいわけじゃない。フォックスとパンサーの顔を、三島くんの声を思い出した私は頭を回す。ここでまた一度でも死ぬようなら、それは私と向き合ったとはきっと言えなくなってしまう気がしたからだ。

 

 故に必要なのは起死回生。その為に抗い続けろ私――!

 

「――SHOT(喰らえ)!」

 

「――『シャルロット』!」

 

 クロスボウの弦が跳ねるのと、私が叫ぶのが全く同時。ゼロ距離と言って良い程に短い弾の道。されど鉄製の矢が真っ直ぐ飛ぶ事は許されなかった。いや許さなかった。

 

「なっ?!」

 

 叫びと共に現れた白いペルソナのねじ込んだ小さな嵐が、その弾道をブレさせた。顔の中心を狙った矢が私の頬を掠めて赤い線を引き、そして背後へと飛んでいく。そしてすれ違った私は遂に、シャドウの懐へと到達した。

 

「『天啓の一手』――!」

 

 それは『シャルロット』だけが持つスキル。

 かつての混沌の時代において、その信念に従い要人の命を奪ったとされる天使の一刺し。武器のない私に代わってペルソナが放ったその一撃は――

 

「…………認めません」

 

「…………っ!」

 

「私がそのスキルでの不意打ちを、許す筈がない!」

 

 ――ヒビの入った黒い修道女の左手に止められて、不発だった。

 

「そのスキルは不意を突いていなければダメージが出ません! それを唯一知る私が喰らう訳がないんです!」

 

 シャドウの言う通り、『天啓の一手』はかなりピーキーな攻撃スキルだ。

 決まりさえすれば即死級かつクリティカル率の高い一撃となるが、それは不意打ちであった場合に限る。事前に身構えられてしまえば極小ダメージにも届かない、そんな使い所の難しいスキルだった。

 

「……隙だと、思ったんだけどなぁ」

 

「これで(あなた)は終わりです。あの三人でもこれ以上は鎖の手を抑えていられないでしょうから」

 

 シャドウの顔一杯のレンズに私の顔が映る位の距離で、もう一人の私がそう囁く。確かに背後から聞こえる音も激しくなってきたし、シャドウと鎖の手が再び合流するまであと僅かだろう。

 

「だからお願いです。――私を、許して(認めて)ください」

 

 最後とばかりにそう懇願するシャドウと、私はジッと向き合った。もう目を背ける事はしなかった。

 

 ――既に、先の道は見えていたが故に。

 

「駄目だよ。私は報いて、報いを受けるんだから」

 

「っ……まだ、そんな事を――」

 

「『シャルロット』ッ!」

 

 そして叫んで呼ぶはもう一人の自分。青い炎を瞳に宿し、荒らげた声の勢いのままに、吹きすさぶ風を受けた私は地を蹴り飛ばした。意表を突かれた修道女の肩を掴み、後方へと押し倒すように――!

 

「――ガルーラで私たちごと?! いいえ、鎖の手よ!」

 

 私に取り抑えられたまま飛ばされそうになる事を自覚したシャドウが、己の手足である鎖を呼び戻そうと叫ぶ。

 

 瞬間、余力を全て注ぎ込んだ勢いで主の元へと動き出す鎖の手。しかしそれを見逃す程、私()()は甘くない――!

 

「――お願いしますっ!」

 

「――ぶち込め、ロクテンマオウ!!」

 

「――ペルクマー! カムイ!!」

 

 鎖の手の戦闘を経て勘を取り戻した二人のペルソナが姿を変え、一時的なブーストを加えた一撃が鎖の手を怯ませる。

 しかし決定打ではなく、その勢いを止める為だけの一撃だ。すぐさまペルソナも元に戻り、鎖の手も加速を始める。

 

「その道を照らして、カグヤ!」

 

 でもその一瞬さえあればいいと、マリーさんが喝を響かせる。十を超える光の矢が鎖の手を追い抜き、障害となる瓦礫を破壊し、二人の修道女の向かう先を指し示す。

 

「この先は、まさか――?!」

 

 そうしてガルーラに背を押された私によって後方に飛ばされたシャドウが、その気付きと共に声を上げる。しかし私が共にいる以上、逃れる事など出来やしない。

 もはや鎖の手も追いつけぬ程の速度で、黒と白の修道女が教会を奥へと飛んでいく。

 

 

 故にそれが彼女にとっての決定打となった。

 背後にあった柱に背中から叩きつけられたシャドウの胸が、鈍く光る刃によって刺し貫かれたのだから。

 

 

「カハッ……?! ……これ、は……あの時の、鎌……?」

 

「……だって、抜けなかったん、だもん……」

 

 接近を始めた時に投げた鎌は、シャドウに当たる事なくその背後へと飛んでいった。そして柱に突き刺さったのだけど、刃が変に貫通した事で固定されてしまっていたのだ。

 なので鎌が戻ってこなくて途中割とヤバかったし、最後にこんな使い方をする事になるとは私も思わなかった。むしろ瞬時にそれに合わせてくれたあの三人こそ凄いと思う。

 

「それに、私のシャドウであるあなたには、ペルソナでの攻撃は、効果が薄いから……」

 

「……属性、相性の話、ですか……。だからって、こんなやり方は、無茶苦茶です……」

 

「……私は、そんなやり方しか、出来ないんだよ」

 

 息も絶え絶えな私がそう言うと、胸の中心を貫かれて磔になったようなままの修道女が力なく笑う。

 叩きつけられた衝撃で入ったレンズがひび割れて落ち、その仮面(レンズ)の下にあった素顔が露出する。それは鏡越しに見た事のある笑みだった。

 

「……誰にも認めてもらえない願いを秘めながら、それでも誰かに頼るなんて、そんな事出来るわけないと思っていました」

 

「……うん、そうだね。私も、そう思ってた」

 

 私も否定できないその言い分は、まさしくかつての自分の中にあったものだ。だからこそ自分だけはそれを認めたいと思っていた。だから今の私はそれを否定した。

 それを分かっているから、磔の修道女はそんな事を言い出したのだろう。

 

「……でも、こうなった以上はそんな(あなた)を、(あなた)のやり方を認めるしか、ありませんね……」

 

「ううん、そんな事はないよ」

 

「……え?」

 

 そうして敗北を受け入れようとした己の影に、私は否と返した。認めさせる為ではなく向き合う為に戦ったのだから、そこはちゃんと言わなくちゃいけない。

 呆ける私のシャドウの瞳に、私は凛として語り掛ける。

 

「あなたは私の恐れそのもの。罪や贖いを怖がる私の裏側で、許されたいっていうのも嘘じゃなかった」

 

「…………」

 

「それを認めて、受け入れても、それが消えるわけじゃないからさ。それならこの先もあなたという意識と一緒に行きたいなって」

 

「――――は」

 

 罪の清算とは向き合う形を決め、区切りをつける事だとするのなら。私なりの答えとして、この罪と共に歩くことを答えにしたいと思った。

 この先もストーカーであり続けて罪にまみれる私がすべきは恐れの否定ではなく、こうして受け入れる事。それによって得られる覚悟や勇気こそがあやまる為に必要なのだと思うから。

 

 そうして手を伸ばした私に、今度こそ修道女は言葉を失った。どうやら言葉が足りないようなので、私はオマケとばかりに付け足す。

 

「それにあなたも見たいんでしょ? この先の彼らの活躍もさ」

 

「……………………」

 

 私が迷っている間、八十稲羽のペルソナ使いにテンション上がっていたのを覚えている。根は同じである以上、そこに嘘はつかせない。

 だからそれが、彼女にとっての最後の驚き(last surprise)だったのだろう。

 

「…………いいでしょう。私もその契約を受け入れます」

 

 息を吐き、観念したように修道女は私の言葉を噛み砕く。そうして私に向けられた輝く金の瞳には、折れる事を許さない意志が宿っていた。

 

「――我は汝、汝は我。(あなた)の裏側を担う者として、その道行を見定めると致しましょう。もし(あなた)の意志が揺らいだらその時は、分かっていますね?」

 

「……うん、もちろん分かってるよ。()()()()()()()()()()()()

 

「…………はぁ。つくづく悪い人ですね、(あなた)は」

 

 最後にそう言い残して、修道女はその姿を青い光へと投じる。改めて『シャルロット』となった彼女は青いカードを経てから、私の手元へと舞い降りた。

 

 それは私とこれからを共にする人格の鎧であり、私の目元を覆い隠すような黒い布で出来たモノ。ある意味で『黒い仮面』とも呼べる代物だった。




☆道化師『シャルロット』 LV.39

 物銃火氷電風念核祝呪
 ーー弱耐ー耐ーーー弱

 力:15 ■□□□□
 魔:14 ■□□□□
 耐:13 ■□□□□
 速:66 ■■■□□
 運:49 ■■■□□


・天啓の一手 ・食いしばり 
・ガルーラ  ・(潜伏)
・ブフーラ  ・(リカーム)
・スクカジャ ・(トラフーリ)

 ☆『天啓の一手』(HPの66%消費)
  敵一体にクリティカル発生率が非常に高い即死級の万能属性ダメージ。
  ただし不意打ちでなければ、クリティカル発生率が非常に低い超極小の物理属性ダメージになる。

☆『覚悟の鎖鎌』攻撃:166 命中:99
 覚醒と共に現れた寺崎専用の近接武器。ちょっと強め。
 左腕と右足に巻かれた鎖も同様の数値を持つ。異世界であれば鎖の長さは変化する。

☆『クロスボウ・オーバー』 攻撃:120 命中:88 弾数:1
 覚醒と共に現れた寺崎専用の遠隔武器。覚醒直後はシャドウが持っていた。
 弾数は一発しかないが、矢を回収できれば同じ戦闘中に再装填が可能。
 矢に鎖を付けて撃つことも可能。というかその気になれば矢以外も撃てる。


 閲覧、感想、評価、誤字報告など誠にありがとうございます!
 次回でP4パートは一区切り、のはずです。戦闘も終わったのでそこまで間も置かずに投稿出来ると思いたい。
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