私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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不思議な事にこの文字数になっていました。


#20 私はあなたと向かい合わなければならない

 

「…………ここ、は」

 

 私の意識が戻ると、目に入ったのは天板の木目だ。というか知らないけど知ってる天井だった。

 

「お布団……天城屋旅館……えと、私は……」

 

 重い頭と身体をどうにか動かしながら、何があったかを思い出す。ここで寝る前にしていたのは――

 

「――失礼致します。今、宜しいでしょうか?」

 

「ひゃっ、ひゃい?!?!」

 

「あ、起きたんだ。じゃあ失礼するね」

 

 突然声をかけられた私に返事すら許さずに正座したまま襖を開けたのは、黒い髪が綺麗な和服の女性だ。その容姿と声からどなたか分かってしまった私は、更なる混乱に落とされる事となった。

 

「もう目が覚めたんだね。あと今回はテレビに落ちる事なく会えて良かった」

 

「あっ?! そ、その節は本当にごめんなさいというかご迷惑をおかけしましたというか……!」

 

「ふふっ、本当に驚いたんだから。うん、もう本当に」

 

「あうあうあう……!」

 

 美人に笑みを向けられているのに、その目が笑ってないからプレッシャーが凄い! マリーさんのと同じ類の奴だ!

 

「……まぁそれはいいとして、本当に大丈夫? 身体におかしい所はない?」

 

「は、はい! 今のところは問題ない、気がします!」

 

「無理はしないようにね。私もまだ詳しくは聞いてないけど、力に目覚めた直後は大変だと思うから」

 

 黒髪の若女将にそう言われて、私はようやく今までのことを思い出した。

 

 テレビの中の異世界で私のシャドウと向き合った後、私たちは現実世界へと帰還した。クマさん達に先導されてどうにかジュネスのテレビ売り場までは自分の足で歩いたけど、そこで私に限界が来てしまったのだ。

 

 なので話は天城屋旅館で休んで体調を戻してからという事になり、ふらふらしつつも旅館の自室の布団で横になって今に至るというわけだった。

 

「ええとその、今日って何日ですか? 確か私がこの部屋を取ったのって……」

 

「あなたがウチに戻ってきたのは昨日の夕方。だから本当なら今日の10時までだったんだけど、流石に意識のなかったあなたを追い出すような事はしないから安心して」

 

「そ、そうですか……」

 

 今回の旅行は二泊三日の予定を組んでいた。そこからまず一日目の夕方にテレビの中に落ちて、現実世界へと戻ったのが二日目の夕方だ。そして今日が三日目の昼であるのなら、もう私はこの旅館には居られない筈なのだ。

 なのにまだこの部屋を使わせてもらっているという申し訳なさが私を襲った。でも私がまずすべきはすみませんと頭を下げる事でないのは確かだった。

 

「あ、あの! 私、皆さんに言わないといけない事があって……!」

 

「うん。私としてもそれは気になるけど、まずはご家族やお友達に連絡した方がいいんじゃない? スマホ、結構鳴ってたみたいだし」

 

「え、うそ?! ちょっとすみま……ってすっごい通知溜まってるぅ?!」

 

 若女将さんに言われてスマホを見ると、二日ほど音信不通だっただけなのにアイコン端の数字がとても大きくなっていた。私が異世界に行ってる間に一体何が……?!

 

「だからその辺りを色々済ませて、今日明日どうなるか決まってから、あなたの話を聞かせて欲しいかな。他の皆もそれからでいいって聞いてるし」

 

「わ、分かりました! ええとその、ありがとうございま……あっ」

 

 ひとまずやる事がまだ沢山ある現状は理解出来たので、とりあえず優先準位を決めようと頭を回そうとした所でようやく気付く。

 

「すみません私、寺崎叶って言います。お名前を訊いてもいいですか?」

 

「……ああそっか。受付は他の人がしてくれたし、あの時はテレビに落ちちゃって挨拶しそびれたものね」

 

 今更すぎる私の名乗りに合点がいったとばかりに頷くと、その若女将は床に手をつき綺麗な礼をした。私もそれに合わせて頭を下げる。

 

「私、この天城屋旅館の女将を務めております、天城(あまぎ)雪子(ゆきこ)と申します。八十稲羽へようこそ、お客さま」

 

「はい。宜しくお願いします、天城さん!」

 

 特捜隊の一人でもある雪子さん――天城さんとの顔合わせは、こうして二日遅れで果たされたのだった。

 

 ☆☆☆☆

 

「むむ、キミは噂のシスターちゃんクマね! もう元気になったクマか!」

 

「あ、はい何とか。あの時はお世話になりま……シスターちゃん?」

 

 ひとまず家族だけに最低限の連絡を済ませた後、荷物を纏めて天城屋旅館をチェックアウトした私は、その足でジュネスへと向かう事にした。

 

 一人旅と言うことで連絡するように言われていた親に無事と通話越しの土下座をお伝えした後、どうにか一日だけ延びる旨を話して説き伏せた。

 旅先でスマホをなくしてどうにか見つけたけど、そのゴタゴタで帰りの便が取り直しになったので帰れるのが明日になった、みたいな感じだ。その都度連絡するのを親との取り決めとして、どうにか私は滞在可能期間を延ばす事に成功したのだった。

 

 因みに天城屋旅館の部屋は既に次が埋まっているとのことだったので、急遽お隣の沖奈(おきな)市にあるビジネスホテルを取ってそこへ移る事にした。

 痛い出費だったけど悪いのは私だし、まだやる事もあるので仕方がない。そもそもが天城さんの計らいで昼過ぎまで待ってもらっていたようなモノだしね。

 

 そうして天城さんにはもう動けるようになった事を驚かれながらも見送られ、カバンを引いてジュネスへと到着した私は見覚えのあるキグルミに声をかけられたというわけだった。以上回想おわり。

 

「そうクマよ。白いシュードー服を着て、鎖の付いた鎌を振り回して戦うシスターちゃんの姿、クマは痺れますた……!」

 

「何も間違ってないけど凄い事してるな私……!」

 

 あの戦いを思い出してしみじみと語るクマさん。言い返せないけどそう言われるとちょっとうん、恥ずかしくなるね!

 

「天城さんに集まるならジュネスのフードコートがいいって言われたんですけど、そこでいいですか?」

 

「うん、それでいいクマよ! あそこはセンセイたちとよく集まった場所だし、なんなら皆が来るまでヨースケの奢りでクマとお茶しててもいいク――マァァァァァ?!」

 

「――おいクマ、誰の奢りだって?!」

 

「あっ」

 

 そうして私とのお茶に洒落込もうとしたキグルミさんの頭を、グイッと掴む青年が現れた。茶色の髪をバチッと決めたエプロン姿の彼の首にヘッドホンをかければ、更に記憶にある姿と一致するだろう容姿だった。

 

「ごめんな、ウチのクマが急に。えーとそれで、キミが例の子って事で合ってる?」

 

「は、はい! 寺崎叶、昨日ここのテレビから出てきたのは私です!」

 

「はは、すげぇ自己紹介。俺は花村(はなむら)陽介(ようすけ)、ここの副店長みたいな感じって事でよろしくな」

 

 茶髪の青年――花村さんが人の良い笑みを浮かべて挨拶してくれる。昨日異世界から戻ってきた時は別の売り場にいたらしく、休憩時間を使って来てくれた今が初対面となっていた。

 

「それでテレビの中の世界を知ってるって事は、寺崎ちゃんもペルソナ使いになったのか?」

 

「はい、なっちゃいました。その辺りでお騒がせしちゃったので、諸々お話出来たらなと思って来たんです」

 

「そっかー、なっちゃったかー。なんか久しぶりだな、こういうの……」

 

 私の返答に花村さんは腕を組み、空を仰ぐように首を持ち上げた。

 既に特捜隊の皆さんの間で私の件が共有されている事は聞いている。ここ数年平和だっただろう所に厄介事を持ち込んだ主犯として、如何なる反応も甘んじて受け入れる所存である。

 

「――ちっす、花村先輩。またクマがなんかしたんすか?」

 

「いいや、ただの未遂だったから問題ねぇよ。もしもの時は、その隣の婦警さんに引き渡せばいいだけだし」

 

「――ちょっと、熊の相手は警察の仕事じゃないんだけど? そもそも飼い主が責任持って抑えなさいよ、そういうのは」

 

「よよよ……相変わらずチエちゃんからの扱いが酷いクマ……」

 

「ヒュッ」

 

 そうこうしている私たちの所に、二人の男女が近づいてきた。一人は昨日もお会いした巽さんで、今日もガタイのいい身体にタンクトップがよく似合っている。

 そしてその隣にいたのは、制服の上に薄い上着を羽織ったボブカットの女性警官さんだ。すらりと伸びた足がとても綺麗で、立ち姿にもどこか安定感がある。

 

「私とも初めてだったよね。こんにちは、八十稲羽(ここ)で警官やってる里中(さとなか)千枝(ちえ)です、よろしく!」

 

「て、寺崎叶って言います! お願いしますっ……!」

 

「え、なんでちょっと下がったの?」

 

「ホントに警察の方なんだって思うと、ちょっとビビっちゃって……」

 

 右手で軽く敬礼しながら自己紹介をしてくれたのは、今や婦警であるはずの里中さんだ。こちらも花村さんと同じく休憩中なのかなと思いつつ、ペルソナ5的に警察はちょっとアレだなという意識が足を動かしていた。いや、この人にそういうのはないと思うけども。

 

「別に悪い事はしてないだろ、アンタ」

 

「そうクマか? あの時、自分はストーカーって言ってたクマよ」

 

「いやそれ、絶対シャドウが言った奴でしょ。私たちの時もそうだったんだし」

 

「あ、そこは私も否定する所ではないというか……」

 

「え、マジで? クマがなんか聞き間違えてたとかじゃなくて?」

 

 いきなり錚々(そうそう)たるメンバーに囲まれてちょっと動悸がヤバいけど、この面子を集めてしまった原因である私にはしなければならない話がある。解消しなければならない問いがある。かつ休憩中に来てくれた方もいるという事で、あまり時間をかけるわけにもいかないだろう。

 なので私は意を決して、口火を切るのだった。

 

「その辺りも含めてお話します。それでその、いいでしょうか……?」

 

 ☆☆☆☆

 

「……なるほどな。あっちでそんな事があったと」

 

「です……」

 

 時間が限られているとはいえ立ち話もアレという事で移動したフードコート。やや人が多い気もするそこの一角を借りて私がひとまず異世界での経緯を話し終えると、皆さん大体は分かったよという顔になっていた。流石は特捜隊、経験豊富だ。

 因みに天城さんは夜まで手が空かないという事で欠席。他のメンバーは今そもそも八十稲羽にいないという事で、花村さん、里中さん、巽さん、クマさんの四人に私を加えた五人での集まりとなった。

 

「へぇ、つまり私たちと同じようにシャドウと向き合ってペルソナ使いになったんだ。……え、ホントに?」

 

「はい、ホントです。この度は大変お騒がせしました」

 

「流石に俺も驚いたけど、間違いねぇすよ。この子はアッチでテメェ自身を打倒してみせた。それ以外に聞かないといけないのってなんでしたっけ?」

 

「おいおい、そもそもなんで俺らやペルソナの事を知ってたのかって話がまだだろ?」

 

 あー、という顔で思い出したらしい巽さんを見ながら、私はどう話したものかと思案する。

 今更嘘や隠し事をするつもりはない。でも「皆さんの事をゲームで知りました!」と話すのはそれはそれでどうなのと言う感じもする。

 

「昨日の三人から寺崎ちゃんが悪い子じゃなさそうって言うのは聞いてる。でもだからってあの事件や俺らの事、そしてペルソナの事を知っていてもいいとはならないんだ。そこの所どういうわけか、聞かせてくれるか?」

 

「勿論です。私は、その為にここに来たんですから」

 

 気を引き締め直した花村さんに問われて、私は軽く息を吐く。さて、偉大すぎる面子に囲まれて口が回るか心配ではあるけれど、頑張って説明するぞ!

 

「えっと、実は私には――」

 

「――違う世界の記憶があるんでしょ、あなた」

 

「――前世の記憶が……えっ」

 

「なんだ、マリーじゃねぇか。今日も来て良かったのか?」

 

 そう覚悟を決めた私の後ろから来てネタバレをぶっ込んだのは、変わらずOL風の衣装に眼鏡をかけたお天気お姉さんことマリーさんだ。

 昨日共に戦った巽さんは特に驚く事なく手を上げるが、他の方々はそうはいかなかった。

 

「うん、夕方の収録までは時間あるから。私も改めて会っておきたいと思ってたし」

 

「それは良かった……じゃねぇだろ!? なんか今この子が凄い事言いかけた所だったじゃん?! でも昨日は行ってくれてマジサンキューなマリーちゃん!」

 

「いや、違う世界の記憶ってどういう事?! ていうか寺崎ちゃんも今前世とか言わなかった!?」

 

 主に昨日いなかった花村さんと里中さんが突然のマリーさんと彼女がもたらした情報に目を見開く。話の腰を折られてしまった私もマリーさんの方を見てしまうと、彼女は何でもないように続ける。

 

「この子は私たちの事を以前いた別の世界で見たんだよ。何かのきっかけでそれを思い出したから、こうして私たちの町にもやって来た。違う?」

 

「あ、はい。そんな感じです。言っちゃえば転生者、みたいな」

 

「転生者って、マジかよ……。今まで異世界とかロボとか色々見てきたけど、とうとうそこまでいったのか……」

 

「てか、マリーはなんでそこまで知ってんだよ。昨日はそんな事話してなかったよな?」

 

 頭を抱える花村さんを置いて尋ねた巽さんの疑問には私も気になっていた。説明が楽になるのは有り難いのだけど、こちらの事情に詳しすぎてちょっと怖いというか……。いや、それこそおまいう案件か。

 

「この子が自分のシャドウを倒したら私の力も通じるようになったから、その時に視ただけ。元々そのつもりで行ったんだし」

 

「流石はマリちゃん、つよつよクマね……!」

 

「ならマリーちゃんがこの子の事を大丈夫だって言ったのも、それが根拠ってこと?」

 

「うん。私が視た限り、私たちを見に来ただけのストーカーさんだったから」

 

「ひゅあっ?!」

 

 あっけらかんと言い放つマリーさんの評に二の句が継げない私。揺るぎない事実だけどいざ本人たちを前に言われるとちょっとその、心の準備が……!

 

「え、ストーカーってまさか、俺らのか!?」

 

「いやその、違わないんですけど違うというか、えっと……!」

 

「そういやあのシャドウも俺らに会えて嬉しいとか言ってたな。つまり俺らのファンだったってわけか!」

 

「あう……あう……!」

 

「止めなさいって完二くん。よく分かんないけど多分そこ弱点みたいだから」

 

「あー、昔りせがここに来た時に集まってた追っかけみたいな感じか。……いや、俺たち別の世界だとどんな扱いなんだよ?!」

 

 一方で、何やら近しい存在に当てはめた上で混乱する花村さん達の姿もそこにはあった。そうだよね、いきなり知らん子が来て「皆さんのファンなんです」とか言われたらそりゃ訳わかんないよね! ごめんなさい!

 

「うん、多分りせのと同じ。私たちが来た時やペルソナを出した時の反応とかそっくりだったし」

 

「そういえばヨースケやチエちゃんが来た時もそんな感じの反応してたクマ! むふふ、違う世界でもそんなに人気者とは照れちゃうクマね……!」

 

「いや、照れてるのはその子でしょ。とうとう両手で顔覆っちゃったし」

 

「〜〜〜〜!」

 

 もう色んな意味で顔を上げていられなかった。

 めちゃ恥ずい。顔が熱い。早くも消えてしまいたい。

 ペルソナ4だって好きなゲームだし、こうして動いている彼らと出会えただけで嬉しくない訳ないでしょう?!

 

 そんな彼らにファンである事がバレ、ついでにストーカーである事も知られてしまった。それによる羞恥はアギダインでも叩き込まれたのかという熱を私にもたらし、ただ震える事しか許してくれなかった。いや自業自得だし、ちゃんと向き合うつもりで来たんだけどさぁ!

 

「……皆さん、その、めっちゃカッコよく、て……! いや、急に、なにって、話なんですけど……!」

 

「お、落ち着いて寺崎ちゃん。ほら、ゆっくり息吸って、吐いてー?」

 

「おお、チエちゃんの婦警さんモードクマ」

 

「これが限界化って奴か。流石は最近の女子高生っすね」

 

「お前らはこの子を何だと思ってんだよ……」

 

 里中さんに慰められながらの言葉はしどろもどろで、まさしく限界ファンの末路と言って差し支えない姿だ。お見苦しい事この上ない。穴があったら入りたい位だ。

 それでも言わなければならないと、私は必死になって取り戻した落ち着きと共に口を動かす。

 

「…………その、記憶で識ってるだけのこの町を実際に見てみたくて、あわよくば皆さんに会えるかなとか、ペルソナを手に入れたりするかもとか、そんな軽い気持ちで来たんです」

 

 それが今回の事の発端。記憶を取り戻した直後の私が見切り発車で立てた計画は、されど無事では済まなくて。

 

「でも私がテレビに落ちちゃった所為で、皆さんの手を煩わせる事になりました。だから本当に、ごめんなさい」

 

 そして頭を下げながら、不安と共によぎるのはシャドウの言葉だ。

 都会から来た初対面の子供に謝られても、困惑の方が強いかもしれない。だとしてもこれは私にとって必要な行為であり、彼らにとっても意味のあるモノだと信じてのモノだった。

 

「うん。とりあえず、あなたはあの世界にもう行っちゃ駄目だからね」

 

「……!」

 

 だからだろう。マリーさんからそう返されても、思った程の動揺はなかった。

 

「そっか。寺崎ちゃんもペルソナを手に入れたのなら、一人でテレビに入れちゃうもんね」

 

「霧が晴れたとはいえ、シャドウがいないわけじゃねぇ。確かに危ない真似されるのは見過ごせねぇな」

 

「……そうですね、分かりました。私はテレビの中に入る事はもうしません。そう、誓います」

 

 あちら側の世界を管理しているらしいマリーさんの提案に、他のメンバーも異論はないらしい。

 現段階では唯一自由に入れただろうテレビの中の異世界。しかし私はペルソナ獲得の代償として、そこに入る資格を失ったようだった。

 

「まぁ俺らとしては諸々を確かめるのが目的だったんだ。こうして無事に帰ってきて、変な企みとかもないんなら、それ以上言う必要はないだろ。なぁ?」

 

「異議なーし」「そっすね」「クマ!」

 

「……ありがとう、ございます……!」

 

 けれどそれも、安いモノだと思った。

 謝罪を受け入れてもらえたというその一点だけでも、私は恵まれていると思うべきだろうから。

 

「というか、私らも最近は全然入ってないしね。ペルソナを使う事もなくなったし」

 

「そりゃそうだろ。桐条(きりじょう)さんの所ならともかく、俺らにはもう戦う理由も必要もないしな」

 

「で、ですよね……」

 

 タハハと笑う里中さんの格好を見れば分かる通り、皆さんはあの頃の特捜隊ではない。それなのに久しぶりのペルソナで戦ってくれた巽さんやクマさんに改めて礼を言おうとして、

 

「ところで、シスターちゃんはどうやってテレビに入ったクマか?」

 

「えっ?」

 

 そんな問いに、またもや私はドキッとしていた。

 

「だって最初はペルソナ、持ってなかったみたいですし。それなのにテレビに落ちたのは、どゆ了見クマかなと」

 

「そういや、そこは直斗の奴も気にしてたな。その辺りはどうやったんだ? それも別の世界の記憶でやったのか?」

 

「うーんと、それはですね……」

 

 まだ答えてなかった事に言い淀む私だが、もちろん言い繕うつもりはない。私自身まだ確証は得てないけれど、それ以上にこの先は彼らの事にも踏み込まなければいけないので、言葉を選ぶ必要があるなと思ったのだ。

 

「あなた、別の件にも首突っ込んでるよね?」

 

「あっ、やっぱりもう全部知られてるんですね……」

 

 相変わらずジッと見てくるマリーさんの視線に萎縮しながらも、私は最後の説明を始めるべく口を開く。これもまた、責任を取る為の一歩だと信じて。

 

 

「――”心の怪盗団”って、知ってますか?」

 

 

 ☆☆☆☆

 

 

「……なるほど、そういう訳だったのか」

 

 時は移り、その日の夜。再びチャットに集まった特別捜査隊は、事の顛末を共有していた。

 

「ひとまず完二くんとクマくん、そしてマリーさんはお疲れ様でした。昨日も言いましたけど、皆さんがいなければ危ない状況だったようですので」

 

「そう言ってくれるのはありがてぇが、流石に俺らは腕が鈍ってたからな。マリーやあの子の前で不甲斐ないところを見せちまったぜ」

 

「そんな事ないと思うよ、完二くん。寺崎ちゃん、帰り際に格好よかったって言ってたし」

 

「それ、クマに対しても言ってたからな。ホント、あの子のいた世界で俺ら、どんな風に見られてたんだか」

 

「別の世界から転生って、凄い話だよね。私も先輩たちに出会ってなかったら、信じるのは無理そう」

 

 このチャット内でフードコートに行けなかった雪子や都会組にも彼女の話は既に伝えられている。しかし本人に会っていないメンバーからすれば、俄には信じがたい話だった。

 

「僕としては探偵殺しも良い所なので、正直複雑ではあります。けれど、全く繋がりのない人間が事件の真相どころか、ペルソナや異世界の事まで知っている理由としては、現状否定が出来ません」

 

「あの一年間だけじゃなくて、ゴールデンウィークや絆フェスでの事も知ってるみたいだったし。ちょっと不気味だけど、別に桐条さんの所の関係者でもないんだよね?」

 

「本人が言うには違うらしいぞ。まぁ桐条さんの事も知ってる時点でアウトだと思うけどな」

 

「転生者って、なんでも知ってるクマね……」

 

 前世の記憶を持つだけでなく、自分たちペルソナ使いに関する事件に妙に詳しい少女に戦慄する面々。

 しかし、今回の話題の中心はその少女ではなかった。

 

「その辺りはいずれ調べるとして、問題はその子も関わっている今の事件。"心の怪盗団"についてです」

 

「俺もニュースは見ていたが、まさか噂の怪盗団にペルソナ使いがいるとは思わなかったな」

 

「だから寺崎ちゃんも怪盗団のストーカーとしてペルソナを欲しがったんだよね。……いや、怪盗団のストーカーって何なのって話だけども」

 

 都会組の三人は勿論、八十稲羽組の耳にもその名前は入っている。

 世に蔓延る悪人の歪んだ心を盗み、その悪事を白状させる正体不明の怪盗団『ザ・ファントム』。今やテレビやスマホのニュースでその名を見ない日の方が少なくなりつつあるほどだ。

 だからこそ急にやってきてペルソナ使いになった少女からその名前が出た時は、みな驚きを露わにしたものだ。

 

「寺崎ちゃん自身は詳しく言えないって感じだったけど、アレ絶対正体知ってるよな」

 

「彼女が在籍しているのは例の秀尽学園高校のようです。怪盗団の最初のターゲットがいた高校である事からも、怪盗本人かその関係者を知っている可能性は高いでしょうね」

 

 怪盗団のストーカーではあっても、彼らにこれ以上の迷惑をかけたくはないという事で直接的な情報を出す事はなかった。しかしその判断が出来る時点で、少女が怪盗団の正体に限りなく近い事は明白なのだった。

 

「ていうか、それもその前世の記憶って奴で知ったんじゃねぇのか? 俺らの事を知ってたように、その怪盗団も別の世界で見たんだろ、きっと」

 

「ああ、完二の言う通りだろうな。俺たちの事を知って八十稲羽に来たのと同様に、怪盗団の事を知ってストーカーをしているんだろう。……なんでそれでストーカーになってしまったのかは分からないが」

 

「多分その子、私たちや怪盗団の事が好きだって気持ちが本当に強いんだと思う。それでその気持ちを抑えきれなくて、だからそんな感じになっちゃったとかじゃないのかな」

 

 顔を見たこともない少女の内面をそう評するのは、今も最前線で人を好きにさせているアイドルこと、りせだ。その在り方を是も否もしないが、見覚えはあるとばかりの口振りだった。

 

「でもでも、シスターちゃんは自分のシャドウと向き合って変わろうとしてる気がしたクマよ?」

 

「だといいけど、まぁそこはあの子の問題でしょ。それで、その寺崎ちゃんも追ってる怪盗団は直斗くん的にはどうなの?」

 

「怪盗団に関しては、二代目と呼ばれている彼が追っている事件という認識でした。なので詳しい情報は殆ど仕入れてないんです」

 

「エスエヌエス、でもよく見るあのイケメンの事クマか?」

 

「二代目っていうと明智、みたいな名前の奴か。確かに怪盗団を追ってる的なのはニュースでもやってたな。まさかその二代目も、ペルソナなんてトンデモが関わってるとは夢にも思ってないだろ」

 

 まだ高校生の二代目と違って大学生の直斗は行動の制限も緩く、各地で起こる事件を解決する為に奔走している身だ。なので都心を中心に活動している怪盗団についてはノータッチとの事だった。

 

「僕たちで怪盗団をどうこうしようと言う訳ではありませんが、ペルソナ使いがいる以上は都心で何が起こっているのか、調べてみてもいいかもしれません」

 

「――うん、私もその方がいいと思う」

 

「マリーも来てくれたか。それで、それはどういう事だ?」

 

「今のあの子ならある程度は大丈夫だと思うけど、あの子が元々いた場所にはまだ何かある。もしかしたらそれは、新たな災いを呼ぶモノかもしれないから」

 

「また何か起こるって事? 私らや桐条さんの時みたいに」

 

「そこまでは分からないけど、何もないのにペルソナ使いが生まれたりはしないでしょ。だからそっち側に近い悠たちは気をつけてほしいの」

 

 途中からやってきたマリーはそう言って、何かが動き始めている事を示唆した。そんな他でもないマリーからの注意喚起に、悠は久しぶりに波乱の予感を思い出していた。

 

「……分かった。もうすぐそちらに戻る身だが、こちらでもある程度は探ってみよう。皆もそれでいいか?」

 

「おう! マジで懐かしい感じがするし、油断すんなよ相棒!」

 

「こっちで何かあれば、私たちと先輩で何とかしてみせるから! だよね、悠先輩?」

 

「もし人手がいるならすぐに言ってよ? こっちでもそっちでも、私たちに出来る事があるならすぐに飛んでいくんだから!」

 

「仕事とかで忙しくても、きっとやってみせるから。ね?」

 

「次に備えて俺も鍛え直しておくっすから!」

 

「ワシらの力、甘くみちゃあいかんクマよ!」

 

「ああ、頼もしい限りだ」

 

 そうしてチャットに集った仲間たちの力ある返事に、悠は今も色褪せていない確かな繋がりを見た。仮にこの先に何か起こっても大丈夫だと、そう確信させるだけの力がそこにはあった。

 そして最後に、今回一番裏で手を回していた直斗がこう締めくくった。

 

  

 

「まぁ、ひとまずは様子見ですね。寺崎さんと()()の間でどんな話がされるのか、続報を待ちましょう」

 

 

 ☆☆☆☆

 

「――そっか。じゃあお姉さんはちゃんと雪子お姉ちゃんの旅館に着いたんだね!」

 

「うん、本当に助かったよ。ありがとうね! はい、これお礼です!」

 

 特捜隊の皆さんと別れ、向かった八十稲羽の駅前。

 行きと同じくキャリーケースを引いていたからか、偶然にもまた見覚えのある茶髪の女の子と私は遭遇していた。

 純白のワンピースが今日も今日とてよく似合っている子と挨拶を交わした後、私の事を思い出してくれたのだ。なのでその時のお礼としてすぐそこの自販機で買ったジュースを渡すと、少し戸惑った末に受け取ってくれたのだった。

 

「あ、ありがとうございます! ……ぷはっ。うん、美味しい!」

 

「あはは、なら良かった!」

 

 パッと花のような笑みを開かせる美少女に、私も頬の緩みを抑えられない。ホントになんていい子なんだ……!

 因みにこの子と会ったのはマジガチの偶然だという釈明は皆さんに既にしている。害をなすつもりは一ミクロンもないと表明したし、そもそもこうしてまた会えるとも思っていなかったのだ。なのでホントに運を使い切った気がしてならない。

 

「駅に来たって事は、お姉さんはもう帰っちゃうの?」

 

「うん、そのつもり。でもこの町で見てみたい所はまだ残ってるし、また来ると思う」

 

「そうなんだー。あ、ジュネスは? お姉さん、あそこのジュネスは行った?」

 

「もちろん! 色々と楽しい所だったから、次にこの町に来た時も行くと思うよ。ひょっとしたら、今度はジュネスで会えるかもね」

 

「ホント?! 私もジュネスは大好き! クマさんもいるし、お兄ちゃんともよく行ったから!」

 

「ああっ、笑顔が凄い眩しい……!」

 

 エブリディヤンラーイフと例の曲を口ずさむ少女の輝きに浄化されかけながら、思うのはこの関わり方についてだ。

 

 私はこの子が堂島(どうじま)菜々子(ななこ)ちゃんである事を識っている。けれど、まだ名乗っていない私の名を彼女は知らない。けれどそれは当たり前の事で、何もおかしくはない。

 

「私、寺崎(てらさき)(かなえ)って言うの。もしまた会えたら、その時もよろしくしてくれたら嬉しいな」

 

「うん! 私は堂島(どうじま)菜々子(ななこ)です! それじゃあね、お姉さん!」

 

 そう言って去っていく菜々子ちゃんを、私は手を振って見送った。

 彼女にとって私は偶々会っただけの存在だ。それ以上になる事はきっとなくて、それ以下になるような言動をする必要もない。

 

 だから、それでいいとするべきだったのだ。

 そしてもしそれ以上を望むのなら、きちんとした形でもって向き合う。それ以下の事をしてしまったのなら、その償いをするべく相手と向き合う。

 そんな当たり前を私は忘れていたという、まぁそれだけの話なのだった。

 

「……結局町を見て回る事は殆ど出来なかったし、頑張ってまたお金を貯めて来るんだから!」

 

 今度はテレビに落ちて皆さんに迷惑をかけたりしないという、まさに当たり前の決意を秘めて、私は駅のホームへと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――失礼しますが、あなたが寺崎(てらさき)(かなえ)さん、でありますか?」

 

「…………えと、そうですけど」

 

 そんな私に、向かい合って声をかける人がいた。

 いや、正確には人だけど、他とは違う要素を持つ人がそこにいた。

 

「ありがとうございます。話に聞いていた容姿とは一致していましたが、間違いがあってはいけませんから」

 

 そう言って微笑むブロンドヘアの女性は、エージェントのような黒服にその身を通している。事実所属としてはその通りだし、八月の上旬なのにその格好をしているのはそうして()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「識っているかもしれませんが、自己紹介を。私は警備部シャドウ事案特別制圧部隊、公称"シャドウワーカー"所属、アイギスです」

 

「シャドウ、ワーカー……」

 

 "対シャドウ特別制圧兵装七式"――つまりは人の心を持つロボットであるアイギスさんが、その碧い瞳で警戒するように私を射抜きながら、言った。

 

 

「寺崎叶さん、あなたには情報窃盗の疑いがかけられています。――ご同行を、願えますか?」

 

 




☆特捜隊の皆さん
 ひとまず少女が無事でよかった。けどまさか転生者とは思ってなかった。まだまだ得体が知れないのとそもそもまだ会ってないのとで見極め中のメンバーが多いそうな。
 「世の中には色々な人がいるからな、そっとしておくべきかもしれない」
 「そもそもあの子って本当に転生者なのかな。ちょっと違和感あるんだけど」
 「待てマリー、それはどういう――」

☆マリー
 とある存在の力を引き継いでいるため、八十稲羽に於いてはかなりの力を有している。なので天気の操作も出来るし、異世界越しに人を視たりも出来る。

☆白鐘直斗
 とある巨大企業グループとの繋がりが一番強い人。なので今回の一件と別の件の二つで連絡を取り合っていた結果、とある邂逅が果たされてしまった。
 

☆アイギス
 一人で来たわけではない。しかし本当にこの子が……?とはなっている。

☆寺崎叶
 向き合う事を始めた女子高生。ペルソナと共に手に入れた鎖鎌とクロスボウの所為でギリギリ銃刀法に引っ掛かる可能性があるとかないとか。

閲覧、評価、誤字報告など誠にありがとうございます! 感想もらえると嬉しいです!
次回、『P4パートが終わったらどうなる? 知らんのか』という感じでよろしくお願いします。
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