私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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おや、P5パートくんの様子が……?

ところで、一話当たりの文字数を一体どうしたいんだ私は。


#21 この場面を避けては進めない?

 

 夏休みに突入した八月上旬。三島由輝(みしまゆうき)という男が、自室で一人ぼやいていた。

 

「くそ、いつまで経っても怪チャンが落ち着かないな……」

 

 彼の目の前に置かれたパソコンの画面では、今も掲示板のサイトが目まぐるしく動き続けている。勿論それは彼が開いた『怪盗お願いチャンネル』のチャット欄であり、話題となっているのは今最もホットであろう存在『メジエド』についてだ。

 

 謎の国際的ハッカー集団である『メジエド』は、七月末に怪盗団への宣戦布告を行った。怪盗団が正体を明かさなければ、日本全体にサイバーテロを敢行するという内容だ。それがハッタリではない事を証明するように、連日色んな企業への小規模なサイバー攻撃が始まっている。

 

 しかし、それに対して怪盗団は一切のアクションを見せていない。八月上旬になってもそれは変わらず、更には怪盗団の名を騙った特殊詐欺も何故か増えており、それによる不満が怪チャンへの荒らしという形となって表れていた。

 

「大丈夫なんだよな、雨宮の奴」

 

 掲示板のアンチコメを片っ端から弾きながら、三島が思い浮かべるのは怪盗団のリーダーの顔だ。

 流石に夏休みに入ったので会う機会は減ったが、チャットもすれば夜に息抜きがてら会うこともある。それでも面と向かって進捗どう?と聞くことも出来ない為、何とも言えぬ不安が彼の胸中を占めていた。

 

「怪盗団の改心は名前と居場所、キーワードがないと出来ない。それが分からない相手をどうやって倒すつもりなんだ?」

 

 何処(どこ)かのストーカーによって異世界を知ってしまった三島は、怪盗団の手法にもある程度通じている。なんならイセカイナビも手元にある為、メジエドの厄介さをより深く理解してしまっていた。

 

「心配ないって言ってた寺崎も、なんかアレから返信ないし……」

 

 パソコンの画面から目を離してスマホを起動しても、ストーカーの少女からの返事は来ていない。

 メジエドの事は彼女にも話したが、「怪盗団なら何とかすると思うから!」と意にも介していない様子だった。むしろ「それよりも八月上旬に旅行に行くけど来ない? 部屋一つしかないけど」と全然関係ない話を振られる始末だった。行けるわけないだろ馬鹿野郎。

 

「いやアレは冗談だって分かってるけど、やっぱりなんか変だよな……」

 

 元々頭がおかしい奴という認識だけれど、夏休みに入ってからの彼女は特に顕著のように思える。

 前回のパレスで無茶をしないと約束してから、二人とも異世界には行っていない。その間は怪盗団も動いてなかったというのもあるが、なんかそれも寺崎にしては怪しい。

 

「怪盗団がどうしてるのかは分からないけど、寺崎ならどんなパレスでもついていく気がするんだよな。それなのに旅行、しかも一人旅とか妙っていうか……」

 

 そんなタイミングであった為、色々と疑りをかけてしまう三島だった。さもありなん。

 

「行先は八十稲羽(やそいなば)、だっけか。もしかしてそこならペルソナが手に入るって事なのか?」

 

 彼女から聞いたのは全く知らない地名だが、あの寺崎がわざわざ行った以上は絶対何かある。けれど今はメジエドの事もあり、かつ相部屋とか言われた所為で断ってしまったが、やっぱり自分も行くべきだったかと何度目かの逡巡(しゅんじゅん)を巡らせていた。

 

「……やっぱり、返事来ないか」

 

 そうして寺崎が例の八十稲羽へと旅立ったのが今朝の事。興味がないわけではなかったので写真の一つでも待とうという魂胆だったのだが、夜になっても何の連絡も来なかった。

 大した時間が空いているわけでもないのに、それが妙に気がかりだった。

 

「まさかまた何かに巻き込まれて……いやいや、そんなわけない、よな?」

 

 自分でも杞憂だと分かっている。それでもあのパレスでの事を思い出してしまうと、ジッとしていていいのかとまた自問してしまう三島だった。

 

「………………怪盗団も、あの寺崎も、きっと今出来る事をやってんだよな」

 

 だから思考したのはそんな当たり前の事。あの怪盗団がメジエドなんかの良いようにされるとは彼も思わないし、寺崎も多分なんかやってる。どちらも見たわけじゃないけど、そう信じられるだけの繋がりが彼にはあった。

 

「……やっぱり、探ってみるか」

 

 そうして彼は焦れたように、その決断を終えた。

 その手掛かりはやはりあのストーカーの少女がもたらしたモノ。ペルソナを手に入れるプランの一つとして、彼女が話した単語の一つ。

 

()()()()()()()()、だったな。もしかして、そっちなら――!」

 

 そうして少年もまた、自らの意思で裏側へと歩み出す。

 それは彼にとっての懸念を払拭する為だったが、ある意味で何処かのストーカーの少女と同じく、己が望みを果たす為と言えるのかもしれなかった。

 

 ☆☆☆

 

「――到着したようですね。寺崎さん、行けますか?」

 

「は、はい! えっと、運転手さんもありがとうございました!」

 

「……おう」

 

 八十稲羽駅前で予想すらしていなかったタイミングでの出会いを果たした私は、その後すぐに黒い車へと乗せられた。こうやって書くと誘拐されたようにしか見えないが、ちゃんと自分の意思で乗ったので合法ではある。

 八十稲羽からここまで長時間の運転をしてくれた、交番で武器の売買をしていそうな男の人にも礼を言ってから、私は車を降りた。

 

「申し訳ありませんが、今日はここで泊まっていただきたいとの事です。取っていたホテルなどがありましたら、こちらでキャンセルしておきますが」

 

「あ、それくらいなら私が――いや、お願いしてもいいですか?」

 

「分かりました。では連絡先を――」

 

 折角ならと好意に甘える私にそう言ってくれるのは、黒服に金髪碧眼の女性だ。飛び抜けて綺麗な容姿を人間離れした美貌と言うことがあるけれど、この人の場合は二つの意味でその表現が相応しいだろう。

 

 なんせこのアイギスさんは所謂(いわゆる)ロボットであり、それでいてペルソナを扱う為に人間同様の精神を持った存在なのだから。

 

「じゃあもしかしてここが、辰巳ポートアイランドなんですか?」

 

「その通りであります。今もシャドウワーカーの本部はここに置いていますので」

 

 そんな彼女に連れられてやって来たのは、ノスタルジックを感じる八十稲羽から一転して、高層ビルが乱立する摩天楼の都だ。それだけなら私の暮らす都心と同じ光景なのだけど、私にとってこの街は八十稲羽とある種同じ意味合いを持つ街だった。

 

(――ここが、ペルソナ3の舞台になった街。まさか八十稲羽に続いてやって来る事になるなんて……!)

 

 それはペルソナシリーズの転換点とも言うべき作品。

 学生とペルソナ使いを両立するジュブナイルの始まりとなる『ペルソナ3』の物語が紡がれた地に、私は今いる。そんな八十稲羽に降り立った時と同じ感慨と共に、私は車移動による疲れを忘れて周囲を見渡していた。

 

「ここに来るのは始めてでありますか? 確か同じ東京都に在住だと聞きましたが」

 

「あ、はい。今まではあまり遠出する事がなかったので……。こっちもいつかは行こうとは思ってたんですけど」

 

 都心からの距離的に行こうと思ったらいつでも行けそうなので、ならまず間違いなく泊まりになる位には遠い八十稲羽から先に行った。そんなニュアンスで言った私だったのだけど、アイギスさんはやや違う受け取り方をしていた。

 

「こっちも、という事はやはり、あなたは私たちの戦いの事も識っているのですね」

 

「それは……はい、識っています。私が呼ばれたのは、やっぱりその辺りの話をするからですか?」

 

「話が早くて助かるであります。概ねはその認識で大丈夫かと」

 

 私の問いかけにコクリと頷くアイギスさん。情報窃盗を疑われているらしい身としては、それくらいしか思い当たる節がないのだった。

 けれど目下、分からない事も一つあった。

 

「でも、どうやって私がその辺りを識っている事を知ったんですか? 八十稲羽の人達に話したのも今日が初めてだったのに」

 

「あなたの事は白鐘さんから()聞いていたんです。ペルソナの事を知っているかもしれない謎の人間が八十稲羽を訪れている、と」

 

「そんなホットラインがあるんですか……?!」

 

 アイギスさんと並んでとにかくデカいビルの中に入り、めちゃ広くて綺麗な廊下を進んで行く。色んな意味で私の識るそれとは違う別世界を歩いているようだ。

 

「いえ、今回は偶々別の件でコンタクトを取っていた時に、あなたの事を聞いただけであります。同じタイミングで似たような不審者が二人も現れれば、繋がりを疑うのは必然でしたので」

 

「似たような……不審者?」

 

 何処かのパレスでも使ったような気がする大きなエレベーターで運ばれた先は、入ったビルの最上階に近いだろうフロアだ。日が落ちて文明の光が星空のように見える街を廊下の窓から見下ろしつつ、私たちは目的地らしい部屋の扉の前に到着した。

 

「失礼します。()()()()、お連れしたであります」

 

「分かった、入ってくれ」

 

 軽いノックと共に中にいる主へとそう告げてから、アイギスさんはドアノブを捻って中の景色を覗かせる。

 入室した先にあったのは会議に使うのだろう細長の円卓と、数はあっても座れる人間が限られていそうな椅子が幾つか。そしてその上座に当たる最奥に、その女性は鎮座していた。

 

「突然の任意同行に従ってくれて感謝する。私は桐条(きりじょう)美鶴(みつる)。そこのアイギスも所持する組織、シャドウワーカーの隊長を務めている者だ。改めて、君の名を聞かせてくれるだろうか?」

 

「は、はい! えと、寺崎(てらさき)(かなえ)、です!」

 

 片目が見え隠れする程に長くてウェーブのかかった赤い髪を持ち、私が識る頃よりも更に気品を感じる大人の女性。それがかつての特別課外活動部(S.E.E.S)の部長こと桐条(きりじょう)美鶴(みつる)さんその人である。

 今は桐条グループの総帥でもあるというトンデモなく偉い人なので、私がテンパるのも無理はないと思うんです。

 

「では寺崎君にも疲れがあるだろうから、早速本題に入らせてもらうが――君は、何をどこまで識っている?」

 

「っ!」

 

 そんな私を更にビビらせたのは、マリーさんとも違う重みに満ちた問いかけだ。鋭さを増したその眼差しは、怯えの声を上げなかっただけでもマシだと言うレベル。

 そんな感じで度胸の足りていなかった私だが、何とかかき集めた精神力で口を動かす。

 

「……私が識っているのは、前世で見たこの世界の事件の記憶です。影時間、マヨナカテレビ、そして怪盗団。この三つに関わる事について大まかに識っている、感じです」

 

「……そうか。では、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「えっ……」

 

 思ってもみなかった問いかけに、一瞬私の思考が止まる。

 落ち着いてみればその返答はNOなのだけど、そう口にする前に考えるのはこの質問の意図だ。最初の質問の時点である程度私が識ってる事を桐条さんが知ってるとするのなら、その上で彼女が確かめたいのは――

 

「えっと、私が識ってるのは確実に起こる未来ってわけじゃないんです。あくまで流れだけというか、変えられないわけじゃないというか……」

 

「流れだけ、か。つまり君が今この場にいる事は、その流れとやらにはない出来事という事で合っているか?」

 

「そ、そうですっ!」

 

 なんか飛躍した返答になっちゃったけど、何かに納得したような態度で頷く桐条さん。あなた様のような方と私が邂逅するイベントが流れにあってたまるかという話で……え、違う?

 

「順序がおかしくなってしまったが、君をここに呼んだ理由についてはどう聞いている?」

 

「その、私が情報セットウをしたとか何とかで同行を求められた感じだったので、その辺りの確認というか、尋問をされるのかなーって」

 

「概ねはその通りだが、尋問のつもりはないんだ。白鐘君からも悪い人間ではなさそうとは聞いているからね」

 

「あ、そうなんですね。なら良かっ――」

 

「だが、恐らく君は桐条グループのまだ公に出来ない機密情報まで識っている筈だ。それが我々の下から奪ったモノではないと分かるまでは、改めて拘束する事も辞さないと思ってくれ」

 

「……あ、はい……」

 

 とりあえずは尋問というか、すぐさまお縄につくような展開はないと分かって安堵しかけたが、そう容易くはないらしい。

 シャドウワーカーも一応警察組織なので、その気になれば私の身くらい簡単に抑えられるという事だろう。

 

 それにペルソナ3の事件を識っているという事は、桐条グループの過去のやらかしにも通じていると同義だ。そんな秘密を識った人間が野放しになっていると分かれば、シャドウワーカーの本隊員が動くのも無理ない訳で……んん?

 

「……あの、どうしてこんなに早く私を捕まえられたんですか? 白鐘さんから連絡を貰ったにしては、やっぱり八十稲羽まで来るのが早すぎるような……」

 

「そうだな。白鐘君から連絡が来たのはついさっきだが、実はそれよりも前、具体的には昨日の夜から君の事は調べていたんだ」

 

「え?! ど、どうしてですか!?」

 

 てっきり今日話した内容が八十稲羽組→都会組→桐条さんという経緯で伝わった為に私の確保に動いたと思っていたけど、それだとあまりに到着が早すぎる事に気付いた。八十稲羽からここまで数時間はあるんだし。

 

 なので昨日から私が八十稲羽にいる事が知られていたのならこの問題は解決するけれど、そうなると逆に昨日の時点で私をマークする理由が分からなくなる。私の持つ転生前の記憶を危険視したにしろ、それを明かしたのは今日の筈なのに……。

 

「実は一昨日、私たちに接触してきた子がいてね。その子も何故か我々シャドウワーカーの事や、ペルソナの事を知っていたんだ。聞けばとある旅行中の友人から知ったらしい」

 

「……え、その子って、まさか」

 

「そして同じタイミングで八十稲羽の異世界に入った人間がいるという話を白鐘君から聞いてね。これは是非とも話を聞かなくてはならないと思い、調べる事にしたんだ」

 

 なんか話している内に楽しそうになってきた桐条さんとは反対に、私はダラダラと冷や汗を垂らしているような感覚を味わい始めていた。

 途中でアイギスさんも言ってた不審者がその子なんだろうけど、それ某男子しか浮かばないというか……。

 

「元々一緒に話を訊くつもりだったから、ちょうどいいだろう。――()()()()、頼めるか?」

 

『――はいはーい、じゃあ連れて来るからちょっと待っといてな』

 

「連れて来るって、え、ええ?」

 

 桐条さんが最初から付けていたワイヤレスイヤホンのようなモノでこれまた聞き覚えのある名を呼ぶと、少ししてドアの向こうからまた足音がした。

 混乱とまさかの予想を抱きながら振り返ると、ちょうど扉が開いてその二人が入ってくる所だった。

 

 一人は青みのかかった長い銀髪をポニーテールにして揺らす、紅い瞳の少女だ。人とは違う鉄の手足を妹のアイギスさんと同じ黒服から覗かせる彼女がきっと、ラビリスさんだろう。

 

「寺崎、か……?」

 

 そんなラビリスさんに連れられて来たのは、シンプルなモノクロの私服にノーパソを片手に持った、黒髪の男子高校生だ。というか、言うまでもなく――

 

「なんで、三島くんがここにいるの!?」

 

 私の中の謝るリスト筆頭を飾っている彼こと三島くんが、何故かシャドウワーカーの本部にいたのだった。

 

 ☆☆☆

 

「ふむ、やはり知り合いだったか」

 

 互いに驚いた顔になった私たちを見て、引き合わせた桐条さんがそう呟く。それはイタズラが上手くいったと喜んでいるようにも見えた。

 

「い、言っとくけど俺は誰の名前も出してないからな?!」

 

「あれ、そうなの? てっきり三島くんがシャドウワーカーの皆さんに私の名前を出したから、お迎えがきたんだと思ったのに」

 

 謎の弁明をする三島くんにシャドウワーカーの事を教えたのは確かに私だ。

 というか本来はペルソナを手に入れる為の作戦候補としてシャドウワーカーとの取引を考えていたのだ。なのでそれを知ってる三島くんがここと接点を持とうとする事自体は、まぁ分からなくはない。めちゃびっくりしたけど。

 

「彼から接触があったと言っただろう? 『助けたい友人がいる。もしかしたらシャドウのいる異世界にペルソナを手に入れに行ったのかもしれない』、とな」

 

「み、三島くん……!」

 

「もっとも、最初のコンタクトはウチのサーバーへのハッキングだったようだが」

 

「み、三島くん?!」

 

 私がほっこりしたのも束の間、ここで出会った時よりも声が大きくなってしまった。いや私が言えた義理じゃないけど、何やってんの?!

 

「いや仕掛けようとしたら秒で逆探知されて終わったから、未遂だって未遂! あとちゃんと謝ったし!」

 

「担当者曰くザルだった、どう見ても素人だったという事でお咎めは無しであります。良かったですね」

 

「アイギス、それは言わぬが花って奴やからね……」

 

 聞けばメジエドの件を受けて、彼なりに勉強してみた末の行動らしい。ただし初歩の初歩の初歩しかまだ知らないらしく、別にハッカーキャラに転向した訳ではないとの事だった。なら何故ハッキングなんか……。

 

「腕が未熟かつ未遂だったとしても、ハッキングもといクラッキング行為は立派な犯罪だ。三島君の持つ情報とアプリがあったから咎めるのを止めたという事は忘れるなよ」

 

「は、はいっ! ホントッ、すみませんでしたッ!」

 

 ギロリと睨みを利かした桐条さんに、平伏する勢いで頭を下げる三島くん。既にその辺りの話は済んでいるようで何よりだが、なんか聞き捨てならない単語が紛れていたような。

 

「もしかして三島くん、イセカイナビの事も話したの?」

 

「話したというか、アレを見せてようやく信じて貰った感じだよ。俺の手持ちで証拠になりそうな奴なんて、イセカイナビしかないし」

 

「まぁ、それはそうかも」

 

 夜になればやってくる異界やテレビに触れて分かる異世界と違って、認知世界は現状あのアプリしか関わる手段がない。都心で今起こっている事を話すなら、そこは避けては通れないんだろう。

 

「寺崎君はイセカイナビを持っていないと聞いたが、それは本当か?」

 

「あ、はい。……やっぱり、入ってないです」

 

 桐条さんに問われて僅かな期待を抱くが、起動したスマホの画面はいつも通りだ。例の赤い目のアプリはやはり何処にもなく、私が意気消沈するだけの結果に終わった。

 

「入ってない、か。まるでどこから来るのかを知っているような口振りじゃないか」

 

「ひゅあっ?!?!」

 

「あ、ホントに知ってるんやね」

 

 またも痛い所(WEAK)を突かれた私に、ラビリスさんが呆れたような、或いは感心したような口振りになる。

 そしてその隙を見逃すような彼らではない。

 

「三島君のスマホを借りて調べたが、このイセカイナビというアプリはまるで得体が知れない。というよりアプリの体を成しているだけのナニカだと聞いている。そんなアプリを所持していないのに出処を識っているとは、やはり君の方が三島君よりも詳しいようだな」

 

「っ……」

 

 先程三島君がビビり散らかしていた視線を向けられ、私も身を震わせてしまう。同じくシャドウワーカーであるアイギスさんとラビリスさんもそこまでじゃないにしろ、懐疑を含んだ目で此方を見ている。

 今の私はイセカイナビと同様に、得体のしれないナニカだと思われているんだろう。全くもって正しい評価だ。

 

「君は前世でこの世界の記録を見たと言った。つまり過去に起こった事件に関しては、当事者である私たちと同程度に識っているんだな?」

 

「……はい、そうです」

 

「ならそこに関してはまた後で話すとして、今聞きたいのはこれから起きる事だ。都心で怪盗団を中心に何が起こっているのか、そこにペルソナやシャドウがどう関わっているのか。聞かせてくれるか?」

 

「……分かりました。私が言える限りの事は、お伝えしようと思います」

 

「寺崎……?」

 

 それでも詰まる事なく決意表明をすると、不安そうに私を見る三島くんとも目が合った。この場ではある意味で彼だけが味方だけど、だからこそ言わなければならない事がある。

 

「三島くんにも聞いてほしい事なの。後で謝らないといけない事もあるし、いいかな?」

 

「……分かった。寺崎がそれでいいなら」

 

 後半部分で眉をひそめた三島くんだけど、ひとまずは耳を傾けてくれるらしい。また借りが増えちゃったなと内心苦笑しながら、本日二度目の説明を始める事にした。

 

 

「――初めに軽く話したんですけど、私には前世の記憶があるんです」

 

 

 ☆☆☆

 

「――と、そんな感じです」

 

 長い話ではあったけど、回数を重ねた事で要点を纏められたかなと思いつつ口を閉じる。それから周囲を見渡すと、神妙そうな顔になった皆がいた。駄目だったかもしんない。

 

「……どうやら、君は相当厄介なイレギュラーらしいな」

 

「うっ……」

 

 椅子に深く座り、考え込んだ末に桐条さんが出した評価に、返す言葉のない私は冷や汗を垂らすばかりだ。

 

 因みにフードコートの時と同じく全員が着席しており、それぞれの前に飲み物と軽食が置かれていた。これは多忙な桐条さんが私たちと顔を合わせるのに夕食の時間とそこからのプライベートタイムを当てるしかなかったらしく、そこを押してきている為にメイドさんが運んで来てくれたモノである。というか私、あの黒髪のメイドさんの名前識ってる気がする……!

 

「えーと、三島くんはどう? 話、分かった?」

 

「ははは、全然分かんない」

 

 それらの飲食物に殆ど手を出さずに聞いていた三島くんが、乾いた笑みを浮かべている。前にも見たな、この顔。

 

「いや、寺崎が転生者ってのはギリギリ納得出来ると言うか、合点がいくんだよ。だからペルソナとかパレスとかに詳しかったんだなって思うし」

 

「三島くん……」

 

「でもそれが目の前にいる寺崎(お前)ってのが信じられないというか、受け入れづらいって言うか……」

 

「三島くん?! いやそこなの!?」

 

 まるで転生者が私以外だったら分かる、みたいな言い分だった。そんなに日頃の行いが悪いのか私。……いや、悪いかもしれないけども。

 

「それに寺崎の言う事が本当なら、怪盗団はこの先もっとヤバい奴らに狙われるって事だろ? それはちょっと、実感湧かないなって」

 

「むぅ……確かに証明は出来ないんだけどさ」

 

 ここで皆に話したのは、私の前世の記憶にある怪盗団や認知訶学(にんちかがく)、そしてそれを悪用したもう一つの事件についてだ。けれどそれは前世で見たというだけであって、この世界でもそれがあったという根拠はない。

 しかし、私の話に反応を示す人がいた。

 

「……認知訶学か。まさかその名をここで聞くとはな」

 

「桐条さん、認知訶学を知ってるんですか?!」

 

「ああ。と言っても私は概要だけだが、確かに認知とはその者の精神の有り様で変化するモノだと聞いている。そこからペルソナやシャドウに通じるモノがあるかもしれないという話だったが、まさかそこまで深く繋がっていたのか……」

 

 聞けば一時期は()()()()()()()()()()のスポンサーになる話が上がるほどに注目していたそうだ。しかしその第一人者の訃報で研究が下火になってしまい、スポンサーの話も流れてしまったらしい。

 それを聞いて私も難しい顔になったけど、桐条さんが認知訶学を知っていてくれただけでも良しと思う事にした。

 

「……それと精神暴走事件についてだが、我々シャドウワーカーも調べようとした事があるんだ。寺崎君には()()()、と言えば分かるか?」

 

影人間(かげにんげん)……まさか、精神暴走事件の被害者がですか?」

 

 桐条さんが試すように訊いてきたのは、影人間という固有名詞についてだ。ざっくり言うとP3でシャドウに襲われて無気力になった人の事を指すんだけど、まさか精神暴走させられた後は影人間になっていたと言うのだろうか。

 

「いいや、厳密には影人間……もとい無気力症になった例は確認出来ていない。だが原因不明だったり症例が似通っていた事から、万が一を疑ったんだ」

 

「しかし私たちは依然として警察組織の中では弱い立場にあります。陣頭指揮を取っている方とも掛け合ったのですが、詳しく調べる事は出来ませんでした」

 

「あー……」

 

 残念そうに語るアイギスさんの言葉で私の脳裏に精神暴走事件を調べていた女検事さんの顔が浮かぶけど、そこは仕方ないかもしれない。成果に飢えている頃のあの人なら、他の部署の人間に手柄を取られる事を良しとはしなさそうだし。

 

「でも今の寺崎ちゃんの話が本当なら、やっぱり精神暴走事件もシャドウ事案って事やな? しかも、悪意のある人間による計画的な犯行みたいやし」

 

「だと思います。少なくとも、事件の裏にペルソナが関わっている事は間違いないかなって」

 

 ラビリスさんの問いかけに頷いてみせると、場の雰囲気がまた引き締まったような感覚が漂い始める。

 まだちょっと取り残され気味な三島くん以外の三人が、顔を合わせてから口を開く。

 

「纏めると、今都心で起きている事の中心にあるのは認知訶学から成る異世界。そして個人の認知世界に潜入し、その異世界の核を奪取する事で改心を果たしているのが"心の怪盗団"であり……」

 

 桐条さんがそこまで言った所で私と三島くんの方に視線を投げて来たので、肯定の意を込めて頷く事で続きを促す事にする。

 

「その認知世界に出現する個人のシャドウに手を下し、現実世界での事件を引き起こしているのが精神暴走事件のあらましである、と」

 

「そして精神暴走事件の黒幕は同じ手口を使う怪盗団を敵視しており、その排除を目論んでいる。その最初の一手が今起きているメジエドの事件、でありますか」

 

「そうして名声を上げた後で悲惨な事件を怪盗団が起こしたように見せかけて、最終的に精神暴走事件の罪も擦り付けた上で捕らえる……こうして聞くと、確かにえらい事が起きようとしてるなぁ」

 

「怪盗団と精神暴走事件の黒幕とのやり取りはそんな感じですけど、まだそれで終わりじゃないんです」

 

「え、まだあるの?」

 

 いい感じに纏めてくれたシャドウワーカー三人に被せるように言うと、三島くんが再び目を丸くしたように呟く。むしろシャドウワーカー的にはこの先の方が重要かなって思うので、躊躇う事なく開示してしまうとしよう。

 

「そうして最後に出てくるのは恐らく、全てのきっかけである認知世界を作った存在です。ソイツはタルタロスの屋上に来たアレや、マヨナカテレビを作ったアレと同じ位の力を持っていると思ってくれていいと思います」

 

「っ! ……それは、冗談で言っている訳ではないんだな?」

 

 過去にあった具体例を出した事で、桐条さんの問いかけに焦りと真剣味が色濃く上乗せされる。あの統制神さんもちゃんとラスボスしてたので、比較としては間違ってはいないだろう。

 

「すまん寺崎。どういう奴が来るのか全然分かんないから、十文字くらいで纏めてくれない?」

 

「ガチの悪い神様が来るの」

 

「ガチの。悪い。神様。…………え、カミサマ? そんなのが来るの? 本当に?」

 

 端的に言い過ぎて逆に混乱させちゃったかもしれないが、本当の話である。どうか粛々と受け止めて欲しい。

 現にもう受け止め終わった人たちも目の前にいるんだし。

 

「……確かに興味深い内容だった。まだその全てを信用した訳ではないが、この場を設けた甲斐は間違いなくあったと言えそうだ」

 

「そ、それなら良かったです!」

 

 チラリと壁の時計をみると、短針が9の上に登ろうとしている所だった。なるべく要点だけに絞ったつもりだけど、話し始めてから一時間以上は経過していたらしい。

 しかしこの会合も直に潮時だ。私から話せる事はまだまだあるが、最低限伝えるべき事は伝えた筈だと、私は軽く息を吐く。

 

「それを踏まえた上で訊くが――君は、()()()()()()()()()()?」

 

「…………」

 

 それによってどうにか、桐条さんの敵意すら含んだ視線に耐える事が叶ったのだった。

 

「概要だけを話してくれたのだと思うが、それにしては意図的に伏せてある情報が幾つかある。恐らく君は怪盗団や精神暴走事件の黒幕の正体は勿論として、その神とやらとどんな決着を迎えるのかも識っているんじゃないか?」

 

「…………」

 

 私は何も答えない。それは称賛、って言うと上からになっちゃって嫌なので、流石だと感嘆した末の反応だった。

 

「君は前世の記憶によって多くの事を識っているから、あえて言わなかったのだと解釈は出来る。しかし私が君を呼び出した事は流れになかった以上、それも絶対ではないんだろう。なら君はその流れに従うのか、それとも抗うのか。どう動くつもりなのか、聞かせてもらおう」

 

 それを聞くまでは逃がさないと、私を射貫く六つの瞳が言外にそう告げている。もう何度目か分からないその視線に冷や汗が背を垂れるけど、敵か味方かも知れない私に向けるモノとしてはやはり間違っていないだろう。

 しかし、それでも構わないと思う自分がいた。

 

「……どっちも、です」

 

「どっちも、とは?」

 

「言った通りの意味です。私はこの先に起こる流れを大きく変えるつもりも、そしてただ見過ごす気もありません。そのつもりはもう、なくなりました」

 

 それは一見矛盾しているような答えだけど、ペルソナを手に入れる時に決めた事だから曲げるつもりはない。そしてこの場には、そんな私の大言壮語を現実にする為に必要な人材が揃っている気がした。

 

 だから元よりこの場は避けられないモノだと意を決して、私はその口火を切る事にする。

 

「だからシャドウワーカーの皆さん、そして三島くん。私と取引……いや、私のお願いを聞いてくれませんか?」

 

「お願い、だと?」

 

「ってか、俺も? 俺もなの?!」

 

「勿論三島くんもだよ。こんな私だけど力を貸して欲しいの。――今度は誰も、死なせない為に」

 

 それは流れによって決められており、一度は私も見過ごそうとした人の死を避ける為。

 或いは自身の影と向かい合った時の誓いを果たす為に。ストーカーの私は最初の一歩を踏み出したのだった。




☆寺崎叶
 己と向き合ったと思ったらいきなり都会に飛ばされたストーカー。
 思わぬ出会いが続くけど、ちょうどいいので自分なりの向き合い方の実践を始めた。
 それはそれとして打算的ではある。

☆三島くん
 何故か巨大財閥の一部門にハッキングをしかけちゃった広報担当。何故なんだ。
 寺崎が来るまでも色々あったはあった。あと寺崎、なんか雰囲気が変わった?

☆アイギス
 今日は昼過ぎに稲羽市に到着して天城屋旅館に行ったら。もうチェックアウトしていておったまげたであります。けど駅で待ってたら確保できたので良かったです。
 ところで車の中でジッと見られていた気がしますが、何か変だったのでしょうか?

☆ラビリス
 稲羽市に行くのはアイギスに任せるわ。ウチはその、ちょっとね。
 代わりにこっちでの仕事はしとくから、堪忍な!

☆桐条美鶴
 何やら波乱の予感を感じる次期総帥。思ったより話がデカくなりそうだなと思い、エクストラ・ナンバーズや外部協力者の出番も視野に入れ出した。
 にしてもこの信用しきれない感覚、どこかで覚えがあるような……あっ。


 閲覧、評価、誤字報告など誠にありがとうございます!
 感想もいただけると嬉しいです!
 次回は『夜の部屋での密会』『おいでませメメントス』な感じになる気もします。
 よろしくお願いします。
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