私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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感想は近いうちにまとめて返信します!


#23 だからその道は避けられない

 

「――そっか、あの子は偶々会ったお友達で、私たちがペルソナ使いである事は知らなかったんだね」

 

 渋谷で遭遇した一般通過怪盗団のリーダーとどうにか別れた後、合流してくれた山岸さんを連れた私たちはカラオケボックスの一室に身を寄せていた。

 軽く事情を話すのと、これが怪チャンのオフ会であるという既成事実を作る為だったけど、また三島くんが肩身狭そうにしているのが印象的だった。皆さん美人ばっかりなので気持ちは分かる。

 

「ごめんなさい、わざわざ来てくださったのにいきなりこんな事になっちゃって……」

 

「いいのいいの、気にしないで。そういう事なら私もちょっと迂闊だったみたいだし」

 

 そう言ってゆらゆらと手を振ってくれる山岸さんに、私は癒されたような心地になりかける。私よりも年上のお姉さんだからか、こう包容力的なナニカが増しているように感じる……!

 

「ええと、それで山岸さんもペルソナ使い、なんですか?」

 

「うん。と言っても私は桐条先輩やアイギス達と違って戦いに向いたペルソナじゃないんだけどね」

 

 そんなお姉さん相手におずおずと三島くんが尋ねると、何でもない様子で答えてくれる山岸さん。

 勝手に補足すると、山岸さんはいわゆる探知系のペルソナ使いだ。前に出て戦うのではなく、敵や周囲の情報を収集して支援する事に特化した能力を持っており、ペルソナ使いの戦いに必要不可欠な存在である事は言うまでもないだろう。

 

「私はシャドウワーカーの正式隊員じゃないんだけど、桐条先輩に頼まれた時はこうやってお手伝いに来てるの。ちょっと変わった事情を持った子がいるって話を聞いたけど、それがあなた?」

 

「多分そうだと思います。私、前世の記憶があるので!」

 

「ぜ、前世……?」

 

「寺崎さんはこことは異なる世界から私たちの事を見ていたそうです。だから私たちの戦いや都心で今起こっている怪盗団についても詳しく識っている、との事であります」

 

「そ、そうなんだ……?」

 

 アイギスさんが掻い摘んで話してくれたけど、山岸さんの頭上にはまだハテナが浮かんでいるようだった。まぁこんな話をいきなり信じろという方が無理なので、その反応も何もおかしくはないよね。

 

「今流行りの転生系って奴らしいねんけど、山岸さんは知ってはる?」

 

「転生って……まだちょっと、理解が及ばないかも」

 

「無理に飲み込もうとしなくてもいいと思いますよ。俺も深くは考えないようにしてるんで」

 

「三島くんはそろそろ観念してくれてもいいと思うんだけど?」

 

「ひとまずコイツはペルソナとか認知世界に異様に詳しい不審者と思ってもらえれば」

 

「雑だよ三島くん! なんか私の扱いが!」

 

「それをする権利が俺にはあるだろ……!」

 

「うっ、確かに……」

 

 転生者と不審者では結構な差があると思うんだけど、借りの事を出されたらあまり強くは出られない。ぐうの音も出なくなった私を、懐かしそうな目で見つめる三人がいた。

 

「なんだか、ゆかりさんと順平(じゅんぺい)さんを思い出すやり取りであります」

 

「あはは、確かに……」

 

「悪い子らではないと思うで、多分……」

 

 しみじみと言うアイギスに苦笑を返す二人。出てきた名前にちょっと嬉しくなる私だけど、私はその二人の内のどっちなのでしょうか。いや何となく分かるけども。

 

「それでは顔合わせも済んだという事で、これから『メメントス』へと向かうでありますか?」

 

「そうですね、ここで長話をするのもアレですし……って、なんでマイク持ってんだよ寺崎」

 

「あ……そうだよね。カラオケに入ったのはあくまで建前だったもんね。うん大丈夫、分かってるから」

 

 三島くんに言われてマイクを置く私だが、別に浮かれていたわけではない。決してシャドウワーカーの皆さまのお歌を拝聴させていただけるかもとか思ってた訳じゃないからっ……!

 

「でも雨宮くんに後で聞かれてもいいように、証拠写真くらいはあってもいいんじゃないかな? ねぇ?」

 

「あ、圧が強い……」

 

「なのでお願いします、どうか一枚だけ写真を……! 誰かに見せる時はスタンプとかで顔を隠すんで……!」

 

「ええと……アイギス、こういうのは良いの?」

 

「後で美鶴さんに確認はしますが……まぁ、いいのではないでしょうか」

 

「ウチらの事がバレへんようならええんちゃう? 思い出作りって事なら、そこまで目くじら立てへんでも」

 

 そんな私の我が儘でこの場の皆を一枚の写真に収めてから、私たちは再度渋谷の交差点へと向かうのだった。

 ……よし、この写真も家宝にしよう。

 

 ☆★☆★☆

 

『ナビゲーションを 開始します』

 

 スマホから響く声が、私たちを異世界へと誘う。

 視界の歪みが世界へと伝播していき、すぐに私たちだけを残して周囲の在り様を変化させていく。

 

「これが認知世界……。影時間とも、テレビの中の世界とも違う感じがする……」

 

「私たちが今まで体験してきた異界と似てはいますが、やはり別物のようですね」

 

 初体験となるアイギスさんと山岸さんが、人のいなくなった渋谷を見渡して目を見開いている。実は久しぶりだったりする私も、その光景にはただ言葉を飲むばかりだ。

 

「シャドウワーカーの人たちが認知世界にいるなんて、なんてクロスオーバーッ……!」

 

「寺崎は何に感動してんの?」

 

「気にしないで三島くん。これは私にしか分からない感慨なの」

 

 呆れた目で見てくるこの場唯一の男子をあしらっていると、シャドウワーカーの中で唯一認知世界に驚いていないラビリスさんがとある場所に注意を向けた。

 

「それで、ここから入れる駅の地下が本拠地って事やな? 昨日と同じでシャドウの気配がしとるし」

 

「そうなんですけど、昨日は下まで行かなかったんだっけ?」

 

「流石にラビリスさんと俺だけじゃ危険だしな。元々そこまで行くつもりもなかったし」

 

 私とアイギスさんが八十稲羽を発っている頃、三島くんとラビリスさんがメメントスを訪れていたのは昨日聞いた話だ。ただしあくまで話の信憑性の為にイセカイナビを使っただけだそうで、本格的な調査は今日が初めてなのだった。

 

「それじゃあ、早速地下に……」

 

「あ、待って三島くん。その前に確認しておきたい事があるの。――山岸さん、出来れば地上の調査をお願いしてもいいですか?」

 

「え、地上の? 見た感じ、私たち以外には誰もいなさそうだけど……」

 

 意図が分からないといった様子で首を傾げる山岸さんだが、私としてもここは譲れない。最初は自分たちで出来る限り調べてからと思ったけど、本業である山岸さんがいるなら頼らない手はないのだ。

 

「これからは私たちの存在を誰にも知られたくないんです。なので杞憂だとは思うんですけど、念の為に調べて欲しいんです」

 

「寺崎、それも『敵』を警戒しての事なのか?」

 

「うーん、正しくは敵味方両方をって感じかも。今は怪盗団ともあんまり鉢合わせしたくないし」

 

 某異世界で好き放題やってる探偵王子もそうだけど、怪盗団にもシャドウワーカーと行動を共にしている所を見られたくはないのだ。まぁさっき見られたばかりだし、多分今日は四件茶屋の方で忙しいとは思うけど、探偵の方は警戒しすぎるという事はないだろうから。

 

「……そういう事なら、分かりました。では――『ユノ』!」

 

「うおっ!?」

 

 アイギスさん達からも話を聞いていた山岸さんが頷くと、懐から取り出した銀色の銃をその額に当てて引き金を引いた。

 その様子に慣れていない三島くんが驚く前で、硝子の割れるような音が響くのと同時に、水色の透明な球体を下半身に持つ人影がその姿を現した。

 

 山岸さんが『ユノ』と呼ぶ、彼女だけのペルソナだ。その球体部分に入って瞑想するような体勢になったので、目を閉じて周囲の探索を始めたのだと思う。

 そんな事前知識のない三島くんが、その浮世離れしたペルソナに目を奪われながらに口を開いた。

 

「これが山岸さんのペルソナ……。というかシャドウワーカーって皆あの銃で召喚するのか……」

 

「あれ、今朝私が使った時に三島くんもいなかったっけ?」

 

「いたけど、いざこっちの世界でいきなり見せられるとびっくりするだろ! あと寺崎だから恰好つけてたのかなって思ってたし!」

 

「なにおう!?」

 

「――周囲の探査、完了しました。地上には私たち以外誰もいませんでしたが、それでいいですか?」

 

「あ、すみません。ありがとうございます!」

 

 高校生二人が言い合いを始めかけた所で、山岸さんが手早く調べ終えた事を私たちに告げてくれた。気を取り直して礼を言ってから、いよいよかなと私もその入口へと目を向けた。

 

「じゃあ行きましょう、メメントスへ!」

 

 ☆★☆★☆

 

「――ここにも私たち以外の反応はありません。それと寺崎ちゃんの言う通り、ここから下には大量のシャドウ反応があります」

 

「山岸さん、下が何層あるかって分かりますか?」

 

「……いいえ、そこまでは難しいかも。まさか渋谷の地下にこんなタルタロスみたいな異界が広がっているなんて……」

 

 『ユノ』を解きながら立ち上がる山岸さんだが、その表情はあまり優れないモノだ。その探知の力でメメントスの全容の知れなさを知ってしまったのなら、それも無理ないと思う。

 

「タルタロスと違って、転移装置のようなモノはないのですね。地下へ下っていくと言うと巌戸台分寮の事を思い出しますが……いえ、藪蛇でした」

 

「ウチはあまり縁がないからなぁ。美鶴さんやアイギスが戦いしてはったタルタロスに似てるってゆうと、ちょっと興味が湧く気もするわ」

 

 そういうロボっ娘二人は恰好こそ変わってないものの、その手にそれぞれの武装を持った戦闘態勢に入っていた。

 アイギスさんは手袋を外してその指先にある銃口を覗かせているし、ラビリスさんもずっと持っていた大きめのギターケースのようなカバンから巨大な両刃の斧を取り出している。

 

「す、すげぇ……! ホントにゲームみたいっていうか、カッコいいな……!」

 

「そうだよね、そうだよね三島くん……! やっぱり感動するっていうか、ロマンに溢れてるよね……!」

 

「なんだか、歓喜の視線を向けられているであります」

 

「ちょっと照れるけど……今日来た目的の事、忘れてへんよな?」

 

「わ、忘れてないです忘れてないです! すみません、興奮しすぎました!」

 

 そうやって浮かれていた所をラビリスさんにジロっと見られたので、ちゃんと反省する私。けどここだけは三島くんと共有出来てちょっと嬉しかったです。

 

「それで、二人の装備は大丈夫なの?」

 

「勿論です! 八十稲羽から来たままなんで、武器は持ってきてます!」

 

「俺は桐条さんから貸してもらったけど、用意はしてます」

 

 尋ねてきた山岸さんに三島くんがスナイパーライフルのモデルガンを、私が鎖鎌とクロスボウを見せて準備が万端な事を伝える。ここからはシャドウとの戦闘もあるだろうから、自分の身を守るだけの用意は大事だよね。

 

「いや待って寺崎、何その武器は。というかそれ本当にレプリカか?」

 

「うん、あくまで見せかけだけのモノだよ? まぁ刃はなくても強度は申し分ないし、クロスボウに関しては私にも分かんない位構造しっかりしてるけど」

 

「これがレプリカでありますか? そうは見えない位に精巧な作りになっているようですが」

 

「あ、けどホントやな。認知世界ではレプリカでもそう認知されたら武器になるって話は聞いてたけど、これの事やったんやね」

 

 そう言えば見せてなかった新武装に三島くんが驚いているが、そもそもがレプリカである事にシャドウワーカーの皆さんは興味を持ったようだ。最初から本物の武装を用意できる彼らからしたらそりゃ珍しいよね。

 

「……確かに、この辺りにいるシャドウはあまり強くないみたい。ではそこで力を見せてもらうって事で、いいのかな?」

 

「はい、それでお願いします!」

 

 そうして確認が終わってから、私たちはいよいよメメントス入り口フロアから下へと降りていった。

 今回の目的の一つである、私()()がどこまで戦えるのかを示す為に。

 

 ☆★☆★☆

 

「いました、シャドウです」

 

 かつてのタルタロスと違って一緒に付いてきてくれた山岸さんが、真っ先にその存在に気が付いた。光の乏しいメメントスの通路の先に、黒くて大きな人影がふらついているのが見えた。

 

「私たちが戦ってきたシャドウとは種類が異なってる。ここにいるのはペルソナのそれに近いみたいだね」

 

「ここが大衆の認知世界だからでしょうか。タルタロスとの違いとしては、面白いでありますね」

 

「それはええけど、シャドウはシャドウなんやろ? ならウチらと仲ようしてくれるわけやないやろし、ここらでええんちゃう?」

 

 ラビリスさんがその手に持った大斧の調子を確かめながら、けれど視線を投げたのは目の前のシャドウではなく横にいた私たちだ。それを受けて、私は軽く息を吸いながら前へと出た。そしてごそごそと黒い布を取り出してから、三島くんへと断りを入れることにする。

 

「じゃあ最初は私がやるね。多分私一人でも大丈夫だと思うけど、ダメだったらフォローお願い」

 

「お、おう。任せろ」

 

「うん、任せる」

 

 ちょっと気負った様子の三島くんを最後に見ながら、私は手にした黒仮面という名の目隠しを装着する。その瞬間、切り替わった私の意識と共に姿が変わったのを感じた。

 言わずもがな、私の反逆の意思を反映した怪盗衣装である白い修道服だ。

 

「恰好が、変わった? これも寺崎ちゃんだけの特殊なペルソナ能力なの?」

 

「反逆の意思っていうのでペルソナに目覚めるとこうなるんですけど、その話はあとで。とりあえず今は、行ってきます!」

 

 気になる様子の山岸さんに背を向けて、私は左足に力を込めつつも音は立てないようにして駆け出す。イメージするのは物陰から飛び出して奇襲をかけるジョーカーのそれだ!

 

「一撃で、終わらせる――!」

 

 それは桐条さんから告げられた、シャドウワーカーが協力するための条件。

 黒幕の持つ権力的に、シャドウワーカーが動いていることを知られるのはあまりよろしくない。しかし私たちだけが前線に出る事もまた桐条さんが良しとしなかったのだ。

 

 その為に私と桐条さんが見出した妥協点。シャドウワーカー側が納得するだけの力がある事を示すのが、今回メメントスにやってきた目的の一つなのだ。

 

 だからこの場は全力で、目の前のシャドウを仕留める――!

 

「『シャルロット』――『天啓の一手』ッ!」

 

『なん――ぐわあっ!?!?』

 

 低姿勢のまま、シャドウの足元にまで一息で接近し、気づかれるよりも早く目隠しに手を当ててその仮面を青く燃やす。そして出現したシャルロットが、その棒のような腕でシャドウを刺し貫いた。そうして何も出来ぬまま、一体のシャドウが塵となって消えていくのを見届ける私。

 

「ふぅ、戦闘終了です! ……って、アレ?」

 

 それから周囲を見渡し、他に敵影がない事を確かめながら立ち上がると、目を丸くしてこちらを見る皆の姿が少し遠くにあった。これが私の全力だったんだけど、彼らのお眼鏡にかなっただろうか。

 

「い、一撃って……。どんなペルソナなんだよ、それ」

 

「そこまで強いシャドウではないようでしたが、それでも凄まじい威力が出ていた気がします」

 

「てかその前の動きは何なん? アサシンみたいな身のこなしやったけど、ホンマに高校生!?」

 

「え、ペルソナ使いってみんなコレくらい出来るんじゃないんですか!?」

 

「うーん、そんな事は……どうかな……?」

 

 困ったように笑う山岸さんの反応が全てだった。もしかして私、所謂なろう系ムーブって奴をしてしまったのだろうか。だとしたら凄く恥ずかしいんだけど……!?

 

「決戦間近のリーダーがシャドウの背後からあのような動きで奇襲を仕掛けていたような気もしますが……」

 

「言われてみればP1クライマックスの時は皆あんな風にはっちゃけてたような……いやいや、それにしてもやろ」

 

「と、とりあえず戦闘お疲れ様! そのスキルは強力な分かなり体力を消耗するみたいだけど、回復は大丈夫?」

 

「あ、そうですね。ちょっと待っててください」

 

 シャドウワーカーの皆さんが過去の例を思い出している間に、私は『天啓の一手』で消費した体力を戻すべく八十稲羽で買った傷薬(HP100回復)の封を切る。今みたいな雑魚相手なら強いんだけど、連発出来ない辺りが中々ネックなんだよね。

 

「……よし、これで大丈夫!」

 

「ちょっと待って寺崎。今その傷薬どうやって使ったの? なんでもう空になってるんだ?」

 

「そこに突っ込むのは野暮ってものだよ三島くん」

 

「えぇ……」

 

 困惑を隠さずそのまま私にぶつけてくる三島くんを躱していると、先程からまた『ユノ』を使っていた山岸さんが確認するように数年来の仲間へと声をかけていた。

 

「もう少し行けば別のシャドウもいるけど、もう少しやるのかな、アイギス?」

 

「そうですね。流石に今の戦闘だけでは見極めに十分とは言えませんから。お二人も、それでいいですか?」

 

「はい、勿論です!」

 

「……わかり、ました」

 

 一応この場での仮リーダーとなっているアイギスさんに言われて、私たちは合点とばかりに返事をした。体力を戻した私は元気よく。そして三島くんは、その腰に取り付けたホルスターに軽く触れながら。

 

 

 

「それじゃあもうすぐシャドウとぶつかるけど、三島くんは本当に大丈夫?」

 

「は、はい。大丈夫、とは言い切れないですけど、それを試す為に俺もこの場に来たんですから。やれるだけやってみます」

 

 遠くに先程と同じ大きさの黒い人型、もといシャドウがいるのを発見した私たちは、一度立ち止まって最後の確認をしていた。今度は私ではなく、もう一人の候補者である三島由輝の準備が出来ているかどうかだった。

 

「……じゃあ、今度は私がフォローに入るからさ。三島くん、バシッとやっちゃってよ!」

 

「バシッとって、簡単に言ってくれるな……。さっきの寺崎みたいな真似は出来る気しないんだけど?」

 

「いやいや、格好良く覚醒したらアレくらいイケるって! 前にも言ったけど、三島くんならワンチャンあるって思ってるし」

 

「ワンチャンって事は、普通なら無理って思ってるよなソレ。いやまぁ、俺も同意見だけどさ……」

 

 やや渋い顔になりながら、それでいてゆっくりとアイギスさん達の前に出て来て私と並ぶ三島くん。

 ホルスターから召喚器を抜く手は僅かに震えていたけれど、私の方を向いた彼の目には確かな覚悟が宿っているような気がした。

 

「じゃあ悪いけど、先制攻撃頼んでいい? そうして隙が出来たら、俺も頑張れると思うから」

 

「おっけー、そういう事なら任せてよ!」

 

 だからそんな彼に期待を込めるように、私はその頼みを快諾した。先ほどと同じ要領で駆け出してシャドウの背後を取り、けれどペルソナは使わずにその仮面だけを剥ぐように右手を回した。

 

「悪いけど、暴いちゃうよ!」

 

『な、何者?!』

 

 私が急に仮面を剥ぐ事で強制的に本来の姿に変化させられたシャドウが、慌てふためきながら大きく隙を晒す。そんなシャドウからバックステップで距離を取りながら、私はもう一人の仲間へと目を向ける。

 

 そこにあったのは、召喚器の銃口を己の頭へと向けて立つ、一人の少年の姿だった。

 

 ☆★☆★☆

 

 ――ずっと感じているのは、恐れだった。

 

 怪物が蔓延る異世界もそうだし、そこで戦う事もまだ怖い。自分なんかに出来るわけがないと、今でも彼はそう思っている。

 

 彼が接触したシャドウワーカーもそうだ。桐条グループというあまりにも大きな組織に敵うわけはなかったし、シャドウワーカーにいたペルソナ使い達も全員が強そうに見えた。今のところは桐条美鶴やアイギス、ラビリスの三人としか会っていないけれど、シャドウと戦える人間は怪盗団の雨宮蓮のように皆強い奴らなのだと、改めて思った。

 

 しかし彼が出会ったあの少女にだけは、違うモノを感じていた。

 

 確かにあの少女も強いのだとは思う。シャドウや怪盗団相手に立ち向かっていける勇気とか、ストーカーや転生者を名乗れる度胸とか、強いを通り越しておかしいの域に達してる気もするけど、どちらも彼にはない強さなのは間違いない。

 

 けれどそれと同じくらいに、以前から少女には危うさも感じていた。

 だからこその約束をしたのだが、それも彼女が一人で八十稲羽の異世界に落ちた事で破られてしまった。ある意味期待を裏切らないと言えばそうだけど。

 

 

 

『……だから君は、我々に接触してきたのか? 別のペルソナ使いがいれば、その少女を止められると?』

 

『いや、そこまで考えてはなかったです。何か他に方法があればの一心で、つい……』

 

『それだけで我々のサーバーにハッキングを仕掛けたのなら、見上げた行動力だと言わざるを得ないな』

 

 そして思い出すのは、ここに来る前に通話した桐条グループ総帥との会話だ。少女ではなく自分の方にかけてきた事の意味を、少年は噛み締めるように回顧する。

 

『……俺に出来る事は殆どなくても、これは俺にしか出来ない事だって思ったんです』

 

 それは少女に以前言われた事であり、今も胸に刻んでいるモノだ。

 怪チャンの運営と同様に、あの少女と秘密を共有しているのは恐らく自分だけだ。そんな少女を手伝うにしろ止めるにしろ、その為に後を追う事が出来るのは自分だけなんじゃないかと考えていた。

 

『……幸いと言うべきかは分からないが、君にも素質はあった。しかし私個人としては、君たちが戦う事を良しとは言えない』

 

『それはやっぱり、戦うのが危険だからですか?』

 

『それもあるが、君たち二人とも能力、性格的にあまり戦闘には向かないと見ているからだ』

 

『それはまぁ、確かに……』

 

 桐条美鶴の指摘に異論はない。

 少女の方は力はあっても己の身を省みなくて危なっかしいし、少年の方はその逆だ。大した力もなければ戦いに意欲的なわけでもない。あるのは、きっと――

 

『しかし寺崎くんの作戦にはイセカイナビが不可欠であり、それを扱えるのが君だけとくれば、自衛の為に召喚器を貸すのも吝かではなくなってしまった』

 

『桐条グループでもイセカイナビをコピーしたりは出来なかったんですよね……』

 

 ラビリスと共にイセカイナビと認知世界の証明をした後、桐条グループの研究班が少年のスマホごとイセカイナビを分析したのだが、やはり結果は惨敗。

 イセカイナビの正体は不明のまま、複製や移動も出来なかったのだ。そしてスマホを入れ替えようとしても失敗し、特定の持ち主のスマホに紐付けられた何かであるという結論が得られただけだった。

 

『だがな、三島くん。私たちが手を貸してもいいと判断したのは、それだけではないんだ』

 

『え?』

 

 イセカイナビのホルダーだから召喚器を渡したのではないと言うシャドウワーカー隊長の言葉に驚く少年だが、それは序の口に過ぎなくて。

 

『私たちは寺崎くんの言う前世の記憶の全てを信じる事はまだ出来ない。しかし君の勇気とそこに至るまでの思いは、信じてもいいと私は思った』

 

『ちょ、それって……!』

 

『君にしか出来ない事と言ったが、私も同じ考えなんだ。色々と型破りな寺崎くんと同じ場所に立てるのは、現状君しかしない。彼女の戦いが避けられないのなら、そんな君も近くにいて欲しいと思ったのさ』

 

 それはある種の諦めでもありながら、それでいて託すような言葉であり。

 

『だからこの先も寺崎くんを追うと言うのなら、キミも私たちにその意志を示して欲しい。勿論、無理にとは言わないがな』

 

『……俺は……』

 

 そうして高校生が戦う事を憂いていながら、それでもどこか期待するような発言に、少年はただ言い淀んだ。

 

 

 

「――三島くん!」

 

「っ!」

 

 少女の声を聞いて、少年――三島の意識が今へと引き戻される。少女――寺崎が作った隙の前で、三島がすべき事は明確となっていた。

 

 それでもまだ恐れが共にあった。危険度は低いとはいえシャドウとの戦いだし、召喚器の扱いにもまだ慣れていない。山岸や寺崎が使用する所を見ていたので幸いにもイメージはあるが、己に向けて銃の引き金を引くことへの抵抗も残っている。

 

 しかし退けない理由があった。

 だから、その引き金を引かない理由はなかった。

 

「やってやる――俺だって、出来るんだ!」

 

 そう己に言い聞かせるように、或いは残った恐れを丸ごと吹き飛ばすように。彼は人差し指を絞ってガラスが割れるような音を響かせた。

 

「――ペル、ソナァ!」

 

 側頭部に当てた召喚器から伝播したように青く光る瞳を携えて、三島は自身の底から困難に立ち向かう為の人格の鎧を呼び出した。

 

 その人型は灰色の外套のような服を様々なサイズの黒い十字で留めており、その頭部には一本の黒い線の入った標識のような白い円盤が取り付けられている。

 その両サイドに浮かぶは黒と白に塗り分けられた、一メートル大の透明な板が二枚。そのどちらも真ん中の端が半円状に切り取られていた。

 

「いくぞ、『シャルル』!」

 

 呼び出した張本人である三島がその名を呼ぶと、灰色の人型がその身体の前で白黒の板を上下に繋ぎ合わせる。そうして出来た円の穴から火打ち石のような音が鳴るのと同時に、シャドウの身が灼熱に包まれた。

 

『あっつぅぅぅ?!?!』

 

「弱点に命中したようです! 敵の体勢が更に崩れました!」

 

「ナイス三島くん! じゃあ総攻撃行っちゃおう!」

 

「え、なに総攻撃って?! なんだ、行けばいいのか!?」

 

 戦闘支援を務める山岸の報告を好機と見た寺崎が一気に駆け出し、釣られて三島もよく分からないまま突撃した。そしてボコスカと一方的な戦闘音共に白煙が上がった後、そこから三島が飛び出してくる。

 

「な、なんとかなった……」

 

 相対したシャドウの殲滅が完了し、腰に手を当ててやれやれと彼が息を吐く。するとその背後に『A Peaceful End to You』と文字列が浮かび、何かの一枚絵が完成した。ような気がした。

 

「いや待って、色々と起こりすぎてて理解が追いつかないんだけど?!」

 

「やるじゃん三島くん! 遂にペルソナ使いになったんだね!」

 

「美鶴さんから素質はあると聞いてはいましたが、本当に三島さんも召喚に成功するとは……お見事であります」

 

「初戦にしてはまぁまぁだったんちゃう? ほんなら後はこれを何度か繰り返してって感じやろか」

 

 キョロキョロと背後を見渡す三島に称賛や感心を示す他の面々だが、共通して言えるのは皆が戦闘終了の余韻に浸っていた事だ。例え相手が格下であっても、三島が初めてペルソナを召喚した上での完全勝利なのだから、無理もない事だろう。

 

「そうですね。この層ならそこまで強いシャドウも――ってあれ、まだそこに反応が残ってるみたいです」

 

「え?」

 

 ひとまずは喜ばしいと顔をほころばせていた山岸が、『ユノ』によってその存在に気がついた。

 一番近くにいた寺崎が目を凝らすと、そこにいたのは先程の総攻撃に巻き込まれかけたらしい、一体のシャドウだった。

 

『うう……よくもやってくれたな! というかオマエ、前にも来た奴だな?!』

 

「シャドウが、喋った? いえ、さっきの個体も断末魔を上げていた気はしますが」

 

「あ、メメントスのシャドウは喋るんです。ダウン後なら交渉が出来る位には意思がしっかりしてるんですよ」

 

「へぇ、それはまたウチらの知るシャドウとは変わっとるなぁ」

 

「いや寺崎、コイツって俺たちが最初に戦ったシャドウに似てないか?」

 

 急に喋りだしたシャドウに再び感心する面々だが、その事を思い出した三島を見て更にシャドウがその憤りを露わにしていく。

 

『そう言うオマエは石ぶつけてきた奴だな?! 今度も数でボクたちをいじめようって魂胆か!』

 

「なんだか、二人と因縁があるみたいだけど……。以前何かしたの?」

 

「あーその、ペルソナがない時にちょっと戦ったんです。けれど倒しきる方法がなかったので、痛い思いだけさせて逃げたといいますか……」

 

「なるほど。確かにこのシャドウからはお二人への強い怒りを感じます」

 

「でも、今は俺たち二人ともペルソナが使えるんだぜ? もう負けるわけもないし、サクッとやっちゃうか?」

 

「うん、そうだね」

 

 そもそもこのフロアにいるシャドウはそこまで強くないと寺崎は知っているし、『ユノ』を使った山岸もそれは確認している。そして初対面ではないらしいマンドレイクも脅威度は低いと分析が出ていた為、必要以上の警戒は全員していなかった。

 

『ふーんだ! そっちがそのつもりなら、こっちも仲間を呼ぶだけだし!』

 

「皆さん、どうやらそのシャドウが増援を呼んだようで……え?」

 

 だからマンドレイクの横から黒いタールが噴き出し、その中から別のシャドウが出てきても高校生二人は戦闘態勢を取れないままだった。

 

「は?」

 

「なんだ、こいつ?」

 

 それが頭に黒ずんだズタ袋を被り、古ぼけた外套と鎖を纏ったシャドウであっても。

 

「まさか――!?」

 

「やばっ――?!」

 

 瞬時に気付いた機械の少女二人が構えるよりも、そのシャドウが手に持った銃を撃つ方が早い。

 

「うそ――これは、死神シャドウですっ!!」

 

 そうして響く銃声が、混乱必至の激闘の始まりを告げる鐘の音となった。

 




 ☆寺崎叶 (LV.41)
  桐条グループの召喚器も銃の形をしているので、認知世界では発砲出来ちゃうんじゃね?と危惧した為、最初から弾は出ないと言う認知を持っているシャドウワーカーの人たちや自分が使っている所を見せて三島くんの認知を誘導した裏がある人。

 ☆三島由輝 (LV.39)
  実は素質はあった人。しかし寺崎がペルソナ使いになった事を知るまではあまり召喚に意欲的ではなかった為、その翌日である今回が初召喚になった。因みにスナイパーライフル以外の武器は持ってないので総攻撃の時はひたすら蹴りと踏んづけを繰り返していた。

 ☆刑死者『シャルル』 LV.39

 物銃火氷電風念核祝呪
 ーー耐ーー弱ーーーー

 力:23 ■□□□□
 魔:24 ■□□□□
 耐:38 ■■□□□
 速:29 ■□□□□
 運:26 ■□□□□

 ・大切断   ・ラクカジャ
 ・アギラオ  ・(エナジーシャワー)
 ・メディラマ ・(メパトラ)
 ・バイスディ ・(デクンダ)

 ※なお、■■■■■■■■■■■■■。

 ☆アイギス (LV.82)
  付き添いその一。美鶴から色々聞いた上で今回の臨時リーダーも務めている。二人がペルソナ使いとして戦う事に対しては肯定的。戦力は多い方がいいであります。けど三島の方が理解できるのはアイギスも同感だった。

 ☆ラビリス (LV.81)
  付き添いその二。今使っている武装の斧はP4Uの時から携行性を上げたモノに変わっている。他にもアップデートされた武装があるとかないとか。ラビリスも二人が戦う事に関しては特に反対はしていない。何かあってもウチらに任せてくれてばええんやしな!

 ☆山岸風花 (LV.80)
  付き添いその三。美鶴から情報支援とメメントスの調査を頼まれた。
  工学系の大学院を卒業後はそのままそちら方面の研究や仕事を続けながら、今回のようにシャドウワーカーとしての手伝いも引き受けている。メメントスの入り口で待機ではなく一緒についてきたのは、寺崎に説得された為。

 ☆桐条美鶴 (LV.83)
  高校生二人の見極めとメメントスの調査を依頼した人。シャドウワーカー三人ならそうそう危険な目に遭うこともないと思っている。別にこの人は悪くない。

 ☆死神『刈り取るもの』 (LV.92)
  ただ、目の前の命を刈り取るだけの存在。

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 そろそろ夏も終わるはずです。次回もよろしくお願いします。
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