私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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大変お待たせ致しました。
九月編、続けて投下します!


20XX/09
#25 その懸念は軽くない


 

「今の怪盗団ブーム、いよいよ俺らの時代が来たって感じだな!」

 

 夏休みが終わっても暑さの変わらない九月の頭。

 多くの人が行き交う渋谷駅の一角に集まった怪盗団、その一員である竜司が声を上げていた。

 

「ちょっとそれあるかも! 『怪盗お願いチャンネル』のランキングも凄い勢いだし!」

 

「なうで投票されまくってるからなー。それで順位がコロコロ変わってるし、今一番ホットなのは間違いない」

 

 メジエドを倒した事で高まった怪盗団の名声を冷静に分析するのは、オレンジのロングヘアに眼鏡をかけて駅の床に座り込む少女。

 先日の海水浴を経て怪盗団に入ったばかりの佐倉(さくら)双葉(ふたば)その人だった。

 

「ランキングもいいが、例の『認知世界を使った悪党』の方はどうする?」

 

「『廃人化』の犯人、お母さんの(かたき)だ。絶対ぶっ飛ばす!」

 

「でも、手がかりがねぇんだよなー」

 

 自身の母を廃人化させた上で認知訶学の研究を奪った犯人への敵意を剥き出しする双葉だが、まいったとばかりに呟く竜司の声を否定出来る者はいなかった。

 

「有力候補の『黒仮面』は、双葉のパレスには現れなかったものね」

 

「むう、私のパレスにも侵入してたら一気に捕まえてやったのに……!」

 

 今までのパレスで出くわしてきた『黒仮面』の存在は、新人である双葉にも共有されている。

 怪盗団の前に度々姿を表し、ファンだと宣って手助けっぽい事をしていく謎の人物。彼ないし彼女が『廃人化』を引き起こしているのかまでは分からないが、何かを知っているのは間違いない筈。しかしそれを確かめようにも、とんと音沙汰がなくなってしまったのも事実だった。

 

「流石の『黒仮面』もフタバのパレスには入れなかったか、そもそもフタバの事やパレスがある事を知らないんじゃないのか? 今までのターゲットと違って、フタバは別に名が知られてるわけじゃないしな」

 

「モルガナの言う通りじゃない? というか、双葉の事やキーワードまで知ってたらちょっと怖いっていうか、不気味だし……」

 

「それだとマジのストーカーみたいだしな……。いや、この前はそれ否定してなかったんだっけか?」

 

 つい先日まで引き篭もりだった双葉の事を知る事は難しかったのだろうと話す面々。しかしその中で一人だけ、仮定を重ねる者がいた。

 

「……もし、知っていた上で来なかったとすれば……何か行けない理由でもあったのか……?」

 

「どうしたの、蓮?」

 

「いや、何でもない。ちょっと考えすぎただけだ」

 

 不思議そうに見る真に、首を振って返事をする蓮。

 

 結局それ以上の進展は難しいという事で、真の姉で検事でもある新島冴のPCから情報を抜き取る作戦が立案されたり、数日後に迫る修学旅行の話題へと移ったりしてからその日は解散となった。

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 夏休みも終わり、いよいよ新学期が始まったという日の放課後。私と三島くんの姿は再び港区のとあるビルの一室にあった。

 

「――さて、改めてになるが先日は大変だったな。死神シャドウと遭遇しながらも帰還出来た事を嬉しく思う。そして此方の不手際については謝らせて欲しい。すまなかった」

 

「ちょ、桐条さん?!」

 

 初めて会った時にも使った会議室。その最奥で私たちを待ち構えていた美鶴さんが、始まって早々に頭を下げて来たのだ。そりゃ慌てるというモノだった。

 

「大した調査もしないままに安全が確保出来ていると判断し、結果として君たちを危険な目に遭わせてしまったんだ。その責任は、号令を出した私にある」

 

「い、いやその、アレは誰も悪くないと言うか! 巡り巡れば私にも原因がある気がするのでその、謝らないでください?!?!」

 

 色んな意味で心臓に悪いので大丈夫だとワタワタしていると、浮かない顔のままな美鶴さんがどうにか頭を上げてくれた。死神シャドウとの戦いは、思ったよりもこの人に気を揉ませてしまったらしい。

 

「そう言ってくれるな、私たちにもプロとしての矜持というモノがある。そのお詫びという意味も込めて、シャドウワーカーは君たちに力を貸すことを約束しよう」

 

「え、ホントですか?!」

 

「はい、次こそはおまかせであります」

 

「そんなわけやから、この先も宜しくやな」

 

 美鶴さんの横で控えていた黒服姿のアイギスさんとラビリスさんの頼もしい返事。三島くんが喜ぶのも分かるよね。

 

「それで今日来てもらったのは他でもない。九月上旬に起こると言っていた『廃人化』事件について、どうするつもりなのかを聞かせてほしい」

 

「それって確か……うちの校長が狙われるって言ってた奴か」

 

 美鶴さんが早速とばかりに本題を切り出すと、三島くんが何か思い出した様子で自前のスマホを取り出した。

 

「つい最近、あの校長が鴨志田の事を隠蔽してたってスクープが週刊誌に載ったらしいけど、ひょっとしてそれも関係してるのか?」

 

「うん、最終的に怪盗団の仕業に見せかけようとしてる黒幕の仕込みが始まったんだと思う」

 

「その校長さんの悪事を広める事で、怪盗団に狙われる理由を作ったという事ですか」

 

「それってつまり、悪事をバラしたんも『廃人化』させるんも同じ連中って事やろ? それがホンマなら酷すぎるわ!」

 

 憤慨するラビリスさんだけど、確か校長の件はそんな感じだった筈。あの卵のようなシルエットの校長の顛末を思い返しながら話すと、首を傾げるのは三島くんだ。

 

「でも、なんであの校長なんだ? 鴨志田の事を黙ってたなら悪人で間違いなさそうだけど、怪盗団の仕業にするんなら別の悪人でもいいんじゃないの?」

 

「いや、秀尽学園の校長は『廃人化』させないといけなかったんだよ。だってあの人には、黒幕と直接の繋がりがあるんだから」

 

「まさか、口封じの為に『廃人化』させるというのか?」

 

 秀尽学園の校長が狙われる理由に目を見開く美鶴さん。しかし、すぐに考え込むように顎に手を当てた。

 

「……精神暴走事件の黒幕と私立学園の校長に何故繋がりがあるのかは気になるが、今はいい。それを識っている君は、どうするつもりなんだ?」

 

「……識ってしまった以上は放置する事はもう出来ません。でもどうすればいいのかは、まだちょっと固めきれてないんです」

 

「固めきれてないって、助けるんじゃないのか?」

 

「助ける事は変わらないだろう。しかしその場合は、どこまですればいいかがネックなんだ」

 

 怪訝そうに尋ねる三島くんへ、私の抱く懸念事項に辿り着いた美鶴さんが解説を入れてくれる。

 

「『廃人化』の黒幕とその実行犯がどんな手を使って来るかは分からない。しかしそれを防げたとして、口封じを目的にした相手が一度妨害された程度で諦めるかという話だ」

 

「あ……た、確かに」

 

「襲撃が一度だけでないとすれば、その度に助けるというのもあまり現実的ではありませんね」

 

「なるほどな、それで『どこまで』がネックなんか」

 

 今や黒幕にとっての校長は『早めに処分しておきたい存在』の筈だ。原作でも警察に出頭しかけていた位なので、なるはやで消しておかないと面倒だと認識されている事だろう。

 

 そんな彼を守りきるのは、正直かなり難しいと思っている。

 

「恐らくは私たちの修学旅行の最終日辺りに、メメントスにいる校長のシャドウを襲うんだと思います。だけどその正確なタイミングや場所までは、ちょっと絞りきれなくて……」

 

「あのメメントスもタルタロスと同じで、内部構造が日々変化するからですね」

 

 この場で唯一その両方を見ているアイギスさんがそう頷くが、それだけじゃないと続けるのは美鶴さんだ。

 

「異世界のシャドウを狙うという事は、現実世界にいる本人を保護しても無駄というわけか」

 

「シャドウをずっと守護するってのも、非現実的やしなぁ……」

 

 ラビリスさんも難しい顔になったように、恐らく守りの姿勢でいるのは不可能だ。

 シャドウが出ない人間なんてそれこそペルソナ使いだけだろうし、或いはパレスに移されていたとしてもあの実行犯なら容易く侵入して暗殺するだけだろう。

 

「じゃあその実行犯って奴をどうにかするしかないじゃん。というか、そこで捕まえちゃえば解決じゃないの?」

 

「それには私も同意見だが……先を識る君がそれを言い出さなかったという事は、何か不都合な点があるんじゃないか?」

 

「う……」

 

 三島くんのごもっともな意見と美鶴さんの鋭い指摘に、私はつい言い淀む。それが手っ取り早いのは間違いないんだけど、中々そうもいかないんだよね……。

 

「……まずその実行犯が、普通にペルソナ使いとして強いんです。あの死神シャドウ並とまでは言わないですけど、多分『ワイルド』なので一人で複数のペルソナ使いと戦うくらいは――」

 

「待て、『ワイルド』だと? まさかその実行犯は、そこまでの相手なのか?」

 

「え、あ、はい……」

 

 『ワイルド』という単語に、シャドウワーカーの皆さんの目の色が変わった。その反応に驚く私へ、唯一ソレを知らない男子が問いかけた。

 

「寺崎、その『ワイルド』っていうのはそんなにヤバい感じなの?」

 

「ああうん。基本的にペルソナっていうのは一人につき一体なんだけど、『ワイルド』の素養を持つ人はその原則から外れてるの。つまり、一人で複数のペルソナが使えるんだよ」

 

「ペルソナにはそれぞれ得意不得意があるが、『ワイルド』を持つ者は敵や状況に応じてそれを変えられるんだ。それがどれだけ強力なのかは、今の三島君にも分かるだろう?」

 

「ええとつまり、一人で色んな攻撃や支援魔法が使えるのが『ワイルド』なのか。……確かにめっちゃ強いな、それ」

 

「まさしく『切り札』と言える力ですが、その力に目覚める人は滅多にいないんです。そんな人物が精神暴走事件を引き起こしているとは、あまり考えたくないですね……」

 

 かつてはその一人だったアイギスさんが目を伏せるが、だからと言って彼を倒せない訳では無いのだ。個人的にはあの実行犯(明智くん)を倒すのは怪盗団であって欲しいけれど。

 

「もしかしたらその実行犯を私たちで倒して捕まえる事は出来るかもしれません。けどその先がどうなるかは分からなくなるんです」

 

「それは君の識る未来からはズレてしまう、()()()()()()()()()()()()?」

 

 私の言葉の裏まで読み取ってくれた美鶴さんに、こくりと肯定の頷きを返す。

 

 大筋を変えたくないというのは私の個人的な理由もあるけれどそれ以上に、全てを見ているだろう統制神を警戒しての事だ。イセカイナビはくれないけど、私に気付いてないと考えるにはちょっと無理がある気がするし。

 今の所は何故かまだ放置されているが、もう一人のトリックスターである彼をこの時点で捕まえたりしたら、流石に何かやってくるだろう。故にあまり大きくは動けないかなと予想していた。

 

「加えて言うと、精神暴走事件の黒幕は警察組織すら好きに操れる位の権力を持ってます。だから今捕まえても無効にされるか、最悪シャドウワーカー自体に何かしてくるかもしれません」

 

「……黒幕は黒幕でまた厄介なようですね」

 

「どんだけやねん……?」

 

 ついでに明かした黒幕の権限の強さは、警察組織に組み込まれているシャドウワーカーとしては苦い情報なんだろう。

 例のGWの事件からどれだけシャドウワーカーが躍進したのかは分からないけど、内閣総理大臣になりかける程の相手からも無干渉を貫けるかもまた分からない。美鶴さんが眉を顰める事でそう言っているような気がした。 

 

「……それ程の相手であるのなら、慎重になる事は大事だろう。しかしそれならどうする? 実行犯を捕まえずに、その校長を守りきる方法はあるのか?」

 

「それは……」

 

「話を聞く限りやと、やっぱその実行犯をとっ捕まえる方が確実やとウチは思うで? 異世界ならウチらも現行犯逮捕が出来そうやし」

 

「少なくとも、これから起こる精神暴走事件は防げますね」

 

 シャドウワーカーの皆さんの所感は間違っていない。先の事を識る私がいれば、実行犯である彼を捕まえる事は不可能じゃない筈だ。

 統制神が出張ってくる事も確実じゃないし、案外メメントスと現実世界の一体化が先送りになるだけかもしれない。

 黒幕からの干渉も、案外美鶴さん達の立ち回りで上手く回避する方法があったりするのかもしれない。

 

 だから突き詰めればこれは私の我が儘だ。そんな確信犯の面持ちのまま、私はこの数ヶ月で思いついたアイディアの一つを口にする。

 

「……確実じゃないんですけど、一つだけ策があります。校長が死ぬ事はなく、また実行犯も倒さなくても済む案が」

 

「分かった、これでも協力すると言った身だ。是非とも聞かせて貰おうじゃないか」

 

「ありがとうございます。えっと、それは――」

 

 そうして持ち上げた私の案が採用されたかどうかは、数日後の私が何処にいるかを見れば明らかなのだった。

 

 

 

  ☆★☆★☆

 

 前回の話し合いから数日後。修学旅行でやって来たハワイのホテルの一室に、三島の姿はあった。

 

「はぁ……」

 

「どうしたんだ、三島? 元気がないようだが」

 

「え? あ、ゴメン。溜息なんてついちゃって」

 

 意図せず漏れた気落ちの現れに、ルームメイトとなった雨宮蓮から心配されてしまい、三島は慌てて手を振った。

 しかし気になるポイントはそれだけではなかったようで、それに気付いていた他の二人もここぞとばかりに言葉を投げてくる。

 

「そういや三島くん、空港で会った時からなんか変だったよね。体調良くないとか?」

 

「いや、別に体調は大丈夫だよ。別にそこの水道から水を飲んだ訳でもないしさ」

 

「なんだ、そうなのか。てっきり俺は海外でやっちゃいけない事の一番でもしたのかって思ってたぜ」

 

 二人用の男部屋なのに何故かいるのは女子である高巻杏と、そもそもクラスが違う筈の坂本竜司だ。どちらもちょっとした事情で自室に戻れなくなったので、親しい仲にある蓮と三島の部屋に転がりこんできたのだった。

 

「なら何か悩みでもあるのか? 俺たちで力になれるなら聞くけど」

 

「別にそこまでじゃないんだけど……。何というか、いまいち修学旅行に集中出来なくて」

 

「集中? 他に気になる事があるって話?」

 

「まぁそんな感じ。ほら、いま怪盗団人気が凄いじゃん? それで『怪チャン』にも海外からのアクセスが増えてるから、そっちの対応もしたいって言うかさ」

 

 ハワイに来て驚いた事でもあるが、怪盗団の人気はメジエドを倒した事で国境すら越えて高まっており、最早最高潮に達しつつあると言っても過言ではない。

 『怪チャン』の運営をしている三島としても、怪盗団を支持する声が増えるのは嬉しい事だ。しかしそれは、このブームが怪盗団の手柄だけに依るものであった場合の話だった。

 

(この人気すら、精神暴走事件の黒幕の掌の上なんだよな……)

 

 とあるストーカーの少女によって、この流れが仕組まれたモノである事を彼は知っている。故に怪盗団は海外でも人気だと無邪気にはしゃぐようなマネは出来なかった。

 

「やっぱ三島から見てもそうだよな! 怪盗団の時代って奴が来てるよな?!」

 

「そりゃそうだよ。メジエドすら倒しちゃった怪盗団の次の一手に、全世界が注目してると言っても過言じゃない。だからこそ、俺は俺に出来る事をしたいんだ」

 

「……お、おう。そっか」

 

 なので浮かれまくっていた竜司はその温度差にちょっと面食らっていた。なんか思ってた反応と違う、とは流石に言わなかったが。

 

「サイトのランキングも勢い凄いし、それだけ沢山の人が見てるって事だもんね」

 

「高巻さんも見てくれたんだ? そうなんだよ、アレを実装してからホントに目が回る忙しさでさ。正直日本を離れるのを躊躇った位なんだ」

 

 これに関しては本当である。メジエドの一件とランキングの実装によってアクセス数は倍増したが、その代償としてサイトの治安もまた悪化したのだ。『怪チャン』を預かる三島としても、この修学旅行はあまりに間が悪いと言わざるを得ない。

 

 ついでに言うなら、新機能であるランキングも監視していたいというのが本音だった。何故ならあのランキングこそ、黒幕の次の一手が入る箇所だからだ。

 

(怪盗団を陥れたい黒幕は、雨宮たちの次のターゲットを誘導してくる。その為に利用されるのが『怪チャン』のランキング機能か……)

 

 ランキング機能自体は三島も以前から構想はしていたが、このタイミングでの実装に至ったのはやはりあのピンク髪の少女に依るモノが大きい。それはなるべく『大筋』を変えないという彼女の方針に従った形だった。

 

 とは言っても、その肝心の少女は今頃――

 

「――確かに今の『怪チャン』は勢いが凄い。それで三島、この前のオフ会で会ってた人たちとはあの後どうなったんだ?」

 

「…………へっ?」

 

「夏休みに渋谷で会った時に一緒にいた人たち。あの人たちも『怪チャン』で知り合ったんだろう? そう言えばまだ詳しく聞いてなかったと思って」

 

 軽く思考の海に沈みかけた三島に変化球を投げてきたのは、あの時出会ってしまった男こと蓮だった。やましい事など一つもないとばかりの真っ直ぐな眼で、ある意味で修学旅行の夜に相応しい話題を広げようとしてくる。

 

「え、オフ会? まさかそれって、オンナのコ達とやる奴じゃ……!」

 

「ああ、チラッとしか会っていないが、三島以外はみな女性だったように思う。あの時は『怪チャン』恐るべしと慄いたものだ……」

 

「へぇー、ふーん、そうなんだ……?」

 

 やや半目になった杏には気付かないまま、男子二人がからかうように三島へと言い寄っていく。当然からかわれる側からすれば溜まったものではない。

 

「なんで言ってくれなかったんだよー? 俺らはこの前行った海水浴場ですらチヤホヤされたりしなかったのによぉ!」

 

「別にアレはそういうのじゃ――え、海水浴? お前ら、夏休みにそんな事して遊んでたの?! それちょっと詳しく……!」

 

「ならそれも後で話すから、今はそちらの話を聞かせて欲しい。あの三人、ただ者じゃなかった気がするし」

 

「へぇー、キミから見てもただ者じゃなかったんだ……?」

 

 更に目を細めた杏を尻目に蓮が思い出すのは、渋谷で出会った三人の事だ。モルガナも言ってたけど、普通の人とはどこか生きている世界が違うような、そういう意味でただ者ではない気配を感じたが故の発言だった。

 

「名前からして日本人じゃなかったし、そもそも黒服にサングラスで正体を隠しているようだったからな。気にならないわけないだろう?」

 

「いや確かに気になるわそれ! 映画かなんかかよ?!」

 

「変装してたって事は、女優さんとか? いやでもそんな人が『怪チャン』のオフ会に来たりするかな……?」

 

「別に来てもいいだろ?! 今や世界に名が轟く怪盗団の応援チャンネルなんだし!」

 

「お願いチャンネルじゃなかったのか?」

 

 蓮の指摘は聞かなかった事にするとしても、この流れは三島としては良くないモノだ。怪盗団であり友人でもある彼らに隠し事をする事に抵抗はあるが、本当の事を言うわけにもいかない。

 

 あの三人がペルソナ使いの特殊部隊であるシャドウワーカーの所属であり、自分たちに協力してもらってるなどと……!

 

「悪いけどあの三人を呼んだのは寺崎で、俺は付き添いで行った様なもんだからさ。詳しい事はあっちから聞いてくれ」

 

 なので三島はここにいない少女へとブン投げる事にした。実際主導していたのはあちらなので嘘ではないし、これなら追及も躱せるという中々の一手。

 

「……三島くんが、なんで寺崎さんの付き添いしてるの?」

 

「え?」

 

 しかしそれは、これまでの二人を知らない怪盗団の三人からすれば異なる意味合いを持っていた。

 

「確かにあの時も寺崎さんはいたが……なんというか、随分と仲が良いんだな」

 

「へっ? いやまぁ何というか、流れでその……」

 

 言われてみれば、普段の学校で三島と寺崎が話している場面は殆どなかった。三島としても毎日のように顔を合せているわけではないが、寺崎に会うと大体濃い体験をする事になるので知らずの内に遠慮がなくなっていたのだった。

 

 そしてそんな関係を傍から見れば、その(うたぐ)りが浮かぶのもまた当然の事なわけで。

 

「おいまさか……三島と寺崎って、()()()()()なのか?!」

 

「……はぁ?!?! そんなわけないだろ?!?!」

 

「へぇー、三島くんも案外隅に置けないとこあるじゃん」

 

 慌てて否定するその様は、照れ隠しのそれと大差ない。降って湧いたその手の話に、杏も楽しそうに参戦を決意した。因みに蓮もニヤニヤと笑っている。

 

「なんだよ三島! 俺たち、メイドルッキンパーティの仲間じゃなかったのかよ!」

 

「いやそれは黙っとけって! というか別に寺崎とはそういうんじゃないってば!」

 

「うんうん、そうだな三島。別にまだそういうんじゃないんだよな」

 

「こういう時に限ってムカつくなコイツ!? というか雨宮は絶対分かってるよね?!」

 

 からかい半分で肩を組んで来たり、うんうんと頷いていたりとどちらも非常にやかましいリアクションだった。これでは何を言っても聞く耳なんて持たれないと三島が思った矢先に、パンと掌に拳を落としたのは杏だ。

 

「あ、もしかしてテンションが低かったのも()()()()()()()()()()()()()からだったり?」

 

「……そういえば、出発前にそんな事を言ってたな」

 

「え、マジ? 寺崎、何かあったのか?」

 

「詳しくないけど、体調不良でお休みだって川上先生は言ってた。確かにちょっと気の毒だもんね」

 

「いやまぁそれは否定しないけど……」

 

 思い出したとばかりに告げられたとある少女の不在に、三島は歯切れを悪くしながら目を逸らした。事情を知らない者たちからすれば、やはりそれも素直になれない様にしか見えなくて。

 

「折角のハワイ旅行に一緒に行けないとか、俺でもちゃんと凹むわ。そりゃ三島もそんな顔になるわな」

 

「別に寺崎とはただの友達だけど、まぁ、それもあるかな」

 

「それなら、せめてお土産はちゃんと買ってあげないとじゃない?」

 

「みやげ話と一緒に実物があれば、寺崎さんも喜ぶと思う」

 

「……それもそうだな。明日、いいのがないか探してみるよ」

 

 それもあった為にからかいから気遣いへとやんわりシフトした三人からの提案に、三島はぎこちない肯定を返す。

 

「…………良い報せが欲しいのは、こっちの方なんだよなぁ」

 

 ポツリと漏れたその一言は、幸いにして誰にも聞かれる事はなかった。

 

 ☆★☆★☆

 

「――ひゅあんっ?!」

 

「どうした、脇が甘いぞ!」

 

「す、すみません! なんか急にくしゃみが出そうになっちゃって……!」

 

「戦いの場でもそんな言い訳をするつもりか? 大きく隙が出来るなら、それが許されるだけの場を作るんだ。いいな?」

 

「はい! 何とか頑張ります!!」

 

 ――同時刻。陽の光も届かない地下空間にて、そんな男女の声が響きわたった。

 




 因みに別ルートでは蓮を探しに来た二人が砂浜でばったり出会う、なんて展開もあったらしいです。
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