それとだいぶ遅くなりましたがUA十万越えも達成出来て本当に嬉しいです!
九月も中頃に差し掛かった渋谷。その地下は駅や施設で多くの人がいる筈だけど、私たちがいる場所に関してはその限りじゃなかった。
「――隙が出来たぞ、寺崎!」
「はい、任せてください! 『シャルロット』!」
『グワァァッ?!』
その男性の声に従って地を蹴り、その勢いのままに青いカードを叩き割る。その結果として塵になって消えるシャドウとそれを倒した私たちの他には、この暗い地下には誰もいないだろう。
それがこのすっかり見慣れた暗闇と線路が続くダンジョンこと、メメントスなのだから。
「ようやく連携もマシになってきたな。だがまだ敵との間合い管理が甘い。自分の有利を活かせて相手の有利から僅かに逃れられる距離を保てるように、もっと相手の動きを見るんだ。いいな?」
「えっとその、具体的にはどの辺りを?」
「それは自分で掴め、と言いたい所だが……俺は相手の動き出しから繰り出される次の手を予測するようにしている。最初に動くのが手なのか足なのか、それとも目なのか。その辺りに注目して予測を始めてみろ」
「なるほど……やってみます、
うむ、と頷いたのは薄い色合いの短髪にワイシャツを腕まくりした、黒ベストの若い男の人だ。しかし重ねた戦いの年数はあの美鶴さんと並ぶ程に長く、それ故の落ち着き様がとても二十代とは思えない程の貫禄を生み出している。
まさしく古強者――かつての特別課外活動部の一人である
「……近くにシャドウの反応はないが、同時にそれ以外の存在も感じられない。これでもう
「途中で花を拾えてはいるので、いるのは間違いないと思うんですけど……」
「……見た限りまだ余力はあるようだし、まだ暫くは付き合おう。だがこのままではお前の作戦は採用できんという事を忘れるなよ」
「ひゃ、ひゃい……!」
ギロリと睨まれ――たかどうかはちょっと私の主観なので分からないけど、ちょっと当たりが強い真田さんに軽く怯む私。もう顔を合わせて三日になるけど、まだちょっと慣れないというか、やっぱり真田さんカッコいいなぁ……!
――何故私が真田さんとメメントスにいるかというと、半分はそれが私の提案した作戦だったからだ。
校長の『廃人化』を防ぐ為には認知世界でどうにかするしかない。しかしこの時期の秀尽学園には修学旅行がある為、私やナビを持っている三島くんが日本を離れてしまう。これでは異世界に侵入する事すら出来ないという事で、私が考えた策はとてもシンプルなモノだった。
――なら修学旅行前からメメントスにいて、実行犯が来るまで待ち伏せすればいいじゃない、と。
そんな訳で私は修学旅行を休んでのメメントスでの張り込みを提案したのだけど、当然ながら却下されかけた。別にストーカーの手口そのものだからという理由ではない。
なんせ危険な異世界の迷宮に数日間滞在するという、過去の桐条グループでもギリやってなかった気がするレベルの所業。異世界故に時間の流れがやや現実世界とズレているとはいえ、それでも影時間よりは長くなるだろう所に素人である私が行っても、それはただの遭難と大差ないと言われたのだった。確かにその通りだと私も思った。
けれど実行犯である彼がいつ校長のシャドウを襲ったのかが分からない以上は事前に張り込むしかない。そしてその実行犯を捕まえるのではなく
『…………色々と言いたい事はあるが、それならば折衷案を出そう。それを呑んでくれるのなら、手を貸しても構わない』
そんな私の説得の結果、とんでもなく渋い顔で美鶴さんが出した条件。その一つがアイギスさんとラビリスさんだけでなく真田さんも作戦メンバーとして合流し、私の提案した作戦の可否を判断させるというモノだった。
『――お前が寺崎叶か。俺は真田明彦。シャドウワーカーを抜けた今は警官をやっているが……それは識っているか?』
そうして修学旅行の初日の朝、出国前の三島くんにメメントスへと連れて行ってもらう為に渋谷駅で集合した時の言葉から察するに、美鶴さんから大体の事情は既に聞いていたらしい。原作キャラにまた会えたという私の喜びは、その警戒する瞳によってロウソクの火のように掻き消された。
『美鶴から聞いた限りではあるが、俺もおおよそ同意見だ。異世界を使ったペルソナ使いの悪党がいるのなら、四の五の言わずに捕まえるべきだろう』
『いやあの、それじゃあ駄目って言うか……!』
『分かっている、お前の言い分も理解した上で来たつもりだからな。だが手を貸す以上、その作戦に勝算があるかを判断するのは俺たちだ。だからやると決めたのなら、その覚悟を形にして見せてみろ。いいな?』
それはある程度社会を生きてきた一人の大人の言葉だった。美鶴さんと同様に一定の理解を示した上で、現実的なラインを私の為に引いてくれたのだ。
つまりは実行犯が来るまでに自分の言った夢物語を現実にするだけの力を示し、作戦に必要なモノを揃える事。それが素人でしかない私に課せられたあまりに甘い条件だった。
「……アイギス達からもまだ連絡は来ていない。しかしいつその実行犯が来てもおかしくはない筈だ。気をつけて進むぞ」
「はい、お願いします!」
ペルソナに目覚めたばかりの私に戦闘経験を積ませるという為、そして外から来るだろう実行犯を待ち構える為にアイギスさんとラビリスさんの二人にはエントランスを抑えてもらっているので、ここにいるのは私と真田さんの二人だけだ。これでまた死神にでも遭遇したら危険なので、前回以上に警戒しながらの探索となっていた。
真田さんが二人でも問題ないと判断した場合のみシャドウと戦い、時折指導を受けながら探索を続けることはや三日。数時間ごとにエントランスに帰還して補給や睡眠を取っているけど、なんか普段よりも気力体力共に満ちている気がした。深夜テンションかもと言ったら全員から休めと言われたけども。
「もしかして、ナビみたいにあの子も私を避けてたりするのかな……?」
「ソイツに会った事はないから知らんが……ナビにも避けられているとはどういう事だ? 最初に会った三島と違ってお前は持っていないとは聞いたが」
「正確な所は分からないんですけど、多分ナビを作った存在は選んだ相手にそれを配布していると思うんです。けれどなんでか私にはくれなくて。それさえあればもっと動きやすくなってたと思うんですけどね……」
「ふむ、具体的には?」
「もっと一人でガンガン異世界に行けてたなって」
「なるほど、そこに関してはその存在とやらに感謝すべきかもしれんな」
「いやその、冗談ですからね? 今回の件でメメントスに居続けなくてもよくなってたかもって意味ですよ?」
「……俺は冗談が苦手だが、今のは本気で言ってなかったか?」
「……すみません、ちょっと本音入ってました」
そんな事を話しながらメメントスの奥へと進んで行くが、一向にお目当てであるあの子とは巡り会えないままだ。
そう言えばあの子って普段ずっとメメントスにいるんだろうか。なら私たちよりもずっとここでの生活に慣れてたりするのかなとか思いながら、角を曲がった先を見る。
「――あれー? あのお兄さん達以外の人と出会うなんて、びっくりだね」
「い、いたーっ!!」
その行き止まりに車を停め、焚き火を囲んで座っていた白い少年の姿に、私は歓喜の声を上げたのだった。
☆★☆★☆
『――こちら
『こちら
探していた『あの子』との邂逅を果たしてから数時間後。エントランスで休息を取っていた私たちの耳の通信機に届いたのは、入口を見張っていた二人からの報告だった。
私たちや怪盗団以外の侵入者、すなわち精神暴走事件の実行犯がこの異世界にやって来たのだ。
「此方としては
「……大丈夫です、いけます」
真田さんからコードネームで呼ばれた私は息を吐き、早まりそうな胸の鼓動を鎮めながら立ち上がる。手足の震えが抑えられているのは、きっとこの人が共にいてくれるからだろう。
「この先、例の実行犯と戦闘になる事はまず避けられん。その時はシャドウのような怪物ではなく、俺たちと同じ人間を相手に武器を振るわなければならない。その覚悟が今のお前にあるか?」
「……正直言ってまだ怖いです。でも、『守る』為になら動けるって信じてます」
真田さんの言う通り、怪物でしかないシャドウや私の影とも違う生きた人との戦い。加えて言うなら私もよく識る彼が相手である以上、握る鎖鎌に力を込められても、恐れもまたそこにある。
それでも鈍ったりはさせないと告げると、僅かに真田さんの眉が動いた気がした。
「及第点だな。だがお前がまず守らなくてはいけないのは自分の身だと言う事を忘れるなよ。それが出来て初めて目的が達成できたと言えるんだ」
「は、はい! 肝に命じます!」
「では必要なモノも揃えてみせた以上、お前の作戦を第一目標とする。ただしこの先の状況に応じて実行犯の確保に再度切り替える事も念頭に入れておけ。じゃあ行くぞ」
そんな私を庇うように背を向けて、歩き出す真田さんに返事をする。私の作戦を開始してもいいと認められた事が、私の身体を僅かに軽くしたような気がした。
アイギスさん達によれば、実行犯は迷いなくメメントスの奥へと向かっているらしい。バレないようにコッソリその後を追うべく、私も懐の秘密兵器の感触を確かめながらエントランスを後にした。
「――
「はい、
メメントスの通路の角でカバーアクション擬きをしながら私たちが見つめるのは、コツコツと迷宮を進む黒い人影だ。元々暗いメメントスの闇に溶け込む様な人物が、そこにはいた。
薄暗い青とグレーの斜めストライプを全身に纏い、頭部にはその全体を覆う兜のような黒い仮面を付けている。まさに怪人とでも呼ぶべき容姿をした彼こそが、精神暴走事件の実行犯なのだった。
『――こちら
『ここで取り押さえるんやなくて、例の校長のシャドウと遭遇してからやったよね?』
「ああ。向こうはまだ俺たちの存在には気付いていない筈だ。物音一つ立てるなよ」
今回の作戦限定のコードネームで呼び合う私たちの狙いは、実行犯が接触するであろう校長のシャドウにあった。
ナビを使って異世界に侵入は出来ても、私たちに特定のシャドウを探し出す術はない。ナビ役も今回は不参加だし、僅かな期待を込めてメメントスを歩き回っても見つける事は出来なかった。
なのでそれを知る実行犯を尾行し、校長のシャドウを捕捉する。それが私たちの作戦の第一段階だった。
「……しかし影時間とも異なる異世界に、それを使う悪党か。
「はい、識ってます。けれどまだ明言は避けさせてください。すぐに分かると思いますし」
「……秘密主義というのはどうにも好かんが、まぁいい」
なんか真田さんからの好感度が下がった音が聞こえた気もするけど、理想としては10月になるまでは待っていただきたいというのが本音だ。まぁ彼はメディア露出も多いから、声で分かる気もするけどね。
『――ターゲットが行き止まりにある別空間へと入っていきました。追いますか?』
「
「そこまで広くない空間に校長のシャドウがいるんだと思います。出入り口は一つしかないですけど、こっそり入ればバレない筈です」
「よし。なら
『了解や、ほな行くで!』
そうして辿り着いたのは、袋小路の先にある黒い渦のような幕だった。予告されたターゲットがメメントスに作る根城とても呼ぶべき空間に、真田さんの指示を受けた二人が恐れることなく入っていく。モタモタして校長のシャドウがやられちゃってたら元も子もないのでナイス度胸だと思います。
「最後の確認だ。俺の言った事は覚えているな?」
「えっと、私は前に出ちゃ駄目って奴ですよね」
「そうだ。今回のお前の作戦はアイツを倒す事が目的ではないはずだ。戦うのはなるべく俺たちに任せて、お前はお前の役目を果たせ」
此方に拳を向けて真田さんが語るのは、私に課せられた条件の一つだ。
死神シャドウを倒したと言っても、私が力に目覚めて間もなくて戦闘経験が不足している事は事実だ。そもそも私が民間人に過ぎない事からも、あまり戦闘には参加しない事を求められたのだった。
「……分かりました、じゃあお願いします!」
ペルソナを使った戦闘のプロであるシャドウワーカーの二人と、今は警察組織にいるけど百戦錬磨の真田さんがいれば確かに私が戦う必要はないだろう。
なのに私はずっと胸騒ぎを感じたまま、真田さんの後を追って奥へと進んでいくのだった。
☆★☆★☆
『や、やめろ……! 殺さないでくれぇ……!』
「…………」
中に入ると、空間の中央にツルツルの頭を抱えてうずくまる黄色いスーツの男性がいた。いうまでもなく
震えて命乞いをする彼を、黒い仮面の実行犯はじっと見つめているようだった。
「あれがお前の所の校長か? ずいぶんと怯えているようだが」
「あの人は自分が殺されるかもしれない事をもう知っているんです。実行犯が行動に移っちゃう前に止めないと!」
『
「まだ
先に入って奥に隠れていたアイギスさんとラビリスさんに指示を飛ばしながら、物陰を経由して距離を詰めていく真田さん。もうシャドウワーカーは抜けている筈なのにどうして誰よりも特殊部隊らしいんだろうか、この人。
「まずは俺が奇襲を仕掛けてあのシャドウと距離を取らせる。その隙に
「分かりまし――
そうして指示を受ける私たちの前で、最初に動いたのはその実行犯だった。
腕を持ち上げ、その手に持っていた黒い塊――すなわち拳銃の先を校長のシャドウへと向けようとしている。引き金にかけた指が動いてしまえば校長の命が散ってしまうと焦った私は、そこで見た。
――身体の向きを変えぬまま、腕だけを後ろに回して此方に向けられた銃口を。
「えっ?」
「くっ!」
虚を突かれた私の身体を、真田さんが掴んで倒れ込ませる。耳を叩く銃声が、それを現実のモノだと思い知らせるようだった。
「……まさか、本当にこんな所にまで来ているなんてね」
ゆっくりと私たちのいる方へ振り向きながら、若い男の声を響かせる黒仮面。その表情は見えないが、呆れているのだけはその声色だけで分かってしまった。
「大人しくアイツらのストーカーだけしていれば、見逃してやってもよかったのに。ほら出て来なよ。もう避けられない事は分かってるんだろう?」
「…………
「……ごめんなさい
窘めるような真田さんの目を避けるようにして、立ち上がった私はその姿を晒す。
真正面から捉えたその黒仮面は間違いなく、今をときめく二代目探偵王子の裏の顔だった。
「どうして、分かったの?」
「なんて事はない、ただの予想だよ。今まで君はどういうわけか怪盗団の行動を把握し続けていた。何処かで怪盗団の正体を知っただけならともかく、この異世界にまで追いかけてくるなんて普通ならあり得ない。だから君は普通じゃないと、認識を改めたのさ」
「つまりおもしれー女、って事じゃないよね?」
「ああ、悪いけど君に笑える箇所は一切ない。だって君は、
「っ!?」
「おや、動揺したね。つまり僕がそれに気づくことは、君の想定外だったって事か」
息を呑んだ私の反応に、初めて黒仮面の声が弾む。本来の反逆の姿を見せていながら口調や一人称が表のモノになっているのは、その予想をする様がまさしく探偵王子だからだろうか。
「この際『何故知っているか』は考えない。『どこまで知っているか』だけを考え、君の行動を予想した。もし怪盗団だけでなく僕たちの行動まで知っているとすれば、こうして邪魔をしてくるかもしれないとね」
「……あなたにそこまで思ってもらえるなんて、想像もしてなかったよ」
「当然だろう? 今の君はあのお気楽な怪盗団の連中よりも厄介な存在だ。僕たちの正体や計画を全て知っているだろう人間を、どうして放置出来るんだい?」
「あれ、でも最初に見逃してやってもよかったって言ってような……?」
「それは直接僕たちの邪魔をしなければ、という話さ。勿論最後には不幸な事故にでも遭って貰うつもりだったけどね」
さらっと私を消す予定だった事を明かす黒仮面。そこまで気付いているのならさっさと消せばよかっただろうに、それをしなかったという事は、もしかして。
「もしかして、私を『廃人化』させる事は出来なかったの?」
「……その問いかけ自体が癪に障るね。まさか自分の特異性には気付いてなかったのかい? 最初からずっとそんな眼をしていながら?」
何故か苛立ちを露わにする黒仮面だけど、その反応は肯定しているのと同じだ。まぁ色々と自覚した今ならその理由も何となくは分かるけども。
それで私がどんな眼をしていたのかよりも気になったのは、私から見た彼が『何処から知っているのか』だった。
「ならやっぱり、あの社会科見学の時に話しかけて来たのは……」
「当然、『廃人化』出来ない君を調べる為に決まっているだろう。まさか本当に君に友情なんてモノを感じているとでも思っていたのかい?」
「いやその、ワンチャンくらいはあるかなって」
「あるわけないだろ。お互いに最初から腹の探り合いをする仲でしかなかったよ、僕たちは」
吐き捨てるように黒仮面が、私たちの関係を両断する。
彼の言う通り、最初から終わっていた話だった。私は彼の本性を識っているし、彼も私の事を疑ってしかいなかった。どこかのジョーカーと違って協力関係ですらなかったのだから、そこに生まれる絆なんてない。そもそもあまり積極的に関わろうともしなかったのだから、それは当然なのだけど。それでも。
黒仮面の奥から覗く冷たい視線に、私は小さくない痛みを感じていた。
「……さて、お喋りはもう十分だろう? 僕はコレを殺しに、君はコレを守りに来た。邪魔をするなら容赦なく、始末させてもらうよ」
「やれるものならやってみなよ。その為に私は、ここまで来たんだから!」
そうして改めて銃を向けてくる黒仮面に、私は数日間に及んで蓄積された疲労や、やや下がった気分を吹き飛ばすように力強くそう叫ぶ。
目の前にいる彼と異世界で出会えて、嬉しくないわけじゃない。彼の戦いぶりを間近で見たいという気持ちもないと言えばウソになる。
それでも今度は『見守る』為ではなく『守る』為に、私は握った鎖鎌に力を籠め直した。
「――いいだろう。ならどこまで君の思い通りになるのか試してあげるよ、ストーカーさん」
そんな私に対して、黒仮面はそう吐き捨てるだけだった。
リーダー :真田明彦 LV.84
メンバー :寺崎叶 LV.66
アイギス LV.84
ラビリス LV.83
V.S.
??? 黒仮面 LV.⁇