私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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そしてこちらが残りの三割です。


#28 ソレだけでは終わらない

 

 修学旅行を終えて日本へと帰国した蓮たちは翌日の放課後、純喫茶ルブランの二階にある蓮の自室へと集まっていた。しかしその表情は、旅行の疲れとは別のモノによって暗くなっていた。

 

「お姉ちゃんのパソコンから抜いたデータの話の前に、校長先生の件だけど……」

 

「ネットでも話題になってる。やっぱり、怪盗団の仕業って思ってる人は結構いるみたい……」

 

「俺らは何もやってねぇっての!」

 

 秀尽学園組が浮かない顔になっているのは、登校してすぐに行われた緊急集会で聞かされた話が原因だ。今一度噛みしめるように、蓮がその事実を口にする。

 

秀尽学園(ウチ)の校長が修学旅行最終日に日本で突然倒れ、()()()()になった。それで教職を辞する事になった、か……」

 

 それはつい先日の夕方の事。都内の交番の前で倒れた男性が緊急搬送されたというニュースが報道された。

 それだけならすぐに他の情報に埋もれて終わったかもしれない。しかしそれが話題の秀尽学園校長であり、更に意識を取り戻した彼が記憶喪失だと分かれば話は別だった。

 

『私は、一体……? 何も、思い出せない……』

 

 呆然と呟いた彼は何故あそこにいたのか、そもそも自身が誰なのかすら思い出せなくなっていた。

 所持品から身元はすぐに判明したが、肝心の本人がそれを保証できない。偶々近くにいた刑事によって外傷はなかったが、原因不明の精神疾患であり記憶を思い出せるかどうかも分からない。そんな彼に理事会は療養すべしと語りながらも解任を言い渡したのだった。最も、この事がなくてもいずれそうなっていたのは理事会と記憶を失う前の本人だけが知る所だが。

 

 そんな怪盗団からしても寝耳に水と言うべき事件だが、何も知らない世間からすればそんな事は関係がない。両者に共通しているのは、それが偶然の事故である筈がないという予想だけだ。

 

「このタイミングで記憶喪失なんて、どう考えてもおかしいわ。それにお姉ちゃんの話が本当なら、交通事故に遭っていた可能性だってあるし」

 

「まさかモルガナと双葉がやった訳でもないだろう。一体、何が起こっているんだ?」

 

 祐介の問いかけに答えられる者は誰もいない。それでも、彼ら全員の脳裏によぎる考えがあった。

 

「……これ、私のお母さんと同じじゃないか?」

 

「双葉、それは……」

 

「黒仮面だ。私たち以外に異世界に入れるのなんてソイツしかいない。ソイツが私のお母さんの時みたいに、その校長をやったんじゃないか?」

 

 自前のノートパソコンに向き合いながら、全員の胸の内を代弁するように語ったのは双葉だ。

 もし今回の事件が人の手によるものなら、怪盗団以外に人の心に介入出来る黒仮面は確かに容疑者になり得る。しかし、おかしな点がない訳でもなかった。

 

「その可能性はある。でも『記憶喪失』な事が解せない」

 

「そうなのよね。今までは『精神暴走』による『廃人化』か、私たちがしている『改心』のどちらかしか起きてなかった。けどウチの校長は『記憶喪失』になったのよ? そんな単純な話じゃないと思う」

 

「それ、そんなに違うのかよ?」

 

 考え込む蓮と真が指摘した点に、竜司が疑問を投げかける。

 それを鼻で笑って解説するのはモルガナだ。

 

「当たり前だろ? 『廃人化』は認知世界のシャドウを殺せば起こせるし、『改心』は言うまでもなくパレスの核を奪われたら起こる事象だ。『精神暴走』はまだよく分からんが、『記憶喪失』もそれと同じ位不可解な事象なんだよ」

 

「えっと、つまりどういう事?」

 

「黒仮面が犯人なら、校長も『廃人化』させる事が出来た筈。しかしそれをしなかったからには、何か理由があるというわけか?」

 

 竜司と同じく理解の追いついていない杏に、祐介が簡単な纏めを口にした。けれどそれで、事態が究明出来るわけではない。

 

「……正直、今の段階じゃ何も分からないわね。校長が『記憶喪失』になった経緯、目的、そして犯人。考えるにしても、あまりに情報が足りてない」

 

「なら校長の話は一旦後にしねぇ? 今考えてもどうしようもないんなら、別の事を考えようぜ」

 

「……そうだな。ならこれからの動き方を決める為にも、真のお姉さんが持つ情報に期待しよう」

 

「分かった。じゃあオイナリ、頼む」

 

「そこで何故俺なんだ……?」

 

 怪盗団の頭脳とも言える二人がお手上げだと言った所で、焦れた竜司が話題の転換を求めた。それに応える形で双葉が分析したデータを全員で共有する。

 

 そうして浮かび上がったのは、精神暴走事件とオクムラフーズ社長『奥村(おくむら)邦和(くにかず)』の関連性だ。彼を調べれば精神暴走事件や黒仮面の詳細が掴めるかもしれない。

 

「けど、奥村社長って最近のランキングにずっといる人だよね? ホントにこのままターゲットにしてもいいのかな……?」

 

 しかし世間の勢いや怪チャンのランキング支持に対する違和感が、彼らを足踏みさせる。それは怪盗団の歩みを止めたくないモルガナからすれば、我慢ならないモノだった。

 

「お前ら、何ビビってんだよ?! 少し前まで認められたって喜んでたのに、ここにきて尻込みだなんてらしくないぜ!」

 

「私だってお母さんの為にも調べたい。けどモナ、やっぱり今の流れは変だよ」

 

 それに、と呟きかけた双葉がそのまま口を噤んでしまう程には、今の彼らの空気は重く停滞していた。

 無力感に苛まれつつあるモルガナが口火を切ってしまえば、当然として場は更に悪化の一途を辿ってしまって。

 

「……どうやら、ここにワガハイの居場所はないみたいだ。『廃人化』の謎を解く手柄は独占させてもらうからな」

 

「ま、待ってよモナ!」

 

「いーや、待たないね! その黒仮面だって一度は二人で倒せたんだ。ワガハイだけで十分だ!」

 

 杏の制止すら振り切ってモルガナがその場を後にした事で、今日中に全会一致が果たされる事はなくなった。

 そんな重苦しい雰囲気のまま、今日は解散となる怪盗団なのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なぁ蓮、ちょっといいか?」

 

「どうした双葉。何かあったのか?」

 

「その、さっきは話せなかったんだけどな。ちょっと、気になってる事があるんだ。――ランキングというか、あのサイトについて」

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

「寺崎、お前……大丈夫なのか?」

 

「うん、今回は全然大丈夫。そんなに怪我はしてないし、本当なら今日は学校にも行くつもりだったんだからね。問題ないって!」

 

「問題ない奴がこんなデカい病院の個室をあてがわれるわけなくない?」

 

「……それはまぁ、そうかもだけど!」

 

 修学旅行から帰ってきた生徒たちが校長の一件を緊急集会で聞かされたらしい日の夜。私はとある病院の一室で、見舞いにやってきた三島くんと顔を合わせていた。

 一応は患者という事でベッドの上にいる私だが、体調的には別に傍の椅子に座っていても良かったなと思いながら、微妙そうな彼の顔を見上げる。

 

「ハワイに行ったからだと思うけど、やっぱりちょっと焼けた?」

 

「え、ちゃんと日焼け止めは塗ったはず……いや、そんな事はどうでもいいだろ。俺たちが修学旅行に行ってる間に何があったのか、話を聞かせてくれるんだよな?」

 

「私としてはハワイのお土産話も気になるんだけどなぁ……。ならもうちょっと待ってよ。そうしたら来ると思うから」

 

「え、それってもしかして――」

 

「――すまない、遅くなった。入ってもいいだろうか?」

 

「あ、はい! 大丈夫です!」

 

 そんなタイミングを見越していたかのように、聞き覚えのある女性の声がノックと共にドアの向こうから聞こえてくる。

 二つ返事でそれに応えると、ドアのスライドと共に四人の男女が入ってきた。美鶴さんにアイギスさん、ラビリスさんに真田さんを含めたシャドウワーカーの皆さんである。

 

「今回は経過確認も兼ねた検査入院という体を取らせてもらったが、昨日から変わりはないか?」

 

「お医者さんからも大丈夫そうだって言われましたし、私としても気になる所は今のところないです!」

 

「そっか、ほな良かったわ」

 

「それで、そっちは初日の朝に会って以来か。気を揉ませたようで悪かったな」

 

「いやその、むしろコイツの面倒をみてもらって感謝してるっていうか。そちらは全然大丈夫なんで、はい」

 

「まるで三島くんが私の保護者みたいな物言いだぁ……」

 

 私と違って数日ぶりなシャドウワーカーと三島くんのやり取りだが、なんでそんな流れになったのか解せないという訳でもない。何故なら私は黒仮面との戦いの後に、またしてもダウンしてしまったからだ。

 

 より正確に言うと、黒仮面のメギドラオンをどうにか耐えた時はまだ意識があった。流石に死神シャドウ程の威力はなかったし、あの時からレベルも上がっていたので体力を二割も残した状態でやり過ごす事が出来たのだ。

 

 けれど視界が晴れた頃には黒仮面は離脱しており、また校長のシャドウもいなくなっていた。

 よって現実世界の校長がどうなったのかを確かめる為にエントランスから現実世界の渋谷駅に戻った所で、私の身体に限界がきてしまったのだ。

 

 その辺り含めてメメントスでの経緯を三島くんに語ると、やっぱり無理してたんじゃないかと不満げに目で訴えられる事となった。不覚と言う他ない。

 

「ダウンしてから数時間で一度目覚めたとはいえ、流石に明日までは安静にするといい。数日分の疲れは早々に取れるものじゃないからな」

 

「私的には早い所学校に行きたいんですけ――はい、休みます」

 

「はい、それが賢明かと」

 

 何ならこの話の後に普通に家に帰ろうかと思ってたのだけど、この場の全員から鋭い視線を向けられる予感がしたので慌てて方針転換を告げる私。何故だ。

 

「いや、私の事はいいんです。それでうちの校長はどうなったんですか? まさか死んでたりしないですよね……?」

 

「……事前に君が言った通り、都内の交番前の交差点で意識不明になった所を保護する事が出来た。ニュースにこそなってしまったが、今も生きて私たちが所有する病院に保護されているから、そこは安心して欲しい」

 

「そうですか……。ならちゃんと、死なせずに済んだんですね」

 

 この病院にやってきてから、私の荷物やスマホはまだ返して貰っていない。なので美鶴さんからそう告げられて、漸く肩の荷が下りる気分だった。

 けれど、美鶴さんの報告はそれで終わってはいなかった。

 

「彼の命に別状はないが……()()()()になっている。これまでの事はおろか、自分が何者かも思い出せない状態だ。今後の生活に支障が出るという意味では、無事とは呼べないだろうな」

 

「それ、ニュースでも言ってた……!」

 

 淡々とした調子で告げられた校長の現状に、私と同じく初耳だったのだろう三島くんが軽く目を見開く。

 

 記憶喪失と聞けばどこか物語性のようなモノすら感じるけど、当人からすればそんな余裕なんてないだろう事も想像は出来る。確かなものが何もない不安の中で校長が今も震えているとすれば、後ろめたさを覚えるのもまた当然の事ではあるけれど。

 

「……そっか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しかしそんな彼の状態を聞いた私の中にあったのは、小さくも確かな達成感だった。

 

 ――今回の作戦の目的は、黒仮面に秀尽学園校長を殺させないようにする事だった。

 

 しかしその為に襲撃を防いでも一時的な対策にしかならず、また実行犯である黒仮面を捕まえる事も現段階では厳しい事も事前に話した通りだ。

 

 だから私は、校長を口封じする『理由』を奪う事にした。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 『忘却の小ビン』はメメントスにいるジョゼから交換して貰える、相手に『忘却』の状態異常を与えるアイテムだ。ゲーム的には一時的にスキルを使えなくなるというものだけど、それでも記憶を失うという効果は今回の対抗策にうってつけだった。

 

 本人が何も思い出せない状態になってしまえば、そこから情報が漏れる事はない。また不自然な記憶喪失であれば、怪盗団の仕業だと紐付ける事だって容易いだろう。

 そうなれば黒幕側が校長の命を狙う理由は弱くなると踏んだ、まさに原作の流れから校長の命だけをすくい上げる妙案だ。

 

 ……なんて、そんな完璧なモノであれば、数日前に揉める事もなかっただろう。神妙そうなシャドウワーカーの皆さんの顔つきからも、それは一目瞭然だ。

 

「彼がよほどの演技派でもない限り、記憶を失っている事は本当だろう。念の為に見張りの人員も配置しているし、後は異世界からの介入さえなければ彼を守りきる事は出来る筈だ」

 

「その状態の校長なら、敵もそこまで執着しては来ないと思います。偶々黒幕と繋がりがあっただけで、そこまで重要な立ち位置にいたわけでもないので」

 

「……えっと、つまり作戦は成功したって事でいいの?」

 

「あー、それなんやけどな……」

 

 美鶴さんの説明と私の補足を受けた三島くんの呟きに、目を逸らしながら応えるラビリスさん。

 けれどその続きを口にしたのは、この場で一番それを深刻に捉えていたのだろう彼だった。

 

「この際だからハッキリ言おう。今回は俺たちの――いや、俺の失策だ」

 

「え?」

 

 諸々を既に飲み下したような顔でそう語る真田さんに、三島くんは呆けたような声を出す。三島くんからすれば黒仮面の目論見を阻んでみせた上に全員無事に帰還しているのだから、その反応になるのも分からなくはない。

 

「確かに例の校長の命が奪われる事はなかったが、言ってしまえばそれだけだ。実行犯である黒仮面(アイツ)は野放しのままで校長の口封じもほぼ完了、更には怪盗団に今回の一件を擦り付ける土台も出来てしまっている。要は向こうの狙いも殆ど達成されてしまったんだ」

 

「で、でもそれが寺崎の作戦だったんじゃないんですか? コイツの知る流れをなるべく変えずに、人を助けるって……!」

 

「……申し訳ありません。私たちシャドウワーカーとしては、ギリギリまで寺崎さんの作戦には賛同出来なかったんです。あくまでも優先するのは実行犯の確保であり、それが叶わないと判断した時にのみ寺崎さんの作戦に乗る、そのつもりで同行を許可したんです」

 

「は?! そ、そんなの……!」

 

「――いや、いいの三島くん。最初から無理を言ってるのは分かってたし」

 

 シャドウワーカーの言い分に納得できない三島くんを鎮める私だけど、まぁ思う所がないわけでもない。

 それでもこんな私の作戦に付き合ってもらったのだから、その評価も仕方ないよねと折れる気持ちの方が強かった。

 

 だって勝手に記憶を奪うという今回の校長への仕打ちは、それこそ私刑と言われても反論出来ないモノだ。命を守るという大義名分があったとしても、治安維持組織の一員であるシャドウワーカーが大手を振れるような行いじゃない。そんな作戦よりも実行犯の確保に舵を切りたがった彼らの方が正しいのだろう。

 三島くんは元からそんなの気にしなくていいの一点張りだったから、そう憤るのも分かるけどね。

 

 だから校長のシャドウを見つけても、すぐに『忘却の小ビン』を使う事はなかった。それは許可されていなかった事もあるし、それ自体に納得していたのもあったからだった。

 

「なのに実行犯の力量を見誤って奴の勝手を許し、結果としては寺崎にも無理をさせる事になった。全ては俺の監督責任だ。本当に、すまなかった」

 

「ちょっ、頭下げるのは止めてください真田さん!! 悪いのは私とあけっ……黒仮面なんですし!!」

 

 そんな私たちにとっての最大の誤算は、黒仮面があまりに用意周到だった事だ。

 

 前世の記憶を持つ私は何が起こるかを事前に知っているという事実に、彼は自力で辿り着いていた。

 その上でシャドウワーカーの三人を相手にしながら、シャドウ校長を仕留める寸前までいったのだ。それは一人で怪盗団全員を相手取れる程だと識っていた筈の私の認識が甘かったという他ない。だから、そんな顔をしないで欲しかった。

 

「……いいや。俺はメメントスでお前と肩を並べた末に、一度は寺崎の作戦でいいと言ったんだ。それなのにあの黒仮面を前にして、それを覆してしまった」

 

「でもそれは、黒仮面が危険だって気付いたからなんですよね? ならそれは間違ってないですよ!」

 

 あの時は唐突な方針転換に驚いたが、その理由自体は否定の出来ないモノだった。

 遭遇してすぐのあのやり取りだけであの黒仮面を見過ごす事は出来ないとシャドウワーカーが判断したのなら、そこに私が口を挟んだりはしないというのに。

 

「その見解自体が間違っていたとは言わないが、それでも寺崎に対して不義理だったのは覆しようのない事実だ。だからこそ、今日はその償いの為に来た」

 

「つ、償いなんて……!」

 

 別に私に落ち度がなかったわけでもない。むしろ結果的に私の作戦通りになったのだから、これ以上望むものなんてない。というか私だけだったら普通に黒仮面にやられていたような気もするし。

 そう言おうとした私を、真田さんの強い決意の宿った視線が貫いた。

 

「――確認させて欲しい。お前とあの黒仮面には、以前からの面識があるな?」

 

「そ、それは……ええと、はい」

 

 真田さんからの突然の問いかけに、私は戸惑いと共に肯定を返す。

 戦いの最後に黒仮面の一部を破壊した事で、その仮面の下にあった顔を彼は目撃している。それがなくとも彼が声を変えていない以上、バレるのは時間の問題だと分かっていた。それでも伏せてくれているのは有難い限りではあるけども。

 

「当初はあくまでお前は部外者だと思っていた。怪盗団と黒幕の戦いに、記憶があるがゆえに介入した第三者だとな。それならばと俺たちも同じ立場で実行犯の確保に動くつもりだったが、そうじゃないと分かった」

 

「そうじゃ、ない?」

 

「ああ。あの黒仮面と戦うのは寺崎、お前の責務でもあるんじゃないのか?」

 

「――!」

 

 そんな事はないと、否定する言葉は出てこなかった。

 黒仮面と因縁があって、それ故に戦うのは怪盗団のリーダーである雨宮くんであって私じゃない。なのに、あの時に見た彼の瞳がフラッシュバックして離れない。

 

『まさか本当に君に友情なんてモノを感じているとでも思っていたのかい?』

 

 そんな拒絶と共に向けられた視線の温度に嘘はなかった。全てを知った上で接していた私に彼がどんな感情を抱いたのか、想像する事自体は難くない。

 

 であるのなら、そんな彼と向き合う事もまた私の戦いと言えるのかもしれなかった。

 

「だからこの先、もう一度その機会があるのだとすれば、その時こそ俺たちは力になる事を約束させて欲しい。奴に借りを返すのと同時に、お前自身の望みを果たす為にな」

 

「そ、それってつまり、次も手伝ってくれるって事ですか!?」

 

「有り体に言うとそうだ。もっとも、より一層尽力させてもらうつもりだがな」

 

 意思は同じらしい美鶴さんが頷くが、私にとってそれ以上の報酬はない。それに内心ちょっと恐れていた事でもあった。

 

 黒仮面の対処について、私とシャドウワーカーは微妙に相容れない。ならば三島くんだけ引き込んでその確保に動く、なんて可能性もゼロじゃないかもなとは思っていたのだ。いや、独断でそんな事をする人たちじゃないとも同時に思ってたけども。

 

「因みに寺崎ちゃんは、結局あの黒仮面をどうしたいん? 確か決着つけるんは怪盗団がする、みたいな事を言うてたとは思うけど」

 

「……私の識る限りでは、今年の年末まで怪盗団と黒仮面の因縁は続きます。私はその最期のタイミングで黒仮面に介入するつもりでした。勿論、それまでに彼が出すであろう被害も食い止める気マンマンなんですけど」

 

「ならば、それらの作戦にもまた私たちを参加させて欲しい。その時に異を唱える事はあるかもしれないが、それでも今回のような裏切りはしないと誓わせてくれ」

 

「裏切りだなんて、そんな……」

 

「いや、そこはちゃんと額面通りに受け取っとこうぜ? その辺りの信用って大事な気がするし」

 

「むぅ、そうかなぁ?」

 

 私としてはむしろ憧れですらあるシャドウワーカーの皆さんが下手に出てる時点で解釈違いな節があるのだが、三島くんにそう言われてひとまずの納得を示す事にした。それでギクシャクしなくなるのならそれに越した事はないかもだし。

 

「ええと、それじゃあこの先もどうかお願いします!」

 

「ああ、此方からも是非頼む。どうであれ君は一人の人間の命を救ってみせた。それを成した君を私たちは信じよう」

 

 そうして私の方から出した手を、美鶴さんが握り返して応えてくれた。その手の温もりと力加減に、今度こそ本当の協力関係になれたのかなと思う私なのだった。

 

 その後の作戦会議と私への話で若干場が荒れたりもしたけど、それもまぁ関係が発展したからこそというわけで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あのさ寺崎。結局俺だけその実行犯が誰なのか、知らされてない気がするんだけど」

 

「三島くんは……まぁ、駄目かな」

 

「いやなんでだよ!?」

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

『――それで? 今回の件は一体どう説明するつもりだ?』

 

「どうもこうもありませんよ。怪盗団以外にも僕たちの邪魔をする相手が現れた、それだけです」

 

『まさか、認知訶学を扱う輩が怪盗団の連中以外にもいたというのか? そしてお前は大口を叩いておきながら、そいつらにしてやられたと?』

 

「そんなわけないじゃないですか。あの校長の口封じに成功した、その時点で僕の勝ちですよ」

 

『私はアレの始末を命じた筈だ。記憶喪失でそれが果たされたと言うつもりか?』

 

「はい、全てを忘れた彼から僕たちの事が漏れる事はないですから。むしろただ『廃人化』されるよりも、あらゆる記憶を奪われる方が(むご)いという意味で見せしめにも使えると思いましたが?」

 

『ふむ、見せしめか……。一人くらい実例がいた方が馬鹿にも分かりやすくはあるな。なら今回だけはそれで許してやる。それで、ソイツらへの対策は何かあるんだろうな』

 

「勿論です。怪盗団よりは厄介でしたが、既に正体は突き止めました。奴らは『シャドウワーカー』、正式名称は警備部シャドウ事案特別制圧部隊」

 

『……聞いた事がないが、そんなフザケた名前の部署があるというのか?』

 

「僕が出会ったメンバーの特徴が一致しましたし、校長の入院先に手を回したのも彼らの母体である桐条グループである事も分かっています。間違いないでしょう」

 

『なるほど、随分と嗅ぎ回るのが得意な連中らしい。まさかとは思うが、何か手がかりでも掴まれたわけではないだろうな』

 

「僕がそんなミスを犯すとでも? 恐らくですが怪盗団とも別口で認知訶学を知り、そこから怪盗団を追って異世界で張り込みでもしていたんでしょう。涙ぐましい努力だけど、所詮は下部組織です。僕たちの敵じゃない」

 

『……警察組織に属しているのなら、上からの命令には逆らえん。その為に捜査本部長に手を回せと言いたいわけか』

 

「流石は獅童さんですね。お察しの通り、この先の怪盗団に向けた作戦に奴らも組み込む予定です。精々派手に踊ってもらうとしましょう」

 

『いいだろう、ではその方向で引き続き頼んだぞ。あと私を名前で呼ぶな』

 

「おっと、失礼しました。それではまた」

 

 

 

 

 

「…………本当に、どいつもこいつも……!」

 





 ☆寺崎叶(LV.66)
 なんやかんやで望みを一つ果たした少女。校長シャドウを守りつつ自分も生還したから上出来とか思ってた。
 シャドウワーカーへの悪意や反感はゼロ。そもそもそんな事を言える立場じゃないし、手伝ってもらえるどころか一緒に行動出来るだけで貸しを作り続けているものだと思ってる。早く何とかした方がいい。

 ☆三島くん(LV.64)
 修学旅行から帰還したら校長は記憶喪失になってて友人が一人病院送りになっていた。成功か失敗か本気で分かんなかった。
 シャドウワーカーの動きにちょっと憤った人。三島くん的には校長の記憶喪失くらいなんぼのもんじゃい派だったので、そういう意味でも次は必ず参戦する意志を固めた。尚、その後の作戦会議。

 ☆真田明彦(LV.84)
 戦犯、と言うには色々板挟みになってしまった人。
 黒仮面とタイマンなら十分に勝てるだけの力はあったが、守りきるには相手が悪かった。
 しかしピンク髪の少女に伝えるべき事は伝えたので、それだけでMVPになれる素質はある。

 ☆アイギス(LV.84)
 銃撃属性の為、あまり乱戦・混戦に向いていないという事でフォローに回っていた。しかしその所為でテウルギアゲージも溜まっていなかった事や、寺崎の周囲にいたシャドウの掃討を肩代わりしていた為に『ロキ』の『メギドラオン』の発射は阻止できなかった。
 張り込みの疲労で実力を十分に発揮できなかったのもあって、ちょっと落ち込んだ節はあるそうな。それ作戦ミスじゃないですかね。

 ☆ラビリス(LV.83)
 真田と同じく近接担当だったが、同じく疲労で真田の分の雑魚シャドウを狩ってテウルギア装填の間を繋ぐので精一杯になってしまった。
 実はエントランスでの休憩中とかに鎖の扱いを寺崎にレクチャーしている。効果が出るのはもう少し先になるらしい。

 ☆桐条美鶴(LV.83)
 裏で黒沢刑事に協力を頼んだり、校長と寺崎の病院の手配をした人。三島くんに寺崎の病院を教えたのもこの人。
 関与している事はバレたが、何処の病院で匿っているかまで知られるようなヘマはしていない。しかしその辺り含めてその後の作戦会議でちょっと大変な事になったしこの先さらに大変になる模様。だが覚悟は出来ている。

 ☆黒仮面(LV.??)
 目的は達したが体感的には痛み分けに近い人。
 黒幕サイドの異世界関連は全部一人でやってるので、考える事がめっちゃ増えてキレてる。しかしこの先さらに大変になる模様。だが決意はキメている。

 ☆黒幕さん
 記憶喪失とかシャドウワーカーとか全然知らんけど、多分アイツが何とかしてくれるだろうからヨシ!
 

 閲覧、感想、評価などなどありがとうございます!
 十月編が纏めてか単発かは未定ですが、どうにか続けていきます!
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