私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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遅れましたが、あけましておめでとうございます。
今年も宜しくお願い致します。
そしてお気に入り2000突破、ありがとうございます!

そんなわけでクムラパレス編、開幕です!


#29 その展開は思ってもいない

 

 怪盗団の元からモルガナが去ってから数日。

 帰ってこない事を不安に思った面々はモルガナを探して、次のターゲット候補であるオクムラフーズ社長『奥村(おくむら)邦和(くにかず)』のパレスへと侵入していた。

 

「――お待ちなさい、あなたたち!」

 

「え、誰の声!?」

 

 SF映画のような宇宙基地を模したパレスの途中、そこに設置されていた生体認証式のゲートで足止めを食らっていた怪盗団に、凛とした声が待ったをかけた。

 

「あれって、俺たちと同じ怪盗服か?!」

 

「それに、黒い仮面……!」

 

「まさか、コイツが班目や金城が言ってた『廃人化』の犯人なのか? いやだがしかし……」

 

 高台から姿を現したのは、黒い仮面で素顔を隠したゆるふわ髪に帽子姿の少女だ。

 その黒い仮面という特徴は、今も怪盗団が追っている『廃人化』事件の犯人候補筆頭の『黒仮面』と共通している。しかし今までのパレスで出会ってきたあの人物とはどこか違う雰囲気を、メンバーの何人かは感じ取っていた。

 

「ハッ! オマエら、勘違いもほどほどにしとけよ!」

 

「モナ! 無事だったんだね!」

 

「ご無沙汰だな、パンサー。でもオタカラ狙いで来たのなら、尻尾巻いて帰った方がいい」

 

「いや、お前を探しに来たんだが」

 

「オタカラは、ワガハイと、この………………この、美少女怪盗が貰うからだ!」

 

「美少女怪盗!?」

 

「び、美少女怪盗と申します!」

 

「自分で言っちゃったし……。あとジョーカーは反応しすぎだから」

 

 ビシッとポーズを決め、オタカラ奪取を宣言する一匹と一人。しかしもう場に緊張感とかそういうのは残っていなかった。だってどうみても今までの怪しさ全開の黒仮面と違うし、少なくともそっちとは別人なんだなと全員が理解した。

 

 

 

 

「…………なぁ寺崎。俺たちは何を見てるんだ?」

 

「世間を騒がす心の怪盗団、彼らの最初で最後の仲違いシーンだよ」

 

「笑ってはいけない心の怪盗団24時の間違いだろ……」

 

 そんなショートコントを、同じく物陰から見ていた本物(マジもん)とその相棒はそう評していた。

 

 

 ★★☆★★

 

 

 そうして怪盗団の面々がシャドウに追われて退散してから、私たちは物陰からこっそりと周囲を伺う。

 

「……よし、もう動き出してもいいみたいだね」

 

「ふう、ようやくか……。因みに寺崎(カトル)、今日はさっきのを見に来たわけじゃないよな?」

 

「あっはっは、まさかそんなわけな――すみません、ちょっと期待してました」

 

「やっぱりか……。これも謝罪リストに追加しておくからな」

 

「ううう……。どんどん余罪が溜まっていく……」

 

 何やら手帳にメモしだした三島くん(レイ)はさておいて、今回やってきたのは『オクムラパレス』。怪盗団の次なるターゲットである奥村(おくむら)社長のパレスだ。

 

 ここのパレスで起こる出来事が後の怪盗団の動きに大きく関わってくる事もあり、また(私じゃない方の)黒仮面による新たな被害者が出るのもこのパレスである。それ故に入念な準備が必要だという事で、お馴染みになってきたコートによる変装姿でロケハンしに来た次第だった。

 

『――ニンショウ シッパイ』

 

「むぅ、やっぱり駄目か」

 

「怪盗団もさっき通れなかったみたいだけど、これって何のゲートなんだ?」

 

 私が例のゲートに近づくと、僅かな間を置いてからエラーと表記された。近づいてきた三島くんもその探知範囲に入ったらしいが、やはり続けてエラー音が鳴った。

 

「きっと生体認証のゲートなんだと思う。パレスの主に認められた人しかこの先にはいけないって感じじゃないかな」

 

「じゃあまたあの銀行の時みたいに認知を変えなきゃいけないのか……。ん? でもあの仮面の子はあのゲートを開けてたよな。ならあの子は認められてるって事?」

 

「まぁそうなるね。だからと言ってそれが参考になるわけじゃないんだけどさ」

 

 ついさっき生体認証のゲートを開けたのは、彼女がこのパレスの主である奥村社長の一人娘だからだ。

 秀尽学園高校三年生の奥村(はる)さん。言ってしまえば私たちの先輩に当たる人であり、彼女が怪盗団に加入する事でこの生体認証ゲートを怪盗団が突破出来るようになるのだ。

 

 そんな彼女抜きでどうやってこの先に進むのか。それが今回のパレスにおける最初の障害になっていた。

 

「……よし、ひとまずここまでのルートとゲートがどんな感じは分かったし、そろそろ帰ろうか」

 

「そうだな。あんまり長居してシャドウと戦いになってもアレだし」

 

「そうとなれば重ねがけしよう、『シャルロット』!」

 

 ひとまずの目標は達したという事で、現実世界への帰還を選択する私たち。そのついでに私のペルソナを召喚して、『潜伏』を二人にかけておく。非戦闘時ならどうにか対象を広げる事も出来るようになったのだ。

 

 なんせ今回のパレス潜入にシャドウワーカーの皆さんはいない。ならば万全を期した方がいいだろうというわけだった。

 

 

 ★★☆★★

 

 

 時は遡り、私に宛てがわれた病室での作戦会議中。

 次の動きを確認する為の話し合いで、美鶴さんが唸りながら顎にその綺麗な手を当てる。

 

『……今の話題のオクムラフーズ、そこの奥村社長が次のターゲットになると?』

 

『はい、そこは以前から言っていた通りです。怪チャンのランキングも、ここ最近はずっと一位をキープしてますし』

 

『確かに作為的なモノだと言われても、納得出来る程の流れではあるな』

 

 真田さんも自身のスマホでサイトを確認したのか、呆れたような物言いで今の勢いをそう評していた。

 

 最終的に全ての罪を擦り付けるべく、黒幕としても利用しやすい人物を怪盗団に狙わせる。そんな思惑の黒幕が白羽の矢が立てたのが奥村社長だ。

 怪盗団としてもその流れを訝しんでこそいるだろうけど、彼らは彼らの理由によって彼の改心を決意する事になる筈だ。

 

『つまり奥村氏も、改心が必要な程に歪んだ欲望を持つ悪人になるのですか?』

 

『パレスがあるので歪んでしまっているのは間違いないんですけど、悪人なのかどうかはノーコメントで。少なくとも、それが理由で殺されてもいい人間ではない筈です』

 

 アイギスさんの指摘も否定は出来ない。

 奥村社長が従業員にブラックな労働環境を強いているのは事実だろう。それこそ代替出来る機械のような認識でしかなく、それで追い詰められた人もいるとなれば、改心された方が世の為なのかもしれない。

 

 けどその辺りに口を挟むつもりは元々なくて、大事なポイントはたった一つ。彼が改心の裏で『廃人化』されてしまう事を如何に防ぐかという点である。

 

『でも寺崎ちゃん的には、今回もただ実行犯を捕まえて終わりにするつもりはないんやろ?』

 

『……はい、その通りです。秀尽学園の校長みたいにある程度はやらないと、私の識る流れにはならないですから』

 

 ラビリスさんの確認に、私は当然のフリをしながらそう返す。

 奥村社長の改心の顛末が事態の急変をもたらすのは前に言った通りだし、私もそこを変えるつもりはない。そして校長の時に、私たちの事を正しく警戒してくるあの実行犯を止める事も困難だと分かってしまった。

 であるのならやはり、怪盗団が奥村社長を害したように見えるカタチにしながらも、彼の命だけは救う方向で動くしかない。

 

『じゃあまた校長の時みたいに記憶喪失にするのか?』

 

『それが一番ベターではあるのかな……。それだって大事(おおごと)だし、何ならそれだけだと足りないかもだけど……』

 

『足りない、ですか?』

 

 アイギスさんが首を傾げるのも無理はない。

 今回の分岐となるのは、誰から見ても怪盗団がやり過ぎていると思われる事。原作では奥村社長が開いた記者会見の最中に、黒い血の涙を倒してブッ倒れるというショッキングなモノだった。それ並のインパクトを記憶喪失で与えられるかは私にもちょっと分からない。

 

『……黒沢さんから聞いた話では、例の校長が似たような状態になっていたそうだ。それ以上を目指して俺たちの手でトドメを刺してしまっては目も当てられん』

 

『明彦の言う通りだな。今回の記憶喪失であれば、恐らく治療の目処も立つ。私としても記憶喪失の案を推そう』

 

『あ、治りそうなんですか?!』

 

 喜び半分、焦り半分で私が尋ねると、今の彼はあくまで『忘却』という状態異常である事が分かってきたそうだ。

 

 原作では数ターンが経過するか、『パトラ』をかけるなどで回復したけど、今回のケースも同じ体で治せそうな感じらしい。

 もっとも時間経過に関しては今のところその予兆はなく、病院で安静にしていれば暫くは大丈夫との事だ。つまりそれまでには実行犯と決着をつけなきゃではあるけどね。

 

『メメントスで手に入れた小ビンもまだ数があるみたいやし、ひとまずの方針はそれで決まりやね。それでこれからはどうするん?』

 

『彼が襲われる場所は奥村社長のパレス、その最深部です。怪盗団が予告状を出す迄に、私たちもそこまでのルートを確保する必要があると思います』

 

『パレスの最深部……当然、シャドウによる妨害があるんだな?』

 

『怪盗団でも到達まで数日かかる感じの……っていうかいつものダンジョンな感じなので、人が多いに越した事はないかなと』

 

『アレやっぱりダンジョンだったのか……』

 

 既に幾つかのパレスに潜入した経験のある三島くんが遠い目になっているが、次はいよいよ宇宙なので覚悟していただきたい。

 

『分かった。では君たちがそのパレスに行く時に連絡をくれ。基本的にはアイギスとラビリスになるとは思うが、その道行きに同行しよう』

 

『その時はよろしく、であります』

 

『はい、凄く頼もしいです!』

 

 人が多すぎても隠密には向かないかもだが、シャドウワーカーの皆さんも行けるならそんなのはデメリットの内には入らないだろう。

 ひとまずは怪盗団同様にルートを確保してから当日の動きを決めると言うことで、その日は一区切りつける事になった。

 

 

 

 ――そんなシャドウワーカーの皆さんが動けなくなったと連絡を受けたのは、それから数日と経っていない日の事だった。

 

『え、シャドウワーカーに応援要請ですか?』

 

『ああ。日付が変わってすぐに、例の明智吾郎から連絡があってな。どうやら秀尽学園の校長の件をダシにしたらしい』

 

『なるほど校長の……いや待ってください、明智くんがシャドウワーカーに接触して来たんですか?!?!』

 

 昼休みの合間にかかってきたとある回線からの通話で美鶴さんが伝えてきてくれた情報に、私の眠気は爆散する勢いだった。

 

『あの時に黒仮面が彼であると私たちが知ったのと同じように、明彦やアイギス達の人相から此方の正体と所属に辿り着いていたんだろう。探偵王子という肩書きもあながち嘘じゃないという事だな』

 

『確かに真田さんの顔とか二人の身体とか見られていた気はしますけど、だからってこんなに早く、しかも堂々と来るなんて……!』

 

『挑発、と見ていいだろうな。敵ながら中々大胆な一手を打ってきたと感心したくらいだ』

 

 通話越しなので顔は見えないけれど、声の調子から美鶴さんも驚いているのが分かる。そこまで余裕がないわけでもなさそうだけど、わざわざ知らせてくれた理由はそれだけじゃないだろう。

 

『今のところは精神暴走事件の捜査の一環として、過去にあった『無気力症』との関連を疑って意見を求めてきた形だ。以前私たちがそう言って関わろうとしていた事を引っ張り出されては、断る事も出来なくてな』

 

『この短時間でそこまで調べたのか明智くん……! あれ、じゃあこれからどんな感じになりそうなんですか?』

 

『それが奇妙な事に……秀尽学園の校長も『無気力症』に近いケースであり、それすら怪盗団がやったという主張を通そうとしているようだ』

 

『……は? つまりそれってその、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?! あっち側が!?』

 

『早い話がそう言う事だ。どうやらあちらは私たちを表舞台に引っ張り出す算段を立てたらしい』

 

『な、何を考えてるの明智くん……?』

 

 開いた口がふさがらないとはこの事だ。

 元より精神暴走事件を追っている(事になっている)明智くんが、校長の異変に更なる見解を持ち出す事はきっとおかしい事じゃない。確か認知訶学を冴さんとかに教えたのも明智くんだったような気がするし。

 

 けれどこの世界では数年前に解決した筈の『無気力症』、それを怪盗団がこの時代に起こしたのだとでも言うつもりなの? それはちょっと無理筋なような……?

 

『『無気力症』の真相自体はシャドウワーカーの設立時に資料を警察に提供していたから、過去の事例に疑いを持っているわけじゃない。だがそのメカニズムはタルタロスがなくなった事で証明不十分という事になっていてな。彼はそれを怪盗団の手口と結びつけたんだ』

 

『……どちらも詳細不明だから、同じ可能性があるって事ですか?! そんな話が……!』

 

『私たちとしても反論はしたが、どうやらあちら側のお偉いさんからも圧力がかかっているらしい。メジエドや奥村社長の件で突き上げを食らっていながら進展のない状況に風穴を開けたかった、そんな体で我々を駆り出したいんだろう』

 

 纏めるなら、黒幕サイドのゴリ押しが前倒しになり始めたという話らしい。

 現状、冴さんのような一般層から見れば精神暴走事件と怪盗団事件の捜査は煮詰まっている。あんな認知世界での出来事を知る術もなければ証拠を掴む事も出来ない。原作でも精々が怪しい人物達をリストアップして、後は黒幕側の計画によって現行犯逮捕するしかなかった位だ。当然といえば当然だけども。

 

 そんな所に新たな手がかりとして『無気力症』、そして関わりの深いシャドウワーカーの存在を彼が伝えたのだろう。手柄に焦った冴さんがそれを鵜呑みにしたのか、はたまた上の特捜部長から手を回させたのか。

 どちらにせよ、急速にシャドウワーカーが今回の事件の参加権を手に入れつつあるのは間違いない。

 

 ただしそれは黒幕側の糸のついたマリオネットのようなモノだ。人形のように扱われた先に、捨てられる未来しか正直見えない。

 

『元より立場が弱い私たちは基本的に断る事は出来ない。更にこの先で怪盗団事件がシャドウ事案だと実証されれば、彼らの確保に動かねばならないだろう。そしてそうなる可能性は恐らく高いだろうな』

 

『権力のある輩はこれだから――ってそうじゃなくて、そうなったら皆さんは……!』

 

『大丈夫だ――とは言いきれないが、この事態を我々も考えていなかったわけじゃない。元よりそれだけの力を持つ相手である事は君から聞いていたからな。その上で、どう動くかを決めたい。お互いに時間もないから手短にいこう』

 

『は、はい!』

 

 頭がパンクしそうな私に落ち着けと言わんばかりの声色に、どうにか思考を落ち着かせる私。

 

『まずは時間を稼ぐ。我々シャドウワーカーを今回の精神暴走事件に関わらせる為の御膳立ては、どんな圧力があってもすぐに出来る事じゃない筈だ。そもそも君の識る流れにもこんな事はなかったんだろう?』

 

『も、勿論です! その辺りは私の所為なので!』

 

『……ならあちら側としても急な方針転換であり、シャドウ事案との結びつけには我々にアドバンテージがあるとみていいな。ならそこに付け込めばある程度の猶予は見込めるだろう。その間に我々と敵の動き方を細やかに検討しなければならない』

 

『私たちとあちらがどう動くか、ですか?』

 

『君はこの先に起こる事を知っているが、これからは相手もその前提で動く筈だ。つまりはどちらがその上で相手の先を取れるのか、それが勝敗を分ける鍵になる』

 

『明智くんの先を、私が……』

 

 美鶴さんの言葉は正しい。明智くんはきっと彼自身の目的の為、そして勝利の為に全力で怪盗団や私を叩き潰そうとしてくるだろう。

 そんな彼に私は何度も度肝を抜かれている。というか初めて会った時から驚かされっぱなしだった気がして、そんな私で彼に作戦勝ちする事なんて出来るのかと、いつしか手汗でぬかるんだ手を握りこんでいた。

 

『そしてもう一つ、忘れないで欲しい事がある。それがあの場での約束だったのだが、ちゃんと覚えているかな?』

 

『約束って……あっ』

 

 そうして悩みかけた私に、美鶴さんが思い出させてくれた約束。それはあの病室で皆さんが話してくれた事。

 

『私たちシャドウワーカーは、君たちに力を貸すと言った筈だ。寺崎君一人で難しいようなら、私たちも共に解決策を見出すべく共に悩む。抱え込む必要は、もうないんだ』

 

『っ……! は、はい!』

 

 その優しさの込められた声に、私はどうにか胸の内を堪えて返事をする。

 通話越しだから私の顔だって見えていない筈だけど、最後だけはバレていそうで、少し恥ずかしくなった。

 

 

 ★★☆★★

 

 

 そうして私と三島くんだけで軽く潜入する事になっても、シャドウワーカーの皆さんはやはり来られなかった。多忙な美鶴さんや所属が違う真田さんは元より、頼みの綱だったアイギスさんやラビリスさんもシャドウワーカーの顔という事で明智くんの策から逃れられなかったらしい。

 

 しかし一回目の潜入で見た事や、先に進む事を阻む生体認証ゲートの存在を美鶴さんに伝えると、当てがあるかもしれないとあの人は言ってくれた。

 そんなわけで日を変えてから再び、私と三島くんはオクムラフーズの本社ビル前にやってきていた。

 

「結構急だったけど、何とか間に合ったな。それで今回もシャドウワーカーの人たちは来るの難しい感じだっけ?」

 

「うん。けれど代わりの助っ人が見つかったからここに来てくれるってさ。一体誰なんだろうね?」

 

 流石に怪盗団と私たちがブッキングするのはまずいので、怪盗団のリーダーである雨宮くんが他の事を始めたのを確認してからやってきていた。なのでちょっと息が切れていた私だけど、考えていたのは今日来てくれる助っ人についてだ。

 

 美鶴さん曰く、シャドウワーカーの代わりかつあの生体認証を突破出来そうな人。けれどそんな人いたかなと私ですら首を傾げていた。

 

「いや、寺崎ですら知らないの? というか誰か教えてもらってないのかよ」

 

「その時になれば分かるって言われてそれっきりなんだよね。なんなら今後について相談してもいいって話だったけど、此方の事情も既に知ってる人って事なのかな……」

 

 私が諸々を識っている事を話した相手なんて、それこそシャドウワーカーと八十稲羽(やそいなば)の方たちくらいの筈なんだけど――

 

「ん? なんかタクシー来たけど、ひょっとしてアレだったりする?」

 

「タクシー? いやいや、そんなので来る人が私たちと関係してるわ……け…………」

 

 そんな会話をしながら本社ビル前の広場の端っこで待機していると、大通りから一台のタクシーがやってきたのを三島くんが発見した。確かにそろそろ時間だけどそんなわけないと半笑いだった私は、その降りてきた人影を見て動きを止めた。

 

「――失礼。あなた達が寺崎さんと三島さんですか?」

 

「……えっ、あ、はい。そうですけど、もしかして?」

 

 何も言わなくなった私に代わって三島くんが返事をすると、安堵したように頷くのは一人の女性だ。その青くて長い髪を揺らしながら、スラリとしたワイシャツにパンツルックの麗人がその名を口にする。

 

「桐条美鶴さんからの紹介で来ました、助っ人の白鐘(しろがね)直斗(なおと)と言います。僕もペルソナ使いであると言えば、分かりますか?」

 

「白鐘……? っていうか、ペルソナ使い?! マジですか!?」

 

 名字に若干の引っ掛かりを覚えつつも、ペルソナ使いという単語が出てきた事に驚く三島くん。決して美人のお姉さんを前にしてキョドってるわけじゃないらしい。

 

「――うん、本当だよ? というかそれが分かるって事はあなた達もそうなんだよね?」

 

「えっ、ちょっ、まさっ……!?」

 

 そんな彼も、白鐘さんの後ろからぴょこっと出てきたサングラスの女性によって無事その動きを停止させた。代わりにどうにか再起動を果たした私が尋ねることにする。

 

「……ごほん、ごめんなさい。二人して驚きすぎちゃって。それで白鐘さんと、もしかしなくてもあなたは……?」

 

「あはは、もうバレちゃった? うん正解、私が久慈川(くじかわ)りせ。よろしくね」

 

 そう言いながらサングラスを上にずらして微笑むのは、今も時めくトップアイドルの一人である久慈川さんだ。ウェーブのかかった茶髪をツーサイドアップにして、いかにもお忍びといった控え目な格好をした彼女だけど、この距離だとそのオーラまでは抑えきれてない。だからこそ三島くんという犠牲者が一名出てしまったのだ。

 

「えっと、私が寺崎叶です! それで、そこで固まっちゃったのが友達の三島くんです。……ほら、三島くんも挨拶挨拶」

 

「えっはい、三島由輝です――いやなんで久慈川りせがここに!? というかひょっとして久慈川りせもペルソナ使い?! マジデ!?」

 

「そうだけど……あれ、もしかして私たちの事知らなかったの?」

 

「いや知ってるけど知らないといいますか、美鶴さんからは聞いてなかったといいますか」

 

 未だ理解が追いついていない三島くんにつられて変な敬語になりながら答えると、ふむと頷きながら口を開く白鐘さん。

 

「一つ確かめる為にあえて僕たちの事を黙っていただいたのですが、やはりこうして会う事は流れになかった事とみていいようですね。違いますか、寺崎さん?」

 

「あっ、やっぱり私の事は知ってたんですね」

 

「はい、既に八十稲羽の皆さんからその辺りは聞いています。だからこうしてこの場に来ることはともかく、過去の僕たちについては知っているという認識でいいんですね?」

 

「ひゃ、ひゃい……! その件は言い繕う事も出来ないっていうかその……!」

 

 私の奥底まで見抜かんとするような視線に、驚きも飛ばされて身を委縮させる私。

 別に責められてるわけじゃないとは思うけど、それはそれとして罪悪感が顔を出してきたような感覚だった。

 

「あ、別に私たちはその辺りをどうこう言うつもりはないからね? 花村先輩たちもいいって言ったみたいだし、桐条さん達からも信用されてるのなら大丈夫だって思うから」

 

「久慈川さんの言う通りです。そもそもそうでなければ今日この場に来ることもなかったでしょうから。むしろ僕は探偵としてだけでなく、個人としても一度あなたと話してみたいと思っていましたから」

 

「わ、私とですか?! そんな光栄な機会を私に……!?」

 

 それでちょっとオーバーなリアクションを取りすぎてしまったのか、落ち着かせるような態度になってしまった二人。いかんいかん、ちょっと落ち着かないと駄目だコレ。

 

「ええ。ですがそれはひとまず後にして、今日の本題に入りませんか? 確か、この近くから侵入出来る異世界に用があるという話だったと思いますが」

 

「あっ、はいそうですね! えっとそれじゃあ、ひとまずその異世界に入ってから説明するって感じでいいですか?」

 

「確かに百聞は一見に如かずと言いますし、その方が手っ取り早いでしょう。ですがあと少しだけ待ってください。もう一人、来ていない助っ人がいるので」

 

「……ふぅ、どうにか落ち着いた……。え、それでまだ誰か来るんですか?」

 

「そりゃ勿論! というか私だって久しぶりに会えるから楽しみにしてた位だし!」

 

 どうにか冷静になった三島くんにナビの使用をお願いしようかというところで、白鐘さんから待ったがかかった。けれど久慈川さんがウキウキになった所で、私の直感がその人物の来訪を予感していた。

 していたけど……え、まさか本当に? あの人が来るって事?

 

「――すまない、俺が最後だったみたいだな」

 

「いえ、ちょうどいいタイミングですよ。――鳴上(なるかみ)先輩」

 

(ゆう)先輩! 会いたかったー!」

 

「えっ――」

 

 そんな折、不意に飛んできた声に私は振り向く。白鐘さんと久慈川さんの待ちわびたと言わんばかりの声色を浴びてなお平然としているその男性に、私は言葉を失った。

 

 背が高くてスラッとした黒ジャケットのその人は、さっきの私と同じでここまで徒歩か小走りで来たらしい。

 けれどそれによる呼吸の乱れを即座に収めた濃い銀髪の青年が、まっすぐなその瞳で私を見つめてきた。

 

「もしかしたら俺の事も知っているのかもしれないけれど、自己紹介は大事な事だ。なので名乗らせてもらうけど、構わないか?」

 

「あっ、ひゃ、ひゃい……!」

 

「では早速だが、俺の名前は鳴上悠。美鶴さん達に代わって君たちの手伝いをさせてもらう事になった、ペルソナ使いだ。よろしくな、二人とも」

 

 ――そのあまりに眩しい主人公パワーに、私の思考が今度こそ停止しかけたのは言うまでもないだろう。




章ごとにパーティメンバーが変わるのっていいですよね。

そして黒幕の権力を悪用していくスタイル。
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