私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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20XX/05
#3 巻き込まれただけなら仕方ない?


 予告状が出されてから二週間が経った五月の始め。連休前の集会にて、それは起こった。

 

「私は、許されない事をしました……」

 

 自宅謹慎していたはずの鴨志田先生が突然現れ、今までに犯してきた罪を告白する。

 何も知らない生徒たちからすれば衝撃のカミングアウト、けどそれは怪盗団の初仕事が見事果たされた事も意味していた。

 

「あれが改心なんだ……。あそこまで劇的だと、確かに不自然極まりないかも」

 

 一生徒として集会に参加していた私もその顛末を見てたけど、その変わり様には驚きを隠せない。

 この世界で生きてきたからこそ、その変化がより大きく分かった。決して怪盗団は正しいだけじゃないと言われるのも納得だ。ちょっと普通に怖かったし。

 

(かなえ)、何見てんの?」

 

「いやちょっと、こんなの見つけちゃってさ」

 

 そんな事があってから数日後。話しかけてきた友達に見せつけるのは、赤と黒でデザインされた掲示板サイトだ。ラッキーな事に一桁番目のアクセスゲットしちゃってた。

 

「『怪盗お願いチャンネル』? 叶ってこういうヤバそうなサイトも見るんだ」

 

「や、ヤバくないよ! 怪盗で調べてみたら、偶々ヒットしただけだし!」

 

「怪盗っていうと……あのイタズラの事、まだ気にしてたのね」

 

 そう言う友達は怪盗団の事は信じていなくとも、あの日に貼られていた予告状は覚えていたらしい。恐らく他の生徒たちもそれくらいの認識だと思う。

 

 というか怪盗団の仕業だとこの時点で思っているのは極々少数で、大半は良心の呵責かどこかの連中に脅迫されたという噂を信じているのだ。いやどっちもそんなに間違ってないんだけども。

 

「こんなサイトがあるんだし、信じてる人が私以外にもいるんだよー」

 

「心を盗む怪盗ねぇ……。アンタにも盗んで欲しい人がいるの?」

 

「いや別にそういうわけじゃないけどさ。いないよりもいてくれた方が嬉しいでしょ?」

 

 そういうもの?と首をひねる友達と一緒にサイトを見るが、まだ始まったばかりなので書き込みすらも全然ない。サイトの存在すらもまだ知られてないだろうから、当然っちゃ当然だった。

 

 そしてサイトでお願いをする必要も私にはない。だって私の心はとっくに盗まれているからだ。

 

「(……なのになんで、私のスマホには()()()()()()が入ってないのぉ!?)」

 

 だからスマホを見ていたのはサイトを見る為ではなく、お目当てのアプリがインストールされてないかを確認する為だった。しかし現実は非情な事に、その目玉のアイコンはどこにも見られない。

 

 認知世界に入る為のイセカイナビは、ベルベットルームの主であるイゴールが配布しているものだ。彼から見て素質がある者に与えられるそうだが、私はその枠に入ってないというのか。

 ……え、ただの不法侵入者に鍵を渡す奴はいない? そこを何とかお願いしますとこれだけ祈ってるんだけど!?

 

「……あ、でも素行の悪いお客様は改心していただきたいかも。始めたばかりなのになんでほぼ毎日出会っちゃうかなー」

 

「叶も最近バイト始めたんだっけ。接客業ってやっぱり大変なんだ」

 

「ホントだよー。この前だってさー……」

 

 そんな胸の悲しみをスマホと共に奥底へと叩き込み、また別の愚痴を友達へと吐き出しながら歩いていく。また少ししたら確認すればいいんだし。

 

 怪盗団の物語はまだ始まったばかり。その活躍を追うために、出来る事をしていこう。

 

 ☆☆☆☆☆

 

 そもそもここがペルソナ5の世界だと気づいたのが予告状を出された日であった為、そのままの勢いでパレスまで突撃してしまったが、あれはよくなかったと思う。

 

 だってボス戦を前にして準備なしで行くとか無謀にもほどがあると思うんだ。

 

 決戦にそなえてアイテムを揃えたり、装備を整えたりとやる事は沢山あるだろう。それさえしていればあの兜ジャージなんて悲しき存在が爆誕する事もなかったはずなのに……!

 

「し、失礼しまーす……」

 

 そんな反省をしながら私は、渋谷のとあるお店のドアを押し開けた。見た目に違わず結構重い。

 

「…………いらっしゃい」

 

 そんなおっかなびっくり入ってきた私にワンテンポ遅れて歓迎の言葉をくれたのは、店の奥でどっしり構える帽子を被った男性だ。うん、やっぱりちょっと怖い。

 

 というわけで今回やってきたのはミリタリーショップ:アンタッチャブル。ジョーカーが全員分の武器や防具を揃えるついでに戦利品を売り払うお店だ。最終的に銃だけでなく斧やビームサーベルまで取り扱うのも疑問だけど、買い取った異世界の品とかどうしているんだろう。気になる……。

 

 けど軽く見て回った感じ、ミリタリーな感じのモノしか見当たらない。そもそもゲームに出てきた銃の種類くらいしか分からないので、黒くて重くて凄いなぁという感想しか出てこなかった。

 

「あの、すいませーん……」

 

「どうかしたか、嬢ちゃん?」

 

 なので素人は黙って玄人のいう事を聞こうと、店主である岩井(いわい)宗久(むねひさ)さんへと声を掛けた。やや勇気を振り絞る必要はあったけど。

 

「これくらいの予算で買える拳銃ってありますか?」

 

「…………確認なんだが嬢ちゃん。俺の店で買えるのはホンモノじゃねえぞ?」

 

「えっ、いや、別にそんなつもりはないんですけど!」

 

「ならいいが……ちょっと待ってろ、すぐに用意してやる」

 

 ギロリと私を見定めたかと思いきや、すぐに裏から商品を持ってきてくれた岩井さん。

 けどなんで最初にあんな質問をしたんだろう。やっぱり聞き方が悪くて世間知らずに思われてしまったのかな。

 

「詳しく聞くつもりはないが、嬢ちゃんは誰かに頼まれて来たわけじゃないよな?」

 

「あ、はい。ちょっとこの先必要になりそうだから来ただけで……あ、勿論撃つ予定があるわけじゃないですよ!」

 

「当たり前だ……。くれぐれも人に向けたりするなよ」

 

 怪訝そうな目を向けられながら買ったのは、M何とかと書かれた拳銃だ。ここ数日のバイトで得たお金がそれなりに吹き飛んだが後悔はない。こうして聖地巡礼の為に稼いでいるんだからね……!

 

「おお、多分いい感じです! 大事にします!」

 

「そいつはいいが……次来るなら男の友達と一緒に来い。嬢ちゃんみたいな子が一人だと危険だからな。店を出たらまっすぐ通りまで行けよ」

 

「わ、分かりました! 気を付けます!」

 

 果てには私の心配までされてしまった。やっぱりいい人なんだなと思いつつ、だからこそトラブルを起こしてお店と岩井さんに迷惑をかけてしまうのも忍びないので、ここは素直に従うことにした。

 

「けど一度来てみたいと思ってたから、来られて良かったです! 改めてありがとうございました!」

 

「お、おう。じゃあな……?」

 

 最後にそれだけ伝えてから、重い扉を引っ張って飛び出した。もうすぐ彼らも来るだろうし、急がなくっちゃね!

 

 ☆☆☆☆☆

 

 ――彼女が来店した瞬間から、岩井は意識を向けていた。

 

「し、失礼しまーす……」

 

 とある日の夕方。比較的来客が少ない時間帯に彼女はやってきた。

 

 岩井の経営するミリタリーショップは入店しやすいとは少し言い難い。本人としてもそう自覚しているからこそ、一人で入ってきた女性客は珍しく映った。

 

「うわぁ凄い……値段してる……」

 

 何やら商品棚を見ている少女には、それ以外にも目を引くものがあった。

 背が低めで桃色のお団子髪というそれなりに目立つ容姿なのもそうだが、最近金メダルを売りに来た少年と同じ高校の制服を着ていたのが一番の理由だ。

 その学校の教師が捕まったというニュースは岩井の耳にも入っている。故に突然やってきた少女にも何かあるかもしれないと、岩井は少しだけ注意を割く事にした。

 

「これくらいの予算で買える拳銃ってありますか?」

 

 大丈夫かコイツ。そう言いかけた言葉を岩井はどうにか呑み込んだ。

 もしかしてあやふやな知識だけで来てないか。何か勘違いとかしてないかと思い尋ねてみたが、どうやらモデルガンを買いに来た事は間違いないようだった。全然不安は拭えなかったが。

 

 ひとまずあの少年と同じように商品を勧めてみると、すんなりと購入を決めていた。エアガンであってもそれなりの金額はするのだが、少女は気にせずポンと支払うので余計に不安になった。

 

「あ、はい。ちょっとこの先必要になりそうだから来ただけで……あ、勿論撃つ予定があるわけじゃないですよ!」

 

 何する気だお前。エアガンを携帯するのが流行りにでもなったのかと本気で聞こうか迷った。

 しかし今までの経験上、少女が嘘を言っているようにも見えなかった。それでもギリギリまで売るかを迷ったが、此方の注意もちゃんと聞いているようだったし、最終的には領収書と共に商品を渡していた。

 

 強いて言うならあの少年と似た雰囲気を感じたからだろうか。少なくとも悪用はしないと判断し、ついでに変な事に巻き込まれないようにとアドバイスした。なんか店を出たら普通に男に絡まれそうだったし。

 

 けれどその少女は、最後にまた岩井の予想を裏切ってきた。

 

「……まったく、最近のガキはどいつもこいつも……」

 

 呆れたように帽子を被りなおすと、岩井はまた雑誌を開いての店番に戻るのだった。

 

 ☆☆☆☆☆

 

 岩井さんのお店を出てすぐさま大通りに戻ると、そのままスクランブル交差点の方へと足を運んだ。

 今日はバイトもないし、かといって電車で帰るわけでもない。ではなんで駅前に来たかというと、今日のメインディッシュがそこにいるからだ。

 

「……いた、怪盗団のみんなだ!」

 

 地下鉄の駅へと続く階段の傍に佇む人たちの中に、見覚えのある一味がそこにいた。

 雨宮(あまみや)(れん)坂本(さかもと)竜司(りゅうじ)高巻(たかまき)(あん)、モルガナの怪盗団ご一行様が、スマホを片手に何やら話している。

 

 私の記憶が正しければ、彼らは今日初めてメメントスへ行くのだ。

 そして私はそれにまたついていこうというわけである。

 

 もしイセカイナビが手に入っていたらこんなガチストーカー行為を再び働かなくてもよかったのだけど、生憎と私のスマホは依然として空っぽだ。なのでごめん、また追従させてください……!

 

 軽くフードを被った状態で、ギリギリまで彼らの傍に近寄る。前回ので大体の距離感は掴んだので、恐らくこの位置でイケるはず。

 今回はちゃんと装備も整えてきた。ちょっと丈夫な服も着てきたし、隙を作る為の銃もさっき買ってきた。お薬もカバンに入れてきたし、スマホの充電もばっちりである。後はイセカイナビさえあればもっと良かったんだけどね。

 

 周囲には滅茶苦茶人がいるが、個々人に意識を向けているのは殆どいないので大丈夫。怪盗団のみんなもそんな感じでいつも入ってるっぽいし、私もしれっとした態度でいれば別に問題は――

 

 

「あ、やっぱり寺崎だ」

 

「……えっ?」

 

 

 怪盗団の方をチラチラ見ていたら、その反対から声を掛けられた。

 なんか覚えのある展開というか、滅茶苦茶聞き覚えのある声に思わず振り向くと、やはり予想通りの顔があった。

 

「三島、くん? え、どうしたの?」

 

「いや、あっちの通りで見かけたからもしかしたらと思ってさ。ちょっと話したい事もあったんだけど、いい?」

 

 そうして近づいてきたのは、白いシャツが特徴的な三島くんだ。鴨志田の件がなくなって顔色がよくなったのは素晴らしいが、今はタイミングが最悪だ。それになんだ、私と話したい事って。

 

「いやー、今はちょっと忙しいと言うかなんというか、そのー」

 

「あ、そうなんだ……ってあれは坂本と雨宮? あいつらもいたん――」

 

「ちょっ、三島くん駄目! こっち!」

 

「へっ?! なにを――もごご!」

 

 そして更に都合の悪い事に、怪盗団のみんなにも気づきやがった。

 ここでバレるとめんどいというか、次のチャンスが分からなくなって困ると思い、慌てて彼を抑え込む。パレスで認知存在を相手にした時より楽だったけど、状況はさらに悪化した。

 

 三島くんを捕まえた瞬間に、周囲の景色が歪み始めたのである!

 

「っ!? っっ?!?!」

 

「(ごめん三島くん、こっち!)」

 

 段々と喧騒が遠のいていき、世界が別のモノへと移り変わる。

 何が何だか分かってない三島くんの口を必死に押さえながら、怪盗団とは更に逆向きへと移動した。

 

「人が、いなくなっちまった!?」

 

「それになんか、ふわふわしてるっていうか……」

 

 イセカイナビで移動した事に驚く彼らの言う通り、既に周囲に人はいない。それだけに私たちが騒いでしまうとマズいという事で、慌てて距離を取ったのだった。

 

「よし、巻き込まれ作戦は成功したね、うん!」

 

 ひとまず狙いを達成できた事は喜ばしい。またこの異世界に来られた事自体は嬉しく感じる。

 これでまた、怪盗団の活躍をこの目で見られるのだから。

 

「……寺崎、これ、どうなって……?」

 

 問題は、事故って三島くんも巻き込んでしまった事だ。もしかしなくても原作崩壊の危機になっちゃったよねコレ……? ど、どうしよう……?




☆寺崎叶
 改心を目の当たりにして少し頭が冷えた。それはそれとしてストーカーは続ける。
 怪盗団がらみ限定で度胸がランク4.5くらいになる。普段は2くらい。

☆岩井宗久
 なんか変な奴が最近多いなと思ってる。
 少女は脅されてる説、彼氏のおつかい説、大穴であの少年の仲間説と色々考えていた。

☆三島くん
 渋谷で寺崎を見かけたのは偶然。しかし話しかける理由があった為、運命が変わった。

☆またしても何も知らない怪盗団
 まさかここでも巻き込まれ作戦をしてくる奴がいるとは思わないだろ。



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