私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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#30 違いに驚かずにはいられない

 

『――ナビゲーションを 開始します』

 

 無機質な自動音声と共に、世界が移り変わる。

 何処にでもある街角とビルの風景は、ここにしかない宇宙基地のエントランスへとその容貌を変えた。

 

「――ここが認知世界か。まさか、またこんな光景を目にする事になるとは……」

 

 そこに降り立ったばかりの銀髪の青年、鳴上(なるかみ)(ゆう)は周囲を見渡しながら感嘆の息を漏らしていた。

 しかし彼は過去に三度は世界を救った百戦錬磨の男。それから数年経った位では、その立ち姿に隙が生まれる事はない。

 

「雰囲気だけなら僕がテレビの中に落ちた時に出来た世界に似ていますが、ここに本人はいない。あくまで現実世界にいる本人が認知している世界を異世界として実体化したもの……そういう認識で合っていますか?」

 

「は、はい! それが認知世界であり、歪んだ欲望によって成り立つパレスなので」

 

 隣に立つピンク髪の少女に確認したのは、かつては探偵王子として名を馳せた白鐘(しろがね)直斗(なおと)だ。

 月日が経った為に王子と呼ばれる事はなくなったが、更に冴えを増したその探偵としての頭脳が、目に見えるモノ以上の何かを捉えるべく回り続ける。

 

「確かに凄いけど、それ以上になんか変な感じする。堅苦しいというか、身動きが取りづらくなるような感覚っていうか……」

 

 そんなパレスの違和感を感じ続けて眉を顰めているのは、多忙なスケジュールの合間を縫って合流した現役のアイドルである久慈川(くじかわ)りせだ。

 まだペルソナを召喚していないにも関わらず、その特性によって伝わってくる感覚に警鐘を鳴らすべきだと判断していた。

 

「……おーい三島くん。そろそろ大丈夫?」

 

「あ、ああ。もう平気だ。大丈夫、今まで異世界の怪物とか桐条グループの総帥とかロボットとか見てきたんだ。アイドルでも初代探偵王子でもどんと来いだ……!」

 

「分かる、分かるよその気持ち。いざ目の前にすると興奮と非現実感に襲われて身動き取れなくなっちゃうんだよねぇ」

 

「いやそこまでは言ってないけど? いやホントに」

 

「え、そうなの? 私はまだ身動き取れない状態を無理矢理何とかしてるだけなのに?」

 

「大丈夫じゃないのはお前じゃん。頭というか、その認識のままなのが」

 

 そんな錚々たる面子を前にして、未だに動揺を隠し切れていない高校生が二人。認知世界潜入歴は此方の方が長いのにすっかり落ち着き様が逆転していたが、そこに突っ込む声はついぞ上がらなかったのだった。

 

 

 ★★☆★★

 

 

 突如現れて私たちの度肝を抜いた三人――自称特別捜査隊の都会組三人だけど、助っ人として来てくれた事は素直に嬉しい。

 

 だってP4シリーズの主人公である番長もとい鳴上さんに、とんでもない美人で探偵の直斗(なおと)くんもとい白鐘さん。そして今もなおトップアイドルである『りせちー』こと久慈川さんだよ? 興奮しなければ無作法というものだ。

 

 因みに単なるピンチヒッターではなく、彼らなりの理由を持ってここに来たらしい。というかその目的の半分位は私にあるみたいだけど、ひとまずそこは置いておく。

 

 何故なら、オクムラパレスに侵入した私たちにはまず越えなければいけない箇所があったから――なのだけど。

  

『――ニンショウ セイコウ』

 

「あ、開いちゃった……!」

 

 久慈川さんが例の生体認証ゲートに近づいて暫くすると、機械特有の無機質な声と共にガチャンとロックの外れる音がした。まさかの解錠成功である。

 

「この異世界が奥村氏から見たオクムラフーズ本社である以上、この生体認証ゲートを通ることが出来るのは彼が認めた人間だけ、でしたね」

 

「私は()()()()()()()()()()()()()()()()、入ってもいいって認知されてるんだね。場所もここの会議室だったし」

 

 当の本人はあまり驚いていないようだけど、私からすれば青天の霹靂も良い所だ。

 奥村社長の親族である春さんが許可されているのは当然として、他に仕事の関係者として突破してみせるなど私すら考えなかった……いや、実行したくても出来なかった方法だ。それに行き着き、達成にまで漕ぎ着けるなんて、流石は皆さんだ……!

 

「ええと久慈川さん。もしかしてそれってまたビックバンバーガーのCMやるって事ですか……?」

 

「ふふ、ナイショ♡」

 

「はうあっ」

 

 なんか守秘義務に遮られた三島くんがまた久慈川さんにしてやられてるけど、そう言えば少し前にイメージキャラとして出演してたような気がする。最近のイメージダウンに対するテコ入れとしてまた呼ばれてたりするのかな?  

 

「さて、ここまでは予想通りですが――やはり一筋縄ではいかない様ですね」

 

「ああ、そうみたいだな」

 

『ム? ナゼゲートガ……』

 

 そうして開くゲートの向こうに動く影を見た白鐘さんが警戒と共に拳銃を取り出し、同じ予想をしていた鳴上さんも刀を鞘から抜いていた。

 それを見て私と三島くんも戦闘態勢に入るが、急にゲートが開いた事にシャドウは気を取られているようだった。

 

 すなわちそれって、奇襲チャンスって事だよね。

 それなら――!

 

「――先手、行きます!」

 

『っ?! 何者ダ?!』

 

 そんな掛け声と共に地を蹴り、私が着地するのは白いドラム缶みたいなロボット型のシャドウの頭部だ。

 突然の騎乗に驚いている間にその仮面を勢いよく剥ぎ取る。そうして現れたのはその下に隠されていた本来の姿であり、今回は巨大なヒトデみたいなシャドウと黒い羽の生えた少女悪魔のシャドウだった。

 

 そうして急に開かれた戦線だけど、シャドウワーカーと同様に経験の深い彼らの動き出しは早かった。

 

「あちらはまだ動揺している! 一気に攻めるぞ!」

 

「敵は二体、油断せずにやっちゃって!」

 

「よ、よし! まずは俺が……!」

 

 頭部がパラボラアンテナのようになったペルソナ、『ヒミコ』が持つヘッドマウントディスプレイを装着した久慈川さんに押されるようにして、狙撃銃を構える三島くん。

 

 そうして響く銃声は、今日は彼の銃からだけではない。パンパンと連続して鳴る発砲音と共に飛来した銃弾が、宙に浮くシャドウへと的確に命中していく。

 

「僕たちが戦ってきたシャドウとは些か種類が違うようですが……! 鳴上先輩、星型のシャドウは物理が有効かもしれません!」

 

 一息に撃ちきった拳銃の弾倉に弾を込めながら、探偵として培ってきた観察力でその弱点を見抜く白鐘さん。

 しかし当然、シャドウ達もやられっぱなしでいる筈はない。

 

『く、来るなら来い! 『テトラカーン』!』

 

「物理技が跳ね返ってくるよ! みんな気をつけて!」

 

 白い円がシャドウを覆うのと同時に変化した敵の状態を、ナビ役の久慈川さんがすぐに補足してくれる。

 どちらかと言うと物理型な私からしてもそれは厄介だけれど、だからこそやれる事はある!

 

「私が反射を剥がしますから、後詰めはお願いします!」

 

「任せろ! 必ず仕留める!」

 

 あまりに頼もしすぎる返事を受けながら、私は回した鎖の先の分銅をデカラビアの瞳に向けて投擲する。

 そうして投げた勢いのまま返ってきた分銅をスレスレで避けながら、身を捩ってしならせたもう一方の先の鎌で敵を切り裂く。

 

 目潰しにもならない、掠り傷を与える程度の攻撃。しかし物理反射がなくなった事を確かめ、尚且つラビリスさんの教え通りに()()()()()()()一撃なのでこれでいい。

 

 そんな私のすぐ横を、白い電光が駆け抜けた。

 

「はああっ――!!」

 

『ぎゃあっ!』

 

 すれ違いざまに刀を振るい、突進と共に鳴上さんが一閃する。通り抜けてシャドウに背を向けた状態になるけど、その左手は既に何かを握り潰した後だ。

 

「――『イザナギ』!」

 

『ぎゃあああ?!?!』

 

 そうしてデカラビアの頭上に現れたのは、学ランを纏った鉄武者のようなペルソナである『イザナギ』だ。

 その白く長い大刀が振り下ろされた事で成る『十文字斬り』によって、デカラビアはその身を塵へと変えた。

 

『よくも同胞を! こうなったら……!』

 

「みんな、増援が来るよ! 注意して!」

 

 残されたもう一体のシャドウであるリリスが手を掲げる。それが仲間を呼ぶ合図だと久慈川さんが看破するのと同時に、その影は姿を顕わにした。

 

「なんだコイツ、土偶(どぐう)か?」

 

「物理は反射される! 絶対に銃を撃つな!」

「物理は駄目! 反射されちゃうから!」

 

「りょ、了解!」

 

 それがアラハバキだと分かった瞬間に私と鳴上さんが叫びを上げる。その勢いに若干気圧された白鐘さんが、やや困惑混じりにそれを了承した。

 

 だってペルソナとシャドウの属性を全部覚えてるわけじゃないけど、流石にコイツは忘れたくても忘れられないし!

 

「なら魔法だな、『シャルル』!」

 

「ちょっとでも削るよ、『シャルロット』!」

 

『コノ程度デ……!』

 

 私はカードを横薙ぎにして、三島くんは召喚器をこめかみに当てて青い光を呼び起こす。

 そこそこな氷撃と炎球が二体のシャドウを襲うけど、倒すまでには至らない。

 

 けれど心配もしていない。だってこの場には、私たちを遥かに超えるペルソナ使いが二人もいるんだから――!

 

「頼む、『スクナヒコナ』!」

 

 白鐘さんが目の前に出現させた青いカードを撃ち抜いて呼び出したのは、他の人のと比べるとやや小柄なペルソナだ。

 しかしその『スクナヒコナ』が飛び回りながら発動させた白い爆発(メギドラ)は、リリスの残り体力を削るには十分な威力を秘めていた。

 

『いやぁぁぁあああ!!』

 

「うお、すげぇ……」

 

「敵、あと一体! すぐに攻撃が来るよ!」

 

『オノレ、ヨクモ……!』

 

 仲間を減らされた事に怒りながら、アラハバキがその身体をグルグルと回し始める。そうして放たれた一撃が、一瞬の白光と共に私たち全体へと襲いかかる。

 

「……来ると分かってれば、効かないっての……!」

 

 しかし久慈川さんの予告を受けて防御姿勢を取っていた私たちは、その全体物理攻撃(フラッシュボム)のダメージを最低限に抑える事に成功していた。

 

『コシャクナ……!』

 

「いくぞ、今度は此方(こちら)の番だ!」

 

 悔しがるアラハバキの前に立つのは、刀を片手で持ったままの鳴上さんだ。そうして空けた方の手で出現させたのは青いカードだが、今度はすぐに握り潰したりはしなかった。

 

「チェンジ――『コウリュウ』!」

 

『ナ、ナンダト……?!』

 

 最初に出したカードから、別のカードへと切り替えるような仕草を経てから呼び出したのは、金色に輝く巨大な龍のペルソナだ。その威圧感にアラハバキだけでなく三島くんすら目を丸くしていた。

 

「で、デカいっていうか……別のペルソナを呼んだって事は鳴上さんもワイルドだったんですか?!」

 

「そうだよ! 悠先輩は私にとって――じゃなくて私たちの中でもトクベツなんだから!」

 

 それこそが鳴上悠の主人公たる所以の一つ。

 複数のペルソナを操り戦況を打破する力、『ワイルド』。それは彼の戦いが終わったとしても、絆と共にあり続けるモノであるらしかった。

 

 それをこんな間近で見られて、ホントに感激しかないというか――

 

「……この感覚。不思議だがやれる気がする……!」

 

「えっ?」

 

「――コウリュウ、『()()()()()()()』!」

 

『ナン――グワァアアア?!?!』

「ええええええ?!?!」

 

 黄金の龍が繰り出したサイケデリックな魔法の渦に巻き込まれたアラハバキの叫びが、私の驚愕と重なりあった末に消えていく。

 

「弱点に命中、シャドウ撃破! カッコ良かったけど先輩、今のって……?」

 

「僕も初めて見る属性の攻撃でしたが、何処か別の所で覚えてきたモノですか?」

 

「いや、俺もペルソナを呼ぶのは久しぶりだからそれはない。ただあの瞬間、何となくイケそうな気がしたんだ」

 

「い、イケそうってそれだけで……?」

 

 繰り出した本人もまだ実感がなさそうな顔で言うが、私としてもまだ理解が追いつかない現象だ。

 ただ一人、その事の重大さに気付かない男子がそんな私に問いかける。

 

「えーと、何をそんなに驚いてんの? 鳴上さんがそれだけ凄いペルソナ使いって事じゃないのか?」

 

「鳴上さんが凄いのは間違いないよ。だけど今の魔法は本来ならあり得ないというか、バージョンが違うというか……」

 

「寺崎さん、今の発言はどういう事ですか? 先程魔法が発動した時も驚いていましたが、貴方は今の魔法についても知っているのですか?」

 

「えっ、あ、その……」

 

 そんな私の発言を聞き逃さなかった白鐘さんに追及の視線を向けられ、しどろもどろになりながら話す。私だってどういう事かよく分からないし、整理するにはちょうどいいかもなと思いながらだ。

 

「ええと、今のは念動(ねんどう)属性の魔法なんです。ペルソナとシャドウが操る魔法の属性の一つではあるんですけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「……そうだな。俺たちが知ってるのは火炎、氷結、電撃、疾風、光と闇の六つだ。それがこの認知世界では違うと言う事か?」

 

「こっちだと火炎、氷結、電撃、疾風に加えて念動属性と核熱(かくねつ)属性が増えてるんです。それと光は祝福属性、闇は呪怨属性に名前が変わってたりもします」

 

「……確かに、私たちのペルソナにもその二つの属性相性が増えてるね。それがこの世界(こっち)のルールって事なのかな?」

 

 『ヒミコ』でその辺りを確認したのだろう久慈川さんが、こてんと首を傾げる。

 言ってしまえばP4からP5になった時の仕様変更なのだけど、では何故そんな事が起こったのかと言われるとそこはさっぱりだった。

 

「……どちらが合わせたのかは気になりますが、郷に行っては郷に従えという言葉もあります。ひとまずは手持ちにどんな変化があるかを確認して、使えるものは使っていきましょう」

 

「ああ、俺も確かめておく。……いや、スキル編成が結構変わってるなコレ……」

 

 その辺りの影響を一番受けてそうな鳴上さんが顎に手を当ててブツブツ言い出したのを尻目に、話しかけてきたのは久慈川さんだ。多分特に変化なかったんだろうね。

 

「それじゃあこれでゲートも開いたし、この先行ける所まで行く感じ?」

 

「そんな感じです。このメンバーならサクサク進めそうですし、奥まで行っちゃいましょう!」

 

 鳴上さんと白鐘さんがいるので戦力的には問題ない。そしてナビ役である久慈川さんは表の仕事があって次も来てくれるとは限らないので、あわよくば最深部まで一気に駆け抜けておきたいというのが私の本音だった。

 

「けどここのパレス、そんなスムーズに進めそうか? 前の銀行だって結構大変だったぞ?」

 

「あの時は警戒度がMAXだったからね。けど今は殆ど警戒されてないし、シャドウの強さも大体分かったから大丈夫!」

 

 加えていうと大雑把な構造は記憶持ちの私が覚えているし、細かい謎解きもこの面子ならそんなに苦労しなさそうだなという見通しからだった。今ならRTAだって夢じゃないかもしれない。

 

「じゃあ行こう! 私たちの戦いはこれからだ――!」

 

「いやフラグでしかないだろその台詞は……!」

 

 そうして意気揚々と出発した私たちは宇宙基地のオフィスフロアを駆け抜けていき――

 

 

 ★★☆★★

 

 

「で、ここからどうすんの?」

 

「う、うーーんと……」

 

「見事な断崖絶壁ですね……」

 

 途中で出会った部長を八十稲羽パワーで瞬殺して社員証を奪い、階級認証扉を開けた私たちは、その先にあった一時的な屋外スペースで足を止めていた。

 

「恐らくあの奥に見える扉まで行く必要があると思うんだが、そこまでの道が見当たらないな」

 

「うん、途中からはあの円盤の上を進んでいけるみたいだけど、ここからそこまでを繋ぐリフトが動いてないみたい」

 

「アレか……。でも怪盗団はもうここを突破した後なんだよな? どうやっていったんだ?」

 

 『ヒミコ』で周囲を調べたりせさんによってルートが何となく分かってきたが、鳴上さんと三島くんが額に手を立てて遠くを見る位には距離があった。当然その間には足場なんてなく、落ちればまず上がってこられないだろう高さだ。けど確かここって……。

 

「あ、見つけた! アレだよ、あのちっちゃいUFOを使うんだよ!」

 

「もしかして、あの飛行物体の事ですか? しかし足場に使うには心許ないような……」

 

「はい、なのでこうやって、こう――!」

 

 白鐘さんも見つけたらしい小さなUFOに向かって、回して勢いをつけた鎖鎌を投げつける。

 けれど飛距離が足りなかったらしく、UFOに届く前にふらりと落ちてしまった。なので身をくるくると回して巻き取るようにそれを回収する。

 

「いや待って。今何しようとしてた?」

 

「え。あのUFOに鎖鎌を引っ掛けて、飛ぼうとしただけだよ?」

 

「……飛ぶ? ここをか?」

 

「怪盗団はワイヤーフックを使って飛んだんだと思うんですけど、私は持ってないので代わりにコレで」

 

 鎖鎌を見せながら思い出すのは、ここがロイヤル版になって変わった箇所である事だ。

 円盤リフトから新要素であるワイヤーフックを使った移動に変わった事でスタイリッシュになったと思うのだけど、周囲の反応はやや違った。

 

「流石にそれは危なくないでしょうか? あの飛行物体が寺崎さんの体重に耐えられるかも分かりませんし、そもそも思い通りに動くかも……」

 

「ううん、そこは大丈夫みたい。そうなるようにプログラミングされてて、一度使われた痕跡もあるみたい。けど、本当に飛ぶの? この距離を?」

 

「そもそも届かなかった時点で厳しくないか?」

 

 一斉に上げられる困惑と不安の声にアウェーを感じる。いや鳴上さんだけは「そんな方法が……」と期待する眼差しになってる気もするけれど。

 

 しかし三島くんの指摘も間違いではない。ワイヤーフックと違って鎖鎌は重いし、私の腕力では投擲にも限界がある。

 なので私は秘密兵器を取り出す事にした。

 

「姿が変わった? しかも白い修道服?!」

 

「えーっと、ここをこうして、と」

 

「しかもなんか知らない奴を腕につけてる?!」

 

 黒仮面もとい黒の目隠しをして怪盗服に衣装を改めると、鎖の巻き付いていない方の右腕に桐条グループに改造してもらった装置を取り付ける。

 

 それは私が力に目覚めた時に現れたクロスボウ、それをコンパクトにしてもらったボウガントレットだ。使わない時は折りたためるけど重いので、怪盗服の時以外は外していたのだ。因みに改造代は此方で持つ事にしたので、また暫くはバイトする予定です。

 

 そんなボウガンの矢に鎖鎌の分銅の先を繋げて、片膝を地に下ろした体勢で狙いを定める。飛距離や威力は落ちるけど、狙いに関しては私が投げるよりも正確になる――!

 

「――よし、じゃあちょっと行ってきます!」

 

「いやいや、ちょっと待――」

 

 右腕を下から支えるように置いた左腕、その先に持った鎖鎌が引っ張られる。

 命中して巻きついたUFOが動き出すのに合わせて、私も立ち上がって地を蹴る。そのまま勢いに任せて宙に身を躍らせた。

 

「ひゅあああああああああああああああああっーー!?」

 

 ジョーカーと同じことが出来て楽しかった半分、ちょっと怖かった。

 

 

 

 

『……なんというか、最近の女子高生って凄いんだな』

 

『いやアイツだけですって。あんな事他の奴は出来ないですって』

 

『私たちの時にこんなのがなくてよかったかも……』

 

『それはともかくとして……彼女が戻ってくるまでは少しかかるでしょう。その間に訊かせて欲しい事があるのですが、いいですか三島さん』

 

『え。俺に訊きたい事、ですか?』

 

『はい。たった今飛んで行った彼女、寺崎さんについてなのですが……』

 

 

 

「お待たせ! ……ん。三島くん、何かあった?」

 

「――いや別に? とんでもねぇ寺崎だなと皆で感心してただけだ」

 

「それはそれで何をしてんの?!」

 

 そうして先行した私がリフトを動かして皆の所に戻ってくると、何となく雰囲気が変わっているような気がした。はて、私のいない間に何が……?

 

「とりあえず無事で安心しましたが、次は事前に言ってからにして下さい。やや心臓に悪いので」

 

「あっ、はい」

 

「では道も拓けた事だし、先に進むとしよう」

 

 そんな疑問は白鐘さんのお叱りによって流されつつ、再び番ちょ……鳴上さんの先導を受けて更に奥へと進む私たちなのだった。

 

 

 ★★☆★★

 

 

 その後もシャドウやギミックを力でねじ伏せながら進み、私たちはあっという間にオクムラパレスの最深部へと辿り着いていた。

 

「これが……認知世界の核である『オタカラ』ですか」

 

 ロケットでも作られていそうな広い空間の真ん中で、ぼやぼやと光る半透明な物体を興味深そうに見つめる白鐘さん。

 その横で刀を持ったままの鳴上さんが、警戒するように周囲へと目を光らせる。

 

「ここが終着点のようだが……俺たち以外には誰もいないのか?」

 

「パレスの主が常にここにいるわけじゃないんです。勿論コレに何かしようとすれば飛んでくるとは思うけど、見ているだけなら心配いらないかなと」

 

「……なるほどな。りせ、近くに怪しい気配はないんだな?」

 

「うん、大丈夫だよ先輩。普通のシャドウもこの辺りにはいないみたいだし、最悪あそこのセーフルームに逃げ込めばいいと思うから」

 

「なら、これで一段落だな」

 

 久慈川さんの言葉を受けて、漸く刀を鞘に納める鳴上さん。疲労の溜まってきた私たちの事を守る為に最後まで気を張ってくれていたのなら、ありがたいと言う他ない。というかホントにこの人強すぎる……。

 

「や、やっとか……。まさか宇宙遊泳までする事になるなんて……」

 

「えー、三島くん的には不満だった? 私は結構楽しかったけど」

 

「寺崎に怖いものとかないの?」

 

「途中のワイヤーフック擬きに比べたら全然だったよ?」

 

 この場で一番色濃く疲労感を醸し出している三島くんが言っているのは、後半に通った宇宙遊泳エリアの事だ。

 本当の真空空間ではないけれど、それなりに自由の利かなくなる状態で何度も飛ばなければならないギミックは、彼的に割とこたえたらしい。

 

「直斗くんと悠先輩が凄いスピードでルートを割り出してくれなかったら、私もちょっとキツかったかも……」

 

「つくづく俺たちの時とは違う事を思い知らされた。心の怪盗団も活躍の裏でこんな風に戦っていたんだな……」

 

「けど、僕はちょっとだけ楽しかったですよ。この場のシチュエーションもそうですし、また先輩たちとこんな風に戦いながら探索する日が来るだなんて、思ってもいませんでしたから」

 

「直斗くん……。うん、私も同じ気持ちかな!」

 

 楽ではないと感じていたのは八十稲羽組の三人も同じだけど、それだけじゃなかったと軽く笑いあう。

 そんな様子に彼らの強さと絆を感じていると、笑顔をしまって此方を見た彼らと目が合った。

 

「さて、こうしてこのパレスの最深部までのルートは確保できたわけですが……。これからあなた達はどうするつもりですか?」

 

「ええと、ひとまずは怪盗団が動くのを待ちます。彼らも最後の準備を終えてから予告状を出して、再びこの最深部に戻ってくる筈なので」

 

「現実世界で予告状をパレスの主本人に出す事で認知が変わり、このオタカラが実体化して盗めるようになる。そんな仕組みだったな」

 

「じゃあその日にまたここに来ないといけないんだね……。でもそれがいつになるのかは、怪盗団次第って事?」

 

「そうなります。……あ。久慈川さんって、もしかして……?」

 

 既にその辺りの仕組みは説明してあるのだけど、それでも言い淀んだ事で久慈川さんが何に思い当たったのかを私も察した。

 

「ゴメンね、流石にその日のスケジュールをピンポイントで空けるのはちょっと難しいかも」

 

「あー……そりゃそうですよね……。え、じゃあ次は久慈川さん不在なんですか?」

 

「それは寂しくなるな……。いや待て、それだとあの生体認証ゲートを突破出来なくならないか?」

 

「いえ、本人の認知を変えればいいのでしたら僕に考えがあります。もしスケジュール的に久慈川さんが来れなかったとしても、ここまで辿り着く方法は確保しておきましょう」

 

「なら宜しくね、直斗くん」

 

 あわや頓挫してしまうのかと思ったが、既に対策はあるらしい。情報支援や探知に秀でたナビ役である久慈川さんがいないのは前の校長の時を思い出すが、そこで無理を通すわけにもいかないだろう。

 

「そうして怪盗団が予告状を出した日に私たちも潜入して、彼らに気付かないようにしながら備えるつもりです。怪盗団がオタカラを盗んだ後に来るだろう、精神暴走事件の実行犯に」

 

「……怪盗団が立ち去った後にパレスの主を殺す為、だったよな?」

 

 そう尋ねてくる三島くんの声には緊張が混じっている。数日後のここに本物の凶悪犯が来るとなればそうなるのも無理はないだろう。私は既に何度も会ってるからそういうのはないけれど。

 

「それをさせない為に桐条さん達シャドウワーカーを、そして俺たちを呼んだんだろう? 具体的にはどうするつもりなんだ?」

 

「奴が撃つ前に殴りかかって止めます。もうお互いに来る事は分かってるので、どちらが先手を取れるかで全てが決まるかなーと」

 

「思ったより力技なんだね……。そんなに意外じゃないけど、うん」

 

 ちょっと久慈川さんに呆れられた気もするが、校長の時も割とこんなノリではあったので勘弁していただきたい。

 というか基本的にやる事はその校長の時と変わらないのだ。大筋を変えないという前提が変わっていない以上は大胆な作戦を立てるわけにもいかないんだよね。例えそれで後手に回る可能性が高いと分かっていてもだ。

 

「……お互いに来る事が分かっているという事は、敵も僕たちがどう動くかを予想してくると? その辺りの対策は何かあるのですか?」

 

「対策って程じゃないですけど、そもそも皆さんがいる事自体が作戦にはなると思います。まさかあっちもシャドウワーカー以外のペルソナ使いが来ているとは思わないと思うんで」

 

「むしろそれを予想してたら怖すぎるだろ……」

 

 あけ……実行犯が何を考えているのか、完全に予測する事は不可能だ。というかつい最近も意表を突かれたばかりなので、その辺りで勝てる気はあんまりしない。

 

 けれど奥村社長のシャドウを始末する為にこのパレスに来る事は確実なので、そこを叩く。

 今回も拘束ではなく撃退を目標として、前回のような一方的な展開にはさせずに守り切る。その上で大筋を変えない為の小細工をする。

 そう伝えると、八十稲羽組は見合った後に頷いた。

 

「なら次も俺たちが力を貸そう。君たちのそれが誰かを助ける行いである事を、俺たちも信じる為にな」

 

「――はい、お願いします!」

 

 シャドウワーカーの人たちと同様に、彼らにも彼らの目的がある。それを踏まえた上で協力関係を承諾してくれた鳴上さん達に、私はバッと頭を下げた。

 

 まさかシャドウワーカーの皆さんだけじゃなく八十稲羽の皆さんともこうなるとは思わなかったけど、これなら多分勝てると、その時はそんな予感がしていた。

 

 

 

 

 

 だからそれが裏切られる事になるなんて、その時の私には当然知る由もないのだった。

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

「――うし、これでルート確保だな!」

 

「……ああ、そうだな」

 

「どうしたジョーカー。何か気になる事でもあったのか?」

 

「……確信があるわけじゃない。だが、途中で何度か違和感があったんだ」

 

「違和感? 何か見つけたの?」

 

「もしかすると――俺たちより先に侵入した奴がいるかもしれない」

 




☆オマケ

「――ところで、鳴上さん達が使ってる武器もまるで本物みたいな完成度ですよね。どこで手に入れたんですか?」
「地元の鍛冶屋に作ってもらったモノを愛用してるんだ。というか、そちらは本物じゃないみたいな物言いだな」
「そりゃここならホンモノと認知されればいいそうなんで、それくらい精巧に見えるレプリカを桐条グループに……え、その真剣ってホンモノなんですか?」
「勿論。だから電車に乗るのも控えて走ってきたんだ。背中に隠してくるのも高校以来だったな、そういえば」
「ええ……。じゃ、じゃあもしかして白鐘さんが持ってる銃も……?」
「(護身用として常に携帯しているものですけど)ノーコメントでお願いします」
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