私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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#31 みな暴かずにはいられない


 

「――まず初めに言っておくと、僕たちが来たのは心の怪盗団の事件と、その渦中にいる寺崎さんを見極める為です」

 

「見極める……? 怪盗団はともかく、アイツも事件の中心にいるんですか?」

 

「俺たちからすればそうだ。彼女の言う本来の流れでは、心の怪盗団の事件に桐条さん達や俺たちが関わる事はなかった。それが変わったきっかけはあの子みたいだからな」

 

「前世の記憶があるって言ってたけど、あの子は多分それだけじゃない。私たちの地元の異世界にも()()()()()()()()だし、それが私たちの考えなの」

 

「確かにアイツは色々とおかしいですけど……いや待ってください。寺崎って皆さんの地元でもなんかしてるんですか?」

 

「まぁそっちはただ残っているだけだから、そこまで緊急性があるわけじゃない。でも放置も出来ないから、手助けをするついでに彼女を探りに来たというわけだ」

 

「最初に寺崎と話してたのはそういう話だったんですね……。え、それじゃあ俺に訊きたい事っていうのは?」

 

「詳しい事はまた彼女から聞くつもりですが、これは今の寺崎さんからは聞けない話です。――四月に前世の記憶を思い出す前の彼女について、何か知っている事はありますか?」

 

 

 ★★☆★★

 

 

 『暴利を貪る大罪人 奥村(おくむら)邦和(くにかず)殿。

 お前の利益と世界的な名声は、従業員への非道で成り立っている。

 ゆえに我々は全ての罪を、お前の口から告白させる事にした。

 心の怪盗団『ザ·ファントム』より』

 

 本社ビルから程近い邸宅に住む奥村社長の下に届けられた、一通の予告状。

 赤と黒の台紙に新聞記事の切り抜き文字で彩られたそのカードを机に置きながら、当人である奥村社長は忌々しそうに吐き捨てる。

 

「全く、面倒なイタズラだ。こんなモノに付き合わされる暇などないというのに……」

 

「――ですがこれまでの事例を見るに、冗談で済まされない場合もあります。警戒するに越したことはないと思いますが」

 

「……私からすれば、君のような人間がこの一件に関わっている事自体が冗談としか思えないがね」

 

 戒めの言葉にうんざりした顔で彼が向き合うのは、黒のスーツに袖を通した朱色の髪の女性だ。

 今や政界進出を現実のものにしつつある大物の彼に対しても落ち着いた様子なのは、彼女もまたそれに並ぶレベルの傑物だからだろう。

 

 桐条グループの若き総帥、桐条美鶴。しかしこの場で名乗った別の肩書は奥村社長も初めて聞くモノであり、こちらもまた冗談としか思えないものだった。

 

「私にとってはグループの経営と同じくらい、このシャドウワーカーの隊長職も大事な務めなのですよ。もっとも、正式にそうなるかどうかはまだ分かりませんが」

 

「その結果として私が改心されるなどという、下らん結末にならない事を願っているよ」

 

 そんな事はあり得ないと言外に告げながらも、あくまで事情聴取として来た美鶴に対して奥村社長は粗雑な態度を変えようとはしなかった。

 

 なにせ予告状が届いた事を警察組織に通報した結果として、やって来たのが彼女たちなのだ。

 聞けば今回の怪盗団事件の捜査に協力している特殊部隊らしいが、心の怪盗団をイタズラだと決めつけている彼からすれば、シャドウワーカーも同程度の胡散臭さしかなかった。

 

「それで、君たちはどうするつもりだ? 私のボディーガードでも務めてくれるのか?」

 

 そんな疑いきっている奥村社長が目を向けるのは美鶴に並んだもう一人。美鶴と似た黒服に赤いヘッドホンのようなものを付けた金髪の女性がすっと一歩前に出てその提案を口にする。

 

「彼らが動くのは予告状が出た日から翌日の内だと言われています。なのでその間だけ、この邸宅の一室で待機させていただきたいであります。怪盗団の活動が『シャドウ事案』に該当するかを観測しつつ、もしもの時は奥村氏の盾になるべく動けるように。いかがでしょうか?」

 

「ふん……もちろん制限はかけさせてもらうが、その程度なら許可しよう。ただし許した以上は相応の成果を期待するが、構わないかね?」

 

「勿論です。こちらの急な来訪に対応していただいた事への報いは果たしましょう」

 

「なら結構。この私が囮になるんだ、無駄にはしてくれないでもらおうか」

 

 その返事を受けて話はまとまったと見た奥村社長は、取り出した携帯でどこかに電話をかけながら応接間を出ていった。恐らくこの件の対応の為に都合を調整しているのだろうと、近い立場の美鶴はそんな予想を立てる。

 

「さて、どちらがどこまで先を見ているのか……勝負と行こうじゃないか」

 

 こうしてアイギスと美鶴だけになった応接間で、彼女はそう呟いた。

 

 ★★☆★★

 

『――ニンショウ セイコウ』

 

「――ありがとうございます、久慈川さん!」

 

 バシュッと鉄の扉がスライドし、奥へと進むための道が拓ける。それを為してくれた功労者である久慈川さんへとお礼を言うと、彼女もこくりと小さく頷いた。

 

「私はここまでしか付き合えないけど、ちゃんと応援してるから! じゃあ頑張ってね、みんな!」

 

「僕も久慈川さんを送り届けた後は現実世界で離脱の準備をしておきます。だからどうか、お気をつけて」

 

「ああ、任せろ!」

 

 鳴上さんが安心感のある返事をしながら、私たちは奥へと駆け出す。一度通った道なので迷いはないが、その時と違うのはメンバーが減っている事だった。

 

「りせと直斗がいない以上、シャドウとの戦闘は前回以上に避けなければならない。避けられないとしても一撃離脱を心掛けて一気に走り抜けるぞ!」

 

「了解です!」

 

「ああもう、何か異世界で走ってばっかりな気がする!」

 

 刀を抜いて先頭をいく鳴上さん、その後を追う私と三島くんの三人パーティで、警戒度の上がった宇宙基地の中を突き進む。

 時折遭遇するシャドウは鳴上さんの火力でゴリ押しして、とにかく立ち止まらないようにしながら目指すは最深部。

 

 既に怪盗団とパレスの主が対峙しているだろうそのフィールドに辿り着く事が、私たちの作戦の次なる段階だった。

 

 

 

 

 校長の事件から一カ月が経とうとしていた十月の始めに、いよいよ事態は動いた。奥村社長に怪盗団の出した予告状が届いたのだ。

 

 実行犯もとい明智くんの策略によって捜査班に組み込まれつつあるシャドウワーカーからもその一報を受けた私たちは、その翌日に怪盗団の後を追うような形でオクムラパレスへと再侵入した。

 

 幸運だったのは決行日前日の深夜に知れた事で多忙な久慈川さんもどうにか来てくれた事だ。まぁ生憎と、捻出出来たのは例のゲートを突破するまでの僅かな時間だけだったけど。

 

『ごめんね、最後まで付いて行ってあげられなくて……』

 

『いやいや、また来てくれただけでも嬉しいです! 絶対作戦を成功させてみせますから、大船に乗った気で待っててください!』

 

『ではゲートを開けた後は僕が久慈川さんを現実世界まで送り届けます。そこからは鳴上先輩にお願いしてもいいですか?』

 

『先日の潜入でシャドウの強さは把握したし、戦闘の感覚も思い出せた。完璧なエスコートを約束しよう』

 

『きょ、強キャラ感が凄い……!』

 

 万が一久慈川さんが来られなかった時に備えてアポを取っていた白鐘さんは別に動く事に決まり、今回のパレスで実行犯(明智くん)を抑える役は私と鳴上さん、そして支援の三島くんという形に収まった。

 

 校長の時は一方的にやられてしまったけど、それを踏まえて今日まで戦闘訓練という名の模擬戦をシャドウワーカーの皆さんや鳴上さん相手にしてきたのだ。シャドウを倒してた訳じゃないからレベル的なのは上がってないかもだけど、少なくともあの時の焼き増しにはならないという自負はあった。

 

『俺はまだその実行犯が誰かは知らないけど……でも、俺たちで止めなきゃいけないんだよな?』

 

『うん、今度も絶対にね。だから三島くんもやれそうだと思ったら遠慮なく撃っちゃってね。大丈夫、ペルソナ使いは多少の銃弾を食らっても死にはしないから!』

 

『そんなわけないとは思うけど、牽制出来そうな時は迷わず引き金を引くよ。だから寺崎も無理はしすぎるなよ? 今回だって、滅茶苦茶強い鳴上さんがいるんだし』

 

『そりゃもちろん! まぁ、頼りすぎるのもアレだとは思うけどね』

 

 そんなやり取りを交わしながら基地を駆け、宙を飛び、ついでに宇宙空間も飛んで奥へと進む。既に核熱属性も念動属性も使いこなせるようになった鳴上さんと共に最短ルートを突っ走っていると、その終わりと共に聞こえてくる音があった。そこに混じった複数の声もだ。

 

 

『――行きます、お父様。貴方の目を覚させる為にも!』

 

『『ペルソナァ!』』

 

 

「……どうやら、始まったみたいだな」

 

 その光景が捕捉出来るギリギリの物陰で鳴上さんが立ち止まり、私たちにも隠れるように手で合図をする。

 それにならってからこっそり頭を出すと、怪盗団とパレスの主である奥村社長のシャドウが戦っている姿が見えた。

 

「アレが心の怪盗団……。何というか、ハイカラな格好の集団だな……」

 

「一番奥にいるのがここのパレスの主? 今までと違ってアイツ自身が戦うわけじゃないんだな」

 

「やっぱり大企業の社長だから、人を使う戦い方のが合ってるんじゃないかな。それにあの軍勢をどうにかするのって凄い大変だろうし」

 

「少し倒しても次から次へと補充されていくのか。更にその中にも強力な個体が幾つも混ざっているのなら、ああして苦戦は免れないだろうな」

 

 何処からともなく現れるエレベーターから社員であろうロボットが追加されては、怪盗団との戦いに投入されていく。使う技も耐性もそれぞれ違うロボット軍団に、ワイルドを持つジョーカーからも余裕の笑みは消えていた。

 

 

『――レッドライダー! マハサイオ!!』

 

『弱点命中、ナイスジョーカー! でも時間ない、もっともっとだ!』

 

『チェンジ、サンダーバード! マハジオンガ――!』

 

 

 そんな敵の多さと厄介さに加えて、時間制限まであるのが今回の決戦の面倒な所だ。私含めてここで苦戦させられた人は多いんじゃなかろうか。

 それを感じ取ったのかもしれない鳴上さんが、僅かに悔しさを滲ませながらに確認してくる。

 

「……だが、俺たちは怪盗団に助太刀は出来ない。あくまで備えるのはこの後の出来事なんだな?」

 

「苦しい戦いだけど、怪盗団の皆ならきっと乗り越えられる筈です。だからこそ私たちが、この後の結末を変えなきゃいけないんです」

 

「ここは信じるしかないって事か……」

 

 そうして怪盗団が苦労してオタカラを奪った後、一人残される奥村社長のシャドウを実行犯が討ち取る事で原作ではあの結果になったのだ。

 そんな『怪盗団が奥村社長を殺した』という事件から、彼の命だけは損なわせないようにする。それこそが私たちの今回の作戦だ。だから今は周囲を警戒しながら、彼らの戦いを見守る他にない。

 

「俺たちが来た時はまだ、怪盗団以外に異世界の侵入者はいないとりせは言っていた。実行犯が俺たちみたいに潜伏していない限り、これからこの場に来る筈だ」

 

「実行犯もこの戦いが終わってから事を為すつもりだと思うから、今のうちに潜めそうな所を改めておきましょう。三島くんはここでエリアの入り口を見張っててね、お願い」

 

「分かった。心配いらないかもしれないけど、二人とも気をつけてな」

 

 現状一番長い射程の武器を持つ三島くんを残して、私と鳴上さんが行動を開始する。

 因みに正体を知られるわけにはいかないという事で、鳴上さんにも私たちと同じコートと帽子の変装セットに着替えて貰っている。加えて私のかけた『潜伏』とこの短期間でマスターしたらしい隠密技術によって、どこに出しても恥ずかしくない潜入工作員が爆誕していた。万能すぎないか、この人。

 

「何かあれば無線で連絡する。……りせがいれば、コレを使う事もなかったんだがな」

 

「いやでも、ちょっとこういうのを使うのって楽しくないですか?」

 

「分かる。ホントにスパイとかになったみたいだよな」

 

「まぁ……否定はしないでおこう」

 

 シャドウワーカーから貸してもらった小型無線機のロマンを共感しながらこっそりと、それでいて大胆に陰から陰へと移動していく。そろそろサードアイがなくてもカバーポイントが分かってきたのかもしれないと錯覚する位のスムーズさだった。

 

 奥村社長のシャドウが乗り込もうとしている巨大UFO、その周囲をバレないように動いていく。そのUFOを建築していたという設定でもあるのか物が多く、人が隠れるスペースには困らなさそうだった。現に私たちもそうやって使ってるし!

 

「……実行犯(明智くん)は必ずここに来る。でも私たちが来る事も彼は知ってる筈。なら、どんな手を使ってくるんだろう……?」

 

 それは協力してくれる人達と散々考え、それでいて最後まで結論が出なかった問いかけ。今もこうして想像しているけれど、その答えを持っているのは本人だけだ。

 

 その上で先を見通しているのは果たしてどちらなのか。その答え合わせの瞬間まで、あと少しである事だけは間違いなかった。

 

 

 ★★☆★★

 

 

「――これで終わりです、お父様」

 

「なんという、事だ……」

 

 玉座から崩れ落ち、項垂れる奥村社長のシャドウに、娘である春さんが決着の言葉を突きつける。苦しい戦いの末に、怪盗団が勝利したのだ。

 

「私はただ、あの頃のような敗者になりたくなかっただけなんだ。なのに、どうしてこんな事に……」

 

「お父様…………」

 

 敗北を悟り、放心する奥村社長のシャドウ。肉親のそんな姿に、ノワールは複雑な胸中を言葉にしかけて失敗する。

 けれどそれだけでは終われないと、一歩踏み出したスカルがその疑いについて問いかけた。

 

「一つ聞かせろよ。これまでの精神暴走事件と廃人化は、お前がやったのか?」

 

「……私では、ない。契約があって、排除を依頼しただけだ……」

 

「やっぱり、他に実行犯がいるのね」

 

「ねぇ、ソイツって黒い仮面の奴じゃなかった? 社長さんってば!」

 

 パンサーが尋ねるが、それ以上は泣いてばかりで彼から明確な言葉が出てくる気配はない。

 それを察したモナが、降りてきたオタカラをキャッチして言う。

 

「これ以上痛めつけても仕方ない。詳しい事は現実世界で訊くとしようぜ」

 

「それもそうだな。いつまでもここにいてパレスの崩壊に巻き込まれるわけにもいかないか」

 

 周囲を見渡すフォックスの言う通り、パレス全体が騒がしくなってきている。あと少しすれば崩壊が本格化し、この宇宙基地全体が崩れ落ちる事だろう。

 

「『自分の責任は、自分でしか果たせない』。お父様が教えてくれた言葉です。だから、どうか――」

 

「春……」

 

 そうして脱出の為に動き始めた怪盗団。その最後にノワールが父にそう言い残して、彼らはUFO発射場を後にした。

 

 

 

「……………………さて、と」

 

 そんな親子の一部始終を見届けながら、隠れていた私は周囲を見渡しながら立ち上がる。

 春さんが去った事で、この場にいるのは奥村社長のシャドウと私たちだけになった。それはおかしくないけどおかしい事だった。

 

「……実行犯(明智くん)が、来ない……?」

 

「こちらも今のところ、怪しい人影は来てないな」

 

 本来ならこのタイミングで正体不明の彼が来て、奥村社長のシャドウを撃ち殺すというショッキングな出来事が起こる筈だ。

 しかし現実はパレスの崩壊が次第に本格化していく事以外に変化がない。戸惑う私だけど、残り時間が少なくなっていく事もまた現実だった。

 

「ど、どうするんだ寺崎(カトル)? 俺らもこのまま帰還していいのか?」

 

「それは駄目。あの人のシャドウが襲われないのは良いことだけど、ここで事が起こらないと別の方法で始末されちゃうような気もするし」

 

「敵はそこまでするのか……。いや、それなら例の方法をもう実行するのか?」

 

「それしかないかもです。この展開はあまり予想してなかったんだけど……」

 

 鳴上さんに言われて私が取り出すのは、勿論メメントスで入手した『忘却の小ビン』だ。

 

 前回はギリギリまで実行犯を捕まえようとしていたので使う機会も最後までなかったけど、今回は最初から使う事に承認を得ている。なので実行犯に襲われる前にコレを使い、奥村社長の被害を記憶喪失だけに済ませる作戦だ。

 

 命が助かるから善行だなんて戯言は言わない。私が私の意思で彼を貶めるのだから、怪盗団から悪く思われても仕方ない事だろうと覚悟を決めながら、物陰から姿を現し近付いていく。

 

 それが、事態の動き出す合図だった。

 

「――待って寺崎(カトル)! 来た!」

 

「っ――?!」

 

 三島くんの驚き混じりの通信音声に釣られて入り口の方を見やると、一つの人影が此方へ走り寄ってくるのが分かった。

 そのタイミングにも驚いたけど、それよりも目を引くのがその格好だった。

 

「え、私たちと同じ格好?!」

 

 私たちが変装に使っているコートに帽子という、その意図を隠そうともしない姿。まさかと息を呑んだ私だけど、その次の行動もまた彼によって誘導されてしまう。

 

 だって響いたのは発砲音。推定実行犯(明智くん)によるランニングスナイプショットを、私は鎖鎌で弾かなければならなかった。狙いは分かりきっていたのでそれ自体は成功したが、だからこそ変化した状況による焦りが生まれてしまった。

 

「っ! ごめん、ここは私が()()()()! 三島くん(レイ)鳴上さん(デルタ)はあの実行犯を何とかしてください!」

 

「ちょ、おい寺崎(カトル)?!」

 

「……ああ、無理はするなよ!」

 

 瞬時に理解したのだろう鳴上さんが動き出したのを察知しながら、私は取り出した小ビンを即座に奥村社長のシャドウへと叩きつける。ホントは中身を飲ませるとかしたかったけど、混戦になって討たれるリスクを考えると一刻の猶予もない――!

 

「――やっぱりそう動くしかないよね、キミは」

 

「やってくれたねコンチクショウ……!」

 

 ビンを手放してすぐに受け止めたのは、私目掛けて振り下ろされたビームサーベルだ。火花を散らしながらそう言葉を交わしつつ、私は彼を抑えようと鎖を振るう。

 

 だが元よりヒットアンドアウェイの形で攻撃してきた実行犯(明智くん)には届かない。そのままの勢いで私から距離を取ろうとする彼を追いかけようとするけれど、残念ながらそれには間に合わない。

 

「があ……あぁ……」

 

「お父様っ?!」

 

「やっぱり来てたんだ――!」

 

 消え去る奥村社長のシャドウに、悲痛な叫びが上がる。肉親が故の動揺を見せる仲間を伴いながら現れたのは、このパレスから脱出するべく去った筈の集団。

 

「お前にまた会えるのを楽しみにしてたぜ、黒仮面――!」

 

 私が敬愛してやまない怪盗団が、私の退路を断つような形でそこに立っていた。

 

 

 

 

 

(……後手に回る覚悟はしてたけど、その中でも特に良くない展開かなコレは……!)

 

 異世界で彼らと顔を合わせるのはこれで三回目だけど、今感じる緊迫はその中で最も大きいものだった。

 

「あなた、私のお父様に何をしたの?!」

 

「…………」

 

 春さんの問いかけが迫真なモノなのは当然だ。

 彼らからすれば仲間の父のシャドウを害した存在が私であり、事実その通りなのだから。

 

「奥村氏から契約の事をバラされたくなかったが為に口封じか? 随分と手荒い事だな、『黒仮面』」

 

「でも今度という今度は逃がさねぇぜ? 捕まえて全部明らかにしてやるよ!」

 

「…………」

 

 フォックスの非難とスカルの戦意に満ちた言葉から、怪盗団の認識は理解出来た。そしてどうしてこの場に戻って来たのかもだ。

 

(同じ格好をした実行犯(明智くん)が誘導したんだ。この場面で明確に、『黒仮面』を私に被せる為に……!)

 

 このUFO発射場に舞い戻るように現れた実行犯(明智くん)。彼がわざと姿を見せるなりして自身を追わせ、そしてこの場で入れ替わる事で奥村社長のシャドウの前に立っていた私へとヘイトを擦り付けたのだ。

 私が出てきたタイミングを狙ったのかどうかは知らないけども、私にとって最悪な結果になっている事だけは間違いなかった。

 

「このパレスに私たち以外の侵入者がいる事には気付いてたわ。だから何があってもいいようにしていたし、オタカラを奪ってからも警戒はしていたの。その凶行を止められなかった事だけは悔やまれるけどね……!」

 

「…………!」

 

 そしてちょっと驚きだけど、私たちが侵入していた事も怪盗団にはバレていたらしい。

 確かにスピード優先しすぎて怪盗団追い越してないかなとかちょっと思ったけども、なるべく痕跡は消していった筈なのに。これが本職との差という事だろうか。

 

「何か言ったらどうだ、黒仮面?」

 

「――生憎と、ここで言える事は何もない」

 

 殆ど反応を示さなかった私を挑発するように言うジョーカーだけど、私の思考は如何にこの状況を脱するかにその大部分を使っていた。

 故に低い声で答えた私に対して、怪盗団の意思も決定した。

 

「ならオタカラついでにオマエの身柄もいただいていくまでだ! やるぞ、オマエら!」

 

 元より対話で済むとは互いに思ってなかったのだろう。モナの号令によって各々が取った戦闘態勢に淀みはなく、パレス崩壊までの残り時間で私をとっ捕まえるという決意をありありと感じた。

 

 けれどこの場で私がやる事はもう終わっている。実行犯(明智くん)にハメられこそすれ、奥村社長を記憶喪失にしてダウンさせられた筈。なので後はこのパレスから逃げ出せれば任務達成なのだ。

 

 そして私には『トラフーリ』がある。発動までに五秒くらいの間は要るけれど、それさえ使えればこの場から逃げ出す事は出来るだろう。

 

 そのたった五秒を、怪盗団八人(正確には七人と一匹)相手に稼げばいいだけ――いやキツくない!?

 

「いくぞ――黒仮面!」

 

「っ!」

 

 そんな私の動揺なんて置き去りにする速度で迫るはジョーカー。

 突進の勢いを全て載せたナイフの突きを、右手の鎌で反射的に受け止めてしまった。

 僅かに身体が後ろに流れるのを感じながら、彼が付けるドミノマスクの奥の瞳を間近に見る。

 

「その武器……鎖鎌か」

 

「鎌はともかく、鎖は珍しいものでもあるまい?」

 

 私の手元に下がった視線の裏で彼の背後、いや上方に私の目が動く。

 そこにあったのは宇宙基地の照明で逆光となった黒い影。そのオンリーワンなサイズ感に、左で握った分銅の使い道が決まった。

 

「うらぁっ……って弾かれただと!?」

 

「鎌と分銅の両方を使うらしい! 気を付けろモナ!」

 

 ジョーカーの上から強襲を仕掛けてきたモナのカトラスの振り下ろしを狙って、一瞬で回した分銅を投げつけ相殺する。モナが軽いからこそ出来る芸当だ。

 

 その左腕の動きに合わせて身を捩って回転し、ジョーカーをナイフごと吹き飛ばす。

 一歩下がって帽子を押さえながら首を上げると、次なる刺客がすぐそこまで迫って来ていた。

 

「これは効くんでしょう? 『カルメン』!」

 

 青い炎と共に現れていたのは、赤いフラメンコ風ドレスの妖艶なペルソナだ。色んな意味で見覚えしかないその攻撃に、左腕に残った火傷跡が僅かにうずいた気がする。

 

 けれどあの時とは違う要素が今の私にはある。それを示すように再度、左腕を横に薙いだ。

 

「――ペルソナ!」

 

「やはり、ペルソナ使いだったか」

 

「召喚方法もワガハイ達と違うみたいだな……!」

 

「いやアイツ今どうやってパンサーの炎避けた!? 不自然にぶっ飛んだぞ?!」

 

 青いカードを瞬時に砕き、出現させた白い人影に突風を起こさせる。ただしそれを自分にぶち当てる事で無理やり回避したんだけど、パンサーのアギ系は私が最も警戒している攻撃だったので止む無しだ。怪盗団の驚きとか衣服含めた自身のダメージとか気にしてる暇はない。

 

「――ふっ!」

 

「そして俺の狙撃まで防ぐか。あの鎖鎌をそこまで上手く扱うとはな……!」

 

 その直後に飛来したライフル弾を、回した鎖によって弾き落とす。これも以前の死神シャドウの弾丸よりは軽かったので出来た事だ。パンサーのマシンガンなら弾数的にちょっと厳しかったかもだけど。

 

「ナビ、アイツのアナライズ(分析)は!?」

 

「してるけど、火炎属性が苦手っぽい事くらいしかまだ分かんない! っていうかアイツの気配が全然感知できないんだ! 多分なんかやってる!」

 

 一番後ろでふわふわ浮かぶ小型UFOから、悔しそうなナビの声が聞こえた。

 

 ここでずっと隠れる事が出来た点からも分かる様に、私のシャルロットの『潜伏』は探知系ペルソナすら欺ける。正確には『他者から認知されづらくなる』効果を与えるモノであり、山岸さんや久慈川さんからも『いるのにいないみたい』『なんか見えなくてヤダ』と太鼓判を貰えるほどだ。

 

 こうして目視されている今は姿こそ隠せないが、細かいステータスは殆ど隠せている筈だ。代わりに何度も重ね掛けしないといけない為にその分のSPを攻撃に回せなくなるけど、シャルロットは元々魔法が強いペルソナじゃないので許容範囲かなと。

 

「行くわよ、『ヨハンナ』!」

 

「くっ、絶え間ないな……!」

 

 そうして開けたはずの間をエンジン音と共に詰めてきたのは世紀末覇者先輩……もといクイーンだ。バイク型のペルソナであるヨハンナに跨り、最初のジョーカー以上の速度で突っ込んできた。

 

 轢かれるスレスレで横に躱した所を、車体を斜め横にした急ブレーキで切り返してきたクイーンが更なる追撃を繰り出してくる。某有名なアニメ映画のブレーキのアレから、ヨハンナを足場にして飛びかかってきた形だ。武闘派にも程がないかな?!

 

「はあああっ!」

 

「鉄拳が……重い……!」

 

 そこから怒涛の勢いで放たれるラッシュを、鎖鎌と左手首に巻いてある鎖でどうにか凌ぐ。

 ギリギリ対処が出来る範囲だけど、さっきからトラフーリを使う間が全然ない! 数の暴力ってやっぱエグい!

 

「――ココだ!」

 

「っ、読まれた?!」

 

 ラッシュの途中で一瞬腕を引き、そこからフィニッシュブローへと繋げると見た私が受け身の体勢を整える。

 かつて彼女の通常攻撃として見てきた動きに合わせてその拳を受け止め、自らを大きく後方へと飛ばした。

 

「ペルソ……ナっ!」

 

「マジか、今のも当たらないのかよ!?」

 

「ていうかさっきから魔法の使い方がおかしくない?」

 

 その勢いで床を滑りながらトラフーリを使おうとした所を咄嗟にブフーラに変更し、頭上へと展開する。

 瞬時に作られた氷塊が、降ってきた雷撃によって砕け散っていた。

 

 真田さんに言われてから回避主体のスタイルにしてはいるけれど、やっぱりこの数じゃたったの五秒ですら稼ぐのが容易じゃない……!

 

「何故、攻撃をしない? まだ怪盗団のファンだからか?」

 

「その必要が、ないからだ――!」

 

 ジョーカーの持つハンドガンからの銃弾を避けながら、どうにか隙を探す。けど出入口の付近は固められていて突破は出来ず、トラフーリが使えそうなタイミングも見つからない。

 けど焦りを見せているのは私だけではないようだった。

 

「まずいみんな、このパレスが崩れるまで五分切った!」

 

「もう、あとちょっとなのに……!」

 

 段々とパレス全体の震えが大きくなってきており、その猶予が残りわずかである事はナビじゃなくても分かるようになってきていた。

 けれどこの数を相手にする為に動き続けている所為で、私のスタミナもかなり削られている。どうにか、この状況を変える方法を考えないと……!

 

「――いい加減に、してよっ!」

 

「ぐっ!?」

 

 そんな折、痺れを切らしたようにノワールがぶっ放したランチャーからのグレネードが、私のすぐ近くに着弾する。質量的に鎖で弾く事も出来なかったが故に、その爆風に身を叩かれ歯嚙みする。

 

 漸く生まれたその隙に、彼ら全員が目を光らせた。

 

「ココだな! 威を示せ『ゾロ』!」

 

「おいで、『ヨハンナ』!」

 

「なん、の……!」

 

 僅かに姿勢がよれた所に、黒騎士の突風とバイクの核熱が立て続けに弾けて爆ぜる。直撃こそ避けたものの、退路と余裕が奪われつつある事に意識が逸れる。

 せめてもの壁として、両手で鎖を回して移動する。今更彼らがその攻撃に当たるとは思ってないけど、苦し紛れの策である事には変わりない。

 

「ならこれで、どうよ?!」

 

「っ!? バットで、鎖を……!」

 

 そんな甘い手だったからこそ、接近してきていたスカルに近接武器で巻き取られてしまった。

 私ではスカルとの腕力勝負に勝てないと踏み、鎌でピンと張った鎖を途中で断ち切る事を選択する。分銅側は使えなくなるけど、この状況では仕方なかった。

 

「自ら手札を減らしたな。俺たちの手が届くのも、時間の問題か?」

 

「くっ!」

 

 続けて抜刀したフォックスの刀を受け止めるけど、弾けなかった時点で失態だ。最早時間がない中で、鍔迫り合いであっても足を止めてはならないというのに。

 

「薪割りの、要領でっ!」

 

「なんのっ……!」

 

 そんな私を狙ったノワールの、遠心力を乗せて振り回された斧の一撃をすんでの所で躱す。

 けれど刀を弾いたわけでもないのにフォックスが距離を取っていた事で、次の一手も察するべきだったのだろう。でもそれを思い出させてくれたのは、突然身体に走った熱だった。

 

「踊れ、『アギダイン』!」

 

「ぐうぅっ……!」

 

 恐れていたはずの火炎属性攻撃に、たまらず漏れる苦悶の声。またあの時と同じように身体の自由が奪われ、一手どころじゃない遅れが生まれた事を認識する。

 

「今だ、ジョーカー!」

 

「正体を見せろ、黒仮面――!」

 

「この、程度で――!」

 

 そうして膝をつきかけた私に近づいたジョーカーが、アギダインの火が燻ったままのコートに手をかける。シャドウの仮面を剥ぐように力を籠められるのと同時に、もはや根性だけで復帰した私が距離を取ろうと地を蹴りだす。

 

 ここで彼らにバレるわけにはいかない。こんなところで知られたくない。そんな一心が動かない身体に無理矢理喝を入れていた。

 

 けれどそんな私の意地とは裏腹に、ビリビリとコートは破けていく。これまでの無茶が溜まっていたのか、普通にパンサーに燃やされたのが原因か。或いは勢いつけ過ぎたのも悪かったかもしれない。

 その勢いのままにくるりと宙で回ってから、ザザザと滑って着地する。その時には被っていた帽子もすっかり取れてしまって。

 

 

「アレって、俺たちと同じ怪盗服か!?」

 

「黒仮面に、白い修道服……?」

 

「というかあの手足、女性っていうか女子じゃない!?」

 

「っ…………!」

 

 

 ――怪盗団の目の前で、私の思う反逆の姿である白い修道服姿を晒してしまったのだった。

 

 




シャドウ奥村戦→『黒仮面』戦という二連戦。
なおステータスや残り時間も引き継ぎです。

基本的には黒仮面との戦闘開始時点で残り10分切ってるイメージ。
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