私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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Q.なんでコートの下が修道服だったんですか?
A.「怪盗服姿の方が微妙に戦闘力が上がるから!」

Q.目隠しの上から黒仮面付けててなんで見えてるんですか?
A.「え、それでも見えるから付けてるに決まってるじゃん」



#32 最早流れは止まらない

 

 『精神暴走事件』の手掛かりを握っているかもしれない存在、『黒仮面』。

 これまでのパレスでも何度か遭遇した彼を、今回の怪盗団は特に警戒していた。

 

『俺たち以外に潜入してる奴がいるって、マジなのか!?』

 

『証拠があるわけじゃない。でも最後のスイッチを切り替えて進むエリアで、どうも違和感を感じたんだ』

 

『さっきの所で? 私は別に何とも思わなかったけど……』

 

『……いや、ちょっと分かるかもしれない。スイッチがあるにも関わらず、触らなくて済んだ場所もあったわ。まるで誰かが先に解いたパズルをもう一度解いてるみたいに』

 

『クイーンもそう思うのか? 途中でナビが何か見つけた様子もなかったが……』

 

『確かにそれはなかったけど……妙に敵の警戒度が高いのは気になってた。てっきり奥村社長がピリピリしてたからだって思ってたけど、もしかするかも』

 

『それも別の誰かが先に侵入してたからだって言いたいのか? まさか……!』

 

 メンバーの何人かが見つけた僅かな違和感。確証こそないものの、黒仮面と遭遇できるチャンスかもしれないという事で全員の頭の片隅にその可能性が刻まれた。

 

 そうした状態で挑むことになった作戦決行日。

 事態が動いたのは、パレスの主であるシャドウ奥村を倒してオタカラを奪った後だった。

 

『っ! 今、誰かいた!』

 

『合ってるジョーカー! 反応拾えた、さっきの所に向かってる!』

 

『マジかよ、このタイミングで!?』

 

『文句言ってる場合じゃねえ! 行くぞオマエら!』

 

 脱出しようといた矢先に、ジョーカーのサードアイがその影を捉えた。続けてナビがその存在を捕捉した事で、怪盗団の目的が脱出から追跡へと更に更新されたのだった。

 

『こんな、パレスも崩れるって時に何をしに来たと言うんだ?』

 

『分からないけど、何か嫌な予感がするわ。急ぎましょう!』

 

 そうして謎の存在を追った先は、先ほど激戦を繰り広げたばかりのUFO発着場だ。

 一人残していたはずのシャドウ奥村がいた筈の場所に戻った彼らは、そこで見聞きした。

 

 響く銃声。何かがぶつかったような金属音。

 ガラスの割れるような音。そして――

 

『があ……あぁ……』

 

『お父様っ?!』

 

『やっぱり来てたんだ――!』

 

 消えていく奥村社長のシャドウと、その傍に立つコート姿の不審者を。

 間違いなく、彼こそが――

 

『お前にまた会えるのを楽しみにしてたぜ、黒仮面――!』

 

 

 

「……あなたが、黒仮面の正体なの?」

 

 そうして邂逅した黒仮面。残り僅かな時間の中でそのコートを剥いだ下にあった姿を見て、全員が驚かずにはいられなかった。

 

 黒仮面が纏っていたのは、純白に染められた布に袖を付けたような服だった。頭にかぶった同じ色の布が教会のシスターのそれと似た形だと分かって初めて、彼女のモチーフが修道女だと気づいたのだろう。

 ただしその腰や左腕、右脚には鎖が巻き付けられており、その異質さが自分たちと同じ怪盗服であると感じさせていた。

 

 顔には黒い仮面が付けられており、その下も黒い布で目隠しがされていて瞳は見えない。髪もシスターヴェールで隠されていて、本当の意味で誰なのかが分かったわけではない。

 それでも明確な事が一つあった。

 

「でもあの手足は、女性のモノにしか見えないぞ?」

 

「だいぶ小さいっていうか、俺らと同じくらいじゃねぇの……?」

 

 修道服から見える腕や、ミニスカであるが故に大きく露出している足はどう見ても女子のモノであり。

 コートや帽子で見辛くなっていた体格や背丈も小さめである事が、これまでの黒仮面に対する負のイメージと反していた。

 

「オマエら、別に格好は重要じゃねえだろ? それにまだ終わってねえぞ!」

 

「…………」

 

(どこかで、見たような……?)

 

 コートを奪われてから、沈黙を保つ黒仮面に何故か既視感を感じるジョーカー。しかしその正体を探り当てるよりも前に、動いたモノがいた。

 

「――『シャルロット』!」

 

 正面に出現させた青いカードを、左腕で横薙ぎに叩き割る黒仮面。

 そうして出現させた白く大きな人影――『シャルロット』と呼ばれたペルソナが、これまた白いローブの中にある両腕を持ち上げる。そこに白い光が集まりだした所で、ジョーカーの身体が動いていた。

 

「させない――!」

 

 直感で逃げる為だと察知した彼がナイフと拳銃を持って突進するが――黒仮面に届く前に、その足は止められる事になった。

 

 

 それはどこからともなく飛来した、新たなる人影。

 ジョーカーが撃ち出した弾丸を手にした刀で受け止め、その弾道を逸らすように弾いた音が、鈍く響いた。

 

 

「うそ、()()()()!?」

 

「というか今、信じられない事をしたような……!」

 

「デルタ……」

 

 そうして二人の間に降り立ったのは、先ほどまでの白い修道女と同じコートと帽子で姿を隠した別の人物だった。その顔にはやはり黒い仮面が付けられている。

 ただし白い修道女と違ってジョーカーに並ぶ程に背が高く、それでいて隙のない立ち姿に全員が息を呑んだ。

 

「ふっ――!」

 

「くっ――?!」

 

 その一息で動いたのはデルタと呼ばれたその人物。

 一気にジョーカーの懐に飛び込み、持っていた日本刀を振り上げる。

 右手に持っていた拳銃ごと弾かれ、身体もその勢いによって後方へともっていかれそうになるジョーカー。

 

「なんの――!」

 

「っ――!」

 

 しかしすぐに体勢を直して左足から踏み出し、銃口を向けようとする。

 それを刀で受け止めたデルタと、互いに狙いをずらしあいながらの近接戦が奏でられること数秒。

 

 デルタの振り下ろしを上段で受け止めたジョーカーがそのインパクトを下方へと受け流し、そこから刃の上を滑らせるようにして敵の頭部へと狙いを合わせる。

 

 そんなジョーカーの首元に、逆手持ちした刀が添えられたのもまた同時だった。

 

「「…………!」」

 

 白と黒、正反対の仮面越しに視線が交錯する。

 僅かなぶつかり合いであっても、互いの技量にそこまでの差がない事を理解した。してしまった。

 それはその光景を傍から見ていた他のメンバーも同じだった。

 

「あのジョーカーと、互角にやり合ってる!?」

 

「やっぱりあの白い修道女よりも戦力が上なのよ! あんな仲間までいたなんて……!」

 

「いや待って、それよりもう時間が――!」

 

 驚く怪盗団の後ろにいたナビが上げた声と同じくして、パレス全体の震えが更に大きくなる。

 全員が周囲の変化に気を取られた隙に、切り払いと共にデルタが後方へと下がる事に成功した。

 

「っ、逃がすか! 『アルセーヌ』!」

 

 反応の遅れたジョーカーが咄嗟に仮面に触れて呼び出したのは、正しく己の分身であるアルセーヌだ。その黒い翼と共に身を翻し、呪怨属性の炎をデルタに向けて投げつける。

 

 例え連戦の末であっても逃がしはしないと言う、ジョーカーが今出せる全力を籠めた一撃。

 

 ――そんな思い諸共に、デルタは青いカードを握りつぶした。

 

「『イザナギ』――!」

 

「こいつもペルソナを!?」

 

 空けた左手の上に出現させたカードを破片に変えて呼び出したのは、これまたアルセーヌに並ぶ巨体のペルソナだ。黒い学ランのようなデザインの人型が、その巨刀で黒い炎を一閃した。

 

「ジョーカー! あのペルソナ、ヤバい!」

 

「んなの見たら分かるっつの! ナニモンだよアイツ?!」

 

「…………!」

 

 他のメンバーが驚きを露わにする前で、それを一番近くで見たジョーカーはその驚愕を内心に抑えるので精一杯だった。

 

(……駄目だ。今の状況では勝てない……!)

 

 ワイルドを持つ為に数多くのペルソナを知っているジョーカーは、分析能力を持つナビ以上にその力量差に気付いてしまった。

 肉弾戦でも油断が出来ない上に、ペルソナに関しては手持ちであの『イザナギ』を上回っている者はいない。残り時間と現存戦力であのデルタと呼ばれた彼を突破するのは極めて困難だと、認めてしまっていた。

 

「――『トラフーリ』!」

 

「いいタイミングだ、カトル」

 

 そんなデルタに庇われていた白い修道女――カトルは既にペルソナを召喚し終えており、求めていた五秒間にも達していた。

 彼ら二人を中心とした光の渦が巻き起こり始める中で、目を逸らさなかったジョーカーだけがその呟きを耳にした。

 

「――、――――。注意しろ、怪盗団」

 

「何を、言って……」

 

 要領を得ないデルタの言葉に聞き返すジョーカーだが、その返答を待つデルタではなかった。代わりに刀を鞘に収めるのと同時に、その魔法が発動する。

 

 その魔法の光が収まった時にはもう、誰もいなくなっていた。

 

「駄目だジョーカー、逃げられた!」

 

「っていうかもうパレスがヤバいよ! 私たちも脱出しないと!」

 

「モナ、お願い出来る?!」

 

「これ以上は仕方ないか! 乗れ、オマエら!」

 

 背に腹は代えられないとばかりにモナがバスへと変身し、急いでその中に乗り込んでいく怪盗団の面々。

 

「おい、ジョーカー! 早くしろって!」

 

「……ああ、今行く」

 

 最後に誰もいなくなった発着場を眺めるように立ちすくんでいたジョーカーが、仲間に急かされるようにして車に乗ってそのドアを閉める。

 

 そうしてパレスをギリギリに脱出してオタカラを盗み出した怪盗団は、けれど決して勝利したとは言い切れない感覚を味わう事になったのだった。

 

 

 ★★☆★★

 

 

「……やはり、実行犯には逃げられてしまいましたか」

 

 オクムラパレスから脱出した私たちは、とある車の中にその身を寄せていた。

 後部座席にいたのは先に脱出していた三島くんで、運転席には車を手配してくれた白鐘さんが座っている。

 怪盗団よりは先に現実世界に戻った私と鳴上さんの姿を見つけると、すぐさま乗り込むように手招きしてくれたのだ。うかうかしてると同じように戻ってくる怪盗団と鉢合わせしちゃうので凄く助かった。

 

 そうして私たちを回収してから発進させた白鐘さんから、パレスで何が起こったのかを訊かれているというわけだった。

 

「あれ以上手出しされない為に異世界から追い出すという目的は達したが、それも向こうにはバレていた気がする。実行犯(アイツ)もペルソナも出して来なかったから、手を抜いていたんだろうな」

 

「え、アレでですか? どっちもマジバトルにしか見えなかったんですけど……」

 

 私が怪盗団に見つかった後、二人には実行犯の相手をお願いしていた。それは彼を捕まえようというより、乱戦にもつれ込んだ時のリスクを排除したいという思惑があった。

 

 怪盗団全員が私に集中していたあの状況で実行犯に横槍を入れられたら、場合によって深手になっていたかもしれないからだ。

 彼の性格的にないだろうとは思うけど、ワンチャンそれも私の所為に出来るあのタイミングで放置が出来なかったのは間違いない。あと手ブラで帰らせるのもなんかアレだったし。

 

「しかし鳴上さんと明智くん(実行犯)のバトルか……。見たかったな……!」

 

「寺崎漏れてるよ、心の声が」

 

 そうして実行犯と別れた後、三島くんは現実世界へと帰還して白鐘さんと合流し、鳴上さんは戻ってこない私の救援へと向かった。

 

 あの場面で現れたのは、そういう経緯を経た上での鳴上さんなのだった。あのまま戦ってたらいずれ私の正体がバレていたと思うので、本当に危ない所だった……。

 

「では、奥村氏のシャドウを守り切る事は……いえ、精神暴走事件の実行犯に殺させない事には成功したのですね?」

 

「あのビンをぶつけた分のダメージはあるかもしれないけど、死んではいない……筈です」

 

 白鐘さんに念押しされるように問われて、ビンをぶつけた感触とその時の奥村社長の断末魔を思い出す。けれどあの記者会見の光景を回避できる……いや命だけは助かっている筈なのだ。そうじゃないと色々困るし。

 

「そういう意味では目標達成かもしれないが、寺崎さんのあの姿が怪盗団に見られてしまった。俺がもう少し早く到着していれば、防げたかもしれないのに」

 

「いや、アレは私が遅れを取っただけというか、怪盗団のみんなが一枚上手(うわて)だっただけですから!」

 

 申し訳なさそうに言う鳴上さんだが、そこに責任を感じなくちゃいけないのは私だけだ。なので絶対に彼は悪くないのだけど、今回の一番の失態はどこと言われたらその辺りになるのは否めない。

 

「そもそもはあの実行犯の狙いが私と怪盗団を接触させた上で対立させる事っぽいですし、それを果たされてしまった時点でどうしようもなかったと思います」

 

「寺崎と、怪盗団の対立……。実行犯が俺たちと同じ変装をして、アイツらをあの場に誘導した事で?」

 

「実行犯としては、あの変装姿で奥村社長のシャドウを倒す所を見せられればそれで良かったのでしょう。それだけで『精神暴走事件を起こしているのも黒仮面である』という印象を与えられますから」 

 

 わざわざ私たちと同じ変装をして入れ替わる事で、ヘイトを私一人に集中させる。それこそが彼の今回のパレスでの作戦だったのだろう。

 

 奥村社長の口封じもタスクの一つではあったと思うけど、あの感じだと自ら手を汚さなくても私がすると見透かしていた気すらする。私が流れを変える事、すなわち根本的には黒幕たちの邪魔にはならないとバレているのだろう。

 

「敵も流れを把握した上で動いてくるとは聞いていましたが、そこまで読んでいたわけですか。もしや、すぐに姿を現さなかったのも?」

 

「私たちが待ち伏せしている事も分かっていたから、先に動くのを期待してたんだと思います。もしそうならなかったらあのまま実行犯が手を下せばいいだけではありますし」

 

「じゃあ、今回は完全に実行犯の思う壺だったって事?!」

 

「まぁ……否定は、出来ないかな」

 

 三島くんの指摘は概ね正しい。

 現に怪盗団からは精神暴走事件の犯人として認定され、実際に奥村社長のシャドウを記憶喪失へと追い込んだ。そして私の怪盗姿も見られてしまった。

 

 その結果だけ見れば、決して良いものとは言えなくて――

 

「――それでも、君たちがいたから奥村氏の死という最悪だけは回避できている筈だ。その事実からも目を背けるのは、きっと良くない事だ」

 

 そんな僅かなセンチメンタルも、陽光のような鳴上さんの励ましを受けて流れていく。

 同じくらいに経験豊富な白鐘さんも、その言葉に同意を示す。

 

「どんな結果であったとしても、プラスとマイナス両方の側面を受け止める事が大事だと僕も思います。そうしないと、これからの話も出来ませんし」

 

「これから、か。そういや俺もまだ詳しくは聞いてなかったな」

 

「そう、ですね。確かに大事なのは、これからですもんね」

 

 今日の事でオクムラパレスがなくなった以上、彼に対して私が出来る事はもう何もない。今後の事を美鶴さんに頼んでおくのが関の山だろう。

 

 だからまず考えるべきはこれからの事。物語(全て)が大きく動き出す次の戦いに備えて、準備を整えるべきなのはその通りだった。

 

 どのみち敵対する事は、あの日からもう避けられないのだから。 

 

 

 

 ★☆★☆★

 

 

 漸く暑さの終わりが見え始めた十月中旬。

 とあるビルの会議室で、二人の女性が顔を合わせていた。

 

「――警備部シャドウ事案特別制圧部隊隊長、桐条(きりじょう)美鶴(みつる)です。本日は宜しくお願いします」

 

「此方こそ宜しくお願いします。今回の捜査の総指揮を取る、新島(にいじま)(さえ)です」

 

 互いに早くから頭角を現している若き女傑でありながら、握手する時に僅かな緊張を滲ませていたのは冴の方だった。

 

(……なるほど、だいぶ追い詰められているな。コレは事情を知らなかったとしても察せたかもしれない)

 

 表面上は無論何ともないが、だからこそ1枚めくればその余裕のなさが漏れ出てしまうような印象を美鶴は抱いた。

 よって精神的にもなるべくソフトタッチを心掛ける事を決めながら、そんな冴の話に耳を傾ける。

 

「では早速ですが――奥村氏の一件で、精神暴走事件はあなた達の言う『シャドウ事案』である可能性が極めて高いと判断しました。その事は彼からも聞いていますね?」

 

「私たちに橋渡しをしたのも彼――明智探偵でしたから、そちらから概要は伺っています。怪盗団は何処かで『無気力症』のメカニズムを知り、それを悪用してこれまでの事件を起こしていると」

 

「まだそうと決まったわけではないですが、ずっと不明だった怪盗団の『心を盗む』手口の解明に繋がればと私も思います。その為にも手を貸していただければ幸いです」

 

「……ええ。私たちも全力を尽くす所存です」

 

 言葉の上では温厚に協力体勢が築かれているように見えるが、その実互いに感じていたのはやり辛さだ。

 

 数日前に総指揮を任された冴は動かせる人員やその範囲が大きくなったものの、未だ怪盗団の逮捕に繋がる有用な手掛かりは見つかっていない。

 だからこそ明智探偵や特捜部長からの助言に従い、シャドウワーカーの手を取る事にしたのだが、冴からすれらまず彼女たちは外様だ。敵ではないが味方とも言えず、更にはシャドウ事案等という俄には信じがたいオカルティックな事例を専門とする集団だ。内心では縋る藁を選べない事に歯噛みすらしていた。

 

 対する美鶴もなまじ事情に把握しているだけに、全てが仕組まれているこの状況は面白くないものだ。

 元々流れに乗るつもりだったとは言え、自分たちが動く為に必要な『シャドウ事案』の認可があっさり通ってしまった事や、その所為で上層部からは警察犬のような扱いをされるのが目に見えてしまった事もそうだし、年もそう離れていないだろう新島検事を最初(ハナ)から使い捨てるつもりである事も、苦労を想像できる同性として気に食わなかった。

 

 それでも互いに手は尽くさなければならない。

 そこだけが一致している二人は、仕事の話を進めるべく口を開いていく。

 

「それでは先日起こった奥村氏の事件、その概要はご存じですね?」

 

「当時はあの会見会場にいましたから、それはもう詳細に。私としては防げなかった事を悔やむ所でもありますが……」

 

 話題に上がったのはやはりと言うべきか、今最もホットであろう事件、奥村社長が記者会見中に倒れた一件についてだ。

 

 十月上旬、従業員に対して不当な扱いをしていたとして謝罪するべく会見を開いた奥村社長。多くの人間が怪盗団による改心によるものだと認識する中で、その事件は起こった。

 

「話している途中で突然様子がおかしくなり、白目を剥いて倒れた奥村氏……。その症状は、先月の秀尽学園の校長と同じものだったそうですね」

 

「交番前で保護された校長もそうだったと、私も報告を受けています」

 

 お互いの脳裏に浮かんでいるのは、血涙を流して突っ伏す奥村社長の映像だろう。

 ただし彼ら二人に手を下した本当の犯人を知っている美鶴としては、その一致に対してただ頷く事しか出来なかった。

 

「これを受けて改めて秀尽学園の校長室を調べた所、怪盗団が出したと思われる予告状が新たに見つかりました。つまり怪盗団は『自白させる改心』だけでなく『記憶喪失』すら意図的に起こせると私たちは見ています」

 

「歪んだ欲望だけでなく、記憶すらも自由に奪えるというわけですか。まさしく心の怪盗団というに相応しい所業ですね」

 

 軽口を叩く美鶴だが、内心では黒幕の手腕に舌を巻く勢いだった。総指揮を執る冴がこの認識である以上、怪盗団に濡れ衣を着せる作戦は見事に成功しているという事に他ならないからだ。

 

「怪盗団が有名になる以前から起こっていた精神暴走事件も恐らく彼らの仕業……だからこそこれ以上の被害が出る前に、彼らを検挙しなければならない。その為に必要なのが、彼らの正体と犯行手口の解明なんです」

 

「その犯行手口は我々や明智探偵が掴むとして……怪盗団と思われる人物の目星などはついているのですか?」

 

「公安とも協力し、既に幾人かはリストアップが済んでいます。これまでのケースからプロファイリングするとやはり未成年、それも秀尽学園に通う高校生にその多くがいる筈です」

 

 そう言いながら冴が渡してきた資料に目を通すと、確かに怪盗団候補として挙げられているのは秀尽学園の生徒とおぼしき少年少女が殆どだった。

 最初にターゲットになった体育教師と因縁があった者を中心として、二人目のターゲットである画家の弟子や秀尽学園の生徒会長などの、普段から集まっている所が目撃されている面々がそこに名を連ねていた。

 

「なるほど。世間を騒がす怪盗団の正体が未成年の学生だとすれば、確かに慎重にならざるを得ませんね」

 

 公安の考えも筋が通っていると思いながら、めぼしい人物のリストをめくっていく美鶴。

 

 けれどその中にあった一人の名前を見て、一瞬目が止まった。

 

「いずれ公安と協力して秀尽学園の全生徒に聞き取り捜査を実施する予定です。その時にも同席していただき、シャドウワーカーとしての視点で怪しい生徒がいないかを調べていただきたいのですが、宜しいですか?」

 

「……ああ、承ろう。専門の人員を用意しておきます」

 

 けれどそんな変化の一切を表に出すことなく資料を返却した美鶴は、捜査への協力を確約していた。

 その後もどう動くかを話し合う中で、チラリと視界に入る怪盗団候補の資料、その中にあった名前をもう一度だけ思い出す。

 

 ――『秀尽学園高校 2-D 寺崎叶』

 

 その傍に貼られた写真の中にいたのは、あの危なっかしいピンク髪の少女で間違いなかった。

 





 閲覧、感想、評価などありがとうございます!
 次回からはちょっとだけ幕間を挟んでから、次のパレス編に入る予定です。それでようやく折り返しに入る……かな……?
 そんな感じでこれからもお願いします。


☆オマケ その1

「俺は一度寺崎さん(カトル)の所へ戻る。三島くん(レイ)は先に現実世界に戻って直斗と合流してくれ」
「白鐘さんとですね、分かりました。……あれ、でもどうやってパレスの入口まで戻れば?」
「これを使うといい。カエレルダイコンだ」
「いや普通の大根ですよねコレ。どう使えって言うんですか?」
「そりゃ大根なんだから囓るしかないだろう。辛いのが苦手なら、浅漬けにしたのがこのタッパーに入ってるから安心してくれ」
「いやいや、浅漬け食べただけで戻れるわけな――
「よし、行ったな」

★オマケ その2
 
 リーダー:寺崎叶   LV.66
 メンバー:三島由輝  LV.64
      白鐘直斗  LV.83
      久慈川りせ LV.84
 
      鳴上悠   LV.88
      
 V.S   ジョーカー  LV.49
      怪盗団  平均LV.48
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