私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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幕間的なお話です。


#33 その足は止められない

 

 怪盗団と『黒仮面』が戦いを始めていた頃。

 かつてピンク髪の少女が宙を飛んだ屋外スペースを駆ける一つの黒い影があった。

 

 全身を隠すようなコートに、頭部を全て覆い尽くすようなハットを被ったその不審者は、その背後から響いてくる足音に対して振り向く事を選んだ。

 

「――はああああっ!」

 

「っ?!」

 

 突進してきたのは、何故か似た格好をした別の不審者だったが、それは一人目の不審者……もとい精神暴走事件の実行犯である明智吾郎にとっては予想の範疇だ。

 

 予想から外れていたのは、彼の受け止めた得物が見覚えのない刀だった事だ。

 

「……ビームサーベル、いや光剣という奴か。中々この異世界に似合った得物を使うんだな」

 

「……案外使い心地は悪くないんだぜ? 俺の邪魔をする奴らの尽くを簡単に焼き切る事が出来るからな!」

 

 明智の声と共に光剣が輝き、その光と熱の量が上がっていく。刀の刃で受け続ける事を嫌ったが為に生まれた隙を突き、斬り払いから突きへと繋げるべく明智は一歩踏み込む。

 

 だがもう一人の不審者――鳴上悠はそれを許す程甘くはない。

 

「ふっ――!」

 

 弾かれたと見てすぐに逆手に持ち替え、刀の切先を下に向けたまま光剣の突きを斜め横へと受け流す。

 

 その勢いのままに身を捻り、瞬時に薙ぐように刀を振るおうとした悠はそこで見た。

 

 いつの間にか右手で構えていた銃の口が、此方に向けられている光景を。

 

「っ――!」

 

「ちっ……!」

 

 その穴から光弾が飛び出したのと、悠が倒れ込むように地へ伏せたのが同時。その輝きに顔を照らされながら片手だけ地につけて軸とし、足払いへと繋げた。

 そんな長い足を活かした下段攻撃を、明智は飛び込み前転の要領で回避する。距離がなさすぎて殆ど宙返りみたいになっていたが、異世界で身体能力が上がっているが故の動きだった。

 

「ったく、シャドウワーカー以外からでもこんな奴を引っ張って来れるのかよ、アイツは。本当に巫山戯てるね……!」

 

「アイツ……やはり彼女と面識があるのか。薄々そんな気はしていたが、お前とも複雑な関係があるみたいだな」

 

 そうして僅かに距離を取った明智が毒づく前で、感じた所を確かめるように呟く悠。それは明智にとっては耳障りなモノでしかなかった。

 

「……何を想像したのかは知らないが、お門違いだと言わせて貰うよ。殺せるのなら真っ先に殺してるね、あんな奴は」

 

「つまり今はまだ生かす価値があって、最終的にどのタイミングで始末するかも既に決めていると……そういうわけか?」

 

「当たり前だろう? どんなスタンスでいようが、俺たちの計画の邪魔になる事は変わらないんだ。そしてそれに新たに加わったのが――アンタなんだよ!」

 

 そこまで言い切ってから、今度は自分からいくとばかりに明智が地を蹴った。洗練された動きを見せる悠とは違い、ただの衝動のままに光剣を振り回す明智だが、だからこそ悠の目は厄介に映った。

 

「ほらほらどうしたどうした! こんなもんなのか?!」

 

「くっ――!」

 

 型破りとは、型なしとは一線を画す程の成果を伴うからそう呼ばれるモノである。明智が見せた猛攻は、まさしくそう言うべきモノだった。

 

 刀で受ける事を止め、バックステップを多用して回避に専念する悠。ただし背を向けるような隙がない程の速さと激しさを保持し続ける明智に対して、それは後手に回っているのと同義だ。

 

 そしてこの認知世界に対する理解の深さが、悠を上回る手段として明智の手にソレを握らせていた。

 

「剣と銃の二刀流、いや違うコレは――!」

 

「怪盗団の奴らも全員持ってるさ。そう見えるだけでこの世界ではホンモノになるんだからな――!」

 

 光剣の斬撃と共に放たれるのは、SF映画で見るような光線銃の弾丸だ。悠の知る銃とは何もかも違う為に、その感覚のズレが度々彼の身を危険に晒していた。

 

 だがしかし、だからこそ出来る芸当も悠にはあった。

 

「っ――!」

 

 悠の身体の中央目掛けて放たれた光弾。

 弾道的にもタイミング的にも必中であるソレに、明智が勝機を感じた刹那。悠は目を逸らさずに、その誘い合わせた瞬間に意識を注ぎ込み――刀を二度振るった。

 

 甲高い破裂音。それは光弾が弾け斬られた証明だった。

 

「なっ?!」

 

 その現象に目を見開く明智だが、故に何が起こったのかは見えていた。

 

 自身が絶好だと思ったソレは悠が秘密裏に誘導したモノであり、だからこそ読み切った上で斬り伏せた。

 

 普通の銃弾であれば、高速で斬ってもややコースのブレた複数の弾丸としてその身を貫くだけに終わるだろう。だから斬るよりも弾く方が効果的であり、あのピンク髪の少女もそうしていた。

 

 しかし実体のない光弾であれば話は逆だ。むしろ弾く事は刀身的に相性が悪く、複数回斬って掻き消してしまった方が場合によっては効果的であると、悠は本人の前で実証して見せたのだ。

 

「ぐうっ……! アンタも相当なイレギュラーらしいな……!」

 

「イレギュラーか、否定はしないさ」

 

 僅かに残った光弾の破片を浴びながらも一閃し、明智のコートに切り傷を与える悠。

 明智としても校長の時以来のクリーンヒットに、流石の彼も被部を軽く抑えながら後ずさっていた。

 

「……だが、この戦いはここまでだ。そうだろう?」

 

「…………」

 

 けれどその傷が深くなく、コートや衣服を軽く切った程度に収まっている事を確かめながら、明智は頃合いだとばかりに光剣の輝きを鎮めていく。

 そんな絶好の隙にも関わらず、悠も無言で動こうとはしなかった。

 

「アンタたち……いや()たちは彼女の言いなりになっているんだろう? ならこのパレスで()を捕まえる気も、元々ないはずだからね」

 

「言いなりじゃない。そこだけは否定させてもらおう」

 

 これまでの荒い気性もすっかり鳴りを潜め、全て見透かしているとばかりに落ち着いた口調になる明智。それでも油断しないままに、悠は口を挟んだ。

 

「どうだかね……。でも彼女は僕の代わりに奥村のシャドウを害した。怪盗団もそれを目の当たりにした。全ては僕たちの思惑どおりに進んでいる。だがそれでも、アレはまだ笑っているんだろう?」

 

「…………」

 

「君が何の目的で言いなりになっているかは知らないけど、伝えておいてよ。――次の戦いでも()が勝つ、それで全てを終わらせる。首を洗って待っていろとね」

 

 話は終わったとばかりに、明智は背を向けてパレスからの脱出へと動き出す。

 どれほど無防備であっても、もう危険はないと分かっているが故の行動だった。

 

「いいだろう、伝えておく。だが此方も一つだけ、言わせてもらおう」

 

 同じく刀を収めてその背中を見送る悠が、僅かに目を伏せて言った。

 

 

「――こんな邂逅になってしまって残念だ、『()()()』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……俺が援護射撃する暇とかなかったんだけど……?」

 

 そんな光景を遠くから眺めていた少年が、小さくそう呟いた。

 

 

 ★★★★★

 

 

「……うっす。って、俺が最後か」

 

「来たか、リュージ。これで春以外は全員揃ったな」

 

 オクムラパレスでの作戦決行から数日経った、十月中旬。

 四軒茶屋にある純喫茶ルブラン、その屋根裏にある蓮の自室に怪盗団の殆どが集まっていた。

 

「いよいよ、奥村氏の記者会見か……」

 

「どう、なっちゃうんだろう……」

 

 ソファーに座った杏が不安そうに呟くが、今日はここにいる全員が同じような心持だった。

 

「ちゃんと改心出来てたらいいんだけど、どうかなモルガナ?」

 

「ハルの為にも心配ないと言ってやりたいが、正直自信がない。あの時、奥村社長のシャドウは消滅しちまったように見えたからな……」

 

 彼らが思い出したのはあの日オタカラを奪ってから、再び最深部に戻って見た光景。

 その場にいた『黒仮面』によって、シャドウ奥村が消え去る所だったのだ。

 

「オタカラだけ奪えば改心だが、シャドウが倒れれば全ての欲が失われてしまう。それが起こるとすれば、きっと……」

 

 そこまで言ってから、蓮は手元のスマホに視線を落とした。或いはその先は言いたくなかったからかもしれない。他のメンバーも同様に、とある配信のURLを開いていた。

 

『――私は社員に対して過酷な労働を強いて、本来果たすべきである社員へのケアを怠って参りました。大変、申し訳ございませんでした』

 

 彼らが各々のスマホで見ているのは、先日狙ったばかりである奥村社長が開いた記者会見の映像だ。中継先ではまさに今、改心の成った彼がその罪を告白しているのだ。

 

『――それについて、私から説明させて頂きたい事があります』

 

 改心が果たされた所までは怪盗団の思った通りであり、ここから精神暴走事件についても関連が明らかになると、本来であれば期待していただろう。打ち上げだってしていたかもしれない。

 

『実は……、……ぐっ!? ああ、あぁっ……』

 

 しかしそうはならなかった。予想はしていたが、起こって欲しくはなかった事態がそこで現実のモノとなってしまっていた。

 

「ちく、しょう……!」

 

「やはり、これがあの白い修道女の狙いだったか」

 

 奥村社長の様子が急変し、机に突っ伏して動かなくなる。周囲にいた()()()()()が近づこうとした矢先に、ゆっくりとその顔が持ち上がる。

 そこには薄暗い血の涙を流して白目を剝いた、変わり果てた奥村社長の顔があった。

 

「これ、お母さんの時とやっぱり似てる……!」

 

「じゃあ『廃人化』の瞬間がコレって事!? こんなの、酷すぎるよ……」

 

 誰から見てもショッキングな事態である事に加え、双葉からすれば母親の最期と近い姿だ。

 その声に震えが混じり、杏に軽く抱きしめられるのも仕方のない事だろう。

 

「会場に行った春が心配ね。どうにか助かって欲しいけど……」

 

「祈るしかない。もしかしたら、前の校長みたいに『記憶喪失』になるだけかもしれない」

 

「だといいんだが……クソ、状況は最悪だぜ」

 

 モルガナが悪態をつく様に、怪盗団にとって今の状況はよろしくない。

 

 シャドウ奥村に手を下され、白い修道女たちに逃げられたあの日から、こうなってしまう事は怪盗団も危惧し続けていた。

 けれど分かっているのは敵が同じペルソナ使いである事と、その一人が白い修道女である事だけだ。もう一人いたあの凄腕のペルソナ使いの正体含め、詳細は一切分かっていない。

 

 そしてオタカラを奪ってパレスを崩壊させてしまった事で、手掛かりを得ることも出来なくなってしまった。双葉も手を尽くしているが、あまり進展はないらしい。

 

 せめてもの対応として記者会見には親族である春が見守りに行ったが、父親が倒れる場面を目の当たりにする事になっただけかもしれない。それを思うだけで胸が痛むメンバーだったが、彼ら自身も無事であるとは言い難い。

 

「奥村社長が怪盗団のターゲットだった事は皆に知れ渡ってる。そんな時にこんな事が起これば、私たちがやったと思われるのは明白でしょうね」

 

「これまでの人気から一転して、怪盗団が叩かれる流れが出来るというわけか。予想していたとは言え、これからの事を考えると憂鬱だな……」

 

 事前に想定するだけの時間があったとはいえ、転落すると分かっていれば浮かない顔にもなるというものだ。こうなる流れを止められなかった事も、この落ち込んだ空気の起因となっていた。

 

「くそ、なんでだ? なんでこうなっちまったんだ?!」

 

「落ち着いてよ竜司! 原因ってか犯人はあの修道女たちでしょ!? 私たちのファンなんて、嘘っぱちだったんだよ」

 

「私たちのファン? アイツ、前にそんな事言ってたのか?」

 

 悔しそうに声を荒げる竜司に、過去の発言を思い出して憤りを露わにする杏。けれどその時にいなかった双葉からしても、何言ってんだと呆れる他ない発言だった。

 

「……? どうしたんだ、蓮?」

 

「いや、実は――」

 

 そんな暗い雰囲気となってしまった自室で、部屋の主がとある懸念と共に口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その数日後。

 戻ってきた春から聞かされたのは、自分の父親が意識不明の重体となったままである事。そして秀尽学園の校長室から何故か予告状が見つかった事だった。

 

 双葉からも怪盗お願いチャンネルの不審な点を告げられ、自分たちが敵に嵌められつつある事を改めて認識させられる怪盗団なのだった。




次話からニイジマパレス編になるのですが、案の定長くなりました。けれどもう少し纏めてから投降したいので、もう少しお待ちくださいませ。

ペルソナ使いの戦闘ってこれでいいのかと思う事はある。
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