長くなりましたので、じっくり読んでいただけると幸いです。
オクムラパレスでの一件の直後に襲来した中間試験。最近は異世界での戦闘訓練に時間を費やし気味だったけど、どうにか平均ラインに居座る事に成功した私は、漸く一息つけるかなと思ってた所――
「君が寺崎叶さんだね。急にこんな事になって不安だとは思うけど、そう時間は取らせないから安心して欲しいな」
「は、はい……」
うん、学園祭までの間に全生徒を対象とした取り調べがあるのを忘れてました。こうして向き合うと怖いなこの大人二人!
奥村社長が倒れた事で怪盗団を紛糾する世論が固まり、公安警察すら逮捕の為に動き出したこの頃。
怪盗団の最初のターゲットがいたこの学園の人間に疑いを持つのはまぁ当然の事だし、その所為でこうして軽い面談が行われるのもまぁ分かる。
「…………」
問題はそんな警察っぽい二人の他に、もう一人いた事だった。
私が座っているのが入り口から近いテーブルの端の席であり、向かい合うように初老の男性が座っている。その後ろに立つのが比較的若めで圧の強い男の人だ。
そんな三人の反対側、正確には面談に使われている生徒会室の奥の方でバインダー片手に座っているのが、サングラスと黒服で身を固めた金髪の女性だった。
というか、アイギスさんだった。
(……き、気まずい!)
シャドウワーカーが本格的に捜査に協力し始めたのは聞いていたから、理屈としては分かる。けどこの秀尽学園にアイギスさんがいるっていうのがどうにも慣れない! というか私の前にいた雨宮くんとか高巻さんとかとも顔を合わせてたって事?! 何それ見たかった!
けれどもそんな動揺を表に出しては、警察の二人にバレて面倒な事になる。アイギスさんが初対面のフリをしてくれている以上、私も知らぬ存ぜぬを突き通すしかないのだった。
……けど全く気にしないのも難しいっていうか、私だけ笑ってはいけない状態に近いんですけどぉ!
「……では寺崎さんは怪盗団、がこの学園にいると思うかい?」
「い、いやぁ、どうでしょう……? いたら嬉しいとは思うけど、そこまでは分かんないです……」
「おや、キミはテレビで明智探偵に正面切って公言出来る程の怪盗団ファンだと聞いていたけど、流石に心当たりはないんだね」
「えっ。そ、そう言えば前にそんな事もありましたね、ははは……」
なので聞き取り中ずっと集中出来ず、ふわふわした回答しか出来なかった気がした。
他にもバイトの事とか休みが多い事とか訊かれたりしたけど、即死レベルの失言はなかった筈だ。うん多分。
あったとしても証拠がない以上はまだ大丈夫だろうし、それくらいじゃ今の状況は変わらないので、何とか乗り切ったのだと思う事にした。
『……アイツ、滅茶苦茶挙動不審でしたね』
『随分な小心者みたいだが、この程度でボロを出すような小娘ではないらしいね。さて、どう攻めるべきかな……?』
『……………………』
★☆★☆★
そんな不意打ちのような取り調べから数日。
ようやく迎えた学園祭当日に、私は何をしているかと言うと――
「いらっしゃいませ〜! たこ焼きは如何ですか〜?」
我が2-Dが催すたこ焼きメイドカフェ(語弊あり)の店員を務めていた。
なおこれまでの利用人数は一桁であり、目の前に広がるのは人っ子一人いない廊下だけだ。
いつの間にか店員役にされていたのは、クラスメイトによる陰謀が四割、配属を決める日に例の異世界帰りによる体調不良で欠席しちゃった事が三割、私が渋谷のファミレスでバイトしているのがバレていた事が三割といった感じだった。
「おかしいなぁ、叶がメイドコスしてるんだからもうちょっと人が来ると思ってたのに」
「高巻さんとかなら兎も角、私のメイド姿にそこまでの集客力はないって……。服は確かに可愛いと思うけど」
自分が着ているモノクロなミニスカメイド服を摘みながら、同じ服を着て奥で待機しながらスマホを触る友達に呆れ口を叩く。因みに彼女はくじに負けて店員役になったらしい。
一クラスに与えられた予算ではこの二着しか作れなかったらしく、店員役はこの服をローテする決まりになっていた。なお約束の時間になっても次の当番の子は来てないし、何ならお客様の来る気配もない。
「高巻さんね〜。私らとしても着せたかったんだけど、学園祭の実行委員の仕事があるってキッパリ断られちゃったのよ」
「あ、実行委員やってたんだ。それはちょっと意外かも」
「生徒会長から頼まれたんだってさ。まぁ一緒にいる所ちょくちょく見かけるし、そういう事もあるんじゃない?」
パイプ椅子に座ってスマホに視線を落としたままの友達と雑談に花を咲かせながら、原作通りだなと密かに納得する私。
奥村社長が倒れた事で非難の的になった怪盗団は、今はジッと堪えて様子見に徹している筈なのだ。
私は美鶴さんから峠は越えたと聞いてソワソワする事は少なくなったけど、世間では未だに心肺停止だの死亡しただの言われている。それが怪盗団の仕業だと思われてる今、迂闊に動く事は出来ないだろう。
更には私も含む『黒仮面』の暗躍を確信している以上、その手掛かりがなければ次の行動に移れないと見ている。どっちも私の所為なのは置いておくとして。
ただしそれもこの学園祭までの話だ。
今日の午後に開かれる講演会、そのゲストに呼ばれた彼によって物語はいよいよ動き始めるのだから――
「――ほら、ここだよ! ご新規様ごあんなーい」
「って、お前のクラスの店かよ……」
「いいじゃんほら、一応喫茶店だし」
そんな上の空になりかけていた私の意識を、呼び戻すような声がした。しかも凄く聞き覚えがあるのが複数も。
「うわ、閑古鳥やべぇ……」
「人目はなさそうだから、話をするにはいいかもだけど……」
そこに来ていたのは、誰も彼も特徴的な七人組だ。
猫を持ち運ぶと噂の転校生、陸上部の元エース、クォーターの現役モデル、他校の高校生画家、秀尽学園の生徒会長、美少女スーパーハッカー、オクムラフーズのご令嬢……。言うまでもなく怪盗団の皆さんである。
「――おかえりなさいませ、ご主人様」
「お、おう……あれ、その顔よく見たら寺崎じゃん。ここでも店員やってんの?」
「渋谷のファミレスでバイトをしていた女子か。そう言えば蓮と杏のクラスメイトだったな」
「へぇ……杏のクラスのメイド服、結構凝ってるわね」
「ふふん、そうでしょう? 自信作なんだから!」
「うん、とっても可愛い!」
「あ、ありがとうございます……?」
お決まりの文句で出迎えると、店員が私である事に気付いたようだ。
(現実世界では)初対面の双葉ちゃん以外とは面識があるので少々照れ臭いけど、彼らがお客様である事には変わりない。ちゃんとおもてなしをさせていただく為に、こほんと咳払いを付け加えた。
「……ご主人様たちは全員で七名様ですね? それではそちらのテーブル席でお願い致します。すぐにメニューをお持ちしますので、オーダー決まりましたらお声がけください。それではごゆっくり〜」
「いやオーダーって言っちゃうのかよ。あとたこ焼き屋でゆっくりする事もそんなにないし」
「完全にいつものファミレスモードだな」
しまった、この半年で培ってきた接客スキルがオートで発動しちゃった。
「それじゃあこの、普通の奴ください」
「すみません、前のお客様で売り切れになってしまいまして……」
「では、明太チーズたこ焼きを」
「ごめんなさい、明太子が切れてまして……」
「ならこっちの、イカ入りを……」
「その、今、イカを取りに行ってます。多分あと五、六時間くらいはかかるかなと……」
「いや嘘つけよ! 絶対ねぇだろコレ! てか典型的なボッタクリじゃねーか!」
そして
「実は、そのメイド服に凝りすぎて、予算殆ど使っちゃってさ? タコはあんま力入ってないっていうか☆」
「です〜」
「みてーだな!」
そこで事情を知る高巻さんから援護射撃が飛んできたので、コクコクと頷いておく。そういう事なので私に文句を言わないでください。カスハラは良くない。
「じゃあ、今残ってるのでオススメはありますか?」
「えーと、『ロシアンたこ焼き』ならあります」
「ではそれで!」
「かしこまりました、ご主人様。――オーダー入りました、『ロシアン』一つ!」
「やっぱファミレスじゃねぇか……」
「いやラーメン屋とかソッチじゃね?」
そんな紆余曲折があった末に、最終的には原作と同じ『ロシアンたこ焼き』を春さんが注文する事になった。
では早速、うちのクラスが誇る『ロシアンたこ焼き』を是非ともご覧いただこう。
洗練された手法により、その殆どを同じ大きさと味に揃えた間違いのないたこ焼き。その幾つかを保存容器から取り出し、特殊な機器に入れるべく並べて蓋をする。
その機器内にあるテーブルが回り出すのと同時に、周囲から電磁波が照射される。これにより従来のたこ焼き器とは一線を画す手順で内側からも加熱するのだ。
その様子を窓から覗くのは、この為に座っていたのだと言わんばかりの我が友達だ。今も別の最新の電子機器に視線を送りながら、その時間が訪れるのをジッと待っている。
『チーン!』
そうして十分に加熱が済んだことを知らせる音が鳴り響くと、友達はあえて急がない動きで紙製の器を用意する。
そうして舟のような形の容器に、湯気の立ったアツアツのたこ焼きを置いていく。その中に一つだけ真っ赤に染まったたこ焼きがあるが、それこそがこの『ロシアンたこ焼き』の肝である。たこだけど。
そして最後に主役であるたこ焼きを引き立たせるべく、申し訳程度の青のりをふりかけていく。最後に爪楊枝を二本添え置く事で、この五分間の調理は完了した。
そんな完成品をトレーで運び、精一杯の笑顔でお客様へと届けるのが、私の最後にして最大の仕事なのだ――。
「お待たせしました、『ロシアンたこ焼き』です!」
「ほらほら、焼きたてだって!」
「嘘だ、レンジの音したし!」
以上が、我がクラスの主力商品『ロシアンたこ焼き』(要冷凍)の紹介である。レンチンした友達の態度からもそのやる気の無さが伝わってきた事だろう。
彼らのテーブルにたこ焼きを置いてからは、また店頭に戻っての店員役を全うする事に終始する私。彼らの会話はそこからでも聞こえる位のモノだし、そもそもその内容も大雑把に覚えている。分かりやすく聞き耳を立てる必要はなかった。
加えて言うと、この場に来る最後の一人的にもその方が――って、噂をすれば何とやら。
「――やぁ、
「え、講演会は明日なんだけど……?」
「だからこそ会場の下見にね。学園祭の講演会だって沢山の人が来るんだから、失敗は出来ないし」
『ロシアンたこ焼き』の
その登場に怪盗団は勿論、私の後ろで待機してた友達も『明智くん?!』と口に手を当てていた。
私も驚いたように目を見開いているのだけど、私の事も見てから『みんな』と言わなかったこの人? うむむ、気の所為じゃないような……。
「そうだ、コレ一ついただくね」
「あ、それは……!」
「明日の講演会の出演報酬って事で」
変装もせずに来たから身バレして大変だったと言いながら、『ロシアンたこ焼き』の一つに爪楊枝を刺す明智くん。その口に真っ赤な球体が消えていくのを見てから、私は一度彼に背を向けた。
「うん、おいし…………はうあっ?!」
爽やかに味わおうとした彼の口内を襲っただろう朱の刺激。不意討ちに成功したたこ焼きにより、
「喉がっ……ウボァッ……これは……っ!」
「一気はヤバいって……」
「胃の中がッ……大炎上だ……ッ!!」
「だ、大丈夫……?」
一部の面白がっている男子と違って良心が残っている真さんが心配そうに尋ねるが、彼の仮面もその程度で剥がれるモノではない。
「平気に……決まってる、だろ……? 僕、辛いの……ダイスキ……さッ……!」
「うわ、壊れかけだぞ……」
かなり無理をして表情を作っているが、その脂汗までは誤魔化せてない。双葉ちゃんの評価ももっともだと思いながら、私は明智くんに声をかけた。
「あの、宜しければコチラどうですか?」
「っ?! そ、そうだね。折角だし、頂こう、かな……ッ!」
そんな状態であっても私に今気付いた風を保ちながら、手渡された紙コップに入った牛乳を一気に飲み干す明智くん。
アレを売っている手前で一応用意しておいたのが功を奏したらしく、どうにか彼の中で鎮火させる事に成功したようだった。
因みに水だと焼け石にかけるどころか逆に悪化するので注意が必要である。
「悪くないタイミングだったけど……まさか、君にも見られてしまうなんてね」
「ははは……まぁその、運がなかったね」
「ん? 二人も知り合いなの?」
なるべく口角が上がらないように努めていた私に対して苦笑する明智くん、その空気が初対面じゃないと気付いた春さんが首を傾げると、何でもないように彼が答えた。
「以前のテレビ出演の時から、ほんの少しだけね。さて、これ以上邪魔するのも悪いからもう行くよ。明日は宜しく」
「あ、うん」
「スゲェなアイツ、さも何もなかったように帰ってったぞ……」
手をヒラヒラ振りながら真さんにそれだけ言うと、あっさり背を向けて去ってしまった。
けどその足にはまだ若干の震えが残っていたので、多分逃げただけだと思います。
「テレビっていうと……あ、社会科見学の時だっけ。確かに明智くんと話してたよね」
「その時にちょっとだけ縁が出来てね。まぁその後は雨宮くんとも一緒にお茶した位なんだけども」
「ああ、夏休み前にそんな事もあったな」
「へぇー、不思議な縁もあるんだね」
そんなやり取りに興味を持たれたので、事実だけを話して煙に巻こうとする私。間違っても連絡先持ってるとか、ほぼ敵対関係にあるとか言ってはいけない。彼も邪推されたくはないだろうしね。
「――寺崎? そんな話聞いてないんだけど?」
「ひゃっ?! いやだって、訊かれなかったし!」
「知らないのにそんな事訊けるわけないでしょうが……!」
とか思ってたら、背後からまさかの奇襲を受ける私。
明智くんとも話せないまま終わってしまった事の恨みも込みで、後ろから肩を掴んで揺さぶってくる。
「イケメン男子二人とお茶なんて、美味しい思いしてんじゃん! さてはそのまま三人で楽しく遊んだ悪い子なんでしょ、叶は!」
「ち、違うし! 私以外にも女の子いたもん! その子と一緒にいた雨宮くんに明智くんが合流して、そこに私が巻き込まれただけだから!」
「……そうなの、蓮?」
「間違ってはないが、俺も偶々会っただけだ。決して最初から遊ぶ目的でいたわけじゃない」
必死に自身の潔白を叫んでいたら、飛び火された雨宮くんが何故か女子メンバーからジト目で見られていた。まさかとは思うけど彼、そっちのルートなのかな。
「因みになんだけど、その一緒にいた女子って言うのは誰なのかしら? 別に誰でもいいのだけど」
「別に怪しい人間じゃない。というより、皆も知ってる芳澤――」
「――あれ、先輩たちお揃いですね! どうしたんですか?」
「素晴らしいタイミングで来てくれた。ちょっと話して貰いたい事があるんだ」
「へ? あ、はい。いいですけど、一体何を?」
「……もうコレ、さっきの話どころじゃないな」
「そうみたいだな……」
そこにタイミング良く現れた芳澤さんが加わる事で更に混沌と化した場に、双葉ちゃん他数名が諦めの境地に達していた。
最終的にロシアンたこ焼き(
因みに私はその後友達からみっちり絞られた。なして……?
★★★★★
そんな騒がしい一日目を終えて、迎えた二日目。
午後から開かれた明智くんの講演会にも出席したのだけど、此方は殆ど原作通りの流れを辿っていた。
「――もし、怪盗団が僕の知る『彼ら』なら。奥村にあんな真似をするなんて思えない」
この世界では奥村社長は死んでいない。けれど散々話題になったあの仕打ちをするような集団ではないと、既にその正体に当たりをつけていると告げた明智くん。
当然その意味深な言葉に沸く会場だけど、いざその中身を訊こうとした所で彼の携帯に着信が入り、そのまま明かされる事はなく終わってしまった。
その後を任された落語研究会が不憫だった事はさておき、これで学園祭の主要イベントはほぼ終了だ。流石に講演会の途中で開かれただろう怪盗団と明智くんの密談には関われないし。
「――あ、三島くんだ」
「なんだ、寺崎か。何してんの?」
そうして熱が引き始めた学園の廊下にて、再び体育館へと向かおうとした所でバッタリ彼と出くわした。三島くんもどうやら一人のようだ。
「私はこれから後夜祭に行くんだよ。そう言う三島くんは?」
「俺も似たようなもんかな。特にやる事もないし、坂本でも捕まえようかと思ってた所」
「ふーん、そっか……って、やる事なかったわけじゃないでしょ。なんで昨日来てくれなかったの?!」
退屈そうに答える三島くんを見て思い出したのは、昨日の店番があまりに暇だったので『冷やかしでもいいから来てよ』と彼に連絡した事だ。結果は言わずもがなだけど。
「だってお前、俺が行ったらたこ焼き買わせるつもりだっただろ、絶対。俺ら同じクラスなのに」
「くっ、バレてたか……!」
半眼になりながら私の狙いを看破していた三島くんに、私は思わず歯噛みする。あの時ならメイド服効果もあって押し切れると思ってたのに……!
「やっぱり自撮り写真も添付しとけば良かったかなぁ。いやでもアレは流石に」
「待って何それ詳しく……じゃない。そういうの誤解されるから止めろってマジで」
「まぁ、それもそっか」
見透かされてたのがちょっと悔しかった為に邪なアイデアが頭をよぎったが、彼に言われて踏み止まる。
友達と一緒に撮ったいい感じの自撮りだったけど、だからこそに男子に見せるのはちょっと
「……ん? でも誤解ってどういう」
「そ、それよりさ! 講演会で明智が言ってた事って、どこまでマジだったんだ?」
「へ? ああソレね。話してもいいけど……そろそろ後夜祭が始まっちゃいそうだから、向かいながらでもいい?」
「分かった、そういう事なら」
私のふとした疑問を流されながら訊かれたのは、明智くんの言っていた事の真偽に関してだ。三島くんにはまだ明智くんがクロだと教えてないので、怪盗団の正体を知っていると言われて不安になったんだろう。
そんな納得を抱きつつ、さてどこまで話せるかなと考えながら体育館へと歩幅を揃える私たちなのだった。
「……じゃあやっぱり、明智は怪盗団の正体に気付いたのか?!」
「だからこそあんな言い方をしたんだと思うよ。体育館のキャットウォークにいたみんなにその事が伝わるようにね」
「あそこってキャットウォークって言うんだ……」
「いやそこ?」
到着した体育館の壁沿に立ち、上を見上げて講演会の時の事を思い出す。
実行委員の立場を利用して何人かはあの場所で明智くんの話を聞いていたみたいだけど、暗かったとはいえ見る人が見ればちょっと気になると思うんだよね……。というか他校の生徒である喜多川くんまでいたのは何なんだ。双葉ちゃんは私と同じ観客席にいたのに。
「それで彼が退席したあの十分の間に皆もいなくなってたから、そこで今後の話をしたんじゃないかな。怪盗団と彼が一時的に協力する類の事をさ」
「は?! いやでも、この先のアイツらって……!」
驚く三島くんが思い出しているのはきっと、私が夏休みに話した事の一部。怪盗団が精神暴走事件の黒幕によって罠に嵌められる事と繋がったんだろう。
「ていうか、そうなると明智は――」
「――だから次は私たちも、怪盗団の為に動くんだよ。まぁ『助ける』と言うよりは『お節介を焼く』感じになると思うけど」
アイデアロールに成功してそうな彼の言葉を遮りながら、私たちのこれからを代わりに告げる。いやこの時期まで来たからにはもう実行犯について知られてもいいとは思うけど、念押しという事で。
「……寺崎がそう言う位、ヤバくなるって事?」
「ここからが怪盗団にとっての正念場になるのは間違いないよ。だって今や、賞金首なんだしね」
彼らが指名手配犯となり、その首に三千万円がかけられるというマンガみたいなニュースが流れたのもつい先日の事だ。それは黒幕側の大仕掛けもいよいよ佳境に迫ってきた事を意味していた。
「敵は警察ぐるみで罪を被せようとしてくるけど、怪盗団の皆ならきっと負けない。そこに私たちが介入して、少しでも負担を減らせればってね」
原作の流れ通りになるのなら、怪盗団のリーダーである雨宮くんだけが捕まり、尋問でボロボロになった末に敵を欺くという大作戦が決行される筈だ。
けれど今回は私がいる所為で色々とややこしくなっている。その責任を取るとまでは言わないけど、やらなければいけない事はきっとあるだろう。それがマッチポンプにならない事を願うばかりではあるけども。
「……俺たちは、大丈夫なのか?」
「ん? 私たち?」
私たちが体育館に入った辺りで定刻になったのか、目の前では多くの人が壇上へと目を向けている。
壁際にいる私たちはその両方を視界に入れながら、けれど意識は互いに向けていた。
「この前警察の取り調べあっただろ? そこで訊かれたんだよ。俺の友人関係――雨宮や坂本、あと寺崎についても」
「げ、マジか」
意外……というわけでもないけど、いざ名前が出てきたと言われるとうんざりな顔になりかけてしまう。
まぁ警察だってそこまで馬鹿じゃない。私含め怪しい生徒にはアタリをつけていて当然だろう。だから、気に留めるべきはそれ以外の事だ。
「でもそう訊かれたって事は三島くんは怪盗団候補じゃなくて、そこと繋がりがあるかもしれないって段階で止まってそうだね。よかったよかった」
「……やっぱり、そうなのか」
原作との乖離がそこまで無さそうな状況に、横を見る事なく安堵する。
これで三島くんまでマークされてたら言い逃れの余地なく私の所為だからな……。これまでやってきた事も無駄になってなさそうだし、そこは素直に喜べる気がする。
「なぁ寺崎。俺は役に立てないのか?」
「へ? 何を言って……」
なので不意に出てきたその問いかけの真意を探ろうとして、チラと横を見る。そして彼と視線が合わない事を察した私は、前を向き直して事実だけを語る事にした。
「……怪盗団以外でナビを持ってるのは現状三島くんだけだから、その意味では欠かせない。けど戦闘に関しては、うん、色々足りないかも」
「……まぁ、そうだよな」
納得と言うよりは諦めが多く占めてそうな返事だけど、私の勝手な所感を言わせてもらうとこうなってしまう。
私が偉そうな事を言える程強くないというのは前提として、彼もまた強くはない……もとい強く在れないのだ。
それはいつかの美鶴さんも言ってたけど、私たちは共に戦闘に向いていない事に起因している。三島くんの場合はシャドウ相手の自衛ならともかく、対人戦に於ける気迫の不足が原因だった。
要は他者に力を振るう事への抵抗感が消えていないのだ。良く言えば優しく、悪く言えば臆病な彼では
「自分に出来る事がどこまでか、分かってるつもりだったんだ。アイツらみたいに戦えるわけじゃないし、ナビがないと何も出来なくなるのも理解してる。でも、さ……」
すらすらと流れる言葉を聞き留めていると、私たち目の前でダンス部の余興が始まった。
壇上や体育館の中央がステージへと変わる様を見ながら、彼は言った。
「やっぱりなんか、悔しいんだよな」
「……そっか」
何がどう、とは訊かない。直接な言葉にするモノではないと思ったから。
代わりに例えるのなら、まさしく今の状況だろう。
スポットライトの当たらない暗がりに立ったままの私たちが、私の想像に一番近い気がした。
それならと、対策として思い浮かんだのが一つあったので、特に深く考える事なく口にする事にした。
「じゃあ三島くん、代わりにちょっとした約束をするのはどう?」
「え、約束? どういう事?」
「細かい点はなんだっていいけどさ。三島くんの思うカッコいい所を、いつか私に見せて欲しいなって」
「は? いや全然意味が分かんないし、あと俺にそんな事出来る気しないんだけど?」
「ええー、そう? 急にシリアスな感じで不安を語られたから、それの薬になればと思って言ったのに」
「うぐっ」
我ながら適当な返しだとも思うけど、彼自身も変な事を言った自覚はあったらしい。でもその不安は私に向けられたモノでもある気がしたから、これで良いとも思う。
「ここからは私にもどうなるかの保証が出来ないんだから、何も出来ないって思い込むのはきっと良くないって。私でもここまで出来るんだから、三島くんも大丈夫だよ、多分」
「そこは言い切って欲しかったけど……。あと寺崎は雨宮並みにやらかしてる事をそろそろ自覚した方がいい」
「そんな事ないと思うけどなぁ?」
原作を知る者として滅茶苦茶やってないとは言わないが、そういうもの無しで波乱万丈な一年を過ごしている雨宮くんには流石に勝ってない筈。所詮、私はチーターのようなモノなのだし。
「……あ、芳澤さんだ」
ダンス部の皆さんによって場が温まり、次第に流れる音楽が盛り上がりを見せてきたタイミングで、体育館中央ステージにとある赤髪の少女が現れる。
飛び入り参加の制服姿でありながら、新体操で磨かれたその舞踏に多くの生徒の目が止まる。スポットライトの光を受けて更に増幅しているかのような、輝きすら纏って見えた彼女の姿こそ、私がこの後夜祭で見たかったモノだった。
――それが思ったよりも眩しいと、今は感じてしまえたけれど。
「ほら、例えばあそこで三島くんもバッチリ踊ってくるとか!」
「いや無理だからな!? あの子って確か特待生だからアレだけ動けるんじゃないの?!」
「でもほら、隣に来た雨宮くんが凄いキレキレな踊りを披露してるし三島くんも……」
「うわっ、アイツ上手いな?! マジで何でも出来るじゃん?!」
「――あれ、寺崎先輩?」
「三島も来てたんだな」
「「あっ、バレた」」
そんなやり取りをしていた所で二人に見つかり、私と三島くんがあまり上手くない踊りを見せつける事になるのだった。
でも、というか。だからこそ、というか。
この四人で過ごした僅かな時間は、とても楽しいモノだった。
★★★★★
――時は後夜祭が始まる前、講演会の狭間にて。
「結論から言うよ。精神暴走事件の犯人であるあの白い修道女を捕まえる為に力を貸してくれないか、怪盗団」
投稿頻度が落ちたり、一話辺りが長くなっても読んでいただける事、本当に嬉しいです。
というかUAが途切れなかった事がホントに支えでした。それだけで生きている節がある。
感想や評価、誤字脱字報告などもありがとうございます。
なのでいよいよ物語も動き始めるぞ! 進め私の筆!!