私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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視点変更が入るとどうしても長くなります。
あと少しだけ独自解釈が混じっているのでご容赦をば。


#35 シロである筈はない

 

 秀尽学園の学園祭から数日。

 ゲストとして観客を騒がせた明智の姿は、とある四軒茶屋の喫茶店にあった。

 

「――折角だし、コーヒーでも貰おうかな?」

 

「いいだろそんなの。さっさと本題に入れよ」

 

「つれないね。じゃあそういう事なら」

 

「私たちに何をさせたいのか、聞かせてもらえる?」

 

 一人カウンターに座り、テーブル席を埋める面々――怪盗団である蓮たちと向かい合う明智。

 講演会の途中で協力要請を出された彼らに半ば睨まれながら、その具体的な中身を開示していく。

 

「怪盗団の正体に気付いているのは僕だけだ。けど証言や証拠を捏造して、犯人をでっち上げる準備は着々と進んでいる」

 

「それは前聞いた。本題を言え」

 

「冴さんを改心させようと思っている。彼女にパレスがある事は、調べがついてるからね」

 

「捜査機関の暴走を阻止する為か?」

 

「それもあるけど、冴さんを守る為でもあるんだ。これも、前に話したよね」

 

「このままだとお姉ちゃんも危ないって言ってたわよね。精神暴走事件の犯人に狙われる可能性があるって」

 

「その通りだ。けどここからは手を組むと承諾を得てから話したい。結論を聞かせてくれるかい?」

 

 怪盗団の正体、その手口を明智は知っている事。

 そして精神暴走事件の犯人と思われる修道女を彼も目撃した事。その時に同様の力とナビを手に入れた事。

 

 そして、その正体に心当たりがある事。

 

 そこまで明かした上での要請、けれどそこに拒否権なんてモノはなく。ただ受け入れるだけの時間を与えられた末に、彼らはその首を縦に振っていた。

 

「……いいだろう、協力する。だから精神暴走事件の犯人――あの修道女について聞かせてくれ」

 

「分かった、これで僕たちは一蓮托生だ。そしてコレは捜査機関の中でもトップシークレットの話だからね。他言無用で頼むよ」

 

 リーダーである蓮が代わりとばかりにまず尋ねたのは、やはりあの修道女についてだ。怪盗団では殆ど手掛かりを得られなかったあの存在について、明智や警察がどこまで知っているのか。その答えが彼の口から告げられた。

 

「場合によっては君たちよりも怪しいと警察が見ているのは、とある秀尽の女子生徒だ。君たちも先日の学園祭で顔を見ている筈のね」

 

「は? 私たちの学校に犯人がいるっていうの?!」

 

「顔を見ている……まさか……?」

 

 

「――()()()。彼女こそが怪盗団及び精神暴走事件の犯人、その最有力候補だ」

 

 

「寺崎って……いやマジで言ってんのか?!」

 

 そうして出てきた名前に、以前から面識のある面々が信じられないとばかりに動揺を露わにする。

 そうでないメンバーも以前学園祭で会ったばかりの少女がそれだと言われた所で、驚きよりも困惑しかない。

 

「どうして警察はあの女子を怪しんでいるんだ? それだけの根拠があるというのか?」

 

「まずは今までのどのターゲットとも繋がりがある点だ。弟子や実子がいる君たちとまでは言わないが、今までの事件の全てに、彼女の姿があったと目撃情報が上がっているんだ」

 

「鴨志田はいいとして……斑目や金城、奥村の時もいたって言うの?」

 

「その通りだ。あの容姿なら、少なくとも見間違う事はないからね」

 

 同じ学校の生徒である為に初回(鴨志田)は除いても、斑目の展覧会や金城の時の渋谷、そしてオクムラフーズの本社ビルの近くにもいたと言われて真を含めた全員が驚いていた。しかも予告状が出されて数日以内だったと付け加えられたら、偶然と片付ける事も最早出来ない。

 

「そして姿が確認されてから、正確には予告状が出されてから数日以内に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。体調不良と言っていたらしいが、どこまで本当かは怪しい所だ」

 

「……寺崎さん、確かに学校休む日はちょくちょくあったけど……」

 

 同じくクラスメイトである杏にも心当たりはあったようで、思い出すように視線を下げている。それを聞く皆の間にも、何かのピースが繋がっていくような感覚が生じ始めていた。

 

「そしてコレは彼女が怪しまれる最大のポイントになるけど……君たちの学園の校長が記憶喪失になった事は覚えているよね?」

 

「当たり前だろ。それが何だって言うんだよ?」

 

「アレが起こったのは、君たちが修学旅行に行っている間の事だ。一応訊くけど、彼をやったのは君たちじゃないんだよね?」

 

「違う、ワガハイ達じゃない!」

 

「あの時は俺含め殆どがハワイにいた。改心などしたくても出来なかったんだ」

 

「なら校長をやったのは精神暴走事件の犯人という事になるのだけど……()()()()()()()()()()()()()()()()。これまた体調不良で修学旅行を休んでね」

 

「確かにそんな連絡が来てたわ……! じゃあ、それも彼女がやったって言うの?!」

 

「少なくとも一連の事件は全て怪盗団の仕業だと思ってる冴さん達は、そう見ているみたいだ」

 

「なら本当に、あのたこ焼きメイドが犯人なのか……?」

 

 修学旅行にいなかったという事実が、これまでの不審点と合わさって強い疑いを生み出していく。それを確固たるモノにする為にも思えるタイミングで、明智が尋ねる。

 

「以上の点から冴さん警察は寺崎叶を君たち並か、それ以上に怪しんでいる。しかしこの場にいないという事は、彼女は君たちの仲間ではないんだろう?」

 

「違う。寺崎……は怪盗団じゃない」

 

「ならやはり、彼女こそが精神暴走事件の犯人……ないし実行犯なんだと僕も思う。君たちが見たという仲間がいる以上は彼女もまた手先に過ぎないのかもしれないが……君たちの見解はどうだい?」

 

 寺崎叶が怪しいのは明白だが、怪盗団ではない。つまりは精神暴走事件を引き起こしている側だと話す明智に訊かれて、蓮たちもこれまでのケースを思い出していた。

 

「……俺たちが今まで出会ってきた『黒仮面』があの白い修道女、もとい寺崎さんだとすれば、確かにその体格は一致すると思う」

 

「声を隠してたのも私たちに聞かれたらバレるからって事になるよね……蓮が一度だけ気にしてた声も女子のモノって思えば納得できるし」

 

「待てよそれじゃあ、そんな前から俺たちは目をつけられてたって事になるじゃねえか?!」

 

 最初に『黒仮面』と遭遇したのはマダラメパレスであり、その頃はまだ怪盗団が有名になる以前の話だ。その時には既に自分たちの事が知られていたとなれば、初期メンバーがゾッとするのも無理はなかった。

 

「そう言えば私が怪盗団に入る前に、学校で寺崎さんに問い詰めた事があったの。どう見ても何か知ってる風で挙動不審だったけど、そんな秘密を隠していたとすれば筋は通るわね……」

 

「あの『黒仮面』もテレビ番組での彼女と同じく『怪盗団のファン』だと言っていたのも、同一人物だったからか」

 

「聞けば聞くほど怪しいぞソイツ! 絶対なんかある!」

 

「君たちから見ても怪しいのなら間違いないだろう。寺崎叶はクロ、その上で話を進めようか」

 

 警察と明智、そして怪盗団の全勢力から見て寺崎叶は不審点が多すぎると判断づけた所で、明智は寺崎叶が『何故怪しいか』から『何故危険か』へと話題をスライドさせる。

 

「彼女は現時点でもコレだけ怪しいが、あくまでそれは状況証拠。彼女の犯行を証明するモノは、今のところ一つもないんだ。君たちと同じでね」

 

「だからまだ捕まってないって事? ならマコちゃんのお姉さんが頑張ってるのは……」 

 

「無論、君たちや寺崎叶の犯行の証拠を掴む事だ。でもそれが叶わないから、重圧に負けて捏造に手を出しかけているんだけど……もしそんな不当な方法で精神暴走の手段を持つ犯人が逮捕されかけていると分かれば、彼女は何をするだろうか?」

 

「……当然、お姉ちゃんの『廃人化』を企むでしょうね。それを防ぐ為にも、先に私たちの手で改心をするというわけかしら?」

 

 自分の姉が歪んだ手段に手を染めかけている事に加え、その命すら危ないと言われてピリつきを抑えきれなくなっている真がそんな最悪を言い当てる。

 それに頷いて肯定を示しながら、明智はだからこそだと繋げた。

 

「疑いが向けられている事にも相手はいずれ気付くだろう。けれど怪盗団が動いていると分かれば、必ず此方の動きに合わせて来ると僕は見ている」

 

「なんでそんな事が言えんだよ?」

 

「あちらからすれば今回も怪盗団の仕業に見せかけられるチャンスだからだ。此方の手口が筒抜けになっている以上、使わない手はないからね」

 

「完全にあっちの思う壺じゃん、そんなの!」

 

「だが奥村を自らの手でやりに来た以上、予告状が出された日に彼女が現れる事は明白だ。だからこそ僕たちも待ち伏せし、捕まえる。そうして仲間や手口を吐かせるしか、君たちの潔白を証明する方法はない」

 

「その為に必要な人柱が、俺たちだと?」

 

「これは異世界で戦う力を持つ君たちにしか出来ない事だ。僕だけで出来るのなら、声をかけたりなんてしなかったよ」

 

 目には目を、とばかりに己の作戦に怪盗団が必要である事を力説する明智。

 それが理解できないわけではないが、無実である事を証明出来たらそのまま怪盗行為も辞めてもらうと言われたら、最早呆れるしかないという感じになる怪盗団。

 

「何故、そこまでしようと思うの? 明智くんにとっての正義って何?」

 

「……極めて個人的で、くだらない理由からさ。サイテーな大人や気に食わない奴への反骨心が、僕の正義の源なんだよ」

 

「お前……」

 

 けれど春に尋ねられて僅かに感情を吐露した彼を見れば、ただ冷血であると見る事も出来ない。

 それはこの中で唯一、どちらとも繋がりのある蓮としても同様だった。

 

「それに精神暴走事件の犯人である寺崎叶、彼女すら裏で操っている奴がいるかもしれない。それを明らかにする為にも、僕は止まるわけにはいかないんだ」

 

「……だから、寺崎とも知り合いになったのか?」

 

「そこは君と同じで偶然だよ。ただ、この決心にこれまでのやり取りが響いてないとは言い切れないかな」

 

 怪盗団をキッカケにして知り合い、たまに会えば言葉を交わす程度の間柄であっても思う所はあると語る明智。

 

「なぁ、そこまで分かってるのならその寺崎って奴を改心させればいいんじゃないのか? 訊かれて挙動不審になるくらいなら、予告状出せばメメントスでやれるだろ」

 

 しかしそうも言ってられないとばかりに、双葉がそんな提案を口にした。ただし血気盛んにではなく、作戦の一つとしてアリじゃないかというモノだった。

 

「……いや、それはワガハイも考えたがダメだ。この前戦った時にペルソナを使っていた以上、アイツの改心は不可能だ」

 

「モナちゃん、どういう事?」

 

「ざっくり言うとだな、シャドウってのは人の心から生まれるモノなんだ。そして自分の心から生じたシャドウを、己の意志で操れるようになったモノがペルソナだ。だから予告状を出してもメメントスにシャドウは出ない。もう本人の制御下にあるんだからな」

 

 ついでにペルソナでシャドウを倒す事が出来るのは同じルーツを持っているからだと付け加えられ、理解の早い面々は納得したように頷いた。

 

「それでパレスはソイツの歪んだ欲望がコアになって生まれる異世界だが、ペルソナ使いからパレスは生じない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「だからあの修道女が寺崎叶だとすれば、彼女を改心させる事は出来ないというわけか」

 

 思いがけないタイミングで仕組みを知った怪盗団がこれまた一部を除いてモルガナの言いたい事を噛み砕いていると、一人だけその話に表情を変えた者がいた。

 

「モルガナ、ペルソナ使いはパレスを持たないというのは本当の話かい? 間違いではなく?」

 

「その筈だが……どうしたんだ、アケチ?」

 

 彼にしては珍しく、軽く動揺した様子で明智がモルガナへと確認する。その理由が分からない怪盗団の視線を浴びながら、彼が取り出したのは自身のスマホだった。

 

「もう一つ、警察も知らない寺崎叶の不審点があるんだ。いずれ君たちも辿り着くだろうし、先に共有しておくよ。てっきりコレも彼女が精神暴走事件の犯人だからだと思っていたのだけどね……」

 

「もう一つの、不審点?」

 

 そう言って彼が全員に見せたのは、この場の全員が所持している謎のアプリ、『イセカイナビ』。

 そのキーワード欄の一番上、対象の名前を打ち込む枠の中に『寺崎叶』の文字が入力されていた。

 

 『――()()()()()()()()

 

「は?!」

 

「ヒットしたって、まさか……?!」

 

「見ての通りだ。これが何を意味しているのかはまだ分からないが……()()()()()()()()()()()。それだけは確かなんだ」

 

「なんだと……?」

 

 何度目か分からない驚愕が、ルブラン全体を支配していた。

 

 

 ★★★★★

 

 

 学園祭も終わった十月も終わりに近付く日の放課後。

 怪盗団with明智くんの御一行様はカジノを模したニイジマパレスに侵入し始めた頃かなと想起しながら、私は私で目の前の状況に意識を割いていた。

 

 なんせ私が今やっている事も球を入れるゲームだ。そうして点を稼いで勝利を掴む。その為に周囲へと注意を張り巡らせる。短い息で頭を回し続けていた。

 

「ふっ――!」

 

「っ!」

 

 軽いフェイントの末に向かい合う相手の隙を作り出し、その瞬間を狙ってコートを蹴る。右手でボールを弾ませ続けながら、ゴールへと繋がるルートを最短で駆け抜けようとして――立ち止まる。

 

「ざーんねん!」

 

「うーんと……!」

 

 新たに私の前に現れたその女子が腕を広げ、私の進路を妨害する。一目見て、更に深く沈めば掻い潜れそうだと直感した。

 けれど既に十分に距離は詰めた。この位置、このタイミングならフリーで撃てると判断した私はボールを両手で掴みながら飛び上がり、頭上に掲げた姿勢からその球を発射する――!

 

「ブロック――!」

 

「ああもう、身長が足りなーい!」

 

 けれどそこからでもギリギリ追いつかれ、相手の手に当たったボールが軌道を変える。そのまま弾かれて場外へと落ちた事で、その流れは一度断ち切られる事になった。

 

「はい、攻守交代! 叶、今のは惜しかったねー」

 

「むぅ、イケると思ったのになぁ……」

 

「めげないめげない。夏前と比べてもかなり動けるようになってるから、この調子でやれば大丈夫だと思うよ」

 

「はい、あざます先輩!」

 

 悔しさと反省を程々に感じながら、私含めた数人がコートの中で入れ替わり、また同じような流れが始まる。

 

 そんな感じで、今日の私は女子バスケ部の練習に参加していた。その理由は()()()()()()()()()()()()()()()事が起因している。

 でもそれはそれとして、なんかこういうの久しぶりだな……と感慨深くなったのは内緒である。

 

 

 

 

 

 あっという間に練習が終わり、所変わって女子バスケ部の部室。大して広くもない部屋に、十人弱の女子と声がひしめきあっていた。

 

「だーあっつぅ……。今ホントに十一月? 全然夏じゃない?」

 

「マジで秋がないよね最近。ちょっと動いただけですぐに汗かくし……あ、シーブリーズ切れちゃった。貸してくれない?」

 

「アンタまたぁ? この前も言ってなかった?? ほらコレ、私も使うんだからはよ返してよ?」

 

 運動終わりで火照った身体と、それによる諸々を処理するべくあちらこちらがスペースを主張してワチャワチャしていた。そんな華やかさのハの字もない中に混じって、私も手早く着替えだけは済ませる。

 

 あとは長机が空いていればと思ったけど、息抜きという名目で襲来した三年生に占領されている。諦めて自分の荷物スペースでやろうとした所で、隣でスプレー缶を振ってる友達と目が合った。

 

「叶、どこかで食べていかない? 最近動きっぱなしだし、財布もお腹も締めすぎは良くないと思うからさ」

 

「この前進撃にハマって最新話まで一気にコイン課金した女の発言とは思えないけど……ごめん、私この後バイトあるんだ」

 

「ああそっか、またファミレスバイト再開したんだっけ。部活した後まで働くなんて、叶ってば勤労少女だね」

 

 学園祭で共にメイド服を着て店員役をこなし、その報酬として余ったたこ焼きを一緒にパクついた仲である友達の誘いをやんわり断る。

 

 夏休みまでに八十稲羽(やそいなば)への旅行資金を貯めるという目的でやってたファミレスバイト。辞めようとした所で店長から空き時間に来るスタイルでいいからと言われて籍だけは残していたソレに、私は再びシフトをぶち込んでいた。

 

 その理由は異世界に行けなくなって時間が空いたのもあるけれど、単純にまたお金が必要になったからだ。具体的にはボウガンの改造代を桐条グループにお支払いする為である。

 最初はロハで良いって雰囲気もあったけど、個人的にそこの筋は通しておきたかったのだ。まぁその金額を見てメメントスでの金策(カツアゲ)が出来ないか一瞬迷ったけども。

 

「なになに、二人ともファミレス行くの? ならウチも行く〜」

 

「いやその、私はバイトで……」

 

「なら私らは客になるから一緒に行こうよ。それで今日こそお友達サービスしてもらう感じでさ」

 

「え、サービスマジで?! いや〜持つべきは融通利かせてくれる友だちだねやっぱ」

 

「あはははは、ならしこたまするパフェとかを領収書と共に持っていってあげるから覚悟してもらおうじゃん……!」

 

「そんなんボッタクリじゃんサイテ〜!」

 

 そんな適当な会話からもう何人かが私の働くファミレスで時間を潰す事を決め、連れ立って渋谷を目指して進撃する。結果的に一人ではなくなったのが、少しだけ有難かった。サービスはしないが。

 

 

 

 

 さて、何故異世界に行けなくなったかというと、十月に入って奥村社長が倒れた辺りから、私を取り巻く状況が変わってしまった事に起因する。

 

 あの一件で怪盗団と精神暴走事件が紐付けられ、その沈静化の為に多少強引にでも捜査が行われるようになった。その一環として、怪しい人間の一人であろう私は何処からともなく監視されている……ような気がするのだ。

 

 何人かを経由してそう忠告された私も気にしてはいるけども、雨宮くんみたいに『サードアイ』を持つわけでもないので、ぶっちゃけどこの誰が見ているかとかは全然分からなかった。

 でもこれまでの行い的にノーマークな感じもしないので、こうして部活やバイトに勤しむただの一学生になる事を選んだのだ。

 

 そんな何処から誰が見てるか分からない状態なので、三島くんと合流して異世界で修行なんて事も出来ない。というか怪盗団からもそろそろ怪しまれていると思うので、余計に隙を晒す事は好ましくなかった。私の正体が完全にバレてしまうのはまだ早いのです。

 

「――寺崎さん、23番テーブルお願い!」

 

「はい行きまーす!」

 

 なのでこうしてまたファミレスの店員をするのが今の最適解。いずれ来る決行日に備えて、あらゆる想定と準備を重ねる他にないだろう。

 そんな感じでサービスをねだってくる部活仲間をいなしつつ、注文機片手に呼ばれたテーブルへと赴く私。

 

「お待たせいたしまし――って、雨宮くん?」

 

「今日もお疲れ様だな、寺崎さん」

 

 そこで待ち構えていたのは、最早お馴染みと言っていい天パ眼鏡の男の子である雨宮くんだ。ここ最近で顔を見ると、別の意味でも少しドキッとする。

 しかし今回は独身貴族さま、というわけでもないようだった。

 

「今日は三島くんも一緒なんだね。元気してる?」

 

「……まぁ、ぼちぼちかな」

 

 雨宮くんの向かいに座るのは、下手すると雨宮くんよりも顔馴染みになりつつある男子こと三島くんだった。

 彼も私の接近に驚きこそしなかったけれど、挨拶すると軽く目を逸らされてしまい、やや面食らう。はて、まるで私に見られたくなかったように感じるけど、何故に?

 

「こほん、それではご注文をどうぞ〜」

 

「じゃあこの『魅力爆上げナタデココパフェ』一つ。三島は?」

 

「あ……ええと、その」

 

 それでもめげずに注文を尋ねると、メニューを持ったまましどろもどろになる三島くん。どこか心ここにあらず感が滲み出てるけど、コープ最終回とかで気持ちの整理でもしてるのだろうか。

 

「…………じゃあ適当に、フライドポテトで」

 

「……かしこまりました、パフェとフライドポテトですね!」

 

 けれど最終的にはメニューを指差しながら、特に言うこともない無難なチョイスをしてくれた。

 どんなやり取りをするのか気にはなるけれど、店員である以上は業務がある。なので笑顔でオーダーを受け取り去る事にした。 

 

「――すみません、此方もオーダーお願いします」

 

「あ、はい!」

 

 その途中、すぐ近くの別テーブルからお声がかかった。注文機があれば対応は出来るので、そのままの足で向かって立ち止まる。

 

「お待たせしました、それではご注文をどうぞ!」

 

「ではオムライスを一つ、お願いしよう」

 

 テーブル席を一人で使う銀髪の男性の言葉を受け取り、慣れた手つきでその注文を打ち込んだ。そのついでにテーブルにあった皿や用紙を回収し、テーブル二つ分の料理を届ける為にキッチンへと戻っていった。

 

 

 ★★★★★

 

 

「――また、『廃人化』が起こったのね」

 

 今や怪盗団捜査の指揮を執る立場の女検事、新島(にいじま)(さえ)の下に届いた報告。その中身を聞いた彼女は何度目かも分からない溜息をつく。

 

 特捜部長から捜査を任されてから、今のところめぼしい手掛かりは上がってきていない。そんな現状を嘲笑うかのように、怪盗団の仕業と()()()()精神暴走の事象が立て続けに起こっていた。

 

 その殆どを起きてから知るという忸怩たる立場だが、彼女も無力というわけではない。こうして冴が通話している相手も、今や彼女が手にしている数少ない手札の一つではあったからだ。

 

『――ああ、しかし早期に保護できた事で命に別状はありません。意識が戻り次第、本人への事情聴取も可能になる筈です』

 

「なら目が覚め次第、連絡をお願いします。今はどんなにか細くても、怪盗団に繋がる道筋が必要ですから」

 

『承知しました。被害者を収容している我々の系列の病院に、話を通しておきましょう』

 

 冴が耳に当てたスマホから流れてくる声も、若くて落ち着いた女性のモノ。

 怪盗団捜査に協力しているシャドウワーカーの部隊長である桐条(きりじょう)美鶴(みつる)が報告を終えると、交代だとばかりに尋ねる側へと回った。

 

『それで、これまでで共有した被害者たちについてですが、何か分かった事はあるのですか?』

 

「……残念ながら細かい事はまだ何も。精々がみな共通してある程度の社会的地位を持っている位です。選挙が近付いている事が関係しているという見方も出来ますが、それだけでは犯人像の特定には繋がりませんし」

 

 歯がゆさを隠しながら答える(さえ)としては、ここ最近の事件はこれまでの怪盗団事件の裏で起きていた精神暴走事件の方に近しい印象を抱いていた。

 しかし予告状も共に見つかっている以上は怪盗団の関与を疑わない余地はなく、むしろ被害者と共に手掛かり自体は増えていく事には歓迎の意すら感じている。

 

 それでも何処か拭いきれない違和感が、(さえ)美鶴(みつる)との会話の中で積もり始めていた。

 

『……では、公安と共にマークしている怪盗団候補の方はどうですか? その殆どが未成年だと記憶していますが』

 

「そちらもまだ暫くはかかりそうです。或いは監視にも気付かれているのか、大半がただの学生生活を送っているようにしか見えないとか」

 

 余計な先入観を省いて作成されたリストに基づき、特にその可能性が高いとされる人物には既に監視が付き始めている。もっとも、まだ疑わしきは罰せずの段階なので四六時中見ているわけではないが。

 

「ただ、そちらは明智君も動いているようなので、いずれはボロを出すでしょう。だからこそ私たちは手口の解明を目指さなければなりませんが、何か分かりましたか?」

 

『それについてですが、ここ最近の被害者たちの中で予告状が来たと『廃人化』する前に通報してきた者がいました。その何人かはこちらの人間を護衛に行かせたのですが、成果を出す事は出来ませんでした』

 

「……そう。奥村氏の時と同じだったのね」

 

 ここ数日で被害者は増え続けているが、警察側も何もしていないわけではない。

 手口が分からないなりに助けを求めてきた者の身を保護するように動いてきたが、やはり得るモノはなかったらしい。

 

『ですが、一つの仮説は立てられました』

 

 落胆よりも焦燥の方が強くなりだした所で、美鶴(みつる)が逆接の言葉で繋げた。

 

「ほ、本当ですか!? 奴らは一体どんな方法で『改心』を?!」

 

『まずこれまでのケースから、被害者の前に現れて直接害しているという線は考えづらいでしょう。ここまで我々や警察の目を搔い潜れるとは思えませんから』

 

「そう、ですね。もしそうならとっくに実行犯として逮捕出来ているでしょうし」

 

 最初の前提からもうおかしいとは思うが、ロジックとしては(さえ)も否定は出来ない。

 シャドウワーカーもあらゆる手で周辺をチェックしていたが、それこそ幽霊でもない限りはその監視下を突破されたとは言えないらしい。

 そして監視下に置かれるよりも前に手を下されている可能性も低い。それだと予告状の意味がないというのも二人の間では共通認識だったからだ。

 

『つまり彼らには被害者に手を下す為の()()()()()()があるというのが最初の考えです。ここまではいいですか?』

 

「そこが分からないから困ってるのですし、当然です」

 

『では次に私共が過去に扱った『無気力症』、その原因については御存じですか?』

 

「ええ、大まかには。確か、異界の怪物である『シャドウ』に依るものと聞いています」

 

 (さえ)の皮肉も意に返さず、美鶴(みつる)が出してきた病名は彼女も知っている。

 もっとも報告書を流し見しただけで、同じ世界で起きた事件であるなどとは露とも思っていないが。

 

『『廃人化』と『無気力症』は別のモノであるという見解は変わっていません。ですが()()()()()()()()()()()()()()()という意味で、共通点があるのではと疑っています』

 

「現実以外の場所、ですか? 仰る意味がよく分からないですが……」

 

『現実にいる被害者には何もされていないのなら、手を出されたのはそれ以外の場所からではないかという話です』

 

 そもそも現実以外にも世界があるという前提で話す美鶴(みつる)に、(さえ)の理解が早くも追いつかなくなる。やっぱりオカルト集団なのか、もう聞き流すべきかと迷う彼女の耳に、聞き覚えのある単語が入ってきた。

 

『そしてそれこそが『認知訶学』でいう『認知世界』ではないかと』

 

「『認知訶学』……! 一色(いっしき)若葉(わかば)の研究ですか?」

 

『彼女は論文で、人にはそれぞれ認知世界があるのではないかと述べていました。そこに干渉する方法が現実の本人に接触するモノでないとすれば、この仮説は成立するはずです』

 

 認知訶学はシャドウワーカーが関わってくる前から(さえ)も目をつけていたモノだ。

 しかし更なる専門家である彼らが来てから思い出す事も減っていたが、ここに来て再度浮上したその可能性に、彼女も興奮を隠せない。

 

「ですが彼女の研究は未完成だったはず、いえそもそも今回の事件に『認知訶学』が関わっているという証拠もまだなかったのでは? まさかそれが見つかったのですか?」

 

『残念ながらそこまでは。しかし最初に見つけた明智探偵の勘も間違っていないのではと思っています。彼がどうやって気付いたのかにも、興味が湧くくらいには』

 

「……? ですが『廃人化』や『改心』の方法が『認知訶学』に関わるものだったとして、その手法の解明はどうすれば? もしその現実ではない認知世界とやらを介しているのなら、私たちには手の出しようも――」

 

『予告状が、そのカギになっているのというのはどうでしょうか』

 

「予告状が、認知世界へのカギ?」

 

 そしてもたらされた可能性に、(さえ)は証拠品の一つであるカードを手元に取り出す。

 赤と黒で彩られた予告状を持つ手に、自然と力が入っていく。

 

『直接接触する必要のない犯人が被害者へとわざわざ送ったモノである以上、必ず何か意味があるはずです。例えばその予告状が本人の手に渡る事が、その人物の認知世界に影響を及ぼすトリガーとなっていると言った具合に』

 

「予告状の意味……。本人の認知を変える、催眠のようなものが仕込まれている? いいえ、カードからは何も出なかったはず……」

 

『勿論これもまだ仮説の一つです。本当に『認知訶学』が関わっているかも含めて、まだまだ捜査が必要でしょう』

 

「……何も分かっていない状況には変わらない。ですがケースが増える程、可能性は絞れる筈ね」

 

 或いは一度辿り着いていたかもしれないが、いつしか見落としていた可能性。

 それでも会話の中であるかもしれないと思えた事に、(さえ)は久々に前進したような感覚を覚えていた。

 

『これから予告状が届いた人物には、『認知訶学』の視点からのアドバイスもしてみましょう。もし効果があるようなら、それも『認知訶学』の関与を頷ける証拠になります』

 

「ええ、やれる事は全て行いましょう。私たちの手で、この事件を解決する為に」

 

『…………ええ』

 

 ようやく光明が見えたとばかりに、次に取るべき行動を思い浮かべていく(さえ)

 『認知訶学』やこれまでの事件の洗い直しなどやらなければならない事は多い。だから最後に美鶴(みつる)が言い淀んだ事には気付かなかった。

 

 

 

 

 そんな彼女に予告状が届いたのは、数日後の事だった。

 




原作だと色々ボカしてあるシーン多かったですよね。

閲覧、感想、評価、誤字報告など誠にありがとうございます!

次回、ようやっとパレスに突入です。
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