私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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この為に二次創作を書いている節がある。


20XX/11
#36 白黒つけるヒマはない


 

 夜の東京。その一際輝く一等地に、宮殿(パレス)の名を冠するそのカジノは建っていた。

 そこはとある人物の認知によって本来の姿(裁判所)から歪められた景色であっても、やって来た人間の行く末を決める勝負の場であるという本質に変わりはない。

 

 そんなパレスの最上階、巨大なルーレット盤をガラス張りのドームで蓋をした空間の中心に、彼らは立っていた。

 

『――ただ力をぶつけ合うなんて、この場に相応しくないわ』

 

 一人はこのパレスの主である、新島(にいじま)(さえ)のシャドウだ。現実の彼女ならまず着ないだろう高露出のドレスに黄色の薔薇の女優帽を被り、その下から濃い黒で縁取られた瞳が覗いている。

 

『さぁ、来なさい』

 

 その人影が一瞬、異形のモノへとブレて映った。

 

「お姉ちゃん……」

 

「――救うんだろ、クイーン?」

 

 そんな中身まで変わり果ててしまった姉の姿に動揺を隠せない(クイーン)に肩に手を置いて奮起を促したのは、赤いペストマスクに白い貴公子のような衣装の探偵、明智(クロウ)だ。

 (クイーン)と同じく現実世界の彼女を知る一人としての激励に、妹として、怪盗としてのやるべき事を思い出したとばかりに立ち上がって見せる。

 

「……分かったよ、お姉ちゃん。ならもう遠慮なんてしない。全力でぶつかるから!」

 

 そう言って覚悟を示すように拳を合わせて打ち鳴らし、それが戦いの始まりを告げるコング代わりとして響く。まさに気合十分といったところだ。

 

「……いよいよ、だね」

 

 彼らにとってはここも決して譲れない一線にして一戦。そんな光景を端から眺めながら、私は一人小さく呟いた。

 

 

 

 

 ……え? 私がどこにいるかだって?

 初めに言った通りの端っこ――ガラス張りのドームの外側の隅だけど? パレスの最上階で吹きっさらしの強風に耐えながら、彼らからは見えないだろう物陰に隠れているだけですけど?

 

 なんせ今日が初潜入である以上、怪盗団のみんなが使った正規のルートは通れない。カードもコインもなければ、それを辿るだけの時間もない。

 

 なのでパレスの外壁を登って、ここまで辿り着いたというわけだ。ペルソナ使いとしての身のこなしと、鎖鎌とボウガンを組み合わせてワイヤーフック代わりにする事でどうにか間に合わせたけど、何度か落ちかけたからそれなりに無茶だったなとは思います、はい。

 

「装備や体力も……ヨシ、まだ大丈夫だね」

 

 中で始まったシャドウ冴さん戦を横目に、私は私で自身の状態確認を手早く済ませる。外壁を登って来たから戦闘(エンカウント)による消耗は殆どなく、気力と体力の減りはこの戦いの間に回復出来る範疇だった。

 

 因みに私の装備とはいつもの鎖鎌、左腕と右足に巻き付く鎖、右腕に装着したクロスボウ、そして腰のホルスターに下げたモデルガンの4点セットだ。モデルガンじゃなくて召喚器を入れてた時期もあったけど、今日は持ってると危ないので外していた。

 

『――ここは私の世界! だから私がルールなのよ!』

 

『これが、お姉ちゃんの本性なの……?!』

 

『ジョーカー、ここからはいつもの殴り合いだ! 気合入れてけ!』

 

「む、イカサマシーン終わっちゃったな」

 

 そんな事をしている内に冴さんの姿が人から異形のソレへと変わり、彼らの周囲を回るルーレットの絵柄も変化していく。私としたことが、今回のパレスの唯一の助太刀チャンスを逃してしまったらしい。

 

 冴さんとの戦いは、まず最初にカジノ風のルーレットに挑む事になるのだけど、当然のようにイカサマがされている。言っちゃうとルーレット盤のマス目にガラスで蓋がされていて、絶対に賭けた所には入らないようになっているのだ。

 けど所詮はガラス製なので銃で撃つなりすれば対処は出来る。それを私がやってお助けしようかと思ってたけど、済んでしまった事は仕方ない。

 

「……まぁ、それをした所でもう意味はないのかも」

 

 既に怪盗団は私のことを敵対視している筈だし、そもそも彼ら自身で見抜いて突破してみせたのだから、やはりソレは余計なお節介だったのだろう。

 

『――食らえッ!』

 

『全員、避けろ!』

 

「っと、いやいやここから。肝心なのはここからだから」

 

 余計なお節介という単語に我が身を振り返りかけた所で、ガトリング砲によって響き続ける銃声が私の意識を引き戻す。それが正気か狂気かという懸念は置いておくとして、今は怪物となったシャドウ(さえ)さんと戦う彼らへと目を向けた方がいいだろう。

 

 なんせこのパレスの主である(さえ)さんには悪いけど、今日の本番は彼女との戦いじゃない。

 彼女のシャドウを倒した後こそが私たちの本当の戦いの舞台だと、私を含めた全員が理解している筈だから。

 

『私は……正しいの……ッ!』

 

『それはかつての冴さんであって、(シャドウ)の貴女ではない筈だ! ――クイーン!』

 

『目を醒まして――お姉ちゃん!!』

 

 ガトリング銃から広範囲にばらまかれた弾丸の雨の中を、『ヨハンナ』に乗ったクイーンが疾走する。僅かに避け切れなかった弾丸の群れを、クロウの光剣がピンポイントに切り払う事で活路が開かれた。

 

 その穴をヨハンナから跳躍したクイーンが潜り抜け、思いを乗せた一撃が姉の影を打ち払った。

 ……そうして戦いは決着がついたんだけど、クロウ(明智くん)なんか凄い事してなかった?

 

『完敗、ね……』

 

『思い出してよ、お姉ちゃんの正義を……!』

 

『……人って、何がきっかけで変わっちゃうの?』

 

『ここまで歪んで偏った思考になるなんて、本人の欲望以外に何か原因でもあるのか……?』

 

 戦意を失った冴さんのシャドウに語り掛けるクイーンの後ろで、ノワールの言葉を受けたクロウがそう呟く。けれどその答えが出るより前に、オタカラを探しに行っていたスカルとフォックスがアタッシュケース片手に戻ってくる方が早かった。

 

『これで取引は成立だ。君たちとの作戦、いい経験になったよ』

 

『今後も続けるか?』

 

『はは、生憎と僕は探偵でね。それにこれが最後だって約束のはずだ。忘れたわけじゃないだろう?』

 

『ん……? ちょっと待って、敵の反応が外に集まって来てる?!』

 

 これで最後の仕事は完了――そんな雰囲気を(つんざ)くような叫びが、探知を終えたナビから飛び出してきた。

 

『なんて数だ……!』

 

『や、ヤバくない?』

 

『主を倒して、オタカラまで盗ったはずなのに、シャドウたちのざわつきが収まらないなんて……! 何が起こってるんだ?!』

 

 パレスの至る所から何故か敵が増え、逃げ道が失われていく事に慌てる怪盗団たち。

 しかし彼らが集まっていたらすぐに見つかりバレてしまうという事で、各自バラバラになって逃げる作戦がクイーンの口から提案される。

 しかしそれには囮役が必要不可欠という事で、真っ先に手を上げる男が一人いた。

 

『ここはリーダーに任せろ』

 

『貴方まさか、一人でオトリをやる気!?』

 

 そうして名乗りを上げた者こそ、怪盗団のリーダーであるジョーカーだ。

 こうして一人になった彼が仲間を逃がす為に黒服たちを引き付けるシーンになるのだけど、その場面こそがペルソナ5という物語の始まりにして転換点となるんだよね。

 一番最初に見るこのシーンに辿り着く為の回想をここまで進めるという物語の構成には、その中に仕込まれたトリック含めて驚かされたというもので――

 

 

『――いや、一人で囮をするのは無謀だ。だから僕も行こう』

 

 

「えっ?」

 

 何度も見たはずのシーンを思い出していた私は、そんな記憶とは食い違う彼の言葉に目を見開いた。

 

『クロウ、いいのか?』

 

『今の僕なら君にだって合わせられるさ。それにココから確実に逃げる為には各自大体二人組になって行動した方がより確実だ。違うかい?』

 

『……そうね。あなた達二人が囮になってくれたら、不測の事態が起こっても対処出来そう』

 

『勿論だよ。それにもう一つの利点として――』

 

「え? え? え???」

 

 知らない。こんな展開は知らない。こんなのは予想していなかった。

 けれど確実な事が一つだけあるとしたら、それは私の知る流れを変えうる唯一の存在だった。

 

「明智くん、まさか……!?」

 

 彼らの話を聞くのも程々に、こうしちゃいられないと慌てて立ち上がる。

 そんな私の方向を、チラリと彼が見た気がした。

 

 

 ★★★★★

 

 

 カジノとは、己の持つ運命を試す場である。

 今日もそんな人で溢れている賭け事の戦場で、やや種類の違う騒ぎと熱が広がり始めていた。

 

「いたぞ、あそこだ!」

 

「フッ……!」

 

 人々の頭上を飾る豪華なシャンデリア。その上を器用に駆ける黒と白の人影に、気付いた人々は声と指し指をを上げていく。ここでまた別の争いが始まりつつあるのだという認知が出来ていく中で、彼らもまた動き出していた。

 

『――よし、逃走開始だ!』

 

『今なら逃げられる!』

 

『アタッシュケースは、こっちで回収しておくわ!』

 

 このパレスから脱出するべく散った仲間の声が通信越しに聞こえてくる。しかし彼らが無事に逃げられるようにあえて姿を晒した以上、此方に語りかけて来るのは仲間たちだけじゃない。

 

『賊め、逃がさんぞ!』

 

『ここで捕らえてくれる!』

 

 床から突然生えてきたように現れた仮面の黒服が、ジョーカーの進路を前後から塞いでくる。

 しかしジョーカーはふてぶてしい笑みを浮かべたまま、目の前の敵の仮面を剥ぐべく地を蹴った。当然黒服は持っていた警棒を振り上げ応戦しようとするが、それが叶うことはない。

 

 何故なら、彼も一人ではなかったが故に。

 

「――おっと、そうはいかないよ?」

 

「ッ?!」

 

 何処からか飛来した光弾によって警棒が弾かれ、その隙に取り付いたジョーカーが勢いよく黒服の仮面を奪い取る。その下にあった本来の姿を見据えながら、ジョーカーはそのもう一人と背中合わせになる形で着地した。

 

『戦力比較は問題なし! 遠慮なくやっちゃってジョーカー、クロウ!』

 

「じゃあ大立ち回りといこうか、ジョーカー」

 

「遅れるなよ、クロウ」

 

 ナイフと拳銃、光剣と光線銃を携えた二人が、その言葉をキッカケにして解き放たれる。

 お互いに担当のシャドウを切り刻んで風穴を空けて魔法で吹き飛ばしてから、改めて二人は並び立った。

 

「さて、ある程度は倒さなきゃいけないけど、いつまでもこうしてはいられないか」

 

「陽動としては十分だろう。俺たちもそろそろ行くぞ」

 

 彼らの役目は目立つ事だが、それで退路を完全に失っては意味がない。一箇所に留まり過ぎまいと、ジョーカーがナビの示した方向へと進もうとする。

 

「……ああ、そうだね」

 

 そんな彼の背中を見て返事をするクロウ、その右手には使ったばかりの光線銃がまだ握られている。

 熱が籠っていながらも残弾のあるその銃を、彼は迷いなく――

 

『ちょ待て二人とも! そっちに誰か向かってる!』

 

「大丈夫さナビ。もう捉えたから」

 

 ――その闖入者へと向けて、引き金を引いていた。

 

「っ!」

 

「やはり、来ていたか」

 

 ジョーカーの頭上から迫ってきていた純白の人影を、クロウの光弾が撃ち落とす。

 それに大した驚きも見せずに構えるジョーカーの前で、白いシスターベールを翻しながらにその人物が着地する。

 黒い目隠しの上から付けられた黒い仮面が、変わらず鈍い光沢を携えていた。

 

『この反応、オクムラパレスのと同じ奴だ!』

 

「僕が見た人物とも一致しているね。なら久しぶりと言うべきかな? ――寺崎(てらさき)さん」

 

「…………」

 

「答えてくれ。キミは本当に、()()なのか?」

 

「…………」

 

 クロウがその名前を出しても、白い修道女は何の反応も見せない。確証が欲しいジョーカーの問いかけにも、下を向いたままで口を開く事はない。

 

 そう思っていたからこそ、二人は反応する事が出来ていた。

 

「――ごめん。今はまだ、話せない」

 

「――へぇ、その割には随分なご挨拶だね!」

 

 鎖鎌を逆手に持ち、突進してきた白い修道女をクロウは光剣で受け止める。

 そこから僅かにリーチの短い鎌を使った連撃へと繋げ、光剣の間合いの内へと入り込もうと修道女は画策する。()()()()()練度の上がったその攻勢にクロウが押され始めるが、彼に焦りは生じない。

 

「はぁっ!」

 

「くっ……!」

 

 同じくナイフを逆手に持ったジョーカーが、踏み込みと同時に斬り上げの一閃を繰り出す。

 崩された体勢から受け身へと転じるべくバク転する修道女は、その直前でジョーカーの左腕を振りかぶる動作を見て不利を悟った。

 

「ワイヤーフック……!」

 

 本来なら移動に使われる筈の金具が矢の様に放たれる。バク転中で避けきれないと判断した修道女は、左腕に巻いた鎖の部分でそのコースを逸らそうと試みた。

 

 腕を垂直に立てて弾く事で、ギィンと横方向に流れていくワイヤーフック。されどその先にあったシスターベールの端に引っ掛かり、グイと修道女の頭部を覆っていた布が引っ張られる。

 

 その下にあった桃髪が、ユラリと揺れる。

 その隠し切れない特徴が二人の目に留まった事で、ある事実が確定してしまっていた。

 

「その髪、それに声も……。やはり寺崎さんが黒仮面の正体だったんだな」

 

「……バレちゃったか。うん、流石は雨宮くん(ジョーカー)だね」

 

「そして当然のように此方(こちら)のコードネームも知っていると……。本当に君はどこまで知ってるんだい?」

 

 呆れたように言うクロウだが、ジョーカーと同様で油断はない。

 しかしそんな二人に対しても修道女――寺崎叶という名の少女は、己の態度を変えようとはしなかった。

 

「悪いけど、それもまだ言えない。言わなきゃいけないとは思ってるけどね」

 

「何やら考えはあるみたいだけど……なら質問を変えようか。君は一体、何をしに来たんだい? 奥村だけでなく、恐らくは秀尽学園の校長の記憶すらも奪ったであろう君が」

 

 だからこそと確信を持ったように問い詰めるクロウと、それを受けても様子の変わらない彼女の反応。

 そしてついに出てきたその自白に、ジョーカーは息を呑んでいた。

 

「そうだね、確かにその二人の記憶を奪ったのは私だよ。私の意思で、その二人を手にかけたんだ」

 

「……本当に、寺崎さんがやったのか?」

 

「嘘じゃないよ、ジョーカー。だから私とあなた達は相容れなくて、そしてもうアナタを野放しには出来なくなった。だから私はここに来たんだ」

 

「なるほど、つまりは僕たちを逃がす気はないという事だね」

 

 鎌のついた鎖を回してこれでもかと戦意を見せつけてくる彼女に、クロウは光剣を振り払うようにして応える。

 そんな二人を見て僅かに考え込んでから、ジョーカーも獲物であるナイフを握り直していた。

 

『黒仮面と接触したんだな、ジョーカー!? でもパレス全体が包囲されつつあるから、戦うなら急いで!』

 

「了解だ、ナビ。出し惜しみナシで仕留める」

 

「じゃあ全力でいこうか、ジョーカー!」

 

 訊きたい事は山程あるが、それは状況が許さない。

 故にジョーカーは早期決着を目標と定め、今は頼れる仲間であるクロウとのアイコンタクトを完了させた。

 

「「ペルソナ!」」

 

 クロウと寺崎の仮面が同時に青く燃え、お互いの背後に白いシルエットが浮かび上がる。

 そうしてペルソナが魔法を放つが、その対象もやはりお互いの本体だった。

 

「――コレで決める!」

 

 ヒートライザと呼ばれる、その者の攻撃と防御と命中と回避を高める魔法を受けて、握る光剣に力を込め直すクロウ。

 そんな彼目掛けて飛来していくのは、『シャルロット』のガルーラによる奔流――

 

「――はああっ!」

 

 ――をその身に受けた、寺崎その人だった。

 

 自身を弾丸に変えて元よりそんなにない距離を一瞬で詰めようとするが、動いていたのは彼ら二人だけではない。

 

「させるか!」

 

 寺崎の進路を塞ぐように立ったのは、ナイフを逆手に構えたジョーカーだ。ナイフ一本で人間一人を止められるのかという話だが、それが出来るからこそ彼は切り札(ジョーカー)なのだ。

 

 寺崎の持つ鎌の刃にナイフをぶつけ、それと同時に自分も後方へと飛ぶ。弾いたり受け流す為には、まずその勢いを殺さなければならないからだ。

 しかし自分の身が軽い事を知っている寺崎も、突進だけで終わる筈はなく。鎌を持っていない手で、鎖の反対側を引き寄せていた。

 

 少女と同じく勢いの乗った分銅が、しなってジョーカーへと迫る。無視できない威力を持つソレに対して、ジョーカーは手も足も出せない体勢だ。

 

 だから出したのは、別の自分(モノ)だった。

 

「『アルセーヌ』、エイハ!」

 

「なんっ……!?」

 

 そう唱えるだけで仮面が燃え、彼の背後に現れたシルクハットの黒い怪人が火種を落とす。

 二人の足元に落ちたソレは、そのままどちらをも巻き込む黒い火柱へと相成った。

 

 属性相性によって明暗分かれる二人だが、その黒い流れの向きにも彼の意図が混じっている。

 下から身を叩く奔流によって少女の突進の勢いが更に弱められるだけでなく、ダメージの通らないジョーカーの身体を押し流す形で離脱させたのだ。

 

 自身が得意とする魔法の扱いを真似された寺崎は、またも身動きが取りづらくなった状態でソレを見た。

 

「――いいね、最高の機会だ!」

 

 離脱したジョーカーと入れ替わる形で迫り来る、白いトリックスターの姿を。

 

「はああああっ!!」

 

「くうっ……!」

 

 咄嗟に浮かされた分銅を掴み取って即席で築いた寺崎の防御を、クロウの光剣による突きが何度も襲う。鎖がぶつかる度に鉄の焼ける匂いと光が弾けて、鈍い音が木霊する。

 それに耐えきれなくなった鎖が焼き切られるのと、最後の一突きとして踏み込んだクロウが寺崎を突き抜けていくのが同時だった。

 

「っ!」

 

「これも防ぐのか……!?」

 

 けれどそれで終わりでない事を彼女は識っていた。

 だから即座に構え直した鎌を顔の前に持ってきて、飛来した銃弾を弾く事に成功していた。

 クロウのラッシュの後詰としてその弾丸を放ったジョーカーが目を見開くが、それを為した少女にも余裕はない。

 

「流石は、二人だね……! ちょっと駄目かもと思ったよ……!」

 

「僕たちとしては、なんで今ので仕留めきれなかったのかが理解出来ないけどね。ぶっつけ本番の割には上手くいったと思ったのだけど」

 

「やはり、一筋縄ではいかないか……」

 

 この場で最も息を切らしているのは寺崎だが、ジョーカーとクロウも万全というわけではない。彼らもこのパレスの主と戦った後で消耗しているし、仮に致命打を与えられてもその時に退路がなくなっていれば意味がない。

 つまりは二人がかりでまだ『倒せない』時点で、戦況としてはイーブンと言えた。

 

「……だが何故、そこまでして俺たちの前に立つんだ。寺崎さん一人じゃ、俺たちには……」

 

「それが私のここでの役目だからだよ。勝てないとしても、何も出来ないわけじゃないからさ」

 

「足止めとしての役割を果たすというわけか。ならやはり君は、今回も――」

 

 これまで何度か刃を交えた事で、寺崎(黒仮面)に怪盗団を倒し切るだけの力はないという事実には本人も含めて辿り着いている。

 だからこそ何故ここまで戦おうとするのか。それがまだ読めていないジョーカーに対して、クロウは何かに気付いたようにそう言いかけた矢先。

 

 

 

 ――突如として轟いた爆発音が、場の急転直下を告げた。

 

 

 

「なんだ、急にドアが……!」

 

 三人のやや後方にあった、バックヤードへと続く金属製の扉がゆっくりと倒れていく。ズンと落ちたドアを踏み越えて、カツカツと響く足音。

 

 そこには、更なる新顔の少女が立っていた。

 

「――ようやく見つけました、であります」

 

「新手? にしては、気配が……」

 

 急に現れた人物にクロウが訝しんだのは、何も彼女が金髪碧眼の美女だったからではない。

 赤いネクタイを下げた首元から繋がる両腕とその手先に至るまで、そして両脚の部分が機械じみていていたからだ。不可思議が珍しくない異世界であっても、その存在は更に異質なモノだと彼は看破していた。

 

「……初めて見る顔だな。ナビ、彼女は何者か分かるか? ……ナビ?」

 

 同じような所感を得ていたジョーカーが、正体を探ろうとして分析に長けた仲間へと声をかける。

 けれど返答がない事に不審さを覚え、もう一度問いかけた彼の耳に通信が入った。

 

『――な、なんだコイツら?! どうしてみんなの所にも、こんな反応が……!?』

 

 ノイズ混じりに聞こえたのは、今までにない彼女の焦りと動揺の声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――初めまして。君たちが怪盗団だな?」

 

 同時刻、ニイジマパレスの一角にある迷宮フロア前の広間にて、パンサーとフォックスの二人は謎の美女と相対していた。

 

「なんだ? シャドウや認知存在の類ではないらしいが……」

 

「どっちかって言うと、前の黒仮面みたいな感じに近くない? 私たちと同じ侵入者、みたいな」

 

「侵入者である事は否定しないが、シャドウと同列に扱われるのはやや心外だな。私たちはそれを倒せる者同士だろうに」

 

 自分たち以外の何者かに幾つか前例がある二人は、一定の距離を保ったままにその女性の言葉を聞いていた。

 ウェーブのかかった濃いめの赤髪に、黒服の上から白のロングコートを纏った大人びた容姿。けれどその手にある細剣(レイピア)が、パレスの住人である事を否定する。

 

「では先に名乗らせて貰うが――我々は"警備部シャドウ事案特別制圧部隊"、つまりは警察に属する者だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――もっとも、俺だけは警察から出向している刑事だが、まぁ細かい事はいい。大事なのはお前たちが件の怪盗団で、俺たちはそれを受けてここまで来たという話だからな」

 

「け、警察ぅ?! ただの刑事が、パレスにまで入って来たって言うのかよ!?」

 

「いいえ、違うわスカル。ここまで来ている時点で普通じゃない。この人も力を持っていると見ていい筈よ……!」

 

 同時刻、場所はかつてジョーカーが一人で挑む事になった決闘場。出入口が開放され、観客もいない中でスカルとクイーンもその男と向かい合う事になっていた。

 

 黒ベストの下に来ているワイシャツの袖を途中で折り、そこから鍛え抜かれた鋼のような腕の筋肉を見せる男は、付けたグローブの感触を確かめながらに言葉を紡ぐ。

 

「その通りだ。そしてその言い草ではやはり、お前たちも持っているようだな。――異世界(ココ)で戦う為の力、ペルソナを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ウチらはペルソナ使いの起こした事件に関しても、捜査権が認められとるんよ。まぁ、認可されたのはホンマに最近の話なんやけど」

 

 同時刻、巨大なスロットマシンが鎮座するフロアにて、銀のポニーテールと紅の瞳を持つ少女がそう語る。

 その周囲には薙ぎ倒された通常のスロットマシンが転がっており、それを為した人丈(ひとたけ)程の大斧を軽々と振るったその人物へと、二人と一匹の視線は注がれていた。

 

「私のよりも大きいのに、あんなに涼しい顔で……! あの子、何者なの?」

 

「節々から見えるパーツの感じ的に美少女ロボ、いやアンドロイドか?! その世界観は前にやった筈だろ!?」

 

「いや、シャドウや認知存在の類じゃない。けどただのニンゲンとも違うのも確かだな……!」

 

 モナが言及したのは、その少女の首元や手足に見受けられるコードや金属パーツの部分だ。その所為で以前の宇宙基地で見た認知存在のロボット達よりもどこか地に足がついている印象を抱いていた。それでも理解の埒内に入る事はなかったが。

 

「キミにそう言われるんはちょっと複雑なんやけど……。見た目だけでニンゲンやなって思われづらいのはウチら同じやないの? キミもクマさんの仲間みたいな気するし」

 

「え、クマ? 猫じゃなくてか?」

 

「いやネコでもねーし! ……けど、その言い分はもっともだな」

 

 ややバツが悪そうにするモナだが、このやり取りの中で一つの理解を得ることには成功していた。

 すなわち目の前の女性も恐らく人ではないが、自分と同じく人と共にあろうとする存在ではあると。

 

 けれど変わらない事実もまたあるとばかりに、ノワールが確認する。

 

「でもあなたは警察の人で、私たちを捕まえに来たのも間違いないんだよね?」

 

「……せやね。それが私たち『シャドウワーカー』の仕事やから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――今回は()()()()からこの世界に関する情報を入手し、ここまで来ました。あなた達()()はこの事件の重要参考人及び、傷害罪を始めとした幾つかの疑いがかけられています。大人しく投降していただけますか?」

 

「……三人? そこの白い修道女は君たちの仲間じゃないのかい?」

 

 場所は戻り、吹き抜けの二階エリアにて対峙する四人。その中でも最後にやってきた金髪の少女へと、クロウが()()()疑問を口にする。

 

「? この場にいる以上、あなた達全員が心の怪盗団だと思っていましたが……どうやら、認識を改めなければならないようでありますね」

 

「寺崎さんとも違う第三者、いや警察組織に属するペルソナ使いか。今日のカジノは随分と繁盛しているらしいな」

 

「私たち全員、招かれざる客である気はするけどね」

 

 ジョーカーとクロウ、寺崎叶、そして機械の少女と三つ巴になった彼らは互いの出方を見るように動きを止める。

 その中で仲間がいるジョーカーとクロウ、そして機械の少女の耳に通信が入った。

 

『――こちらイプシロン。全員が心の怪盗団と思しき少年少女と遭遇した。要請に従わない場合、迅速にその身柄を確保しろ。通信終了(オーバー)

 

「……それではもう一度確認しますが、投降はしていただけるのでしょうか?」

 

『――こっちはこっちで何とか切り抜けてみせるから! ジョーカーもそっちで上手くやってくれ! それで全員揃って脱出するんだ!』

 

「……生憎と、俺たちは俺たちの正義がある。だからあなた達の言うとおりになるつもりはない」

 

 混迷する状況の中で、ジョーカーもまだ全てを把握しているわけではない。

 けれどこのまま大人しく捕まる事はあり得ないと、機械の少女に向けてナイフを構えた。

 

「反抗の、いえ叛逆の意志を確認しました。シャドウワーカー所属、"対シャドウ特別制圧兵装七式"アイギス。コレより、状況を開始します――!」

 

 だからそれが、開戦の合図だと言うように。

 碧と黒、赤茶と薄茶の視線が交錯した。

 




☆オマケその1 寺崎叶のクライミング講座
 ①まずは丈夫そうな引っ掛かり(フック)を探します。見つけたらボウガンで矢を射出し、刺さり方と繋げた鎖が安定しているかを確かめます。
 ②鎖を巻き取る機構や腕力はないので、自身に『ガルーラ』をぶち当てて一気に上昇し、刺した矢の上に行きます。
 ③刺した矢を基点として上からぐるりと円を描くように壁面を疾走し、ブランコの要領で得た遠心力を使って更に飛び上がります。その寸前で矢を抜ければ尚良しです。
 ④矢と繋がる鎖を持つ手とは反対の手で回した鎖鎌を、飛び上がった頂上付近で更に上へと投げて別の引っ掛かりへと結びます。何なら壁に突き刺してもいいです。
 ⑤このよう流れで鎌と矢を交互に使い、気力と体力が尽きる前に上へと登っていきます。途中落ちそうになったら燃費は悪いですが『ブフーラ』で何とか壁に張り付いて再開です。


★おまけその2

Q.どうして美鶴と明彦の恰好が普通なんですか?
 A.大人になったからです。世間体という意味で。

 閲覧、評価、誤字報告など誠にありがとうございます!
 感想も本当に支えになってます!!

 心の怪盗団VSシャドウワーカー。これも書きたかったんです……!
 その所為で凄く時間かかりましたが、次回からはそんな感じでよろしくお願いいたします。
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