私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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勢いって大事。

★カジノフロア・吹き抜けエリア
 ・ジョーカー
 ・クロウ
 ・アイギス
 ・寺崎叶(カトル)

★迷宮フロア
 ・パンサー
 ・フォックス
 ・桐条美鶴

★闘技場フロア
 ・スカル
 ・クイーン
 ・真田明彦

★スロットフロア
 ・モナ
 ・ナビ
 ・ノワール
 ・ラビリス



#37 仕組まれた戦い・序

 

 心の怪盗団とシャドウワーカーの戦いは、奇しくも各地同時に始まった。

 その中の一つ、迷宮フロア前の広間にて。

 

「――来たれ、『ゴエモン』!」

 

 フォックスが狐の仮面を青く燃やして、氷撃を走らせる。その先にいた黒服と白コートの女性――桐条(きりじょう)美鶴(みつる)が、小さく眉を動かした。

 

「ほう、仮面を燃やして召喚を……。やはり我々とは手順が異なるな」

 

 刮目しながらも落ち着いた手付きで美鶴が取り出したのは、腰のホルスターから抜かれた銀色の拳銃だ。それを向けてくるかと思ったパンサー達の前で、彼女は驚きの行動を取った。

 

 己のこめかみへと突きつけたかと思いきや、躊躇いなくその引き金を引いたのだ。

 

「――『アルテミシア』!」

 

「う、嘘ぉ?!」

 

「やはり、俺たちと同じペルソナ使いか!」

 

 硝子(ガラス)の砕け散るような音と共に現れたのは、刺々しくも美麗さを残したドレスを纏うペルソナだ。その手にある鞭を振るってその氷撃を一掃した事で、パンサーとフォックスの警戒度が更に上昇した。

 

「狐面の君は私と同じ氷属性……いや氷結属性らしいな。なら生憎だが、私にその攻撃が届く事はないだろう」

 

「そのようだな……!」

 

「なら私のはどう!? 『カルメン』!」

 

 僅かに歯噛みするフォックスを押しのけ、新たに仮面を燃やしたパンサーがペルソナを呼び出す。

 仲間であるフォックスの得意不得意は当然理解しているが故に、近しい属性であろう美鶴も火炎属性が弱点とみたパンサーの判断は正しいものだ。

 

 しかしそんな彼女の戦歴を大きく上回る美鶴が、その対策をしていない筈がない。

 

「残念ながら、火力が足りないな」

 

 そう言って『アルテミシア』の魔法で作り出したのは、分厚く巨大な氷の壁だ。

 氷結属性魔法の極致であるダイアモンドダストで築いた即席の壁とパンサーのアギダインがぶつかり、軽い爆発と共にその諸共が蒸発する。

 

 燃費の悪い手法であっても、無傷で切り抜けた事実に変わりはない。巻き起こる暴風に髪を靡かせて、尚も悠然と美鶴は告げる。

 

「これでも数の有利はそちらにあるんだ。この程度で終わったりはしないだろう?」

 

「言われずとも……!」

 

「舐めんなっての……!」

 

 全力どころか死力を尽くさなければ突破出来ない相手だと理解した、いやさせられた二人が挟み撃ちを狙いながらに動き出す。

 

 この場の熱もまた、変動を始めたばかりなのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はああああっ!!」

 

「しっ!」

 

 闘技場エリアの真ん中で、二人の拳がぶつかり合う。

 車同士が衝突したのかと見紛うばかりの音と衝撃が、周囲全体へと響き渡った。

 

「ふっ、驚いたな。里中(さとなか)のような女子高生が東京にもいたとは思わなかったぞ」

 

「誰の事を言ってるのか知らないけど、あなたも随分な腕をしているようね。ここまで重い一撃を人から受けたのは初めてよ……!」

 

 互いに衝撃を逃がすように後ずさる二人。だが手の痺れが抜けきらないクイーンとは対照的に、好敵手を見つけたとばかりに黒ベストの男性――真田(さなだ)明彦(あきひこ)は口角を上げていた。

 

「その動き、八極拳に連なるモノだな? 我流でそこまで仕上げているのは見事だが、それで俺を倒す事は出来んぞ」

 

「ええ、そうでしょうね。あなたは間違いなく私よりも強い。その域に至るまでの年季が違いそうだから、当然だろうけど――だからって、勝ちを譲る気はないわ!」

 

「当たり前だよな、クイーン! ほらよっとぉ!!」

 

 決意を新たにするクイーンに賛同しながら、片手で持っていた棍棒を振るうのはスカルだ。ギリギリまで酷使した脚で明彦との距離を詰めると、その胴体を目掛けて横に薙ぐ形になっていた。

 

「ステゴロと棍棒の組み合わせか。武者修行の時によく戦った手合だな」

 

「へっ、そうかい。ならコイツも珍しくなかったりするのかよ!」

 

 その一撃を難なく受け止めた明彦へと、空いた手で握った散弾銃を向けるスカル。普段は両手持ちでないと使えないその銃身をもう片方の腕で支えながら、その引き金が無理やり引かれてしまう。

 

 なので明彦は銃身の先を殴りつける事にした。

 

「いや危なっ?! どんな判断だよ!?」

 

「こんな至近距離でぶっ放す方が悪い。当たったらどうするんだ」

 

 下から跳ね上げられた事で散弾は上へと逃げていったが、引き金を引くのとほぼ同時にそれをされたスカルからすれば溜まったものではない。というかそれが間に合う明彦の方がおかしいとも言うが。

 

「――スカル、どいて!」

 

「っ! バイク、いやペルソナか!」

 

 そうして文句を言い合う二人の間を裂くように現れたのは、バイクに跨がって迫りくるクイーンの姿だ。

 瞬時にそれがペルソナだと見抜いた明彦が避けたすぐ脇を、エンジン音が駆け抜けていった。

 

「騎乗出来るペルソナとは、また物珍しいな。独特な召喚方法やその姿といい、つくづく飽きさせないな、怪盗団(お前たち)は」

 

「そう言っていられるのも、今の内よ!」

 

 突進が避けられたとしても、尚もめげずに転回して再びハンドルグリップを捻るクイーンに対して、明彦は大きく距離を取ろうとはしなかった。

 

 代わりに脇のホルスターから銃を抜き、上向きのまま額に当てて撃鉄を落とす。出現させた『カエサル』の掲げた剣から雷が落ち、その迸りを身に受けた明彦が一歩を踏み出す。

 

 ――その一足で、既に地が割れていた。

 

「――はああああっ!!」

 

「なん――きゃっ?!」

 

 それは最初の衝突の焼き増しでありながら、走る衝撃と轟音は比べられない程に増していた。

 今度は本当に二輪車に乗っているクイーンに拮抗するべく、自身の身を加速させた明彦の一撃が『ヨハンナ』のボディを打ち抜いたのだ。

 

「流石にバイクそのものを真正面から相手にしたのは初めてだったが、案外何とかなるものだな」

 

「まさか……ここまでなんて……!」

 

 僅かに残った電流を瞬かせながら、そう呟く明彦。

 その後ろでは『ヨハンナ』の掻き消えたクイーンがどうにか受け身を取りながらも、相手の規格外さに舌を巻いていた。

 

 そう、生身の人が突進するバイクに打ち勝つという規格外。

 それを果たした明彦にもそれなりの達成感が生じる事は否定が出来ない。

 

 

「――なら、今度は舟ならどうよ?!」

 

「何――?!」

 

 

 ならばスカルから見たそれは、クイーンの作り出した確かな隙に他ならなかった。

 

 そうして刹那に現れたのはスカルの()()()()()姿のペルソナだ。騎乗できるバイク型のペルソナというクイーンの陰に潜んでいた『キャプテン・キッド』が、振り向きざまの明彦へと突貫していた。

 

「ブッ込め、『キャプテン・キッド』ォ!」

 

「ぐっ、やるな……!」

 

 召喚器を使うよりも防御を選んだ明彦の身が吹き飛ばされる。それは突進のエネルギーだけでなく、舟に乗った海賊姿の人型がその左手の銃口から彼目掛けて撃ち放った弾丸のインパクトも合わさったが故の結果だった。

 

「へっ、今度は()()()()当たったな!」

 

「助かったわ、スカル! 私も一回くらいで負けていられないわね……!」

 

 結果的に見事奇襲を成功させたスカルの手を取って、クイーンが立ち上がる。彼女の見せた奮起に応えるように吠えたのは、彼ら二人の前に立ち塞がるこの男だった。

 

「……いいだろう。どこまで食い下がれるか、お前たちの全力をもっと俺に見せてみろ!!」

 

「必ず勝つわよ、スカル!」

 

「おうよ! 怪盗団の底力、見せつけてやるぜ!」

 

 それはたった数回の衝突でありながら、彼らが各々掴んだモノ。

 この場でぶつけるべきは意地であると全員が理解したが故に、白熱の流れが最早、止まる事はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――行くで、覚悟決めといてな!」

 

「二人とも、来るぞ! 絶対目を離すなよ!」

 

 所変わってスロットエリア。

 構えた大斧のブースターが蠢動を始めた事で、相対するモナとノワールへとナビからの注意喚起が飛ぶ。

 

「せいやぁ!!」

 

「はあっ――!」

 

「このぉ――!」

 

 圧倒的な質量を持つであろう巨大な斧が、加えられた推進力によって破壊の化身となって襲い来る。

 そんな一撃を真正面から受け止めた二人の表情が、インパクトと同時に歪められた。

 

 なにか、軋むような感覚があったが故に。

 

「ぐわあっ?!」

 

「きゃあっ!?」

 

「お、おい二人とも?! 大丈夫か!?」

 

 三つの刃が火花を散らし、拮抗して見えたのは僅か一瞬だった。

 互いに上から下へと振り抜こうとした所でぶつかり合い、それでも振り切れたのはラビリスの大斧だけ。他二人は受け身の為に身を飛ばす事が精々だったのだ。

 

「……くそ! 分かってはいたが、とんでもないパワーだぜ……!」

 

「クイーンとかスカルでも受け切るのは厳しいかも。 何度もやったら腕や武器がおかしくなっちゃう……!」

 

 どうにか体勢を整えようとする二人だが、その手足の動きはどこかぎこち無い。一度だけでも打ち合おうとしたその判断を恨みかねない程の痺れがそこにはあった。

 

「でも、流石にあのブースターの連続使用は出来ないみたいだ。アレだけ大きいとやっぱり動きは大ぶりにならざるを得ないし、狙うならそこだな!」

 

「ならやはりワガハイが前に出るしかないか。一撃当たりの威力ならコッチだって負けてないからな、頼むぜノワール!」

 

「うん、分かったよモナちゃん! ナビもその調子で宜しくね!」

 

 だが彼らに戦意や仲間が残っている以上、折れるには余りにも早い。圧倒的なパワー差くらいで音を上げたりはしないと、彼らの顔つきがそう物語っていた。

 

「へぇ、いいチームなんやね。ならウチも容赦はせぇへんで――!」

 

 だからこそとばかりに駆け出すラビリスの瞳は、まっすぐな輝きに満ちていて。その進行方向も同じく真っ直ぐであった為に、モナの動きもそれに合わせたモノになった。

 

「そっちが重さなら、こっちは速さだぜ――!」

 

 元より小柄かつ軽い身であるモナはスピードファイターだ。大斧のブースターを利用した突進でなければ勝算はあると見たモナが、ジグザクとしながらラビリスへと接近していく。

 

「――ココだッ!」

 

 小さい(まと)であるが故に当たることなく、進むラビリスの背後へと回り込んだモナ。コマのように身をクルリと回し、その手に持ったカトラスが振るわれようとしていた。

 

 後ろを取られた以上はそこから斧を振り回しての防御では間に合わないという意味で、モナたちの作戦は正しい。その方向に視線だけを送ったラビリスはそう評価した。

 

「――せやけどまだ、甘いんやないの?!」

 

「むっ?!」

 

 そう言ってラビリスは重い斧ではなく、己自身をその斧の裏へと隠すように動かした。そのままモナの斬撃を斧の持ち手部分で受け止めた反応速度は、彼に勝るとも劣らないモノだった。

 

「――いいや、ワガハイ達を舐めるのはまだ早いぜ?」

 

「なんやその反応――って、まさか?!」

 

 けれども消えないモナの笑みに、ラビリスが遅れてその真意に気付く。そんな彼女へと照準を合わせていたのは、大きく広がったドレスを纏う貴婦人のペルソナだった。

 

「――撃ち抜いて、『ミラディ』!」

 

 近付いて来るラビリスを待ち構えながらに仮面を燃やし、己が半身を呼び出していたノワールが声を張り上げる。『ミラディ』のスカート部分に収納されていた幾つもの銃口から、ラビリス目掛けて弾丸が発射される。

 

 けれどその狙いがあまりに精巧だったからこそ、ラビリスはそのタイミングを見誤る事はなかった。

 

「ええっ?!」

 

「んなっ!?」

 

 驚くモナとノワールの前で飛び上がったラビリスがその弾道からヒラリと外れ、『ミラディ』の銃撃をやり過ごす。

 しかしモナのカトラスを斧で受けたままでそれを為したから、二人と遠くにいたナビが目を見開いたのだ。

 

()()()()()()()?!」

 

「こういう使い方するんは中々ないんやけどね!」

 

 空中にて頭を下に、足を上にしながらに言うラビリスの手はまだ地上に突き刺した斧を持ったままだ。

 けれど彼女にはその手首から先を発射出来る機構が搭載されており、その推進力を利用して逆に自身の身を浮かしたのだ。ただし手元と身体は鎖で繋がれているが、今回は弾も上手くすり抜けてくれたらしい。

 

「つまりロケットパンチじゃん!! やべ、モノホンとか初めて見た……!!」

 

「それ前のパレスでもあったような――って、ナビ!!」

 

 おおよそただの人間には出来ない芸当に少年心を動かされたナビの反応が遅れる。

 空中で身を翻したラビリスが片手だけ斧に残したまま、青い光の破片を散らしながらに降りてきたのだ。

 

「隙ありやね! ――『アリアドネ』!」

 

「わわっ?! また鎖!?」

 

「いや、ウチのは鎖じゃなくて糸やから。ちょっと堪忍な?」

 

 着地と同時に召喚されたラビリスのペルソナによって、近寄られたナビの身が赤く光る糸で拘束される。

 動きやすさを優先してナビのUFO型ペルソナである『ネクロノミコン』に乗り込んでいなかったが故の事態に、モナとノワールはここ一番の焦りを見せた。

 

「くそ、ナビを離せ!」

 

「今助けに……ってきゃあっ!?」

 

「ウチらの所も情報支援担当の守護には力いれてるしな。今日は残念ながらおらんけど、対策はしておかんといかんよ?」

 

 空いた手でナビの身柄を確保しつつ、もう片方の手で握った大斧を鎖越しに操り二人を引き離す。どこかの白い修道女のような扱い方だと思い出す暇もなく、モナとノワールは地を蹴った。

 

「くっそ、離せぇ……いや力強っ! 分かってたけど!」

 

「あんま暴れんといてや? ああそれと――――、――――」

 

「……………………へっ?」

 

「もう少し待ってろよ、ナビ!」

 

「ちょっとの辛抱だからね!」

 

 ラビリスの言葉に目を丸くしたナビを救出するべく、挟み撃ちの形で接近するモナとノワール。

 一時的に追うものと追われるものが逆転した中で、事態は新たなる展開へと動き始めていた。

 

 ★★★★★

 

「……どうやら、各地でみんなも戦い始めたみたいだね」

 

 シャドウワーカーがやって来てから途切れ途切れで入ってくる通信音声を聞きながら、クロウは現状把握を完了させる。

 

 すなわち、心の怪盗団が追い詰められていると。

 

「まさか警察側にもペルソナ使いがいるとは。それもあの刀使いと同レベルの者が、何人も……」

 

「それだけ心の怪盗団を捕まえるのに本気だって事か。彼女に加えてシャドウワーカーとやらまで相手にしないといけないらしいけど……ジョーカー、イケるかい?」

 

「無論だ。ここで終わるつもりは毛頭ない」

 

 別の物陰に隠れたドミノマスクの少年が当然とばかりに頷く。それを確かめながら、クロウは背後の様子を伺う。

 

 彼らは今、弾丸の雨あられの中にいた。

 

 シャドウワーカーの隊員であるアイギスの手、というか指先から放たれる制圧射撃。この場の誰よりも広く速く行われる面攻撃によって、動く事を許されなかったのだ。

 

「――よし、今だ!」

 

 けれどその嵐も永遠には続かない。

 弾を撃ち尽くして銃声が止んだ瞬間を見計らったクロウとジョーカーが、一斉に物陰から飛び出しての接近を開始した。

 

「召喚シーケンス、『アテナ』!」

 

 リロードの隙を狙われるのはアイギスとて承知の上。

 だからこそ機械の身であるが故にノーモーションで行えるペルソナ召喚をしながらの後退を彼女は選択していた。

 

 現れた『アテナ』はその円形の盾を前面に押し出しながらに彼らを待ち受ける。しかしジョーカーとクロウの方が行動スピードは速い。

 

「いけ、ジョーカー!」

 

 光剣を煌めかせながらその盾へと斬り掛かるクロウによって動きの止まった『アテナ』の脇を、黒い影がすり抜け突破する。

 先程とは違う形の銃を腕に取り付けているアイギスだが、その過程はまだ完了していない。そこに至るまでのあと数秒なぞ、ジョーカーの速さであればお釣りが来る。

 

 だからこそ、彼女が介入するのもそのタイミングだった。

 

「っ――! 寺崎さん!?」

 

「ピンチはチャンスだし、チャンスはピンチだよ!」

 

 ジョーカーのナイフを鎌で受け止めた白い修道女が斬り上げへと繋げた事で、彼の突進が中断させられる。

 けれど体勢が崩されたとまではいかない為に、どちらも次の行動へと移るには支障はなかった。

 

 けどそれは、再武装を終えたアイギスにも当てはまる理論だ。

 

「発射!」

 

「くっ……!」

 

「ひゃあっ?!」

 

 目の前でぶつかっていた二人目掛けて、アイギスが小型のミサイルを発射する。

 着弾してからの爆発を嫌った二人が弾かれたように距離を取るが、まだ戦況は終わっていない。

 

「中々良いことを言うじゃないか。僕もそう思うよ」

 

「わわっ?!」

 

 転がるようにして回避した寺崎へと、手の空いたクロウが攻撃を仕掛ける。

 対する寺崎も驚いてはいるものの、群を抜いたその素早さを活かしてその全てを空振りへと終わらせていた。

 

「『シャルロット』――ガルーラ!」

 

「くっ……!」

 

 そんな中に青いカードを薙ぎ壊す動作を器用に織り交ぜ、呼び出されたペルソナが疾風属性の中級魔法を繰り出す。

 クロウの今の技量(レベル)なら大したダメージにはならないが、動きを阻害するという目的は達成されている。変わらず小賢しいマネをするという意味の舌打ちを彼は堪える羽目になった。

 

「隙あり、であります!」

 

「なんの! エイガオン!」

 

 チラと横を見ると、再び機関銃から弾丸の雨を降らせるアイギスと戦うジョーカーの姿が見えた。

 物理攻撃が通りづらいと見て魔法主体のスタイルへと切り替えたジョーカーと、変わらず指先からの射撃で自分たち全体へと絶えず攻撃を続けるアイギス。

 

(……なら、この流れに乗るとしようか)

 

 誰かが示し合わせたわけではないだろうが、マッチアップは完了したとクロウは判断する。この時点で既に最低目標は達成しているが故に、撃ち合いの末に近づいてきたジョーカーへとクロウはある提案をした。

 

「ジョーカー、そちらのシャドウワーカーを任せてもいいかな? 僕は寺崎叶(かのじょ)の相手に集中するからさ」

 

「なに? だが、今の状況で戦力を分けるのは……」

 

「それくらいは僕にも分かってる。けれどアイギスと名乗ったアレの射撃が想像以上に厄介なんだ。僕たち二人で各個撃破が理想だったけど、どちらかに妨害され続けたら僕たちの方が先に潰される」

 

 今のパレス内で唯一三つ巴となっているこの戦場で、一番余裕がないのは実はクロウを含めた怪盗団だったりする。理由は単純に彼らだけが連戦を強いられているからだ。

 

 比べてシャドウワーカーのアイギスはまだ戦い始めたばかりで気力体力や弾数に余裕がある。それは寺崎叶も同様に見えた為、そんな状況から二人のどちらかを倒すのもややキツい。なまじ倒せたとしても、残った方に漁夫の利を盗られるのは面白くないだろう。

 

「それならまだお互いに一対一に持ち込んだ方が動きやすくなる筈だ。キミだって、どちらが相手でも負ける気はしないだろう?」

 

「……そうだな。どのみち倒さなければならないのだから、同じことか」

 

「なら僕の方に彼女を――寺崎叶を譲ってほしい。元より追っていた精神暴走事件の重要参考人なんだ。この機会(ピンチ)を利用して、捕まえてやるさ」

 

「クロウ……」

 

 戦いの最中に交わされた、刹那に満たない中でのやり取り。彼の確かな決意をその眼に感じたジョーカーは、されど一瞬の決断を迫られ揺れ動く。

 

 しかし時間切れを告げたのは、件の彼女に他ならなかった。

 

「――ココだ!」

 

 僅かに止まったクロウの光剣の上から、新たに分銅を付け直した鎖が巻き付いていく。そうして武器を封じる鎖鎌本来の手法を用いた所から、更に踏み込んで鎖を引っ張る寺崎。虚を突いたこのタイミングであればと思った彼女の狙いは、ある意味で達成される事になる。

 

「――ああ、上出来だね」

 

「っ?!」

 

 引っ張る勢いを利用して距離を詰めたのは、武器を封じられた筈のクロウだった。まるでかつての場面の焼き直しをするように、寺崎の懐へと飛び込んだクロウが右足を振り上げた。

 

「くっ――!」

 

「任せたよ、ジョーカー!」

 

 けれど足裏と身体の間に鎌を挟ませた寺崎の身体が飛ばされ、手すりを越えて下へと落ちていく。最後に一言添えてから、クロウも彼女を追うべく手すりを乗り越えていった。

 

「分断? させません!」

 

「――いいや、アナタの相手は俺だ」

 

 いきなりターゲットの二人が消えた事で移動しようとしたアイギスを、ジョーカーの放った弾丸が足止めする。腹を括ったらしい少年へと、アイギスは目を細めた。

 

「……よろしいのですか? 白い彼に合流した方が戦力的にもプラスだと私も思いますが」

 

「かもしれないが、もはや関係ない。俺も役目を果たすだけだ」

 

「……なるほど。怪盗団のリーダーを務めるだけはあると言うことでありますね」

 

 ジョーカーの言葉で僅かに口調が優しくなるアイギスだが、それも一瞬の事。彼と同じく何かを飲み込んだような顔で、彼女もまた己の役割を理解して腕を振り払った。

 

「そうだ、俺が心の怪盗団のリーダーだ。心して掛かってこい、シャドウワーカー!」

 

「優先目標を変更。怪盗団のリーダーと思しき仮面の少年との戦闘を改めて開始します――!」

 

 そうして交わるのもやはり黒と白という対照的な影。

 互いに己へ課した使命を全うするべく、己が闘志を青く燃やすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……エレベーターフロア?」

 

 下のフロアへと落ちた寺崎が認知存在の人混みを抜けるべく走って飛び込んだのは、中央にガラス張りのエレベーターが鎮座する円形の広い部屋だ。

 カジノらしく派手なカーペットの上に四角のイスや観葉植物が置かれているが、座ってそれを眺めるような認知存在(おきゃくさま)はいないようだった。

 

「微妙に見覚えがないって事は、エレベーターの止まらないフロアだったりするのかな?」

 

 上がった息を整えながら回復薬を使いつつ、自分の識る記憶との照合を終わらせた頃。

 寺崎が閉めた筈の扉を開ける者が、もう一人現れた。

 

「見覚えのない、ね? まさか君からそんな言葉を聞く羽目になるとは思わなかったな」

 

「いや私だって別に全知ってわけじゃないし、流石に過大評価だと思うけど?」

 

 両手で扉を両開きにして現れたのは、白い貴公子姿に鋭く尖った赤のペストマスクを付けた少年だ。

 その奥から覗く瞳は、静かな敵意に満ちていた。

 

「よく言うよ。この状況も君が仕組んだモノなんだろう?」

 

「……この状況って、どれの事を言ってるのかな?」

 

「惚けないでくれるかな。君は僕たちの計画について、殆ど識っている筈だ」

 

「…………」

 

 エレベーターの通るガラス張りの円柱を背にして立つ寺崎へと、コツコツとクロウが近付いていく。

 それまでの間を埋めるように、彼の『推理』が言葉になって紡がれていく。

 

新島(にいじま)(さえ)のオタカラを奪った後で現実世界から警官隊を突入させ、パレスを包囲させる。それだけで怪盗団の連中は逃げ場を失うからね、お手軽で助かるよ」

 

「因みに警官隊はどうやって突入させたの? クロウのスマホを予め渡してあったって事かな?」

 

「連中にさせるのは合図を受けてからアプリを起動させる操作だけだからね。怪盗団に内通して手に入れたと言えば何もおかしくはないし、僕も別のスマホを用意しておけばいい話だよ。まぁイセカイナビの所在をアイツらに訊かれる場面なんて、あるわけないけどね」

 

 外から僅かに聞こえてくる喧騒に、二人の注意が一瞬逸れる。そこに認知存在だけでなく現実世界からきたホンモノの警官隊の声も混じっているのだろうと推測しながら、クロウは続きを語る。

 

「最終的にはリーダーである彼さえ捕まえればそれで詰み(チェックメイト)。他の奴らは所詮烏合の衆で大した脅威じゃないし、順に消していけばそれで済む。でも、君はそうじゃない」

 

 取り出した光線銃から弾倉を抜き出し、新たな弾倉を嵌めて調子を確かめる。誰が見てもリロードと答えるその動作によって、弾数が戻ったと認知は告げる。

 

「君を消すには関わりのある他の連中が邪魔だ。だからまずシャドウワーカーは此方の手先にさせてもらった。彼らも上の命令に逆らって小娘一人を守る程の馬鹿じゃなくてホッとしたよ」

 

「……どうせこの件が終わったら、シャドウワーカーも排除するつもりなんでしょ。むしろ私の味方をしてくれた方が手間が省けるとか、思ってるんじゃないの?」

 

「御名答だよ。流石は同じ穴の(むじな)って所かな?」

 

 クロウにとって、今やシャドウワーカーは何の脅威にもならない存在だ。

 怪盗団事件がシャドウ事案であると認めこそしたものの、未だに捜査権は公安が握っている。怪盗団に潜入して諸々の情報を入手したのが明智吾郎である以上、それを上回る成果を出せていない彼らが主導権を取る事はないからだ。

 故に今回の彼らは怪盗団を取り押さえる為の戦闘要員に過ぎない。それで怪盗団を無事に捕まえられたらそれでいいし、逆に怪盗団や寺崎叶を庇ったりしたらその時点でシャドウワーカーの過失として処分ができる。つまりはどう転んでも大した差はないのだった。

 

「後はあの刀使いみたいな他の仲間なんだけど……君、今回は一人で来たんだろ?」

 

「……単にスケジュールが合わなかっただけだよ。私と違って、皆さん忙しい立場だし」

 

「それは僕だって同じなんだけど? ……いやそんな事よりも、君が一人で来た理由について、考えられる可能性が一つある」

 

 ある意味でクロウが最も警戒していた更なるペルソナ使いも、今のところ姿を見せる様子はない。前回と同じで潜伏している可能性もあるが、それよりも思う所が彼にはあった。

 

()()()()()()()()()()()()?」

 

「…………」

 

 反応はない。白い修道女の眼は黒い目隠しで隠れているから、その下に揺れ動きがあってもバレる事はない。

 

「ここで怪盗団のリーダーを捕まえる作戦を、君が識らない筈がない。なのにそれを妨害するような行為を一切せず、むしろ怪盗団やシャドウワーカーとも敵対したかのように動いている。これで何も考えてないと見る方が馬鹿じゃないか」

 

「…………」

 

「僕たちの作戦の邪魔をしなかったのは、その必要がないからだ。ここで僕たちが怪盗団を捕まえても、助けられる算段が既についていると考えれば辻褄は合う。その為の手段として、君はワザと負けに来たんじゃないのか?」

 

 クロウと寺崎叶の実力差は明白だ。これまでの打ち合いから未だ彼女の勝率は三割にも満たないモノだと断言出来るし、その程度に負けてやるつもりも更々ない。

 そして寺崎叶はそれが分からないタイプの愚者ではないだろう。アレはもっとイカれたタイプの愚か者だと思っているし。

 

 例えばそう、ジョーカーと同じ所にブチ込まれた上で、その脱獄を手助けすると言ったような具合に。

 

「僕を倒すつもりなら怪盗団と内通するなり、あの刀使いを連れてくればいい話だ。けどそうしなかった時点で君の目的はかなり絞られると思ったんだけど、どうだい? この指摘が図星か的外れか、君の答えを聞かせてよ」

 

 最後を王子スマイルで結びながら、証拠のない話をクロウはぶつけ続ける。

 何故ならこの話にも意味はなく、ただの時間稼ぎに過ぎないからだ。

 

 ジョーカーの相手をシャドウワーカーにした時点で、この先の展開は決定した。寺崎叶の始末もほぼ確定路線になり、例え彼女がどんな作戦を抱えていたとしても、真っ向から叩き潰せばいいだけの話だった。

 

 ――この状況でもまだ強がりを見せられる、あの面倒なストーカーをだ。

 

「今話してくれた事、正直あんまり否定する所はないんだけどさ。ただ負けに来たってわけじゃないって、そこだけは言わせてもらおうかな」

 

「へぇ、なら一本の矢でも報いに来たのかい? でも猫を嚙める程強くないよね、君」

 

「流石に鼠以下じゃないもん! というかクロウも猫っぽくないし! そうじゃなくて、ギャフンと言わせてやる為に来たんだから!」

 

 追い詰められていると認めながら、けれど少女は戦意と共に人差し指をビシッと突きつける。結局何を言われてもイラつく女だなと、クロウは己の心中を冷静に分析した。

 

「面白い冗談だ。君の事はストーカーじゃなくてピエロと呼ぶべきかもしれないね」

 

道化師(ピエロ)も(アルカナ的に)事実だからちょっと否定はしづらいけども、笑われるだけで終わったりはしないよ。私だって、最期には笑ってみせるんだから!」

 

「ならやってみなよ、ストーカー。お望みどおりに(テメェ)の道を、ここで終わらせてやるからさぁ!!」

 

 その言葉と共にバン!とクロウの背後の扉が再び開き、そこから認知存在の黒服が雪崩込んでくる。寺崎にその区別はつかないが、敵である事だけは瞬時に理解した。

 

 つまりはコレが開戦の合図。

 クロウにとっては怪盗団やシャドウワーカー諸共にストーカーを排除する、最大にして最後の機会。だからこその全力で、その全てを破壊し尽くすと決めてここに来た。

 

 それは彼女にとっても同じだったから、そんな逆境に抗うべくして寺崎叶は強くその名を口にする。

 

 

「ペルソナァ!」

 

 

 青い炎が燃え上がり、その身も宙へと舞い上がる。

 ――特異点とも呼べる少女が、舞台へと上がった瞬間だった。

 




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