私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

38 / 44
(追記)

★カジノフロア・吹き抜けエリア
 ・ジョーカー
 ・アイギス

★エレベーターホール・中層
 ・クロウ
 ・寺崎叶(カトル)

★迷宮フロア
 ・パンサー
 ・フォックス
 ・桐条美鶴

★闘技場フロア
 ・スカル
 ・クイーン
 ・真田明彦

★スロットフロア
 ・モナ
 ・ナビ
 ・ノワール
 ・ラビリス


#38 仕組まれた戦い・破

 

 ペルソナ使いが対人戦をする事は殆どない。

 理由は単純で、その機会そのものが希少だからだ。

 

 普段戦うのはもっぱら異世界にいるシャドウであり、そもそも異世界である為に同じ人間と出会う事も殆どない。出会ったとしても明確な敵対関係になるには、相応の背景が必要となるだろう。

 

 故に対人戦の経験値に乏しい怪盗団にとっては、終始苦しい戦いが繰り広げられる事となっていた。

 

 

 

「威を示せ、『ゾロ』――!」

 

 可愛らしくも隙のない姿で、モナが半身たる黒い紳士を呼び出す。胸の前で構えた剣を掲げるのと同時に、幾つもの竜巻が生まれて広範囲を荒らしていく。

 

 その中をすり抜けていくのは、大斧を武装とする銀髪の少女だ。しかし今持っているのは、その武器だけではない。

 

「わわわわわ?! 酔う、酔っちゃうってコレぇー!?」

 

「悪いけどもう少しそのままで堪忍な! アイギスよりも速度は抑えとるつもりやから!」

 

 斧を持つのとは反対の手で抱えているのは、怪盗団の情報支援を担当するナビその人だ。先程捕まってからずっとラビリスの脇で、ジェットコースターもかくやというレベルのスリルを味わう羽目になっていた。

 

「すまねぇナビ! すぐに助けるからもう少し耐えてくれ!」

 

「た、たのむ〜〜!!」

 

「威勢はええけど、そんな簡単にいくんか?!」

 

 グルグルと目を回すナビと共に、竜巻の隙間を通って回避し続けるラビリス。けれどデカくて重い斧と人間一人を持ったままである以上、その回避行動にも限界はある。

 

「はああああっ!」

 

 そこを突くべく突貫していたのは、同じく斧を振り被った状態のノワールだ。気合は十分、ただし狙いは僅かに隠したままに、ラビリス目掛けて振り上げた。

 

「――驚きや! この短時間で、随分と扱いが上手になってるやないの!」

 

「それは、どうもっ!」

 

 ノワールの動きを見越していたラビリスが、横薙ぎに大斧を振るう。けれど狙いがより正確だったのはノワールの方だった。

 

 横方向に流れていく大斧の刃先を、ノワールの斧が掠めて上へと打ち上げる。ラビリスが振り切る頃には腕が上がっており、抱えられたナビへの道が拓けているような構図になっていたのだ。

 ならばとすかさず手を伸ばして仲間を取り戻そうとするノワールは、間違っていない。

 

「ナビっ……!」

 

「――ごめんな、でもまだ足りひんみたいや」

 

 そしてラビリスも考え続ける人間である以上、それだけで終わる事はなかった。

 

「あうっ?!」

 

 ラビリスの跳ね上げた硬い膝が、ノワールの伸ばした腕を下から叩く。怪盗団の中で最も戦闘経験の乏しいノワールでは埋めることの出来なかった隙を突いて、(1 MORE)を取ったのはやはりラビリスだった。

 

「こんな形、やったかな?!」

 

 上げた足を落とすのと同時に、体重を乗せた勢いと共に肩からノワールへとぶつかるべく一歩を踏み出す。

 八極拳でいう靠撃(こうげき)のような一撃が、機械の身体を持つラビリスから放たれようとして――

 

「させるかぁッ!!」

 

 カトラスを構えたモナが、その間に割って入って受け止めた。その体躯でなければ不可能な芸当だが、だからこそ受け止めるには軽すぎた。

 

「グッ……?!」

 

「モナちゃん!!」

 

 ノワールにこそ当たらなかったものの、すぐにその勢いに負けて押し飛ばされるモナ。その背をノワールがどうにかキャッチする事で、ラビリスとノワールでモナを挟むような感じになっていた。

 

「気にするなよ、ノワール! ワガハイ達は仲間だ、互いに助け合ってこそだろ?!」

 

「なんや、カッコいい所あるやんキミ! それはそれとして、せいやっ!」

 

「わ、分かった! 私だって負けないから! いくよ、モナちゃん!!」

 

「ちょっ、気持ちは分かるけどそれだとワガハイが潰れッ……!」

 

 モナの気高き精神に感化された二人が双方向から力を入れた事で、ペチャンコにされそうになるモナ。力を合わせるって多分そういう事じゃない。

 

 けれどモナが洒落にならなくなる所で、助け舟を出したのは二人のどちらでもなかった。

 

「ね、『ネクロノミコン』――!」

 

「なっ!?」

 

 鍔迫り合い(モナの挟み合い)で動きが止まった隙を突き、目を回しながらに叫んだのはお米様抱っこ状態のナビだった。

 四人の集まった所にいきなり出現したUFOが、各々を弾くようにして浮き上がる。ナビが乗り込めたわけではないが、拘束から外れるには十分なインパクトを持っていた。

 

「ごめんねナビ、遅くなっちゃって!」

 

「い、いや、私も油断して悪かった。それにモナの言葉で、私もやらなきゃって、思ったから……!」

 

「さ、流石ワガハイだぜ……! ナビもグッジョブだ……!」

 

 まだちょっとフラフラのナビを、ノワールが慌てて支える。けれどここぞという所でガッツを見せた彼女に、同じくフラフラのモナも満足げだった。

 

「まさかあそこでペルソナを呼んでみせるなんて……。ウチも召喚器に慣れ過ぎとったわ」

 

 折角捕まえた人質を取り返されたラビリスも、一本取られた事を素直に認めるように小さく笑みを浮かべていた。

 

 けれどすぐさま表情を引き締め、大斧を上に振り上げた状態で、ラビリスは斧のブースターを点火した。

 モナたちに一度は辛酸を嘗めさせた破壊の権化が、再び鳴動を始める。

 

「なら次は本気の本気や! 切り抜けれるもんなら切り抜けてみぃや!!」

 

 今はラビリス一人だが、彼女にもシャドウワーカーの仲間がいる。今は敵対している三人にも同じ繋がりを見たが故に、それを認めたラビリスの感情が高ぶっていく。

 それをトリガーとした奥の手『テウルギア』の事を、怪盗団は知らない。

 

「アレがあの人のとっておきみたい。でも私たちだって、負けてないよね!」

 

「当たり前だぜノワール! ナビ! ワガハイ達の力はこんなもんじゃないって、アイツに教えてやろうぜ!」

 

「お、おう! 私も精一杯頑張る! あ、それと伝えておきたい事もあって――」

 

 そして仲間と共に戦う怪盗団もまた、ウォーミングアップは完了している。次の一撃で決めるという意志が、あらゆる制限を越えて力となろうとしている。

 それが彼らのフィニッシュを飾る独壇場『SHOWTIME』である事を、シャドウワーカーは知らない。

 

 だが、互いにここが勝負どころである事は理解出来た。だからこそ、そのタイミングは同時だった。

 

「行くで! 『アリアドネ』!!」

「行くぞ、オマエらァ!!」

 

 ブースターを温め終えたラビリスが白い人影を呼び出すのと同じくして、モナの姿が車へと変化する。

 モルガナカーにノワールとナビが乗り込んだのと同時に回り始めるニャータリーエンジン。運転手がアクセルを踏み込む事でタイヤも回り始めるが、発進する事はなかった。

 

「これも糸か! だがワガハイ達を舐めるなよ……!」

 

 いつの間にか車体に巻き付いていた赤く光る糸が、モルガナカーを繋ぎ止めて離さない。しかしドンドン踏み込まれるアクセルによって、タイヤの回転数は上がっていく一方だ。

 

「全力全開――いや、もっとや!!」

 

 ラビリスの耳にある赤い円盤もキィィンと高速で回り始め、彼女の熱も高まっていく。荒ぶる大斧の手綱を握りながら、その威力を限界まで引き上げていた。

 

 互いの姿はまさしく引き絞られた弓矢の如く。

 故にその瞬間は、比較的な静寂の中で訪れた。

 

「ストリングアーツッ!!」

「行こう、モナちゃんっっ!!」

 

 地を蹴る音と、糸を引き千切った音の後。

 パレス全体に伝わる轟音が、その衝突の証明になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニイジマパレスの一角に設けられた迷宮エリア。

 本来であれば暗闇の中を手探りで進む手筈だが、今やその方法は意味を失いつつあった。 

 

「さて、随分と見やすくなったが……そろそろ決着をつけるべきだと、君たちも思わないか?」

 

「ああ……全くだ!」

 

 凛とした立ち姿のままそう言うのは、シャドウワーカーの部隊長を務める才女、桐条(きりじょう)美鶴(みつる)だ。黒服の上から白コートを羽織った格好だが、もはや暗闇に溶け込む事はない。

 

 通路のあちらこちらに残る焔が、彼らの姿を照らし出しているからだ。その熱と共に遍在する氷塊の破片が、彼らの戦いの激しさを物語っていた。

 

「これ以上、時間かけてらんないっての!」

 

 そう叫びながら立ち上がるパンサーの足は、僅かに震えを残している。連戦による消耗が激しいのはフォックスも同様だが、それを聞き入れてくれるような相手ではない。

 だからこそ、この二人もあの攻撃で決めるしかないという覚悟をしなければならなかった。

 

「届くかは分からないが、今の俺たちにやれるとしたらアレしかない。準備はいいな、パンサー!」

 

「うん、思いっきりやっちゃおう!」

 

「なるほど、良い意気込みだ。であれば、私も全力をもってそれに応えるとしよう」

 

 対する美鶴とて、弱点属性である火炎をレジストする為にかなりの気力を消費している。僅かに見える汗の雫は、炎の熱によるものだけではなかった。

 故に取り出した赤色のカートリッジを召喚器へ装填する動きに躊躇いはない。彼女にも背負う立場や事情があるのだから。

 

(ほとばし)れ、『アルテミシア』――!」

 

 己のこめかみをうちぬき、瞳を紅く輝かせる美鶴の背後に現れる彼女の分身。『アルテミシア』が腕を振り上げたのと同時に、周囲一帯が氷の海へと変貌する。

 

「控えおろう、ってね――!」

 

 美鶴が引き金を引くのと同時に、動き出したのはパンサーだ。触れたら行動不能になりかねない氷の波へ向かって、振るわれるのは彼女の得物である金属製の鞭だった。

 通常よりも強化された鞭のしなる連撃が、氷を割る新たな波を生み出していた。

 

「いい鞭さばきだ。しかしその程度では私には届かん!」

 

 自身の作り出した氷海の上をスケートの要領で滑りながら、美鶴は『アルテミシア』を操る。

 そのペルソナの持つ武器もまた鞭である以上、同じ事が出来ない道理はない。パンサー以上の波状攻撃が生み出されてすぐにぶつかり、相殺された威力が床の氷を巻き上げる。

 

 かくして浮いた氷の隙間を滑る美鶴。

 そんな彼女の背後から、響くのは三人目の声だった。

 

「――ならば、この一刀を受けてみろ!」

 

「っ――?!」

 

 パンサーの攻撃と同時に動いていたフォックスが取っていたのは美鶴の進行方向にあり、かつ死角となる位置にあった氷塊の陰だった。

 氷の嵐の中を高速で動きながらのペルソナ召喚。美鶴であれば難なくこなせる動作だが、氷の上を滑りながらでは些か話は別だ。距離を詰める速度を優先した以上、逆に詰められる間合いと流れには抗えない。

 

 故にフォックスのすれ違いざまの一閃は、美鶴に届きうる刃となっていた。

 

「ここだ、パンサー!」

 

「ナイスフォックス! It's time(これで) to finish(終わりだね)!」

 

 キィンッ!と弾かれたレイピアが宙を舞い、無手となった美鶴へと二人の声が響く。

 武器がなくなったからには魔法のぶつけ合いになるが、今度こそは負けないとパンサーも覚悟を決めている。そこに近付いていく美鶴の脚にも迷いはない。

 

 だからこそ、その誤算には気付けなかった。

 

「えっ――?」

 

 美鶴の足を止め、ブフ系であれば砕かんと振るった鞭が空を切る。それは美鶴も鞭の扱いに心得があったが故に、そのコースを見切った彼女の脚が強く踏み込まれる。

 

明彦(ガンマ)程ではないが――せいあっ!」

 

 レイピアは未だ地に落ちてすらいないが、その程度でペルソナ以外の攻撃手段を失うようでは特殊部隊(シャドウワーカー)なぞやっていない。それを証明するような鋭い蹴りが、パンサーの腰に鈍い衝撃をもたらした。

 

「あぐっ……!」

 

「パンサー!? おのれ、よくも――っ?!」

 

「今のは悪くない連携だった。それは認めよう」

 

 転がるパンサーを庇うように斬り掛かるフォックスの一刀を、美鶴は難なく受け止める。

 その手にあったのは愛用しているレイピア、それを模した氷の剣だ。ただし耐久性は殆どないのか、その一度だけで砕け散っていく。けれどその一瞬があれば美鶴には十分だ。

 

「氷の……速度が……!?」

 

「だが我々の練度には届いていない。いずれは追いつくかもしれないが、時期尚早だったな」

 

 SHOWTIMEを中断されたフォックスの足元から生えた氷が、彼を閉じ込めようと凄まじい速さで伸びていく。それがテウルギアで上がった出力に依るモノだとは、フォックスは最後まで気付かなかった。

 

「狐面の君は同じ属性だから、コレくらいで死にはしないだろうが……暫し動きを止めるには十分の筈だ。後は、赤いボディスーツの君だけか」

 

「こ、のぉ……!」

 

 そうして視線を切り替えれば、どうにか立ち上がろうとしているパンサーの姿があった。

 まだ闘志は残っているが、揺れる瞳が動揺と焦燥を伝えている。脅威度は下がったと美鶴が判断出来てしまうくらいに。

 

『……長……! …………答……いま……!』

 

「こちらイプシロン。どうしたラビリス(ベータ)、何かあったか?」

 

 そんな折に、耳の無線機から通信が入った。

 異世界でも使用できる特別製のイヤホンからの音声に、美鶴の意識が逸れる。

 ノイズ混じりの内容を聞き取ろうとして、その中身を再度尋ねた直後。

 

 

『そっちに車が行った!! 注意してや!!』

 

「車? 一体何の――」

 

 

 迷宮の為にパレスの中でも特に防音性の高い筈のフロア全体が、地震でも起こったかのように鳴動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スロットフロアは、もはや廃墟といっていいレベルの荒れ模様となっていた。

 

 壁際以外のマシンは全て倒れてガラクタと化し、床もヒビ割れだらけでまともな箇所の方が少ない始末。異世界でなければ倒壊しても不思議じゃない程のダメージが刻まれていた。

 

「…………やるやないの、怪盗団!」

 

 それを為した一人であるラビリスは、今はもういない相手への賛辞を口にする。その手元には、先のなくなった大斧の持ち柄だけが残されていた。

 

最初(ハナ)からこれを狙ってたんやね……。私も武器破壊は警戒しとったけど、手数の多さで来られたら打つ手が足りひんわ」

 

 彼女が思い出すのは、自分の斧と彼らの車が衝突する間際。圧倒的な力の一撃で語る自分とは違い、彼らは幾つもの手を打っていた。

 

 衝突前にナビ役が張った防御壁。

 車の上に乗っていた羽根付き帽子の子の撃ったグレネード。

 それから振りかぶった斧の一撃。

 

 そのどれもがラビリスの勢いを削ったが、合わさった所で相殺しきれるものではない。現にインパクトの瞬間からその直後は、ラビリスの方に軍配が上がっていた位だ。

 

 そこから拮抗を覆してみせたのは、この世界だからこその真価を発揮する存在――ペルソナだった。

 

「ネコの子が車になるんは驚いたけど、その状態でも召喚出来るんも盲点やったわ……。ここも素直に反省やね」

 

 突然ネコの顔を模した車体のライトが青く光ったかと思うと、『ゾロ』と呼んでいた彼のペルソナがそのすぐ近くに出現したのだ。

 同時に現れた『ミラディ』の射撃による隙を突き、彼が使ったスキルは『ミラクルパンチ』。全ての負担が斧の刃先に集中していた所での持ち柄へのクリティカルとして、彼らはこの結果を勝ち取ったのだった。

 

「でも美鶴さん(イプシロン)に連絡はしたし、コレだけやったらあの子らも無事やないでしょ。あとは私も君たちを――っと、アイギス(アルファ)、どないしたん?」

 

 そうしてどこか晴れ晴れとした顔もちのまま、かかってきた着信の対応に追われるラビリス。そうして、怪盗団の車とは反対方向に歩いていくのだった。

 

 

 

「モナちゃん、ホントに大丈夫?」

 

「あ、ああ! 勿論だぜ、ノワール! これまでどんなオフロードだって、走ってきたワガハイを舐めるな、よ……!」

 

 かくしてラビリスの武器破壊に成功したモナ、ノワール、ナビの三人。けれど予想の通り、無事である筈は勿論なかった。

 

「ま、マジで死ぬかと思ったぞ……! 私たち、よくあのロボっ娘の一撃を凌いだなホントに……!」

 

「ギリギリだったかもしれないけど、皆で力を合わせた結果だよ! まだ胸はドキドキしてるけど……!」

 

 衝突の瞬間を思い出して身震いするナビだが、それはモナもノワールも同様だ。死力を尽くさなければ今ここにはいないと、全員が身をもってそう理解していた。

 

「……だが、ナビの話が本当なら、一刻の猶予もない。早い所このパレスを脱出してみせないとな……!」

 

「そうだね、モナちゃん! ジョーカーやクイーンの代わりに私、頑張るから!」

 

「い、今は贅沢言ってられないもんな、うん」

 

 因みに運転席でハンドルを握るのは、もう少しで免許の取れる年齢になるノワールだ。なお年齢以外には問題がないのかに関しては、何かを諦めたようなナビの表情が答えとなっている。

 

「……っ! 二人とも、その先にフォックスとパンサーの反応がある! なんかヤバそう、急いで!」

 

「分かった! アクセル全開!」

 

「ちょ、そこ階段だから慎重にっ……!?」

 

 このパレスから脱出するまで、死地にいる事に変わりはない。そんな感覚をまたも味わいながら、パレス内を疾走するモルガナカー。車体の頑丈さとナビの的確なルート指定、そしてノワールの悪魔的なドライブテクが為す、ある種の奇跡がそこにはあった。

 

「そ、その先の迷宮フロアだ! その中に二人がいる!」

 

「いや扉がまだあるぞ!? ワガハイの顔も流石にそろそろ凹んじまうって!!」

 

「なら私のランチャーでぶち抜くから! しっかり捕まっててねっ――!!」

 

 多分窮地すぎて皆テンションがおかしくなっていたのだろう。パレスの扉を破壊するという暴挙に誰かがツッコむよりも、ノワールのグレネードが突き刺さる方が早かった。

 

『そっちに車が行った!! 注意してや!!』

 

「車? 一体何の――」

 

 そうして美鶴が聞き返そうとした瞬間。

 モルガナカーとラビリスの大斧がぶつかったのと並ぶだけの衝撃と共に、キズだらけのモルガナカーが迷宮フロアへとエントリーした。

 

「な、なんだ?! どうして車が!?」

 

「も、モルガナ!? どうやってここまで?!」

 

 いきなりの登場に仲間のパンサーだけでなく、流石の美鶴も目を丸くする。こんなの驚くなという方が無理である。

 

 ――故にこそ、その男にとってはチャンスとなった。

 

「――隙ありだ、『ゴエモン』!」

 

 突如として起こった斬撃が、その氷塊を内側から切り刻む。タイミングを図っていたフォックスの行動に、一歩出遅れたのは美鶴だった。

 

「不意を突かれたか。私とした事が……!」

 

 大して距離のなかった彼女へと、フォックスの斬撃と共に斬り刻まれた氷塊の破片の二つが襲いかかる。急激な状況の変化に美鶴と言えど無傷では済ませられず、彼女の位置が押し下げられてしまう。

 

「乗れ、おイナリ!」

 

「いいタイミングだ、助かった!」

 

 その隙に近付いていたモルガナカーのドアから伸びたナビの手を、フォックスが取って乗車に成功する。決して広くはないはずの迷宮内で、ノワールのドラテクが火を吹いていた。

 

「安々と逃がすとでも……!」

 

「――Get ready(覚悟しなよ)! 『カルメン』!」

 

 すかさず復帰した美鶴が召喚器を使うよりも早く、パンサーのペルソナが正しく火を吹いた。

 後手に回っていると認識するよりも早く、彼女の脳が行動を即断する。

 

「っ! 火力が弱い、コケ威しか!」

 

「どうよ! 私だってやられっぱなしじゃないんだから!」

 

 美鶴が咄嗟に取った行動は『防御』。ここまで何度もやってきた、質で属性相性を凌駕する魔法の壁だ。

 しかしその出の早さと本体が駆け出す事に重点を置いた魔法の発動に威力はなく、まんまと美鶴の足止めにパンサーは成功していた。

 

「パンサーも来た! ノワール、行って!」

 

「オッケー! 飛ばすよ!」

 

 そうしてパンサーが乗車した瞬間に、再び急回転したタイヤによってモルガナカーが加速する。

 もはや暴走列車と同じ類のモルガナカーを前にして、美鶴は――

 

「ブリリアント、だ」

 

 ――その慌ただしいエンジン音と悲鳴を見送った。

 

 そうしてスロットフロアと同じ位の崩壊っぷりとなった迷宮フロア。美鶴は地に落ちて突き刺さったレイピアを引き抜いた。

 

「全く、見事なモノだ。ここまでされる気はなかったのだがな」

 

 その顔には敵を逃してしまったという悔いの色は見られない。まるで何かを懐かしんだ後のような、小さな笑みだけがそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうやら、他の奴らも随分と派手にやっているらしい。俺たちも続くべきか?」

 

「いや、十分ハデにやってんだろ……」

 

 闘技場フロアにて、対峙する三人。

 カジノ全体を大きく揺らす轟音、それが二回も響いてきた事に、明彦はそんな提案をしていた。彼の中では人とバイクの衝突は派手の部類には入らないらしい。

 

「……他の二人は、モナたちを追いかけてはいないそうね。もしかして逃がしてくれるって事かしら?」

 

「……ほう、中々面白い解釈だが違う。俺たちシャドウワーカーが怪盗団を逃がす道理はない。()()()()

 

 仲間からの通信を聞いて、やや考え込んでいたクイーンがそう尋ねるが、明彦は静かに首を横に振る。まるで何かを念押しするように。

 

「そっちの妙な車を追っていない理由は簡単だ。それよりも追う相手が出来た、それだけだ」

 

「俺たちよりも、だって?」

 

「集団を相手にするのなら、先に頭を押さえた方が効率的だという話だ。勿論、全員の捕縛に成功する事が理想ではあるがな」

 

「つまり、私たちよりもリーダーを捕らえる方を優先したのね……!」

 

 何でもないとばかりに開示された情報に、いち早くその中身を読み取ったクイーンが舌を巻く。

 しかしそうと分かれば、この男が黙っている筈はない。

 

「へっ、随分と舐めてくれたモンだな……! ていうか、アイツが一人でもそんな簡単に捕まったりするかよ!」

 

「勿論軽視しているわけじゃない。ここまでの事件を起こしただろう怪盗団のリーダーだからな。こちらとしても最大級の警戒をしているわけだが……お前たちはどうだ?」

 

「……私たちはそれに値しないと言いたいの?」

 

 明彦の言葉は挑発だとクイーンも分かっている。

 けれど同時に何かを試されているような感覚に、クイーンの目つきがスッと鋭くなった。

 

「もう少しすれば、お前たちの仲間の車がここにも来るだろう。だが俺は最初にバイクを止めたんだ。バスだかボックスだかは知らんが、同じ事が出来ん道理はない」

 

「いやアンタ、モルガナカーも殴って止める気かよ?!」

 

「当たり前だろう。俺たちは俺たちの信念に従ってここに来ている。それに対抗できなければ、お前たちもそれまでというだけだ」

 

 挙げた手段は滅茶苦茶だが、そう言って拳を打ち鳴らす明彦の眼は真剣そのものだ。

 だからこそクイーンも自分たちのやるべき事を、示すべきモノを理解した。

 

「いいわ、やってやろうじゃない。私だってまだアナタに一撃入れていないもの!」

 

「俺らのリーダーに集中させすぎたって思わせてやるぜ、刑事さんよぉ!」

 

「吐かせ。なら――行くぞ!!」

 

 言葉の裏で意思疎通を終えたが故に、先に地を蹴ったのは明彦だ。その狙いは黒いライダースーツ姿で拳を構えるクイーンであり、そのガードを突き抜けんばかりのパンチが風を切る。

 

「それでも、重いわね――!」

 

 (すんで)のところでそれを回避しながら、明彦の腕を取ろうとするクイーン。合気道の技を用いて投げるつもりが、その重量さに顔をしかめる羽目になっていた。

 

 それでも最初の勢いのまま、明彦の身体がぐるりと回る。それは力の流れを利用する合気道の特性故であり、また受け身へと切り替えた明彦自身の身のこなしが起こした結果でもあった。

 

「悪くない腕前だ。むしろ此方(こちら)のがかけた時間は長いと見た」

 

「アナタには劣るかもしれないけど、私の今持てる全てをぶつけるわ!」

 

 それを受けても瞬時に立ち上がれる明彦にも、合気道の心得は多少ある。故にクイーンの得意であっても決定打にはなり得ない。

 

 その差を埋める為にこそ、彼もまた動き出していた。

 

「喰らえっ!」

 

「効かん――ぬっ?!」

 

 明彦の立ち上がりの間を利用して距離を詰めたスカルの棍棒が唸りを上げる。それを受け止めてみせた明彦は、されど違和感に眉を顰めた。

 

「なるほど、ペルソナの魔法を武器に纏わせたのか。俺が自身の肉体に雷撃を落としたのと同じように……!」

 

「アンタに出来て俺らに出来ねぇ理由はねぇからな! よし、もっとだ『キャプテン・キッド』ォ!」

 

 鍔迫り合いの形になりながら、仮面を青く燃やしたスカル。その背後に現れたペルソナが銃と一体化した腕を掲げると、更なる電撃が棍棒に与えられていった。

 

「うおおおおおっ!!」

 

「はあああああっ!!」

 

 互いに振りぬこうとする拳と棍棒に力がかかると共に、二人の男が叫びを上げる。

 互いに同じ電撃属性を持つ以上、その属性によるダメージが蓄積する事はない。その電荷によってどれだけのブーストをかけられるか、そしてそれを打ち破れるかの戦いだった。

 

「――せいっ!!」

 

「ぐわぁっ?!」

 

 そうして互いの身体が熱を帯び、湯気すら出かねない程の拮抗の果てに、その身を飛ばしたのはスカルの方だった。

 しかし征してみせた明彦も、電撃の残滓を纏いながらに息を吐いていた。

 

「正面から打ち破ろうとする意気込みは買うが、それに負けてやる程甘くは――ない!」

 

「――だとしても、よ!!」

 

 そんな彼に息をつかせる暇も与えないと、再度突貫してきたクイーンがその拳を振りかぶる。その行動も見越していたからこそ、明彦もその一撃に合わせて踏み込みを入れていた。

 

 つまりその衝突は必然のモノ。

 けれどその中で、彼の予想にないモノが一つだけあった。

 

「お前も、拳に魔法を――?!」

 

 二人の拳がぶつかる直前、クイーンの握ったメリケンサックに宿る核熱属性の輝きが、明彦の瞳に映り込む。

 彼のかつての戦いにはなかった属性。それでも弱点ではない以上は退く必要はないと判断したからこそ、その瞬間まで気付けなかった。

 

 スカルのぶつけた電撃はブーストをかけるだけのモノではなく、その身に電撃による状態異常を付与する為のモノ。

 属性相性によって互いに感電状態にはならずとも、身を走る電流の熱は、局地的な炎症(やけど)ならぬ炎上状態を引き起こしていた。

 

 

 そこに迫るは蒼白い光を宿した拳。

 ――力任せではない技巧的(TECHNICAL)な一撃が、明彦に予想外(1.5倍)の衝撃をもたらした。

 

 

「ぐうっ――?!」

 

 弾ける白光。スパークによく似た衝撃音。

 

 一度は打ち勝った筈の少女の攻撃に、今度は明彦だけが後方へと飛ばされる。咄嗟に受け身を取るが、それでも膝をつかせる程のダメージが彼に与えられていた。

 

「届かせたわよ、()()()の拳を!」

 

「見たかよ、シャドウワーカー!」

 

 そんな実力差を見事乗り越えてみせたクイーンとスカルが、尚も油断せずに明彦の前に立ち続ける。

 

「……なるほど、アイツが惹かれたのはこういう所か」

 

 されどまだ余力はあるとばかりに立ち上がる明彦が呟くが、怪盗団の二人の耳にそれが届く事はなかった。

 

「――待たせたな、二人とも!」

 

「スカル、クイーン! こっちに来て!」

 

 元々彼らを囲んでいた闘技場の端、金網で出来た扉が再びの轟音と共に吹き飛ばされる。そしてその煙の中から黒い箱型の黒猫っぽい車が飛び出してきたからだ。

 そのまま滑る勢いで二人の前にやって来ると、スライドしたドアから狐面の少年と赤いボディスーツの少女が顔を出した。

 

「「ペルソナ!!」」

 

「くっ……!」

 

 シュタッと地に降り立つのと同時に仮面を青く燃やした二人によって、明彦へと氷と炎の魔法が放たれる。

 その片方が弱点属性だったが故に、明彦も今回は回避を選択していた。横方向に大きく転がった後に彼が見たのは、その隙に乗車した怪盗団の姿だった。

 

「よし乗ったわ! 急いで発進を――って、ノワールが運転してたの?!」

 

「大丈夫だよマコちゃん(クイーン)! 私、ハンドル握るの慣れてきたから!」

 

「で、出来れば私たちの命綱でもある事も忘れないで欲しいけどな、ソレ!」

 

 なんかハイになってるノワールと、上擦った声で未だにフラフラなナビに違和感を覚える二人だが、それ以上の猶予は最早ない。

 全員が乗ったと分かるや否や、ノワールはアクセルを踏み切っていた。無論、全力で。

 

「行っけぇ――!!」

 

「「「うわあああああっ?!?!」」」

 

 急回転するタイヤが地を蹴り飛ばし、弾丸を超えてミサイルに近づこうとする勢いで発車するモルガナカー。

 一名の叫びと他のメンバーによる悲鳴を奏でながら動く車に、流石の明彦も前に出ようとはしなかった。

 

「……アレに打ち勝つにはテウルギアがないと厳しいな。使っても良かったが、これ以上は蛇足か」

 

 そうして砂煙が立つ闘技場に残された明彦は、己の調子を確かめながらに赤いカートリッジを懐へと仕舞った。

 あの二人が為した一撃によって、見るべきモノは見た。そう判断し、動き出そうとした彼の耳に通信が入る。

 

「む、丁度いいタイミングだな。――此方(こちら)ガンマ。怪盗団は仲間と合流した後に逃亡を開始した。指示を請う」

 

 途中何度もパレス全体が揺れた事から、別の場所でも激しい戦いが行われていたのだろう。ならばノイズ混じりでもおかしくはないと、彼は通信音声に意識を集中させながら闘技場を出る。

 

 

「――なに、ターゲットの確保が完了しただと?」

 

 

 その直後にもたらされた報告によって、彼の足が止まった。




(追記)

これを書いている時に『戦闘回はウケない』『二次創作がエタるのは主人公以外のキャラの描写が長引いてる時』とかの文言を見た気がしました。ふ、ふーん……?

それはさておき閲覧、感想、評価などなどありがとうございますです!
ニイジマパレス編も一応はあと少しです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。