私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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UA150000到達、ありがとうございます!!

☆カジノフロア・吹き抜けエリア
 ・ジョーカー
 ・アイギス

☆エレベーターホール・中層
 ・クロウ
 ・寺崎叶(カトル)

☆モルガナカー
 ・スカル   ・パンサー
 ・フォックス ・クイーン
 ・ナビ    ・ノワール

☆徒歩移動中
 ・桐条美鶴
 ・真田明彦
 ・ラビリス


#39 仕組まれた戦い・急

 

 未だ多くの認知存在(おきゃくさま)が残るカジノエリア。その吹き抜け上部にある広間にて、絶えず響くのは銃声だった。

 

「――はああああっ!」

 

「――なんのっ!」

 

 片や拳銃、片やその指先に備えた機関銃。排出された薬莢を幾つも転がしながら、ジョーカーとアイギスの二人は中距離戦を制するべく動き続けていた。

 

「ココです『アテナ』、ヒートウェーブ!」

 

 弾幕によって行動範囲を絞った所に、アイギスのペルソナによって衝撃波が放たれる。

 左右に逃げ場はないと見るや、ジョーカーの行動は早かった。

 

「飛べ、『アルセーヌ』!」

 

『フハハハハ、任せるがいい!』

 

 呼び出された彼の半身が、その腰から生えた黒翼によって本体を宙へと誘う。

 一気に天井近くまで飛び上がったジョーカーは、そのままダイブしながらの攻撃に繋げようとアイギスを見て、その銃口と目が合った。

 

「発射!」

 

「『ランダ』ッ!」

 

 放たれた弾丸に対してジョーカーが咄嗟に呼び出したのは、長髪を振り回す魔女の姿のペルソナだ。物理と銃撃の両方を反射する性質を持つ人格の鎧を選んだ事は間違いではないだろう。

 

 ――それが、普通の弾丸であればの話だが。

 

「ぐうっ?! 電、撃……!?」

 

 『ランダ』に受け止めさせた弾丸は、飛来してきた方向へと跳ね返った。しかし着弾と同時に痺れるような痛みが彼を襲ったのだ。

 複数の属性を持つ攻撃に覚えがない訳ではない。けれど意表を突かれた事は否めなかった。

 

「例えワイルドであっても、複数の属性を併せた攻撃には強くない。それはアナタも同じようでありますね」

 

「ワイルドも、知っているのか……!」

 

「私もアナタがそうであるとは思いませんでした、がっ!」

 

 攻撃に移れずに着地したジョーカーへと、アイギスが間髪入れずに射撃を開始する。しかし『ランダ』によって戻ってきた弾丸によって、その動きもまた中断させられていた。

 

「まだだ……!」

 

「いいえ、『アテナ』!」

 

 その一瞬を見逃さず、かつコレ以上は怯んでいられないと、ジョーカーが弾倉に残った弾を撃ち切る勢いで引き金を引く。

 それでもアイギスにもたらされる損害は軽微なままだ。その鋼鉄の身体と、物理と銃撃に耐性を持つペルソナにより、ジョーカーの行動はただ彼女を封じる牽制にしかなっていない。

 

 だからこそ、手本を得た彼はその最後の弾丸に賭けたのだ。

 

「『アルセーヌ』――エイガ!!」

 

 愛用するハンドガンの銃口から弾が飛び出るその瞬間。彼は仮面を青く燃やしてその目を見開いた。

 すわ追撃かと警戒するアイギスの目の前で、その変化は起こった。

 

 ――己に向けて飛来してくる弾丸が、黒い焔に包まれたのだ。

 

「なん――くっ!?」

 

 つい先程のジョーカーと同じように、不意を突かれてのクリーンヒットを晒したアイギスが舌を巻く。

 起きた現象は自分が使ったような属性弾の被弾で間違いない。けれど怪盗団のリーダーが為した事は、思わず感心してしまうような匠の技だった。

 

「まさか放たれた後の弾丸に魔法を付与(エンチャント)するなんて……! 随分と器用な事をしますね……!」

 

「いいサプライズになっただろう?」

 

 予め属性を仕込んでいるアイギスとは違い、彼が属性を後付けする為にやったのは、弾丸そのものを魔法の運び役にする事だった。

 異世界で強化された動体視力と超魔術に届くほどの器用さを用いて、高速で動き続ける小さな弾丸に魔法の発動位置を合わせる。針の穴に糸を投げ込んで通すような超絶技巧だった。

 

 そしてそれを成功させた事により、耐性を持っていても射撃を警戒し続けなければならないという状況を、彼はアイギスにも押し付けたのだ。

 

「……だとしても、私の弾丸がアナタに届く方が早いと予測します」

 

「いいや。やってみなければ分からない」

 

 それでも冷静に告げるアイギスへ、ジョーカーは新たな弾倉をモデルガンに差し替えながら答える。

 クロウの発案により一部のメンバーの銃は弾切れしても再装填(リロード)が出来るようになったが、だからといって長期戦が出来るかはまた別の話だ。しかし彼は躊躇なく、その続きへと踏み出していた。

 

「行くぞ――!」

 

「受けて立つ、であります――!」

 

 そうしてジョーカーの放った弾丸を避けながら、アイギスもその指先に込めていた弾丸を撃ち放つ。その時に横目で見た弾丸に、魔法は籠っていなかった。

 

「『アルセーヌ』!」

 

「……なるほど、ブラフを織り交ぜているのですか!」

 

 アイギスよりも圧倒的に少ない弾数にも関わらず、的確に彼女の避けづらい弾道を描いていくジョーカー。その中のどれに属性が付与されているかを、彼女はまず見抜かなければならない。

 しかしアイギスの扱う属性弾と違い、ジョーカーは発射してから弾丸に魔法を付与している。どんなに動体視力が優れていたとしても、彼がどの弾丸にそれを起こしたかを瞬時に見抜く事は容易ではないだろう。

 

 そしてアイギスが動きづらくなっている要因として、彼が呼び出した『アルセーヌ』の姿もその一つだ。なんせ呼び出された『アルセーヌ』が、必ずしも魔法による属性付与をするとも限らないのだから。

 

「エイガオン!」

 

「っ……いや違う!?」

 

 そして発動した魔法によって身構えてしまうアイギスだが、その起点はまさに彼女が移動しようとした足先だ。呪怨属性の立ち上がる炎に飛び込む直前で立ち止まった後、狙いに気付いた彼女が目と右手の先を咄嗟にその方向へと向ける。今度はアイギスがその銃口を見る番だった。

 

「――エイガ!」

 

「――ファイアッ!」

 

 空中で入れ違う弾丸が、黒と赤の炎に包まれる。そうして飛ぶ火種と化した塊が互いの身体へと命中し、その熱とダメージをそれぞれの発砲者へと与えていた。

 

「くっ……! やはり早撃ちでも僅かに届かないか……!」

 

「こちらとしては、もう一度アナタの弱点属性を突きたい所ですね……!」

 

 しかしそれが拳銃弾のサイズであった事もあってか、まだ二人共戦闘を継続するのに支障はなかった。しかしどちらの余裕がないかと問われれば、やはり不足しているのはジョーカーだった。

 

 或る程度回復したとはいえ、それでもパレスの主からの連戦である事。更にはここにきて相応の集中力を必要とする属性付与も連続で成功させている。

 ニヤリと笑みを浮かべる端に、本人も気付かないレベルの汗が滲んでいるのも仕方のない事だろう。

 

 けれどその代償を払う時が、不意に訪れた。

 

「『アルセー……っ?!」

 

 再び属性付与を施そうとした矢先、その弾丸が想定したコースより逸れている事に気付いた。引き金を引く指の疲労によって生まれた僅かなズレに、アイギスもほぼ同時に気付いた。

 

「ならこの属性は――どうでしょうか!?」

 

 『アルセーヌ』は火炎が弱点ではないと判明している為、彼女が放ったのはそれ以外の属性弾だ。

 発射された銃弾とは思えない程に低い温度を保ったその一発が、『アルセーヌ』の肩へと命中する。

 

「ぐうっ……?!」

 

 そうして氷結属性の弱点を突かれたジョーカーは全ての行動をキャンセルさせられ、たたらを踏んで顔を歪ませる。彼の鍛えられた体幹によって通常よりもかなり抑えられてはいるが、それが隙である事に変わりはない。

 

「一斉掃射!」

 

「っ――!」

 

 好機と見たアイギスが瞬時に氷結属性弾を装填し、その全てをジョーカーへと向けて撃ち放つ。

 これ以上の被弾やダウンは認められない。けれど『ランダ』への付け替えが間に合うかどうかは分からない。

 しかしジョーカーの瞳に諦めの文字が浮かんではいなかった。

 

 

 だからこそ、その人物は割って入る事を厭わなかった。

 

 

「――はぁあああっ!!」

 

 ジョーカーと銃弾の間に立ち登る光の柱。それでも落ちなかった弾丸を細剣(レイピア)で強引に薙ぎ払いながら、その人物は降り立った。

 

「驚きました、まだ仲間がいたのですか……!?」

 

「君は……」

 

「すみません()()。気になっちゃって、来ちゃいました」

 

 黒いベアトップ状のレオタードに赤髪を長いポニーテールにした少女が、黒い仮面越しにジョーカーを見る。警戒を顕わにするアイギスと違い、彼は少女の正体を知っていた。

 

「でもここで――あの時の借りを返します!」

 

 混迷きわめる賭博の庭に現れた最後の闖入者が、そう自信ありげに笑った。

 

 

 ★★★★★

 

 

 ニイジマパレスのでの作戦。それは心の怪盗団にとっての大きなターニングポイントだ。

 だからこそ皆準備を進めてきたし、私もそのつもりでいた。

 

 けれどいつだって現実はそんな私たちの想像を超えてくるのだと、そんな当たり前の事を身をもって味わうことになっていた。……いや、割といつもの事な気がしてるけど!

 

「いやちょっと、敵が多くない!?」

 

 天井から吊るされた照明の一つに乗り、見下ろした先にいるのは大量の警備員だ。

 警察官ではないのであくまでこのパレスに発生する認知存在だと思うんだけど、これ百人以上は余裕でいる気がする。カネシロパレス以来の無双ゲー(スクランブル)状態だった。

 

「僕としてもちょっと予想外だったけど、主の認知が変わったのかもしれないね。君みたいな侵入者を絶対に逃さない、そんな意気込みを感じるし」

 

「いやクロウが何かやったんじゃないの?! 私だけ狙われるなんておかしいし!」

 

「君の名前は冴さんも知ってるからね。このパレスで名前呼びされたのは君だけだし、別に不思議でもなんでもないさ」

 

 同じく一息で別の吊り下げ照明まで跳んで乗ってきたクロウが、呆れた様子でそう呟く。

 あの警備員の奔流にいても襲われはしないけど、数が多すぎて鬱陶しくなったのかもしれない。

 

「そもそも、君程度を潰すのにここまでの数の暴力に頼るとでも? 僕一人でも十分に決まってるだろうが!」

 

「あんな如何にも自分が用意しましたみたいなムーブしてたのに!!」

 

 様変わりしたフロアの様子には目もくれず、クロウが撃ち放ったのは光線銃。

 一発でも貰いたくないのはそうだけど、今は避けるだけなく弾くだけでも問題があった。

 

「くっ……、このっ!」

 

 ギィンと鎖で弾くけど、光弾の勢いまで殺し切るのは無理がある。線一本で吊るされた照明の上から押し出された私は、腕のボウガンの矢を天井目掛けて発射した。

 

 突き刺さった矢に繋げた鎖を掴んで落下を止めた私を、見上げる幾つもの視線。フロアに蔓延る警備員が、地に足つくのを待っていた。

 

「……うん、どう考えても無事じゃ済まないよねコレ」

 

 ジョーカーみたく仮面を剥いでいないから本来の姿に変異はしてないけれど、落ちたら袋叩きなのは間違いない。最悪CEROが変わるような事態すら起きるだろう。

 

「おや、随分と隙だらけじゃないかな?」

 

 そしてそんな展開に一切の躊躇いがない男が、私の命綱(鎖)を光剣で焼き切って来る。

 襲い来る再びの浮遊感。けれどその行動自体は見越していた為に、彼を見ながら仮面(目隠し)を青く燃やしていた。

 

「『シャルロット』、ガルーラ!」

 

「そればっかりだな、君は!」

 

 自分の下に呼び出した『シャルロット』の腕に一瞬乗り、そこから繰り出される奔流に身を任せて浮上する。

 一息で彼の頭上まで飛び上がってから鎖を操り、先に付いた鎌を彼目掛けて振り下ろす。

 

「――やはり先月よりも重くなってるね。どういうカラクリだい?」

 

「企業秘密です! いやどこかの多国籍企業とは関係ないけど!」

 

 鞭のように素早く鋭くしなった一撃に、受け止めたクロウの身が下へと押し流される。

 そのまま警備員の海に落下すれば彼だって無事では済まないだろうに、その顔に焦りは一切なかった。

 

「なるほど、どちらが先に落ちるかの勝負というわけか」

 

 そうニヤリとしながらくるりと回り、彼が降り立ったのは警備員の頭部。

 それを一切の躊躇いなく踏みつけてから蹴り飛ばす事で、再び宙へと舞い戻った。

 

「っ! 嫌な音……!」

 

「下にいるのは全て認知存在、パレスと共に消える程度の存在だ。そんな奴らの身を案じる必要がどこにあるんだい?」

 

 ペルソナ使いの脚力で踏み台にされた警備員のひしゃげた姿が、視界の端に映り込む。

 彼の言い分も分かるけど、だからこそ()()()()()と思う私がいた。

 

「射殺せ、『ロビンフッド』!」

 

「叶えて、『シャルロット』!」

 

 未だ天井に刺さっている矢から伸びたままの鎖を掴んでぶら下がる私に、上がってきたクロウがペルソナによる光の矢を放ってきた。

 咄嗟に手を放してペルソナによる氷の破片を生み出し、それを足場にして後方へと飛ぶ。

 

「相変わらずすばしっこいね。そんなナリでどうやって僕に対抗するつもりなんだい?」

 

「言われなくても見せてあげるから! せっかちはモテ……いやモテるかクロウは!」

 

 背後にあったエレベーターのガラス壁に鎌を突き刺し、一時的なフックにして彼と向かい合う。

 片腕で自分の身を支えつつ懐のポーチに手を突っ込んでから、私は背の壁を蹴って跳躍した。

 

「まずは喰らえ!」

 

「他の銃器か、安直だね」

 

 空中で一度鎖を手放し握ったのは、最初に買ったモデルガンだ。

 動きながらの射撃は難なく躱されるけど、まず当たるとは思ってないからそれはいい。

 

 牽制に成功した隙に私が設置した鎖を空中で再度掴み、一息で繋ぎ直して長くする。

 そのまま勢いをつけてスイングさせ、ブランコのようにして操る。こうでもしなければこの場で私のウリである機動力は確保できないからだ。

 

「いつからサーカスの団員になったんだい?」

 

「その怪盗服のクロウには言われたくない!」

 

 更に長くして丸い部屋の壁に付く位のふり幅になってから、鎖を支えにして壁を走りだす。

 天井の矢を基点としてぐるりと回るコンパスのようにしながら移動することでクロウの光弾を躱しつつ、私も拳銃に残った弾を全て彼へと撃ち放った。

 

 時折彼も足場にしている照明から落ちることもあるが、その場合はすぐにまた警備員の頭を蹴り飛ばして復帰してくる。彼を本当の意味で落とすには、更なる追撃が要るみたいだ。

 

「解せないね。どうしてそこまでするんだい? まさか本当に僕を倒せるとでも?」

 

「私があなたを倒せるなんて思ってないよ。でも、これも私の戦いだから!」

 

 もう一度壁を蹴って宙を舞い、クロウとの距離を一気に詰める。

 身を回して勢いをつけての鎌の斬りつけを、彼の光剣が弾き返す。彼の頭上で隙を晒す私へと向けられた光線銃の銃口が、光り輝くその一瞬。

 

 懐から取り出していた黒い勾玉を、鎌の柄で彼へと思い切り叩きつけた。

 

「ぐっ!?」

 

「うきゅっ?!」

 

 『呪怨の勾玉』と呼ばれる呪怨属性を秘めた勾玉をぶつけられたクロウが怯み、至近距離で放たれた光弾に肌を焼かれた私がその痛みに目を瞑る。それでも弱点属性を突かれた彼よりも私の復帰の方が早かった。

 

「アイテムとは、小癪な真似を……っ?!」

 

 警備員の群れの中に落ちきる直前で復帰したクロウが、そう言いながら上を向いてまた言葉を詰まらせる。何故ならそこにまた、私の鎌が迫ってきていたからだ。

 でも私はまだ天井付近で鎖を両手で掴んだままで、一緒に落ちての追撃は危険だと思っていた。

 

 だから鎖を瞬時に足に巻き、蹴りの延長で下に行ったクロウへと伸ばした鎖の先の鎌を届かせた。

 これくらいしなければ、彼には届かないと思ったから。

 

「――『ロキ』ィ!!」

 

 だからその白黒の縞模様を持つ人型の登場に、私は確かな手応えを覚えたのだった。

 

「どこまでも目障りだね、本当に! これで満足か、ストーカー!!」

 

「いいや、まだだ! 私はまだ、本当のアナタを見てないんだから!」

 

 召喚の余波で周囲の警備員を退けながら、立ち上がるクロウの雰囲気が変わる。

 けれどその姿は未だ、白い貴公子(表向き)のままだ。

 

「本当? 本当の()だと? 君に見せる必要はないし、そもそもそう言われる事が不愉快だ。ああ本当に、図々しいし忌々しい……!」

 

 既に怪盗団との通信手段は切っているのだろう。王子様のような爽やかさなど、残滓がどれだけあるかというレベルだ。強い敵意と殺意だけが、再び私へと向けられている。

 

「これ以上時間を割くつもりはない。とっとと終わらせてやるよ……!」

 

「っ……!」

 

 そう言って彼が動き出してからの三十秒。

 それまではやはり手を抜かれていたのだと分かる程の猛攻が、私を襲った。

 

 

 ★★★★★

 

 

「――魅せて、『サンドリヨン』!」

 

「くっ!?」

 

 青白いドレスを纏ったペルソナが、舞踏会のようにひらりと踊る。

 そんな彼女が生み出した光の柱に、対峙するアイギスは回避行動を取っていた。

 

「ここだ、『アルセーヌ』!」

 

 彼女の動く先を見越したジョーカーが、引き金を引いてから魔法を弾丸に付与する。

 必要な集中力には変わりないが、一人仲間が増えただけで随分とやりやすくなった気がしていた。

 

「いいえ、この程度では……!」

 

「相手の方も相当の強さですね。ところで手足が機械みたいですが、義肢か何かでしょうか……?」

 

「うんまぁ、そんな感じだ」

 

 一対二になっても、アイギスの戦意に陰りは見られない。それは自分が戦い慣れている事や、急に現れた赤い髪の少女の練度を分析したが故の判断だ。

 アイギスから見て、現時点での赤い髪の少女の脅威度はあまり高いものではない。しかし他の面子と違って素性が明らかでない事や、それ故に隠した手の内を警戒しての立ち回りだった。

 

 それでも自分(ジョーカー)だけの状況よりは幾ばくかの余裕が生まれ、汗を拭うだけの休息が出来た事に間違いはなかった。

 

「……()()。頼みたい事があるんだが、いいか?」

 

「後輩……あ、私の事ですね! 勿論です、是非言ってください!」

 

「助かる、実は――」

 

 片手を耳のあたりに当てながら、とある作戦を後輩(芳澤)へと伝えるジョーカー。その中身に後輩(芳澤)が目を丸くするが、意図は伝わったようだった。

 

「……分かり、ました。きっと先輩には、まだやるべき事があるんですよね? なら私、信じますから!」

 

「ああ、この場に来てくれた事含めて感謝する。さぁ行くぞ!」

 

「約束、忘れないでくださいね!」

 

 そうして互いに頷きあってから、再び相手に向かって地を蹴る二人。

 リロードを済ませながら様子を静観していたアイギスも、躊躇いなく銃口を向けた。

 

「作戦会議は終わったようですね。アナタも怪盗団の一員と見做して、制圧するであります!」

 

「後輩、俺の傍から離れるなよ!」

 

「はい!」

 

 これまで何度も敵対者を苦しめてきた弾丸の雨あられが、迫り来る二人を迎え撃つ。

 その微かな隙間を縫うようにして駆ける二人だが、先行するジョーカーの肩や腿にその幾つかが命中する。しかしその勢いが削がれる事はなかった。

 

「大丈夫です、まだまだ行けます――!」

 

「まさか、彼女の力ですか?!」

 

「おおおあおっ――!!」

 

 これまでになかった現象に、アイギスが原因である少女へと目を見張る。

 後輩(芳澤)の持つペルソナの『特性』により、ダウンの発生確率の下がった状態で距離を詰め終えたジョーカーの蹴りがアイギスのボディを叩いた。

 

「くっ?!」

 

「まだだ、『アルセーヌ』!!」

 

『良かろう、反逆の焔を見せてやる――!』

 

 アイギスが後退した隙を逃さず、呼び出した己の半身による更なる追撃を彼女へと浴びせる。

 すかさず腕を交差させてダメージを抑えたアイギスが、更なる追撃に備えて煙の中で目を凝らす。

 

 弾丸か、或いはどちらかによる近接か。

 けれど耳に届いたのは、何かが風を切る小さな音だけだった。

 

細剣(レイピア)の投擲――くうっ?!」

 

「これで、幕引きです!!」

 

 先に投げた細剣から続く広範囲の切り裂き攻撃。

 後輩(芳澤)の身のこなしを存分に活かした大技は、アイギスであっても身を捩らせるだけの威力を秘めていた。

 

「ですが、私に物理攻撃は……!」

 

「ならば、その時まで攻撃を続けるだけだ!」

 

 しかし耐性のあるアイギスのダウンは取れても決定打にはなり得ない。すぐさま反撃へと移る彼女に応戦するように、踏み込んできたのはジョーカーだ。

 

(彼一人……? あの赤い髪の少女はどこに……?!)

 

 至近距離で互いの銃口を弾きあう再びの肉弾戦の中で、何故か介入してこないもう一人へとアイギスの思考リソースが割かれる。

 

 その刹那を突けるだけの気力は、既に回復していた。

 

「全力で行くぞ、『アルセーヌ』!」

 

『大盤振る舞いだな、悪くない――!』

 

 格闘しながらも仮面を燃やし、追撃とばかりに黒い焔をペルソナに構えさせるジョーカー。

 アイギスとて被弾し続けていれば活動限界になってしまう。だからこそ、彼女もまた切り札を切ることにした。

 

 バシュンと何かが抜ける音と共に、その赤い円が回転を始めた。

 

「――『オルギアモード』、発動!!」

 

「何だと――?!」

 

 立ち上る黒い火柱の中から飛び出してきたのは、先程までとは様子の違うアイギスだ。

 その瞳には蒼く透き通った光が宿り、胸元からも同じ色彩のエネルギー体が青い蝶のように広がっている。

 その状態の勢いに気圧されたジョーカーの首元を、アイギスが突進しながらに掴み取った。

 

「召喚シーケンス、『アテナ』!」

 

「ぐ、うあっ……!」

 

 逃れようとしたジョーカーが拳銃をアイギスに向けるが、同時に呼び出されていた『アテナ』の盾によって阻まれる。

 そして盾と対になるように持っていた手槍を、ぐるりと回した上で投げつけた。

 

 咄嗟にナイフを間に入れたものの、その質量差に負けて槍ごと背後へと飛ばされるジョーカー。

 受け身を取る暇すらなく、激突したのはカジノを彩るステンドグラスの窓だった。

 

「外に、出されたか――!」

 

 砲弾と化したジョーカーの身体によって突き破られ、ガシャンと割れて破片となるステンドグラス。

 それらと共にカジノ内とは違う温度の空気と風に晒されたジョーカーは、己が空中に放り出された事を理解した。

 

「どこか、つかまれる所は――!」

 

 このまま重力に身を任せるわけにはいかないと、フックポイントを求めて『サードアイ』を必死に走らせるジョーカー。

 幸いにも何故か壁面にヒビ割れた穴が空いていた為、そこに目掛けてワイヤーフックを発射しようとした矢先。

 

 ――自分(ジョーカー)で空けたステンドグラスの窓穴から、飛び出して来る人影を捉えてしまった。

 

「見つけました! 今行くであります!」

 

「っ、『アルセーヌ』!!」

 

 垂直に立つ壁を足で蹴り、まるで壁面を走っているかのような動きで追いつこうとするアイギス。

 その指先が伸ばされた段階で、ジョーカーはまだ戦いが続いている事を直感した。

 

 呼び出した『アルセーヌ』の翼で僅かに減速させながらも身体を押し出させて、自分もパレスの壁面へとつま先を付ける。

 後ろ向きで滑るスケーターのような体勢になりながら、ジョーカーは壁を駆けるアイギスと向かい合った。

 

「――、――!」

 

「――――、――――!」

 

 ついに距離がゼロとなり、ナイフと機械の手刀が何度もぶつかり合う音が響く。近接戦闘しながらも落下していく二人は風を切り続け、二人から出る音以外は聞こえなくなっていく。

 

「なら、これで――!」

 

 幾度となく上下が入れ替わった末に、上を取り戻したアイギスが弾丸を放つ。

 少しでも減速すれば相対的に加速して見えるだろう弾丸から目を逸らさずに、ジョーカーは仮面を切り替えた。

 

「弾き返せ、『ランダ』――!」

 

 着弾する寸前に黒い魔女を出現させ、弾の進むベクトルを真反対にして撃ち返す。更にはそれだけで終わらないとばかりに、彼は再度仮面を切り替えた。

 

「これで最後だ、『アルセーヌ』!!」

 

 下に落ちている彼から見て、反射した弾丸は上を向いて飛んでいる。相対的に見て加速している弾目掛け、最後の魔法を付与してみせた。宙に投げた針の穴に糸を投げ込むような超絶技巧、再びである。

 

「決めます――!」

 

 受けて立つとばかりに叫ぶアイギスは、既に属性弾の装填を終えている。

 あとは狙った通りの結果に届かせるべく、真下へ向けた銃口に火を吹かせた。

 

 

 それが、このパレスに於ける最後の発砲になった。

 

 

 ★★★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ったく、何なんだ今日の作戦は? 公安の俺が、なんでこんな所で……」

 

「気持ちは分かりますが、気を緩めすぎでは? いつ怪盗団の連中が来るかも分かりませんのに……」

 

「来るわけないだろこんな裏口に! そもそも俺は桐条の所の部隊の監査で来ただけだってのに、どうして訳わからんカジノの包囲なんてしなきゃいけないんだよ! ここ裁判所じゃなかったのか?!」

 

「彼の説明では、心の怪盗団が見せる幻覚らしいですね。まぁお嬢……いえ桐条の部隊が関わってる作戦である以上、こういう常識では説明できない事象も起こるものですから」

 

「なんでアンタはそんなに知ったかなんだ……? 俺と同じで数埋めの刑事かと思ってたけど、なんかワケありか……?」

 

 人気も灯りも乏しいカジノビルの裏側。そこで二人の男性がゆるい雰囲気で立っていた。やや離れた所には武装した警官隊の数人もいる。

 

 彼らは認知世界に迷い込んだわけではなく、とある探偵王子によって現実世界から招集された警察組織の人間だった。

 他の大部分の隊員はカジノの正面側を包囲する傍ら、念の為にとこちら側にも配置された数人だが、ぶっちゃけ蚊帳の外状態なので異世界に対する緊張感とか困惑とかも既に味わい尽くした後だった。文句は湧いてくるみたいだが。

 

「詳しい事はまた後で確認しましょう。今は作戦終了まで、大人しくここの監視を――」

 

「――ん? おい待て、何か聞こえないか?」

 

 髪がやや長めで眼鏡をかけた男が不満を顕わにしていた折に、何かが風を切るような音に気付いた。

 しかしカジノの裏口やその周囲には何の気配もない。

 それでもとふと上を見上げた彼は、ギリギリでその何かに気付いた。

 

 

 上から振ってくる、人影にも見える黒い何かの存在に。

 

 

「は? いや何か、落ちてくる?! 避けろぉ!!」

 

「なん――くっ?!」

 

 言われてもう一人の刑事もどうにか身構えるが、幸運にも誰かがその下敷きになる事はなかった。

 それでもかなりの衝撃が地を割り、音と砂埃が一帯に広がる。急変した事態に咳き込みながらも、確認の為に二人は爆心地へと向かっていく。

 

「おいおい、隕石でも落ちてきたって言うのか……?」

 

「……いや、こいつはまさか……」

 

「――その声は、黒沢(くろさわ)さんでありますか?」

 

「え、は? 嘘だろ?」

 

 お互いに聞き覚えのある声だったのか、二人の間で驚き混じりに確認が交わされる。

 知り合いなのかよアンタらという驚きと、なんで人がビルから落ちてきてんだよという呆れが公安の男の口を動かす。けれど、気になるポイントはその二つだけでは済まなかった。

 

「く、うっ……!」

 

「おいアイギス、下にいるソイツはまさか……」

 

「はい、心の怪盗団のリーダーと推定される少年であります。申し訳ありませんが、拘束を手伝っていただいてもよろしいですか?」

 

「怪盗団のリーダーって、捕まえてきたっていうのか?! え、上から!?」

 

 何故か上から振ってきたアイギスの下で組み伏せられていたのは、黒い外套に仮面を付けた少年だ。

 落ちてきた割にはそこまでの大怪我は見られないが、それでも苦悶の表情で藻掻いていた。そんな光景を急に見せられて、すぐに呑み込めという方が無理だった。

 

「何かありましたか――て、コレは?!」

 

「っ、お前ら出番だ! 現行犯逮捕!!」

 

 それでも異変を察知して近寄ってきた部隊員の到着に、二人もやるべき事を思い出す。

 相当の混乱を招いた凶悪犯であるとされている以上、全員が慎重かつ迅速に動き始めた。

 

「こいつは一体どういう事なんだ、アイギス」

 

「すみません。また追々、であります」

 

 少年の身柄を他の人間に任せ終えたアイギスが、疑問顔の黒沢に一言だけ告げる。それからは少年の護送に付き合うべく、足早に公安の男と部隊員たちの後を追った。

 

「――此方アイギス(アルファ)。ターゲットの確保が完了したであります」

 

 その途中に、そんな連絡だけを伝えながら。

 

 

 ★★★★★

 

 

 それは、まさしく蹂躙だった。

 

 攻撃は届かず、逆にその身を傷つけられ。

 取り柄である俊敏さは、強化の末に拮抗され。

 持ち込んだ如何なるアイテムも、効果を発揮する前に焼き斬られた。

 

「はあああああっ!」

 

 十分に回した鎖の先、鎌と分銅の両方に精一杯の威力を乗せて、砲弾のような勢いで放つ少女の全力。

 

 空中から来るそれを迎え討つ構えの少年は、地に足をつけた状態のまま、その仮面を青く燃やす。

 

「――降臨せよ、『ロキ』!」

 

 苛立ち混じりに告げられた命に従うは、モノクロの線が全身に走った人影だ。

 彼の分身が所持する得物がフワリと浮き上がり、白い修道女へとその切っ先が向けられる。

 

 ――そして響き渡るは重く、低い音。

 

 『レーヴァテイン』という名を与えられた大剣が、ミサイルの様に射出された事の余波だった。

 

「なん――」

 

 白い修道女が目を見開き、僅かに手を動かしたのが最後。

 彼女の身体をくの字に曲げた大剣は勢いのままに飛んでいき、その先にあった円柱のエレベーターのガラス壁へと衝突する。

 

 もはや何度目かすら分からない程の轟音と共に衝撃が走り、ガラス壁どころかエレベーターホール全体が揺れた。ヒビ割れた数多のガラス片がキラキラと、それでいて血飛沫のように舞う。

 そんな爆心地の中心は、自動車でも突っ込んだかのように大きくひしゃげて凹んだ状態となっていた。

 

 その間にいた修道女は、煙が晴れるまで一切の動きを見せていない。凹みに身体を預けるようにして俯き、鎖を落とした状態で停止したままだった。

 

「……全く、思ったより手間取らせてくれたね」

 

 フロア全体に伝わる衝撃で周囲の警備員たちが散っていくのを見ながら、クロウはゆっくりと修道女へと近づいていく。念の為に光線銃を構えた彼の視界の端で、不意に何かが縦方向に横切っていった。

 

「……蘇生薬? どうして……いや、まさかね」

 

 バシャンという音と共に、床に散らばる中身と容器の破片。

 怪盗団と行動を共にしていた時に見覚えがあった為に、その正体と何故落ちてきた理由にもすぐに察しがついた。もっとも、彼としては失笑する程度には馬鹿げたモノだったが。

 

「流石にこれが最後の策だとは思わないけど、本当にあの刀使いも来ないな。あの言葉は嘘じゃなかったのか?」

 

 戦いの終わりほど気が緩む瞬間はない。そんな初歩に立ち返って警戒を続けながら、彼女を運ぶべく手を伸ばす。

 

 意識は落ちているが、死んではいない。

 頭部から血を流しており、多少の骨にはヒビが入っているかもしれないが、まだ利用価値がある以上は殺せなかったのだから、当然の結果だ。

 それでも捨て置きたい気持ちを振り払いつつ、首の後ろの襟を掴んで引きずっていく。後は適当な警官に預ければひとまずの仕事は完了だった。

 

「――僕です。ターゲットの確保は終わりました。そちらは……怪盗団のリーダーも捕まえたと。他の仲間は……包囲を車で突破された? ならそちらで足取りを追うチームを別途手配してください。それがあなた達の仕事でしょう?」

 

 コツコツと足音を立てながら、通話越しに情報共有と命令を手早く済ませていく。

 

「――さて、これでいよいよ終幕だ」

 

 そう呟く赤いペストマスクの奥にある瞳には、一切の熱が宿っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 ――20XX年 11月19日。

 都内某所にて、『心の怪盗団』の構成員とみられる『雨宮蓮』『寺崎叶』の二名を現行犯逮捕。

 残りのメンバーは現場から逃走、以後消息不明。

 




☆属性弾について
  桐条グループが認知世界での戦闘用に試作した特殊弾。弾丸自体に特殊なペイントを施す事で、弾単位での属性付与を可能とした。情報提供者は寺崎叶、三島由輝の二名。
 種類は火炎、氷結、疾風、電撃の四つのみ。
 認知世界で初めて確認された核熱と念動属性についてはデータが不足している為、開発出来ていない。
 また光及び祝福、闇及び呪怨属性についても性質にやや変化が見られた為、開発途中である。

 ただしシャドウワーカー内で銃器を装備している隊員はアイギスだけである為、彼女専用兵装となっているのが実状である。

閲覧、感想、評価など誠にありがとうございます!
気付けば空中戦が始まっていましたが、どうにかニイジマパレス編は終幕です。
むしろこの後からが本番だとは思いますが、もうちょっとだけお待ちくださいませ。
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