「……なるほどね、これまでの経緯は分かったわ」
狭くて暗い尋問室。その中で二人の男女が向かい合って座っていた。
一人は灰色の長髪を持つ女性検事、新島冴。この事件の捜査指揮を執っていたという事で、特別に取り調べが許可された人物だ。
もう一人は疲労を色濃く顔に出した少年、雨宮蓮。
彼こそは悪人の歪んだ欲望を奪う『心の怪盗団』のリーダーであり、今はこの尋問室に囚われの身となっている少年だった。しかしその瞳の光は、未だ消える事無く輝きを保っている。
「手口に関しては未だに信じられない点の方が多い……と、以前の私なら言っていたでしょうね」
「以前なら、とは?」
「私もつい最近、視野を広げる機会があったのよ。けれど今は時間がないわ。先に確認をさせてちょうだい」
認知訶学や異世界などの普通の人間なら真に受けないようなオカルト話を聞いても、彼女が態度を変える事はなかった。訝しんではいても、突っぱねるような真似はしなかった。
その理由を尋ねる暇も与えずに、冴は関係者と思われている人物の名を資料と共に挙げていった。
『坂本竜司』『高巻杏』『喜多川祐介』『佐倉双葉』『奥村春』『新島真』
「怪盗団事件の共犯者よね?」
「……知らない」
「そう、仲間は売らないってわけね」
冴としても半ば確信を持っている者たちの名前だが、蓮の回答はつれないモノだ。
続けて仲間以外の協力者についても尋ねるが、やはり蓮は無回答を貫いた。
「メンバーも協力者も一切『知らない』と言いたい訳ね。ならもう一人確認させて。『明智吾郎』」
しかしその名前が出てきた一瞬だけ、蓮は反応を漏らした。
「彼が怪盗団と行動を共にしていたという報告もある。彼も怪盗団の仲間だったの?」
「……明智は違う」
「……そう、なるほどね」
彼に関しては明確な否定をした蓮に、冴は小さく確かに頷いた。
しかし彼女の中の疑問はまだ、尽きていなかった。
「それと最後に、『寺崎叶』。彼女について訊かせてちょうだい」
「…………」
「てっきり一緒に捕まった彼女も君の仲間と思っていたけれど、これまでの話を聞いた限りでは、君たちも彼女については何も分かっていないのよね?」
次に冴が話題にしたのは、蓮と共に現行犯逮捕された少女についてだった。
警察側からすれば怪盗団の筆頭候補だったわけだが、蓮の話の中で彼女について言及された事は殆どなかった。むしろ敵対関係にあるとすら聞こえたから、冴は質問を続けた。
「それなら君たちにとって、彼女も敵なの? 『寺崎叶』は仲間じゃないのね?」
「…………」
今後の彼女の立ち位置にも関わる問いかけに、蓮は即答はしなかった。
けれど真っすぐな瞳のままに、彼はすぐに口を開いた。
「違う。『寺崎叶』は、仲間じゃない」
「やっぱり、そうなのね」
その答えに、冴としても違和感はなかった。
これまで寺崎叶は怪盗団の誰とも接点がなかった。不審点こそあれど、あの少女が怪盗団ではないと言われても筋は通っている。
そう納得しかけたからこそ、冴は蓮の言葉に続きがあるなんて思わなくて。
「――でもきっと、俺たちの敵でもない」
「え?」
そう結んだ蓮に向けて、驚いた顔を見せる事になった。
☆☆☆☆☆
再び、蓮は回想の海へと漕ぎ出していた。
『――僕は、寺崎叶には手を出すべきじゃないと思っている』
学園祭二日目に協力要請を出されてから数日。ルブランに集いその返事をした怪盗団こと雨宮たち。その答えを受託し詳細を話に来た明智は、そこで寺崎叶という少女の不審点と共に、その不可侵を提案していた。
『あの修道女が彼女だったとして、ペルソナを扱えるにも関わらずパレスがある時点でまず普通じゃない。そして精神暴走事件を引き起こしている以上、それを可能にする力すら所持している筈だ。君たちと同じで明確な証拠もないのに、触れて火傷するのは得策じゃない』
『けど怪盗団が動きを見せれば、これまでと同じ様に彼女も動く。それが最大にして唯一のチャンスだと僕は思う。だからそれまでは、彼女をただの女子高生のままでいさせるべきだ。――君なら、この意味が分かるよね?』
そんな言いつけのような言葉を残して解散となった後。明智抜きで再び蓮の自室に集った怪盗団は、互いに神妙そうな顔を突き合わせる事になっていた。
「……で、どうするよ?」
「明智くんの言ってた事は間違ってない。お姉ちゃんを改心させる事の筋は通ってるし、寺崎さんが怪しい事もそう。だから慎重になるのは分かるけど……」
「私はまだ信じられない。寺崎さんがって言うよりも、こんな身近に犯人がいる事がさ……」
「確かに、ここまで来ると偶然とは言い難いな」
元々は八方塞がりになりかけている現状を変える為にと呼んだ明智から、ここまでの情報をもたらされるとは誰も思っていなかったが故の葛藤だった。その内容が彼らの想像の埒外にあったのも無論大きいが。
「でもあの寺崎って奴が怪しい事と、パレスがある事は事実だ。まぁ、相変わらず侵入は出来ないけど」
「キーワードが分からないもんね。そもそも私たちは寺崎さんと親しいわけじゃないし、蓮や明智くんでもやっぱり駄目だったんでしょう?」
「俺たちも普段からそこまで交流してる訳じゃないからな。それがこんな形で裏目に出るとは思わなかったが」
難しい顔の蓮が持つスマホには、依然として『イセカイナビ』のキーワード入力画面が表示されている。けれど名前の欄以外は空白のままで、それはあの高校生探偵をしても埋められていない穴だった。
「やっぱバリアでも張ってんじゃねぇの? じゃないと
「ワガハイですら入れないパレスなんて初めてだ。リュージの言うことも今回ばかりは否定出来ないかもな」
試しに
次に『渋谷駅』と入力しても、やはり『候補地が見つかりました』と同じような文言が出てくる。さも当然のようにそう告げてくる状態こそが異常だった。
「同じ人間が複数パレスを持つ事は基本的にはあり得ない。それでもこんな事が起こるとするなら、考えられる可能性は……」
「――『
「その予想が当たっているなら、それ程に歪んだ認知を持つ人間という事になるがな」
モルガナの前提から推察した真の話に、苦笑を隠しきれなくなる祐介。これまでに改心させてきた誰にも当て嵌まらないその特異性に、それこそ信じられないという所感が皆に共通していた。
「……明智はああ言っていたが、やはり放置は出来ない。出来る範囲で彼女の事も探ってみるべきだと思う」
「そうだね。私たちは彼女の事をまだ全然知らないし、何かを決めるにはまだ早いのかも」
「だが現実問題、どう探る? 彼女がクロだとすれば、既に俺たちの事はバレている筈だ。それこそ無闇に関われば怪しまれるぞ」
「じゃあ同じクラスの私や蓮も駄目って事じゃん。ていうかウチら全員厳しくない?」
だからこそ調べるべきだという流れになりはしたが、その方法がなさそうな事にまた一同の視線が下へと向かう。
そんな折に、顔を上げたのはやはり彼だった。
「なら、俺たち以外に探って貰うしかない」
「は? 俺ら以外って、そんな奴いるのか?」
「一人だけいる。怪盗団の正体をほぼ知っていて、寺崎から話を聞けそうな位には親しいだろう人物が。
そう語る彼の脳裏には、夏の渋谷で彼女と共にいた男子の顔が浮かび上がっていた。
「来てくれてありがとう、三島」
「別にいいよ、ちょうど今日はやる事なかったし」
数日後、蓮は頼みがあると言って三島を呼び出す事に成功していた。
因みに場所が渋谷のファミレスである以上、当然そこには彼女がいる。
「お待たせいたしまし――って、雨宮くん?」
「今日もお疲れ様だな、寺崎さん」
見分けのつきやすいピンクの髪をお団子にした、ウェイトレス姿の少女。
この後話題に挙げる予定の寺崎叶が、注文機を片手にやって来ていた。
「今日は三島くんも一緒なんだね。元気してる?」
「……まぁ、ぼちぼちかな」
気さくな彼女に尋ねられ、ぶっきらぼうに答える三島。
その様子に色んな意味で違和感を覚える蓮だったが、ひとまずはオーダーを済ませる事にした。
「こほん、それではご注文をどうぞ〜」
「じゃあこの『魅力爆上げナタデココパフェ』一つ。三島は?」
「あ……ええと、その」
蓮に振られて慌ててメニューを物色する辺り、どこか三島は上の空のようだった。
流石の寺崎もその様子を不審に感じたようだったが、藪をつつくような真似はしなかった。
「…………じゃあ適当に、フライドポテトで」
「……かしこまりました、パフェとフライドポテトですね!」
そうして二人分の注文を機械に打ち込んでぺこりとしてから、テーブルを離れていく寺崎。
その背中をチラチラッとする三島を見て、つい蓮は一言。
「はやく告白した方がいいんじゃないのか?」
「は?!?! いや違う、よく分かんないけど違うからな!?!?」
そもそも何を告白しろとは言ってないが、なんか違うらしかった。
もう少しそこを掘り下げてもよかったが、蓮としても今日は真面目な相談だ。繋ぎのお冷で口を濡らしてから、本題に入る事にした。
「それで相談というのは……寺崎さんについてなんだ」
「え、この流れで?」
「……悪い、真面目な話なんだ」
「え、この流れで??」
蓮としても痛恨の失言だったと今気付いたが、今更後戻りはできない。
そんな蓮のライオンハートの如き度胸が伝わったのか、三島もそれ以上茶化すような素振りは見せなかった。
「いや、そうだよな。今は怪盗団も大変な時期だし、きっと大事な話なんだよな。雨宮には世話になってるし、ちゃんと話を聞くよ」
「助かる。では早速訊きたいんだが……三島は寺崎さんとどういう関係なんだ?」
「なぁ、真面目な話なんだよな? いやそうだって分かってるけど、どこまでいっても茶々入れられてるようにしか聞こえないんだけど!?」
蓮は途中からは至って真面目に訊いているし、三島もそのつもりで答えようとしている。
でも傍から見たら青春ど真ん中な話をしている男子高校生二人にしかなっていなかった。
「寺崎との関係って言われても……前にも言った通り、ただの友達だよ。偶に怪盗団の話で盛り上がったりする、そんな感じの仲だけど」
「それなら、普段の彼女が何をしてるかは知らない感じか?」
「普段って言われても……今みたいにここでバイトしてるとか、部活してるとか、それ以外って事か?」
質問の意図が分からないとばかりに、首を傾げる三島。
二人がそういう関係ならともかく、ただの友人であるのならおかしい話ではない。
親しい人間であっても、その人間の全てを知っている者は稀だろうから。
「え、もしかして頼みって、その辺りを探って欲しいって事か?」
「……まぁ、そういう感じになるかもしれない」
「いや、それは流石に……。というかそれ場合によってはストー……カー……」
そこまで訊かれて察してしまった三島だが、何故か『ストーカー』と言いかけて口ごもってしまっていた。
しかしそんな三島であっても、今日の蓮は退くわけにはいかなかった。追い詰められている現状が、蓮にその選択肢を許さなかった。
「これは三島にしか頼めない。それくらい、大事な話なんだ」
「……
退くつもりはないとばかりに強く出た蓮に対して、三島もその理由を何となく察した。
その中で『やっぱり』という言葉に、蓮もまた僅かな違和感を覚えていた。
「そうだ。ここからは他言無用の話になる。構わないか?」
「いや、俺はいいけど……その話、こんな所でやっていいのか?」
二人が向かい合うテーブルは、店内でも中央寄りの配置になっている。当然周囲には他のお客様がいるし、なんならその渦中の人も偶に横を通るだろう。三島の懸念はもっともだった。
「ああ、構わない。それにもうすぐ――」
「お待たせしました! ご注文の『魅力爆上げナタデココパフェ』と『フライドポテト』でございます!」
「ナイスタイミングだ。ありがとう」
「はい三島くんも! ご注文は以上ですね? それではごゆっくり~」
「お、おう……」
ちょうどその瞬間を見越したかのように、やって来たのは寺崎叶その人だ。
トレイに載せたパフェとフライドポテトをテーブルへと移動させると、伝票を残して速やかに去っていった。夕方から夜にかけての多忙さと彼女のこれまでの勤労経験が為せるプロの立ち回りだった。
「あの状態なら本人も聞いている暇はないだろう。ん、安心してくれ」
「……まぁ、雨宮がそう言うならいいけど」
「ありがとう、じゃあ早速だが……」
「ん? アレ待って、雨宮いつパフェ食べたの? 今来たばっかじゃなかった?」
何故か自信ありげな蓮に、三島は渋々といった様子でその提案を受け入れる。
その隙に超魔術級の器用さを発揮してパフェを完食した蓮は、その本題へと切り込んだ。
「俺たちは今、彼女の事を疑っている。もしかすると、彼女が精神暴走事件に関わっているかもしれないと」
「な……!?」
「だがまだ疑ってる段階で、確証はない。だからそれを探る手伝いを、三島に頼みたい」
単刀直入に告げられた頼みに、身構える間もなく三島は目を丸くする。
それでもどうにか噛み砕こうとした末に、彼も彼なりの疑問点を形にしていた。
「……なんで、俺なんだ?」
「最初に訊いた通り、三島は寺崎さんと友達なんだろう? そして怪盗団の事も知ってるから、白羽の矢を立てたんだ」
「つまりどっちの事情も把握してるのが、俺だったからってわけか。なるほど、な……」
三島は怪盗団の正体を知る協力者の一人であり、また
それ故にこの場に呼ばれたのだと理解したが、煮え切らない様子で考え込んでいた。
「怪盗団だけじゃない。今や警察も寺崎さんの事を疑ってるらしい。だからもう、一刻の猶予もないんだ」
「
「……やっぱり?」
だからこそ自分たちの余裕のなさを開示する羽目になったが、対する三島も同様の焦りを見せた。
それは友人が疑われているという事への反応にも聞こえたが、蓮は先ほどと同じ違和感を覚えた。
「なぁ三島。一つ、訊きたいんだが」
「え、な、なに?」
「何か、知ってるのか?」
「っ!」
それは今と同じようにこのファミレスで向き合い、そして失言から異世界行きがバレたあの五月の時の焼き増しのように、蓮の鋭い視線が三島を射抜く。
けれどあの時とは違い、三島はすぐにその動揺を収めて見せた。
「……雨宮に隠し事は出来ないな。俺なりに頑張ってみたけど、やっぱり向いてないんだな、こういうの」
「三島……?」
「ごめんだけど、俺も雨宮に頼みたい事が出来た。ここじゃないところで話したい。いいか?」
「……ああ、分かった」
何かを受け入れたかのような態度で、瞳に決意を宿す三島。
そんな彼を怪訝そうな視線を送りながらも、蓮はその頼みを受け入れた。既にこの場で見たかった反応は見た後であった為に。
「ならこのポテト食べるの手伝ってくれない? こういうのって一人で急いで食べるのちょいキツかったりするし」
「ふっ、そういう事なら任せろ」
それでも悪い予感はしなかったから、蓮もまた友人としてその提案を呑むことにした。
春先からの長い付き合いで築かれた、二人との絆が可能にしたやり取りだった。
「ここの公園に二人で来るのも久しぶりだな」
「あー、そういえばそうかも」
ファミレスを出た二人がやってきたのは、お馴染みな気もする井の頭公園だ。
そういえばあの時もここで話したなと懐かしみながら、三島は池の手すりにもたれかかる。
「それで、寺崎についてなんだけど。多分、雨宮の頼みにはもう答えられると思う」
「……それは、彼女の事情を知ってるという事か」
「ああ、そうだよ。雨宮が知りたいのは寺崎が何をしてるか、だよな?」
確認する三島とその問いに頷く蓮の間には、何とも言えない空気感が漂っている。
互いに胸の内を探り合っているような、それでいて信じてはいるような。
そんな雰囲気の中で意を決したように、口を開いたのは三島の方だった。
「寺崎は認知世界に行ってる。俺も一緒に付いて行ってたから、それは間違いない」
「! ……三島も一緒っていうのは、どういう事なんだ」
「五月にさ、俺がうっかり渋谷の異世界に入ったって話。覚えてる? あの時、俺は一人じゃなかったんだ」
いきなりの答えに面食らった蓮だが、不明点を明かそうとする思考は動き続けていた。
だからこそ三島にそう言われても、すぐに思い出す事が出来た。
「まさか、あの時には既に寺崎さんが認知世界に来ていたのか? 三島もその前から行動を共にしていたのか?」
「いや、俺はあの日まで異世界の事なんて知らなかった。渋谷で偶々寺崎を見つけて、そのまま戦いにまで巻き込まれたんだよ」
「……あの銃声は、そういう事だったのか」
あの日のメメントスに怪盗団以外の侵入者がいる事には、蓮たちも気付いていた。
それが三島だと聞かされて納得はしていたが、それでも何故か聞こえた銃声の謎は残されたままだった。しかし三島以外の人間がいたとすれば、筋は通っている。
「その後に寺崎に話を聞いてから、俺もアイツと一緒に異世界に潜ってたんだ。その目的は『怪盗団』なんだけど、うん。何と言ったら良いか……」
「目的が俺たちとするなら……まさかあの黒仮面か?」
言い方を探る様に首をひねった三島だが、その前の単語だけで蓮にも察する事があった。
マダラメパレスから姿を見せていた、あの正体不明の黒仮面。
彼ないし彼女が言っていた『怪盗団のファン』であるという言葉が、今になって蓮の中で繋がりだしていた。
「悪いけど、その辺りの細かい所は本人から聞いて欲しい。俺から言えるのは、寺崎も認知世界に行ってたのは間違いないって事だから」
「それは分かったが……何故言えないんだ? 口止めされているのか?」
「いや、別にそういうわけじゃない。そういうわけじゃ、ないんだけどさ」
寺崎叶は認知世界に行っていた。そして
それだけで警戒するには十分すぎる根拠だが、それ以上を三島はすぐに語ろうとしなかった。
「……こうして話してる事は、寺崎からは言わないでって言われてた事なんだ。でもこうなったからには、聞いて欲しい」
「……いいのか?」
「ああ、いいんだよ。正直、俺は雨宮たちに隠し事するのは嫌だったし、得意でもなかったしな」
しかし一転して引き締め直した三島の顔には、確かな決意が宿っていた。
だから一度だけ問いかけてから、今度こそ蓮も表情を緩めていた。
「なら信じていいんだな?
「いや、それはちょっと話が別かも」
「え?」
「確かに悪い事はして……なくもないし、けど悪人じゃ……あ、でもアイツ結構約束破るしな……」
怪しい所はあれど、信じられる人物なのだろう。蓮がそう思った矢先に三島はうんうんと唸り始めた。普段はちょっと騒がしいアルバイター系女子高生と認識していただけに、三島からの低めな評価に珍しく目を丸くしていた。
「でも、先にこれだけは言っておく。
「……分かった。三島がそう言うなら」
「助かる。なら、これまでの経緯なんだけど――」
なんか色々と呑み込んだ気はするが、それでもと言い切った三島に蓮は頷きを返す。
その後に語られた内容についてはともかく、この時点で寺崎叶に対する見え方に変化が生じたのは間違いなかった。
☆☆☆☆☆
「仲間じゃないけど、敵でもない。それってどういう……いえ」
特別尋問室での取り調べの終了間際にて、蓮が語った言葉に冴は眉をひそめる。
その発言にどんな意図が込められているのかと考えたくなるが、それが許されるだけの時間は残っていない。ひとまず確かな事は言っていないとして、冴は質問を取りやめる判断を下した。
「結局は私との取引には応じない、そういう答えでいいのかしら?」
「好きに取れ」
「そう。なるほどね」
ぶっきらぼうにそう答える蓮に対して、冴も資料ファイルと共に目を伏せる。
客観的に言って、今の蓮の状況は詰んでいる。
彼から話を聞いた限りでは怪盗団や寺崎叶以外にも裏で暗躍している何者かが存在しており、彼はその者に嵌められた所為でここにいる事となる。
しかしどんな事情があろうと、ここが現実世界である以上は何か出来る筈もない。
それでも向かい合うボロボロの蓮からは、困難に挑み続ける者特有の熱がした。冴にも直近で見覚えがあったから、それを見落とすなんて事はあり得なかった。
「あなた、まだ諦めてないのね?」
「……こんな所で、終わるつもりはない」
「なら聞かせて。あなた達にとっての正義は何? どうしてそこまでして抗うの?」
だからこそ、冴はその核心を知りたくなった。
幾つもある正しさの間で揺れ動いている彼女にとって、この少年の信じるモノが最後の鍵になる気がしたからだ。
「――悪党は野放しのまま、助けを求める誰かは苦しみ続ける。そんな理不尽を認めない事だ」
「その為なら道中に何があったとしても、あなた達は信念を貫けると?」
「無論だ」
決して意思は曲げないという力強さを、冴はその淡々とした言葉の中に感じ取った。
それは彼女が決断を下す為の、最後の一押しになった。
「――いいわ、私も腹を決めましょう。何かして欲しい事はない?」
「……いいのか?」
「私にも色々事情がある。その上であなたを信じると私の意思で決めたのよ」
如何なる心変わりかと問い返す蓮だが、軽く目を合わせた事で決心を終えた冴との繋がりは確かなモノだと気付く。
ならばとその視線を横にずらし、机に置かれた自身のスマホへと注目させる。
「あなたのスマホね。これをどうすればいいの?」
「見せてほしい。仲間じゃない、アイツに」
「仲間じゃない……そういう事。分かったわ、見せるだけでいいのね?」
最終確認に蓮が頷きを返した所で、廊下に通じるドアからドンと音がした。時間切れという事らしい。
「敵じゃない方には、何かある?」
「……次に会った時は、ちゃんと話してもらうと伝えて欲しい」
ドアを開ける前に振り返った冴へとそう伝言を頼んでから、蓮はその背中を見送った。
そうして特別尋問室に一人残された蓮。
今の彼に出来る事はもうなく、後は策が完遂されたかをジッと待つばかりだ。
彼が視線を送り続けるドアがもう一度開く時、そこにいる人物によって運命が決する。
こうなるまでに手は尽くしたつもりだった。それでも傷だらけの身体と重い頭を抱えて待つだけの時間は、じわりじわりと蓮から余裕を奪っていく。
「っ……!」
そうして遂に、その時は訪れた。
ゆっくりと開いていく尋問室のドア。
その先にいたのは――
☆☆☆☆☆
『……あの人たちの話が本当なら、私が今いるここも既に……』
『……いいえ、どちらに正義があるのかはもう迷わない。それで今ここで動けるのが私だけなら、やるしかないわね』
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