私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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#42 誰もが動かずにはいられない

 

 逮捕された怪盗団の容疑者二人が獄中で亡くなったと報道された翌日の夜。

 四軒茶屋にある喫茶店『ルブラン』にて、とある者たちが顔を合わせていた。

 

「みんな、ただいま」

 

「会いたかったぞ、蓮!」

 

「顔見ると、やっぱり安心するね」

 

 その中心にいるのは死んだと言われていた渦中の人物、雨宮蓮その人だ。あちこちに手当てされた跡こそあるが、仲間たちとの再会を喜び笑みを浮かべるだけの状態には回復していた。

 

「一時はどうなる事かと思ったが、上手くいって何よりだ」

 

「明智のヤロー、ざまぁみやがれってな!」

 

「あー、水差すようで悪いんだが、結局何がどうなったんだ? 誰かおじさんに説明して貰えると助かるんだが」

 

 そんな中でずっと頭の上にハテナを浮かべたままだったのは、蓮の保護者でもあるルブランのマスター『佐倉(さくら)惣治郎(そうじろう)』だ。

 彼だけは怪盗団の事情や作戦と縁遠かった為に、安堵や疑問が一際大きいのだった。

 

「二人ともまだ話してなかったのね。ならお姉ちゃんに確認したい事もあるし、説明しちゃってもいいかしら」

 

「あ、それなのだけど――」

 

 要請を受けた真が確認を取り、姉である冴が何か言おうとした矢先。

 

 

「――ごめんください、夜分に失礼します」

 

 

 ガチャリとルブランのドアが開き、ベルの音と共に入店してくる人影があった。

 

「悪い、今日はもう店仕舞いでな。また別の日に来て貰っても――」

 

「え、明智?! ……じゃ、ねぇよな、誰?」

 

「えぇ……偶に言われるけど、そんなに似てますか、僕……?」

 

 思わぬ来客に断りを入れる惣治郎を差し置いて、オーバーな反応をぶつけたのは竜司だ。しかし他の面子も、言いたいことは何となく分かってしまった。

 

 入口付近に立ち尽くすのは、フードの付いた薄めのオレンジのパーカー姿の少年だ。背丈はそれこそ明智吾郎と同じ程であり、その下に見覚えのないブレザーの制服を着込んでいる事から高校生だと察せられた。

 

 しかし極めつけはそのイエローブラウンの茶髪や、困ったように笑いながら頬を掻く雰囲気がどこか探偵王子のそれと似通っていたからだ。無論同じではないけれど。

 

「もしかして、あなたが桐条さんの?」

 

「そうです。なら貴女が新島冴検事ですね、初めまして」

 

「真のお姉さんの知り合い、でもないんですか?」

 

 すわ冴の知人なのかと思えば、互いに初対面の挨拶を交わす始末だ。なら本当に誰なんだと訝しむ怪盗団の前で、パーカーの少年が名乗りを上げる。

 

「僕の名前は天田(あまだ)(けん)と言います。今日は美鶴さんの――シャドウワーカーの使いとして来ました。あなた達が噂の怪盗団、でいいんですよね?」

 

「シャドウワーカー、だと?」

 

 明智吾郎よりもやや高めの声で自己紹介した少年、乾から所属や自分たちの正体を看破している事を聞かされ、猫であるモルガナが腰を上げる。

 

「待てモルガナ、俺たちを捕まえに来た訳ではなさそうだぞ」

 

「その通りです。シャドウワーカーとは言いましたけど、僕は正式な隊員ではないので逮捕とか、そう言うのは出来ないですから。安心してください」

 

 そんなモルガナを諌める祐介含めて警戒度の上がった怪盗団へ、乾は両の手の平を向けて敵対する意思はない事を伝える。

 

「でも、今回の事件やあなた達の事情についてはある程度までは把握しています。()()()()()()使()()()()()と言えば、信じてもらえますか?」

 

「あなたも、そうなのか?」

 

「はい。とは言っても僕の召喚器は美鶴さんに渡したままなので、実演とかは出来ないですけど」

 

「いや、現実世界(こっち)で召喚はどのみち無理だろ……」

 

「姿を見せる位なら多分……いやブランクがあるからどのみち無理かな……?」

 

 現実世界でペルソナを召喚する事も不可能ではないと暗に言う乾に嘘や演技の気配はない。

 そもそもこのルブランに来て自分たちの正体も知られている以上、無理は出来ないと蓮は判断を下す事にした。

 

「彼は私がここに来るように頼んだの。これから何をするにしても、シャドウワーカーとの連携は不可欠になるでしょうから」

 

「でも今は美鶴さん達本隊が怪盗団と接触する事は出来ない。だから一応は組織の人間ではないけど、美鶴さんと繋がりのある僕が来たというわけです。他の皆さんは、ちょっと都合が合わなかったので」

 

「……けどその言い方、やっぱりお姉ちゃんもシャドウワーカーと繋がってたのね?」

 

「繋がってたと言うよりは、詳しい話を聞いて協力する事に決めたと言う方が正しいわ。だってそれがつい昨日の事で、それまでは普通に捜査協力をしてもらっていただけだもの」

 

 真の確認したかった事がそれだと察した冴が、軽く情報を捕捉する。

 より詳しく聞けば、捜査指揮を奪われて途方に暮れていた時に協力要請が突然届いたそうだ。異世界の事情も込みで説明された為に軽く面食らってはいたが、どうしてかある程度は受け入れる事が出来ていたらしい。

 その上で蓮との尋問に挑んだので、シャドウワーカーの話やとある指示についても信じていい、従ってもいいという結論に至ったとの事だった。

 

「そういう伝手ならこの人にも参加してもらった方がいいと私も思うわ。皆はどう?」

 

「拒否する必要はなさそうだな、異議なし!」

 

 二人の言い分に不審点はないだろうと、怪盗団が互いの顔を見合わせる。そうして突然現れた乾の同席が認められたのだった。

 

「結局コイツも敵じゃないって事は分かったが……その、シャドウワーカーっていうのは何なんだ? 何処かのサッカーチームか?」

 

「シャドウワーカーと言うのは、警察と桐条グループがタイアップした特殊部隊で……要するに警察に属する異世界専門のチームです」

 

「……何時から警察もそんなヘンテコな事をやり始めたんだ……?」

 

 けれど乾の参加にもついていけない惣治郎が余計に首をひねっていた。彼からすればそれこそコミックの中に出てくるような超人部隊をイメージしてしまったのだろう。大体合っている。

 

「というか、警察なのに怪盗団(コイツら)を捕まえないってのはどういう方針なんだ? それも今回の作戦に関わってるのか?」

 

「あ、実は私たちもシャドウワーカーの存在には少し前から気付いてたんです。確証はなかったけど、手を組む余地はあるって感じに」

 

「……はぁ?」

 

 本日何度目か分からないキョトン顔を見せる惣治郎。

 片や世間を揺るがす怪盗団、片やそれを追う筈の警察組織だ。その二つに繋がりがあるどころか協力関係にあったと言われても、ピンとくる筈がないだろう。

 

「きっかけをくれたのは三島くん。そこから、私たちの反撃は始まったんです」

 

 だからこそ彼らはその始まりを思い出す。

 袋小路にハマる前に見つけた、まさしくゲームそのものをひっくり返す為の存在を。

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

「――というわけで、俺たちは嵌められた可能性があるらしい」

 

「いや、ざっくりしすぎだろ?!」

 

 蓮が三島をファミレスに呼び出してから数日後。ニイジマパレスの攻略の合間を縫ってルブランの屋根裏部屋に、集められた内の一人である竜司の叫び声が響いた。

 当然ながら、どこかの高校生探偵は不在である。

 

「情報が濃すぎたから、纏めてみたんだ」

 

「だからって流石に端折りすぎでしょ?! いや気持ちは分かるけどさ!」

 

「まさか、ここまで状況が変化するとはな……」

 

 端的に告げた蓮へと同情的な視線を向ける杏と祐介だが、今は誰もがそれを仕方ないと思うだろう。

 

 なんせ寺崎叶を探る為に三島由輝と接触したら、それ以上の情報がこれでもかと出てきたからだ。

 

「三島くんは寺崎さんと以前からパレスに行ってて、それが黒仮面の正体で、精神暴走事件の犯人は別にいる……頭が痛くなってくるわね」

 

「だがまだミシマの話を聞いただけだ。それが真実だと決まった訳じゃねぇ。だからこそこうして集まったんだしな」

 

 額に手を当てて首を振る真と同じように、モルガナも苦い顔にはなっていた。

 蓮が井の頭公園で三島から聞いたのはその殆どが驚かずにはいられない話ばかりだった。しかし今のところは辻褄が合うだけで、証拠と言えるようなモノはないのが現状だった。

 

「その三島が実は悪い奴で、私たちを罠に嵌める為に嘘を言ったって線もまぁ、なくはないのか」

 

「三島にそんな事は出来ない、いやそもそもそんな事をする奴じゃない」

 

「あったり前だろ?! 調子いい時もあるけど、三島はそんな悪人じゃねえよ」

 

 ポツリと双葉がその最悪を溢すが、親しい仲にある蓮と竜司が即座に否定する。

 他の面子も言いこそはしないが、怪チャンの運営担当でありメメントスでの改心依頼を持ってくる彼に疑いの目を向けるのは難しいようだった。まぁ不可能とも言わないが。

 

「ならメジエドの一件から今に至るまでの流れも、全て真の黒幕の掌の上だった事になるな」

 

「メジエドで怪盗団の名声を高めた上で、お父様を狙わせて世間からのイメージを一転させる。そして次のパレスで私たちを捕まえる為の罠を張る……これも本当って事になっちゃうね」

 

 祐介や春が渋い顔になるのは、今の怪盗団の現状だけでなく、この先に何が待ち受けているかもまた聞かされてしまったからだ。

 

 怪盗団に精神暴走事件の濡れ衣を着せる事は彼らも予想していた。しかしその為のステップとして現行犯逮捕が用意されている事はさすがの彼らの想像の埒外にあったのだ。

 

「そうすると、話を持ってきた明智くんはやっぱり……」

 

「……そう考えるしか、ないな」

 

 この場に明智がいないのは、彼の忠告を無視して寺崎叶を探ろうとしたからだけではない。

 三島の話によって、元々信用しきれていなかった彼の怪しさが更に増したからだ。

 

 しかしそれもまた推測の域を出ず、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。今のところは容疑者が増えただけだった。

 

「せめてもう少し手掛かりが欲しい。誰か、思い当たる節はないか?」

 

「…………いや、なくはない」

 

「もしかして、前のパレスの?」

 

 これまでに得られた情報の精査を求めたモルガナに対して、口を開いたのは蓮だ。同じ事象に思い当たっていたらしい真に頷きを返しながら、その中身を言葉にしていく。

 

「もしあの黒仮面が寺崎さんで、精神暴走事件の黒幕が別にいるのなら。あの刀使いの発言は、意味合いが変わってくるんじゃないか?」

 

 思い出したのは、オクムラパレスで遭遇した凄腕のペルソナ使いだ。去り際に彼は蓮に向かって、こう言っていた。

 

 

()()()()()()。注意しろ、怪盗団』

 

 

「敵と言うのはあの刀使いや寺崎さんの仲間の事で、怪盗団(俺たち)への挑発だと思って皆に共有した。だが三島の話から彼らが敵じゃないとするなら――」

 

「本当に彼ら以外に真犯人がいる。その忠告だった可能性があるのね」

 

 あくまで仮定の話ではあるが、それでもあの発言は不可解なモノだった。その裏にそんな意図が含まれていたとすれば、それは三島の話の信憑性を補強するモノになり得る。

 けど、それを素直に受け取れない人物もいた。

 

「……でも、お父様を手にかけたのは寺崎さんで間違いないんだよね? 本当に、信じてもいいの?」

 

「精神暴走事件の犯人ではないが、秀尽学園の校長と奥村社長をやったのは間違いないと言っていたんだな?」

 

「ああ、それも否定していなかった。必要な事だったらしいが、詳細は聞けてない」

 

 眉をひそめた春と祐介が尋ねたその事実は変わらない。ただしその辺りについては三島も全てを語る事を良しとはしていなかったのだ。

 

「自分たち以外の協力者もいたが、あくまで主導したのは寺崎さん自身。だからそれ以上は本人から聞いてほしいと三島は言っていた」

 

「結局そこになるんだね……。寺崎さんにどんな事情があればそうなるっていうの……?」

 

 今回の暴露はそもそもが三島の独断であり、怪盗団に手を貸したいという気持ちとは別に引いておきたい一線もあったが故の状況。その一線の先が見えないからこそ、寺崎叶を完全に信じ切るのはまだ難しかった。

 

「……なら、その寺崎って奴以外の事なら話してくれるのか?」

 

「双葉、何か心当たりがあるのか?」

 

「ちょっとだけな。ぶっちゃけ私の勘みたいなもんなんだけど、気になる単語があるんだ」

 

 先程から持参したノートPCにちょくちょく視線を落としていた双葉がそこで声を上げる。

 この場に三島はいないが、チャットであれば反応出来ると言っていたらしい。そこで双葉が蓮に頼んだメッセージは、とてもシンプルなモノだった。

 

 

「――『シャドウワーカー』って、何?」

 

 

『ど、どこでその名前を?!』

 

「そりゃそっちのパソコンから……てか、やっぱりアタリだったか!」

 

「双葉、その『シャドウワーカー』っていうのは?」

 

 蓮が言われた通りのメッセージを送ると、文面だけで慌てていると分かる様子を見せる三島。

 そんな反応にほくそ笑む双葉だが、他のメンバーに疑問を抱かれるのもまた当然だった。

 

「蓮には言ったが、私は前から『怪チャン』に怪しい所があると思ってた。春のお父さんの時から偶に監視してたんだけど、その時に気分でサイトの裏を覗いた事があったんだ」

 

「どんな気分だよ……」

 

「それで投票に不正があったのは前に言った通り。でも違和感があったのはそれだけじゃなかった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「つまり、三島くん以外の別の人が作ってたって事?」

 

「コードの書き方が全然違ったからほぼ間違いない。それで1アウト判定してサイトの運営者を調べていいか、蓮に訊いたんだ」

 

「その時はサイトが悪用されているかもしれないと思って調べてもらう事にしたんだが、それで終わらなかったんだな」

 

 少し前に『怪チャン』で行っていた投票に不正なアクセスがあった事は既に怪盗団の知る所になっている。その際に行われた双葉のハッキングによって、明らかになった事実は他にもあると彼女は語ったのだ。

 

「ちょうど投票機能が追加された辺りから、三島(運営者)のパソコンの使用履歴(ログ)が不自然に消されるようになってた。まるで私みたいな誰かに足がつかないようにする為にな」

 

「それは第三者によるものではなく、三島くんがやってたって事?」

 

「あのシステムは使用者本人も知ってなきゃおかしい仕様だったからな。だからそれで2アウトって事で、ちょっと悪いけどそれより前の使用履歴から検索履歴まで全部漁らせてもらった。それ以前はノータッチだったから、時間さえあれば難しくなかったし」

 

『お、俺のプライバシーはどこに?!』

 

「それは後で謝る。そんな感じで仕様が変わる前の八月に調べてたのが、今訊いた『シャドウワーカー』だ。八月って言えば私やメジエドで色々あった時期だし、その境で『シャドウ』って単語が入ってたら、私じゃなくても怪しいって思うだろー?」

 

 一人の男子高校生の羞恥心と引き換えに、双葉が突き止めた違和感。

 それは『シャドウワーカー』という単語を境目にして三島以外の人間がサイトの運営に関わっていたという論説を掲げるモノとなっていた。

 

『……先に言い訳すると、その事を言わなかったのは雨宮たちを騙そうとしたからじゃない。『シャドウワーカー』自体が寺崎とはまた別で機密事項なのと、言った所でどうしようもなさそうだったからなんだ』

 

「寺崎さんと『シャドウワーカー』は別のモノって事? それとどうしようもなさそうっていうのはどういう意味なの?」

 

「春、気持ちは分かったからもう少しだけ離れてくれ。ちょっと近い」

 

 他にも言ってない事があったのかとやや不信感を募らせた春が問いかけるが、チャット越しの三島はすぐには答えない。

 蓮が宥めながら返信を待つと、観念したように彼からのメッセージが飛んできた。

 

 

『『シャドウワーカー』は異世界にまつわる事件を専門とした警察の特殊部隊の名称だ。寺崎と俺はそこに協力してるって形になってる』

 

 

 その内容に、メッセージを読んだ全員が息を呑んだ。

 

「警察に、そんな部隊があるっていうのか?」

 

『俺も最初に聞いた時は信じられなかったけど、確かに存在する組織だよ。それは間違いない』

 

「間違いないって、警察なら俺たちの事ももうバレてるって事じゃねぇのか?!」

 

「……理解がまだ追いつかない所もあるけど、それはない筈よ。三島くんのいう事が全て真実だと仮定するなら、精神暴走事件の真犯人は三島くんの属する陣営じゃない。寺崎さんや三島くんと繋がりのある『シャドウワーカー』とも違う何者かがいるって事でいいのよね?」

 

『そうだ。むしろ俺たち……というか寺崎がそいつらと敵対したから、どうにかする為に『シャドウワーカー』と接触した感じかな』

 

「も、もう何がなんだか……」

 

「だが、それがさっき言っていた『自分たち以外の協力者』という事になるんだろう。それがまさか警察組織の特殊部隊だとは思わなかったが……」

 

 次から次へと出てくる情報に杏が目を回しかけているが、どうにか付いていっている真や祐介も困惑を隠しきれていない。みなどうにか噛み砕くだけで精一杯になっていた。

 それでも言わなければならないと、三島から更なるメッセージがピコンと届く。

 

『それで雨宮。次の決行日にある筈の罠はどうにか出来そうなのか?』

 

「……ミシマの話が嘘じゃないなら、その罠も本当だって事になるんだよな」

 

「クソ、そんな事まで急に言われたってよ……!」

 

 あと二週間もない内に訪れるだろうニイジマパレスでの作戦決行日。その時に何が待ち受けているかもまた彼から告げられていた。

 黒幕によって決行日のパレスに現実の警官隊が配置され、逃げようとする怪盗団を捉えるべく待ち伏せしている事。そうして警察に捕まったが最後、これまでの精神暴走事件の罪を全て被せられた上で、命まで奪われてしまう事。

 その全てが、怪盗団から余裕を奪うには十分すぎるインパクトを持っていた。

 

「……因みに、その罠に『シャドウワーカー』は参加するの?」

 

『ごめん、正確には分からない。奥村社長が倒れてから俺も寺崎も『シャドウワーカー』と一切の連絡が取れなくなったんだ。でも多分そうなると俺も寺崎も思ってる』

 

「連絡が取れないって、なんで?」

 

『アレから怪盗団事件の捜査に『シャドウワーカー』が本格的に関わる事に決まったらしい。それなのによく分かんない寺崎や俺(部外者)と関わってたらまず怪しまれるだろ? 寺崎の方はその、特に疑われてるみたいだし』

 

「確かに明智もそう言ってたな」

 

 しかしその『シャドウワーカー』がどう動くかが気になっても、もはや確かめる術はない。

 既に三島も『シャドウワーカー』と接触する事は出来なくなっており、それはあのピンク髪の少女も例外ではない。というよりその制限をもっとも受けているのは彼女だった。

 

『だから寺崎は最近じゃ俺ともチャットしてないんだ。予め多少は聞いてるけど、それでも当日アイツがどう動くのかも分からない。多分、予想の斜め上をいく気がするし』

 

「そこまで警戒しなければならない相手と、俺たちは戦わなければならないのか……」

 

「…………」

 

 今の怪盗団(自分たち)よりも遥かに情報を持っていてもなお後手に回っているように見える状況に、蓮も考え込むように目を閉じる。それは苦悩しているようにも見える姿だった。

 

 

『――それでも頼む。どうか、寺崎の奴を助けてやってくれないか』

 

 

 そんな姿がチャット越しに見えたわけでもない。

 それでも三島は蓮にも伝えた本音にして本題を、心の怪盗団に向けて送っていた。

 

「助けるって、ソレどういう意味で?」

 

『そのままの意味だ。雨宮たちの状況が厳しいのは分かってる。だから寺崎も当日現地に向かうはずなんだけど、今回のアイツは一人で行くつもりなんだ』

 

「一人だけって、三島くんやあの刀の人は来ないって事?」

 

『……俺たちが行けば黒幕に存在がバレるし、当日は別の事をするつもりだから行けない。でも寺崎は行かなくちゃいけないって言ってた。そうしないと、遅かれ早かれ捕まるって』

 

「そうか、彼女は俺たち以上に怪しまれていると明智も言っていたな。だから動かないといけないわけか」

 

「ん? でも遅かれ早かれって、ソイツ何をするつもりなんだ?」

 

 あまり詳細は判明していないが、寺崎叶にも当日行かなければならない事情がある事は明らかになった。けれどオタカラを盗まなければならない怪盗団と違って、彼女が何をしに来るのかは不明のままだ。

 そんな疑問を解消する言葉を吐いたのは、チャット越しの三島ではなかった。

 

「まさか、わざと捕まりに行くつもりか?」

 

「はぁ!? なんでわざわざ警察に捕まりに行くんだよ?! だって、一番怪しまれてんだろ!?」

 

 先ほどからずっと考え込んでいた蓮の言葉に、当然の反応を示す竜司。

 罠があると分かってて飛び込むなんて自殺行為に等しい所業の筈。けれどそう捉えていなかったメンバーが他にも存在していた。

 

「たしか、パレスに本物の警官隊を呼び込んで包囲して、捕まえたリーダーを特別尋問室で獄中自殺に見せかけるって話だったわね。それなら……!」

 

「……あ、そういう事か! そこまで分かってるなら、()()()()()()()()()()って話か!」

 

 何かを思い当たったような真に追随するように、双葉がポンと手を叩く。

 最初にその発想に至った蓮が、確認するようにチャット欄のメッセージを打ち出した。

 

「まだ推測でしかないが、行く以上は策がある。それはわざと捕まって始末された様に見せかせる類の方法だな?」

 

『……流石は雨宮たちだな。詳しくは言えないけど、そんな感じで切り抜けるつもりらしい。そしてそれは、怪盗団も同じなんじゃないか?』

 

「まさか、彼女はそこまで見越しているのか?」

 

 目を見開く蓮たち数人の間では、既に作戦は固まりつつあった。

 それは新島冴の認知世界を使い、死を偽装する方法だ。しかし怪盗団がその作戦を思いつく事すら想定されていた様で、流石の蓮も訝しむ様に呟いていた。

 

『繰り返しになるけど、寺崎がなんでそこまで詳しいのかは本人からじゃないと言えない。でも怪盗団なら罠なんかに負けないって、アイツはずっと言ってた』

 

「……テラサキが敵じゃないのなら、ファンだって言ってたのも嘘じゃないって事になるのか」

 

「随分と言ってくれるな、全く」

 

『でも黒幕側の警戒度も高くなってるから、それを見越した手を打ってくるかもしれない。そうなった時、味方になれるのはきっと怪盗団だけだと思うんだ』

 

「それって、私たちがその罠をどうにか出来るって前提だよね? 身勝手すぎるって言うか……」

 

 漸く話が見えた事で、三島たちの言い分に杏も呆れた表情になっていた。

 つまり寺崎叶は殆ど全てを知っていた。精神暴走事件の黒幕も、怪盗団がピンチになる事も、そしてそれを切り抜けられると思って動いているのだ。それを信頼と取るか、見透かされていると見るかは判断の分かれる所だった。

 

『これは俺からの依頼みたいなモノだ。寺崎本人とは連携出来なくても、それ以外なら俺も尽力する。どうだ、頼めないか?』

 

「……ひとまず色々と分かって、方針も立てられそうではあるが、どうする皆?」

 

 最後にそう結んだ三島からのメッセージを見て、モルガナが確かめるようにメンバーの顔を見合わせる。

 

 そこにあるのは決して一つだけの感情ではない。

 困惑や迷い、焦りや恐れも各々の中に混じって見え隠れしている。全ての事情を呑み込めたわけでもないけれど、次第に一つになっていくモノがあった。

 

「――覚悟を決めよう」

 

「結局、やるしかねぇのは変わってないみたいだしな」

 

「ここが勝負どころって事だよね」

 

「もはや四の五の言ってはいられないか」

 

「気になる所は多いけど、やる価値はあるわ」

 

「終わったら絶対、話聞かせてもらうからな!」

 

「お父さまの事も、説明してもらいます!」

 

「よし、ひとまずは全会一致だな!」

 

 一部当然な反応もあったが、三島からの依頼を承諾する事に異論は出なかった。

 そうしてとある実行犯が知る由もないままに、怪盗団と第三陣営の取引が成立したのだった。

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

「……それで今回の作戦の裏を知って、裏切り者である明智くんにバレないように動き出しました。もっとも彼がそうだと確定するのは、ギリギリになっちゃったけど」

 

「そんな経緯だったのね……」

 

 場面は戻り、純喫茶ルブランにて。

 テーブル席に陣取って座る怪盗団から説明を受けて、納得するように頷く冴。そんな彼女と同じくカウンター席の端で、もう一人の部外者も顎に手を当てていた。

 

「なるほど、皆さんが僕たちの事を知ったのは協力者――三島さんからだったんですね」

 

「お前さんは知らなかったのか? 『シャドウワーカー』の人間なんだろ?」

 

「僕も途中参加で全てを把握しているわけじゃないですから。……あ、このコーヒーとても美味しいですね。アルツラですか?」

 

「へぇ、案外分かる口じゃないの。お代わりいるかい?」

 

「そう言う事なら、お願いします」

 

「余裕あんな、おい……」

 

 ちょっと距離が縮まった様子で空のコーヒーカップを惣治郎に渡す乾はさておき、どうして怪盗団が裏を知っていたかの説明は済んだ。

 だから次に話されるのは、それを知った怪盗団が何をしたのかだった。

 

「三島君の情報から黒幕の罠を知り、その対策を立てました。それが本人ではなく認知上の存在を殺させる事だったんです」

 

「つまりは偽物を殺させて死んだと見せかける作戦。そう言う事ですね?」

 

「そ、そんな事を考えて実行したってのか……」

 

 真の発言を踏まえて乾が言い換える事で、少しずつ事態を把握していく惣治郎。けれど乾の瞳も何処か輝いている様にも見えた。

 

「でもその為には幾つもの壁があった。明智にバレないようにするのもそうだが、あまりにも当日の不確定要素が多かったからな」

 

「私たちと明智だけならともかく、寺崎さんや『シャドウワーカー』の動きも考えなくちゃいけなかったからもう大変!」

 

「まさか四人も来るなんて思わないだろ普通! しかも二人はまさかのロボっ娘だったしな!」

 

「ああ、アイギスさんとラビリスさんの事ですね」

 

 興奮した様子で言う双葉によって、各々に先日の景色が思い出される。あの時のリアクションは、決して全てが演技というわけではなかったのだ。

 

「でもその二人は以前渋谷で三島や寺崎さんと一緒にいたから、その時点で敵じゃない事は分かっていた。明智がいる以上は、戦わざるを得なかったが」

 

「私らは面識とかなかったけど、あのラビリスってロボっ娘に捕まった時に伝言は貰ったからな。それで『シャドウワーカー』もシロ確定したわけだ」

 

「双葉からそれを教えて貰って、やっと次の段階に進めたって感じだったね」

 

 ニイジマパレスでの戦闘中、ラビリスに抱えられた時に双葉だけが聞いた言葉。それがきっかけだった。

 

 

 『あんま暴れんといてや? ああそれと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

 

 

 明智や他の警官隊の手前、ワザと負けるような真似はまだ彼らには出来なかった。でも怪盗団なら、とある少女が信じた彼らなら、ある程度本気の自分たちにも打ち勝てると託していた。

 あの戦いは、それを証明する為に仕組まれたモノだった。

 

「それで『シャドウワーカー』と協力出来ると分かった上で、リーダーの蓮だけがワザと捕まる。あのアイギスって人も、そうしてくれたんだよね?」

 

「ああ。カジノビルから落下する間に話をつけたから、そこは心配していなかった」

 

「落下の間にというのはよく分からないけど、当日の内に意思疎通は済ませてたって事ね」

 

 ごく一部しか知らないが、カジノビルの上層から落ちてきたジョーカーが無事だったのは一緒に落下したアイギスがいたからだ。

 ついでにそれまでとこれからの事も軽く話せたので、その時点で作戦もある程度は上手くいく感覚があったらしい。

 

「それで蓮を除いて合流した俺たちは、モルガナカーに乗って包囲を抜けた――ように見せかけたんだ」

 

「あのタイミングで全員が現実に戻っても、普通に捕まっちまうからな。()()()()()()()()()()()()()()、何とかなったぜ」

 

 予め全員を降ろし、最後に思いっきりアクセルだけ踏んでもらって包囲を突破して現実へと帰還する。そうすれば猫の姿に戻れる為、行方をくらます事も造作なかったのだった。

 

「ちょうど同じタイミングで蓮も捕まったから順調かと思ったんだけど、最後に大きな懸念があったの。それが寺崎さんと明智の二人の事よ」

 

「……たしか彼女もリーダーの彼と同じように捕まったと聞いたけど、そうじゃないって事?」

 

 これまでの話では怪盗団の思惑通りに事が進んだように聞こえるが、全てがそうだった訳でもないと彼らは言う。

 現場にはいなかったとしても、あの響きはパレス全体に伝わるものだった。だからあの時パレスの中にいた者は、あの決着を知っていたのだった。

 

「彼女が来る事は予想していたけど、その動きは終始読めなかった。蓮と明智に突然戦いを仕掛けたのもそうだし、その後に明智と一対一で戦ったのも謎というか……」

 

「彼女が来てからの明智の動きも妙だった。それでクロだと確定出来た節はあるが……蓮は本人から何か聞いてないのか?」

 

「…………いや、そこは聞けなかった。だからそこも含めて確かめたかったんだが……冴さん、寺崎さんは?」

 

「…………それ、なのだけど」

 

 そうして件の寺崎叶の話になった途端に、何故か冴は視線だけを逸らしてすぐに答えようとしなかった。

 しかしそんな反応に蓮もまた追及しようとはせず、むしろそれこそが答えだと受け取ったかのように、僅かに目を伏せるだけだった。

 

「本当なら彼女もこの場にいてくれた方が話が早かったのでしょうけど、それは無理だったの。彼女は今、それが出来る状態にないから」

 

「え? それって、どういう……」

 

「失礼、その辺りについては僕が事情を聞いてきました。だから質問があれば僕が答えますよ。今日来た理由の半分位は彼女の代理、みたいなものですから」

 

 何だか変わった話の雰囲気を切り裂くように口を挟んだのは、使いとしてやってきた筈の乾だった。

 何故彼がそこに詳しいのかという問いは出てこない。代わりに蓮が尋ねたのは、とてもシンプルなモノだ。

 

「寺崎さんは今、何をしている?」

 

「僕が聞いた話では、彼女が今いるのは病院だそうです。そこで寺崎さんは――」

 

 そうしてもたらされた寺崎叶の現状。それは――

 

「――流石に尋問で受けたダメージが大きいらしく、まだ治療を受けている最中みたいですね。なのですぐに顔を合わせるには厳しい、と聞いています」

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その少女は、血の海に沈んでいた。

 傷だらけの身体はピクリとも動かず、流れた血のされるがままに髪や衣服を紅に染めていく。

 

 僅かに開いたままの瞳にも一切の輝きは残っていない。

 その少し上に巻かれた包帯に隠れた穴が、少女の死因を証明している。

 

 

「………………………………なん、てね」

 

 ――なのに何故か、そんな(こえ)がした。

 




☆天田くん
 月光館学園高等部の三年生。今作ではP5は2016年設定を採用しているので真や春、明智と同級生だったりする。
 かつてのリーダーを目標の一人にしていた結果、番長やジョーカーに並ぶレベルのハイスペック人間になりつつある。けれどまだ召喚器は預けたままに、学生生活を謳歌している。でも力にならないとは言ってないので、今回の使者役を引き受けた。
 原作からして共通点が多い所為か、偶に明智と間違われる。本人としては髪型もファッションも変えているつもりなので何故……?となっている。


★ざっくりまとめ
 ①三島が蓮へ伝えた事→
 ・これまで異世界で寺崎と三島がやった事。
 ・精神暴走事件の真の黒幕の存在と、その罠の内容。
 ・(寺崎叶の動機に関しては伝えていない)

 ②三島が怪盗団へ追加で伝えた事→
 ・『シャドウワーカー』の存在。
 ・寺崎叶を助ける依頼。
 ・(寺崎叶の決行日の動きは三島にも予想出来ない)

 ③決行日に怪盗団(without明智)が知っていた事→
 ・オタカラ奪取後に警察に包囲される事。
 ・明智吾郎が極めて怪しい事。パンケーキの件がなく、盗聴も出来ていない為に九割クロで止まっている。
 ・寺崎叶が来る事。タイミングや場所、動機は不明だが、八割がた敵ではないと認識。
 ・『シャドウワーカー』が来ること。アイギス、ラビリス、風花の顔はジョーカーにだけ割れていた。此方も八割がた敵ではないと予想。
 ・怪盗団のリーダーだけでも捕まえ、尋問室で獄中自殺に見せかけられてしまう事。対抗策は用意済み。
 ・(寺崎叶、明智吾郎の動きの予想精度は低め)
 ・(総じて、原作よりも難易度が上がっている)

 ④冴が決行日に『シャドウワーカー』から知った事→
 ・認知世界、改心についての仕組み(半信半疑)。
 ・自身の認知世界への侵入(半信半疑)。
 ・他に犯人がいる可能性(割と信じられる)。
 ・それらを踏まえた上で、()()()()()()()()()()()

 ⑤天田乾が使者として持っている情報→
 ・『シャドウワーカー』の動き、その背景。
 ・自称特別捜査隊都会組の動き、その背景。
 ・寺崎叶、三島由輝の動き、その背景(一部除く)。
 ・今後の動きについて。
 ・寺崎叶の現状。

 ⑥寺崎叶が知らない事
 ・怪盗団が明智をクロ断定していない事。
 ・三島くんが怪盗団に色々話した事。
 ・怪盗団が自分を敵じゃないと思っている事。

 ⑦寺崎叶が識っている事
 ・決行日の全陣営の大まかな動き(介入により変化した部分は除く)。
 ・捕まった後に起こる事。
 ・物語は、ここではまだ終わらない事。


閲覧、感想、誤字報告など誠にありがとうございます!!
伏線管理ってマジで大変だなと思いました。まだまだ残ってるけどな!
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