「――雨宮くん、無事!?」
「寺、崎さん? どうしてここに?」
勢いヨく扉を開け、中にいタ人に声をカける。
驚いた様子だガ、憔悴しきった感じじャない。だから間二合ったノだと思って、私は
「そりゃあなたを助ける為だよ! 私も一緒に捕まった理由の、半分くらいはその為なんだし!」
「……まさかとは思ったが、本当にその為だったのか。明智が来なかったという事は、作戦が成功したって事でいいのか?」
「そう言う事だと思うよ。私の所為で警戒度は上がっちゃってたけど、どうにか認知世界に誘導出来たみたいだね」
「やはり寺崎さんはそこまで分かっているんだな。つまりは味方だと思っても?」
「少なくともここを出るまでは協力出来ると思うよ。それ以上はちゃんとコレまでの事を謝ってからにしたいから、それでどうかな?」
「……分かった。ちゃんと説明してくれると信じる」
「うん、ありがとう! なら行こっか!」
僅かに迷った様子だったケど、
こ二は現実世界である偽、早く出ないと
だから急がナいといけなイ。早く
そう
「――なんてザマですか、
「えっ?」
その正面にいた、どこかで見覚えのある黒イ修道女に、そノ足を止めラレて。
そこで、私は目が覚めた。気が付いた。気が、触れた。
☆ ☆
☆ ☆ ☆
わたしは あかいうみに いた
ぬるくて てつのにおいがする いんくのようだった
よこたわるからだを おこそうと ちからを
いれて いれて いれて いれて いれて
もちあげた あたまの かみは かぴかぴで
あたまが まわらない しこうが できない
あたまが いたい からだが いたい
さむい つらい ねむい めをとじたい
でも それは だめだから
まだ だめだから ここじゃ だめだから
やくそくした ちかった いのった からには
はたさないと はなさないと
あやまらないと いけないから
はってでも ずってでも ここをでなきゃ
でも あのどあのぶにすら てが とどかない
ああ けれど いま こえが きこえた ような――
☆ ☆
☆ ☆ ☆
「――雨宮君、無事?」
「冴さん、もしかして?」
「あなたの想像してる通り、助けに来たわ。すぐにここを出るわよ、いい?」
蓮が一人残っていた特別尋問室。その扉がゆっくりと開いた先にいたのは、つい先ほど尋問を行ったばかりの新島冴検事だった。
その登場に小さく安堵しながら蓮が立ち上がろうとして、ふらりと机に手をついた。
「身体へのダメージがまだ残ってるのね。私が肩を貸すわ、ほら捕まって」
「……ありがとうございます」
思ったよりも言う事を利かない自身の肉体に顔を顰めた蓮だが、すぐに表情を戻して冴の言葉に従った。高校生の平均を超えている蓮だが、女性としても背が高めの冴であればどうにか支える事が出来ていた。
「アイツにスマホ、見せてくれたんだな」
「ええ、君の言う通りにね。こうして助けられたという事は、上手くいったと見ていいのかしら?」
互いに表情を緩めながらに確かめたのは、少し前に交わした取引についてだ。
これまでの経緯と共に精神暴走事件にはまだ裏があると伝えて冴の正義の心に訴えかけ、手を貸す代わりにここから脱出する為の手助けを頼んでいた。
それが蓮のスマホを実行犯の明智吾郎に見せてその襲撃をやり過ごす事だった。こうして二人で尋問室を抜け出せた以上は、ひとまずは関門を突破したのだと蓮は認識していた。
「なら、まだ寺崎さんには会えていないか? もし近くにいるのなら、一緒にここを出る事だって――」
「――あまみや、くん?」
「えっ?」
故に自分以外の者、同じく捕まったと聞いているもう一人の少女に考えが至った時に、その声はした。
驚いた様子の冴と共に目を向けたのは、蓮がいた尋問室の隣に位置する部屋のドアだ。
閉まったままの扉の隙間から漏れ出ているのかと思う程に、とてもか細い声だった。
「まさか、寺崎さんなのか?」
「そういうあなたはやっぱり、あまみやくんだね。よかった、ちゃんとだっしゅつできそうなんだ」
「あなた、その声は……」
冴の驚きは何故聞こえるのか、だけではない。
寺崎叶と思われる声は、あまりに平淡で抑揚がない。
普段ならただ呟きと取られてもいい声が、重く厚いドアの向こうから届いてくるのだ。何かがおかしいと見るには十分過ぎた。
「そんなときにわるいんだけど、とりひき――いやお願いがあるんだ。いいかな?」
「お願い?」
「うん。ここで、わたしにイセカイナビをつかってほしいの」
「イセカイナビを、寺崎さんに?」
そんな違和感に言及する暇もなく、提示された頼みに蓮は眉をひそめる。
彼女がイセカイナビを知っている事はいい。問題は何故このタイミングで自分なのかという点だった。
「わたしのスマホはいまてもとになくて、このどあもあけられないんだ。だからあまみやくんならって、思ったんだけど」
「冴さん、俺のスマホは?」
「それが、明智君に見せたらそのまま持ち去られてしまったの。だから今は持っていなくて……いや、ちょっと待って」
蓮から託されたスマホはないと言いかけた冴が、途中で動きを変える。蓮に肩を貸したまま片手を上着のポケットに入れて、ソレを持ち上げた。
「寺崎さん、あなたのスマホならあるわ。これならどう?」
「じゃあさえさん、もういちどあのそうさをおねがいします。それでわたしも、ここからでられるはずですから」
「それでドアを開けたら、俺たちと一緒に行くという事か?」
「……ううん、それはむりだよ」
冴が女子のモノにしては無骨なスマホを操作すると、一瞬だけ周囲がブレて元通りになる。
スマホを持った冴と彼女に触れている蓮、そしてドア越しだが近くにいたのだろう少女の三人が認知世界へと移動して尚、寺崎叶の態度は変わらない。
「わたしもあまみやくんとおなじくらいにぼろぼろでさ。そんなひとをふたりもつれて、そとにでるのはきびしいんじゃないかな、さえさん」
「……どちらか一人ならともかく、怪我人を二人連れて外まで出るのは、確かに厳しいかもしれないわね」
「だが、寺崎さんだけ置いていくわけにも……。助けてやってくれと、言われてるんだ」
思い出すのは、作戦決行前に彼から託された依頼。
あの時点でこうなる事を見越していたのかまでは分からないが、それでもこの状況で何もしないという選択だけはあり得なかった。
姿こそ変わっていないが、認知世界に来たのなら身体能力も上がっている。その状態なら三人でも逃げ出せると言いかけて、
「だいじょうぶ――大丈夫だよ、雨宮くん」
「え?」
急にトーンの変わった少女によって、中断させられた。
「あなたがここを生きて出られるだけで報われてる……まで言ったらアレかもしれないけど、私にとっては
「……信じていいのか?」
「こっちならペルソナだってあるし、私も一人じゃないからね。むしろ私の方があなたや皆を困らせてばっかりだったと思うから、何とか頑張ってみるよ」
先程までが嘘のように明るい様子でそう言う寺崎。
そのギャップに面食らったのと、本当に大丈夫になったのかという疑い。その二つによって蓮の思考が掻き乱される。
けれどこれまでの多彩な経験から来る直感が只事ではないと警鐘を鳴らすよりも早く。
「――ほら、こんな感じでさ」
ガチャリと、その尋問室の扉が内側に向かって開いていた。
「白い、修道服……?」
「何故その格好が……?!」
そこから中を見せないように出てきた少女の姿に、二人はそれぞれの驚きを示した。
冴から見れば捕まっていた容疑者には相応しくないコスプレの様な装いであり、蓮からすれば異世界に於ける彼女の叛逆の意思を表した姿だと分かる。でもこの場で彼女だけがそうなっている事そのものが異常だった。
逆にそれ以外に異常はない様な顔で、両手首に引き千切った手錠を付けたままの少女は言う。
「私はこのまま外に出て、パレス前で待ってるだろう人たちと合流するよ。ありがとう雨宮くん、それと冴さんも」
「待ってる人たちって、やっぱりあなたがこの状況を……」
「そりゃあ勿論最初から――と言いたい所だけど、色々と予想外も沢山ありまして。雨宮くんにはバレてるかもしれないけど、今も割と無理はしてるんだよね」
「っ! やはりか……」
勘繰っている事を言い当てられた蓮は瞠目しつつも、自身の観察眼が間違っていなかった事にやや安堵する。
彼女がここでどんな扱いをされたかを知る由はないが、最初の声を聞く限りは消耗していると見て間違いない。そこから何かしらで持ち直したみたいだが、それで一安心としていい筈はない。
「だからここは、お互いに脱出を優先しようよ。私も雨宮くん達怪盗団に言わなくちゃいけない事、謝らないといけない事が沢山ある。ここでそれを伝えるにはちょっと、ね?」
「もし三人で脱出すべきと言うなら、私も全力を尽くすわ。あなた達は、どうしたい?」
「俺は……」
選択肢を委ねられているように見えるが、目の前の少女が意思を曲げるとは彼には思えなかった。
そんな身に覚えのある雰囲気を感じながら、蓮は僅かな逡巡の末に決意した。
「なら取引……いや約束だ、寺崎さん。必ず全てを話してもらう、いいな?」
「――わかった、約束だね。何があっても守ってみせるよ」
所詮は口約束、けれど必ず果たされると信じて交わした言葉を最後に、冴が持っていたスマホの画面をタップする。
イセカイナビが起動し、認知世界から現実世界へと戻っていく蓮と冴。
そんな二人を見送るのは、白い修道服に黒い目隠しをした少女だ。その真意はまだ、語られていない。
だからかもしれない。
その目隠しの下にある筈の彼女の瞳を、蓮は世界が切り替わるまでジッと見つめ続けていた。
☆ ☆
☆ ☆ ☆
『――全てを識る
歩く。あるく。あルく。
『本来であれば囮となったジョーカーと軽く戦って話を通した上で、シャドウワーカーの誰かに捕まる。立場が悪くなる事を承知の上で彼らと組んだその作戦は、彼と
足を動かス。右足を。左脚を。交互に動カす。
『ジョーカーと二人きりになった彼――クロウが何を狙っていたかは定かではありません。しかし彼があの時点で怪盗団を裏切り、シャドウワーカーと共にジョーカーを襲う可能性を
――進む。早くここを出ナいと、いけないから。
『そうしてクロウ――明智くんと戦い、そして敗北した。その末路としてこうなるのは分かっていた。その上で
――いいや。そレでも、あれは必要な事だった。
彼の意志を聞けたし、私の行いも間違いだと分カった。それだケは確かなんだから。
『その末に
……殺されてもいいトは思ったけど、死んでもいいとは言ってない。だから今もこうして動き続けてる。なら、それはそれで良かったンだよ。回避できなかったのかと言われたら、ちょっとだけ弱いけど。
『……本当に悪い人ですね、
――現実世界でのペルソナ召喚は不可能じゃない。
ペルソナ3での召喚器を用いた召喚、つまリは『死を想う』行為であればペルソナを呼び出す事は出来なクもない。それでも異世界ほどの力はなく、姿を見せるだけとか弱い魔法を使うのが精々だろう。
でも今回はソれで良かった。『食いしばり』というスキルだけを呼び出せれば、それで私の狙いハ達成出来るのだから。
『
そこについては明智くンの所為とも言える。私もここまでする気はなかったし。
それに私としても本当にホントの最終手段だったんだよ。文字通りの一発勝負だったし、ゼロ距離でなければそもそも儀式に模せなかった可能性スらあった。
それでモこうなったのはやはり、私に対する彼の殺意、敵意が強すぎたからだったと思う。……いや、ちょっと違和感もあるニはあったけど。
『その所為で彼は怪盗団のトリックにすら気付いていたかもしれないのに。もしそうだとすれば、雨宮くんは死んでいたかもしれませんよ?』
そうなラないようにちゃんと対策は託してあった。
実際にどうなったのかは分からないケど、あのスマホを持った冴さんが雨宮くンを連れ出せていたのなら大丈夫だったんダと思う。迷惑かけちゃったのもまた間違いないんだけども。
『……そこまでされても
そこを突かレるとやや痛いけれど、だからこそだとも今は思う。
明智くんは間違っていない。むシろ彼こそが正しかった。ならやっぱり私はまだ、止まるわけにはいかないのだと。
『……言語能力と身体動作までしか私には補助出来ませんからね? その罪深い思考は自力で何とかしてください』
言われなくてもソのつもり。だから今のうちにやらなきゃいけないのは、今後の身の振り方の練習だった。
私が捕まって、
でモそれ以上は必要ない。私の余計なお節介も、今の私の状態も、彼や怪盗団は知らなくていい。それこそ誰も幸せにならないからね。
だからもうちょっとだけ、頑張らないといけないんだ。話したい事、見タいモノがこの先もまだまだアるんだから……!
『……やはり一度死んだ程度では治らないのですね、
そんな内よリ響く声を聞きながら、私は外へ続く廊下をゆっクりと歩いていくのだった。
☆ ☆
☆ ☆ ☆
ニイジマパレスの中央に位置するのは、元裁判所である巨大なカジノ。しかし照明が落ちて人の気配もなくなり、以前までの栄光が嘘のように暗い眠りについている。
そんなカジノの前に、四人の男女が立っていた。
「どうやら、怪盗団は離脱した後みたいだな」
「此方にも連絡があった通り、彼らのリーダーが脱出に成功したという事でしょう。この場で遭遇できれば、情報交換が出来たのですが……」
鞘に収めたままの刀や拳銃を手に持ち、周囲を警戒するのは鳴上悠と白鐘直斗の二人だ。
共に秋服姿でありながら、いつでも戦えるような立ち姿だった。
「今のところは私たち以外の気配はありません。実行犯の彼の気配もすぐに消えてしまいましたし、本当に大丈夫でしょうか……」
「何やってるんだよ、
そのすぐ傍で水色の球体を持つ人影の中にいるのは、シャドウワーカーの伝手で一人やってきた山岸風花だ。彼女は正式な隊員ではない為に、こうして自由に動く事が出来ていた。
そしてこの三人をこの異世界へと連れてきた三島は、今回の目的である少女に思いを馳せている所だった。
「でも俺のスマホにナビを復活させてもいいって合図は来てる。だから実行犯の明智を騙す事は出来たはずなんです」
そう言って彼が取り出したのは、彼が今まで使っていたのとは別のスマホだ。
しかし
「たしか、寺崎さんのスマホと予め入れ替えておいたんだよね?」
「はい、それが俺たちの用意したトリックだったので」
途中参加の風花が確かめるように尋ねると、三島が頷いて軽い説明を始める。
公安を使って寺崎叶を監視させる事で、明智は彼女に決行日まで余計な手出しをさせないようにしていた。しかしそこに一つ、彼の誤算が混じっていたのだ。
事態に介入する上で必要な『イセカイナビ』を持っていたのは、
彼女が自らと引き換えに隠しきった彼の存在に気付く筈はなく、そもそもここまで首を突っ込んでいた奴が肝心の『イセカイナビ』を持っていない等とは考えもしなかったのだ。
だからこそ寺崎がマークされている間に、ナビを持っていた三島と協力者が動く事が出来た。
しかしそれは、彼女が捕まった後に限ってはマイナスに働くものだった。
怪盗団と同じように『イセカイナビ』を遠隔操作するには、当然そのスマホに『イセカイナビ』が入っている事が前提だ。しかしそれのない寺崎のスマホでは、それが出来なかった。
しかし実験の末に、どこまで『イセカイナビ』が残るかを見極めた。
明智が警官にスマホを渡してパレスへと潜入させたように、自身以外に操作させる事は出来る。
つまり他人にある程度譲渡してもナビが消える事はなく、スマホの入れ替えを行ってもそれは同様だったのだ。
しかし完全に入れ替えてしまうと何故か寺崎の手元からは消えてしまった為、残るのは『イセカイナビを開いたままの状態』の間だけである事が判明した。
故に決行日当日はとある人物の保護を行うメンバーを一度メメントスに送り込んでから、改めて寺崎だけがニイジマパレスへと潜入して『イセカイナビ』を開いたままにし、そのままで捕まる事を第一段階としていた。
その後はシャドウワーカーに捕まった上で尋問にスマホを持ってきてもらえば、死を偽装するなり異世界に逃げるなり出来るという計画だった。その為にスリープ状態でも出来る操作を合図にしたり、『イセカイナビ』を開いたまま通話くらいなら出来るようにもしてあったのだ。
しかし急遽状況が変わってシャドウワーカーの尋問がなくなり、その入れ替えスマホを持っていく事が出来なくなった。
そこで尋問が行えた唯一の人物であり、既にシャドウワーカーの協力者となっていた新島冴へと託されていたのだ。
そんな彼女へスマホと共に託した指示は一つ。雨宮蓮と寺崎叶の尋問室の間の廊下にスマホを隠しておく事だった。
そうして設置されたスマホはスリープ画面のまま遠隔で通話状態とする事で周囲の状況を把握し、明智吾郎が一度現実に戻ってきた事を察知した。そして彼が接近したタイミングでブックマーク機能を用いて『イセカイナビ』を起動し、再び彼の気付かぬ内に認知世界へと
後は明智が去ってから冴が認知世界に渡ったスマホを回収し、今度は寺崎叶を認知世界へと送り届ける為に使われた。
そして雨宮蓮を尋問室から脱出させた冴が連絡する事で、明智を異世界で騙す事には成功したと別動隊である三島達に伝わった。そこから三島はスマホで『イセカイナビ』を復活させ、残る彼女を迎えに来たのがここまでの経緯なのだった。
「――あ、来た! 寺崎、大丈夫か?!」
そうして
その視線の先には、ゆっくりとした足取りで近づいてくる白い少女の姿があった。
「あれ、私の『ルキア』には何の反応も……いえ、ひとまず保護を優先しましょう! 怪盗団のリーダー同様、消耗している筈です!」
「周囲に彼女以外の気配もない。追手の類はないと見て良さそうだが……ん?」
「彼女、何処か歩き方が妙です。僕たちも行きましょう」
三島に次いで成人組三人も少女を捕捉するが、そこで各々が微かな違和感を抱く。
しかしひとまずはその身を案じるべく、その感覚を振り切って駆け寄った。
「……やっほー三島くん。心配かけちゃってごめんね」
「本当だよ、聞いた時はマジ焦った……って、お前なんか、変じゃないか?」
「へ?」
安堵しかけた三島にそう尋ねられて首を捻る少女は、白い修道服に黒い目隠しをしたいつもの姿だ。
その純白に汚れもほつれも一切なく、戦う前だと言われたらそれで納得してしまいそうな格好。
だからこそ、彼もまた違和感を抱いたのだった。
「……まぁ、流石に逮捕されて色々された後だからねー。流石の私も無事じゃ済まなかったよ」
「やっぱりそうじゃんか! なら急いで戻らないと――」
「でもその前に、三島くんに任せた方は大丈夫だった? 一度鳴上さんから報告用紙は貰ったけど、ちゃんと見つかった?」
「え? まぁそっちは何とかなったというか、とりあえず死んではない……じゃなくて!」
「なら良かった。あ、それと雨宮くんは? 私より先に出たと思うんだけど、無事に脱出出来た?」
「ええと、怪盗団のリーダー君なら新島検事と一緒にタクシーに乗ったって連絡が来たけど……」
「――寺崎さん。今まで捕まっていた君が色々と気になるのは分かる。けれど、先にすべき事がある筈だ」
合流するや否や、矢継ぎ早に確認をしたがる少女へと悠が待ったをかける。
その声色の真剣さに、流石の少女も口を噤むほどだった。
「君が色々と気になったのと同じ位、彼や俺たちは君の事を心配している。だからまずは君の事こそを正直に伝えて欲しい。それが一番の気遣いになる筈だから」
「私の、こと……」
スッと細めた眼差しを受けて、たじろぐ少女が視線を逸らす。
けれどそれで意を決したのか、観念したように浅く息を吐いた。
「……きっと、現実世界に戻ったら私はまた倒れると思います。今もちょっと、いやかなり無理はしてるので」
「やはり今の姿は、大事がないように見えるだけというわけですか」
「まさか全員に即バレするとは思いませんでしたけど、ね……」
たははと笑う少女は、確かに今も己の足で地に足をつけて立っている。
けれど同時に風が吹けばそれで倒れてしまいそうな、儚さが隠せない程に際立っていた。
「大丈夫じゃないのはお前の方じゃんか!? もういいから、後は俺たちに任せて休めって!」
「そうだね、私も流石に休みたいけど、まだもう少しだけ、頑張らせてよ」
慌ててその身体を支えようと手を伸ばした三島を避けるようにして、少女は一歩を踏み込んだ。
それは柔らかくも確かな、拒絶の形だった。
「今回の私は大した事も出来なかったけど、せめてこっちにいる間は強がりたいの。現実に戻ったら、鳴上さんか白鐘さんにお願いするからさ」
「え、俺じゃ駄目なわけ……?」
「三島くんは……うん駄目。なんていうか……安心できないし?」
「ちょ、それは酷くない!?」
ここに来てまさかのNG発言に開いた口が塞がらなくなる三島だが、その隙にすすすと動いた少女は、直斗の前で僅かに口を開いてからその身を預けていた。無茶をしているというのを示す為のような、わざとらしさすらある動きだった。
「……ひとまず現実に戻って彼女を病院へ連れて行きましょう。こう言ってはいますが、寺崎さんも怪盗団のリーダーと同じくらい消耗してるのは間違いないですから」
「早速ナビを使って欲しい。頼めるか?」
「え、はい勿論です……。ったく、こんな時までいつもの調子で言いやがって……!」
思ってたのと違う態度で戻ってきた少女に違和感と何となくのやるせなさを感じつつも、三島は取り戻した『イセカイナビ』を起動する。
景色が歪み、暗いカジノが重苦しい裁判所へと変化した事が認知世界から現実世界へと帰還出来た事の証明となっていた。
それと同時に、少女の身体からも完全に力が抜けていた。
「っ! すぐに車を持ってくる。直斗、キーを貸してくれ」
「お願いします、悠先輩」
「どうやら意識を失ったみたいです。本当に、どんな無茶をしてきたんだろう……」
「雨宮ですらあんな目にあってたんだ。幾らコイツでもあんな風に強がれるわけない事くらい分かるっつの……!」
電源が落ちた人形のように動かなくなった少女を場の全員が心配しつつ、一刻も早く治療しようと動き出す。けれどメインで看る事が出来ているのは心得のある直斗と風花で、三島は歯がゆい思いを味わう事になっていた。
「アレですね、すぐに移動しましょう」
「行こう、三島くん!」
「はい! ……って、あれ?」
先月とはまた違うレンタカーに少女と共に乗り込み、口利きのしてある病院へ向かうべく駆け出そうとした時に、三島がその不可思議に気が付いた。
それは少女の搬送には関係がないけれど、それでも明確におかしいと分かる現象だった。
「――なんで、姿が変わってないんだ?」
それは、彼女に変化がなかった事。
認知世界から現実世界へと戻った事で周囲の景色は変わったはずなのに、少女だけが未だに取り残されているように。白い修道服も黒い目隠しも、そのままだった。
だからこそ一切の傷も疲労も見えないままな事が、逆にちぐはぐで不気味に見えた。
☆寺崎叶
「ペルソナ使いは多少の銃弾を食らっても死にはしないから!」
「え、荒垣さん? それとこれとは話が別というか、触れない方向で……」
閲覧、感想、誤字報告など誠にありがとうございます!!
ちょっと実験的な意味でも色々とやってみました。多分そんなに連発はしないです。
それと次回の後書きにてまた情報纏めアリです。