私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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ちょっと間が空いちゃいましたが、連続投稿はここまでの予定でした。


#44 だから動かなければならない

 

「――寺崎叶さんは今も病院で、この場に来る事は難しい。なので僕から彼女の作戦を簡潔に話させていただきたいと思います」

 

 四軒茶屋にある純喫茶ルブランには、夜にも関わらず多くの人がいた。

 怪盗団、惣治郎、冴の視線を受けながら、移った話題を主導するべく乾は口を開く。

 

「寺崎叶さんの目的は八月から一貫して、精神暴走事件に関する被害者を減らす事。それは今回の新島検事のケースでも同じでした」

 

「でも彼女は事件前まで公安にマークされていた。不審な動きをすれば、すぐにバレていたと思うのだけど……」

 

「だから彼女自身は殆ど何もしていません。そうして囮になる事で、寺崎叶さん以外の人間を動きやすくさせたんです」

 

「もしかして、それが三島の行動に繋がるのか?」

 

 彼女以外と聞いて蓮が真っ先に浮かんだのは、蓮と寺崎叶の共通の友人である三島だ。

 蓮の問いかけに肯定の意を示した上で、乾は話を続ける。

 

「正確には三島さんと、シャドウワーカーとも異なる別のペルソナ使いです。もしかすると、既に皆さんも会ってるかもしれないですけど」

 

別のペルソナ使い(ニャー)……あの刀使いの事か(ニャニャ)?」

 

「……すみません、多分今返事したのはその黒猫くんだと思うんですが、彼の言葉の翻訳ってお願い出来ますか?」

 

「そうだった、モナの言葉分かんのウチらだけだったわ」

 

 思い当たったモルガナが目星に成功するも、残念ながら言葉の壁にぶつかっていた。

 しかしその推測自体は当たっていたので、気を取り直した乾が更なる情報を開示する。

 

「彼らは三島さんが持つナビを使って実行犯にバレないようにしながら、異世界での捜査を進めていました。ここ最近で頻発した精神暴走事件の被害者の保護もその一つです」

 

「被害の発覚から保護までが、途中から妙に早くなっていたのはそのおかげだったのね」

 

「それって、誰が狙われるかも最初から分かってたって事かよ?」

 

「どこまでも知っているようだな、彼女は」

 

 検事である冴すら認める手際の良さに竜司や祐介が感心半分、不満半分な反応を漏らす。

 けれどその通りではないと知る乾が慌てて待ったをかけた。

 

「精神暴走事件の被害者として誰が狙われるのかを特定したのは別の人です。寺崎叶さんが知っていたのは、あくまで精神暴走事件の実行犯と黒幕だけだったので」

 

「なんだ、そこまでは知らなかったんだ……って、黒幕はやっぱり知ってたんじゃん!」

 

「杏ちゃん、見事なノリツッコミ……」

 

「まぁ、そうだろうとは思っていたけど」

 

 ややオーバーな反応になってしまった杏に乗っかる春と真だが、その予想自体は怪盗団の皆が共有していたモノだ。ここまで事の全貌を見通しておいて、そこだけ知らないというのもおかしな話になるからだ。

 

「しかし黒幕を知っているからと言って、逮捕出来るかと言われたら話はまた別です。なのでその為に必要な調査を現実世界と異世界の両方でしてもらい、そして完了したと聞いています」

 

「完了って、まさか証拠が見つかったって言うのか?!」

 

「決定的とまではいきませんが、それでも黒幕が意図的に精神暴走事件を引き起こしたと言える根拠はこの一ヶ月で揃え終わったそうです。しかし、それだけでは()()()()()()

 

 黒幕を追い詰められるのかと驚く惣治郎だが、対する乾の表情はまだ固い。

 その答えを持っているのは、同じく苦々しい顔で考え込む女検事だった。

 

「これまでの情報を踏まえるなら、その黒幕は警察が所有するビルで殺人計画を立てられるだけの権力を持っている。生半可なタイミングでは証拠(それ)すら揉み消されるのね?」

 

「その通りです。だから三島くん達が手に入れた証拠を使って美鶴さん達シャドウワーカーが黒幕と対峙する為には、もう一押しがどうしても必要だった。それが心の怪盗団、あなた達です」

 

「…………彼女が決行日に動いていたのは、その為なのか?」

 

 蓮の中で、か細い線が徐々に浮き上がっていく。

 あの廊下で会った彼女は自身よりも蓮の身を案じるような言動をしていた。それが黒幕を倒す為に自分たちが必要だったからと言えば、確かに辻褄は合う。

 でも、それだけじゃないような気がしてしまって。

 

「ですが先程言った通り、彼女は本来の予定とは異なる行動を取りました。そこにどんな真意があったのかはまだ聞けていませんが、それでも自分以外の誰かの為でもあった筈です」

 

「だがそこまでして何を狙っていたかは、結局分からずじまいというわけか」

 

「というかワガハイ達はテラサキに会ってすらない。精々(コイツ)が軽く戦った位で、助けられたような覚えなんて……」

 

「なら蓮はどう? 確か、尋問室でも会ったんだよね?」

 

「…………心当たりがないとは言わない。だがやはり詳しい事は本人に訊かないと分からない」

 

 一番真実に近いであろう蓮は、やや考えた末に目を閉じた上でそう言った。尋問室での警察官相手にすら通用したポーカーフェイスなら、そこに違和感は生じない。

 

「結果として無事とは言い難いですが、怪盗団のリーダーである雨宮蓮(あなた)寺崎叶(かのじょ)の二人が生還した。そして表向きは死んだ事になっているからこそ、次に向けて動く事が出来る。僕たちはそう考えていますが、あなた達はどうでしょうか」

 

「……いいえ、同じよ。死んだ筈の(かれ)が実は生きていると名乗り出て、真の悪党はどちらかを世に知らしめる。この計画も既にあなた達の知る所なんでしょう?」

 

「それで黒幕の鼻を明かしてやるんだ。まさか邪魔するなんて言われねぇよな?」

 

「お前ら、そんな所まで考えて……?!」

 

「大したものね、本当に……」

 

 キッと視線を強くした真が告げた作戦の全容に、初耳である惣治郎や冴が驚きや感心を顕わにする。

 しかしそういった感情の内、驚きだけは見せなかった乾が良かったとばかりに一度だけ頷いた。

 

「それを聞いて安心しました。ならばこそ、僕がここに来たもう半分の役目を果たせますから」

 

「役割、ですか?」

 

「僕はあくまでシャドウワーカーからの使者ですからね。なので簡潔に言いますが――心の怪盗団と取引をしたいんです」

 

「……取引ときたか。明智の例があるからあまり乗り気にはなれないが、聞かないわけにもいかないか」

 

 真剣さを増した乾の態度に、怪盗団の警戒度もまた上がる。しかしここまで来て避けることも出来ない為に、全員がアイコンタクトで了承を取り合う。

 それを確認してから、乾は口を開いた。

 

 

「皆さんには精神暴走事件の黒幕である獅童(しどう)正義(まさよし)の改心をお願いしたいんです。代わりにシャドウワーカーは、それまでの環境を整える事を約束しますので、どうでしょうか?」

 

 

「「「っ……!?」」」

 

 その提案に、乾以外の全員の目が見開かれた。

 予想していた者も中にはいたが、特定の人物名が告げられるとまでは思っていなかったのだ。

 

「獅童……それが私たちをハメた黒幕の正体なのか?」

 

「僕たちや三島さん達の調査から導き出したモノなので、信憑性はあるかと。寺崎叶さんの証言だけでは流石に僕たちも動けませんから」

 

「確かに獅童なら精神暴走事件の黒幕としての条件を満たすわ。私は信じてもいいと思う」

 

「お姉ちゃん、知ってたの?」

 

「いいえ、私も今初めて知ったわ。けれど怪盗団以外に犯人がいる事は以前から示唆されていたし、そもそも当初からの捜査を担当していたから、納得は出来るというだけよ」

 

 まだ疑惑が強く残っている怪盗団へと、冴から押される太鼓判。けれど黒幕の名前に納得の意を示した人物が、他にもいた。

 

「てか、シドウマサヨシって誰だ? なんか聞いた事はあるっつーか……」

 

「ここ最近は選挙カーが走ってただろ? 次の総理大臣狙ってる獅童正義って男だよ。アイツが関わってるような気はしてたが、ここでか……」

 

「いや惣治郎も知ってるのかよ! もっと早く言えー!」

 

「馬鹿言え、アイツはな――」

 

 惣治郎が心当たりを黙っていた事に憤る双葉だが、獅童という男の危険性を語られた事ですぐに大人しくなった。その後すぐにそんな奴を野放しには出来ないという意思を固め、皆で共有するまでをワンセットで済ませていた。

 

「ソイツを改心させなくてはいけない事は分かった。だが何故俺たちなんだ。ターゲットの名前もイセカイナビも、ペルソナ使いすらいるなら何故シャドウワーカー(あなた達)が動かないんだ」

 

「ちょ、蓮?! そんな言い方にしなくとも――」

 

「いや、そこは聞いておくべきだと俺も思うぜ。端から聞いていれば、ただお前らを利用したいだけとも取れるしな」

 

 急に棘のある訊き方をする蓮だが、彼の保護者である惣治郎としてもそこは捨て置けない問題だった。

 何を承知の上で怪盗団にこの取引を持ちかけたのか。その理由を話す前に一度だけ、乾は目を閉じて息を吐いた。

 

「まず初めにですが、シャドウワーカーは学生の皆さんが戦う事を良しとはしていません。寺崎さんや三島さんの事も踏まえて、同じ学生の僕が言っても説得力がないとは思いますが……」

 

「でもそこは私からも言わせてちょうだい。むしろ獅童と真に戦わなくちゃいけないのは私たち大人の方だもの。桐条さんもその点に関してはずっと胸を痛めていたわ」

 

「でも実際はこうしてこいつらに頼ってんだろ? シャドウワーカーが動けない理由でもあるのか?」

 

 冴が擁護したところで、これまた厳しい批判が惣治郎から飛んでくる。

 徹底して何故なのかと問い詰めてくる彼に対して、乾は真っすぐに状況を伝えた。

 

「まさしくその通りです。美鶴さんたちシャドウワーカーは今、機能不全に陥っています。厳密には雁字搦めになっている所為で、殆ど自由に動けないんです」

 

「雁字搦めって、どういう事? 何かの圧力でも受けてるっていうの?」

 

「おおまかにはその認識で間違っていません。シャドウワーカーは皆さん怪盗団メンバーの殆どを逃がしてしまった事になっています。なのでその責任として、残党の捕縛を命じられているんです」

 

「捕縛って、マジで言ってんの!?」

 

「勿論、今となっては皆さんを捕まえるつもりはありません。しかし明確に離反行為をしてしまえば、敵はすぐさまこちらを切って来るでしょう。そうなれば、皆さんの身にも別の危険が迫るかもしれません」

 

「つまり、今のシャドウワーカーは俺たちにとっての防波堤になっていると言いたいのか?」

 

「結果的にはそうかもしれませんね。皆さんからすれば、あまり喜ばしい事ではないとは思いますが」

 

 シャドウワーカーは動けない。その理由が何もしない事で自分たちを庇っているからだと言われても、彼らとしては困惑の方が強いだろう。そんな事は頼んでいないし、有難く思うのも難しい。

 そもそもの取引としての形式すら破綻した条件に、怪盗団の面々も眉をひそめていた。

 

「環境を整えるって言ってたのは、その事だったんですか?」

 

「そうなります。美鶴さん達はこれから全力で他勢力からの横槍を防ぎますが、それで稼げる時間は一週間……いえ、十日間と聞いています。その間は今までと変わりなく動ける筈です」

 

「しかも十日しかないのかよ……。いや、やれない事はねぇけどよ」

 

「そして他のペルソナ使いに関してですが、確かに警察に彼らはマークされていない筈なので、協力は出来ると思います。それにあの人たちの実力なら、獅童を改心させる事も不可能ではないでしょう」

 

「やっぱり、(コイツ)と同じだけの力を……」

 

「…………」

 

 シャドウワーカーが設けた残り時間の事を思えば、心の怪盗団だけで改心を進める事はあまり賢いとは言えないだろう。ならば何故という疑問を呑み込んだ蓮が、乾の言葉の続きを待つ。

 それこそが彼の望む答えであると、妙な直感が働いていたからだ。

 

 

「ですが獅童正義との戦い――精神暴走事件は、皆さん心の怪盗団の戦いであると僕たちは認識しています」

 

 

「コイツらの、戦い……?」

 

「僕たちがペルソナ使いになった事には意味があると思うんです。こういう物言いは好き嫌いが分かれるとは思うんですけど、『運命』とでも言うべきモノが僕たちにも、あの人たちにもありました」

 

 それは死という終わりを覆し、未来の為に塔を登った彼らのように。

 それは欺瞞と虚飾を振り払い、真実の為に霧を晴らした彼らのように。

 

 理不尽に抗う為に力を得て怪盗団を結成した彼らもまた、戦いの渦中にいるのだと乾も思っていた。それはとある少女を介してこの事件に関わった者たちの総意でもあった。

 

「事件解決を優先するのなら、僕たちも総出で力を貸すのが手っ取り早いかもしれません。ですがそんな事を皆さんは望んでいますか?」

 

「……それは私たちが望めば、あなた達が仲間になってくれるという事よね」

 

「はい。そういった形で力を貸す事も、僕たちは吝かではありません」

 

 今ルブランにいる乾も、あの刀使いも現状では敵ではない。

 心の怪盗団が要請すれば、その全てが味方になると聞いて。

 

「――なら俺たちはそれを望まない。この事件は怪盗団がケリをつける」

 

 蓮は一瞬で仲間の顔を見てから、その救いの手を一蹴した。

 

「当たり前だ! 手伝ってもらえんのはいいけど、そこは譲れねぇだろ!」

 

「黒幕の正体を教えてくれたのは助かる。けど私らでやんなきゃ意味ないしな!」

 

 他のメンバーについても同様で、それぞれ因縁のある仇敵を自分たち以外に譲る事を良しとしてはいなかった。

 そんな怪盗団の様子を見て、乾もまた表情を緩ませて言う。

 

「そうですか。なら最初に言った通り、改心は皆さんにお願いしてもいいんですね?」

 

「頼まれるまでもない。だが不躾な訊き方をした事や名前を教えてくれた事には報いたいから、むしろ何かあれば言って欲しい」

 

「いえ、いきなり接触してきた僕が怪しまれるのは当然ですから、ここはギブアンドテイクでいきましょう」

 

 飲み終わったコーヒーカップをカウンターに置いて立ち上がった乾が、近付いてきた蓮と握手を交わす。

 シャドウワーカーが動けない理由と怪盗団が動くべき理由を共有した事で、ここに二陣営の同盟が成立したのだった。

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

「――怪盗団の所には天田さんが向かったそうです。これで彼らとも連携が取れますね」

 

「これでようやく一枚岩になったわけだな」

 

 ルブランでそんなやり取りがされている頃。

 同じ都内のとある病院の廊下にて、絵になる二人の男女が話をしていた。

 

「ですがここからは時間との勝負でしょう。シャドウワーカーが稼げる時間は一週間と言っていましたが、彼がそれよりも早く気付かないとも限りません」

 

「いざとなれば、俺たちも助太刀するしかないか」

 

 シャドウワーカーと自称特別捜査隊の都会組はとある少女から作戦の概要を聞いている為、この先の怪盗団と黒幕がどう動くかの予想がついている。その為に顎に手を当てて考える直斗に対して、悠も戦う覚悟がある事を示していた。

 

「この先はどうなるかの予測が更に大事になる筈です。なので出来れば彼女もいて欲しかったのですが……」

 

「ああ、そうだな……」

 

 二人以外誰もいない廊下で、そのすぐ傍にある病室のドアを悠が見やって言う。

 その中で眠るあの少女についての診察自体は既に完了している。しかし治療が出来たかと言えば、それはまた別の話だった。

 

「医者が手当てをしようとして初めて彼女の姿が元に戻りました。あの傷の具合を僕たちに見られたくないが為だったのでしょう」

 

 現実世界へと帰還してから車で病院に到着しても尚、少女はずっと白い修道服のままだった。

 しかし治療の為にと仮面に手を掛けた所で変身が解けて、その下にあった本来の姿が明らかになったのだ。

 

 白い修道服は、赤黒い染みが幾つも隠れた黒ブレザーに。そこから覗く手足のあちこちに生傷が残っていて。

 頭にかかったシスターベールは、もはや赤黒くない部分の方が少ない包帯に。まだ残っていた鉄の匂いが、そこが傷口だと告げていて。

 黒い目隠しが消えても左目には包帯が巻き直されており、反対の右目が開く気配は一切なかった。

 そんな満身創痍が、少女の抗おうとした現実だったのだ。

 

「正確には彼に見せないようにだろうな。同級生のあんな姿を見せられたら、トラウマになってもおかしくない。まぁ彼も薄々は勘付いてはいたようだったが」

 

「流石に露骨すぎましたからね。黙っているのは果たしてどちらの方なのか、確かめていただきたい所です」

 

「出来れば早く目覚めてそうなって欲しいが、難しいだろうな」

 

 少女と親しい仲にある三島は明日も学校という事で既に帰宅している。シャドウワーカーのメンバーの為に情報を持ち帰った風花を除けば、彼女の怪我の詳細を知るのはこの場の二人しかいない。

 それを踏まえて尚、口に出す事を憚られるような具合だったのだ。

 

 それは頭部に刻まれた一番深いキズ。銃弾が額から侵入して後頭部へと突き抜けたとしか思えない貫通射創がその正体だった。

 本来であればまず生きている筈のない重傷だが、()()()()()()()()()()()()()()()()で塞がっていたらしい。しかしそれは割れガラスをテープで補強した程度のモノであり、更には中身も確かに失われている事が分かった。この状態で動いて会話をするなど、奇跡ですらあり得ないと言われていた。

 

「回復して欲しい気持ちとは別として、何故彼女がそんな状態で動けたのかが気になります。桐条さんに聞いた話からある程度の推理は出来ますが……」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のもその関係かもしれないが、どのみち目覚めてくれないと確認のしようがない。やはり彼女だけを行かせるべきではなかったんだろう」

 

 先に立つことのない後悔を抱えているのは悠だけではない。それは彼女の出撃とその顛末を知った全員の共通見解となっていた。

 

 それでも何故こうなったかと問われれば、その犯人は寺崎叶本人になる。

 元より自由のなかったシャドウワーカーを『明智との対決を手助けする』約束で封じた。そしてその明智の慢心を誘う為と、証拠を集めて他の被害者を助ける為に人数を割くべきだと主張した事で三島と他の協力者を納得させた。

 

 だからこれはある意味で、彼女の招いた裏切りの結果だった。

 

 それについて言及したい気持ちはあるが、今は彼女自身の治癒力に任せる他ない。

 そう結論づけて病院から出ようとした所で、悠の懐でスマホがブルリと震えた。

 

「鳴上先輩、どうしました?」

 

「……三島くんからのチャットだ。明日も出来ればお願いしたいと言っている」

 

「今日はもう休んでいると思いましたが……もしかして?」

 

「きっとそういう事だろう。寺崎さんがこうなったからこそ、思いが強くなったのかもしれないな」

 

 出現した通知の内容に困ったような、或いは眩しいモノを見るような目を向ける悠。

 明日の夕方にまた渋谷へと向かう事が決定した瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

「……ありがとうございます、鳴上さん。それに白鐘さんも」

 

「今日は彼らも本格的な攻略はしないらしいので、僕としても時間がありましたから」

 

 そうして翌日の夕方。三島の招集に応じた悠と直斗の三人がやって来たのは、渋谷の地下に広がる異世界『メメントス』だった。

 その序盤層フロアにて、召喚器と狙撃銃を装備した三島が二人と向かい合っている。

 

「これまでと同様に戦闘訓練というわけだが、やはり寺崎さんの事が関係しているのか?」

 

「……はい。あれからどうしても、考えちゃって……」

 

 刀を持った悠に尋ねられ、視線を逸らした三島がその顔を曇らせる。

 銃を握る手にも、じわりと力が入り始めていた。

 

「怪我の具合は追及しないけど、寺崎がまた無茶をしたのは間違いない。でもアイツがいつ目覚めるかは分からないんですよね?」

 

「医師の見立てではまず年内は難しいそうです。頭部にある傷が、どうしても深いようなので」

 

 意識を失う前の少女は、とある伝言を直斗に伝えていた。

 

 『三島くんと怪盗団には秘密にしてください。虫のいい話だと分かってるけど、お願いします……!』

 

 だから彼にはただ重傷としか伝えておらず、もう目覚めないかもしれないという最悪の場合(ケース)も知らないままだ。罪悪感もあるにはあるが、今の三島には伝えられないという判断だった。

 

「でも俺、そうは思えないんです。寺崎が言っていた『ガチで悪い神様』は、きっと年内にはやってくる。それまでにアイツが目覚めないなんて、あり得ないっていうか……」

 

「……たしかに、マリーもそんな事を言ってたな」

 

 とんでもない方向に寄せられている信頼を見て、悠も地元の神様系キャスターの忠告を思い出した。そして二人も少女からその話を聞いていないわけでもなかったので、三島の予想に嫌な説得力を感じ始めていた。

 

「精神暴走事件の黒幕との対決までに、俺が出来る事はないかもしれない。けどその次の戦いでまたアイツが目覚めて何かするのなら、それまでに備えておきたいんです。アイツが何をしようとしても、対応出来るように……!」

 

「やはり、それが三島さんの強くなりたい理由なんですね」

 

「さ、流石に鳴上さんや雨宮みたいにカッコよく戦えるようにはなれないって分かってます。でも、せめて、友達と一緒に戦えるだけの力が欲しいんです。だ、ダメですか!?」

 

「見据えているのが彼女との共闘じゃない気もするが、事情は理解した。そういう事なら――」

 

 僅かな恥じらいと共に気持ちを明らかにした三島は、格上のペルソナ使い二人にそう懇願する。

 対する返事は、二人が取った構えで表される事となった。

 

「戦う理由は人それぞれだ。戦うべきか否かは別として、戦いたいと思う事自体は間違いじゃないと俺は思う。その気持ちが足りない力の穴を埋めてくれる事だってあるからな」

 

「そしてこれは僕たちの勘ですが、きっとその時はあなた達にも訪れる。あの怪盗団と同様に、寺崎さんと三島さんの二人が力に目覚めた理由もある筈です。そしてその時に、僕たちがいるとは限りません」

 

「だからそれまでの時間がある限り、先達として君たちの力になろう。これまでと同じようにな」

 

 彼らの戦闘訓練自体は初めてではない。シャドウワーカーの面々ともやって来たし、オクムラパレスからはこの二人とも度々やって来た事だから、言ってしまえばその延長に過ぎなくて。

 

 けれど少女がいない今、三島は一人でも力を求めると決めたのだ。

 それだけが、今の自分に出来る事だと信じた為に。

 

「銃の扱いは僕が以前から教えた通りに。身体の動かし方は鳴上先輩から見て盗むようにしてください。この先どれだけ機会があるかは分かりませんから、一時たりとも無駄にしないように、頑張っていきましょう」

 

「はい ! お願いします!」

 

「いい返事だ。なら行くぞ、『イザナギ』――!」

 

「来い、『スクナヒコナ』――!」

 

 ある程度までは本気とペルソナを出しながら、彼が学べるレベルに二人が戦線を開く。

 それに狙撃銃と自身のペルソナだけで、三島は戦えるように頭を回していく。

 

 その全てはいずれ来る決戦の為。そしてそこで自分に出来る事を増やす為の積み重ねが一環だった。

 

「ここからだ、『シャルル』――!」

 

 そうしてとある少女抜きで始まった、三島由輝の修行パート。

 その成果が試されるのは『ガチで悪い神様』が来るであろう一月後――ではなく。

 

 

 怪盗団がシドウパレスの攻略を始めてから、たった四日後の事だった。

 

 




★ざっくりまとめ
 
 ☆特別尋問室で起こった事の顛末→
 ①〈現実世界〉雨宮蓮、寺崎叶の尋問開始。
 ②〈現実世界〉明智が寺崎を射殺。頭から血を流して床に倒れた所を明智が確認し、退出する。
 ③〈現実世界〉少し早めに蓮の尋問室から出た冴が、警備員の不意をついて廊下の床に寺崎の入れ替えられたスマホを設置。
 ④〈現実世界〉明智と冴が遭遇。蓮のスマホを見せ、二人とも認知世界へ。
 ⑤〈認知世界〉明智が認知世界にいる事に気付き、侵入地点から現実世界へと帰還。冴は曲がり角の先で待機。
 ⑥〈現実世界〉戻った明智が再度寺崎のいる尋問室を確認してから、蓮の尋問室へ。その直前で床に置かれた寺崎の入れ替えスマホが起動し、明智を再び認知世界へ。
 ⑦〈認知世界〉認知存在の蓮を明智が射殺。寺崎を殺せた上に策も破れたと思っている為、軽い確認だけで部屋を退出。そのまま廊下を通って現実世界へと帰還する。
 ⑧〈認知世界〉十分に待って明智が去ったと確認してから、認知世界に移動した寺崎の入れ替えスマホを回収。そして冴も現実世界へと帰還。
 ⑨〈現実世界〉蓮の尋問室に戻り、連れ出す。蓮は明智には会っていない。
 ⑩〈現実世界〉寺崎が動き始めて、蓮と冴の接近に気付く。『イセカイナビ』入りのスマホを持っているだろう二人に頼み込む。三人とも認知世界へ。
 ⑪〈認知世界〉上がった身体能力で寺崎が手錠を破壊。廊下に出て軽く話した後に、蓮と冴の二人が現実世界へと帰還。そのままビルの脱出へ。
 ⑫〈認知世界〉此方でなら動ける為、その足でビルを脱出してカジノまで移動。待機していた三島たちに保護される。

 ※寺崎叶の介入で明智の警戒度が上がっていたが、彼女の死で結果的に警戒度が下がったので蓮の死も疑われなかった。つまりはマッチポンプである。

 ※蓮のスマホには冴へのメッセージが入っていたが、事前に指示を受けた冴がマナーモードかつ明るさを最低にする事で気付きづらくしていた。そしてタイミングがズレた事で幸運にも明智が射殺に勤しんでいる時にミュートで流れた為、彼が気付く事はなかった。
 
 ※明智が持っていった蓮のスマホは、その後適当な警官に渡されていたのを冴が証拠品として回収し、本人に返した。

 ☆寺崎叶の頭部のキズについて
 明智が拳銃の引き金を引いた瞬間と、発射された弾丸が頭部を破壊する瞬間はほぼ同時ではあっても全く同時ではない。彼女が狙ったのはその間の刹那だった。
 着弾から内部を突き抜けるまでを一連のダメージと判定し、即死判定を『食いしばり』によって覆そうとした。
 しかしダメージを無効化するスキルではないので内部は破壊されたままであり、結果として脳機能の一部が失われた。とあるシリーズの一方通行(アクレラレータ)打ち止め(ラストオーダー)を助ける際に負ったキズに近いと言えば、分かる人には分かるかも?


閲覧、感想、誤字報告など誠にありがとうございます!
そんなわけで次回からはシドウパレス編です。
11月の話数がとんでもない事になりそうですが、この先もこんな感じなので気にしないでいただけると幸いです。お楽しみに。
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