私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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この先、物語が大きく動き出します。
この先の物語を読む際はまとまった時間を取る事を推奨します。

要するに途中で切れなくて12000字いっちゃったのでご容赦くださいませ。


#46 その終わりを認めない

 

「――これで紹介状、五つ揃ったね。後は『本会議場』に入るだけ?」

 

 シドウパレスである豪華客船。その下部に存在する機関室にて、怪盗団の面々は手にした五枚のカードを見て達成感を覚えていた。

 

「ここまで来てもう見てねえ所なんて思い当たらねえし、絶対オタカラはそこだろ!」

 

「それでルート確保ができたら、いよいよ予告状だな」

 

「出し方は私に任せろ。ド派手にやってやる!」

 

 獅童のオタカラを盗む為に必要な準備はこれで完了した。後は現実に戻って予告状を出せば、そのまま最後の決戦が始まるだろう。

 隠匿していた雨宮蓮(ジョーカー)の生存も相手に知られる以上、やはり今度も一度きり。しかし背水の陣もいつもの事だと、彼らは戦意を新たにしながら帰還するべく動き出す。

 

 けれどそれを許さない者が、この場には一人いた。

 

「っ! 止まれ、みんな!」

 

「――久しぶりだね、君たち。いや、数日ぶりだったか」

 

「テメェは……!?」

 

 その帰り道で怪盗団の進路を塞ぐように現れたのは、白い貴公子姿の少年だ。

 一度は共に肩を並べた、正義の探偵。その実は事件を解決する側ではなく起こす側だった明智が、それを示すように対峙し続ける。

 

「本当に僕を騙していたとは恐れ入った。策を見破ったつもりだったのに、それでも一手及ばなかったとはね。本当に……面白いやつだよ、君は」

 

 自身を貶めた相手である怪盗団、正確にはそのリーダーである雨宮蓮(ジョーカー)へと素直に褒め称えるような口調で明智は言う。その行動力や度胸を認め、立場こそ違えばいいライバル関係になれただろうと惜しむほどだった。

 

「なんで、あと数年早く出会わなかったんだろうね。蓮……」

 

「明智、あんた……」

 

「でも、そんなタラレバの話をしてもしょうがないよな。この現実は、そうはならなかったんだからさ」

 

 他の怪盗団から見ても本心としか思えない吐露。しかしそれを払拭したのも本人だ。

 だからこそ明智に確かめないといけない事があると、クイーンが質問をぶつける。

 

「貴方、どうして獅童なんかに協力してるの?! このパレスの景色を見れば、本性なんて幾らでも……!」

 

「協力? そんなわけないだろ。俺にはこんな国はどうだっていい。俺の目的はただ一つ、父親である獅童正義に俺を認めさせ、復讐する事だけだからな」

 

「獅童が……父親?!」

 

 隠し子である明智は獅童にとっては存在自体が醜聞だ。だからこそ獅童の右腕として認められてからそれを暴露する事で、逆に獅童を支配する。それこそが獅童を超える復讐なのだと、彼は歪んだ笑みでそう話す。

 周りが驚く中で、父親の話を前に聞いていたジョーカーだけは、その姿に小さく歯噛みした。

 

「あと少しで、あと少しで全てが実る筈だった! それなのにお前らが、アイツらが……!」

 

「アイツらって、もしかして……」

 

「決まってるだろ、シャドウワーカーや刀使い、そしてあの女だ! そいつら全員の首があれば、まだ取り返せるんだよ……!」

 

「フン、だからまずはワガハイ達の首をよこせってか? 駄々こねてるだけのガキにやれる程安くねえよ!」

 

 そんな明智の境遇に同情は出来ても、その要求には応じられないと突っぱねるモナ。

 それ位分かり切ってるからこそ、彼も新たにした殺意の熱をジョーカーへとぶつけていた。

 

「獅童正義は責任もって生き地獄に落としてやるさ。だからジョーカー、お前は安心して逝けよ。地獄であの女も待ってるだろうからな……!」

 

「それは、寺崎さんの事か?」

 

「他に誰がいるんだよ? アイツが死んだ以上、もう流れに縛られる道理もない!」

 

「流れ? というか、寺崎さんが死んだってどういう――」

 

「もう言葉は必要ない。決着をつけるぞ――!」

 

 その食い違いに言及する必要もないと、明智が光剣を構える。続けて手下のシャドウを呼び出した事で戦線が開かれ、怪盗団もその対処の為に戦闘態勢を取らざるを得ない。

 

 

 

 当然の結果として、死力を尽くさなければならない戦いだった。

 けれどそれは、決して長くは続かなかった。

 

 

 

「クソ……ッ! なんで、なんだよ……!」

 

 明智の戦闘能力は、怪盗団全員を一度に相手できる程のモノだった。一対一であれば、それこそジョーカーでも勝てるかどうかは分からなかっただろう。

 それでも戦いの果てに、膝をついたのは明智一人だった。その事実が、余計に彼の苛立ちを肥大化させていく。

 

「もういいでしょう!? 同じヤツを恨んでるのに、なんで戦うの?!」

 

「私たちの首なんて取ったって、貴方は幸せにならないわ!」

 

「オメェだって、もう分かってんだろ!?」

 

「黙れ! 黙れ黙れ黙れッ!」

 

「戦う前にジョーカーに言ってたの、本心なんだろ? 嫌われたって、望まれなくたって、そんなの……!」

 

「うるさいんだよ! 何も、何も分かってない雑魚どもがぁ……!」

 

 怪盗団のメンバーによる説得の声も、屈辱に顔を歪ませる彼には届かない。

 もはや普段の顔を取り繕う事も出来ずに、ただただ己の激情を吐き出して彼は叫ぶ。

 

「俺の、何処が……お前に劣ってるんだ!? 他者からの評価に拘りぬいて、名探偵で、カリスマで! それなのに……前歴持ちで、屋根裏に住んでるゴミに、どうして俺が……!?」

 

「明智くん……」

 

「なんで、お前なんかがッ! 俺に無いモン持ってんだよ!? どうして俺よりゴミの貴様が、『特別』なんだよォォォ!?」

 

「もうやめろ……!」

 

 魂から絞り出したような叫びに、ジョーカーが片腕を振って呼び掛ける。

 けれどそれすらも今の明智からすれば、火に注がれる油に過ぎない。

 

「……いいよなぁ、お前は。仲間や世界、流れに愛されてる。だから強いんだ、だから勝っちまうんだ。俺とは大違いだよ……!」

 

「何の話をして――」

 

「知らねえのか、いや知るわけないよなぁ! お前らの勝ちも、俺がこうなる事も、最初から決まってたんだよ!!」

 

「最初からって、何言ってんだテメェ!?」

 

 明智が突然言い出した支離滅裂な内容にスカルが慌てて突っ込むが、そんな事すらお構いなしだ。

 父親の事を語る時と同じ形相で、明智はその事実を口にし続ける。

 

「精神暴走事件、怪盗団の改心、俺たちの策謀、その全ては流れの中にある! それに乗ってるだけのお前らに、抗う俺がどうして、負けなきゃいけねえんだよぉ!?」

 

「だから何の話なの?! そんなアニメみたいな話があるわけ――」

 

「あの女だ! ()()()()()()()()()()()()!!」

 

「て、寺崎さん? 彼女がなんだって言うの?!」

 

 そんな彼から飛び出してきたのは、先ほども聞いたとある少女の名前だ。

 過去も背景も知らない怪盗団からすればあまりに唐突であり、その脈絡のなさにただ戸惑うしかない。そんな彼らと翻弄される自分が滑稽だとばかりに、明智は顔に手を当てて嗤う。

 

「俺が撃ち殺す前に言ってたんだよ、アイツは自分を『転生者』だってな! 『転生者』だから何が起こるかを知ってる、流れを『識って』るんだよ。ああ、本当に忌々しい……!」

 

「転生者って、マジで言ってるのか?! 幾らペルソナやシャドウがあるっていったって、そんなの信じられるわけ……」

 

「だからアイツは『ストーカー』なんだよ! 俺やお前らが何をするのか、どう動くのかが分かってた、だから後を追ってこれたんだ! そんなクソったれを否定する為に、俺はアイツを殺したのに……!」

 

「それが、彼女が『黒仮面』だった理由だって言うの……?」

 

 荒唐無稽ではあったけど、全く筋が通らない話ではないとクイーンが喉を震わせる。

 

 今までずっと疑問だった、『黒仮面』が怪盗団の前に現れる事が出来た理由。

 傍から見れば怪しまれてもおかしくない動きが出来た理由。

 それが最初から全てを知っていたからこそだとすれば、ギリギリ分からない話ではないと彼女も思ってしまった。

 

「っていうか、撃ち殺したって何?! だって寺崎さん、死んでないんだよね!?」

 

「その筈、だが……」

 

 パンサーに問われて口を開こうとするジョーカーだが、あの尋問室の廊下で会った時の様子を思い出してしまって言い淀む。そして新島冴やシャドウワーカーからその後を聞いただけで、本当の所は彼にも分からないと気づいてしまった。

 けれどそれは明智にとっては吉兆のようなモノだから、そうであれと彼は叫ぶ。

 

「俺はあの時間違いなく、あの女の頭を撃ち抜いたんだ! だから生きている筈がない……! ジョーカーが生き延びていたとしても、アイツの死は変わらない!」

 

「だがジョーカーが生きているのなら、彼女も生きている筈だ。そうでなければ辻褄が――」

 

「じゃあなんだ、まだ俺はアイツの流れの中にいるのか!? 俺はアイツを否定しきれてないっていうのか!? そんなの、認められるわけねえだろうが……!」

 

「どうして、そこまで……」

 

 並々ならぬ態度であの少女を否定しようとする明智に、モナも疑問を抱き続けている。

 それに答えを示そうとでもいうような鋭い視線が、ジョーカーを射抜いた。

 

「ジョーカーは……君は『自由』だ。今までの自分、人間関係、そんなモノに心が囚われてない。俺とは正反対だ……羨ましくて仕方ない……!」

 

「明智……」

 

「なぁ、お前はどう思う? あの女みたいな奴が現れて、全てを知ったような口でやる事全てを嘲笑われて! ……それでも君なら、関係ないと言って前へ進むんじゃないのか、なぁ!?」

 

「…………」

 

「俺には無理なんだよ、そんな事は! 復讐しかない俺には、囚われたままの俺には耐えられなかった、ブチ壊さずにはいられなかった! だから、だからだからだからァァァ!!」

 

「ちょ、なんだコレ!?」

 

 荒ぶる明智が呼び出したのは、『ロビンフッド』とは異なるペルソナだ。

 その力が高ぶっていくのに合わせて、彼の反逆の姿もまた変化していく。

 

「なんて奴だ、姿すら偽りだったっていうのか!?」

 

 今までとは反転したようなダークカラーの斜めストライプに、兜を思わせる正真正銘の黒仮面。

 明智吾郎本来の怪盗服となりながら、更に自身の赴くままに己を暴走させる。

 

「認めない!! 否定してやる!! 『仲間』なんてカスの集まりに、『流れ』なんてクソったれに! 俺が負けるわけないんだってなぁ!!」

 

「駄目だ、もう正気じゃねえ! 構えろ!」

 

 もはや戦う理由なんてどうでもよかった。

 ただ抗い続ける為だけに、アケチは怪盗団へとその牙を向けていた。

 

「全員、死ネェェェ!!!」

 

「明智――!」

 

 突進してきたアケチの光剣を、真っ先に飛び出したジョーカーが受け止める。

 更に大きくなった金属音の後、その勢いに負けたのは彼の方だった。

 

「なんてパワーだ……!」

 

「まだまだァァァ!!」

 

「させないわ、クロウ!!」

 

 すかさず追撃に移ったアケチの前に現れたクイーンが、振りかぶった拳を光剣へとインパクトさせる。ジョーカーよりも体重を乗せていたその一撃が、衝撃波となって二人の前髪を強く揺らした。

 

「邪魔なんだよ、『ロキ』ィ!」

 

「合わせて、フォックス!」

 

「委細承知!」

 

 そんなクイーンを吹き飛ばそうと、呼び出したペルソナの持つ大剣を振り下ろそうとするアケチ。

 けれど同じく動いていたノワールとフォックスが、それぞれの獲物を下から振り上げて相殺を狙う。更に踏み込み直したクイーンのアッパーが合わさる事で、ようやくアケチの二振りの剣を弾く事に成功した。

 

「この程度でェェェ!」

 

「奪うぞ、『アルセーヌ』!」

 

「踊るよ、『カルメン』!」

 

 僅かに体勢を崩して後退ったアケチへ向けて、仮面を燃やしたジョーカーとパンサーが赤黒二種の炎を放っていた。

 間近に迫った魔法攻撃を確かに目視した上で、けれどアケチは防御を選ばない。

 自分の身よりも、あまりに多い敵を減らす事の方が大事だったからだ。

 

「『ロキ』ィ、デスバウンドだァ!!」

 

「ぐっ!?」「きゃっ!?」「これしきッ!?」「あうっ?!」

 

 炎の着弾と、呼び出した『ロキ』の持つ剣が地に突き刺さるタイミングが一致する。

 それにより赤黒い火柱に身を焼かれるアケチを中心にして、彼の起こした衝撃波が怪盗団全員を襲うという現象が起こっていた。

 

「みんな体力減ってる! 回復優先だ!」

 

「分かってる! やるぞ『ゾ――」

 

 ナビの報告を受けるまでもなく被害を確認していたモナが、全体回復を使うべくペルソナを呼ぶ。

 そうして現れた分身たる黒い人影――その背後に、もう一人の黒仮面が近づいていた。

 

「まずはお前からだァァァ!!」

 

「しま――ニャンっっっ!?!?」

 

「モナっ?!」

 

 回復の隙を突いたアケチの光剣がクリーンヒットし、モナの身体がボールのように飛んでいく。

 そうして船の柱に叩きつけられて動かなくなったモナを見て、残る全員がその背筋を凍らせた。

 

「テメェ、よくもモナをおおおおお!!」

 

 そんなモナの最も近くにいたスカルが、仲間を傷つけられた事の怒りと共に棍棒を振るう。

 それを光線銃で受け止めたアケチは、その全身を焦がしながらに高笑いを続けていた。

 

「ハハハハハッ!! まずは一人、いや一匹だァ! 次はお前が死んどけよォ!!」

 

 棍棒を受け止めた光線銃を無理やり動かし、定めた照準のままに引き金を引く。

 まさしくゼロ距離と言っていい程の近さだったが、だからこそスカルには覚えがあった。

 

「その手は効かねえんだよッ!」

 

 故に膝を突き上げてアケチの手元にぶつける事で、此方も無理やりに弾道を上へと逸らす。

 そのまま前方に向かった体重を使って頭突きをぶつける事で、強引に距離を取る事に成功していた。

 

「大丈夫か、モナ」

 

「けほっ……すまんジョーカー、しくじった。一度ナビの傍で支援に徹する……!」

 

「傷、舐めあうだけの……ノ! カス、どもがぁ……!」

 

 その間にモナを起こしていたジョーカーへ、再びアケチの視線が向かい始める。

 全員殺すとしても、特にアイツだけは生かしておけない。そんな本能から来ているかのような危機感が彼を動かしていた。

 

「悪いけど、容赦はしないわ!」

 

 そうして横を向いた瞬間を狙ったクイーンが、自身のペルソナである『ヨハンナ』に騎乗して突進する。距離が縮まった所で前輪を持ち上げ、そのまま押しつぶそうとハンドルを操る。

 

「どけよ、ペルソナァ!」

 

「嘘!?」

 

 そうして前輪タイヤを振り下ろそうとした瞬間、狭間にねじ込まれたのは『ロキ』の剣だ。

 重力が乗り切る前に剣をタイヤと斜めにぶつける事で、即席の坂道を登らせる形に進路を捻じ曲げられてしまっていた。

 

 そうして『ヨハンナ』の下を潜りながら、上方向へとアケチは銃口を向ける。

 けれどそこにあったのは意表を突かれたクイーンではなく、その後ろに乗っていたもう一人の剣士だった。

 

「斬り伏せろ、『ゴエモン』!」

 

「甘いんだよ、『ロキ』ィ!」

 

 飛び降りながらにペルソナによる斬撃を放つフォックスだが、元よりバイクの速さに動体視力を合わせていたアケチの方が先手を打つ事に成功していた。

 使用した魔法はテトラカーン。どんなタイミングやコースで放たれようとも物理攻撃であれば反射する絶対の盾によって、フォックスとクイーンの二人をなます切りにしようという企みだ。

 

 しかし目がいいのは、彼だけではなかった。

 

「――頼む、ノワール!」

 

「間に合わせるよ、『ミラディ』!」

 

 反射されることを見抜いたフォックスは、その先すら見越して斬撃の方向を修正する。

 それは自分とクイーンではなく、近くにいたノワールと自分に返ってくるように仕向けていた。

 

 そうして同じ威力、同じ速さのままに返ってきた斬撃がフォックスに少なくないダメージを与えるが、その半分はノワールに行っている。

 そこにいるのは、アケチと同じく反射の盾を構えた彼女のペルソナだった。

 

「ぐぅっ!?」

 

 二度跳ね返った斬撃がアケチへと至り、その身に更なるダメージを与える。

 これまでの戦闘で蓄積していたダメージとも相まって、暴走状態と言えどすぐには動き出せなくなるアケチ。つまりは後手に回った以上、先手を取った相手がいる事だ。

 

「鞭はこうも使えるって、教わったからね!」

 

「クソがァ!!」

 

 隙を突いたパンサーによって片腕を巻き取られ、意識諸共逸らされてたアケチが苦悶の表情を浮かべる。しかし手を抜く事はしないと宣言済みの彼女の接近を止めるには遅すぎた。

 

「食らわせるわ、『ヨハンナ』!」

 

「舐めるなァァァ!!」

 

 すれ違いざまにぶつけられようとしたのは彼女が得意とする核熱の光だ。もしアケチにまだ火傷でも残っていれば、更なるダメージが入っていただろう。

 しかし結果は同じだった。ただのフレイダインよりも多いダメージが彼を襲う事になった。

 

 ――デスパレートと彼が呼ぶ、防御と引き換えに攻撃を上げる『ロキ』のスキルによって。

 

「うっ……!」

 

「クイーン!」

 

 その上でアケチが片手で放った光弾が、クイーンの体力の半分以上を削り取っていた。

 しかしアケチの残り体力は更にそれを下回っている筈だった。なのに彼は鞭の拘束を振り切り、本来のターゲットへと駆け出していた。

 

「止まれ! 『ネクロノミコン』!」

 

「邪魔なんだよォ!!」

 

 そんなアケチの前にナビが薄緑の透明な壁を張るが、足止め出来たのは一瞬だけだ。

 壁が生成された瞬間にそれを為した人物、すなわちナビのいるUFOへと光弾を放つ。その着弾を確認してすぐに、彼の身体は壁へと突っ込んでいた。

 

「……わ、私の方をノータイムで狙うか普通……!」

 

 不時着した後にそう悪態をつくナビも少なくないダメージを負っていたが、それはアケチも同様だ。

 瞬時に壁を切り裂いて再び走り出した足が何度か振らつくが、その程度でこの猛進が衰えたりはしなかった。

 

「ジョーカーァァァ!!」

 

「来い、クロウ!!」

 

 そうしてメンバーの半分が負傷した事で、もはやその進みを止められる者はいなくなった。

 だからこそとばかりにジョーカーが声を張り上げ、迫りくるアケチを迎え撃つべくナイフと拳銃を構える。

 

「ハァァァァッ!!」

 

「うおおおおッ!!」

 

 胸の内から湧く破壊衝動に任せて振り回された事による、光る斬撃の嵐がジョーカーを襲う。

 対するジョーカーは一切の小細工をせず、両の手に持った二つの獲物でその全てを捌く為に意識を集中させていく。たった数秒が数十秒に感じられるほどの感覚の中で、二人はその打ち合いの終わりへと至った。

 

「「ッ!!」」

 

 互いにすり抜けた拳銃が互いの額へと向けられ、やはり同時に首を逸らして回避する。

 そうして崩れた体勢で、二人が選んだ行動もまた同じだった。

 

「『アルセーヌ』!」

 

「『ロキ』ィ!」

 

 仮面を燃やして出現させたのは、どちらも己の半身と呼べる存在だ。

 だから使う技は違えども、共に今放てる最高威力のスキルである事に変わりはなかった。

 

「エイガオン!!」

 

「レーヴァテイン!!」

 

 矢のようにして飛ぶ黒い炎と、ビームのように放たれた剣の一撃が空中で交錯する。

 元よりダメージを受ける事を意に介していなかったアケチは、そこで遂に目撃した。

 

 自身の放った渾身の一撃が、確かにジョーカーの身体に突き刺さるその瞬間を。

 

「――あああああッ!!」

 

「なにぃ――!?」

 

 ――そしてその状態で更に銃口を向けてくる、黒髪の少年の瞳の輝きを。

 

 空中での射撃に慣れてきたジョーカーは、決してその狙いを違える事はない。

 故に自分が先ほど放った黒い炎の中心を捉えながらも、アケチの黒仮面を正確無比に射抜いていた。そんな銃弾の味と衝撃を、アケチは確かに味わう事になった。

 

「ちく、しょう……!」

 

 鈍い金属音と共に、アケチの黒仮面の一部が砕け散る。

 その勢いのままに仰向けで後ろに倒れ込み、起き上がる事が出来ずにそう呟く。

 

 ジョーカーの放った弾丸が、明智の戦意を撃ち砕いた確かな証明だった。

 

 

 

 

 

 

 

「…………いいよな、お前は。仲間に囲まれて、認められてさ。しかも獅童を改心させたらお前らは英雄で、正しく勝者になる。これからの俺とは、何もかも正反対だ」

 

 仲間(スカル)に肩を貸してもらい、刺された腹部を手で押さえつつも立ち続けるジョーカーに、膝をついたままの明智はそう言葉をかける。

 これまでの活躍の殆どをマッチポンプで済ませてしまっていた彼は、獅童の破滅が自身の破滅と同義だった。けれど諦めたような目になったのは、それだけではないようだった。

 

「結局、特別な存在になんてなれなかった。お前にも、アイツにもな……」

 

「……十分すぎるくらい、特別だろーが」

 

「貴方の知恵も力も、私たちの誰よりも優れてる。きっとこうして勝てたのも、力を合わせた末の紙一重に過ぎないわ。私はそんな貴方の才能が……お姉ちゃんに信頼されてるのが羨ましかった位に」

 

「父親に対する気持ちも、分からない訳じゃない。奪っていった大人を見返したいって気持ちは、私も知ってるから」

 

「だがいざ得た力を、お前は自分の為だけに使った。それが多分、全てで勝るお前に唯一なかったものなんだろう」

 

「お前、多分ジョーカーと同じ才能にも目覚めてたんだ。けど『嘘』と『恨み』の二つで十分だと思ったんだろ? そこは、私にもすっげぇわかるけどさ」

 

「…………」

 

 それでも怪盗団が明智に示したのは、共感でもあった。

 否定をしていないわけではない。肯定をしたいわけじゃない。

 ただ別の道が彼の手に届く所にもあって、それは今から選んでもいいのだと伝える為のものだった。

 

「寺崎さんだって恐らくそうだ。全てを知った上でストーカーをしていたみたいだが、今はその力を自分以外の為に使おうとしている筈だ。だから俺は、今もここにいる」

 

「あのストーカーが……? そんな、事が……」

 

 信じられないとばかりに呟く明智は、最後に見たあの少女の事を思い出す。

 全てを知った上でなおも見たかったという理由で介入してきた、あの不遜な少女の事を考える。

 

「……ならなんで、アイツは途中からそうなったんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――」

 

 それでもあの時の印象が消えなかったから、そんならしくもない小さな愚痴を零してしまった。

 

 だから、その接近に気付くのがワンテンポ遅れてしまった。

 

 

「――受け取れ、これが獅童『船長』の意思だ」

 

「がっ!?」

 

 

「な!? 明智が、もう一人?!」

 

「違う! コイツは、シドーの認知上の明智だ!」

 

 突然現れた人物――もう一人の明智の持つ銃によって、本物の明智がその身を捩らせた。

 足を撃ち抜かれた事の痛みが、彼から冷静さを奪っていく。

 

「お前らは、後だ。先にこの用済みの敗者を始末する。ちょっと予定が早まっただけで、何も問題はないからな」

 

「何を、言って……!」

 

「まさかとは思うが、あれだけ殺しておいて自分だけは大丈夫だと思ってたのか? その報いを受ける時が来ただけさ」

 

 認知明智の目に光はなく、まさしく人形のようにしか思えない。

 それが獅童正義から見た自分だと告げられて、明智は小さく笑うしかなかった。

 

「そうか……。俺がアイツを裏切った時、対処するための存在がお前――俺自身ってわけか。……あの男らしい」

 

「そうとも。オレは人形さ。なんだってするが……それはお前こそそうだろう?」

 

「……!」

 

「認められたかったんだろう? 愛されたかったんだろう? ハナから人形だったんだよ。誰かの思惑に乗せられるしかない、いいように使われるしかない、そんな哀れな存在がオレ、そしてお前なんだ」

 

「テメェ……!」

 

「これが獅童から見た明智君だなんて、ひどすぎる……!」

 

 淡々と事実を告げる認知明智が、後半だけ不気味な笑みを浮かべた顔になる。

 そう聞かされて、憤りを覚えるのは怪盗団だ。だからこそ、先ほどは出来なかった提案を口にする。

 

「今からでも遅くない、一緒に改心させようよ! 実の親だからこそ!!」

 

「ごちゃごちゃとうるさいな……。後回しにしてやってる事が分からないのか?」

 

「待って、アイツ一人じゃない!」

 

 忌々しげに認知明智がそう言うと、その周囲に何体ものシャドウが湧き始める。

 初めて見るシャドウこそいなかったが、このパレスでそれなりに苦戦した強敵も何体か混じっており、更にはその数が十を超えてしまった。

 負傷したメンバーが多い現状では、誰もがそう簡単には動けないと悟ってしまう程だった。

 

「だが最後にチャンスをやってもいい。お前が奴らを撃て。そうすれば、ギリギリまで使い潰した上で楽に殺してやる。オレの本来の予定と同じようにな?」

 

「……はは。俺は、本当に馬鹿だったみたいだな」

 

 自分と同じ顔をした人形のような認知存在。そんな者の提案を聞いた上で、明智は血の流れる脚で立ち上がる。そして再び握った銃の先を、彼らの方へと向けた。

 

「そうだ。それが船長()の望む……お前だ」

 

「――勘違い、するなよ」

 

「!」

 

「消えるのは、お前だっ!」

 

 明智の視線を受け取った誰かが息を呑むよりも早く、彼はその銃を二回使用した。

 一発目は憎たらしい認知存在へ。そしてもう一発は、水密隔壁のシャッターを動かす為のスイッチへと放たれた。

 

「おわ、なんだコレ!?」

 

「明智! テメエ、死ぬつもりか!?」

 

 突如としてブザーが鳴り響き始め、それと同時に下からせり上がってきたシャッターが怪盗団とシャドウ達を分断する。けれどそれを為した明智本人は、シャドウを同じ側にいた。

 

「とっとと行け! この数相手に、負傷した俺と今のお前らじゃ全滅だろうが!」

 

「明智くん! そうは言ってもこんなの……!」

 

「代わりに、取引だ! まさか、断ったり、しないよな……?」

 

「お前、こんな時に……!」

 

「獅童を、改心させろ……! 俺の代わりに、罪を終わりに……! 頼む……!」

 

 シャッター越しに聞こえる明智の声はくぐもっていて、どこまでが強がりなのかすらも分からない。だからこそ、ジョーカーは拳で一度だけ、シャッターを力強く叩いていた。

 

「ならこちらの約束も果たせ、明智……!」

 

「……ハッ、この期に及んで、それを言う? 君って奴は、本当に……!」

 

 この場の二人にだけ通じる言葉に、明智は小さく笑みをこぼす。

 それを最期に活力としたような形で、明智は再び認知存在へと銃口を向けていた。

 

「貴様ァ……!」

 

「最後の相手が、『人形だった俺自身』か……。だが俺は……!」

 

 自分と同じ顔をした存在と銃を向け合った状態で、彼は力強く引き金を引く。

 響く銃声と共に意識が失われようとも構う事はなかった。文句もなかった。

 

 こんな人生であったとしても、最期に彼に託すことが出来た。

 他ならぬ自分の意思でそう出来たからこそ、終わり方としては悪くない。そう思えた。

 

「――もう、誰にも、縛られない……!」

 

 自らの意思で生き方を決められたのだと、そう感じながらの終わりだったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――『シャルロット』、リカーム!!」

 

 その言葉を、彼が聞く事はなかった。

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

「明智くん!!」

 

「モナ、開ける方法は……!」

 

 シャッターの前で立ち尽くし、彼の言葉を聞いた怪盗団。

 しかしその次に聞いたのは無慈悲に二度響いた銃声だった。

 

「反応が……もう、無い……」

 

「…………」

 

「シャドウの分しか……感じない……」

 

「…………!」

 

 シャッターの向こうを唯一感知できるナビが、茫然とそう呟く。

 その言葉が意味する事を理解してしまったジョーカーが、拳を握ったまま視線を落とす。

 

 そこから最初に顔を上げたのは、モナだった。

 

「……いくぞ、オマエら。これ以上、シドーみたいな悪党を、のさばらしちゃおけねえ! 絶対に、絶対にだ……!」

 

 ここにいては何も出来ない。故に動かなればならないと告げた、モナの決心の籠った一喝だった。

 それを受けて、他のメンバーもどうにか前を向こうとした時に、声を上げたのはナビだった。

 

「は? ちょ、なにコレ!?」

 

「ナビ? どうしたの?」

 

「ジョーカー! 向こうにアイツが――黒仮面がいる!!」

 

「なっ!?」

 

「まさか、()()()の方か?!」

 

 ナビが驚愕混じりに叫ぶと、当然他のメンバーも目を見開き口を開けてしまう。

 何故彼女がいるのかという疑問は全員に共通していた。これまでいなかった筈だし、そもそも彼女が生きているかすらも曖昧だった程だ。

 けれどそんな問いすら吹き飛ばす情報をナビは掴んでいた。

 

「それに明智の反応! すげぇ弱いけど、なんか復活してる!」

 

「このシャッターを開ける方法を探す! ナビ、モナ、皆も何かないか?!」

 

「任せろ、絶対助けてやろうぜ!」

 

 それを聞くや否や、ジョーカーの動きは早かった。

 すぐにシャッターを調べ始めてどこかに穴が空けられないかを探るが、その結果は芳しくない。

 他のメンバーも周囲を探すが結果はやはり同様だ。

 

「さっき明智が撃ったスイッチからシステムに侵入してみる! 五分、いや三分で開ける!」

 

「頼んだわ、ナビ!」

 

 最終的に押されたスイッチ周辺の配線から無理矢理繋いだナビがハッキングを試みる事になった。

 その間、メンバーはシャッターの向こうがどうなっているのかを探る方法も模索していた。

 

「寺崎さん、そこにいるの!? 聞こえるなら返事して!」

 

「中にはまだ大量のシャドウがいた筈だ。まさかあの数を一人で相手しているのか?」

 

「分からねぇ。ワガハイが分かる範囲じゃ全然テラサキの気配が拾えない。シャドウの数が段々減ってるって事くらいしか……」

 

 シャッターが妙に分厚いのか、モナでも中の様子は殆ど分からずのお手上げ状態だった。

 唯一分かるだろうナビは全力でハッキングに勤しんでいる為、やはり開くまで何か起きているかを知る術はない。なのでそれまでの間に負傷したメンバーの応急処置をするのが関の山だった。

 

 そうしてナビの作業が始まってから150秒後。銃声が聞こえてから三分程経ったタイミングで、遂にその時は訪れた。

 

「終わったぞジョーカー! 今シャッターを開けるから下がって!」

 

「戦闘になるかもしれない。二人の保護を優先するぞ!」

 

 手袋をはめ直しながら、開くシャッターの先頭に立ったジョーカーがそう宣言する。

 他のメンバーが頷きを返したタイミングで、一気に上がっていたシャッターが下へと下がった。

 

 そして、その先で怪盗団が見たのは。

 

 

「――かいとう、だん?」

 

 シャドウのいなくなった、けれど荒れ果てた機関室廊下。

 

 床でうつ伏せに倒れたまま、動かない明智吾郎。

 

 その傍で膝をついて座り込んだ状態から首だけを曲げて此方を見る、純白の修道女の姿だった。

 




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原作だと都合上そんなに消耗してる風に見えないので、明智くんに庇われてもむしろ戦わせてくれとなってた今回のシーン。なのでちゃんと盛っておきました。
あと原作やアニメ版だと終始クールだった気がするジョーカーも、本来ならアニメ版P4の番長(特に11月)並に感情を見せてくれる筈だと思って今回の塩梅になりました。

明智くんや例の少女については追々。というわけで次回は別サイドです!
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