私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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#49 私は何も許されない・表

 

 目的地である機関室へは、難なく辿り着くことが出来た。

『シャルロット』のスキルである潜伏と妙に慣れてきたカバーアクションを駆使したのもあるけど、道中のシャドウが少なかったのもその要因だろう。

 恐らくは先にここを進んだ人たちがいる。つまりは急がないといけないと思って、重くて軽い身体をどうにか客船の機関室まで運びきる。

 

 潜伏スキルならナビであっても感知は出来ない。けれど油断するわけにはいかないと思って慎重に行動した末に、私はそのフロアへとたどり着いた。

 

「――久しぶりだね、君たち。いや、数日ぶりだったか」

 

「テメェは……!?」

 

 私が足を踏み入れた瞬間が、彼が怪盗団に追いついたのと同時だったらしい。

 その場面に間に合った事に私が安堵するのと、固い表情の明智くんに息を呑むのもまた同時だった。

 

「本当に僕を騙していたとは恐れ入った。策を見破ったつもりだったのに、それでも一手及ばなかったとはね。本当に……面白いやつだよ、君は」

 

 息を潜めて物陰に隠れながら、私は原作の流れから大きく変わっていない事を確認する。

 これまでの小さな違和感、そして獅童本人の急な心変わりに不信感を抱いた彼がその可能性に辿り着き、生存を果たしていたジョーカーと再会する。ギリギリまだ十二月になっていない事を除けば、おおよそ原作通りと言っていいだろう。

 

「――あと少しで、あと少しで全てが実る筈だった! それなのにお前らが、アイツらが……!」

 

「アイツらって、もしかして……」

 

「決まってるだろ、シャドウワーカーや刀使い、そしてあの女だ! そいつら全員の首があれば、まだ取り返せるんだよ……!」

 

「フン、だからまずはワガハイ達の首をよこせってか? 駄々こねてるだけのガキにやれる程安くねえよ!」

 

 だから違うのはきっとこの辺り。言うまでもなく私が介入した事によるバタフライエフェクトだ。

 私によって参戦してきたシャドウワーカーや鳴上さん達の存在によって、戦況はまさに大番狂わせ。それにほぼ一人で担当しなければならなかった明智くんの憤りは、至極当然のものだろう。

 

「獅童正義は責任もって生き地獄に落としてやるさ。だからジョーカー、お前は安心して逝けよ。地獄であの女も待ってるだろうからな……!」

 

「それは、寺崎さんの事か?」

 

「他に誰がいるんだよ? アイツが死んだ以上、もう流れに縛られる道理もない!」

 

「流れ? というか、寺崎さんが死んだってどういう――」

 

「もう言葉は必要ない。決着をつけるぞ――!」

 

 なのでその原因である私を強く嫌っている事もまた当然だ。

 彼らしいかと言われたらやっぱり違和感がないわけではないけれど、そこに口を挟む権利が私には絶対ないので、甘んじて受け入れるしかない。

 

 そうして始まった怪盗団と明智くんの戦い。

 呼び出したシャドウと共に怪盗団へと牙を向く明智くんだが、怪盗団だって負けてはいない。

 流石に彼らのレベルとかまで分かるわけじゃないけど、かなり強くなっている気がする。シャドウワーカーの皆さんと戦った事で対人経験が積めたからだろうか。

 

「クソ……ッ! なんで、なんだよ……!」

 

 一対八という人数差をものともしなかった明智くんだが、最終的には膝をついていた。

 けれどまだ明智くんは白い怪盗服のままなので、まだ勝敗は終わっていない。だから戦いはこれからだと思ってそれを見届けるべく、視線を彼らへと向け続ける。

 

 そんな状況が変化したのは、念願の屋根ゴミ発言を聞き届けた後の事だった。

 

「……いいよなぁ、お前は。仲間や世界、流れに愛されてる。だから強いんだ、だから勝っちまうんだ。俺とは大違いだよ……!」

 

「何の話をして――」

 

「知らねえのか、いや知るわけないよなぁ! お前らの勝ちも、俺がこうなる事も、最初から決まってたんだよ!!」

 

「最初からって、何言ってんだテメェ!?」

 

 それは原作にあるようでない、彼の叫び。

 らしいようでらしくない彼の怒りが、場にいる者全てを震わせる。

 

「精神暴走事件、怪盗団の改心、俺たちの策謀、その全ては流れの中にある! それに乗ってるだけのお前らに、抗う俺がどうして、負けなきゃいけねえんだよぉ!?」

 

「だから何の話なの?! そんなアニメみたいな話があるわけ――」

 

「あの女だ! ()()()()()()()()()()()()!!」

 

「て、寺崎さん? 彼女がなんだって言うの?!」

 

(っ……!)

 

 そして原作には存在しない私の名前が出てきた事に、胸を掴まれたような感覚を覚えてしまった。

 別に彼が私の事を言わないでおく理由はない。だから私の心境なんてお構いなしに、明智くんは私の悪事を暴露していく。

 

「俺が撃ち殺す前に言ってたんだよ、アイツは自分を『転生者』だってな! 『転生者』だから何が起こるかを知ってる、流れを『識って』るんだよ。ああ、本当に忌々しい……!」

 

「転生者って、マジで言ってるのか?! 幾らペルソナやシャドウがあるっていったって、そんなの信じられるわけ……」

 

「だからアイツは『ストーカー』なんだよ! 俺やお前らが何をするのか、どう動くのかが分かってた、だから後を追ってこれたんだ! そんなクソったれを否定する為に、俺はアイツを殺したのに……!」

 

「それが、彼女が『黒仮面』だった理由だって言うの……?」

 

 私という『転生者(異物)』の正体が告げられ、怪盗団は困惑しきりだ。

 これまで私がそういう存在であると話してきた相手はそこそこいるが、やはりそう簡単に受け入れられないのだろう。更に今回は明智くんからの伝聞でしかないのだから、信じろと言われても無茶な話だ。

 

 けれどこれで私が顔を出したら、彼らはどんな顔をするのか。

 その時を考えるのが、億劫になったのを感じた。

 

「――俺はあの時間違いなく、あの女の頭を撃ち抜いたんだ! だから生きている筈がない……! ジョーカーが生き延びていたとしても、アイツの死は変わらない!」

 

「だがジョーカーが生きているのなら、彼女も生きている筈だ。そうでなければ辻褄が――」

 

「じゃあなんだ、まだ俺はアイツの流れの中にいるのか!? 俺はアイツを否定しきれてないっていうのか!? そんなの、認められるわけねえだろうが……!」

 

「どうして、そこまで……」

 

 そんな私に対する強い殺意が、私の身に更に冷や水を浴びせるようだった。

 あの時の尋問室でも思った事だけど、明智くんのこの感情は単に私が目障りだった事から来ているんじゃない。私を主とした原作の流れそのものに対する怒りなのだと思った。

 

「ジョーカーは……君は『自由』だ。今までの自分、人間関係、そんなモノに心が囚われてない。俺とは正反対だ……羨ましくて仕方ない……!」

 

「明智……」

 

 だって彼らは生きている。今の私とは違い、彼らにとってはこの世界こそが現実なんだ。

 だからこそ明智くんには私という『流れ』を持ち込んだ存在が許せない。私が死ねば、その『流れ』から解放されると思ってあの引き金を引いたんだと、今更に気づく。

 

「なぁ、お前はどう思う? あの女みたいな奴が現れて、全てを知ったような口でやる事全てを嘲笑われて! ……それでも君なら、関係ないと言って前へ進むんじゃないのか、なぁ!?」

 

「…………」

 

「俺には無理なんだよ、そんな事は! 復讐しかない俺には、囚われたままの俺には耐えられなかった、ブチ壊さずにはいられなかった! だから、だからだからだからァァァ!!」

 

 明智くんにとってこれは、極めて理不尽なゲーム。

 予め未来を閉ざされた『運命の囚われ』。勝機は、ほぼないに等しい。

 それでも力の限りは抗うと決心した彼が、その意思を形にして纏い始める。

 それだけが、明智くんにとっての逆転のカギだと信じて。

 

「認めない!! 否定してやる!! 『仲間』なんてカスの集まりに、『流れ』なんてクソったれに! 俺が負けるわけないんだってなぁ!!」

 

「駄目だ、もう正気じゃねえ! 構えろ!」

 

「全員、死ネェェェ!!!」

 

「明智――!」

 

 そうして黒く染まった明智くんを止めるべく、怪盗団が再び武器を取る。

 自分自身を暴走させた明智くんは、その身に宿らせた思いのままに動き始める。それは狂気に操られているようにも見えて、私が抱いてはいけない負の感情が想起させられる。

 

 そんな彼らの戦いを、私はただじっと見届ける。

 勝ち負けなんてモノはもはや気にしない。もしかすると明智くんがジョーカーを倒すかもしれないし、或いは原作通りの流れに収束するのかもしれない。

 

 どちらにせよ、私が手を出していい場面じゃない。いや最初からそんなモノはなかったのかもしれないけど、ここで何かしようとするつもりはなかった。

 

 今はただ、口角が上がりすぎないようにするので精一杯だった。

 

 

 

 

 

「…………いいよな、お前は。仲間に囲まれて、認められてさ。しかも獅童を改心させたらお前らは英雄で、正しく勝者になる。これからの俺とは、何もかも正反対だ」

 

 最後はジョーカーによる捨て身の発砲により、黒仮面を砕かれた明智くん。

 今度こそもう立ち上がれなくなりながら、そう投げやりに吐き捨てる。

 

「結局、特別な存在になんてなれなかった。お前にも、アイツにもな……」

 

「……十分すぎるくらい、特別だろーが」

 

 そんな彼へと各々の言葉をかける怪盗団。それがどこまで明智くんに届いているのかは本人にしか分からないけれど、私にも明確に分かるほどの反応を示した一言があった。

 

「――寺崎さんだって恐らくそうだ。全てを知った上でストーカーをしていたみたいだが、今はその力を自分以外の為に使おうとしている筈だ。だから俺は、今もここにいる」

 

「あのストーカーが……? そんな、事が……」

 

(雨宮、くん……)

 

 スカルに肩を貸してもらいながらも立つジョーカーは、どこか確信しているような言いぶりだった。まだ話していないのに、あの尋問室までに私が何をしていたのかに気付いたのかもしれない。

 

 そう言ってもらえる資格すら失った私は、ただじっと息を潜めて。

 

 

「……ならなんで、アイツは途中からそうなったんだ。最初からそうしていれば、もっと別の道だって――」

 

 そんな彼の、小さな呟きを耳にした。

 その後に響いた銃声が、私の胸にも突き刺さるようだった。

 

 

(……撃たれた? なん、で……?)

 

 荒くなりかける息を整えながら、何が起こったのかを確かめるべく目を向け直す。

 そこにいたのは、足を撃ち抜かれて苦悶の表情を浮かべる明智くん。そしてそんな彼を見下ろす全く同じ顔立ちをしたもう一人の少年だ。しかし撃ち終えた銃を持って立つ方は、何の表情も浮かべていなかった。

 

「な!? 明智が、もう一人?!」

 

「違う! コイツは、シドーの認知上の明智だ!」

 

 怪盗団のみんなもその突然の登場に驚いているけど、私の驚愕はやや種類が違っていた。

 なぜならここで認知存在の彼が来ることは識っていた。彼が来る事こそが明智くんと怪盗団が陥る窮地のきっかけになるのだから、それ自体は流れ通りだ。

 

 けれどこれは、その細部が異なっている。この時点で明智くんが撃たれるなど、私の識る流れにはなかった。彼がまた別の原因で苦しんでいる姿など、私が見届けたかった類のものじゃない。

 

「お前らは、後だ。先にこの用済みの敗者を始末する。ちょっと予定が早まっただけで、何も問題はないからな」

 

「何を、言って……!」

 

「まさかとは思うが、あれだけ殺しておいて自分だけは大丈夫だと思ってたのか? その報いを受ける時が来ただけだ」

 

 同じ顔をしていながら、平気で本体の明智くんを切り捨てるつもりの認知明智くん。

 しかしそれを受け入れられないのは、怪盗団だって同じ事だ。

 

「今からでも遅くない、一緒に改心させようよ! 実の親だからこそ!!」

 

「ごちゃごちゃとうるさいな……。後回しにしてやってる事が分からないのか?」

 

「待って、アイツ一人じゃない!」

 

 だからこそ彼らを抑止する為にと、パレスから掻き集めてきたのだろう雑魚シャドウが何体も出現する。正確に描写されていた訳ではないけど、やはりその数は原作よりも多い気がする。今の怪盗団と明智くんでは、確かに切り抜けるのは厳しいかもしれない。

 

「だが最後にチャンスをやってもいい。お前が奴らを撃て。そうすれば、ギリギリまで使い潰した上で楽に殺してやる。本来のオレと同じようにな?」

 

「……はは。俺は、本当に馬鹿だったみたいだな」

 

 そう自嘲する明智くんを見て、私は腰を上げるかを本気で検討していた。

 

(……今なら、まだ間に合うかもしれない)

 

 今からでも介入すれば、間違いなく明智くんを救えるかもしれない。

 要は明智くんがしようとしている事を私がする。彼を蹴飛ばしてでも怪盗団側へと移動させ、その上で障壁を出して分断する。

 元々やるつもりだった事のタイミングを早めるだけで、彼の命を確実に助けられる。生かす事だけを考えるのなら、きっとまだそんな選択肢も取れる。

 

「――勘違い、するなよ」

 

「……!」

 

 ――そんな私の葛藤を、彼の意思の輝きが否定した。

 

「消えるのは、お前だっ!」

 

 私がその姿に目を奪われた隙に、明智くんの放った二発の銃弾が状況を確定させる。

 膝をつく認知明智くん。鳴り響くサイレン。そして上がる障壁が、明智くんと怪盗団を分断していた。

 

「とっとと行け! この数相手に、負傷した俺と今のお前らじゃ全滅だろうが!」

 

「明智くん! そうは言ってもこんなの……!」

 

「代わりに、取引だ! まさか、断ったり、しないよな……?」

 

「お前、こんな時に……!」

 

「獅童を、改心させろ……! 俺の代わりに、罪を終わりに……! 頼む……!」

 

 上がった障壁を背にして、明智くんが息も絶え絶えにしながら彼の最期の望みを話す。

 この先がどうなってしまうのかを飲み込みきれていない怪盗団だが、真っ先に言葉を返したのはやはり彼だった。

 

「ならこちらの約束も果たせ、明智……!」

 

「……ハッ、この期に及んで、それを言う? 君って奴は、本当に……!」

 

 障壁を叩いた音がガンッと響き、その思いの強さが明智くんにも伝わったのだろう。すぐに訪れる最期を前にしながら、それでも彼は最後に小さくも確かな笑みを作っていた。

 

「貴様ァ……!」

 

「最後の相手が、『人形だった俺自身』か……。だが俺は……!」

 

 そうして全く同じ顔をした誰かへと、彼は引き金を引いていた。その顔にもはや狂気はなく、澄んだ意思だけがその瞳に宿っているように見えた。

 

「――もう、誰にも、縛られない……!」

 

 そうして響く彼の最後の銃声。

 倒れ伏す二人の少年の姿を最期まで見届けてから。

 

 その聖域に踏み込むように、最後の一線を超えるように、私は物陰から駆け出していた。

 

 

「――『シャルロット』、リカーム!!」

 

 後戻りは出来ない。観客だって何処にもいない。

 けれどここからが、私のショータイムだ。

 

 そう思い込んで漸く、私は戦う事が出来る気がした。

 

 

 

「数は……十一体……」

 

 初手で蘇生魔法を明智くんに使いながら、私は戦況をざっと確認する。コレくらいの声量であれば、障壁の向こうの怪盗団には聞こえないだろう。

 

『曲者がまだいたか……! 排除してくれる!』

 

 立ち塞がるシャドウの一体、カーリーがそう叫びながら接近してくる。他はハヌマーン、アタバク、オベロン、フォルネウス等だ。どれもこのパレスで戦う事が出来るシャドウであり、終盤に近いという事でそれなりにレベルの高い強敵達だろう。

 

 なので私も容赦はしない。

 元々数の不利があるからそんな余裕はないし、時間もかけていられないのもあるからだ。

 

『ブレイブザッパー!』

 

 間近に迫るは六つの腕を持つ地母神が放つ斬撃。

 その速度は流石の一言であり、まともに食らえば体力の半分は持っていかれるだろうと直感する。

 

 だから斬撃に顔が映るレベルのスレスレで回避して、カーリーとの距離を詰め終える。

 

 そうして鎌を突き刺して作った傷口の内側に向けて、私は魔法を二度発動させた。

 

「――ブフーラ、ブフーラ!」

 

『がアッ?!?!』

 

 その瞬間シャドウの身体が弾け飛び、構成していた黒い泥のような液体が修道服を汚していく。シャドウと言えど物理空間的な押しのけには耐えられなかったらしい。

 まずは一体だが、これも不意打ちのようなモノ。なのでコレを見ていた他のシャドウ達にはそうそう通じないだろう。

 

『コイツ、なんてやり方で……!』

 

『囲え! 一気に袋叩きだ!』

 

 当然他のシャドウたちも動き出したので、私も捕まるまいと足を早める。まだ息切れにはなっていないので、周囲を見渡すのも一瞬で済ませる事が出来た。

 

『レボリューション!』

 

『淀んだ空気……!』

 

 シャドウの魔法により、周囲に漂い始める重苦しい雰囲気と光の粒子。どちらも場にいるモノ全てが効果対象である以上、私もコレを追い風とするしかない。

 

『ジオダイン!』

 

「ガルー、ラっ?!」

 

『マハラギダイン……!』

 

「――ブフーラッ!」

 

 オベロンの放った電撃を避けようと空中に上がった私へと、アタバクが放つは広範囲の炎熱波だ。

 上がっている動体視力で魔法を捉えた私はギリギリで氷結属性の魔法を発動。その熱を大幅に遮断する。

 

「っ……!」

 

 けれど弱点属性である事に変わりはなく、行動にラグが生じ始める。

 でもこの数で後手に回るのは絶対に避けたい。だから無理矢理行動順をズラすべく、先程と同じ魔法を使用する。

 

「らぁっ!!」

 

『ぐっ……?!』

 

 この中で唯一私が突ける弱点属性を持つハヌマーンへとブフーラをぶつけ、その傍に受け身を取りつつ着地する。炎の熱ですぐには行動に移れないけれど、ハヌマーンを壁にしてどうにか追撃を回避。そしてハヌマーンの行動順は、私より後である事は変わりない。

 

「使わせてもらう……!」

 

『オレの、身体ごとっ?!』

 

 その隙を突いて鎖を巻き付け、その身にガルーラをぶつけて無理矢理宙に浮かび上がらせる。そのままの勢いのままに鎖を引っ張り、鉄球代わりにブン回して周囲を薙ぎ払う。

 

『なんっ?!』『ゴフッ!?』『バカなぁ……?!』

 

 近くにいたシャドウ二体と、武器にされたハヌマーンがその果てに塵となる。これで四体だけど、もう少し削りたかった……!

 

『小癪な! ブレインジャック!』

 

「小癪は、どっちさっ……!」

 

 そんな惨状を見ていたフォルネウスが私の頭に目掛けて放ったのは洗脳魔法だ。状態異常系はダメージがない代わりに出が早く、対象がレジスト出来るかどうかにかかっている。

 

 頭が揺レる。行動原理が入れ替ワる。

 私がすべキ事は、確カ――

 

「――この場の鎮圧、それ以外にない!」

 

 即座に定義し直した戦意によって、洗脳魔法を跳ね除ける。この程度の混乱は今や日常茶飯事だっての!

 

「これで――半分!」

 

 投げつけた鎌が突き刺さり、即座に巻き取って近づけたフォルネウスの頭部へと、鎖を巻きつけた足での踵落としを命中させる。

 今の状態になって上がった鎖の攻撃力により、また一体が塵となった。そろそろ息切れが始まったけど、まだ止まるわけには――

 

『鬼神楽!』

『空間殺法……!』

 

「あぐうっ?!」

 

 そうして振り返った瞬間。細かな斬撃が私の全身を襲った。堪らず吹っ飛んだ私が転がった先で見たのは、未だ健在のアタバクともう一体いたカーリーだ。

 どちらも物理型である上に、弱点属性も厄介ときた。手を付いて立ち上がろうとした所で私はそのムカつきに気がついた。

 

「ああもう、鬱陶しいなぁ……!」

 

 傷が増えてきた修道服、痛みの止まらない身体、まだゾロゾロと残っているシャドウ達、そいつらを殲滅出来ない今の私。その全てが気にくわないという精神異常。

 激怒状態が私の身を襲っている。そう認識するよりも、勝手に身体が駆け出す方が早かった。

 

『隙だらけだな! ブレイブザッパー!』

 

「がっ……!」

 

 そんな単純な突進であれば、待ち構えられるのは当然の事。難なく合わせられた強大な斬撃が、私の足と命を止めんとばかりに通り過ぎていった。クリティカルじゃない事だけが救いだった。

 

「ああああっ!」

 

 足を掬われ転倒する直前で、無理矢理発動させたのは氷結属性の魔法。床に張った氷に肩を打つが、その勢いを保存したままにシャドウ達までの道を作る。

 攻撃を受けたのにほぼ怯まずに突っ込んで来るとは思わなかったのだろう。

 すなわちその接近は、不意打ちへと繋げる事が可能だった。

 

「――天啓の、一手!!」

 

『なんだとっ!?』

 

 そうして足元へと潜りこんだ私のペルソナによる一撃が、アタバクの身を貫いた。成功した天啓の一手は万能属性となる為に、その物理耐性は意味を成さない。

 

『ここだぁ!!』

 

「ごふっ……!」

 

 しかしまだ残っていたカーリーが、一体減らしたばかりの私へと無数の斬撃を放っていた。距離が近すぎた為に避けるにも間に合わず、マトモに食らった私は堪らず血を吐いた。

 また、修道服が朱に染まっていく。

 

『よもやここまでや――』

 

「――ブフーラ!」

 

 けれど食いしばりで再起動した私が鎌を突き刺し、最初の一体と同じ要領でカーリーを吹き飛ばす。

 これであと四体だけど、もう食いしばりを使ってしまった。二体目のカーリーを倒した辺りで激怒状態は脱した筈なのに、舌打ちしたくなるほどの失態だった。

 

『ここまで粘るとはな……! だがコレを食らえ、ジオダイン!』

 

「はああっ!!」

 

 そんな私へと再び電撃を飛ばしてきたオベロンへと、私が投げつけたのは鎖を凍らせて棒状した即席の槍だ。

 回す時間すら惜しかった為にSPを犠牲にした案だけど、来たのが電撃だった為に、上手く噛み合う結果となった。

 

『なっ、避雷針代わりに?!』

 

「これ以上遠距離攻撃はさせない!」

 

 僅かにソレたジオダインの隙間を縫うように、()()()()()()()()ボウガンの矢を発射する。

 そうして真っ直ぐに胸辺りに着弾した矢だけど、弱点属性ではない為にそこまでのダメージはなかったらしい。

 

『この程度なら――ガギャッ?!』

 

 なので一気に距離を詰めて眼前へと移動し、その矢尻に目掛けて鎖を巻いた拳を叩き込む。突進の勢いと体重により更に深くめり込んだ矢によって、蝶の羽根を持つ王様を討伐した。あと、三体……!

 

「そろそろ回復を……!」

 

『いい加減にしろヒホー! メガトンレイド!』

 

「っ……!」

 

 ふらつく身体を立て直すべく道中で拾った魔石を使おうとした所で、背後から飛んできた物理攻撃を運よく身を捻った事で躱す。

 どうにか回復も出来たけど、可愛い顔してヒヤッとさせるなキングフロスト……!

 

『なんなんだお前は、どうしてこの数でこっちガ……!』

 

「こんな所で終われないだけ……!」

 

 たった一人に数を減らされた事に慌てふためくバフォメットのブフダインを鎖で受け止め、即席の鉄球代わりにして回した末に叩きつける。トドメを鎌で刺して処理完了、あと二体。

 

『コンセントレイト――!』

 

「させな、いっ?!」

 

 残る二体の内のティターニアが次の攻撃魔法の威力を高めようとしているのを止めようとした所で、私の足が動かない事に気付く。

 元々重いし感覚薄いしで反応が遅れたけど、そこにあるのは氷の塊だ。ならやったのはアイツしかいない。

 

『確実に仕留めるヒホ!』

 

「こん、のぉ!」

 

 得意気になってるキングフロストへと瞬時に回した分銅を投げつける。その隙に鎌で足元の氷を破壊して足を引き抜くけど、ティターニアの行動の方がどうしたって早い。

 

『フレイダイン!』

 

「ぐぅうううううっ!」

 

 回避は間に合わない。咄嗟に回した鎖を盾代わりにするけど、それで散らしきれない熱とダメージが私を襲っていた。

 けれど体力全損はギリギリで避けられた。

 あと少しだと限界をとうに超えた身体に鞭打ち、鎖を回してから地を蹴った。

 

『こ、来ないで! ジオダイン!』

 

 そんな私の何かに気圧されたらしいティターニアが魔法を放つが、コース的に私には当たらない。そう見切って走る電撃とすれ違った私は、その後に気付いた。

 

「しまっ――」

 

 雷撃の進む先にあったもの。

 倒れ伏したまま動かない明智くんに着弾する事と分かった私は、迷わず鎖を投げてその雷撃の後を追わせた。

 

「あっ、がっ……!」

 

 一応は金属製である為に、雷撃に追いつく事でその矛先が鎖の中へと移動する。当然その鎖を持つ私にも、その痺れが痛みと熱となって伝わってくる。

 意識が飛ばなかった事は、もう奇跡としか思えなかった。

 

『いい加減にコレで――』

 

「――あああっ!!」

 

 そんな電撃が残っている内に鎖を更に振るい、更に追撃しようとしていたキングフロストへとぶつける。

 トドメにその巨体へと鎌を突き刺して、そのまま傷を大きくするように切り裂いた。

 そうして最後に残ったのは、ティターニアだけになった。

 

『なんで、この数で……こんな、短時間で……!』

 

 慄くティターニアの言う通り、戦闘が始まってからまだ一分も経っていない。結果だけみれば鏖殺だが、私の身体も既に限界だ。元々だという意見もあるにはあるけれども。

 けれど大抵の雑魚戦は慣れてくるとコレくらいの時間になる気がするし不思議じゃないと思っていた。バスケの試合も一分を凄く長く感じたりもするし、そういうモノだと思う。

 

 そんな考えと共に鎖鎌を振り抜き、最後の一体を塵へと変える。これで殲滅は完了した。

 息は絶え絶えで、手足の感覚もなくなりかけている。体力も残り二割もない位だが、どうにか奥の手を使わずに済んだ。

 

「……あとは、明智くんを外に――」

 

 

「――いやはや、驚いたよ」

 

 

 重い目蓋を支えながら明智くんの方を見ようとして、その声に私は動きを止めた。

 聞き覚えがある筈なのに別人としか思えない、そんな声を発して動き出したのは。

 

 先ほど倒れたはずの、もう一人の彼だった。

 




 ☆『罪過の鎖鎌』 攻撃:266〜? 命中:99?
 金色の瞳となった少女が持つ専用の近接武器。
 彼女の過ちが形となったモノ。彼女が罪深さによって攻撃力と流さと重さが変化する。
 この鎖を彼女が手放す事は出来ず、また鎖が彼女を逃す事もない。

 ☆『クロスボウ・オーバーロード』 攻撃:216? 命中:90? 弾数:1
 金色の瞳となった少女の腕に現れた専用の遠隔武器。認知に従って最初から改造された姿で現出した。変わらず弾数は一発しかないが、矢の強度が上がっている。

 閲覧、感想、評価など誠にありがとうございます。
 今回も長くなってしまったので分割です。
 多少死にかける程度で終わるわけ、ないじゃないですか。
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