私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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#5 なのでなりふり構っていられない

 

「――俺ら以外に誰かいたってのか?! メメントスに?!」

 

「ちゃんとは見てないけどね。でも、誰かがそこの階段を上がっていったような気がするんだ」

 

「誰かが……?」

 

 メメントスへの初潜入を行った日の帰り際。怪盗団の三人と一匹は戻ってきたメメントスの入り口で出会った少年、ジョゼからとある目撃情報を聞いていた。

 彼らからすれば初対面であるジョゼも十分不思議な存在なのだが、そんな彼の言葉に思い当たる節もあった。

 

「じゃあ途中で聞こえたあの音、やっぱり銃声だったんじゃない?」

 

「一体だけ妙に弱ったシャドウもいたしな。だが、ワガハイ達の他に誰が何の目的で……?」

 

 奥にあった扉から入り口まで戻る際にあった出来事も、ジョーカー達以外に何者かがいた事を匂わせている。しかしモルガナの問いに答えられるような心当たりはない。そこまではジョゼも分からないとの事だった。

 

「少なくとも今はもうここにいないはずだ。敵かどうかも分からない以上、気にしすぎる必要はない。その上で警戒は続けよう」

 

 なのでこの場で出来る事はもうないと判断したジョーカーによって、その話題は打ち切りになった。

 まだ怪盗団も動き始めたばかりであり、考えるべき事は他にもある。けれど自分たち以外の謎の侵入者の存在もまた、彼らの懸念材料として刻まれたのだった。

 

 ☆☆☆☆☆

 

「三島くん、そんなに少なくてよかったの?」

 

「いや、今はモノが喉を通る気がしないっていうか……。というか寺崎が頼みすぎだと思うんだけど」

 

「私も普段はこんなんじゃないんだけど、今は食べないといけない気がするんだよね。なんでだろう?」

 

 現実へと無事帰還した私たちは、休憩もかねて近くのファストフード店に入っていた。このまま直帰は体力的に難しい気がするし、かといってファミレスはちょっと、という妥協の末である。

 

「というわけで……改めてごめんね。怖い思いさせちゃって」

 

 そして本題は異世界でのやらかしの謝罪である。

 メメントスに連れて行くだけならまだしも、まさかの初戦闘にまで巻き込んでしまった。一歩間違えればここに座ることすら出来ずに終わっていたと思うと、流石の私も罪悪感で震えてくるというものだ。

 

「ちょ、謝らなくていいって! むしろ俺も助けてもらったし!」

 

「いやいや、助けられたのは結局私の方だよ。三島くんが援護してくれなかったら、普通に負けてただろうし」

 

 これに関してはマジである。

 原作知識がある私なら何とかなると思っていた。武器だってあったし、カモシダパレスでも上手くいったからメメントスへの侵入も大丈夫だと、高を括っていた。

 

 結局、それはただの勘違いだったのだ。

 シャドウに見つかってからは失点の連続で、三島くんを無事に連れて帰れたというプラスがあったとしても、それまでのマイナスがなくなるわけじゃない。だから私なりの誠意を見せたいと、そう思った。

 

「だからありがとう、三島くん。この恩と借りは必ず返すよ」

 

「………………なら、話の続きを聞いてもいい? ペルソナについてなんだけど」

 

 私なりの誓いが届いたかどうかは分からないけど、三島くん的には他にも聞きたい事があるようだ。うむ、今度は真摯に答えてみせよう!

 

「ペルソナに目覚めるのは難しいって言ってたけど、あれはなんで? 寺崎か俺のどっちかが使えるようになれば、何とかなったんじゃないかって思ったんだけど」

 

「うーんとね、あの世界でペルソナに目覚めるには反逆の意思が要るんだよ。理不尽に抗いたい、今を変えたいっていう強い気持ちを認めて、爆発させる事で覚醒出来るの。少なくとも、怪盗団のみんなはそうだったはず」

 

 その場面を実際に見たわけじゃないけど、彼らがそうやって己と向き合う事で、困難に立ち向かう為の鎧を手に入れたのはきっと原作通りだろう。

 

「でもさっきの私はそうじゃなかった。だから駄目だったんだよ」

 

 けれど私を襲う理不尽なんてモノはない。変えたい今なんてない。真の意味で己と向き合えていない私に、望む仮面は与えられない。

 

 そもそもペルソナを得るのは結果であって、それ目的で自身を省みるのはどうなの?とも思うし。憧れが強すぎて気持ちが先行しちゃってるのだ、今はまだ。

 

「……そっか。寺崎で駄目なら、俺は尚更だよな。あの場面で抗おうだなんて、考えもしなかったし」

 

 そんな私の推論に、三島くんは寂しげな顔になる。

 否定してあげたい気持ちもあったけど、彼がそれを望んでいない事くらいは、私にも分かった。

 

「ていうか、今でも思い出すと身震いしそうになる。あの時は俺も戦いたいって言ったけど、やっぱ無理そう。俺は雨宮たちみたいにはなれないや」

 

「三島くん……」

 

 悟ったような顔でそう言う彼の姿が痛ましく映る。

 三島くんがそう感じるのも私が悪いんだとは思う。それでもそんな顔が見たくないという一心で、気付けば口を開いていた。

 

「私はそう思ってないからね、言っとくけど」

 

「え?」

 

「え?じゃなくて、ホントに。三島くんならもしかするかもねって」

 

 これは原作を知った上でもそうだし、今日の出来事中でも思った事だ。

 

 コープの途中には見失う時もあったけど、それでも怪盗団の力になりたいという気持ちは本物だった。統制神との戦いでの彼の叫びも、培った思いの強さが表れていたはずだ。

 

 そしてさっきのシャドウに襲われた時だって、最後に彼に出来る事をしてくれた。エイムもタイミングもドンピシャだったのは、がむしゃらでも動いてくれたからこそだろう。

 

 やはり原作のコープ担当者は違うんだ。だからパーティメンバーになる未来があってもおかしくはないと思うのは、私だけではないはずなのだ。ない可能性も全然あるけどね。

 

「それと怪盗団のみんなみたいにじゃなくても、それぞれが出来る事で誰かを助けたり、世界を変える事だって出来るんだしさ。ほら、怪チャンの運営なんて私には出来ないし?」

 

 だから元気出してよと締めてから、改めて彼の瞳を覗き込む。ポカンとした顔だけども、さっきみたいな影はないのでよしとしよう。私は怪盗団の協力者の活躍だってちゃんと見たいしね!

 

「……寺崎って、変なことしか言わないな。前にぶつかってきた時もそうだったし」

 

「へ、変なことじゃないし?! いや、ペルソナとか異世界とかはちょっと変わってるかもしれないけども!」

 

 なんという事でしょう。全然伝わってなかった。

 いや私だって某ガッカリ王子みたいに臭いことを語ってる自覚はあったけど! そんな恥ずかしいモノを見る目を向けてこないでよ! これでもなるべく原作っぽい言葉選びをしたつもりなのに!

 

「でも確かに、寺崎の言う通りだ。俺の始めた怪チャンは怪盗団の助けになるかもしれない。この先雨宮たちが活躍していけば、きっとそうなるよな」

 

「メメントスを使えば小悪党の改心は出来るからね。助けを求める人たちの駆け込み所になる意味でも、あのサイトは大事だと思うよ」

 

「え、それは知らなかったんだけど。じゃあちゃんと荒らしとか対策しないと駄目ってこと?」

 

 しまった、口が滑った。この段階だとまだそこまでは進んでなかったんだっけか。

 けど三島くんも立ち直ったみたいだし、これで怪チャンの運営も頑張ってくれるだろう。なので結果オーライだよね!

 

「まだ開いたばっかりだから、イタズラみたいな書き込みが殆どなんだよね。……ん、なんだコレ」

 

「どうしたの? いきなり大物の告発でもあった?」

 

 話が一段落した所でストローをくわえていると、スマホを取り出した三島くんの指が途中で止まった。

 この頃の怪チャンって、斑目に繋がる男の人の情報が載った頃だったっけ。それを見つけたのかなと思いながら、彼の画面を机向かいから覗き込んだ。

 

 

「なんか知らないアプリがあってさ。赤と黒の目のアイコンの奴だけど、俺こんなん入れてな――」

 

 ――コーラ吹いた。続けてめっちゃ咳き込む私。

 

 

「ちょ、寺崎?! 何にそんな驚いて――」

 

「それっ! イセカイナビっ! 私が欲しい奴っ!」

 

「え、このアプリが? そうなの?」

 

 炭酸で喉と鼻が凄い事になっている私に気圧された三島くんが、見やすいようにスマホをテーブルの真ん中に置く。そのアプリ一覧の中でひと際異彩を放つのは、私が渇望してやまない例のアイコンだ。顔を拭くついでに何度か目を擦っても、やはりそこにイセカイナビがあった。

 

「……私のには入ってないのに、なんで三島くんだけ?! どういうことなの?!」

 

「それはこっちが聞きたいんだけど!? ていうかいつの間にか入ってるとか怖すぎるだろ?!」

 

 その辺りはあの統制神(偽イゴール)に言っていただきたい。というかなんで三島くんには与えて私にはくれないのかを今すぐにでも問い詰めたかった。マジでどういう判定なの……?!

 

「じゃあやっぱり、三島くんには素質があるって思われたって事かな……? 雨宮くんとも繋がりあるし、その縁で貰えたとかそんな感じかもね……?」

 

「何そのあやふやな推測?! というか配ってるの本当に誰なんだよ?!」

 

「知ってたら私が直接会いに行ってると思わない?」

 

「…………確かに、行ってそう」

 

 ジト目で逆に問い返してみたら、普通に納得されてしまった。実際は知ってるけど会いに行く方法がないので保留にしているが正解になります。流石にベルベットルームには入れないもん。

 

「というわけで三島くん。そのスマホちょうだい!」

 

「はぁ?! いやいや、流石に無理だって!」

 

「お願い三島くん! それがあればメメントスでもパレスでも行きたい放題なの! 怪盗団の活躍を追う事にしか使わないから、スマホごと私にプリーズ!!」

 

「そんな事言われても無理なものは無理だから! スマホを寺崎にあげたら明日から俺はどうするんだよ!?」

 

 周囲の人から痴話喧嘩かと思われながらも懇願するが、三島くんは首を縦に振ろうとはしなかった。当然なのだが、しかし私も諦めるわけにはいかない。だからもう、なりふり構ってなんていられなかった――!

 

 

「私に出来ることなら、なんでもするからっ!」

 

 

 ――瞬間。周囲から音が消えた。

 

 ☆☆☆☆☆

 

 三島由輝の人生の中で、今日ほど波乱に満ちた日はなかった。

 

 全ての始まりは渋谷のセントラル街でピンクのお団子を見かけた事だった。

 互いに一人だし、怪盗団の話をしやすいと思って、何故かフードを被った彼女に話しかけたのだ。

 

 その結果として彼の世界は一変した。文字通り、異なる世界に移動するという形でだ。

 しかも話しかけた少女が原因というわけでもなく、事の中心はちょうど話題にするつもりだった怪盗団だ。

 たまたま彼らの近くにいた自分たちが巻き込まれてしまった、というオチであればまだ別の展開もあったのだろう。

 

「よし、巻き込まれ作戦は成功したね、うん!」

 

 でもこんな非現実の中ですら、現実は非情だった。

 

 クラスメイトの寺崎という女子は何故か雨宮たちが怪盗団だと知っていて、その後を追う為にわざと近くにいたのだと彼は聞かされた。ついでにこの世界は何なのか、あと怪盗団の力とはなんなのかもセットで詰め込まれた。

 

(いや、お前は何なんだよ寺崎!?)

 

 そして百聞は一見にしかずと称して地下のダンジョンへと連れ込まれた末に、彼の中の疑問のトップにそれが躍り出たのは至極当然の事だっただろう。

 

 認知世界やペルソナといったゲームのような存在と同レベルで、寺崎叶という女子は不可思議すぎる。この事態に詳しすぎるのもそうだし、元々こっちの住人なんじゃないかと疑うレベルで動きに迷いがなかった。

 本人的には気持ちが逸っていただけだとしても、彼にはそう見えてしまった。

 

 そしてその認識は、そんなに間違ってなかった。

 

「……大丈夫だから、三島くん。こんな所で終わったりなんて、しないからさ……!」

 

(なんなのコイツ。ホントに俺と同じ高校生?)

 

 見つかってしまったシャドウという異形の存在に立ち向かおうとする彼女を見て、彼がまず抱いたのは畏怖だった。

 

 なにせ走る原付に突き飛ばされたようなものである女子高生が、あまり間を置かずに立ち上がって再度その敵に一矢報いようとしているのだ。彼から見ても軽症とは思えない、そんな傷だらけの身体で。

 それはいっそ、シャドウよりも怪物のようだった。

 

 それでも彼女が人間だと分かったのは、その怪物と共倒れになりそうになったからだ。相討ちの形で彼女が崩れ落ちる未来を幻視した彼は、気がつくと近くの石を手にしていた。

 

 彼女が倒れれば自分も終わりだと思ったのか、或いは自分にも戦いに使える直感が備わっていたのか。投石が上手くいった理由も含めて、詳しい事は何も分からない。

 

 けれどそれを知っているかもしれない寺崎と共に、三島は現実世界へと帰還した。

 

「だからありがとう、三島くん。この恩と借りは必ず返すよ」 

 

(なんなんだよ、コイツは……)

 

 その後、顔色がいいとは言えない寺崎に連れられて入ったファストフードの一席でそう言われた時、彼は大いに混乱した。あまりに破天荒な少女は関わった奴の内面まで滅茶苦茶にしていくのかと、言葉にならない叫びをあげるほどに。

 

「……寺崎って、変なことしか言わないな。前にぶつかってきた時もそうだったし」

 

 そこから更に追い打ちをかけられた事で凄まじい羞恥や高揚や恩義や好意の混じった渦に叩き込まれた彼は、そう強がってせめてもの意地を示すのが精々だった。

 

 そんな彼女の言葉の一部を認め、己の始めた怪チャンの運営に一端の誇りを抱き始めた矢先。最後の爆弾が彼女から投下された。

 

 

「私に出来ることなら、なんでもするからっ!」

 

 

 そして事ここに至ってようやく、三島由輝は理解した。

 寺崎叶という女は、異世界や怪盗団よりも遥かにイレギュラーなモンスターなのだと……!

 

「お、お、お前っ! 自分が何言ってるか分かってるかっ?!」

 

 彼だって健全な男子の一人。女子からそんな事を言われれば思う所だって全然ある。昨日まで接点が殆どなかった頭がおかしい子であっても、見た目は可愛い方だし。

 

 しかし時と場所が悪すぎた。すわ修羅場かと周囲から奇異の目を向けられて平然としていられる程、彼のメンタルは図太いものではなかったのだ――!

 

「なんでもはなんでもだよ! 私の事は好きにしてくれて構わないという意味です!」

 

「そこの解像度を上げて欲しかったわけじゃないから! というかもっと自分を大事にして!?」

 

 脅迫や言いなり、身体目当てなどの不穏すぎるレッテルを周囲の人間から貼られている気がしてならない彼は必死に声を荒げるが、それもまた逆効果になっている事には気付かない。というか気付けない。

 

「だ、だって私まだバイト始めたばっかりでお金もそんなにないし……! ペルソナもないからメメントスでのカツアゲだって出来ないんだよ?! ならもうこの身を使うしかないっていうか……!」

 

「なんでそんな思い切りがいいんだよお前?! あぁもう、分かったからちょっと落ち着けって!」

 

 最終的にメンヘラ彼女を宥める感じになった結果、その献身を受け入れたような形になったからだった。

 

「すーはー、すーはー……」

 

「よし、落ち着いた?」

 

「うん。それで結局、アプリはくれるの?」

 

「それは断る。俺だって新しいスマホを買う金とかないし」

 

 深呼吸の末に余計な調子まで取り戻していたが、彼としてもやはりそこは譲れなかった。なので別の解決策を提示する事にした。

 

「だからこの先、また異世界に用があったら俺も呼んでくれよ。それで俺も寺崎と一緒に行く、それでどう?」

 

「……私は全然いいけど、三島くんはいいの?」

 

 多分危ないよ?と言外に含めた彼女の問いに、彼は承知の上だと頷く。こうでもしないとその内スマホを強奪されるんじゃないかと不安になったのもあるにはあるが、それだけではなくて。

 

「俺だって怪盗団の活躍には興味あるからね。戦略的広報担当として、当然だろ?」

 

 異世界やペルソナ、そして怪盗団。そういったこの世ならざるモノであり、だからこその魅力を放つそれに彼も心を奪われていたからだ。

 

「ありがと三島くん! じゃあこれで、怪盗団応援団の結成だね!」

 

「ああ! 俺たちは人知れず世直しを行う怪盗団、その活躍を知る唯一の……いや待って、応援団?」

 

「うん、応援団。誰にも知られずに彼らの活躍を追いかけて、密かに声援を飛ばして見届ける、それが私たちなの!」

 

「それ、やっぱりストーカーっていうんじゃ……」

 

「応援団です!!!!」

 

 その結果として何故か結成された怪盗団応援団。

 その一員に数えられた三島由輝が心奪われていたのが怪盗団だけだったのかは、彼自身もまだ知らない謎なのであった。




☆寺崎叶
 この後帰宅してからイセカイナビが使えるようになった喜びで糸が切れ、二日寝込んだ。

☆三島由輝
 短時間で三回くらい世界がひっくり返った子。吊り橋効果って知ってる?
 
☆怪盗団
 二人の戦闘中はメメントスの奥へ進めるようになったのを確認していた。ジョゼから情報を得た事でちょっと警戒度が上がった。まさか知り合いだとは夢にも思っていない。
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