私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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お待たせしました。
あまりにも難産でした。


#51 横入りは歓迎されない?

「ここなら、どうにか落ち着けるな」

 

 パレスの中で水没した国の水上を進む豪華客船。

 その下部にあるサイドデッキの一室に存在したセーフルームにて、怪盗団のリーダーであるジョーカーがそう息を吐いた。

 

「ナビ、明智くんの容体は?」

 

「……最初と同じ小さな反応のままだ。目を覚ます感じは、あんまりない」

 

 高級ホテルのスイートルームを思わせる絨毯の上で寝かされている明智を見て、ナビがそう答える。

 

 あの機関室廊下のシャッターが降りた先で、怪盗団が見たモノ。一つ目は倒れ伏して動かないかつての仇敵、明智吾郎だ。

 

 ナビが反応をキャッチ出来たので生きてはいるが、キズが深い所為なのか意識は不明のまま。なのでこうして連れ出す事は出来ても、助かったと言えるかはまだ微妙な状態だった。

 

 そしてそんな明智よりも、更に扱いに困る存在がもう一人いた。

 

「 …… …… 」

 

 明智の傍で意気消沈していた白い修道女、寺崎叶。

 彼女もまた怪盗団に連れられて、このセーフルームのソファに腰を落ち着けていた。

 

 最初に反応を見せた以上、明智と違って意識はあるのだろう。けれどそこからはずっと放心状態で、怪盗団の補助なくしては動く事すら出来ない有様だった。

 黒い目隠しで表情も伺えず、それこそ人形のような印象を与えていた。

 

「そっちの黒仮面――寺崎もかなり消耗してるんだと思う。相変わらず気配は察知出来ないけどな」

 

「そりゃそうだろ。向こう側のシャドウを全部倒したのが寺崎なら、こんな感じになってもしゃーねぇって」

 

「まぁ、状況的にそうなんだろうとは思うけど……」

 

 スカルの見立てはあの光景を見た全員が思い至っているモノだ。明智が倒れ伏したままである以上、残るもう一人である少女がシャドウの相手をした事自体は想像に難くない。

 けれど、それを受け入れられるかはまた別の話だ。

 

「だが、あの強さのシャドウが十体以上いたんだ。それをたった一人で、しかもあの短時間で殲滅したのというのは、どうにもな」

 

「その辺りも、やっぱり変だよね」

 

「明智くんも途中まで戦っていたと言われた方が、まだ信憑性があるもの」

 

「ワガハイとしてはどうやって倒したのかよりも、そもそも何時からいたのかの方が気になるけどな」

 

「何時から、か……」

 

 彼女に関する不審点を挙げればキリがない。

 しかし当の本人が語れない以上はどうしようもない。

 そう判断したジョーカーが、今後の方針を固めるべく言う。

 

「ひとまずはここからの脱出が先だ。もう少し休憩して息を整えたら、二人を連れて一気に離脱する。それでいいか?」

 

「ルート確保の方はどうする? 紹介状は五枚全て揃ったんだ。本会議場にはもう入れそうだが」

 

「あの奥にオタカラがあるのはほぼ間違いない筈よ。だから少人数で確認しに行くだけなら可能だと思うわ。近くに別のセーフルームもあった事だし」

 

「ならもう少し上に戻ってから、余裕があればにしようぜ。ここからは負傷者を抱えての移動になる。戦闘はなるべく避けるが、更に消耗しないとも限らないしな」

 

「今は私たち全員の身の安全を優先する、って事だね」

 

 本来であればこれでルート確保していた所だが、状況と共に同行人数すら今は変化している。

 そして増えた二人だけでなく怪盗団のメンバーにも負傷者は多い。よって更に慎重になるのは当然と言えた。

 

 

「 ―― 待って 怪盗団 」

 

 そんな折にふと、か細い声が響いた。

 

 

「今、寺崎さん喋った?!」

 

「意識が戻った、いや話せる状態になったのか?」

 

「 …… だって 話さないと いけない から 」

 

 ソファに座って軽く項垂れたまま、少女の口だけが動いて言葉が紡がれる。

 それは平淡な音でありながら、どこか振り絞ったような口調だった。

 

「 約束 したから 全てを 話すって 」

 

「その意思は分かったが、本当に話せるのか? 相当な無理をしているように感じるが」

 

「話ならここを出てからでも出来んだろ? 変に意地張られても、それはそれで不安になるっつーか……」

 

「 …… 現実世界に 戻ったら 次は いつ 話せるか 分からないの だから お願い 」

 

「現実に戻ったら駄目って、マジでヤバいんじゃんかやっぱり!」

 

「私も気になるけどやっぱり大人しくしてた方がいいよ、寺崎さん!」

 

「 …… …… ! 」

 

 そんな様子の少女に怪盗団の面々が気を回すが、その意思は強固なモノに感じられる。

 だから最終的にその判断を下したのは、やはりこの男だった。

 

「話せる範囲でいい。寺崎さんに伝えたい事があるのなら、ここでちゃんと聞き届けよう」

 

「……いいのか? こいつの言う事を聞いちまって。もしかすると、ここに来たのだって……」

 

「いいんだ。彼女は俺たちの味方ではないかもしれないが、敵でもない。それでも彼女が抱えている事情は、きっといつかは聞かなればならない事の筈だ。違うか?」

 

 モナの問いかけにそんな確信を持って答えたジョーカーに、少女がゆっくりと顔を向ける。

 そのままゆらりと目隠しに手を置くと、その左側を持ち上げた。

 

「 …… ありがとう ジョーカー この機会を 活かすと 誓うよ 」

 

「お前、その目、シャドウのと同じ……!?」

 

 その下にあった金の瞳にモナを含めた全員が驚愕するが、見せられない方のキズはちゃんと隠せているので、少女は気にせず語り始める。

 

 己の所業を明かす場は、もうここしかないと思ってしまっているから。

 

「 私は ずっと あなた達の ストーカー だった ごめん なさい 」

 

 そうして始まったのは、とある少女がこれまでにしてきた事の告解だった。

 

 

 

 

 

「……つまり、アケチの言ってた事は間違ってなかったってわけか」

 

「マジで寺崎が転生者だってのかよ……?」

 

 長いようで短い話が終わった後、怪盗団の胸中には困惑が広がっていた。

 

「寺崎さんはこの一年で私たち怪盗団がどう動くかを最初から知っていた。だから私たちや明智君の先回りが出来た。そういう事ね?」

 

「 うん 全て 事実だよ 」

 

 明かされた事実をクイーンが端的にまとめると、少女が素直に頷く。

 けれどそれを、はいそうですかと受け取れない人物もまた存在した。

 

「なら私のお父様を意識不明に追いやったのも、寺崎さんの意思で間違いないんだね?」

 

「ノワール……」

 

 貴婦人の仮面を付けた少女の脳裏で、決して忘れられない宇宙基地での光景がフラッシュバックする。

 どんな理由があったとしてもその一点を譲る事は出来ないとばかりに、ノワールはその視線を強くした。

 

「そして今日この場で、俺たちと明智がぶつかる事も分かっていた。だから予めここに潜んで、その一部始終を見る事が出来たと、そういう事だな?」

 

「……………………」

 

「 そう だね 」

 

 続けてフォックスが険しい顔で尋ねるが、それはジョーカーにとっても同様だ。ただし彼の口元は横に結ばれており、追加で尋ねる様子はなかった。

 

「ならどうしてあのタイミングで出てきたの? というか、シャッターが上がった後に何があったの?」

 

 けれど少女が話したのはここに来るまでの経緯が主であり、このパレスで何をしていたのかはまだ明かされていない。だからこその疑問をパンサーがぶつけていた。

 

「 …… 明智くんが 相打ちになる事は 分かってたけど 手を出しちゃ 駄目だと思った 」

 

「手を出しちゃ駄目って、なんで?」

 

「 明智くんが それを 望んでないって 分かったから 」

 

「望んでない、か……」

 

 ナビの疑問にそう答える少女の瞳には、影が射していた。

 怪盗団も直前の明智の叫びを思い出して、少女にある程度の共感を示す。

 

「 それでも 私は 彼を 生かしたかった だから 明智くんが 撃たれてから 動いたの 」

 

「だから一度反応が消えて、その後すぐに復活したのか。なら蘇生魔法(リカーム)辺り?」

 

「 だけど 明智くんは 目覚めなかった シャドウも まだ 残ってたから 私が 戦ったの 」

 

「じゃあやっぱり、寺崎さん一人であの数のシャドウを全部倒したんだ」

 

「なら一応は、アケチを助けたって形になるわけか……」

 

 モナが『一応は』と付けたのは、それが結果的にそうなっただけである事に気付いたからだ。

 確かにシャドウを殲滅する事で明智の身は守られたかもしれない。しかしそうなる前に出来た事が少女にはあった筈だと、モナも思ってしまっていた。

 

「 そうだったら 良かったのにね 」

 

「え?」

 

 そしてそれは、当人も同じだった。

 

「 私は 敵を 倒した だけで 明智くんを 助けてなんて なかった やっぱり 逆 だったの 」

 

「いや、何を言って……」

 

「 明智くんが 倒れるっていう 『流れ』を 最後に 確定させたのは 私なんだ だから 私が 殺したも 同然 なんだよ 」

 

 平淡だった少女の声に、初めて感情の色が滲む。

 その声色は、青い悲嘆に染められたモノだった。

 

「……それは、見殺しにしたという意味なのか?」

 

「ジョーカー……?」

 

「 …… そうだね 見殺し だよ 明智くんを見る為に 『流れ』を 見て見ぬふりをして そうして こうなったの 」

 

 それを聞いたジョーカーは、されど波風のない声で少女へと尋ねた。少女もまた、否定はしなかった。

 

「 でも 怪盗団なら 明智くんを 助けられる かも しれない 私は 駄目でも あなたなら 『流れ』を 変えられるかも しれない 」

 

ジョーカー(こいつ)なら、その『流れ』ってのを変えられるのか?」

 

「 私は そう 信じてる だから お願い せめて 明智くんだけは 助けて あとは もう それだけなの 」

 

「……………………」

 

 それが最後に欲したモノなのだと、金色の左眼を輝かせた少女がトリックスターの少年を見上げる。

 一拍おいた末に、ジョーカーは仮面の奥から確かな瞳をもって見つめ返した。

 

「なら、取引だ」

 

「 …… とり ひき ? 」

 

「明智を助けたいと思うなら、寺崎さんも一緒に来るんだ。一方的に取り付けた約束なんて、もうこりごりだからな」

 

「 …… そっか 」

 

 あえて使われた『取引』という言葉に、少女は少年の真意を理解した。

 それ以上自棄になる事は許さないと言われたに等しい少女は、僅かに上がりかけた口角を抑えるように返事をしようとした。

 

「それともう一つ、聞かせて欲しいことがある。先程から言っていた、その『流れ』とやらについてだ」

 

「 …… なに かな 」

 

「聞いた限りでは、その『流れ』を持ち込んだのは寺崎さんの様に思える。だがその寺崎さんが大きく動いてない以上、『流れ』を作っているのが寺崎さんではないように感じるんだ」

 

「 それ は …… 」

 

「だから聞かせて欲しい。——その『流れ』は、一体誰が作ったモノだ?」

 

「 —— っ ?! 」

 

 そうして続けられたジョーカーの問いかけに、少女は言葉を失った。

 それは少年の洞察力に驚いたからではない。

 どう答えたものかと考え始めたからでもない。

 

 少女が感じたのは悪寒だった。

 感覚などとうに失せた筈の身体で、尚も走る怖気があった。

 だからそれは自身に振りかかるものではなく、周囲を巻き込む類の災いだと直感した。

 

 そしてこの状況を作ってしまった事が、更なる自分の失態だと気付いてしまったが故に息を呑んでいた。

 

 

 

 ——瞬間、とてつもない衝撃と轟音がセーフルーム全体を襲った。

 

 出入口であるドアとその周辺の壁が、一瞬で吹き飛ばされていた。

 

 

「きゃあっ?!?!」

 

「ぐっ、なんだ……?!」

 

 突然の事に事態を把握出来ずとも、咄嗟に腕で顔を庇う怪盗団の面々。けれどその殆どがセーフルーム内の奥にいたので、入口付近の倒壊に巻き込まれる事はなかった。

 けれどそれ以上の異常事態が、彼らを混乱の渦へと叩き落としていた。

 

「バカな、ここはセーフルームだぞ?! どうしてシャドウが……!?」

 

「しかもコイツ、死神シャドウだ! ヤバいよ皆!」

 

 それを為しただろう存在は、逃げ道を封じるように出入口を陣取っている。

 ボロボロの黒い外套に、頭部に被ったズタ袋。そして両手に握られた大型拳銃を振るう最警戒対象、死神シャドウだ。

 

 怪盗団もその存在を知らないわけがない。

 しかしジョーカーやクイーンが打ち出した方針は、とてもシンプルなモノにならざるを得なかった。

 

「とにかく状況が悪すぎる。撤退しかない!」

 

「詳しく考えるのは後にして、どうにか隙間を抜けていくしかないわね……!」

 

 怪盗団とて戦った事がないわけではないが、その時も誤って遭遇した所からの撤退戦だった。万全の状態で束になって漸く勝ち目があるかどうかという相手に、負傷メンバー多数かつ狭い室内で戦うというのはあまりに無謀が過ぎた。

 

 だから何故を考える暇はない。

 そんな生存を第一に考える怪盗団を前にして、死神シャドウの動きもまたシンプルなもの。

 

 照準を合わせて引き金を引く。

 この死神は、ただそれだけのモノだった。

 

「——させるか!」

 

 だからその間に割り込めたのは、ハッキリ言って幸運だった。

 この状態でフォローすべきは誰なのか、それをまず考えた時点で身体が動いていたからこその奇跡。

 

「 なん で …… 」

 

「危ない所だったな、寺崎さん」

 

 そうして弾丸をナイフで無理矢理に弾いて背に庇った少女に、ジョーカーは気さくな言葉をかける。

 明智と同じ様にこの少女は殆ど動けない。だからこそ真っ先に狙われたのだろうという予想と共に、それでも心配はいらないと安心させる為のモノだ。

 

 ジョーカーの中に彼女を見捨てるという考えはない。けれど敵でも味方でもないと言ったので意外に思われたのだろうと、彼は少女の問いかけをそう推察していた。

 

「 まだ 私を狙うの ……? 」

 

「え?」

 

 しかし現実は、そんな予想を容易く裏切っていた。

 

「 怪盗団に 伝えずに 死ねって いうの? さっき 倒した ばっかり なのに そんなに 駄目 なの ……?」

 

「さっき倒したって、それはどういう——」

 

 信じられないとばかりに呟いた少女の言葉に、ジョーカーの意識が微かに逸れた。

 

 たった一瞬。されど一瞬。そして死神の前で無防備に晒していい一瞬では、決してなかった。

 

「ぐっ……?!」

 

「 っ…… ! 」

 

「ジョーカー?!」

 

 瞬時に響いた銃声と共に、ジョーカーの黒い身体が吹っ飛ばされる。その後方にいた少女も巻き込みながらの被害に、パンサーの悲鳴が追ってこだました。

 

「俺は大丈夫だ……! 寺崎さん、無事か?」

 

「 私 よりも ジョーカーが ……! 」

 

「心配いらない、かすり傷だ。むしろ自分の不甲斐なさから来る心の痛みの方が大きい位だ」

 

 発砲と同時に身に寄せたナイフで銃弾を受け流す事でダメージを最小限に抑えたが、その勢いまでは殺し切れなかった。むしろその所為で少女を巻き込んでしまった事を悔やみながらも、ジョーカーは笑みを作って見せた。

 

 だからもう遅れは取らない。

 そんな強い意思と共に、彼は立ち上がった。

 

「オマエら、ここが踏ん張りどころだ! 絶対に全員で帰るぞ!」

 

「おうよ! 今度こそ突破してやろうぜ!」

 

「獅童との決着を前にして、終わったりするもんですか!」

 

 そんなリーダーに応じるように、他の仲間たちも武器を構えた。

 不可解な状況でも、満身創痍でも、その志気はもう曇らない。彼らの力の源である叛逆の意思は、今もそこにあった。

 

「 …… 戦わな きゃ ……! 」

 

「ちょっ、お前……?!」

 

 だからこそまた、少女も感覚のない足に力を入れようとしていた。

 膝をついた状態から身体を持ち上げようとする動きの起こりだけで、少女の顔が苦悶に歪む。それを見たナビが慌てて抑えようとその身体に触れた。

 

 ——また、その姿にノイズが走った。

 

「っ……なんだよ、今の?! 寺崎の気配がないのって、やっぱり——!?」

 

「 …… ごめん ナビ 言わないで 私は まだ 戦わないと いけないから ……!」

 

「戦わなきゃいけないって、そんな状態でどうやって?!」

 

 ナビの制止を振り切るようにして、少女は震える脚で立ち上がってみせる。

 しかしそれが限界らしく、武器を振るうどころか一歩踏み込む事すら難しい有様だ。

 

 けれどそんな少女の前では、状況の解決の為に動く怪盗団の姿があった。

 

「——前に出過ぎないで! 安全第一に立ち回りましょう!」

 

「クソ、弾が幾らあっても足りねぇぞこれじゃあ!」

 

 動けるメンバー全員で『刈り取るもの』の周囲を固める怪盗団だが、そこに一切の余裕はない。

 どうにか数の差で均衡状態を作っているが、それが何時まで持つかも分からない。

 

「受け持つぜ、フォックス! その間に回復しろ!」

 

「ぐっ……かたじけない……!」

 

 死神シャドウの銃弾が少し掠っただけで、無視できないダメージが蓄積されていく。

 怪盗団だって連戦している為に気力体力が万全な筈はなく、決定打にも欠けていた。

 

 だから少女もやらなくてはいけないと思った。

 通せる無茶がまだ残っているのなら、出し尽くすべきだと信じて疑わなかった。

 

「——ぺ」

 

 だから少女は口を動かして、反逆の意思を奮起させていた。

 もっと正しく言うのなら、己が内へと向かい合った。

 

「——ル」

 

 瞳を揺らす修道女の眼前に、ゆっくりと回りながら落ちてくるタロットカード。

 自分たちとは違う召喚形式に、ナビの視線が誘導される。

 

「なんだ? カードの色が……?!」

 

「——ソ」

 

 その色が青から紫へと徐々に暗く変色し、遂には血の様に()()()()()()となって落下を終えた。

 

「ナ……!」

 

 そんな変化など見えていないかのように、少女はカードを薙ぎ壊そうと腕を持ち上げる。

 その一振りを後押しするかのように、少女の瞳が線香花火の如く輝く。

 

 

 ——そんな一瞬を切り裂くように、その者は現れた。

 

 

「——ペルソナ!!」

 

「なんだ!?」

 

 セーフルームの入り口付近で戦っていたジョーカーが見たのは、残っていたドアフレームと周囲の壁ごと横方向にぶった斬られた瞬間だった。

 

『!?!?』

 

 その斬撃に巻き込まれた死神シャドウが驚きのあまりに振り返るが、その動きは途中で中断させられる事になる。

 その斬撃が、二連撃であった為に。

 

「十文字、斬り——!!」

 

『ッッッッ!!!!』

 

 続けて振り下ろされた刀の一撃によって、『刈り取るもの』の頭部が床へとねじ伏せられる。

 撃破まではいかずとも、相当なダメージが入ったのは間違いなかった。

 

「……随分と派手な登場じゃねーか、オイ」

 

「緊急事態だと判断して、手段やタイミングを選んでいられなかったんだ。許して欲しい」

 

 カトラスを持つ手に力を入れ直しながら、モナが見たのはその闖入者の出で立ちだ。

 片手で持った日本刀、汚れのない黒ジャケット。短く纏められた濃い銀髪の下に仮面はなく、確かな光の宿った眼が場の全員を見渡していた。

 

「あなた、奥村社長のパレスにもいた……!」

 

「あの時は悪かったな、怪盗団。色々と事情があったとはいえ、殆ど何も言えなくて」

 

 ジョーカーと同じかそれ以上に圧倒的なペルソナ能力を見て、あの時の刀使いなのだと全員が理解した。

 けれどそんな雰囲気など意にも介さぬ態度で、闖入者の男は己の名を告げる。

 

 

「俺の名前は鳴上(なるかみ)(ゆう)だ。今回も敵対するつもりはない。そこの寺崎さんを追って来た一人として助太刀したいんだが、構わないか?」

 

 

「……信じていいんだな?」

 

 かつては自分たちを圧倒した相手と分かった為に、怪盗団から警戒の色は抜けない。

 しかし真っすぐな瞳と共に悠が頷いた為に、ジョーカーがその持ちかけに応じた。

 

「 鳴上 さん …… 」

 

「悪いが話は後だ、寺崎さん。それ以上の無理は許さない、いいな?」

 

「 …… …… 」

 

 繋がりがあるらしい少女も茫然としていたが、強い口調で言いつけられた為に口を結んだ。

 

 そこまで話が通った所で、ダウンしていた死神シャドウがゆらりと起き上がった。

 

『……!!』

 

「まずはここからコイツを引き離す! 援護してくれ!」

 

 その脅威を確信したのだろう『刈り取るもの』に銃口を向けられても、悠は冷静そのものだった。

 発砲と同時に刀を傾けてその弾丸を弾き飛ばし、死神の懐に入った上で即座にカードを握りつぶした。

 

「『イザナギ』——!」

 

『ッ……!!』

 

「ここか、任せろ!」

 

「ぶっ放すよ!」

 

 『刈り取るもの』に落ちた雷撃(ジオダイン)によってその動きが止まり、隙と認識したフォックスやパンサーが構えた銃の引き金を引く。

 

「寺崎さん、借りるぞ!」

 

「 …… ! 」

 

 その間に立ち尽くしていた修道女へと近づいていた悠が、彼女の持っていた鎖鎌を借り受ける。そのまま弾丸の雨で足止めされていた死神シャドウへと地を蹴った。

 

「それでアイツを外まで引っ張りだすってわけか、悪くない作戦だ!」

 

「お褒めにあずかり光栄だ。手伝ってくれるか、()()!」

 

「いいぜ、取引成立だ! ……ってこの鎖重っ!?」

 

 意図を察したモナが悠から鎖鎌を受け取ると、その俊敏さを活かして一気に『刈り取るもの』の周囲を回る。

 その身の上から更に鎖が巻きつけられた死神が、振り払おうと苦し気に腕を動かした。

 

「貸して、モナちゃん! こん、のぉーー!!」

 

「はあああああっ!!」

 

『ッ……!!』

 

 しかし拘束が外れる前に鎖鎌を受け取ったノワールとクイーンが、全力で鎖を引く事でそれを妨害する。そしてそもそもが浮遊している存在である為に、勢いがつけば移動が始まるのは早かった。

 

「やっちゃって、スカル!」

 

「任せろ、ぶっ飛べぇ!!」

 

『!?!?』

 

 続けてスカルがその棍棒のフルスイングを『刈り取るもの』に叩きこむ。

 崩壊しているセーフルームの壁に当たり、その巨体によってヒビが入った。

 

「これで、ダメ押しだ!」

 

 最後にダッシュで距離を詰めたジョーカーの蹴りが炸裂し、その勢いが更に加速する。

 最初に悠が突入してきた時と同じくらいの衝撃がボロボロだった壁をぶち抜き、『刈り取るもの』の身体を廊下先の広間に押し込む事に成功していた。

 

「よし、ここからは一気に畳みかける! 動ける人は来てくれ!」

 

「俺は行く。皆は無理をするな」

 

「いや、俺も行くぜ! まだまだ暴れたりねぇしよ!」

 

「なら私も! モナ、皆の事よろしくね!」

 

「勿論だぜパンサー、任された!」

 

 声掛けだけしてセーフルームを飛び出した悠を追ったのは、ジョーカーやスカル、パンサーの初期メンバーだけだ。他のメンバーは修道服の少女含めて、回復に専念する事となった。

 

「ていうか鳴上さんだっけ、動きはっや! もう見えないんだけど?!」

 

「俺らと違ってアイツは体力残ってるからだろ? いやそれでも速いけど」

 

「思う所はあるが、敵じゃないのなら頼もしい限りだ。一気に終わらせるぞ!」

 

 そうして怪盗団の三人が悠の背中を追いかけて、辿り着いたのはサイドデッキ広間。

 そこで『刈り取るもの』を相手に大立ち回りを演じる悠の姿があった。

 

『ッ——!!』

 

「——電光石火!」

 

「待たせたな、ここから加勢する!」

 

 銃弾を掻い潜って滑り込むように突進する悠をアシストするように、拳銃を構えるジョーカー。

 

 けれど引き金を引くよりも早く、第三の銃声が響き渡った。

 

「なんだ、新手か!?」

 

「——見つけました、鳴上先輩!」

 

 飛んできた弾丸の出所を確かめるべく視線を飛ばすと、サイドデッキ上部に繋がる階段を駆け下りながら発砲した人物の姿がそこにあった。

 青い髪を長く伸ばした女性らしき人物——白鐘直斗に驚くのがまず一つ。

 

「——死神シャドウに鳴上さんと……あれが心の怪盗団ですか!?」

 

 その隣で長槍を携えて走って来たのは、怪盗団とも面識のある男子高校生こと天田乾だ。

 彼が通う月光館学園高校の制服の下にオレンジのパーカーを着込んだ格好は、ある意味一番この船で浮いているようにも見える。

 

 けれどそんな二人に負けないくらい、怪盗団が目を引いた人物がもう一人いた。

 

「——そうです! アレが雨宮たち怪盗団で間違いない!」

 

「三島ァ!?」「うそ、三島君?!」

 

 何故か今までの黒仮面が羽織っていたコート姿ではあるが、彼ら秀尽二年生組にとっては同級生である男、三島由輝が最後にこのフロアへと降り立っていた。

 その手には大きな狙撃銃が握られていた為に、彼もまた戦闘員の一人であると見る事が出来てしまっていた。

 

「来てくれたか、皆」

 

「先輩が急に上のデッキから飛び降りた時はどうなる事かと思いましたが、合流出来て何よりです。それでこの状況は?」

 

「怪盗団がこの死神シャドウと交戦していたから助太刀している。寺崎さんは怪盗団の残りメンバーと共にいるから、先にコイツを倒す」

 

「アイギスさん達も戦った死神シャドウですか……いきなり大物ですね」

 

 死神シャドウに一撃を入れて後退した悠の元に、やってきた三人が合流する。

 死神シャドウを前にしても臆することなく全員が戦う意思を見せていた為、怪盗団としては頼もしい事この上ない。

 

「無事だったんですか、アイツ?!」

 

「少なくとも、怪盗団に保護されているのは間違いない筈だ。……そうだよな、()()()()()

 

「……ああ。彼女もかなり消耗しているようだが、今は俺たちの仲間が見ている。心配は不要だ」

 

「ではひとまず、最大の懸念はなくなったと見てよさそうです……ね!」

 

 ジョーカーの報告を聞いて頷いた直斗が、発言の途中で腕を動かす。

 理由は当然、彼らが相対している死神シャドウが動きを見せたからだ。直斗の放った弾丸で僅かに怯んだものの、その魔法が彼ら全員の身を蝕む方が早かった。

 

「ぐっ、なんだ?! 身体が重く……!」

 

「ランダマイザ、ですね……! これもアイギスさんから聞いたのと同じ……!」

 

 スカルの疑問に答えるように呟く乾だが、彼が持っているのは敵全体の強化を打ち消す『デクンダ』だけだ。

 なのでこの状況では意味がないと判断し、腰のホルスターに収めた召喚器に手を伸ばす事はなかった。

 

 代わりに見たのは、同じ召喚器を下げたもう一人の少年。己が役割を理解している瞳へと、乾は望みを託す。

 

「お願いします、()()()!」

 

「はい! 俺が、やってみせます!」

 

「な?!」「え!?」

 

 自分のこめかみに銃口を当てて引き金を引くという行為に、スカルとパンサーが驚愕する。

 それはモデルガンが本物になる認知世界だから、ではない。

 

 三島が持っていたのは、シャドウワーカーの人間が使っていたのと同じ銀色の拳銃であり。

 直後に響いたガラスの割れるような音と共に、白い外套を纏った人影が彼の背後に現れたからだ。

 

「『シャルル』、デクンダ!」

 

「! 変な感覚が、なくなった……!」

 

「マジで三島も、ペルソナ使いなんだな……!」

 

 三島の呼び出した人影が腕を振り上げれば、途端に全員を襲っていたデバフ効果が打ち消される。

 その実感が、三島由輝もまた力を持つ者である事を怪盗団の三人に印象づけていた。

 

「戦えるんだな、三島?」

 

「そりゃ勿論、って言いたい所だけどさ。多分俺はこの中だと一番強くない。近接戦闘なんて最低限しか出来ないし、ペルソナだって支援がメインだ。雨宮たちみたいには戦えないと思う」

 

 しかし当人の自己評価は低いものだ。

 実戦経験の少なさや能力の低さを冷静に語る姿は、早すぎる諦観の上で成り立っているようにも思えてしまう。

 

「でも、何も出来ないわけじゃない」

 

 けれどその奥にある確かな意思が、そうじゃないとジョーカー達に思わせていた。

 

「今はあの死神シャドウを倒すのが先決なんだろ? なら支援補助は俺に任せてくれ」

 

「つまり回復や強化魔法(バフ)は頼んでいいと、そういう事か?」

 

「ああ。俺に出来るのはそれくらいだけど、それで雨宮や鳴上さん達の戦いを少しでも有利に進められるなら全力でやるさ。だから、とっととやっちゃおうぜ!」

 

 そう言って笑ってみせた三島は、決して己の無力を嘆いてはいなかった。

 むしろ非力だからこそ自分に出来る最大限を尽くすと決めた、彼なりの覚悟の表れだった。

 

「へっ、言うじゃねえか三島! ならお前の代わりに、このズタ袋ヤロウをとっちめてやろうじゃねえの!」

 

「頼んだ、坂本! あ、いやコードネームで呼んだ方がいいのか?」

 

「異世界ではそちらのが座りがいいからな。スカル、パンサー、それとジョーカーで頼む」

 

「三島君にコードネームで呼ばれるの、なんか不思議な感じ……」

 

『刈り取るもの』に相対しつつも、怪盗団と悠たちの間を取り持つような位置に立った三島。そこだけまるで学校で話している時のような雰囲気が生まれ始める。

 

「なら俺の事も、『レイ』って呼んでくれないか。アイツと決めた、こっちでのコードネームなんだ」

 

「レイ……なるほど、下の名前から付けたのか」

 

「アイツと決めたって、やっぱり寺崎さんと?」

 

「……ああ。俺はアイツと一緒に動いてたからな」

 

 パンサーの質問に、少しだけ三島の顔に影がさす。

 けれどすぐに切り替えたように、三島は前を向き直した。

 

「でも寺崎の事は後回しだ。今はこっちの事にちゃんと集中するよ」

 

「分かった。ならフォローは任せよう」

 

 三島の立ち位置を把握し終えたジョーカーも、再び死神シャドウを討伐するべく武器を構える。

 

 既にランダマイザの効果はないが、身体が先程よりも軽く感じるのはきっとそれだけじゃない。

 鳴上悠やその仲間達の参戦という大幅な戦力拡大。そして三島という既に深い協力関係にある人間の助太刀に、怪盗団の感じていた不安要素が立ち消えるかのようだった。

 

 ——それは何とも『都合がいい』。

 けれど、今はそれで構わないと思った。

 

「ではこの一番大きな闖入者には、ご退場願うとしようか!」

 

「ああ!」「そうだね!」「やるぞ!」

 

 そうして始まった本日最後の戦い。

 万が一にも負けるわけがない、まさにそんな一戦だった。

 





☆鳴上悠
 この男になら何をさせてもいいと思っている節はある。

☆白鐘直斗
 二代目が出てからはメディア露出は控えめだった。というか今の容姿で出るとまた別の方向で人気が出る(りせ談)為、怪盗団が知らなくても無理はない。

☆天田乾
 緊急事態という事で槍と召喚器を受け取っている。しかし本当に久しぶりなので戦力としては疲弊した怪盗団よりやや弱いくらい。

☆三島くん
 詳しくは次回。

☆心の怪盗団
 大体ボロボロ。ジョーカーは気合で戦っていると言っていい。



 閲覧、感想、評価などなど誠にありがとうございます。
 中々ストックはたまりませんが、何とか次回もあります。よろしくお願いします。
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