私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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 原作ではメメントス初潜入日の翌日に発生するコープですが、本人も異世界に行っていたという事で数日ズレています。ご了承ください。


#6 何も出来なくても伝えたい

 

 イセカイナビを私ではなく三島くんが手に入れてから数日。念願のナビがあるのならもう異世界に入り浸っているのかと問われれば、残念ながらそれはNOだった。

 

「らっしゃーせー! 何名様ですかー?」

 

 ナビを持つ三島くん曰く、ペルソナを持たない私たちは怪盗団以上に慎重になるべきであり、次に行くのであればより入念な準備をしてからだと主張したのだ。全くもって正論である。

 

「では席までご案内いたしますー! ……あ、すぐに伺いますので少々お待ちくださーい!」

 

 つまりは怪盗団と同じように装備を整えてから潜入しようというわけだ。その為に三島くんも時間が欲しいと言ってたし、私も怪盗団のスケジュール的にまだ余裕があったのでそれを受け入れた。

 

「――以上でよろしかったでしょうかっ? それではごゆっくりー!」

 

 というわけで、今の私はファミレスのしがない一バイトという仮面を被ってのお仕事中だった。決して秋葉原にあるようなメイドの喫茶ではない。

 ここがペルソナ(ゲーム)の世界だと気付いてから、どうしても入り用になると判断した私はすぐにバイトを探した。するとセントラル街にあるファミレスが改装後の人手を募集してたので、応募したら見事に採用されたというわけだ。

 

「寺崎さん、23番テーブル行ける?」

 

「あ、はい! 行ってきます!」

 

 そういった目的があるとはいえ、やはり労働は楽じゃない。やべぇお客様もちらほらいるし、普通のお客様でも時間帯によって数が増えると敵に見えてくる。これでもまだ雨宮くんがバイトしてた牛丼屋よりはマシって聞くと、社会の闇を感じちゃうよね。

 

 それでも私は怪盗団を追う為や夏休みに向けてお金を貯めるという崇高な目的がある。なので今日も営業スマイルでお仕事だっ!

 

 

 

「こちらポテトになりますー!」

 

「はいどうも……って、寺崎?」

 

「あ、三島くんだ。それと……雨宮くん?」

 

「こんばんは、寺崎さん」

 

 ポテトの載ったお皿を受け取ったのは、私を差し置いてイセカイナビをゲットした三島くんだ。その向かいに座るのは、既にナビを使いこなしているであろう雨宮蓮(ジョーカー)だった。

 

「私、ちょっと前からここでバイトしてるんだー。特別なサービスとかは出来ないけど、ゆっくりしてってね!」

 

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

 軽く挨拶だけして主人公から返事を貰うと、私はそそくさとそのテーブルを後にする。

 二人が来たこと自体に驚きはない。このファミレスは本編にも何度か出てきたし、むしろそれを狙ってこの職場を選んだのだ。ちょうどシフトのタイミングで来てくれた事に感謝すらしていた。

 

(でも三島くんと来たってことは、コープ初期のやつかな?)

 

 流石にコープの細かい内容や日時までは覚えてなかったけど、そんな回があったような気がする。怪盗お願いチャンネルを立ち上げた三島くんが、怪盗団をサポートすると改めて宣言するんだっけ。

 もちろん気にはなるが、今の私はあくまでもウェイトレスのバイトだ。仕事三割、聞き耳七割くらいで気を配る事にしよう!

 

「そんな感じでさ、怪チャンでの情報収集は俺に任せてくれ。この前みたいな形で君たちの後方支援が出来るなら、俺も鼻が高いっていうかさ」

 

「やる気だな、三島」

 

「勿論だよ。なにせ怪盗団の戦略的広報担当だからね」

 

「そうだったのか?」

 

 遠くから見ても得意気な三島くんと、ちょっと天然気味な反応を返す雨宮くん。その姿はどこにでもいるような男子高校生二人が雑談しているそれであり、世間を騒がす怪盗とその協力者だとは誰も思わないだろう。それだけに裏を知っている私はちょっと楽しくなっていた。

 

「俺は雨宮みたいには出来ない。実際に見てそれが分かったから、俺は俺の出来る事で怪盗団の活躍を盛り上げてみせるよ!」

 

「そうか、なら応援して――三島。今なんて言った?」

 

「ん? だから、怪チャンを通じて雨宮たちを……」

 

「そっちじゃなくて、その前だ。()()()()()って、何を見たんだ?」

 

「…………あっ」

 

(み、三島くぅーーーーん!?!?)

 

 楽しい気分は一瞬で奪われた。なんて手腕だよ三島くん……!

 

「そ、それはアレだよ、あのストーカーを成敗したっていう掲示板の書き込み! 鴨志田の他にも改心させたっていう実例で、そう思ったんだ!」

 

「……そうなのか?」

 

 どう見ても取り繕ったとしか思えない三島くんの挙動に、雨宮くんの視線が鋭くなっていく。

 口を滑らせた三島くんも悪いっちゃ悪いけど、雨宮くんもなんでそんなに不審そうなの?! どこかのパンケーキ探偵と違って、相手はただの三島くんだよ?! 私の知らない所で何かあったのかな!?

 

「…………」

 

「…………あー、その。ごめん、嘘ついた」

 

「やっぱりか……」

 

 そして折れやがったよ三島くん。まだ戦車コープ完走してないだろうに瞬殺だったよ。まぁ押されたら弱そうだし、雨宮くんも目力強いから分かんなくもないんだけども。

 

「この前、雨宮たち渋谷の駅前にいただろ? 俺も近くにいたんだ、その時」

 

「それって、まさか三島……?」

 

「ああそうだよ。君たちが仕事に行くところ、見ちゃったんだ」

 

 目を逸らしながらも白状する三島くんに、流石の雨宮くんも目を見開いている。

 どうしよう。まさかこんなに早く異世界に行った事がバレるとは思わなかった。しかも相手はジョーカーこと雨宮君だし。

 

「因みに、どこまで見たんだ?」

 

「どこまでって言われても、あそこから地下に降りて、怪物と戦ってる所までだよ。それで俺とは違うんだなって分かったんだ」

 

「戦う所まで見てたのか……」

 

 問い詰められた三島くんがどんどん正直に語っていくのを見て、私も段々と冷や汗が出てきた。

 何故かは分かんないけど、雨宮くんは三島くんの言葉を疑っていない。そしてこの調子で三島くんが話していけば、私の名前が出るのは時間の問題だ。そうなれば私が後をついてきていた事が、彼らの知る所になってしまう。

 

(で、でも私の事は秘密にしてくれるように言って…………言ってなくない!?)

 

 ついでに思い返してみれば、メメントスへ潜入する時にバレない様にと言っただけで、口止めを頼むような事は口にしてない気がする。つまり私の隠密行動は、これで打ち止めってこと……?

 

「すみませーん、ちょっといいです……か……?」

 

「は、はい……少々お待ちくださいぃ……!」

 

「あなた、新人さん? なんで涙目……?」

 

 しかも別のテーブルからお呼びがかかったので口出しすらも出来なくなった。いやあのタイミングで顔を出しても不自然極まりないだけなんだけども。

 

 ……………………でも、それでも。三島くんの口からバレるのなら仕方がない、と言えるかもだ。

 彼にはまだ借りも恩も返せていない。ついでにイセカイナビの事もあるし、その上で私の都合だけ通したいというのはちょっと無理がある気もする。だからここは黙って成り行きを見守るべきなんだろう。うん、きっと……。

 

「では……暴露(ざくろ)痴態(チキン)露呈(ソテー)叱責(ビフテキ)からの淘汰(ソーダ)でよろしかったでしょうかー……?」

 

「何も合ってないんだけど……?」

 

 ☆☆☆☆☆

 

「別に隠すつもりはなかったんだ。気づいたら雨宮たちは先に進んでたし、俺も途中で引き返しちゃったから詳しい事は全然分かってないし」

 

 それに怪盗団は孤高なのがいいんであって、詳しくなりすぎるのも良くないと、自分なりの本心を交えて彼は話した。目の前に座った、怪盗団の一人であるはずの雨宮連に。

 

「……実は、自分たちもあの時に誰かいた事は分かってたんだ。まさか、それが三島だとは思わなかったけど」

 

「え、マジ? 最初からバレてたの?」

 

「いや、そんな事はないんだが……。それよりも、あそこで見た事は他言しないでくれると助かる」

 

「大丈夫、そこは誰にも言ったりしないよ。正直俺もまだ信じられないような光景だったし、証拠だってないからさ」

 

 これもまた三島にとっての本音だった。流石にあれが夢だと疑っているわけではないが、時間が経つことで現実味が増しているわけでもない。ついでに言えばスマホで撮ったわけでもないからだ。なんかあの少女はそんな事をしていた気もするが。

 

「だから俺が見たことについて、雨宮たちに尋ねたりはしない。ああやって戦ってる事が分かっただけで十分だから」

 

「……分かった、信じるよ」

 

 そこまで言い切ると、雨宮も観念したように頷いた。

 元々三島は怪盗団の正体に勘付いていた。それを言いふらしたりする事が今までなかった以上、あの異世界の事も黙っててくれるだろうと彼は判断したのだ。実際にその見立て自体は間違っていない。

 

 だからこそ、三島が異世界について他者から既に教えを受けているだなどという事は考えもしていなかった。

 

 そして三島もまた、その他者の存在を明かす事はしなかった。

 加えて自分がイセカイナビを持っている事も隠していた。まぁそっちは本人も忘れていたのだが。

 

(寺崎の奴、どうしてか雨宮たちに知られたくないみたいだからな……)

 

 それはとある少女が彼に対して感じていたものを、彼もまた感じていたが故に。

 あとこっちをチラチラ見てる少女が別の客とトラブりそうになったのが見えたが故に。このまま名前を出したらなんかやらかしそうな事くらいは、彼にも想像がついてしまった。

 

 今まで話した所、寺崎叶が悪人だとは思えない。やってる事はストーカーでおおよそ間違いないが、怪盗団を害したくない、迷惑をかけたくないというのも嘘じゃないと三島は感じていた。

 それに雨宮もメメントスにいたのは三島一人だと思っているようだったので、その誤解を正すことはしなかった。

 

「多分、俺が思ってるよりもずっと大変だと思う。怪チャンでもデマだなんだと否定的な奴がまだまだ多い。でも俺は雨宮たちに助けられたし、怪盗団に期待してる奴は俺以外にもいる。それは間違いないんだ」

 

 それでもこれだけは伝えなきゃいけないと思ったから、彼はそう念押しをする。不審がられても、くどいと思われたとしても、隠し事をしている身であってもだ。別にあの少女と同じかもとか思ってない。本当に。

 

「だから前にも言ったけど、俺に出来る事があるなら何でもいってくれ。怪チャン以外でも雨宮たちの力になれるのなら、本望だからさ!」

 

「分かった、覚えておく」

 

 そして最後は互いに笑みを交わした所で、その日は終わった。

 後日、怪盗団は戦闘で得られる恩恵が増えたように感じたし、三島もどこかスッキリした気分でサイトの運営を行うことが出来るようになり――

 

「ありがとう三島くん……。これでまだ、怪盗団のみんなの活躍を追えるんだね!」

 

 ――とある少女はそんなことを宣うのであった。

 




☆寺崎叶
 バイト始めました。服は悪くないけどそれ以外がキツイです。
 怪盗団のあれこれを見る為に始めたけど、自分の話になりかけるとは思わなかった。なお今後もないとは言ってない。因みにあの後接客ミスって上司から少しお小言を貰ってヤケクソになっていたそうな。

☆三島くん
 裏側を知っている系男子。それはそれとして失言はする。
 けど応援団を結成した手前、寺崎の事はどうにか隠しきった。けど他にもいなかったかと問われればいずれはボロが出ていたので、危ない所だった。因みにちょっとファミレスに通おうか迷った。

☆雨宮連
 月コープを進めようとしたら意外な所から犯人が見つかって驚いている。けど現状実害はないし三島ならいいかの精神で深堀はしなかった。それはそれとして仲間と共有はする。
 実は正史より獲得経験値が増えているし、なんならコープでのエピソードも変化しているのだが、流石に気づかない。この先も何度かこのファミレスにはお世話になる予定。



閲覧感謝! ランキングにもいて嬉しみです!
ちょっと短いですが、切り所がここしかなかった。次回は二つ目のパレス潜入回です。
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