私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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#7 それでも私には足りてない

 

「三島の奴が、メメントスに来てた?!」

 

「バカ竜司、声デカい!」

 

 渋谷の駅の一角で、竜司と呼ばれた少年が驚きの声を上げる。人と音に溢れた都会とはいえ内容が内容なだけに仲間である高巻杏が嗜めるが、彼女もやや驚き気味ではあった。

 

「ああ、ミシマ本人が言ってたから間違いない。どうやらあの日、ワガハイ達の近くにいて巻き込まれちまったらしい」

 

「マジかよ、杏の時と同じじゃねーか……」

 

 黒髪の少年こと雨宮蓮が持つ鞄から顔を出した猫、モルガナが補足すると、竜司が片手で頭を押さえる。

 

 彼が思い出したのは四月のある日、カモシダパレスへ侵入する際にまだ何も知らない杏を異世界に連れてきてしまった時の記憶だ。アレでイセカイナビの特性を知ったつもりだったのだが、またやってしまったとなれば話は別だ。

 

「自分たちを追って地下に降りたけど、戦い始めたのを見てすぐに引き返したらしい。ジョゼが見たのはその時なんだろう」

 

「私たちが戦ってる所まで見られちゃったんだ。それって結構マズくない?」

 

「良くはないが……ミシマは元々ワガハイ達が怪盗だと気付いてる節があったからな。なら変に言いふらしたりはしないだろう」

 

「まぁ……それはそうかもな」

 

 三島が鴨志田の一件の後に怪盗お願いチャンネルを立ち上げた事はこの場の全員が知る事実だ。そんな彼が異世界で戦う自分たちの事をバラして陥れるような真似をするかと言えば、しなさそうというのが皆の見解にはなったのだった。

 

「とりあえず、これからナビを使う時は周囲を巻き込まないように注意しよう。もし三島が何かしそうだったら、こちらで釘を刺すようにする」

 

「そうだね。私も気をつけるよ」

 

 次のターゲットのパレスへ行く前の作戦会議、その一抹を飾る話題はそんな蓮のまとめで決着を迎えた。

 

 ……ように見えた所で、竜司が最後にとある事に気付く。

 

「ん、じゃああの銃声は? アレも三島だったのか?」

 

「それは……」

 

 そしてその答えを持たない蓮は、ただ言い淀むだけだった。

 怪盗団に一度芽吹いた疑惑の種は、まだ絶えない。

 

 ☆☆☆☆☆

 

「というわけで早速来たよ三島くん! ここがマダラメパレスです!」

 

「ここが、パレス……。雨宮たちが潜入してる、人の心の世界なのか」

 

 三島くんと雨宮くんがファミレスで会ったのを目撃してから数日後。

 あわや身バレの危機かと怯えていたが、三島くんは私の事を伝えなかったらしい。また借りが増えちゃったなと思いつつ、ならばと意気揚々とやってきたのがこの二つ目のパレスだ。外見だけでもすっごい派手な金キラキンで眼がチカチカしてくるね!

 

「今回のターゲットは、あのあばら家を内心では美術館だと思ってるみたいだね。その歪みを改心で正す事で悪事を告白させようっていうのが、怪盗団のやろうとしてる事なんだよ」

 

「相変わらず詳しいな、寺崎。いや今更お前にも聞く気はないけどさ」

 

 そんな私の補足に三島くんが何故かジト目で返してくる。いきなりイセカイナビに名前と場所とキーワードをドンピシャで入れたのが不自然だったんだろうけど、ちょっと今日は行きたい理由が出来ちゃったので勘弁してほしい。

 

「それでいきなり呼び出しちゃったわけだけど、準備はバッチリだよね?」

 

「当たり前だろ? 俺なりに色々準備したから、今日は任せてくれ」

 

 自信満々に言う三島くんも、私と同じように秀尽学園の鞄に色々と入れてきたようだ。異世界で使えそうなモノの説明は前にしたし、前回のような展開にはきっとならないだろう。そうとなれば、早速怪盗団を追って潜入開始だ!

 

「じゃあまずはそこのトラックを登って塀を越えよう!」

 

「え、トラック? 登るの、アレを?」

 

「勿論だよ! 怪盗団のみんなもそうやって中に入ったっぽいし、他に潜入ルートもないからね!」

 

 私が指差したトラックは、引っ越しとかに使われるような大きめのモノだ。だからこそあの高めの美術館外壁を超えるのに利用出来るんだけど、三島くんの反応はあまりよろしくなかった。

 

「……因みに、どうやって登るの?」

 

「そりゃよじ登るしかないよ。異世界の車だから傷つけても怒られたりもしないし、ここなら他に誰も見てないからね、さくっと登っちゃおう」

 

「…………寺崎、確認したいんだけどさ。もしかしてこの先もそんな感じ?」

 

「まぁ、そうなんじゃないかな。怪盗団と違って私たちの身体能力は上がってないから、ちょっと大変かもだね」

 

 でもそうしないと彼らの活躍を見られないとなれば、幾らでも力が湧いてくるのが私である。なのでちょっとキツめのアスレチックかパルクールだなと思っていたのだけど、三島くんはそんな事なかったようだ。

 

「よし寺崎。俺ここで待ってるから、一人で行ってきてくれ」

 

「え、ここまで来て諦めちゃうの三島くん?! せっかくの異世界だよ、パレスだよ?!」

 

「いやいや、何かあった時に備えてここで待機するだけだって。スマホで連絡してくれれば俺もすぐに後を……あれ、圏外だ」

 

「異世界だからね! ならほら、私が上から引っ張ってあげるから! ロープも持ってきたし!」

 

「準備いいな、寺崎……」

 

 いい笑顔で尻込みする三島くんをどうにか引っ張り上げて、虚飾の美術館の内部へと向かっていく私たち。ここまで来たら一蓮托生なんだ、諦めていただこう。

 

「多分これが怪盗団の使ってるロープだね。三島くん、使える?」

 

「いや無理だよ。ロープ一本でシューッて降りるアレだろ? 雨宮たちならともかく、俺たちにそんな事出来るわけないから」

 

「じゃあ途中に結び目を幾つか作ったロープを垂らすから、三島くんはそれで降りてよ。私はその後にロープ回収してから、怪盗団のロープで降りるからさ」

 

「寺崎は出来るんだ……」

 

 屋根についた窓から中に入る際も高さがあったので、そんな感じで突破した。私は近くの公園の遊具でちょっと練習しただけし、ホントに大変なのは帰りなんだけど、それはまぁいいとしよう。

 

「へぇ、中はホントに美術館なんだ。なんか絵が動いてる気もするけど」

 

「あくまでパレスの主が作品だと思ってる存在だからね。ただの絵じゃないと思うけど、とりあえず今は先に進もっか」

 

 内部は青めの壁とカーペットが敷き詰められた美術館そのものであり、私の記憶にあるモノとも一致する。それだけでも感激ものだが、今回はそれだけがメインではない。

 なので物珍しげに周囲を見渡す三島くんを連れ、先の部屋に進もうとする私。見逃しちゃったら困ると急く私を止めたのは、目の前に薄っすらと見えた赤い光の線だ。

 

「うわっと! そうだ、こういうのもあるんだったね」

 

「もしかしてコレ、赤外線のセキュリティ装置か? ホントに怪盗みたいになってきたな……」

 

「みんなならコレくらい楽勝で突破するよ! よく見ればどこに赤外線がないかは分かるからね」

 

「え、寺崎見えるの? ホントに人間?」

 

「人間だよ! 赤外線そのものじゃなくて、横の装置のランプの色が違うでしょ?!」

 

 三島くんから心外なる人外の疑いをかけられながらも、二人して赤外線の隙間をどうにか抜けていく。怪盗団みたいにスライディングとかは出来ないので、匍匐だったりでとてもゆっくりだったけど。どうしてもカバンが邪魔になるなぁ……。

 

「それで、今日は怪盗団の何を見に来たわけ? 突然言い出したって事はお目当てがあるんだろ?」

 

「愚問だね三島くん。何を隠そう、私は駅で見てしまったんだよ。高巻さんが妙に大きいカバンを持ってどこかへ行く姿をね!」

 

「そっか、高巻さんが……え、それだけ?」

 

 今は五月の後半に入った頃であり、マダラメパレスの攻略は既に始まっているだろう。しかし今回のパレスは一筋縄ではいかないというか、一日でルート確保は出来ない仕様になっているのだ。ちょこざいな。

 

 途中でパレスの主である班目の認知を変える必要があり、その為に高巻さんとモルガナが現実世界で頑張る事になるのだが、今日見たのはきっとそれに向かう彼女だったのだと思う。ここ数日はバイトまでずっと駅で待ち伏せしてたので多分そう。

 

 つまりそれがあっていれば、見られるはずなのだ。原作でも名シーンに数えられるであろうあの場面がね……!

 

『事実は小説よりも奇なり、か……』

 

喜多川(きたがわ)くん……?』

 

 そうして辿り着いたのは、巨大な金のオブジェが鎮座する広いホールだ。

 ドアの端からこっそり中を伺うと、ちょうど主要な登場人物が揃った所らしかった。いやむしろタイミング的にはベストだったみたい。

 

『そんな筈はないのだと……長年、俺は見てみぬ振りをしてきた……!』

 

「あれは怪盗団と……アイツ誰だ? ……って、寺崎?」

 

「きたきたきたきたきたきたきたきたきたぁあああああああああ!」

 

 ホールの真ん中で笑い出したと思ったら、自嘲気味に呟く少年が一人。

 彼こそは喜多川(きたがわ)祐介(ゆうすけ)。班目画伯の最後の門下生であり、此度のパレスの主要人物。付け加えるのなら、今日この場の主役で間違いなかった。

 

『人の真贋すら見抜けない節穴……それがオレの眼だったか……!』

 

 仮面をつけた怪盗団に囲まれながらもただ一人素顔を晒していたその少年は、対峙する金袴の殿様への反逆を決意する。それは同時に今まで目を曇らせてきた虚飾の仮面を剥がし、本当の自分を露わにする事と同義だった。

 

 すなわちそれは――ペルソナの覚醒に他ならない。

 

『来たれよ、ゴエモンっ!』

 

 頭を押さえて苦悶の声を上げていた男の顔に現れた狐の仮面。それを叫びと共に取り払った彼が、顕現した歌舞伎武者と共に青い炎を撒き散らす。その熱に当てられたように、私のテンションもおかしい事になっていた。是非もないよね!

 

『この力で見極めさせてもらうぞ、マダラメ!』

 

「か、か、カッコいいよう……! やっぱりペルソナ覚醒シーンって最高だよう……! 生きててよかったよう……!」

 

「あれがペルソナの覚醒なのか……! あとヤバい事になってるな、寺崎」

 

 そんな光景を端からこっそり見て涙していると、三島くんが驚き半分ドン引き半分で私を見ていた。しかしそれでも構わない。これを見る為に今月は頑張ってきたといっても過言じゃないから……!

 

 その後は知っての通り、力に目覚めた喜多川くんの初戦闘だ。彼の得意とする氷結属性の魔法を駆使し、隙を見て刀や銃での一撃を見舞っていく。他のみんなもそれを支援するように立ち回ってるから、ぶっちゃけ目が足りない。

 

『敵の体勢が崩れたぞ!』

 

『皆! 合わせてくれ!』

 

 そして全てのシャドウがダウンした瞬間に、喜多川くん――フォックスの号令が鋭く響く。

 それは上手く戦闘を進めたご褒美とでも言うべきシリーズお馴染みの光景で、一気に敵を殲滅する総攻撃チャンスだった。そして私が一番見たかったものでもある――!

 

『これで仕舞いだな……!』

 

 シャドウの尽くから血のような何かが吹き出し、撃破を果たしたフォックスがビシッとキメる。原作で散々見た見たあのフィニッシュシーンが、目の前で今再現されたのだ……!

 

「あぁ……もう私、ここで塵になってもいいかもしれない……」

 

「確かに凄かったけどそこまで?! というか戦いが終わったのなら、そろそろ移動しないとヤバくないか?」

 

「そうだね……ひとまず入口まで戻ろっか……」

 

 ハマを食らった時みたいに浄化されかけていた所を、三島くんの言葉を受けてどうにか生還する。そのままパレスからも生還するべく、私も動き出すのであった。

 

 

 

「ふーっ、今回も大成功だったね! ちゃんと皆の勇姿も見られたし、痕跡もゼロ! 後は予告状が出された時も来られたらいいんだけど、行けるかなぁ……」

 

 あの後、私たちはショートカットを使って赤外線エリアをスキップし、行きと同様にロープを使って脱出に成功していた。

 それで美術館の前まで戻ってこれたし、怪盗団が来るまでは少しだけ余裕があるので最後にその外観の撮影をしていた。それパシャリシャリと。

 

「元気過ぎるだろ寺崎……。なんで俺と違って腕力だけでロープ登っておきながらまだ騒げるわけ……?」

 

「なんたって念願の異世界だからね。そりゃいつもの倍位の力は自然と出てくるよ!」

 

「寺崎はペルソナに目覚めてないよな……?」

 

 その横で乱れた息を整えているのは、どうにか初潜入をやり遂げた三島くんだ。幾ら運動部と言えどロープ登りや連続ジャンプといった動きにはまだ慣れないらしい。機会があれば例のジムでもオススメしようかな?

 

「あと前から気になってたけど、なんで寺崎はスマホ使えんの? なんか特注品だったりする?」

 

「スマホ? 別にみんなのと同じ奴だけど?」

 

「いやいや、俺のスマホはカメラが使えないのに寺崎はそうじゃないだろ? 絶対なんかあるって」

 

 そう言って見せてくれた彼のスマホでは、確かにカメラアプリが起動しない。圏外なのはいつもの事だし他にも使える機能がなくはない中、カメラアプリだけは何故か沈黙を貫いていた。

 

「え、なんで? 私のは全然使えるし、もしかして壊れてるんじゃ……」

 

 異世界ゆえの不具合かと思ったけど、不意にある事を思い出した。

 

(…………そういえば、原作でも坂本くんがカメラを使おうとして出来なかったシーンがあったような……。え、どういうこと……?)

 

 異世界に来れた喜びで今まで撮りまくっていたけど、もしかしてなんか変なことになってないか。そんな不安に襲われかけるけど、スマホにおかしな所はないように見える。相変わらずイセカイナビもないし。

 

「……寺崎にも分からない事があるんだな。この世界の事なら何でも知ってると思ってた」

 

「私だって初めての事ばっかりなんだから、そこまで万能じゃないよ。この前だってシャドウと戦う事になったんだし、割と行き当たりばったりだよ、私って」

 

「いや、それは知ってる」

 

 知ってるんかい。

 とは口に出さず、スマホを調べ続けてみたがやはり何も分からない。今後怪盗団に加入するであろうナビとかなら分かるのかもしれないけど、とりあえず今の私には打つ手なしだった。

 ……まぁ、使えるのならありがたく活用させていただこう。自宅で見返せるのは助かるし。

 

 とかそんな事を考えている裏で、三島くんの問いかけにはまだ続きがあるようだった。

 

「けど今日のは狙ってたんだろ? 道中なんかお前急いでたし」

 

「えっ、いやー、そんな事は……」

 

 あるんだけど、流石に今日何が起こるか全部知ってますとは言いづらい。事情はだいだい知ってますと未来も大体知ってますには大きな差があるのだ。まぁ高巻さんの目撃情報だけで今日何かあると予想するのもだいぶグレーゾーンである事は認めるけども。

 

「その上でちょっと言いづらいんだけどさ、寺崎」

 

「三島くん? どうしたの?」

 

「今日見たアレって、俺たちが見ていいものだったのか?」

 

「…………え?」

 

 けれどそんな私以上に渋りながらも彼が告げた言葉に、私の思考が停止する。

 アレって、喜多川くんの覚醒シーンの事だよね? あんな格好いいシーンを見ちゃ駄目だなんて、なんでそんな――

 

「俺はペルソナの事もよく分かってないし、そもそもアイツが誰なのかも知らない。そんな俺がアイツの心の叫びみたいな奴を勝手に見てましたって、本人的に良くは思わないんじゃないか?」

 

「あー…………それは…………そうかも…………」

 

 そこまで言われて、私は事前知識の有無がどんな差を生み出したのかをようやく知った。

 

 私は原作を知っているから彼が喜多川くんである事も、彼がどんな経緯を経てあの行動に至ったのかを分かった上で見ていた。けれどそれはこの世界ではきっと私だけで、他の人はそうじゃない。そして三島くんはそうじゃなかった。

 

 三島くんからすれば、知らない男子が何か重い告白をした場面にたまたま居合わせてしまった時のような気まずさがあったのだろう。ペルソナ覚醒の衝撃はあったにせよ、それを聞いてしまったという事実は変わらない。

 そしてその問いに、私は何も返す事が出来なかった。

 

 仲間がいて、イセカイナビがある。だからいいというわけでもないかもしれないと、私は初めて思ったのだった。




☆寺崎叶
 色んな意味で見れそうな覚醒シーンがここしかなかったので急いだ人。
 けどここにきてついにその問いを投げられ、悩むことになる。寝込むにはまだ早い。

☆三島くん
 彼女と違って何も知らないからこそ、その問いを投げられた人。
 寺崎叶は悪人ではないが、善人でもないかもしれないと彼なりに思ったが故の問い。
 その答えを貰ってからが、彼のとっての始まりなのかもしれない。

☆怪盗団のみんな
 五人目のメンバー加入でモチベは高い。けど謎の侵入者への警戒は続行中。


閲覧ありがとうございます!
感想でも何人かに指摘していただいた、とある点について言及しました。
第二話にも補足しましたので、そんな感じでよろしくお願いしたします。
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