私は怪盗団のストーカー   作:棚木 千波

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#8 だから私は立ち止まらない

 

「寺崎の奴、大丈夫かな……?」

 

 自室のベッドに倒れ込み、天井を見上げながらそう呟くのは、異世界から現実へと帰還した三島だ。

 己の発言で考え込んでしまった寺崎と別れ、何となく軽くない足取りで帰宅した彼は、早速小さくない自責の念を感じていた。

 

 しかし三島は、自分の所感が間違っていたとも思っていない。

 急に呼び出されて潜入した異世界にはやはり胸が躍ったし、赤外線の間を抜けるなどまさにフィクションの世界のようで、彼としても悪い気はしていなかった。

 

 ペルソナの覚醒を見た事もそうだ。反逆の意思と言われてもいまいちピンときていなかったのが、具体例を知った今なら納得出来る。あれだけの意思があるのなら、きっと怪物相手でも戦える事だろう。

 

 でもそれを見て楽しんでいいかと問われれば、あんまり良くはないんじゃない? というのが彼の結論だった。というか寺崎があまりにあの光景をエンタメとして消費しすぎている気がしたので、友情を感じる一人として苦言を呈したのだ。

 

「異世界やペルソナもそうだけど、怪盗団の活躍を見たいって言ってたもんな、アイツ」

 

 なんでそんなピンポイントでそのシーンにありつけるのかはホントに謎だが、そこはもう寺崎だからで思考を停止している。だからこそ、彼は彼女に危うさを感じていた。

 

 その強い好奇心がいつか、仇となるような気がして。

 

「まぁ俺も気になってはいるから、何様だよって感じだけどさ」

 

 しかし怪盗団の活躍が見たいという気持ちは三島にもある。だから自分から止めようと強くは言い出せない、そんな中途半端な現状に彼は苦笑した。

 

「…………え、これって……」

 

 そうして何となしに見ていたスマホを操作する手が、不意に止まった。軽い気持ちで打ち込んでいた彼はもう一度それを確認しようとして、

 

「! ってメッセか、タイミング悪いな……え?」

 

 突然飛び込んできたとある通知に、再度目を見開く事になるのだった。

 

 ☆☆☆☆☆

 

 そして時は流れ、五月末。とある個展を開いていた芸術家の元に、一枚のカードが届いた。

 

『虚飾の大罪人 斑目一流齋殿。

 ――その歪んだ欲望を、頂戴する。 心の怪盗団より』

 

「あのガキどもの悪戯だな?」

 

 芸術界の巨匠に似合わぬ文言に関係者がざわつく中、名指しされた張本人である斑目は顔を顰めた。そしてその裏側であるシャドウも同じタイミングで、そう憎らしげに呟いていた。

 

「……これでいいんだな?」

 

「ああ、これでオタカラが出現しているはずだ。ここからは一発勝負になるぜ?」

 

「ああ、うまくやろう」

 

 その真偽を知るのは様子を確認しに来ていた門下生とその仲間たちのみである――

 

「あ、変わった!」

 

 ――とは、限らなかった。

 

 

 

「ふむ、雰囲気が随分と変わったな」

 

「既にルートは確保してあるんだ。鮮やかにオタカラを頂いてやろう!」

 

 そして舞台は移って異世界へ。斑目が拠点としているあばら家の認知世界、マダラメパレスに潜入する怪盗団。程よい集中状態である彼らにかかれば、入り口から最深部までは過程を省略したかのようなスムーズさで駆け抜けることが出来た。

 

「じゃあ頼んだよ、みんな!」

 

「今だ、ジョーカー!」

 

 そして事前に立てた作戦の通りに動き、見事そのオタカラをその手中に収めてみせた。

 その際にクレーンや一瞬の停電を駆使してみせたものの、設備を活かせるのは彼らだけではなかった。

 

「すぐに全ての扉を封鎖しろ! 袋の鼠だ!」

 

「マジかよ、ここからじゃ出られねぇぞ!」

 

 見事に警戒の隙をついてオタカラは奪取したものの、脱出ルートまで完璧にしていなかった彼らは一気に窮地に陥った。それでも何とか他の脱出路を探そうとしてジョーカーが再び天井スペースへと目を向けた時、それは起こった。

 

「――こっちだ、怪盗団!」

 

「っ!?」

 

 外へと続く窓から、見知らぬ声が響いたのである。

 

「だ、誰!? なんで私たちの事を知ってんの?!」

 

「ワガハイたち以外の侵入者だと!? そんな馬鹿な……!」

 

 突然の闖入者に慌てる怪盗団だが、一足早く動いたのはやはりジョーカーだった。驚きや疑いを脇に置き、その窓までの道筋を確認しながら彼は口を開く。

 

「敵じゃないんだな?」

 

「私はずっとそのつもりだよ。ここから出たいのなら、ついてくるといい」

 

「あいつ、ガスで声を変えているようだが……。信じるのか、ジョーカー?」

 

「どうせ他に当てもない。覚悟を決めよう」

 

 次に冷静になったフォックスの問いに、ジョーカーは頷きを返す。他のメンバーも次第に落ち着いた上で、ジョーカーの考えに同意を示したのだった。

 すなわち、ヘリウムガスで変えたであろう甲高い声で先導する不審者に従うという事を……!

 

「うお、外に出た! というか高っ!」

 

「まだ終わりじゃない。ここから下まで降りられる」

 

 思わぬ所に出てしまったが、謎の人物はこの場所も知っているらしい。

 であればこのパレスの認知存在なのかと思ったが、それだと怪盗団の味方をする事の説明がつかない。じゃあ自分たちと同様にパレスの侵入者だというのなら、本当に何者なんだとつっこみたくなる。

 

「私たちと同じペルソナ使いなのかな……?」

 

「いや、にしてはなんか動きが変じゃね? 俺らより余裕がないっつーか……」

 

「そうか? あまり差はないように見えるが」

 

「……………………」

 

 二メートルくらいの段差を勢いよく降りていく謎の人物に各々が思った所を口にしているが、それを追うジョーカーとモナは何も言わなかった。観察しているのか、考察しているのか、或いはその両方か。そうしている内に、彼らにも見覚えのある広間へとたどり着いていた。

 

「なるほど、ここに出るのか……」

 

「この先の案内は不要だろう。それとそのオタカラには注意した方がいい。そこの中央に立つこともだ」

 

「待て、お前は何者だ! どうしてワガハイたちの事を知っている?」

 

 用は済んだとばかりに背を向ける謎の人物に、モナがストップをかけた。

 なんせその人物は一切の特徴がなかった。全身を覆う黒コートにバケットハット、声が変わっている所為で男性か女性かもはっきりしない。そして僅かに振り向いたその顔には――

 

「私は君たちのファンだよ。故に手助けをしたに過ぎない」

 

「ファンだと……?」

 

「これからも活躍を楽しみに見させてもらおうか、怪盗団」

 

 ――黒い仮面が付けられ、隠しきれていない笑みが浮かんでいた。

 

「っ、待て!」

 

「追うなジョーカー! もしかすると、これはオタカラじゃないかもしれない!」

 

 それだけを言い残して去ろうとする人物を引き留めようとするジョーカーが、逆にフォックスによって呼び止められていた。その手にあるオタカラらしき絵はどうにも怪しく、まるでニセモノのようだと伝えたのだ。そうなれば当然、本物がまだどこかにあるのではと焦るのが人の常だ。

 

「ちょっ、みんな離れて!」

 

「さっきのアイツが言ってたのって、コレの事か!?」

 

 そうやって周囲を見渡したパンサーの声で全員が回避すると、途端に広場の中央から電撃の檻のようなモノが出現した。ここまでくれば全員が罠が仕掛けられていた事を察するし、その仕掛け人にも注目が行く。

 

「小賢しい賊の分際で、手間をかけさせおって。手早く逃げた所で無駄だと何故分からん?」

 

「マダラメ……!」

 

「まさかそれがホンモノか?!」

 

 そして現れたパレスの主によって、オタカラの正体とそれに纏わるフォックスの因縁が明らかになった果てに――

 

「芸術家の皮を被った悪鬼外道……ここで成敗してくれる!」

 

 ――怪盗団とシャドウ斑目の直接対決が始まるのは当然の帰結であり、それによって誰もが先ほどの謎の人物の事を捨て置くのもまた必然だった。

 

 ☆☆☆☆☆

 

「――ただいま、三島くん!」

 

「うわ、ホントにやり遂げてきた! マジで身体能力は上がってないんだよな?」

 

「一言目からなんて物言いなの!?」

 

 そうして戦闘が始まった広間から廊下まで一気に駆け抜けて、誰もいない館内の一室で合流する二人の男女。もちろん私と三島くんの事である。

 

「流石の私もきつかったけど、ファーストコンタクトは大事だからね! ここは頑張らせてもらったよ!」

 

「その動きづらそうな恰好でよくやるなぁ……。それだけ本気ってことか」

 

「もちろんだよ。応援団って言ったからには、これくらいはしないとね」

 

 流石に疲れたので持ってきたスポドリを飲みながら、私は自分の言葉を肯定する。それはあのファストフード店で三島くんに語ったモノだ。

 

 誰にも知られずに怪盗団の活躍を見届けるとは言ったが、前回の潜入でそれだけじゃ良くないと分かってから、私は考えた。

 確かに誰だって見られたくない所はある。それは怪盗団のメンバーも例外じゃないし、前回それを見に行ってしまった私は良くない子なのだろう。

 

 でもそれを言ったら、私は喜多川くん以外にも多くの人の過去と未来を知っている。既に知ってしまっているのだ。記憶を失うか廃人にでもならない限り、その事実からは逃げられない。

 

 であるのなら、私はその事実を当人には知られないようにする。そうやって隠し通す事で、無駄に人を傷つけないようにするしかないと、そう思ったのだ。

 

「そこまでして正体を隠したうえで、怪盗団と接触するなんて……。もし捕まって詰められたりすれば、一発なんだろ?」

 

「まぁそりゃね。私なんて全然よわっちいし、ひとたまりもないだろうね」

 

 それこそ総攻撃で血祭りにあげられてしまうだろうけど、やってる事はまだストーカーだし仕方ない。いや避けられるのなら全力で避けるだけだけど。

 

「でもこうしないと見てますって事を伝えられないし、私に出来る手助けはしないと釣り合わないんだよ。一方的だとしても、私はそうするべきだって今は思うからさ」

 

 こんな変装までしたのもそれが理由だった。

 私の正体は知られるわけにはいかない。けれど怪盗団のファンとして応援しますって事と見ちゃってごめんなさいを言うためには、これしかなかったのだ。今回も少ししか話せなかったし、正体を隠しながらうまくこの気持ちを伝える機会がまたあるといいんだけども。

 

「本当に、俺も行かなくてよかったのか?」

 

「うん。流石に三島くんにそこまではお願いできないよ。前回よりももっとハードな時もあるだろうし」

 

「いや、そういう意味じゃなくてさ。応援団って言っておきながら、結局は寺崎一人でやってるようなもんじゃん? こう、怪盗団の戦略的広報担当としては応援団でも何かした方がいいと思うんだけど」

 

「諸々準備を手伝ってもらったけど、それじゃ満足できないってことかー」

 

 今の私が来ている衣装は、三島くんに頼んで調達してもらったものだ。私が男物を買うのはちょっと目立つし、三島くんに用意してもらった方が足もつきずらいかなと思ったのだけど、まぁ雑用みたいなもんだからそりゃそうだよね。

 

「でも私一人じゃそもそも異世界に来れないから、これでもすごく頼りにしてるんだよ? やっぱり一人じゃないってだけで全然違うし」

 

「だとしても、こうして俺も変装してるからさ。次は俺も二人目としてばっと登場すれば……」

 

「まぁそれはその時に考えよっか。じゃあそろそろ怪盗団の戦いを見に行こうよ!」

 

「あ、それはやっぱり行くんだ……」

 

 答えの出ない問いはひとまず置いといて、そろそろ例の広間に戻る事を提案した。

 ちょっと休憩が欲しかったのもそうだし、あれだけ決めてからすぐにチラ見するするのも恰好がつかない気がするからね。今すぐ行けば、きっと戦いの決着くらいは見られるだろう。

 

 けど一旦ここまで戻りたかった最大の理由は一つだ。

 

「じゃあ着替えるからちょっと待っててね。流石にこの変装、暑いから」

 

「えっ、ちょっ!?」

 

 

 

「よしよし、まだ戦いは続いてるね! ……どうしたの三島くん、そんなに離れて」

 

「いや、なんでもない……」

 

 汗だくになった衣装をカバンに押し込んでから最低限のケアだけ済ませて戻ってくると、怪盗団は沢山のマダラメと戦っていた。文字通り、マダラメが分身しているのである。

 

「これが我が最大にして最高の妙技だぁぁっ!」

 

「こいつ、自分自身を複製しやがったのか!?」

 

「贋作が幾つあった所で……!」

 

「すごいよ三島くん! 殿様が沢山出てきて、あっという間に狩られていくよ!」

 

「何も間違ってないんだけど、凄い光景だなやっぱ……」

 

 けど原作同様属性が分かりやすいので、すぐに気づいたジョーカーによって鮮やかに敵戦力を削っていく。いつもの戦闘よりも多めに魔法が飛び交っているように見えて、とっても楽しい。

 

「パンサー、次を頼む!」

 

「オッケー! バトンタッチだね!」

 

 そして弱点をついて敵が怯む度に、別の味方が更なる一手を叩き込んでいく。一斉に動いているようでいて、されど連携の取れた動きを見ているとやはり目が足りなくなってくる。手元で録画している映像もまた何回か見直さないと、ホントの意味でどう動いているかの理解は出来ない程だった。

 

 そうしている内に、戦いは終着へと向かい――

 

「これで仕舞いだ、マダラメッ!」

 

「ぐあああああっ!」

 

 最後はフォックスの一刀によって両断されるマダラメが倒れ伏す事で、このパレスでの戦闘は終わりを迎えたのだった。

 

 

 

「ま、待てっ! 命だけは助けてくれっ!」

 

「現実の世界で全ての罪を自白するんだ! いいなっ!?」

 

 そうして敗れたマダラメに、かつての師に強く迫るフォックスを見ながら、私は横の三島くんの腕を取った。

 

「よし、じゃあ先に私たちも脱出しよう。そうしないと、怪盗団の皆に気づかれちゃうからね」

 

「あ、ああそうだな。なら急がないと」

 

「うん。ここからはマジで全力疾走だからね! 覚悟決めてね三島くん!」

 

「……次は折りたたみ自転車とか持ってこようかな、うん」

 

 後ろ向きな決心をする三島くんの背を押しながら、パレスの入り口を目指して走りだす私たち。その背後では、マダラメと怪盗団の会話がまだ続いていた。

 

「あ、あやつは来ないのか? あの、黒い仮面の……」

 

「黒い、仮面だと……?」

 

「それって、さっき助けてくれた奴の事か!?」

 

「じゃあやっぱり、あれはワガハイたち以外の侵入者だったのか!?」

 

 あ、ここで怪盗団以外の侵入者の存在が明かされるのは知ってたけど、やっぱりそうつながっちゃう? さっきの私がその侵入者だと思われちゃってるよね、コレやっぱり!?

 

「ん、寺崎どうかした? 何か聞こえたのか?」

 

「い、いや何でも!? そろそろ崩壊が近そうだから、もっと急がないと駄目ってことくらいしかないかな!?」

 

「嘘、まだ速く走らないと駄目なの?! これでも結構全力だよ!?」

 

 既に息も絶え絶えな三島くんが悲痛な叫びをあげるが、変装用に黒い仮面を用意したのも彼なのである。他に代用できるモノもなかったので諦めたけど、やはりこうなってしまったか。

 

(けどここで一度接触しておかないと今後に関わってくるからなぁ……。いやもう決心したんだ、私も腹をくくらないとね!)

 

 原作を知る者として、ここでの介入がどんな影響を与えるのかの完璧な予測は出来ない。けれど想像が出来る範囲で私は備えなければならないだろう。だから三島くんには待機してもらったんだし。

 

 怪盗団の活躍は見続ける。けれど彼らの邪魔はせず、存在を知られるような事もしない。むしろ怪盗団の力になれるように動きながら、私は私の目的の為に意思を貫こう。

 たとえ、その報いをいつか受けることになったとしてもだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――失礼。その制服、秀尽の学生さんだよね? ちょっといいかな?」

 

「…………え、は、はいっ?!?!」

 

「ああごめん、驚かせちゃったかな。僕、明智(あけち)吾郎(ごろう)って言うんだけど」

 

「ほ、ほ、ほぁぁぁっ!?!?」

 

 けれどその報いは、完全に予想外なところから来ることになるのだった。




☆寺崎叶
 前回からそこそこ悩んだ末に、貫くことを決めた女子高生。
 その結果黒い仮面となった上に、とあるエンカウントが確定になった。
 因みに変装で正体を隠しているつもりだが、身長は誤魔化せていない模様。

☆三島くん
 あの後寺崎から思いを吐露され、応援団としての活動を続ける事を決めた男子高校生。
 その結果色んな準備をする羽目になり、彼もタウンワークとか見始めるようになった。
 変装は別に彼の趣味ではなく、彼女からの注文に従った結果。仮面の色なんて関係ないだろ?

☆怪盗団
 なんかまた変な奴が出てきたが、流石に不審者すぎて警戒レベルが上がっている。メメントスでの不審者ともいずれは繋げて考えるようになる模様。一体、何者なんだ……!

☆とある高校三年生の男子
 なんかいるなぁ……。

前回出てきた問いに葛藤するシーンをすっ飛ばして、解決編のお届けです。
葛藤シーンもいずれはやる予定なのですが、ちょっと煮詰まったのと彼をとっとと出したかったが故にこうなりました。彼がいるだけでモチベが段違いなので許して欲しい。
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