異世界マフィアの次期ボスにTS転生した話 作:AK i
「…………」
「…………」
「……っっっ、終わった〜〜〜!」
よっし、終わった!ようやく!終わった!
屋敷に戻り、クロギリとダリオだけになると思わずガッツポーズが出てしまう。俺は頑張ったよ、面倒な奴ら相手によくやったよ。自分で自分を褒めていると、ダリオは感心したように頷いた。
「やっぱお嬢はこうだよなァ」
「やっぱとはなんだ、やっぱとは」
「さっきの演技似合っててなかった。迫力はあったけどさァ」
それは……褒めてる?若干のディスりを感じるんだけど。
「ご立派でした。あのモーリッツ殿相手によくやっていたと思います」
「えっ、クロギリから褒められた。明日雪降るのか」
なんなら槍かもしれない。それほどまでにクロギリが素直に褒めるのは珍しい。浮かれていると前言撤回されそうなのでほどほどにしておく
ともかく、一山越えたって感じだ。もちろんこれからやらなきゃいけないことも沢山ある訳だが、土台はなかなか上手く出来たのではなかろうか。
「ぴゆ〜〜!」
「おーピヨ助も褒めてくれんの!可愛い奴め」
会議中先に帰らせていたピヨ助をうりうりと撫でていると、クロギリが手で追い払った。驚いたように飛び上がるピヨ助。おいおい可哀想だろ、動物愛護の精神とかないのだろうかこの男には。
「言葉の通じないものって嫌いなんですよね」
「なるほど……」
「そうかァ?」
言葉が通じないものが好きそうなダリオは疑問形だが、クロギリが子供やら動物やらを苦手としているのはちょっとわかる。懐かれないだろうし。
♢ ♢ ♢
葬式も終わり、バタバタした雑事がようやく片付いた後。
俺はとある部屋――クソ親父の元私室へとやってきた。同じ屋敷に住んでいたとはいえ、俺の部屋は離れでここは本邸。娘である俺すら滅多に訪れたことがなく、幹部連中でも足を踏みいれたことがあるのは片手にも満たない面々だけだろう。
で、何故俺がそんな部屋にクロギリとダリオを連れて訪れたかというと。
「あのクソ親父のことだから裏帳簿があるはずだ。取引先の情報を知らないとどうしようもない」
「裏帳簿ねえ」
クソ親父はクソだったが、有能であった面も認めなくてはいけない。ディナーレがここまで大きくなったのは紛れもなく先代ボスの功績で、その過程にあった取引は俺がボスになった後も全ては明らかになっていない。それを知るために俺たちはこの部屋へとやってきた。
部屋の中は薄暗く、部屋の主はもういないというのに掃除が行き届いていた。窓のない空間に染みついた重い煙草の匂い。
「どっこにあるかな〜」
机の棚、壁の隙間、オルゴールの隠し底。僅かな違和感を見逃さないよう神経を尖らせる。
鍵のかかった引き出しを開け、中に詰まった書類に一枚一枚目を通す。
いちいち高価な家具を使っているのは見栄だろうか。誰も通さない私室すら陰気で嫌になる。
「おっ」
ダリオが弾んだ声をあげた。
「なんか見つかった?」
「おー!いいモン見つかったぜ」
手に掲げているのは……瓶?
「高そうな酒!こりゃあ掘り出しモンだな」
「へえ」
ほっくほくの笑顔を見せるダリオ。俺まだ酒飲めないんだよな。前世は割と強かったんだけど今はどうだろう。そんなことを考えたせいか超どうでも良さそうな返事が出てしまった。
奥の本棚周りを調べていたクロギリが振り向く。
「お嬢、良いものが見つかりましたよ」
「何?たっかい煙草でも見つけた?」
「いいえ。隠し扉です」
ニヤリと笑ったクロギリが本を一冊引き抜き、その奥にあった仕掛けを動かす。すると本棚はぎ、ぎ、ぎ、と重い音をたて左右へとズレた。
秘密基地みたいだ。クソ親父の趣味かな?初めてセンスに共感した。
「奥は……書斎か。どれどれ〜?」
側にあった時計を手に取る。かなり古いものに見えるが、これは……
「おいお嬢、そりゃ禁忌術具だぜ。触ったら厄介なことになりそうだから辞めとけ。たぶん時間……いや空間、んー大分複雑なやつが込められてる気がすんなァ」
ぎょっとして手を離す。この古ぼけた時計がそんな大層なものが込められている術具には見えなかった。
周りをざっと見渡すと、似たような古い物がたくさんある。もしかしなくとも、これ全部禁忌術具だったりするのか。
「クソ親父のコレクション、か。こんなに集めて何をするつもりだったんだか」
「碌でもないことなのは確かでしょう」
「そりゃね。……しっかし圧巻だなー。術具同士で不具合とか起こさないのか」
「動かねーやつもかなりあるぞ。この灯りなんかはもう期限切れだ」
ダリオはプラプラとランプを揺らして見せる。仄暗い室内を照らしていたであろうランプは灯りのところにヒビが入っていた。
書斎の中央には重厚な机と椅子が置かれている。部屋中を見渡せるその椅子にどっかりと腰をかけた。
ディナーレのボスが唯一気を抜けた部屋。クソ親父の座っていた椅子。ひっそりと隠れるように作られ、誰も信頼しなかった男によって使われていた、血に染まった玉座。
「……座り心地悪い椅子だな」
「マジかよ、そんなに高そうなのに?だってクッションとかふっかふかで……」
「お嬢、この男に国語力を期待しない方が良いかと」
「あぁ、うん、実感した……」
逆にクロギリが凄いと思うよ、以心伝心ってやつか。
背もたれから身を起こし、机の引き出しをひとつずつ確かめていく。あまり使われていなかったのか出し辛い、が、二段目だけは妙にスムーズに引けた。
中に入っていた書類を取り出して、引き出しの底に触れる。
「……見ぃつけた」
引き出しの奥にあった隠し底。指で少し押すと、パコンと小さく音がして、中にはまた書類が入っている。
「何が書いてあるんです?」
「ん、んー……これは、手紙?このサインはクソ親父のものだし。あは、こっちはレーランド伯爵との取引状?真っ黒にも程があるな。禁忌術具の売買にー、ロベルトの商売認めてるのもあるしー、これは……」
一番下に埋もれていた紙。つるりとしていて明らかに上質なものだと分かる。そこにはクソ親父のサインと、
「……ヴァーミリオン?」
国教であり、他国でも広く信仰されている女神教。その総本山はこの国にある。そして女神教の現トップと言えばヴァーミリオン・エルカトラムという男。その名前が記されていた。
「教会のトップと……マフィアに繋がりがある、ってことか?」
「ほォ、そりゃ大スキャンダルだなァ。あの男がねえ」
もちろん名を騙っている可能性だって存在する。だがそれにしてはあまりにも状況が出来すぎているし、誰も入らない部屋で教皇の名を騙る書類をここまで厳重に隠す必要が見当たらない。
「どう思う、クロギリ」
「……あり得るかと。彼は清廉潔白だと巷では言われていますが……裏社会からの評判は別れています。前回選挙では不自然な経緯で当選していますし」
「十年前だっけ?クソ親父の全盛期だなぁ、今よりずっとディナーレの影響力はデカかった」
クソ親父はクソだが、寝込む前はそりゃもう猛威を振るっていた。理不尽な掟の数々に誰も逆らわないほどに。あぁそうだ、その頃なら教会にだって手出しできるだろう。
「女神様の使徒が不正に手を染めてたってわけか。嫌になるなぁ」
「で?お嬢はどーすんだよ」
「まだこの情報は俺には使えない。デカすぎるし、扱いにくいしな。ただ切り札にはさせてもらおうか」
ニヤリと口角を上げる。入りたくもない私室に入った甲斐はあったというものだ。
――だが同時に、背筋に薄ら寒いものが走っていた。
教会、貴族、禁忌術具。クソ親父はどこまで手を伸ばしていた?そして、そんな男が最後まで隠し続けたこの書類を、今俺は手にしている。
静まり返った隠し書斎で、古時計の針だけがかちり、と鳴った。
「……なんか嫌な予感してきたな」
誰に向けるでもなく呟くと、クロギリが小さく目を細める。
「お嬢。こういう時の勘は大抵当たりますよ」
その言葉に俺はうげえと顔を顰めた。嫌なこと言うな。