異世界マフィアの次期ボスにTS転生した話   作:AK i

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⚠︎not倫理⚠︎
※近親相姦、児童虐待の匂わせあり


3話

 

「お嬢」

「…………」

「お嬢、」

「…………嫌!無理!行きたくねえ!」

 

 はあ、とクロギリに特大のため息を吐かれた。俺だってそうだよ、絶対に嫌に決まってる。

 

「なんで俺がクソ親父の見舞いになんか行かなきゃなんねえんだよ!」

「ボスですから」

「知ってるけどさあ!」

 

 ああ嫌だ、誰がクソ野郎の見舞いに行きたいのか。あ、いや居るには居るのか、その権力を狙う奴とか……それって俺もじゃん。

 

「幹部らは皆見舞いを行っています。むしろボスの病室の予約はいっぱいです」

「げえ、物好き共がよ……ボケたジジイの相手なんてして何が楽しいんだ」

「ボケているからこそでしょう。遺言で後継者として指名されるかもしれませんから」

 

 遺言ねえ。あの自分一人だけが良ければ全て良しな男が後継者なんて指名するのか。むしろ最後に財産の全てを孤児院に寄付すると言い出す方があり得ると思うね。最後に偽善でもして天国に行きたがるタイプだ、あのクソ親父は。

 そんな想像をしてゾッとした。汚い手段を用いて稼いできた莫大な財産。多くの禁忌術具や、広い土地、貴族以上に蓄えた金。それらが全て空中分解する。群がる蠅共は俺の想像以上に多いだろう。

 

「はあ……でも、予約はいっぱいなんだろ?」

 

 最後の悪あがきとして尋ねると、あっさりと答えられる。

 

「はい。ですがお嬢はボスの娘ですからね。予約なんて必要ないですよ」

「うっわ」

「家族じゃないですか」

「……それ、マジで言ってる?」

 

 ニコリと微笑むクロギリはなんとも胡散臭い。本心からそれを言っているなら俺はこいつとの付き合いを考え直さなければいけない。

 

「あーもう分かったよ! 行けばいいんだろ行けば!」

「そうですね」

「くっそ……絶対俺から離れるなよ、クロギリ。二人きりにしたら許さねえからな」

「ええ、もちろんです」

 

 そんなこんなで俺はクソ親父の見舞いに行くことになったのだった、まる。

 

 

 翌日。

 俺はクソ親父の病室の前に立っていた。本当に予約いらなかったよ、むしろどうぞどうぞと譲られたよ。断ってくれりゃ良かったのに。

 

「はあ……」

「往生際が悪いですよ、お嬢」

「分かってるよ……」

 

 ふー、と覚悟を決めて扉をノックする。返事はない。だがそんなことを気にする必要はない。

 

「お、おぉ……き、たか、カティア」

「…………」

 

 広い病室。必要ないだろうに、ベッドはやたら豪華だ。そこには一人の男が寝そべっていた。

 

「来、い……こちらへ」

 

 嗄れた弱々しい声。でっぷりと太った腹。よろよろとした動き。真っ白な髪も僅かしか残っていない。かつて裏社会を恐怖で纏め上げ、莫大な財産を築き上げた男は――ただの弱った老人になっていた。

 

「おそ、いぞ……わが、むすめ……」

「……用事があったので」

 

 枕元に立つと、皺くちゃの手がするりと俺の手を掴む。思わず顔を顰めそうになって必死に堪えた。

 声も顔も身体も、全てが弱々しい。それなのに瞳の光だけは前と変わらないものだから嫌になる。俺は昔からこの目が苦手だった。

 

「ほ、ほ、ほ……お前は、うつくしくなった……」

「そうですか」

「あぁ、母親に、にている……」

 

 クソ親父が孕ませた女。俺の母親。見たことがあるのは一度きり。俺が生まれた瞬間だけだ。

 何故いないのか疑問に思っていたこともあったが――今は知っている。俺の母親は自殺したのだ。目の前の男から逃げるために。

 

「あ、あぁ……ナディア……」

「っ!」

 

 男の手が背中へと回る。そっと背中を撫でる手に鳥肌が止まらない。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。生理的な嫌悪感に吐き気が込み上げる。

 

「……実の娘に盛ってんじゃねえよ、クソジジイ」

「は、はは……口が過ぎるぞ、カティア」

 

 ああ、嫌だ。このクソ野郎は欲を隠さない目で俺を見つめた。でもその目はきっと俺を見ていない。見ているのは俺を通した母親の面影だ。

 

 後ろにいたクロギリが我慢できなくなったように足を踏み出す。お前が見舞いに行けって言ったんだろうに。こうなることは知ってたんだろうに。だから嫌だって言ったのに。でもクロギリの言い分も分かるから、な。

 

「クロギリ、止めろ」

「ですが……」

「いい」

 

 殺しますか、と訊かれている気がした。確かにクロギリなら簡単にこの男を殺せるだろう。いやもはや俺ですら殺せるかもしれない。この弱り切った首を絞めて、脆くなった骨を折れば、きっとすぐにクソ親父を殺すことができる。それはとても甘美な誘惑だった。でも。

 

「あ、ぁあ……惜しい、な……この身体では、もうお前を……」

「キッショ、黙れよクソジジイ」

「もう、この男には……許したのか……? は、はは……」

「ボケすぎて頭腐ってんじゃねえの? あぁいや元からか」

 

 クソ親父の手をはたき落とすと、その手はベッドの上へ落ちた。簡単に、呆気なく。こんなもんかね、つまらん。

 

「分かるだろ、クソ親父。なんのために俺がここに来たか」

 

 そう告げると目の前の男はカッと目を見開いた。ニチャニチャとした笑いが引っ込んで、憤怒の表情になる。

 

「おま、えも……この座を奪うと……?! は、はは、まだ、まだだ、誰にも譲ってやるものか……!」

「ボケてるくせにまぁだ執着してやがる。潔く後継者の席空けろって」

「ふ、かのうだ……お前には、絶対に……」

「んー、やってみなきゃ分からんだろ?無茶するのは若者の特権だよ、ご老体」

 

 生き汚くて、醜いいきもの。これがあの親父だとはしんじられんね。前の威厳(笑)をどこに落としてきたんだか。

 三歩、後ろに下がる。そうすればもう手は届かない。俺は義理を果たしただろう。この世界に俺を産ませた男に対する、最後の義理を。

 

「後は、譲り受けるだけだよな」

「、は……」

「知ってんだよ、クソ野郎。お前の力。隠し持ってるんだろ? とっておきの禁忌術具をさ」

「な、ぜそれを……!」

 

 なんでだろうなぁ、まあ男ってのは馬鹿だからな、特に油断し切ったベッドの上では。

 

「指輪、くれよ。父親なんだ、愛娘に遺品を遺してくれたって良いよな」

「わ、渡すものか!これ、は、わしのモノだ……!」

 

 俺の指示でクロギリは老人の指に嵌められた指輪を取ろうとする。いくら固く嵌めようと、いくら抵抗しようと、病人が鍛えている若者に勝てる訳もない。あっさりと指輪は外された。

 

 ディナーレファミリーのボスと約束をするな。一度すればもう後には戻れない。この国の裏社会にはそんな噂がある。恐れと共に広められたその噂は、少しでも裏社会に関わりのある人間なら誰もが知っている。

 

「約束を破った奴の末路は悲惨。少しでも裏切りを働いた時点で沸騰したように血が湧き上がり、苦悶の声を上げて死ぬ……だっけ? それってこの指輪の力だろ?」

「き、さまぁ……!」

「そりゃこの力があれば裏社会で成り上がれるよな。ここじゃ裏切りは常套なのに、それを抑制できるんだから」

 

 くるくると指輪を回す。何の変哲もない、シンプルな金の指輪。ディナーレのボスが肌身離さず付けていた秘密兵器。

 すっと指を通せば、太った男が付けていたとは思えないほどぴったりと嵌った。華奢な白い手に金の指輪が映える。

 

「……その指輪を……狙う者は、多い……後悔する、ぞ」

「それ、嘘だろ。アンタが指輪の効果を誰かに話すとは思えんね」

 

 狡猾で、嘘つき。誰も信用していない男が自らの秘密を、たとえ側近だとしても話している訳がない。もし話すとすればそれは――絶対に裏切らないと確信していた、愛する女に産ませた自らの娘とか、かな。

 

「なあ、約束をしよう。えーっと、そうだな……『もうこれ以上何も話さない』なんてどうだ?」

「っ、……!」

 

 病気のせいか、恐怖のせいか。目の前の男は哀れなほどにぶるぶると震えた。何か言おうとしても喉の奥に物が詰まったように出てこない。憎々しげにベッドから俺を見上げた。

 以前、この男から聞いたこと。普通約束とは双方が形の上でも同意しなければならないが、初回だけはその制約から逃れられる。なんとも都合の良いことだ。

 

「じゃあな、次会う時は葬式であることを願うよ」

「……っ!……っ!」

 

 くるりと背を向けた。もうこの男に用はない。だが、本格的に死なれる前にやらなければいけないことはたくさんある。

 

「行こう、クロギリ」

「はい、お嬢」

 

 扉が閉まる。もう振り返ることはなかった。

 

 

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