異世界マフィアの次期ボスにTS転生した話   作:AK i

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4話

 

 

 

 気持ちの良い朝。窓から差し込む光に目を細め、うーんと伸びをする。手にはめられた金の指輪が反射してキラキラと光った。

 なんでだろうな、気分爽快でとても清々しい。いやー良いなーこんな日が続いて欲しいなー。復讐は何も生まないなんて嘘だなー。

 

 そんな風に考えていると、ドタドタと部屋の外が騒がしいことに気づく。そしてノックの音が三回聞こえた。うわ、嫌だ開けたくない。

 

「失礼します」

「良いって言ってねえんだけど! 乙女の部屋に勝手に入るんじゃねえ!」

「乙女? はっ」

 

 鼻で笑ったのはクロギリである。なんてムカつく野郎だ、ここに立派な年頃の乙女がいるというのに。

 寝巻き姿の俺を見ても眉ひとつ動かさず、淡々と持ってきた資料を渡される。寝起きなんだけどな、俺。

 

「で、なにこれ」

「最近治安が悪化しているでしょう。それに乗じてふざけた輩も出てきたそうです」

「ふぅん……?」

 

 資料を見るとそこには連続殺人鬼の文字。

 ディナーレが拠点を構える王都西区で殺人なんて珍しくも何ともないと思われるかもしれないが、実はそうでも……あるか。だが、逆にディナーレが関わっていない案件というのは珍しい。あまりうちのシマで好き勝手されるのは困るからな。

 

「今月に入って六件目です。流石に対処すべきかと」

「げ、そんなに? ってか同一犯なのは確定か?」

「はい。死体はいずれも酷い損傷がありました。まるで、拷問を受けたように」

「……ほお」

 

 拷問、拷問ねえ。こちとら別に正義のマフィアではない。薬も拷問もお手のものな、真っ黒な犯罪組織である。だからこそ知っている。拷問は素人が出来るものではないし、明確な目的が無ければ出来ないと。 

 ディナーレのシマで拷問死体が出た、というのはどうにもきな臭い。

 

「敵対組織か?」

「いえ、今のところエルデラにもコフェディにも動きはありません。彼らならもう少し上手くやるでしょう。……これは推測ですが、個人の犯行かと」

「理由は?」

「拷問自体はプロのように見えますが、対象と経路が雑すぎます。単なる猟奇殺人犯の動きに近い」

 

 拷問とは相手から情報を得るためにやるものだ。だからこそ対象を絞らなければ意味がない。情報を持っているかも怪しいのに、わざわざ拷問するなど手間だ。

 野良の拷問官でもいるのかね。それなら是非とも勧誘したいところだが。俺は血が苦手だし、クロギリは手加減が下手くそなもんで。

 

「うーん、そうだな……よし、決めた」

「はい」

「何を決めたかも言わない内から頷くなっての。こいつ、勧誘しよう」

「はい……はい?」

「上手いなぁ、こいつ。写真ですら分かるぞ、この切り口とかすっげえ丁寧。こんな風に出来たらするする情報出てくるだろうな〜」

 

 ディナーレとしてなら拷問が上手い奴は数人いる。だが俺自身の手駒にはめっきりいない。幹部連中の息がかかった奴より、現地調達した方がまだ信頼できる者が手に入るだろう。

 

「よーしそうと決まれば内密に調査すんぞ!頼んだ、クロギリ!」

「また突拍子もないことを……生捕りで良いですか?」

 

 なんだよ、お前もノリノリじゃん。殺人鬼に当てられたか?

 

「いえ、お嬢と俺だけじゃ層が薄いので。適度な暴力装置も必要でしょう」

 

 それは俺が暴力装置としては役に立たないと言ってるな? その通りだけど。女の身は舐められやすいし、俺には暴力を喜ぶ趣味も、高度な拷問器具を扱う技量もない。殺人鬼はきっとそこを補ってくれるだろう。

 

「じゃ、なる早で頼む。俺は幹部連中の口撃を誤魔化さなきゃならんから……」

 

 殺人鬼はクロギリに任せて、俺は目を逸らしていたことに向き合わねばなるまい。憂鬱だぁ、アイツらしつこいんだよな……

 

 

♢ ♢ ♢

 

 

 一週間後。

 ようやく幹部連中との話し合いから逃れた俺は疲れ切っていた。クソ親父が話せないほど衰弱しただの、早く婚約を決めろだの、愚痴愚痴うっせーんだわ、あのジジイ共。それでも俺がクソ親父に何かしたとは思わないところに、奴らの先入観が垣間見える。まさか娘がボスに逆らうとは夢にも思っていないのだろう。これまで大人しく従っていた甲斐があるというものだ。

 

「お嬢、例の殺人鬼ですが」

「お、見つけたか」

 

 早速、クロギリが例の殺人鬼の情報を得たらしい。普通にめちゃくちゃ有能で助かる。

 

「えぇ、まあ……既に地下に捕らえています」

「はや!それにしては態度が煮え切らないけど」

「……会えば分かるかと」

 

 ここまでクロギリが言い淀むのも珍しい。すげー気になるんだけど。

 

 どこかワクワクした気持ちで地下への階段を降りる。殺人鬼なんてものをお目にかかるのは初めてだ。そりゃあ期待値も跳ね上がるってもの。どんな奴だろう、イカした美学とか持ってたりして。カッコいい信念とかを遂行するために殺人を犯すダークヒーロー的なものも捨てがたい。

 

 太陽光の届かない薄暗い地下室。ディナーレの地下室と言えばどんな悪人でも恐れると評判だ。そんなところに捕えられた奴に向けて俺は微笑んだ。

 

「ふんふん、初めまして殺人鬼。気分はどう?」

「なんでチビ女が出てくンだよ、もっとマシな奴連れてこいや!あァ?!」

「…………」

 

 なんか、こう……

 

「チンピラかぁ……」

 

 金髪のチャラチャラした男。顔がなまじ整っているためナンパをしてそうなチンピラにしか見えない。こちとらマフィア歴十何年、厳つい顔をした男共を見てきたものだからチンピラ程度にはビビれない。

 クロギリが微妙な顔をしていた理由が分かった。なんか小物くさいもん、こいつ。

 

「あー……お前が最近の事件の犯人か?」

「聞いてんのかクソが!出せっつってんだよ!」

「これが、かぁ」

 

 まあ喚くこと喚くこと。重々しい地下室が一気に騒々しくなる。むしろここまでチンピラらしいチンピラを見たのは初めてかもしれない。マフィアの娘として大物ばかりと関わってきた弊害か、こんな小物を見たことがなかった。

 

「本当に拷問してた奴か? 間違ってんじゃねえの?」

「舐めた口聞くんじゃねえぞクソアマ!」

「舐めてんのはそっちなんだよなぁ」

 

 どうしたって後ろに怖い男が控えている相手に向けていい言葉遣いじゃないだろ。状況を見てくれ。

 

「お嬢……やはりやめましょう。こんな男必要ありません。沈めておきます」

「待て待て、気が早すぎる。もう少しくらい……」

「キメェんだよ化け物が!殴った挙句に知らねえとこに連れてきやがって!」

「活きが良いな……」

 

 クロギリを前にここまで喚ける奴がどれだけいるか。クソ度胸の持ち主なのかもしれない。なんだか一周回って興味深く思えてきた。

 俺はわざとらしく息をついて、ひらひらと殺人現場の写真をかざした。

 

「はーあ、この綺麗な切り口で殺した奴を探してたんだがなあ。ここまで正確に痛めつけられる奴とか貴重なんだけどなあ」

「……んだよ」

「拷問の才能があると思ったんだけどなあ、お前じゃないのかあ」

「……チッ、話だけ聞いてやる」

 

 ちょっっろ。お前流石にこれで良いのか。結構俺の演技大根だったと思うんだけど。これが幹部連中なら骨の髄まで搾り尽くしてくるのに。

 

 縄で椅子に縛られた男の前によっこらせと座り、相手を観察する。歳は二十くらいか? 結構若いがよく身体を鍛えていて、これなら死体を運ぶことも可能だ。目つきは悪く、そこがこの男をチンピラっぽく見せている理由のひとつだろう。あとは態度。

 

「ここがどこか分かるか?」

「あ゛?知らねえわ、んなとこ。殴られて気づいたらここに居たンだよ」

「王都西区三番地の地下。俗に言う『ディナーレの墓場』だな」

「はァ?……は?!」

 

 何を言っているんだこの女は、といった顔をして、冗談でないと分かると男はひどく狼狽した。

 悪名高き『ディナーレの墓場』。そこに連れて行かれて帰ってきた者はおらず、住所すら曖昧な誰も近づかない悪魔の地。

 そんな所に居ると言われて驚かない奴なんていないだろう。

 

「チッ……だからンだよ。お前がディナーレだってか?クソ弱そうな女が?」

「そうだけど」

「おいおい……お前消されるだろ」

 

 (笑)が付きそうな嘲笑をされた。なんたる屈辱。

 

「本当ですが。この方はディナーレの一人娘」

「カティア・ディナーレだ、よろしく」

「…………マジかよ」

 

 いやあ、チャラくさい男の驚いた顔は健康に良いな!

 

 

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