異世界マフィアの次期ボスにTS転生した話   作:AK i

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5話

 

  驚いた顔を見せたことが恥ずかしかったのか、男は殊更ぶっきらぼうに吐き捨てる。

 

「で、そのディナーレの女が何の用だ。シマ荒らされた報復か?」

「んにゃ、違う。殺されたのは別に部下でも何でもないしな」

 

 そう、連続殺人による迷惑は少なかった。もしこれが末端であってもディナーレの関係者であったり、逆にごくごく普通の一般人であれば俺らは自らのプライドをかけて捜査しなければならなかった。だが、殺されたのはよそ者ばかり。放っておいても困らない、殺されてもおかしくない、なんの情報も持たないようなクズ共だけ。だから六件も事件が起きたことを見逃した。

 

「この事件の面白いところは三つ。一つはディナーレ関係者をあえて除いたような被害者たち。二つ目はそんな器用なことをした上で拷問されたのがなんの情報も持たない奴らだったこと。そして事件の隠蔽や犯人の痕跡は素人くさい。なあお前、何を考えて殺したんだ?」

 

 金髪の男――ダリオ・ファールは唇を歪に釣り上げた。

 どうやって殺したのかも、誰が殺したのかも、簡単に追跡できた。だが動機だけが見えて来ない。そう報告してきたクロギリの悔しそうな顔はそれだけで酒が進みそうなほど。こういった時に自分の性格が悪くなったなーって感じるね。

 

「は、案外ディナーレってのも大したことねえのな」

「ん?」

「それか……ありふれてて気にも留めないだけか。なんであいつらを殺したかって? 簡単だよ、復讐だ」

 

 投げ捨てるような声でダリオは言った。

 

「ガキの頃、あいつらに捕まって売られかけたことがあってな」

「なるほど……人身売買か」

 

 確かに殺された連中はロクでもない奴らばかりで、過去にそういった事件を起こしていても不思議はない。組織に入れもしない外れ者が人身売買に手を染めることもあるだろう。

 ん? でも待て。人を売るってのは結構重労働だ。それがただの子供だとしても。不法移民で浚いやすいとか、よっぽど見目が良かったり珍しい色でもなければリスクに見合わない。ダリオの金髪碧眼ってのはこの国では少なくないし、顔だって、まあ整ってはいるがそこまででもない。

 

「売る価値あるか?」

「お嬢……言い方というものが。確かにそこまででもないですが」

「お前らド失礼だな……魔力だよ、魔力」

 

 やけくそ気味に告げられた言葉に息をのむ。確かにそれなら何人もの奴に狙われることも理解できる。だって、貴族でもない人間が魔力を持つのはひどく貴重で、魔力があれば魔法が使える。上手く使えば一攫千金だって狙えるが、それには相応のリスクが伴う、そんな可能性を秘めた力。その力を持っていると、そうダリオは言ったのだ。

 

「また狙ってきたから返り討ちにしただけだ。後はそのへんにいた関係者か。で、どこで俺が魔力持ちだと知ったのか問い詰めてたってワケだ。どーだい女、満足したか?」

「ああ、うん……」

「チッ、また返り討ちしてやろうと思ったのにソイツ化け物かよ。知らん間に気ィ失ってたぞ」

「クロギリに負けるのはしゃーないって。魔法使えないはずなんだけど」

「ええ。その男が魔法を使う前に捕らえてしまったので……まさか魔力持ちだとは」

「嫌味か、ソレ」

 

 心底嫌そうにダリオは首を振った。そして皮肉げな笑みを浮かべる。

 

「で?俺の秘密を知ったディナーレ様はどうするって?このままバラすか?」

「まさか。元々殺す気はなかった」

「どうだかな」

 

 まあチンピラに見えた時は一瞬迷ったけど。貴重な魔力持ちだと分かった今、みすみす逃すはずもない。おとなしく従ってもらうぜ、げっへっへ……

 

「お嬢、顔がゲスいです」

「やっべ。んんっ……私は貴方を部下として迎えたいと思うの」

「変わりすぎだろオイ」

「いいから。俺がディナーレの娘なことは理解してるな?だが、それだけじゃ後継者になれないのが此処だ。だからこそ俺は優秀な部下が欲しい」

 

 誤魔化すことも言葉を飾ることもせず、率直に告げる。下手な嘘は後々に響くからな、俺は部下に対して誠実でありたいのだ。マフィアだけどさ。

 

「お買い得だぞー俺は。将来性たっぷり、福利厚生はちゃんとある。たぶんね」

 

 部下になれーと念を込めて勧誘する。後ろでクロギリが呆れる気配がした。

 ちなみにこの世界にはまだ福利厚生とかいう概念はない。裏社会に育休制度とかあったらちょっと嫌だろ。でも俺は優しくて先進的だから育休もフレックスタイムも採用を検討するぞー。知らんけど。

 

「ハハハ!女のくせにトップに立とうって?」

「まー難しいわな。だから暴力に慣れてて忠実に動く奴が欲しいの。おまけに魔力持ち」

「俺のメリットは?」

 

 その言葉にニヤリと笑う。演技をするように大げさに、ダリオへ手を差し伸べた。

 

「もう狙われることはないし、魔法を隠す必要もない」

「……もし断れば?」

「せっかく返り討ちにしたのに結果は同じになるなー。もしくはその舐めた口が二度と開かなくなっているか」

「拒否権ナシかよ」

 

 手を引っ込め、そりゃあねえ、とばかりにクロギリと顔を見合わせる。()()()な倫理観を持つ俺としては、いくら犯罪者だろうと六人も人を殺した殺人鬼を処分することに罪悪感はないのである。

 ここで頷く方が賢いのだと、普通なら理解すると思うのだが……

 

「お断りだね。なんで俺がクソ女に従わなきゃいけねェんだ」

「じゃあ、もう一つ。人身売買する奴ら、潰したくないか?」

「……へェ」

 

 幼少期から狙われて。プロ並みに拷問技術を磨き、猟奇殺人に間違われるほどに殺し方に残忍性がある。おそらく人身売買に関わる奴らを憎んでいると踏んだのだが、どうだ。

 

「ンなこと、できんのかよ」

「できる。というか、しなきゃヤバい」

 

 俺がそう言うと、クロギリがピクリと眉を動かした。クロギリにも伝えていなかったが、人身売買を潰すことはほぼ必須だ。

 

「なんせ、俺の一番のライバルが人身売買の親玉なんでな。そいつを倒すついでに、この国の人身売買を止める」

 

 一応言っておくが、この国で人身売買はもちろん違法だ。治安が悪く、貴族が関与している場合があるからなかなか消えないだけで。だがそろそろ止めなければ不味い。前世の価値観から言っても許容できないし。

 

「ま、今のところ夢物語なんだけど。あの野郎、親父が倒れてからますます力つけてるし……」

 

 手駒がほとんどいない現状はなかなか厳しい。まだ幹部連中に可愛い可愛い何にも出来ない娘っ子だと思われている。世知辛いな。

 

「だから、なあ。『約束するよ、ダリオ。俺は人身売買を無くす、お前は俺に従う』、どうだ?」

「……いいぜ。約束してやるよ」 

  

 指に嵌った指輪が淡く光る。どうやら上手く魔法術具は発動したらしい。約束を破った者に死を与える魔法術具。あーあ、これで俺も逃げられなくなったな。

 

「お嬢!そのような双方向の約束は……!」

「大丈夫だよ、クロギリ。守ればいいだけだ」

 

 俺たちの会話に違和感を持ったのか、ダリオは指輪を探るように見た。すると、

 

「おま、コレ……!」

「なんだ、魔力持ちから見たら分かるのか?」

「当たり前だろッ!こんな強い、契約の力……!」

 

 恐れるようにダリオは言った。そんなに強い魔法術具なのか、コレ。そりゃあクソ親父が死ぬ直前まで手放さない訳だ。

 ダリオはぎゅっと目を瞑って、もう一度目を開く。そして諦めのため息を吐いた。

 

「腐ってもディナーレってことかよ……まあいい。約束しちまったもんは仕方ねェからな」

「おお!話が早いな」

「で、部下んなるって言ったんだから縄外せやコラ」

「はいはい」

 

 縄を外してやると、ボキボキと骨を鳴らしながらダリオは立ち上がる。意外とデカいなこいつ。

 そして後ろにいたクロギリは値踏みするようにダリオを見て言った。

 

「お前がお嬢の部下になるなら適切な言葉使いを教えなければ」

「はァ?」

「お嬢、しばしコイツを借ります。犬には躾が必要ですからね」

 

 なんだかクロギリがワクワクしているように見えるな……こういう時のクロギリは刺激しないに限る。

 なんて思っていたのに、顔を引き攣らせたダリオが口を開く。

 

「おいお嬢!この化け物と一緒にするなや!」

 

 よ、余計なことを……! 俺の顔も思わず引き攣った。

 

「お嬢、だと? お前風情がそのように呼ぶな!」

「何だよ嫉妬かオッサン!ちょ、マジでコイツ嫌なんだが!」

 

 謎に沸点の上がったクロギリにダリオは引きづられていく。流石に仲間になったばっかのところを殺さないとは思う……たぶん。自信はあんまりない。

 

 

 

 翌日、ダリオがひどくクロギリにビビっていたことだけは記しておこう。

 

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