異世界マフィアの次期ボスにTS転生した話   作:AK i

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6話

 

「カティア様、お荷物とこちらが届いておりました」

 

 そう言って女中に渡されたのは大きめの箱と、一通の手紙。誰からだろう、この家を知っている人間は限られているのに。そう思って手紙を開けた。

 

「……ふむふむなるほ……ど。く、クロギリー!ダリオー!」

「どうしたんですかお嬢」

「んなデケェ声ださなくても聞こえるって」

「だ、だって、これ!」

 

 それは手紙というよりも招待状だった。差出人はロベルト・レチネ。誰だ? と思っただろうが、何を隠そうこの男こそが俺のライバルであり人身売買の親玉、そしてクソ親父の()()()()だ。そんな奴から突然パーティーの招待状なんてものが届いたのだから慌てもする。そして一緒に渡された箱の中身を確認してみると、そこにはパーティーに着ていくにふさわしいドレス。完全にお膳立てされている。

 

「キッモ、なんでドレスまで」

「知らない訳はないでしょうから……確信犯でしょうね」

「あ? 何がだよ」

 

 能天気にドレスと招待状を眺めるダリオに二人して呆れた顔を向ける。

 

「普通、男が女にドレスを贈るなんて親子間か婚約者でもなければしませんよ」

「それもよっぽど仲が良くなきゃな。ロベルトの野郎、分かった上での嫌がらせだよ」

 

 いくらあの野郎が用意したドレスを着たくなくとも、贈られてしまった以上着ていかないのは失礼に当たる。親父が倒れた今、俺にこの誘いを拒絶できるほどの力はまだない。

 

「へぇ……大変そうだな」

 

 他人事のようにダリオは言った。ふっふっふ、まさか逃げる気でいるのだろうか。

 

「さあてダリオ君。ちょっと服を仕立てに行こうか」

「な、に言って……?!」

 

 だいじょーぶ、しっかり男前に仕立ててやるよ、会場中のお嬢さんが夢中になるくらいにさあ!

 

 

♢ ♢ ♢

 

「いらねーつってんのに……」

「まあまあ。敵を知るためだと思って」

 

 仕立てられた服を着たダリオは、従者としてふさわしい控え目さを持ちながらも、上品さとどこか退廃的な雰囲気を纏う青年になった。正直、想像以上に似合っていてビビる。

 

「あ、そうだ。ダリオ、パーティーで余計なことをするなよ」

「あ゛?」

「喧嘩を買うなってこと。俺が何言われてもな」

「そうですね……」

「クロギリもだから」

 

 え? とショックを受けたようなクロギリ。いや、マナーの心配はしてないけど喧嘩を買ったり煽ったりすることに対してはあまり信用してないからな?

 

 

 そして。

 俺はそう言っておいて良かったぁとしみじみ実感していた。

 

 貴族のように、財を見せびらかすかのように飾られた会場。だがそこにいるのは犯罪に手を染めた裏社会の人間ばかり。給仕の人間は奴隷だろうし、自らの奴隷を自慢するような悪趣味な連中もいる。

 

 その中で、最も目立つ者。

 

「おお!カティア様ではないですか!ようこそいらっしゃいました!」

「ロベルト殿。この度はお招き頂きありがとうございます」

「いえいえ、そちらのドレスもお似合いですよ。贈った甲斐があるというものだ」

 

 一見、にこにことした壮年の男。年は五十を超えていたはずだが、その快活さで年齢よりは若々しく見える。後ろで警戒していたダリオがふっと緊張をほどいた。ちょろくて心配になるよ。

 

「おや珍しい。今回はクロギリだけではないのですね」

「ええ、まあ。新しく迎えた従者なのですが、あまりこういった場には慣れておらず」

「そりゃあ仕方ない。舐め犬にマナーを説くのには苦労しますからな」

 

 空気が凍った。まるで飼っているペットについて話すように告げられた言葉。顰めそうになる顔を必死に笑顔のまま保つ。あまりの言葉にクロギリは顔色をなくし、ダリオは逆に関心したようだった。

 

「……そういったものではないのですが」

「ははは、隠さずとも。カティア様の好みはクロギリのような奴だと思っていたので、はは、今度はきちんと好みに合った者を贈りましょうぞ」

「……以前、奴隷を送ってきたのは貴方でしたか」

 

 少し前、頼んでもいない奴隷が屋敷に送られてきたことがあった。もちろん用はないので帰ってもらったが、「性奴隷として買い取られた」と主張していたので少々面倒だったのだ。

 このようなみみっちい嫌がらせ、というかセクハラを繰り返すこの男だが、組織での影響力は馬鹿にできない。豪華なパーティーを開けるのも、この男の資金力がなせる技だ。成金らしい豪華絢爛さは悪趣味だと思うけど。

 

 とはいえ、言われっぱなしというのも癪だからな。にっこりと微笑みながら言ってやる。

 

「贈り物からこのようなパーティーまで……まるで貴族のようですね。まあ、平民の私たちが本物の貴族を知っているとはとても言えませんが」

 

 ロベルトの顔が引きつった。ロベルトの貴族趣味は有名で、どうにかして爵位を買えないか試行錯誤していることは知っている。何度か下級貴族のパーティーに入れてもらったこともあるらしい。

 だが、所詮は平民。尊き血も守るべき領地もない、真っ黒な裏社会の人間だ。プライドの高いお貴族様のお眼鏡に適うはずもなく、ロベルトの貴族嗜好は趣味の範疇だ。

 

「はは、は……手厳しい。この場はお気に召さなかったかな?」

「まさか。ディナーレらしいパーティーだと思います」

 

 周りをぐるりと見渡して言う。そっと逸らされる視線と、背後に隠された血の匂い。この陰湿な場はひどくディナーレ()()()

 

「……いやはや。お姫様はお変わりない」

「姫ではありませんが」

「はは、クロギリが欲しいと強請る貴女はお姫様でしたとも」

 

 結局、こいつが言いたいのはこれなんだよな。幼い俺に目をかけていたクロギリを奪われたこと。子供の可愛い我儘で随分と嫌われたものだ。

 

「そんなに未練があるならもう一度勧誘なされば良いのです。……クロギリ、どうする?」

「お断り致します」

 

 だろうな、という感じだった。そりゃあ誰だって目をかけてもらっていたとはいえ、若さゆえに虐められるような環境には行きたくない。幼い俺が理解できないと思っていたのか、クロギリは以前の職場の愚痴をよく言っていたから知っている。そこでクロギリの好感度が上がったことは墓まで持っていく秘密だ。俺だって嫌だと思ったもん、そんな職場。

 

 けんもほろろに断られたロベルトの顔が歪んだ。表情を取り繕うこともせず、部下の環境も整えられず、ボスの娘にセクハラを繰り返すような男だから()()()()止まりなのだ。クソ親父はこいつを嫌っていたし。そこだけは意見が合致していた。

 

「ま、まあ、護衛は必要でしょうからな。ご結婚なさればその限りではありませんが」

「まだ十七なものですから……二度結婚されているロベルト殿には若輩者に見えるでしょうけれど」

 

 ちなみにロベルトは二度結婚し、二度奥さんに逃げられている。はは、ざまあ。……いや、うん、その逃げた奥さんが生きているかは分からないんだけど。

 

「いえ、もうカティア様は立派な大人ですとも。そういえば……エルデラの三男は同じくらいでしたね。もし良ければご紹介しましょう」

 

 今度は俺の顔が引き攣った。エルデラとは長く因縁がありそこに嫁げなどと死刑宣告に等しい。そして何より、

 

「あそこの三男は、確か十ではありませんでしたか」

「はは、その程度の年の差など誤差でしょう」

 

 俺とおねショタさせようってか?!なーんて言えるはずもなく。大人と言いながら十の子供と同じように扱われ苛立ちが募る。オレ、コイツ、キライ。

 

「……ロベルト殿のような()()()()()()()方にとっては誤差かもしれませんが、私にはそのような年の差などとてもとても」

 

 バチバチバチィッ!と見えない火花が散る。大抵の大人相手には猫を被る俺もこの男の煽りには耐えられない。根本的に合わないタイプだ。

 

「オイ。お嬢、喧嘩を買うなって言ってなかったか?」

「……まあ、こうなることは予想できた……」

 

 後ろで交わされる会話なんて聞こえない。俺は余計なことをするななんて言ってないから!

 

 周りを置いてヒートアップしていく嫌味の応酬。満足げに奴隷を自慢していた奴も、料理に舌鼓を打っていた奴も、揃って気まずそうにしている。こんなパーティーに出るくらいだしクズであることに変わりはないので気にする必要はない。

 

 

 込み上げる苛立ちのまま更に嫌味を言ってやろうとした、その時だった。

 

「た、大変です……!」

「なんだ!入場の許可は出していない!」

 

 たいそう慌てた様子で入ってきた従者に対しロベルトが怒鳴りつける。しかしその従者はそれどころではないようで、震える声で報告した。

 

「ろ、ロベルト様、……ボスが、ボスがお亡くなりになりました」

 

「……え」

 

 ひゅっと。自分の呼吸が止まったような気がして。俺の視界は真っ暗になった。

 

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