異世界マフィアの次期ボスにTS転生した話   作:AK i

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※動物の死体あり


8話

 

 次の日の朝。俺は珍しく女中が来る前に目を覚ました。裸足のままベッドから降りてふかふかのカーペットに足をつける。このまま女中が来るのを待っていても良いが、何やら窓の外が騒がしい。

 

「あ〜……って、鳥か」

 

 ぴーぴーと鳴きながら窓ガラスに体当たりをしているアホ鳥。羽の色は薄緑で美しいのだが、いかんせん騒がしい。何やってんだこいつ。生憎と俺にはそこまで動物愛護の精神は宿っていないので、窓を開けて中に入れてやる気は起きない。部屋の中に羽を撒き散らされても困るんだよな。

 

 そのまま無視を決め込み、ふと気づく。

 

「そういや、服……」

 

 この前言われた服のこと。やはりこの歳になってまで服を選ばせているというのはあまり良くない……気がする。俺としては着れたら何でも良いやといった気持ちなのだが、そうもいかないのだろう。クロギリを意識した服ばかり着ていると思われるのも嫌だし。いつの間にかペアルックになってたら舌を噛み切る自信がある。羞恥心で。

 

「偶には自分で決めるかぁ」

 

 メイクは女中に任せるとして、色使いだったり流行だったりを考えて決めなければならない。め、めんどくせ〜。女物の服って何でこんなに種類があるんだろうな。アクセサリーとかもこんなにいらないだろ、一つありゃあ充分だって。他の連中も女だったら好きだろうと言わんばかりに献上品は宝石の類いが多いし……俺としては美味いものとかの方が嬉しいのだが。

 

 そんなことを思いながら自室にあるでっかいクローゼットを開けた。

 

「……は?」

 

 そこには贈られたものや女中が購入したもの、たくさんの服が入っている。綺麗に整理整頓されて、取り出しやすいよう分けられている。しかし、その中に似つかわしくないものがあった。

 

「なん、だこれ。鳥の……死骸?」

 

 血。異臭が鼻をつく。以前着た覚えのある黒いワンピースの上に、見るも無惨な鳥の死骸が置かれていた。体中の骨が折られ、美しい薄緑の羽を散らし、血を吐いて、ただひっそりと。

 ぐっと眉を顰める。見知らぬ鳥。俺は別に鳥が好きという訳でもない。それでも気分は良くなかった。

 

 ぴーっ、ぴーっと先ほどの鳥の鳴く声がする。窓を開けて迎え入れてやると、バタバタと慌ただしく飛んで死んだ鳥の元に向かう。

 

「ぴ、ぴゆ、ぴぴぴ」

「もしかしてお前の家族だった?」

「ぴぴ、ぴー」

「……そりゃ、悪いことしたなぁ」

 

 本当に悪いことをした。だってこの鳥が死んだのは俺への嫌がらせのためだ。たぶん女中の誰かがクローゼットに死骸を入れたのだろう。……前にもあったしな。

 ひどくみみっちい嫌がらせだが俺の気分を害するという意味では効果覿面だ。小動物が犠牲になったこと、家の女中を抱き込んだこと、そして俺がこの程度でビビると思われていることも。気分が悪い。

 

「繊細なお嬢様ならこれで余計なことはしなくなるってか? あーあ、随分と舐められたもんだ」

 

 わざと声に出してみても苛立ちは収まらない。汚れたワンピースをどかし、適当な服に着替えても、頭の中は泥水に侵されたように濁り切っている。

 

「ぴゆ、ぴ、ぴぃ……」

 

 鳥が鳴きながらぐるぐると死骸の周りを回る。足には血が付着している。その姿を見て、なんだろうな、可哀想に思った。

 人差し指を近づけるとぴょんと飛び乗る。俺に動物の表情を見るなんて芸当は出来ないが、どうも悲しんでいるように見えた。鳥のくせに。

 

「……なぁ、お前。復讐してやろうか」

「ぴゆ」

「こんなちっせえ嫌がらせのためにお前の家族を殺したんだ、復讐する権利はあるよなぁ」

「ぴちち」

 

 家族が死んだこと、俺に言われたことを理解しているかは分からない。きょとんと首を傾げて無垢な瞳でこちらを見上げている。なんともアホっぽい顔に思わず苦笑する。アホそうにも賢そうにも見える不思議な鳥だ。

 

 

 

 もちろん俺だって同情だけでこのクソ忙しい時に鳥を飼おうと決めた訳じゃない。ただその方が、……哀れに見えると思った。

 俺はまだ舐められていないといけない。見知らぬ鳥が殺されただけで傷つくような繊細で、優しくて、弱い()()()でないといけない。

 

「葬式でこの鳥を肩に乗せて言うわけ。『この鳥も家族を亡くしていて……とても、見捨てるなんて……』ってさ。涙の一つでも流してやれば完璧だ、()()()を亡くして傷心のお嬢様の出来上がり」

 

 今朝の顛末をそう言うと、クロギリは顔を顰め、ダリオは笑った。

 

「まったくどこでそんなものを覚えてきたんだか」

「悪趣味だなァ」

「褒めても何もでないぞ〜」

 

 姑息な印象操作は嫌いじゃない。自分の手のひらの上で周りを踊らせるのは楽しい。ロベルトにどこまで通じてるかは知らないが、確実に周りの奴らは騙せている自信がある。これを言ったらまた嘆かれるから言わないけど。

 肩にとまった鳥がぴゆぴゆと鳴く。その姿はどこか呆れているように見える。やっぱこいつ言語理解してるだろ。

 

「お嬢、こいつの名前は?」

「え?」

「名前だよ名前……もしかしてまだ付けてねェの?」

 

 名前……名前かぁ……

 

「うーん、じゃあピヨ助で」

「ぴゆ!?」

「おー名前貰えて良かったなァ、ピヨ助」

「はあ、鳥畜生に名前を付けてやる必要性は無いと思いますが」

 

 あれ、流石にネーミングセンス突っ込まれるかと思ったんだけど。俺でもピヨ助はどうかなって思ったのに。いやそれ以外って言われても困るんだけど。

 あとクロギリ、鳥畜生はねえわ。少しは動物を愛しむ心を持った方が良いと思う。

 

「畜生を畜生と呼んで何が悪いのです」

「クロギリってそゆとこあるよな……」

 

 身内以外に死ぬほど厳しいこの感じ。鳥ぐらいすぐ身内に入れてやってもいいだろ。 

 

「……お、ピヨ助ケガしてんじゃねェか。見せてみろ」

 

 確かにずっと窓へ体当たりしていたから羽が傷ついている。ダリオがピヨ助の羽に触れた。すると触れた箇所が淡く輝き、数秒で傷一つない美しい羽へと変わる。

 

「「……は!?」」

「ンだよ、うっせえな」

「いや、おま……は!?」

「回復魔法くらい使えるだろォよ」

 

 大したことでもない、とダリオは面倒そうに言うが、いやいやいや。

 回復魔法というのは使い手が少なく、使えたら即教会によって保護される。確か今代の聖女サマも回復魔法が使えたから選ばれたとか何とか。それをこの男はいともあっさり使用した。

 

「えぇ……ダメだろ殺人鬼が回復魔法使えたら……」

「そうかァ?ちょっとやりすぎた時に便利だぜ」

 

 これほどまでに回復魔法が無駄遣いされたことがあっただろうか、いやない。

 

「指折った後に治してやると何が起きたか分からんって顔して傑作なんだよなァ。そんでもう一回折ればすぐ心も折れるし」

 

 悪趣味なのはお前だよ……何度も折られ、治され、また折られる。解放されるかどうかも分からずただ痛みに耐え続ける。その絶望に耐えられる奴なんていないだろう。

 ドン引きした顔の俺に気づいたのか、ダリオは慌てて付け足した。

 

「いや俺だって滅多にそこまでしねェよ。ア、こいつウゼェな、苦しめてェなって思った時くらいにしか……そうだ、何なら見せてやるか。ほら犯人の女中の裏にいる奴聞き出すんだろ?」

「そうだけど、そこまでしなくて良いって言うか……」

「いえお嬢。やらせましょう」

 

 余計なこと言うなってクロギリ!絶対グロいやつじゃん!

 俺にはクソ親父みたいに拷問で苦しませる趣味は無い。あと女中はそこまで知らないと思うし。

 

「それでも内部の者が取引をしたことの責任は取らせなければ。これが暗殺者の手引き等であれば取り返しがつきません」

 

 理屈は分かる。今回は鳥で済んだが、次にあのようになるのは俺かもしれない。舐められていることも実感したし、そろそろ容赦無く処罰した方が良い。

 

「……分かった。ただし情報聞き出したらそれで終わりだからな」

「かしこまりました」

「あ、あと他に暗殺者でもいたらそれもダリオに」

「りょ〜かい、お嬢」

「ぴゆ」

 

 ピヨ助はすっかりダリオに懐いたようだ。金髪のチャラい男が愛らしい小鳥に纏わりつかれる様子は妙に絵になる。これはあれかな、不良が雨の日に捨て猫拾って見直すみたいな現象が起こってんのかな。

 

 思った以上にダリオは使()()()。それが分かっただけでも良しとすべきだ。

 

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