異世界マフィアの次期ボスにTS転生した話   作:AK i

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9話

 

 それから数日俺に対する嫌がらせが続いた。食事にちょっとした毒が入っていたり、脅迫状が届いたり、部屋に侵入者が現われたり。ちなみに侵入者はクロギリが秒で捕獲したので命の危険を感じる暇もなかった。いや「お覚悟」の「お」の字も言わせてやらないのはどうなのよ。暗殺者くんが可哀想になってくるぜ。

 

「お嬢……アンタ、結構命狙われてるんだなァ」

「そうだぞ~人気者で困るな。事務所通してもらわんと」

「事務所……? よく分かりませんが、危機感がなさすぎます。葬儀まで一日を切りましたがこの後数時間は俺とダリオは側にいられません。狙われるならここからでしょう」

 

 これからクロギリとダリオは葬式の会場へ行かなければいけない。主催者は俺なのだが、倒れたってことになってるからな……部下を出せって圧がかけられている。は~~嫌だ、クロギリさえいなければ俺に遺書の書き換えをさせることだって可能だと踏んでいるんだろう。狙いが露骨すぎる。

 

「約束は覚えていますか」

「はーい。無茶をしない、一定以上の脅しには素直に従いまーす」

「良いでしょう」

「幼児か?」

 

 こんな物騒なお約束をする幼児がいるかよ。クロギリの過保護はたまに幼児相手かと思うことあるけどさ。

 

 遺書の偽装をするにあたって、クロギリと取り決めをした。それは命の危険を感じた場合、素直に遺書の書き換えを行うということ。最初から偽物のモノに命をかける必要はないからな。

 

 

 ……で、実際そういうことになった。

 

「分かりますかカティア様! このままではディナーレが危機なのです!」

 

 胡散臭い顔をした若い男が大げさに顔を覆いながら嘆く。誘拐され、椅子に縛られ、口縄をされた俺に「分かりますか」とか言われても返事のしようがないんだけど。白けた目を向ける俺に自分に酔った男が気づくはずもない。

 

「あの男! あのロベルトがディナーレを牛耳ってしまうのも時間の問題……! ああ、カティア様、このままではお父上の意思が受け継がれなくなってしまうのです……!」

 

 知らんがな。クソ親父の意思とか継ぎたい奴いんの? どうせこの男も自分の懐を潤したいだけだろうに、取ってつけたような大義名分はうっとおしい。年齢はクロギリと同じくらいだが、自分の能力を過信している様子は正直言ってイタい。

 

「んー! んー!」

「おっと、口がふさがっていましたか。このような手荒な真似をして真に申し訳ない。ですが、これもディナーレを思うからこそ! ええ今こそボスの本当の意思を示すべきです!」

「ん、……ぷはっ。何を言っているのか分かりかねますが」

「ああご存じなかったのですね! ロベルトの奴はなんと貴方様を亡き者にしようとしているのです……!」

 

 恐ろしい真実! とばかりに告げられる。クソ親父のお気に入りだった俺をロベルトの野郎が気に入らないのは結構知られてると思ってたんだが……それすら驚きの事実扱いされると俺の情報収集が間違えてることになる。単にこいつが無能すぎて知らないだけだと思いたい。ってか誰だっけこいつ。

 

「で? 貴方は誰でしょうか」

「またまた御冗談を! 第十三幹部のジャンニですとも!」

 

 あ、あああ~思い出した。ついこの間幹部に昇格したばかりの奴だ。幹部は全部で十五人いる訳だが、その中でも影の薄い新参者。ロベルトに似てたからあんまり特徴覚えてなかったんだよな。

 

「あのロベルトは貴方様を殺し、ディナーレの全権を握ろうとしているのです! そのような野望を野放しにして良いはずがない!」

「はあ。それで私をこのように捕らえる必要は無いと思いますけれど」

「もちろん苦肉の策ですとも。ですが、貴方様は狙われている上……ロベルトによって書き換えられたボスの遺書をお持ちだとか」

 

 ジャンニの目が細められる。どうやら俺たちが流した噂に上手く引っかかってくれたらしい。わざとらしくない程度に動揺してみせる。

 

「……なぜそれを」

「ボスとロベルトの不仲は有名です。にもかかわらず次代のボスがあの男だという噂など……馬鹿馬鹿しい。カティア様も遺書を預けられた際に違和感を持ったのではありませんか?」

「それは…………」

「ロベルトによって騙されておいでなのです! ですが安心してください、私が貴方様をお守りしましょう!」

 

 まるで英雄にでもなったようにジャンニは大げさな身振り手振りで言った。

 一方の俺は手足を縛られて動けない。どうしよっかな、このまま喋らせておいても良いんだけど流石にそこまで甘くはないか。考えを巡らせながら相手に対して譲歩する。

 

「……認めましょう。遺言状はおそらくロベルト殿によって書き換えられています。ですが、私にはそれを指摘できるほどの力が……」

「あぁ、ああ! なんという卑劣な! やはり都合の良いように変えられていたのですね!」

 

 我が意を得たりとジャンニは頷いた。

 

「お父上が亡くなられたばかりのカティア様に対するこの仕打ち、到底許せるものではありません。ですが、ええ……カティア様にとっても精神的な余裕が必要でしょう! どうです、私に任せてくださいませんか?」

「…………」

「あのクロギリがロベルト殿と繋がっているなどという噂もございます。まあ()()()()ですから仕方ないのかもしれませんが……周りが信用ならないのはお辛いでしょう?」

「……は?」

 

 今、こいつなんて言った?

 

「所詮薄汚い孤児上がり、金を提示されれば動くのですよ。これを伝えるのには心が痛みますが……カティア様はクロギリのことを大層重用されていたそうですから」

 

 あ、そう。取り繕った態度も忘れて、思わずふぅんと息をついた。

 ジャンニは何かしらの情報を得る手段を持っているようだ。そしてそれはデマに騙されるような、使えない情報網らしい。

 

「そう、ですね」

 

 無能だな。シンプルにそう思った。先日鳥の死骸を寄越したのはこいつだということも分かっている。どうしてこんな奴がのし上がって来れたんだか。

 

「私と共にロベルト殿の悪事を暴き、ボスの遺志を果たしましょう! そうしてくだされば、ええ、()()()()()……」

「分かりました。……もし今後貴方が私に危害を加えないというのなら、遺言書の方も良いでしょう」

「おぉ、おお! 流石はカティア様、理解していらっしゃる! 私が更なる実権を握ったならば相応の地位を、」

 

 ジャンニが言いかけた瞬間、扉の向こうから何やら揉めているような怒鳴り声が響く。続いて重い扉が蹴破られる音。

 

「お嬢! 無事かァ!?」

 

 その声を聞いて、思わず気が緩んだ。ここ最近ですっかり聴き慣れた声。髪は乱れ、乱暴そうな目つきは鋭い。やっぱりダリオって人相悪いなぁ、と場違いなことを考えた。

 

「おいおいオッサン、よくもお嬢を誘拐してくれたなァ。クロギリさんブチギレてたから覚悟しとくンだな」

「は、なぜここが……!」

「ぴ、ぴ?」

「ちょちょいっと周りの奴らに尋ねたら快く教えてくれたぜ? アンタ人望ねェよ」

「クソッ!」

「ぴゆ!」

 

 そして救出するのにピヨ助を連れてきてやがる。だからかなぁ、なんか締まらないんだよなぁ。

 

 ジャンニが舌打ちをすると、ようやく外から護衛たちが駆け込んでくる。その目はどこかダリオを恐れていた。それを見てニヤリと挑戦的に笑う。

 

「全員でかかってこいや、なァ!」

 

 その言葉に釣られ動き出す前にダリオが素早く動く。一人に足払いを仕掛け、バランスを崩させる。腹部に蹴りを食らわせ、そのついでと言わんばかりにバチっと雷魔法を飛ばしてさらに別の奴の意識を刈り取った。お見事!と思わず拍手したくなってしまう見事な手際の良さだ。痺れるね。俺は今手を使えないけど。

 

「ハッ、テメェらなんざクロギリさんに比べりゃあ雑魚同然だァ!」

 

 でもだいぶカッコ悪いこと言ってら。クロギリのこと怖がりすぎだろ。

 

 護衛たちもあまりやる気がないのでどんどん倒されていく。それを震えて見ているしかないジャンニは……うん。明らかにインテリだからか、荒事には向いていないらしい。お前幹部辞めた方がいいよ。

 そうこうしているうちにダリオは護衛たちを片付け、縛られていた俺を救出した。

 

「無事か?お嬢」

「ん。……さて、ジャンニ殿。このまま貴方をダリオに任せても良いのですが……明日は葬式と共に幹部会が開かれます。貴方にも出席する権利がある。なので、こうしましょう。私はロベルト殿によって書き換えられていない遺書を読み上げます。その際援護をしていただきたいのです。そうしていただければ、このことは水に流しましょう」

「ぴゆ!」

 

 そう告げると、ジャンニは真っ青な顔のまま計算し始める。このまま俺につく方が得か考えているのだろう。

 

「わ、かりました。ええ、もちろん、カティア様のお力になれることがあれば!」

「ふふふ、では『約束しましょう』」

「ぴゆゆ!」

 

 後ろでダリオが「え、こいつ生かすのォ?」みたいな顔で見てるが無視だ無視。こっちにも考えがあるから。

 あとピヨ助はちょっとおとなしくしててなー。

 

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